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『由加里 93』
  
 
 海崎照美と西宮郁子が病院を後にした、ちょうどその時、由加里は看護婦の毒牙にかかろうとしていた。
 短髪を茶色に染め上げ、肌をも焼いたその姿からは、もしも淡いピンク色のナース服をきていなければとうてい看護婦には見えないだろう。20歳の半ばを優に過ぎているのだが、そのような風体からまだ20歳そこそこ、間違えれば19歳ていどに見られてもおかしくない。
 看護婦は、由加里を見るとほくそ笑んだ。
しかしながら、彼女にそのような趣味が以前からあったわけではない。べつに今でもそのような趣味があるわけではないが、ふと何かの拍子に催してしまったのである。
 かつて、妹の自慰の現場を、彼女が中学のときに押さえたことがあるが、少しばかり悪戯してやったことがあるのだ。
 それから、10年経って同じようなことに巡り会うとは夢にもおもわなかった。患者の少女の華奢な肩がこころなしか震えていた。同性の直感から、彼女が性的な刺激によって悶えていることは簡単に予測できた。
「あら、由加里ちゃん、妊娠でもしたのかな?」
 ちょっと、口が滑ったかもしれない。そこまで言う必要がないとも考えたが、怯えきったあどけない顔をみているうちに、自然と嗜虐心が育ってしまった。
 相手を侮辱しようとわざと赤ちゃん言葉になるのは、彼女にとってみれば上司に当たる似鳥可南子の真似をしているわけではない。
 ただ、由加里にとってみれば、可南子以外の看護婦からもこのような扱いを受けるのは耐え難い恥辱だったにちがいない。
「さあ、看護婦さんに話してみようね、一体、何をちていたのかしら?」
「・・・・・」
 
 知的な美少女は、何も言えず俯くだけだ。看護部は彼女の背後から、その柔らかな頬を伺っているわけだが、自らの顎をそこに滑り込ませようとした。
「いいや、や、やめて!」
「そう、男性看護士を呼んでもいいのよ、男におまんこ観て貰ってもいいのよ、それの方がインラン中学生にはお望みかしら?」
「ウウ・ウウウウ・・ハイ」
 小さく肯くと少女は泣き崩れようとした。しかし、看護婦がそれを許さなかった。
「聞こえるでしょう?静かになさい!」
「ウウ・・・う!?ゥウゥゥ」
 患者が自分の奴隷人形に堕ちたことを知った看護婦は、この際、氏名を告げておく、野上怜夏は少女の正面に自分の身体を移すと、股間を臨もうとした。
野上の吐息が股間に当たる、
「いや!?」
 とたんに両手で股間を押し隠した。しかし、その途端に・・・・・。
ビシ!
 野上の平手打ちが少女の柔らかい頬を打った。加害者はほくそ笑んだ。少女に触れる手の感触に気持ちよさを感じたのだ。普段、介護している老人、因みに彼女は老人看護が専門である、彼らの干からびた肌と違ってもちもちとした若い少女の肉体は、ふれ合いがいがあった。
 ビシ!
 首の骨が折れるのではないかと思うほど、看護婦の平手打ちは激しい。
「ご、ごめんなさい、ゆ、許してください!」
 知的な美少女は自分の顔を護るために、両手を顔に当てた。すると、彼女の両手首を摑むと、ベッドの上に少女の柔らかな身体を押し潰した。
「ごめんなさいだって?だったら、どうして、素直にぶたれないのよ!!」
 さきほどの赤ちゃん言葉と打って変わって、まるで暴走族のレディースの総長のような暴虐ぶりを見せた。
 両手を使って、強弱を自在に使い分けてぽんぽんと、頭やら顔やら胴体やら、あちらこちらを叩き回る。最初に痛くさせて、次に和らげる。二回目がくるまでに少女はそうとう怯えるが、その顔が堪らずに可愛らしい。単純なサディストの本性を顕わにして、子供のように笑いながら少女を小突き回す。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!もうぶたないで、くださいィウツツ!」
 何処まで行っても自分はいじめられる運命なのか、少女は泣きながら加害者に向かって泣きじゃくるしかなかった。
「謝罪するなら、今の今まで何をしていたのか言いなさい!言うのよ!!」
「うぎぃい?!」
 看護婦の長い指が少女の柔らかな頬に食い込む。可愛らしい知的な顔が捩られた風船のように歪む。夥しい涙が零れる。その様子はあたかも黒い蜘蛛が取り憑いているようだ。
「汚いわねえ、あなたの気持ち悪い体液で指が汚れるじゃない!!」
 パーンという音とともに、快心の一撃が由加里の頭部に炸裂する。
 怜夏からすれば、単に水の入った水筒を叩いているにすぎない、そんな感触が両手を通じて伝わってくる。
 何回も叩いているうちに、掌を掲げただけで激しく怯える。
「何を泣いているのよ、まるでいじめているみたいじゃない!?」
「ウウ・ウ・ウ・ウウウウウ・・うう?!」
 涙でくしゃくしゃになった少女の顔からは、抗議の色が心なしか見て取れる。それが看護婦の気に障ったのだ。
「言うこと聞かないなら、男性看護士の前で、おまんこを顕わにさせるからね」
「ヒ?そ、それだけは」

 知的な美少女は完全に理性を失っていた。そのようなことが可能か不可能か、すこしでも脳細胞を働かせれば答えが出るはずだろう。しかし、被虐に被虐を重ねた結果、少女の精神は激しく傷つき、ちょうど、看護婦が掌を見せただけで激しく怯えるのと同様に、由加里は、看護婦が思うとおりの実に従順な奴隷にされていたのである。
 怜夏は静かに命じた。
「今まで、何をやっていたの?」
 それが性的な意味合いであることは、容易に察することができた。女子中学生は、しかし、自分の口からそれを認めることは憚られた。何と言っても、相手は照美やはるかではなく、あまつさえ似鳥可南子すらないのだ。そんな相手に簡単に認めることは、自分を否定することに等しい。
「そう・・・」
 看護婦はやおら立ち上がると、回れ右をしてドアにむかった。
「あ、ま、まってください・・・・」
 彼女の仕草から、今までの言動から何を言わんとしているのか、如実に伝わってくる。
「い、言います・・・」
「何をしていたの?」
「お、オナニーです・・うううゥゥウ」
 言うなり、溢れる涙は羞恥心の証だった。涙で鬼のような看護婦の顔がぼやけてよく見えない。だが、それは彼女から伝わってくる恐怖をけっして和らげはしない。むしろ、ものが見えないだけ余計な想像力が働き、対象に対する恐怖を倍増させるだけである。
「何だって?あなた、病院でそんなことをしていたの?なんだって?」
「ウウ・・ウウウ・・うう、お、おな・・・オナニーです」
「じゃあ、自分で脱いで見せてごらん、フフ」
「・・・・・・ウウ」

 まるで自分の手が自分のものじゃないように思えた。少女は、パジャマを脱いでいく。因みに、花柄の幼女が好んで着用するような代物だ。母親は服装の趣味が悪いので、西宮家では有名なのである。
 だが、今は、そんな朗らかな記憶に浸っているばあいではない。市井の看護婦にまで自らの性器を晒そうとしているのである。それは町中で全裸にされて、大腿を180度ほど広げられているのと、ほぼ同意である。この看護婦、野上は、由加里にとって町中の見知らぬ人間に等しい。それに故に込み上げてくる羞恥心はひとしおである。
 その上、少女の性器には照美によって挿入させられたゆで卵が、未だに存命中である。照美の所有物にすぎない由加里にとって、彼女が傍にいないときなどない。トイレで用をしているときでも、黒目がちな瞳には照美の悪魔めいた微笑が映り込んでいる。
 だが、看護婦はちがう。どうしてこんな人にまでひどい目にあわされるのだろう。
 そう考えながら、命令通りに大腿を限界にまで広げて自らの性器を顕わにする。
「あれ、若いのに硬いのね、え?中に何か入っているわよ」
「ァアあ・・!?」
 必死に性器の筋肉を操作して、ものが出ないように注意していたはずだ。だが、目敏い看護婦は中に何かが入っていることを察していた。
「あれ?タンポン、それにしてもおかしいわね、これじゃ生理じゃないわよね」
「ウウ・ウ・・ウ・ウうう?!」
「ほら、出しちゃいなさい!何を入れているの!?」
  野上の指が性器に吸い込まれていく。
 「あれ?卵?由加里ちゃん?」
 ゆで卵は、少女じしんのそれこそ体液によってどろどろになっていた。看護婦は意地の悪そうね目で、それをいかにも汚いものを視るような目で観察している。
「こんなものを常に入れていないと、満足できないのね」
「・・・・・!?」
 もはや、何を言っても何の説得力もない。そのことは、被虐の美少女じしんが誰よりも自覚していた。
 知られてしまった!
 もはや、海綿体となりつつある脳の何処かで正常な理性が生きていて、少女に危機を告げる。しかしながら、それに対する方策は全く見付からないため、余計に混乱させるだけだった。
 その時、聞いたことのない着メロが看護婦のナース服から響いてきた。
「あ、仕事か!」
 あまりに軽い対応はかなりのギャップを感じさせる。自分の置かれている状況の深刻さを思えばあまりに違うのだ。遊びの片手間に仕事をしているという感じの、ごく軽いノリを見ていると、自分の価値の低さを否応無しに納得させられる。

「もっと、遊んであげたいけど、お仕事、入っちゃったからまた後でね!」
 あたかも友人にさよならを言うように去っていく。
 残された由加里はシーツを頭から被って泣きじゃくるだけだった。無意識のうちにゆで卵を元に戻したのは、あの美少女に対する恐怖が尋常ではない証拠だろう。気が付くと、喘ぎ声を出していた。
「ぁぁあああぁぅぅぅぅ・・・ウウウう!?」
 いくら再体験しても官能というものは慣れないようだ。ジェットコースターなどと違って、体験するたびに新しい刺激が心身を翻弄する。
 由加里は、意外とその手の乗り物に耐性がある。だが、何度も経験するとしたいに飽きてしまう。性感にはそれがないのだ。
「ウ・ウ・・・・ウウ・、わ、私、本当の、変態なんだ・・・・ウウ・ウ・ウ」
自分の涙に溺れながら、知的な美少女はすぐれた頭脳を自己嫌悪にしか利用できない。それを無駄と判断する理性すら、この女子中学生には残っていなかった。


 

テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『おしっこ少女 11』


 目を覚ました少女は、まず自分が何処にいるのか探した。
「ウッ・・・・!?」
 蜂に刺されたかのような痛みが股間を突き刺す。中学生は眉を顰めた。それでも、意識の覚醒がうまくいかない。今は、何年、何月、何日なのか、そして、現在の時刻はいつか、すべてが曖昧模糊の海に溺れている。
 しかし、時間が進むにつれて、自分が置かれている状況がはっきりしてくる、現在、過去、そして、想定されうる未来が明かになっていく。
 「あ?!・・・・よかった」
 少女は胸を撫で下ろした。
 彼女の中では、現在は土曜日の夜ということに決定されたからだ。

 そんな少女を晴海は微笑を浮かべながら立っていた。その手にはワインが入ったグラスが握られている。
「ア・・・・?」
 少女を見下ろす。晴海は、弱者に向ける強者の笑いを隠さずに言う。
「今は、日曜日の夜よ、まひるちゃんたら赤ちゃんみたいに寝込んでいたわよ」
「そ、そんな・・・」
 美しい女性の声を聴いたとたんに、少女はおろおろし、自分の携帯を探した。
「あはははは、嘘よ、今日は土曜日よ」
「ウ・・う!?」
 恨めしげに睨む姿も可愛らしい。
 女性捜査官は音も立てずに少女に近づくと自らの左手を彼女の肩に添わす。そのあまりの冷たさに、ドライアイスに触れるような冷たい熱に中学生の女の子は粟をプリンの肌に作る。
 晴海は、優しく微笑むと言った。鏡を見るように促して・・・。
「それよりも、そのネグリゲェはどうかしら?あなたの身体に合わせた特注品なのよ」
「え?ぁ・・・」
 思わず、胸と股間を隠す。

 エナメル種の黒光りを発する生地は、さきほどまで少女を閉じ込めていた悪魔の衣装ではないが、しっとりと少女にまとわりつく。だが、胸と股間の部分は、ナイロンのような光沢があり、かつ、半透明な生地で覆われているだけだ。乳首、性器ともに、少女の局所は哀れにも外部に晒されている。
 晴海は少女の背中に回ると、少女をベッドに押し倒しながら背後からキスをする。
「う・・・うぐ・・・ぅ」
 今の今まで大人の女性が呑んでいたワインのせいだろう。唾液が流れてくると、恍惚とした気分に襲われる。
「ねえ、この胸、もっと大きくなりたい?」
「ぅあ・・はあ・・ぅあ・・あぅ、いや」
 まひるは、芽乳房に毛が生えたていどの胸を揉まれながら喘ぐ。晴海の吐息が冷たいのに、やけに生暖かい。背後から伸びてくる手は少女の乳首を摘んだり抓ったりして心ゆくまで弄ぶ。力の加減によって、少女の口から零れる喘ぎ声や表情が変容していくのを、つぶさに観察しながら、女性捜査官は悦に浸っている。
 しかし、次の瞬間には、自分は何をやっているのかしらと、我に帰り自分の手が行っている行為を第三者的に観察したりする。
 そんな冷めやすい自分に嫌気を感じながらも、少女を所有する行為を続行する。やがて、女子中学生の耳たぶを唇で摘むという暴挙に出た。
「ああありゅるるるる!」
 まるで宇宙人の断末魔のような声を出して、性器を刺激されずにオルガルムスに達してしまった。少女のはち切れそうな大腿に熱いものが流れる。それは血潮のように思えた。このまま出血多量で死んでしまうような気がした。畏れおおい快感のために、意識が混濁する。倫理的にも、そして、少女が生まれながらに持ち得ている自尊心の高さからも、それを丸ごと受け入れることは至難の業だったのである。

「はぁ・・はぁ・・・はぁ」
「ふふ、本当にいやらしい娘ねえ、胸を揉まれるだけでイっちゃうなんて、あれ、イっちゃうって意味がわかるのかしら?意外と遊んでいるのね、同級生の男の子と遊んだりしているのかしら?」
「ぁハア・・・ア・・・・・ぁ」 
 少女は、気だるい安逸の中、まるで天界の住人のうわさ話を聞くような心持ちだった。だがら、その内容がいかに自分を侮辱するものであっても、彼女の感情の海に小波すら立てることはなかった。
 しかしながら、それが家族に関する内容になると、少女の顔色が変わった。
「一体、どういう家庭からこんなインランな女の子が育つのかしら?」
「ち、違う!ゥア・・あ!」
 無意識のうちに動いた身体は自らを官能の渦に貶めた。それは抗議の意思を意味していたが、自らの痴態の前に完全に説得力を失ってしまった。
「何が違うのかしら?」
 女性キャリア警察官は、大腿を濡らす愛液に手を浸すと、少女の鼻に塗り付けた。
「ご自分のいやらしい液はどんな臭いがするのかしら?」
 返す刀で自分の指を整いすぎた造形物である、鼻に近づけるとわざとらしく鼻腔を動かして見せる。
「本当に、すごい臭いね」
「う、嘘です!うぅぅぅ!!」
「まひるちゃん、こんなひどい臭いを嗅ぎ分けられないなんて、相当ひどい蓄膿症じゃないの?いい耳鼻咽頭科の
医者を知っているわよ、紹介しようか?」

 晴海の慧眼に睨みつけられると、少女は思わず目をそらした。
「どうして、逸らすの?自分に自信がないんでしょう?家族にね」
「そ、それはどういうこと!?」
 自分よりもはるかに力が上の人間に敬語を使うことも忘れて、少女は可愛らしい顔をくしゃくしゃにして抗議する。
 顕わされた美少女の感情は、晴海にとって煌めく貴重な宝石に思えた。が、しかし、その美しさに視力を奪われている場合ではない。
「もしかして、家族に愛されていないって思ってない?」
 少女は、華奢な筋肉にありったけの力をこめて殴りかかる。
 けっして、言ってはいけないことを口にしてしまったのである。しかし、そんなことは織り込み済みである。
 すべてを見透かしていたかのように、晴海は身体を動かした。
 涙の珠を中空に散らしながら、襲い掛かってくる少女の鉄拳をいとも簡単に握りつぶす。
「っうううう!?痛い!!」
「我ながら、大人げないわね、キャリアとはいえ、私は柔道の有段者なのよ」
 
 この細い身体からどうしてこんな強靱な力が生まれるのか、少女は不思議でたまらない。そうか、イチローも細いのかと、床に押し付けられるという恥辱の中で、何処か冷静な自分を発見した。
少女は頭を床に押し付けられ片腕を限界まで折られるという、テレビドラマでよく見る犯人のような姿態を強制されている。
「ほら!正座するの!」
「あぎぃ!?痛ぁあ!!」
 ハイヒールで大腿をしたたかに蹴られた美少女は、整った顔を苦痛に歪めた。
涙が頬を通って鼻にかかる。力によって無理矢理に自己の意思を踏みにじられる。被虐のヒロインは、それをまさに味わっている。
「ウグググ・・・・」
「ごめんなさいね、私は軽いから痛くもないでしょ?」
 何と、残酷にも少女を椅子にしてしまった。

「あうううぅう・・・・アクゥゥゥグググィウウゥ・・・・ウウ・・ウ・」
「何をそんなに悲しくて泣いているのかしら?」
 泣き声が小さくなっていくのを聞いて、女性捜査官は少女のこころの危うさを訝った。少女は明かにガラスの心を持っている。これ以上、ぎりぎりと力を入れたらすぐにでも割れてしまいそうだ。だが、その可愛らしい顔が涙に濡れて真っ赤に色づくのを視ると、簡単に鞭を収める気にならないのだった。

 一方、被虐の美少女は、しだいに自分の身体にかかってくる晴海の重量を感じながら、心が粉砕されるのを、そのリアルな音とともに聞いていた。
 春実は、それほど力を入れていないのだが、少女は全身の骨が折れてしまうような恐怖を味わっている。
「ゥゥゥ・・うう・・いぃ、痛いです・・・お、お願い・・うう」
「答えなさい、まひるちゃんはどんな目に遭っているの?」
 言葉で説明しろと、言うのだ。それは同時に、自分の身体に自ら奴隷の烙印を押せと命じているに等しい。何故ならば、言葉をものすということは必然的にその内容を理解せずにはいられないからだ。それ相応の知能を持ち合わせている場合、解釈せずに読むことは不可能である。
「ウウ・・ウウ、うう、ま、まひるは・・」
「ちゃんと、フルネームで言いなさいね」
 腕を捩られた痛みに、少女は苦痛の涙を流した。想像を絶する恐怖は、痛覚を何倍にも敏感にさせているのだ。
「ウググ・・痛いぁあ!・・ぁぁ、さ、さたけ、ま、ま、まひるは、あ、あさぎさんに、座っていただいています・・・うう」
 普段、安藤たち五人から受けている残酷ないじめが、少女をしてそのような言い方を強制せしめたのだろう。
 だが、春実の耳には新鮮に響いた。嗜虐の悦びが、それが例え一瞬であっても、この細身の美女の身体に広がっていったのである。
「じゃあ、まひるちゃんは椅子なのね」
「ウ・・ウ・ウう、は、ハイ・・ウうう」
 少女の中で、自尊心と少女の年齢や性に相応な優しさを求める心が互いにせめぎ合っている。
 女性キャリア捜査官は、少女のそんな内面を外から冷徹に観察しながら、かつ、嗜虐の愉悦にも浸っている。本当に、忙しい女性ではある。
「このまま、ずっと、こうしていようかしら?生の身体は座り心地がいいわね、適度に柔らかいし」
 理性が歪められている少女にとってみれば、晴海の言っていることは真実に聞こえる。果たして、自分は永遠にこのまま固定されてしまうのではないか、そのような恐怖が屈辱的な姿勢をさせられている少女の鼻に侵入して、性器まで貫く。
 耐え難い鼻腔のむず痒さに噎せながら、女子中学生はその小さな身体を張りつめて必死に椅子の役割に徹しようとする。その健気さに愉悦を深めながらも実に奇妙なことだが、この美少女に同情する自分を再発見して苦笑する。実に、人道と道徳律に反することだが、自分はこの哀れな少女を恥ずかしい服を着せ、性的に陵辱した挙げ句、その震える小さな背中に人間椅子よろしく座り込んでいるのだ。
 とうぜんのことながら、彼女を構成している人格の多勢は、少数派の意見などに耳を傾けるはずがない。
「このまま、お外に出ようか?」
「ひ!?」
「ふふ、この世の終わりみたいな顔しちゃって、ふふ、本気よ。このいやらしいおまんこを晒しながら、みんなに見て貰うのよ」
「そ、そんなのって・・・」
「ふふふ、冗談よ。そんなことしたら、警察に通報されるじゃない」
「ウ・ウ・・ウウウウウ・・うう!?」
 冗談が通じないことを分かっていて、少女の口に残酷な言葉をミルクに溶かして流し込んでやった。号泣する少 女の背中に乗りながら、晴海はまったく後悔していないはずだった。


 
 『おしっこ少女 10』


 シャワーの音が聞こえる。だが、何だか別の世界から響いてくるように思える。自分は既に黄泉の国へ旅立ってしまい、魂になって現世を彷徨っているのでないか、まひるは、そのような妄想を逞しくする。
 意識が次第に戻ってくる。
 少女は、全裸にされていた。牢獄からすでに自由になったというのに、意識が遠い世界に迷いこんでいるためか、その事実に気づいていない。晴海に支えられながら、ようやくタイルに座していることができる。
 「・・・・・・」
「ようやく、お目覚め?」
「ハア・・・・はあ?!・・・ぁぁあぁああああ!?」
 いきなり身体を摑まれたウナギのように、少女は身を躍らせた。地獄の生地から解放されたぶん、身体は自由に動くはず・・・・であった、しかしながら、事態は少女の思うとおりにはならない。
「ぁああぅ・・」
 まるで、空気を抜かれた風船のようにひしゃげてしまう。少女が、あのスーツから蒙ったエネルギーの消耗は彼女の想像をはるかに超えるらしい。
「ほうら、はりきらないの?まひる赤ちゃん」
「ウウ・・、わ、私、ウウ・・・あ、赤ちゃんじゃ・・ウウア、ない・・!?」
 晴海の顎を見あげる。しかし、少女の双眸には力が感じられない。
「赤ちゃんは、自分の力の限界を知らずに動き回るものでしょう?今のあなたとそっくりじゃない?だから、あ・か・ち・ゃ・ん」
「うう、ひどいぃ・・・ウウ」
 
 女性捜査官の侮辱に激しく泣き始める少女。弓なりになった背中が震えている。
「ほうら、泣かないの、赤ちゃん、汚れたから、きれい、きれいにしまちょうね」
「・・・・」
 完全に抵抗する力を失った少女は、晴海がシャワーの温度を調節する姿を恨めしく見ている。自分がひどく侮辱されていることに気付きながら、抵抗するいっさいの手段を取りあげられている。女子生徒会長ができることは、ただ、銀色の液体を頬に添わせることだけだ。
「うう・・もう、もう、いじめないで・・クダ・・うううう!!」
 少女は、晴海の大腿にその可愛らしい顔を埋めた。彼女が泣き嗚咽を出すたびに振動が熱い温度とともに伝わってくる。
 女性警察キャリアは、冷静を保っているが、中学生の少女から伝わってくる刺激に、精神のあるていどの動揺を感じていた。自分はこの子を憎んでいるのだろうか、愛おしいと思っているのか、まったくわからなくなっていたのである。
「ほら、温かいでしょう?」
「ウ・・・うぅぅっぅ?!」
 自分にかかってくるシャワーは、かつて彼女が得たであろうはずの母の温度を彷彿とさせる。すると、水量が増えれば増えるほどに、余計に哀しくなって涙が零れてくるのだった。
「ぇぇぇエ・・・ェェェェェ」
 激しい嗚咽のせいで少女は激しく噎せる。涙とともに夥しい量の鼻水が流れる。何と、晴海はそれを・・・・。
「うぐ・・き、汚い・・あいう」
 少女の小作りな鼻に接吻すると、それを吸い出したのである。そして、あたかもそのことが真実かのように言い放ったのである。

「愛しているわ」
「ウ・・うう・・ウウウ!?」
 さりげなく言った言葉が中学生の心に回復不可能な痛手を負わせる。晴海は、そんな心理がわかっていながら、あえて、突きつけたのである。
 その甘い匂いを漂わす薔薇には、あきらかに鋭い棘が無数に生えている。だが、少女はそれを予感しながらも、そちらの方向へと靡いて行かざるを得なかった。
「ほ、本当ですか?わ、私をあい、愛してくれているのですか?」
 少女は、必死だった、学校でもそして、家庭ですら、完璧だと一片の疑いすら抱かなかった愛情がいとも簡単に消え失せた。今は、心細いながらも、この美しい女性捜査官の情愛らしきものに頼らざるを得ない。
 しかし、まひるの次の言葉は、彼女が完全に晴海の軍門に下ったことを意味するのだろうか。
「本当ですか・ウウウウウウ、わ、私も・・」
「そう、私を愛してくれているのね」
 冷え切った唇が少女の言葉と心を奪い取る。大人としても、簡単にそんなことが叶ったりしたら、それはそれで面白くないのである。ゲーム感覚からすれば、目指す宝物を得るのにそれなりの苦労をしたほうが、得たときの悦びが大きいというものだ。しかし、その点は気にしていなかった。見たところ、この中学生の女の子は完全なかたちで自分に身体を許したわけではない。
 むしろ、藁を摑む思いで自分に助け船を求めてきただけだ。彼女が置かれている状況はあきらかに逼迫しているのだ。
 
 だから、あえて意地悪をすることにした。
「だけど、それには条件があるのよ」
「じょ、じょうけん?」
 本来は理知的な美少女の顔が、幼女に戻ってしまった。
「そうよ、この汚れを落とさないとね、とても、臭いわよ、しかも、これはあなた自身から出てきたことを忘れないことね」
「ウ・・・?!」
 ぬるま湯から、ドライアイスが浮かぶ海に落とされたようなものである。
 石鹸の塊が足の裏に擦りつけられると、しだいに、踝、脛と上がっていく。
 ふいに、耳の裏がくすぐったくなる。晴海の唇が耳たぶを吸っているのだ。
「汚れているわ、隅々まで綺麗にしないと、でも、まひるちゃっは、こんなところよりも別の処を洗ってほしいのよね、もっと、悪臭を放つ恥ずかしいトコロをね」
「そ、そんな・・ウウ」
 中学生の少女はいやいやする。こんな顔をすると、本当に小学生にしか見えない。中学生などは精神性だけで、小学生と距離を取っているにすぎないのだ。こんな簡単なことでその距離はゼロになってしまう。いや、今のまひるはむしろマイナスになっているとさえ言えるだろう。幼児退行しているのだ。
 晴海は心底、それを可愛らしいと思った。母性というのだろうか、女性捜査官がそんなものを持ち合わせているとは今の今まで気づかなかった。
「フフ、可愛い」
「可愛い?ウウ、わ、私、そ、そんなに可愛いですか?ウウ」
 苦悶の表情で洩らす言葉ではない。しかし、現在の少女が置かれている状況はまさに、その表情が相応しい状況だった。彼女は、たった一本の糸によってどうやら精神的な生存を許されている。それが、この晴海という美しい警察官らしい。その彼女に「可愛い」と言われることは、たとえ、それが愛玩動物に向けるような視線であっても、中学生にとってみれば、自分のリーゾンデータルのすべてを保証してくれる担保に他ならない。
 
 一方、晴海のピアニストのような指は少女のハマグリに達していた。
「そう、特にここが可愛いわ、ここを触れてほしいんでしょう?」
「ぁ・・ウィ・・あ」
 まるで、酔っぱらいのような嗚咽を出す少女だが、それを簡単に認めるわけにはいかない。そうすれば、はるみという少女の人格、すべてを自ら否定することなってしまう。
 意地になっている少女を可愛いと思いながらも、彼女の本心を知ってじらすことで、本当の自分と体面させることにした。少女の未発達な性器から指を外すと、彼女の肩を乱暴な手つきで摑み取った。
 「そう」
「ぁ」
「あれえ?もっと、触れてほしいのかな?」
「ち、違う・・うう」
 口では拒否しながら、大腿を閉じて激しく添わせようとする。
「だあめ!」
「うぐ・・ぁ」
 晴海の残酷な指が少女の大腿の内側、そこのもっとも柔らかいところを抓り挙げる。爪を切っていないために、肉への食い込みは半端ではなく、見えないていどの出血を見るまでに傷付けた。
「臭うわよ、上半身も相当汚れているわよ、あなたのいやらしい液で、ふふ、ねえ、まひるちゃん、話は変わるけど、書道部を存続させる条件って何なの?」
「え?」
 まひるは、驚いた。晴海の口からそんな言葉が迸りでてくるとは思わなかったのである。
「ウウ・ウ・ウ・・うう?!」
 もはや、この人には何も隠し事ができないと諦めざるを得ない。
「ググ・・ふあぁ、そ、そんなところ・・・ぅあ」
 晴海の意地悪な手は、少女の乳首を探り当てる、まだ、芽乳房、それもつい先ほどふくらみかけたのが分かる程度、そんなピンク色をいやらしい手つきでこねくり回す。
 「本当に、恥ずかしいカラダね。こんなに幼い身体なのに、こんなに硬くして興奮しちゃって、弄ってほしくてたまらないのね」
「そ、そんなの・・う、嘘です!ぅぅうあ!?」
 ヨダレを垂れ流しながら、抵抗するので、少女の言い分ににはまったく説得力が感じられない。
「ふふ、嘘言ってもだめよ、さあ、答えなさい、安藤さんたちはまひるちゃんに何をさせようっていうの?」
「っ・・っゥウウウ・・、恥ずかしい恰好で街を、ウウウウ、あ、歩かせるです・・っ」
「ふうん、東横線って?どうして、そんなところまで」
「私のためを思って、そんな遠いところでって恩、ううゥウウ、恩、着せがましく・・ウウウゥ、言うけど、本当は、ああっ、も、問題になるのが、・・・困る・・・ウウウ、だぁら」
 だんだん、声に鼻がかかってくる。
 晴海のねちっこい指が再び、中学生のハマグリに指を食い込ませたのだ。
「ほら、早く、話なさい!!」
「ぃ、痛い!!ぅあ」
 痺れを切らした晴海の指が、クリトリスを潰しにかかった。残酷な催促は少女に接種された自白剤の役割を十二分に果たそうとしている。
「クア・・はあ、はぁ・・、遠いところに電車ってわざわざ、行くんです。ィウウ・・ああ、ぁぁ」
晴海の胸で、激しく号泣する。そんな間にも少女のハマグリは彼女の手によってこねうりまわされ、貝柱やヒモが10%ほど膨脹している。
「お友達で楽しく外出ということね」
「ひ、ひどぃ・・ゥウゥうう?!」
 おそらく、かつてはそういう友だちもいたのだろう。そう、女性捜査官は見当をつける。
「外崎さんと仲よかったみたいね」
「あ、綾ちゃん・・・や、やめてください!それは、それあ」
まひるにとってみれば、決して失ってはならない大切な友人のことである。決して触れられたくない傷が無惨にも広げられ、内部にメスが入れられた。
 無神経というのは、あくまで自分が他人を傷付けているのを自覚していない場合に限られる形容である。けっして、それを自覚して行うことに関して使う言葉ではない。晴海がやっていることは、まさにそういうことなのだ。

テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

  『おしっこ少女 9』

「ふふ、もう限界のようね・・・起きなさい、子猫ちゃん」
「ウウウ・・・!?」
 とつぜん、上腕を摑まれるなり、まひるは立つことを強要された。月に向かって引き上げられるような気がした。優しい光を讃える月でなくて、冷たい光を放つ氷の牢獄に放り込まれるような錯覚を憶えた。
「あぁぐぐグ・・・グググィ!?」
「ふふ、いい?そんな気持ちよかった?」
 それどころではない、外部から急激な刺激を受けた悪魔の生地は、激しく収縮し、それが蓄えた力は少女を激しく陵辱する。すなわち、性行為の最中に男性に立ち上がられた女性のごとく、下半身から激しく震える官能に身を悶えさせたのだ。
「すごいわよ、服の上からも、まひるちゃんが興奮しているのがわかるわよ、そんなに気持ちよかったのね、羨ましいわ、そんな恥ずかしい体に生まれて!」
「ウウ・ウ・ウ・・うう、嘘です!!アアア・・・ああ!?」
 激しく悶えながらも、まひるは、テニスラケットを放さない。
「本当に、テニスが好きなのね」

 極度に厳しいテニス部になると、練習の開始と同時に手に縛り付けられて、終わるまで戒めを解くことを許されないらしい。
 この少女は、それほど厳しい訓練を受けてきたというのだろうか。健気にもスポーツを愛する精神に徹している少女に、晴海は拍手を送りたくなった。あいにくと、片手が塞がっているために、それは不可能である。
 その代わりと言ってはなんだが、少女を揶揄することにする。 
「あなたの右腕はまだ、テニスがしたいって言っているわよ」
「ウウ・・ウうう。もう、もう、限界です・・・ゆ、許してクダさい・・ィ」
 さすがに限界を超えていると判断した晴海は、ようやく、地獄のテニスから解放することにした。
「そうね、今日はこれくらいにしてあげるわ」
「ハア・・はあ、あ、アリガトウ・・・ご、ございます・・ハア・・ああ」
 ほとんど、息も絶え絶えという他に表現がない。アウシュビッツから解放されたばかりの囚人のように、一人で立つのもままならない。
 それがわかっていながら、残酷に質問する。
「一人で歩けるかしら」
「ヒ、さ、触らないでください・・ぁ」
 まひるは、外部から刺激を受けることを極度に怖れた。今の、まひるは蚊がぶつかることすら嫌がるにちがいない。
 だが、言ってしまってから、ひどく失礼なことを、奴隷の自分が言っていることに気づいた。別に奴隷だと、自分に対して明示したわけではないが、適当な訳語がないために便宜上、そのようにしておく。
「す、すいません」
「いいわよ、まひるちゃん、早くお風呂に入ろうね。このテニス場には会員制の宿泊施設があるのよ」
 失言に対して謝罪する少女を、愛おしく思いながら晴海は言った。

 受付で宿泊の手続きを終えた晴海は、夢遊病者のように蹌踉ける美少女を、先導して
部屋に向かった。
「ほら、ちゃんと歩きなさい、赤ちゃんじゃないんでしょう?まひるちゃんは。それとも赤ちゃんみたいに愛情に飢えているのかしら?」
「ウウ・・ウ、ひどい・・・っ」
いちいち、ツボに嵌った悪口を繰り出してくる。女性警察官僚の言葉には刺がある。しかも、安藤ばななと違って、洗練されているからなおさら質が悪い。
 ボンデージ服の中は、彼女じしんの愛液によって満たされている。ほどんど水の中にいるようだ。しかも、ぬめぬめする生地によって、始終、締め付けられていたので、ほとんど全身を縛られたままで葦の密生する沼地を歩かされたようなものだ。
 少女の疲労はピークに達していた。
 エレベーターで晴海が押したボタンは、最上階を示している。しかし、どうしてこんなどうでもいいことが目に入るのだろう。
「はあ、はあ、はぁ・・・・・・ウウ・・っ!?」
 身体の何処かを動かすたびに、女性の敏感な場所が刺激される。少女のクリトリスは高温多湿の環境にて、とんでもないことになっている。当然のことながら、押し潰されて表皮が剥かれている。
 気の遠くなるような官能に苛まれながらも、少女は、大変な事実に気づいた。
「でも、あの機械がないと、これを脱ぐことはできないんじゃ・・・そんな」
「ふふ、それは嘘よ」
 いかにもあっさりと重大なことを言われて、少女は一瞬、反応に戸惑った。
「ひどい!悪魔!ゥア・・・うぅぅっぅぅ!?」
 一瞬だけだが、自分の獲物が持つ本来のプライドが、その目に宿るのを確認することができた。思わず、ほくそ笑む。
「かわいいわ」
 ペットのマルチーズを見るような目が、まひるに突きささる。自分は、犬じゃないのに!
 悔し涙が床に落ちるのが見える。きらきらする反射が美しすぎるのが残酷だ。失恋をした夜、ネオンサインが冷たく見えるのと近いかもしれない。いや、恋愛というものは罷り成りにも、自発的な行為である。
 しかしながら、今、まひるが目の当たりにしている境遇は、彼女じしんが望んだことではない。まるで奴隷のように引き込まれたのである。何にか?少女はその答えを出したくなかった。もしも、掘り当ててしまったら、自己の存在自由が明後日の方向に飛び去ってしまうように思えたからだ。
 絶え絶えなく流れる涙に、頬を濡らしながら少女は自分の孤独に胸を引き裂かれるような思いに苛まれていた。 しかも、それを辛うじて曖昧にしてくれるのは、安藤ばななを筆頭するにするいじめっ子たちと、残酷さという意味に置いて彼女たちをはるかに凌駕する、麻木晴海という警察官僚なのである。
 ある部屋の前に到着すると、鍵を差し込んだ。
「ようこし、ここはいつも、私が使っている部屋なのよ、それから、まひるちゃんが愛する大事な家族のみなさまを招待してあるの」
 スチャとドアが開く、まさにその瞬間に悪魔の声が聞こえてきたのである。思わず、魔の手から逃れようと藻掻いた。
「ぁぁあぁあうううぅうっぅぅ!?」
 「バカな子ね、どうなるのか、痛いほど分かってるんじゃなかったの?頭のいいまひるお嬢は?」
 いかにも小馬鹿にした美貌が宙に浮いていた。晴海は黒っぽいテニスウェアに身を包んでいるために、薄暗い廊下でそう見えたのである。
「ぅぅうっぅうl!?ヒドイィィ!?うううぅぅっぅぅぅ?!」
 ブザマに床に転がった少女は、じたんだ踏んで悔しがった。晴海の笑顔を見たとたんに、彼女の真意を見抜いたのである。
「フフ、嘘よ、ちゃんとわかったんだ。賢い、賢い、フフ」
 悪魔の笑声を上げると、今度は情け容赦なく少女の華奢な首根っこを摑むと、それはあまりにも白かった、それこそ、プラチナのように透き通っていた、晴海はその美しさに唾を飲み込んだ。そして、少女を部屋の中に荷物のように引き入れた。
「いやあ!いやあ!もう、いやあぁぁあっぁ!?」
 入室してしまえば、そこはもう防音装置が取り囲んだ密室である。たとえ、ここでハードロックのバンドが生で演奏しようとも、外にはほとんど音が漏れないだろう。
 さりげなく、この美しい警察官僚はそのことを少女に告げた。それでも、幼女のように泣きじゃくる。
「ふふ、まひる赤ちゃんは、いったい、誰を求めて泣いているのかしら?ママ?ふふ」
「うううぅぅっぅうぅぅ・・・・ウウウウううう?!」
 身体を裂かれそうな侮辱を一身に浴びて、少女は、ボロぞうきんのように床にうち捨てられている。
「何時まで、そこに転がっているつもり?それとも、インランなまひる赤ちゃんは、おませだから、ずっとそのままでいたいのね」
「ウウ・ウ・・ウ!ち、違います!うぅぅl・・は、はやく、脱がしてくだ・・・ウウ・ウ・・ウ・ウ
 はあ、はぁ、死んじゃう・・ウウ?!」
「だったら、自分で立って浴室まで付いてきなさい、それとも明日の朝までそうしてる?」
 明日の朝というキーワードが少女の何かをこじ開けたようだ。まひるは、股間のことも忘れて、立ち上がると叫んだ。そして、後悔した。
「そうだ、明日、用があるんです!!あぁ・・・・はあぁ」
「ほら、何回、失敗すれば学習するの?あなたって、学習能力、ゼロね」
 成績優秀をまさに自認してきた、彼女にしてみればそれは耐え難い侮辱に他ならないが、今は、このおぞましい生地から自由になりかった。
「ウウ・・」
 悪魔の手に自分の身体を委ねることにしたである。
だが、あくまで晴海は酷薄だった。
「私は、自分の足で付いてきなさいって言ったのよ、聞いていなかったの?」
「ウウウ・・」
 芋虫のように這ってくる少女を見て、満足そうに微笑むと晴海は銀色に光る金属を示した。
「鍵?」
 それはさえあれば、少女はこの屈辱的な状況から解放できるはずだった。しかし、それを得る手段はあきらかに奴隷のそれとしか言いようがないほど、従属的だった。何故ならば、その鍵は、彼女の主人である晴海の手にあり、彼女の憐憫を買わねば念願は叶わない。
 
 だが、そんなことを斟酌する余裕は、少女にはすでにない。
 気が付くと、再三繰り返してきた失敗を忘れて、手足を動かしていた。
「ふふ、なんど同じ失敗を繰り返したら気が済むのかしら?」
 やおら近づいた晴海は、屈むとその長い指を少女の身体に這わせる。そして、臍を超えて骨盤を探し出す・・・。
 何と、瑞々しい肌触りだろう。ゴムの生地の上からでも、それが如実に伝わってくる。晴海は、女盛りでありながら多少なりとも嫉妬を憶えていた。なおさらいじめたくなる。爪と指を使って微妙な圧力をコントロールして、少女により性感を与えようとする。
「ぁあぁぁぁぁ!?」
 暴力的で嗜虐的な手から、少女は逃げる手段を持っていない。見る見るうちに、凶悪な指は、少女のハマグリを摑みとっていた。
「ああ、そうか、それはオナニーなのね、もっと、気持ちよくなりたいんだ。そうなら、こうすればいいのよ!!」
「ァアアギググ・・・あ!?」
 晴海の手が少女の股間に食い込むと同時に、少女は断末魔のような声をあげた。性感の絶頂とは苦痛に限りなく近いのだろうか。被虐のヒロインの顔には、恍惚とともに苦悶の色がはっきりと見える。
 「ああ、また、イかせちゃったか。まったく、世話の焼ける」
 晴海は、まさにオルガスムスの絶頂にある少女を見下ろしながら、彼女の日曜日の事情というものが知りたくてたまらなくなっていた。




テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『由加里 92』


 由加里が毒牙にかかろうとしている時、照美と郁子はカラオケを後にしようとしていた。もちろん、携帯は料金を考えて、すでに切ってある。
「郁子ちゃん、楽しかった?」
「うん・・・そうだ、あたし、携帯、持ってるんだ」
 思いだしたように言い出した郁子。照美にとって見れば、それは意外な事実だった。最近の小学生の動向は、ニュースなどでは頓に耳にしていたが、情報化がそこまで進んでいるとは思わなかった。
「じゃあ、アドレスの交換しようか、わからない?こうやるんだよ、貸してごらん」
 その時、小学生の小さな頭に浮かんだのは、海崎百合絵のこんな言葉だった。

「知らない人に貸したらだめよ」

「あ、返して・・・」
 美少女は、女の子に拒絶感が見え隠れしているのを見落とさない。だが、月並みな言葉でお茶を濁すことにした。
「もしかして、カレのが入ってるとか?」
「そんなんじゃないもん」
 しかし、携帯の中身を知って本当に驚愕するのは、照美の方だろう。郁子の携帯に自分の母親のアドレスが入っていることを知ったら、どんな顔をするだろうか。
 照美は、そんなこととは露知らず、姉さん顔で妹を相手にしているつもりだ。こんな姿を鋳崎はるかが目撃したら、おそらく、いや、90%の可能性で親友をからかうネタにするつもりにちがいない。
 照美は、その時が音もなく近づいているにもかかわらす、さらに姉さん顔をする。

「郁子ちゃん、可愛いからきっともてるわね、クラスの男子が放っておかないでしょう?」
「そんなのいないもん・・・・でも、お姉さんならいそうね、男の子が放っておかないんじゃない?」
 照美は、思わず笑声を洩らした。
「ふふ、私か、どうも、男子から畏れられているような気がするな」
「綺麗すぎて怖いのかな」
「うん?」
 適当に言っているようで、真実を洞察する。小学校の高学年とは誰でもこんなものか、それとも、彼女が特別なのか、とにかく、照美は聡い少女に好感を持った。
「お姉さん、歌うまいよね、プロみたい。アイドルとは違う感じの歌手になれるんじゃない?」
「郁子ちゃん、西宮さんには内緒よ」
「え?どっち?」
「由加里さんよ、いい?」
黙って肯く、少女に照美は打ち明けた。
「冴子さん、ロックバンドをやってるでしょう?私、その新しいヴォーカル、歌手になるかもしれないんだ」
「え?そうなの、アッセウブ、なんだっけ?」
「アッセンブル、ナイトよ」
「由加里さんには内緒よ」
 自分が由加里の姉が主催するロックバンドに参加することによって、かなりのプレッシャーを彼女にかけられるのではないか、照美は、お姉さんを演じる中で、どす黒い笑みを浮かべていた。
 だが、それは容易に崩れ去る運命にある。遠目に、あまりに見知った顔を発見したからである。女の癖に、普通の男子よりも頭一つぶん大きいのは一体何者だろう。考えるまでもない、鋳崎はるかである。
 すぐに逃げようと、裏道を伺おうとした瞬間、親友の老獪な双眸とぴったり出会ってしまった。
 30メートルも離れているはずだが、トップアスリートの卵の視力から逃れることはできなかった。すぐに走り寄ってくる。
 ジャージ姿でテニスラケットを背負った体育会系、向こうから飛んでくる大柄の女の子はそのようにしか表現できそうにない。
 二人を取って喰える場所まで近づいた。白皙の美少女は、さすがに額に汗を浮かべている。
 彼女は、いたずらっ子のような笑顔を浮かべると、いかにもおかしそうに言う。その口端からは、親友をからかってやろうという悪意が見え見えである。
「よ、照美!あれ、このお嬢ちゃんは?」
「はるか・・・・・・・」
 思わず、美しい顔が滑稽に歪む。こうなってしまえば、絶世の美少女も形無しである。だが、照美を救う神の手がぬっと現れた。
 この小学生は、二人が予想だにしない言葉を吐いたのである。

「いつも、姉がお世話になっております。今朝、生まれた、末の妹の郁子と申します」

 神妙な姿に、数秒の沈黙の後に、二人は爆笑せざるをえなかった。
「ほう、今日一日で、ここまで成長したってわけか?」
「お姉さん、この人、男なの?」
 はるかを怖がっているのか、郁子は、その小さな身体を照美に絡みつかせる。
「本当はそうなのよ、変態さんなのよ。男のくせに女の子の恰好をしたがるって、学校でも評判なの」
「照美!わざとらしくしおらしくするな!」
 二人で歩いていると、似合いの恋人同士に見られる。照美は意外そうな顔をし、はるかは、いかにも嫌そうに発言者を睨みつけたものだ。
 彼は30歳を超えた行員にもかかわらず、心底から震え上がったことは、照美とはるかの知る余地の無いところである。

 さて、照美によって、要領よく、郁子の身分を説明されたはるかは、目を丸くした。当たり前だろ、あの西宮由加里の妹だと言うのだ。確かに血が繋がっていないのだろう、顔の作りそのものが違う。絵で言えば、その根底にあるタッチが違うのである。
 はるかは、少女に対する自分の第一印象よりも、親友が彼女を気に入っていることに注目した。明らかに、疑似的に姉妹を演じることを、楽しんでいる。
 確かに、一人っ子であるはるかにも、その気持ちはわかる。ただし、実母と実父に育てられている彼女には、親友の気持ちの深いところまではわからない。彼女はそれを自覚していた。自分にその資格はない、と思っている。 それは自分の照美への友情の証拠だとも考えている。
「照美、そろそろ、小学生は帰宅する時間だろう」
「まあな、家まで送ろうか?どうした?」
 郁子は、地面に視線を落としていて黙っている。そのようすを見ていると、本当に夕日に呑みこまれてしまいそうに見えた。
「郁子ちゃん?」
 気が付くと、少女は照美のスカートを摑んでいた。
「どうしたの?」
「ウウ・ウ・・」
 あまりに華奢な少女は、その小さな肩を振るわせて泣いていた。さきほど、自分は愛されていないと、冗談交じりに言っていたことが想い出される。
 肩を抱いてやろうと手を回す前に、少女は口を開いた。
「お、お姉さん・・・あ、あたしね、お姉さんって言ってごめんね、お姉さんじゃないのに」
「何をバカなことを言っているの?」
 先ほどは意図していたが、今度はごく自然に少女の肩を抱き締めていた。少しでも力を入れたら、その瞬間、肩胛骨を鎖骨が粉砕していまいそうに思えた。
「ウ・・ううう!?あーあー!!」
「郁子ちゃん!?」
 小さな少女は、顔を真っ赤にして照美の下半身にしがみついて、泣きじゃくりはじめた。
端で見ている、はるかは、往来の視線が気になったが、単なる姉妹の家族ドラマだと思って、温かい微笑を投げキッスしてくるだけだ。
 一方、照美は、そんなことは全く気にしていない。
 なんと、この美少女が涙を浮かべている。由加里に見せてやりたいと思った。きっと、彼女は照美にいじめられることを誇りに思うだろう。

 この小さな少女は、はるかをも、理性の楽園から追放せしめたのである。
 
 しばらく経って、ようやく泣きやんだ郁子は、照美に手をつながれて帰宅の途にあった。
「・・・ご、ごめんなさい」
「いいのよ、郁子ちゃん、よかったら、私のことをお姉さんって呼べば」
 しかし、照美は少女を笑わすことも忘れなかった。
「そして、この大きなのはお兄さんって呼びなさい」
「おい、照美!」
 大きな手が照美の頭を摑みとった。
「痛いな、はるか!」
「フフ・・・」
 照美の意図どおりに、郁子は笑い出した。
「ま、それは冗談として、別に冗談にしなくてもいいんだけど・・・」
「冗談だ!」
 地獄の底から響いてきそう名声を無視して、照美は言う。
「私の妹でもいいよ、そうだ、本当に私たちの妹になろうよ、ね、郁子ちゃん、三國志って知ってる?」
「知らない」
 素直に答える。

 おい、おい、小学生に何を言って居るんだと、はるかは制しようとするが、照美はまたも無視する。
「桃の誓いって言うのがあるの、桃の木の下で3人の男が兄弟の誓いをするのよ」
「その人たちって、3人とも赤の他人なの?」
「そうよ」
 照美は、公園の前にある門石に座った。こうすると郁子と目線が合う。
「あそこに、蜜柑の木があるわ、あの下で、3人で姉妹の誓いをするの」
 小さな両肩に手を添えると、それほど大きくもない木の下まで押していく。すでに誘蛾灯が光る時間になっている。
 郁子は、人形かと思わせるほどに従順に照美の意思に従う。頼りなさげなその姿は、護ってやりたいと思わせるのに充分だ。
 言うまでもないことだが、蜜柑の季節ではない。だが、先入観からか、甘酸っぱい匂いが漂っている気がする。
 郁子は、照美から離れると、木に寄っかかった。上目遣いで姉になる中学生を見あげる。
「本当に?」
「もちろん!」
 半分ほど、あほらしいと頭を掻いたはるかだが、すぐに、親友が本気だと気づいた。他人の中で育てられるとはどんな感じだろう。たしかに、彼女は継母や継父にこれ以上はないというほどに愛されている。だが、自分とて、照美とは血など全く繋がっていないのだ。
 しかし、彼女をとても大事に思っている。肉親として愛しているとさえ言える。だが、悔しいことに、この美少女に継母たちと同様に、人並みの幸福を感じさせてあげられない。なんと、もどかしいことか。
もしかしたら、この小学生がそれを実現させてくれるかもしれない、はるかはそう思った。

「そうだな、そうしよう。しかし、私は女だからな、郁子ちゃん」
「はい、お兄ちゃん!」
「こら!」
 はるかは、新しく妹になった少女の頭をごつんとやった。
「私は、お姉さんなのよ、区別がつかないじゃない!」
「はるかお姉さんでいい」
「え?はるかお姉さんだって?あはははは!」
「笑うな!照美!」
 そう言っているはるかも笑い出した。それに釣られて郁子も笑い始める。あっと言う間に、笑声の合唱となった。
 笑いが絶えると、照美は郁子をその腕の中に入れた。
「そろそろ、帰ろうか」
「うん」
 郁子は再び、涙目になった。
「郁子、妹だよね」
 可愛らしい小学生を愛でながら、照美は突如として怒りを抱きはじめた。言うまでもなく、彼女の姉である、由加里であり。
 3人連れだって歩きながら、絶世の美少女は、彼女へのさらなる攻撃を誓った。
一方、テニスラケットを背負う少女は、幾ばくかの不安を抱いていた。こんな小さな少女を由加里いじめに巻き込むことである。彼女は、ほぼ親友の意図を察知していた。だが、彼女の境遇を思うと、それをあからさまに批判するわけにはいかなかったのである。
 何故ならば、すでに、親友を護り続けると、そして、同じ狢で在り続けると、はるかは、これらのことをかつて自分に誓ったからである。



テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『由加里 91』

「ねえ、郁子ちゃんでしょう、私、海崎照美って言うんだけど」
「・・・・・」
 支払いを済ませた照美は、喫茶を出るなり由加里の妹に声をかけた。しかし、少女は黒目がちな瞳を微動だにせずに不審そうな視線を送ってくるだけだ。
「郁子ちゃん」
「お姉さん、どうしてあたしの名前、知っているの?」
「西宮さん、冴子さんに教えてもらったの」
「冴子姉さん?冴子姉さんと知り合いなの?」
「そうよ、私、冴子姉さんのバンドの関係者なの」
「かんけいしゃ?」
「友だちなの」

 妹や弟がいない照美にとって、小学生の扱いは苦手だ。というよりも、経験がない。何故だか、由加里ルートを通じて自己紹介するのはマイナスのような気がした。
 照美は、何かの小説で知った会話を思い抱いた。筋も全く憶えていない、いや、題名すら記憶の網にかかっていない作品だが、何故か、その台詞だけは残っていた。
「郁子ちゃん、お姉さんと付き合わない?」
「お姉さん、キレイだね」
 「それはわかってるからさ・・・・・・」
「あたしを誘拐してもだめよ。みんな、あたしのためにお金を払おうとしないから、それでもいいなら、一緒するよ」
「え?」
 由加里の妹に、照美は何かひっかかるものを感じていた。具体的には摑み切れていないが、二人の姉とは違う別種の衣服を着ていると思ったのだ。
「じゃあ、誘拐に付き合いなさい」
「何処に行くの?喫茶店はいいから」
 扱いにくい子だとは思いながら、自分がほとんど子供を扱ったことがないことに気付いた。しかし、電灯がつくように面白い試みを思い付いた。
「ねえ、郁子ちゃん、友だちを見舞いたいんだけど」
「お姉さんの友だち?」
「友だちって言うより、クラスメートね。先生に言われているのよ」
「ふうん、あ、もしかして、由加里姉さんのこと?」
 その固有名詞を口にしたとき、少女の顔色が変わった。それを照美は見逃さなかった。
「お姉さんは、由加里姉さんの友だちなの?」
「だから言ったでしょう。先生に言われて仕方なく来たって」
「じゃあ、あたし、帰る」
 
 郁子は思い詰めたような顔で言った。
 美少女は、考えた末に小学生用の言葉を思い出した。
「わかった、郁子ちゃんは、お姉さんと喧嘩したのね」
「喧嘩なんかしてないよ、ただ・・・・・」
 二人が微妙な関係であることを、照美は察知していたが、それが確信に変わった。これは由加里をいじめるいい道具が手に入りそうだ。しかし、ここで焦ってはいけないとも思った。
「話してごらんよ、立ち話も何だから、喫茶がいやなら病院の外に行こうよ」
「うん・・・・・」
 時計を見ると午後四時になろうとしている。小学生が自由にできる時間は残り少ないだろう。はやく、この少女から情報を聞き出さねばならない。いや、それよりも、彼女を間諜とすべく見えざる主従関係を構築する必要があった。
 痺れを切らすどころか、向こうから握手を求めてきた。
「ねえ、お姉さん・・・」
「何?郁子ちゃん」
 ためらいがちに少女は口を開く。
「カラオケいい?」
「いいわよ、歌を歌うの好きなの?」
 病院を出て、すこしばかり赤みをおびた太陽に照らされて、小学生の頬は血に濡れているように見えた。躊躇うことなしに、一気に捲し立てる。
 
「郁子は好きだけど、カラオケには行かせもらえないの、お金出してくれない。他のことならいいけど、カラオケは駄目だって、パパが言うのよ」
「そうなんだ、じゃ、行こうか」
 「お姉さん?!」
 突如として手を摑まれた郁子はぎょっとなった。しかし、昔の懐かしい思い出が蘇ってきて、涙が浮かんできた。
 照美は、もちろん、目敏くそれが見抜いていた。しかし、少女の深い思いまで読み取っていたわけではない。ただ、由加里とうまくいっていないことだけは何となくわかった。これを利用しない手はない。

 しかも、向こう側から手を指しだしてくるではないか。それとなく由加里のことを訊いてきた。
「学校で、由加里お姉さん、どんな感じ?」
 もちろん、そのまま言うわけにはいかない。
「普通だよ」
「お姉さんはどう思っているの?」
 いちばん、答えにくい問いではある。先ほどの物言いで、ニュアンスを捉えているか。いや、意識的にせよ、無意識にせよ、理解しているからついてくるのだろう。
 こちらから探りを入れてみる。
「家ではどうなの、と言っても入院する前だけど」
「とても、冷たくなったわ。郁子のこと、嫌いみたい」
 そう言うからには、当たり前のことだが、姉に対して愛着が残っているわけだ。あからさまに、由加里を悪し様に言うわけにはいかないということだ。
「宿題、見てくれなかったりするの、前は笑って教えてくれたのに」
「ふうん」
 照美は、携帯を弄っていた。かけている番号は由加里宛だ。
「ごめんね、友だちに用があるの・・あ、かかったわ、あ、はるか、照美だけど。あなたのだいしんゆうの照美よ・・・ふふ、ねえ、英語の宿題で、これわからないのね、教えてよ!Leave the call! どういう意味だっけ?これ、Leave the call!これよ、Leave the call!・・・・・・・あ、そういう意味なんだ、ありがとう!!」

 携帯の相手は言うまでもなく、はるかではなくて、由加里である。そして、英語の意味は「電話かけたままにしろ」という程の意味だ。
 小学生である郁子はいざ知らず、その意味を知的な美少女が理解できないはずがない。声が照美であることは、一瞬のうちに理解した。あの怖ろしい、少女をひと声で地獄に叩き落とす声色を忘れるはずがない。
 この手のシナリオめいたいじめははるかの領分だったはずだが、照美は照美で残酷さに磨きをかけるべく親友に倣ったらしい。
 しかし、今はそんなことを分析している場合ではない。
ベッドに寝ている由加里の耳に響いてきたのは、照美のみならず、なんと、可愛い妹である郁子の声だったのである。
「ウ・ウ・・・!?」
 とたんに、下半身を戒める仕掛けが騒ぎ出した。精神的なショックが股間を直撃したのだろう。

 ここで、疑問が生じるだろう。由加里の性器を監禁しているのは、似鳥可南子が米国から直輸入した特注品ではない。
 単に、照美に卵を挿入されているにすぎない。
 ならば、照美がいなくなった今、どうして、取り去ろうとしなかったのだろう。
 逆に言えば、それこそ、知的な美少女が精神的にも、そして、肉体的にも奴隷に堕ちた証拠だろう。
「アグ・・あ、え?どうして、郁子の声が、海崎さんの携帯から聞こえてくるの?」
 由加里は正気に戻った。官能の責めに絶えず下半身を苛まれていながら、郁子の像が脳裏を過ぎっては、脳内麻薬の海に溺れているわけにはいかないのである。
 頭が熱くなっていくのを感じる。脳、そのものが電子レンジで温められているようだ。だが、その熱に浮かれている場合ではない。
 妹と照美の声が交差する。

「ふうん、お姉さん、郁子ちゃんのこといじめるんだ」
「そうだよ、ひどいことするの」
・・・・・・郁子に何をするつもりなの?いや、郁子をまさか引きこむつもりなの?
 後者が正解だと思われた。金江礼子や高田あみるのように、弱い者に無差別な悪意を向ける照美ではないからだ。
 自然と出てきた解答に、由加里は唖然とした。
・・・・・自分さえ犠牲になれば、みんなが幸せになるって言うの?
 自分の未来が黒で塗り固められるのを感じながら、まったく介入できずに、二人の会話を聞くことしかできない。
 そうと分かっていても、泣き声を張り上げざるを得ないのは、人間の悲しい性というところだろうか。
いかに泣き叫ぼうとも、照美は、携帯を手にとっていないのだから、自分の声が届くはずがない。
「海崎さん、海崎さん!お願い、郁子に手を出さないで!」
 二人の会話は続く。郁子が由加里からひどい仕打ちをされているという内容で、耳を覆いたくなるような内容だ。とうぜんのことだが、知的な美少女には身に覚えがない。だが、一方、照美が強制して演技させているとも思えない。あの子にそんな演技力があるはずがないのだ。

・・・・・そんなにお姉さんのことが嫌いなの?

 涙が自然と頬を伝うが。そんなことは全く気にならない。自分が信じてきたものが、いとも簡単に崩れていく姿を見せつけられて、しかも、学校だけでなくて家庭のそれまでが、無惨に廃墟と化すのを目の当たりにして、由加里は慟哭せざるを得なかった。
 二人以外の声が聞こえるが、そんなものは涙に暮れる少女の耳に入るはずがない。だが、聞き慣れた曲の前奏が始まったとたんに、意識を取り戻した。冷や水をかけられたような気がする。
 冴子が組んでいたバンド、Assenble night の楽曲である。照美がやけに曲に溶け込んでいる。いかに雑音に妨害されていてもよくわかる。それがシャクだった。彼女のよく通るヴォーカルは機械的な雑音などものともしないようだ。
 それが姉と照美が手を繋いでいるように見えて、由加里はなんと言えない孤独感に身を焼かれるのを感じている。
 いや、それだけではない、あの悪魔は郁子さえ自分の領域に引き入れようとしている。冴子が、そうやすやすと 手玉に取られるとは考えにくいが、あの郁子なら、いとも簡単に味方に引き入れられてしまうだろう。
思い返せば、いじめられるようになって妹に辛く当たることが多くなったと思う。しかし、姉を裏切らせるようなひといまねを彼女にしただろうか。
 首を捻るばかりだ。
「もうーいや!」
 思わず、由加里は携帯を閉じようとしてしまった。しかし、奴隷の身では主人の命令は絶対だ。立っていろと言い渡されれば、雨が降ろうと槍が降ろうともそのままの姿勢を維持しなければならない。少女は見えない鎖に繋がれているのだ。身も心も照美に奪われて、身動きひとつままならない。
 例え、彼女が側にいないとわかっているにも係わらず、常に監視されているような気がする。
 あの人間とは思えない美貌が自分を嘲笑っているのだ。完全に我慢の限界を超えている。これでは、古代の奴隷よろしく、常にご主人様の足下に控えて、どんな命令でも謹んで実行する薄汚い雌犬でいたほうがどれほど楽か。
「ウウ・ウ・ウ・・」
 ガサっというゴキブリが騒ぐ音とともに、社会のノートが落ちる。ゆららが懇切丁寧に黒板の板書を書き写してくれたものだ。たまたま目に入った赤い文字。
 人権・・・・性差、年齢、民族、の別にかかわらず、万民に平等に付与されたもの。
「そんなの嘘じゃない!?嘘の人権ならないほうがまし!いい加減にしてよ!海崎さん!もう、どうにでもして!これじゃ、蛇の生殺しじゃない!?」

 由加里は、慟哭しようとしたが、ここは静寂であるべき病院、それを呑みこもうとする。徹底的に圧縮された哀しみは、いったんは喉を通るが、胃に届く前に逆流して再び口元に戻ってくる。
 嘔吐しそうになった。
「ウ・ウ・ウウ・・ウうう?!気持ち悪い・・・うう」
「あら、あら、西宮さん」
 あまりに、由加里が声を出すので看護婦が顔を出した。
「・・・・・!?」
 悪魔を視る目を向ける。何となれば、身体の清拭等のときに、彼女は常に嫌みを言うようになっていたからだ。
 由加里のことは看護婦仲間で有名になっているのは知っている。
だから、少女の性に関することが嫌みのネタになっている。しかし、今度ばかりは、少女は脳髄を土足で踏まれたような気がした。
 看護婦は苦しむ知的な美少女の耳元に、そっと、悪魔の囁きを吹きかけた。
「あーら、妊娠でもしたのかしら?」






テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『由加里 90』


 テーブルの上に五線譜を取り出して、いや、投げ出すように置くとやや殴り書きするように、オタマジャクシを並べていったのである。
「ふふ」
 思わず微笑が零れる。まるでビデオテープを再生したかのような目の前の出来事に、照美は心が溶かされるのを感じた。あの由加里と酷似しているのに、どうして、この人には憎しみを抱かないのか、その理由はわからない。
 しかし、冴子に好意を抱いている自分に気付いたことは確かである。自我への新たな闖入者をどう扱ったらいいのか、青春の途上にいる少女にはわからないことばかりだが、プライドが高い彼女は、そんな自分じしんを認めたくなかった。
 ロックバンドのヴォーカル。
 現在の音楽シーンにたいして興味を持たない自分だが、その言葉が持つ神話性には覚えがある。
 
 何故かわからないが、この時間が永遠に続けばいいと思った。不朽のものなぞこの世に存在しないことはわかってはいるが、このまま、新しい人間関係に深入りせず、と言って遠ざかりもせずに、曖昧な関係のままで過ごしていたいと、絶世の美少女は考えた。

 
 その頃、精神的にも肉体的にも姉を奪われた由加里は、手足をもがれた牛のような思いでベッドの中にいた。絶えず少女を苛むのは下半身から響く性的な刺激だけではない。それに加えて精神的な苦痛をも倍加されて少女のか弱い精神を侵食していくのだった。それらに煩悶しながら、頭までシーツを被って泣き続ける。
「ウ・ウ・ウウウウ・・・・ウウ」
 誰にも知られたくない。こんな姿を見られたら、それが誰でもすぐに舌をかみ切るつもりにさえなった。
 そんな由加里に声をかけた者がある。
 それは、ある意味、知的な美少女がこの世でもっとも会いたくなかった人間だった。
「姉さん、由加里姉さん!」
・・・・・・郁子?
 小学5年生の妹がこんなところで何をやっているのか。いや、患者の妹ならば病室にいてもおかしくない。いや、何の用でこんなところに来たというのだろうか。
 それはすぐに明かされた。
「ママがねえ、洗濯物とか、持ってきなさいって、それから郁子も用があるんだよ。由加里姉さん、起きてよ!」
「止めて、お姉さん、具合が悪いの!」
 その時、由加里の耳には世にも怖ろしい声が聞こえてきた。いや、声ではない、その内容、つまり言葉が怖ろしいのだ。
「姉さん、オナニーでもしていたの?冴子姉さんに捨てられて、そんな惨めな自分を慰めるためにさ」
「郁子!!」
 おもむろに飛び起きた知的な美少女は、シーツを脱ぐなり妹を怒鳴り飛ばした。
しかし、涙で顔を濡らした郁子が目に入ったとたん、それは自分の哀れな妄想だと気付いた。かき混ぜたコーヒーに溶けるクリームのようなスピードで、罪悪感が脳幹を満たす。
「郁子!」
 今まで聞いた妹の声がすべて幻聴であることを覚ったのである。
 愕然とすべき事実を知って、由加里も黒目がちな瞳に涙を溜め込んでいた。思えば、この妹は、いや、家族は自分を人間扱いしてくれる数少ない人間のはずだった。それをどうしてこんな扱いをしてしまうのだろう。被害妄想に耳を傾け、可愛い妹を否定しまうなどと、とても考えられたことではない。味方の背後から砲弾を放つのも同じことである。
「郁子!ご、ごめん・・・う」
 その時、姉は苦しそうに呻いたが、郁子はそれに気付かない。彼女も溢れる感情に意思を支配されていたからである。
「姉さん、由加里姉さんも、郁子を嫌いなんだね?!」
「も?何を言っているの?ぁぁぅ・・い、郁子?」
 実は、姉の下半身が官能の疼きを感じたのだが、その秘密を知らない郁子には察しようがない。自分を軽んじている故での行為としか思えない。
「姉さんも、冴子姉さんも、ママも、郁子をのけ者にして!みんな嫌いよ!」
「郁子!?」
 洗濯物等、持ってきたものをすべて床にぶちまけて、妹は病室から飛び出していった。いくら退院が近いとはいえつながったばかりの足では、彼女を追うことは不可能である。
・・・・・・一体、彼女は何を言っているのだろうか。
 今まで、彼女の口から聞いたことがない言葉の羅列に、知的な美少女は真冬の次に真夏が来たような感じを味わっていた。急激な気温の変化に体がついて行けない。同じように、妹の変容に心がついて行けないのである。
何という大人びた言いようか、あんなことを考える子だったとは・・・・・。

 何か、彼女にとって許容すべきでない自体が起こったにちがいない。きっと、それが妹に少なからず影響を与えたのだろう。
 そんな風に冷静に分析しながら、全身はいやらしい汗にまみれていた。そして、彼女の股間は猥褻な液体に沈んでいる。既に少女の膣は、もしもその部位が意思を持っていたらのことだが、窒息する思いを味わっている。
「ぁぁぁぃぅ・・・・・・」
 良かった、妹にこれがばれなくて・・・・・・。
 一方では、こんなことも考えている。可愛い妹が危機にあるというのに、姉としての責任から希望しなくても逃れたことに、安堵を覚えている。そんな自分がいやになった。クラスメートのいじめられるのが当たり前と思わなくても、友だちがいないことは当然のように思える。
 大人になりはじめて、そんな自分の嫌な部分を発見したにちがいない。きっと、それが理由でみんな照美や高田 あみるたちに同調したにちがいない。
 圧倒的な自己嫌悪に脳幹を浸していたので、由加里は自分の右手が制御を失ったことに気付かなかった。
「ああアァアウ・・・、あ、私ったら・・・・いや!か、海崎さん、ゆ、許してエェッェェ・・・・あああ・・・ぁ」
 シーツに、白い、そう清潔な白い布に下半身を隠されているために、いや、護られていることをいいことに、知的な美少女は自分の性器を慰めていたのである。
 
 少女が昇華すべき諸問題は、彼女がいかに優れていようとも、あまりに多大で解決すべからざる内容に満ちていた。その唯一の方法は、官能に逃げることだけだったのだ。
 近い未来にそれに気付いた本人は、潔癖性ゆえにさらなる自己嫌悪の深海に沈み込んでいくだけだが、麻薬患者がいっときの快を求めるために殺人さえ犯すように、魔性の白い花に自らの指を食い込ませる。すると、中からいやらしい蜜が湧き出てくる。
 それも宿敵としか言いようがない照美にいじめられて、無理矢理にオナニーをさせられている様子を思い浮かべているのだ。
 あまりも惨めだった。
 自分はあの人非人にいじめられることを欲しているのか。いや、違うだろう。自分は欲する人間と人間的なつながりを持つことを待っているのだ。それが高田でなくて、照美である所以。なんと、あの冷たい笑いを湛える悪魔を好きになっているのだ。
 そればかりか、この後、看護婦に自分の汚らしい身体を拭かれている自分を思い浮かべている場面を想像しながら、右手を、いや、右手ばかりか左手をも動かしていた。右指でクリトリスを摘みながら、左手で膣の内奥を弄り回す。これが少女のオナニー方法である。

「あら、このインラン少女、また、我慢できなかったのね、大腿までいやらしいクサイ臭いがするわよ!」
 そんな声が聞こえるのだ。じっさいに、すべてが終わった後に、「若いっていいわね、おさかんね」とある看護婦に囁かれたのだ。彼女は部屋を退去する前に、自分の指を嗅いでわざとらしく顔を顰めると、神経質なまでに手を洗い続けたのである。水が手洗い場の外に幾つも飛び跳ねていた。それも彼女なりの嫌みの演出だったのだろう。
 由加里は顔が燃える思いを味わったものだ。
 それを思い出して、いや、脚色を施して舞台の中に自分を放り込んだのだ。これには、鋳崎はるかによる教育が効いているのかもしれない。もっとも、そもそも、創作の才能が少女の中に潜在していて、それを刺激したおかげで発芽したということもありうる。しかし、プロアスリートの卵はその尻を押したことは事実である。なお、彼女をも、由加里は自作自演の劇に登場させた。

「は、はるかさん、ぶたないで!ちゃ、ちゃんと、お、オナニーしますからァァアァアア・ア・アあああ、に、西宮、ゆ、由加里は、変態でインランで、ソ・・・そんな姿を・アア・・ア、人に見られるのが好きです・・・・ぁあぁぁぁ・・・・ぅぁうおあう、きもちいい・・・あぃううぅ・・うぅっぅ!」
 その瞬間、腰をその名の通りにエビぞりにして、ようやく絶頂を迎えた。
シーツが完全な惨めさとともにまとわりついてくる。滲み出てくる自らの汗のせいか、塩くさい臭いが自分から漂っているのがわかる。全身が愛液にまみれているような気がした。
 少女が我に帰って、自分のプライドが音を立てて崩れたことに気付くには、まだ、時間が必要だろう。まだ、知的な美少女は太古の海に微睡みながら転がっている。

 姉たる由加里が猥褻な遊びに耽っている間、妹は泣きながら携帯の液晶に見入っていた。病院の大広間たる待合所である。例によって老人たちが屯する、いわば、老人ホームと化しているから、小学生である少女が保護者の同席もなしにひとりいるのは、周囲に大変違和感を与える。しかし、当の郁子はそんなことを全くお構いなしに、ちょこんと、彼女の表情と関係なく、まるで絵画の主人公のように堂々としているのだった。
 因みに、待合い所は病院の喫茶から丸見えである。
 照美と冴子が談笑していた。
「あら、郁子?」
「知り合いですか?」
「妹よ、下の。きっと、由加里の用できたのか・・・・」
 照美は、切れ長の瞳が何を見ているのか気になった。
 ふり返ると、確かに少女はそこにいた。だが、ふたりに全く似ていないことから、他にいるかもしれないと、身体を椅子の外にせり出してみた。しかし、誰もいない。すると、あの少女が由加里の妹なのか。
「あそこにいる小学生ですか?」
「そうよ、西宮家の末っ子・・」
「私は一人っ子だから、そういう感覚、正直わからないんです。羨ましいですね」
「そうかな・・・・・」
 何故、冴子が複雑な表情をしたのか、当時の照美には想像ができなかった。だが、敏感な彼女のこと察しはついた。西宮の家には何やら複雑な迷路が入り組んでいること。照美の慧眼が見たものはそれだけである。
 冴子は妹が気になったのか、急に話へとの集中を解いた。
「とりあえず、永いスパンで考えてほしい」
「だけど、医学部って忙しいんじゃないですか?」
 
 女子大生の鋭い目は妹を追っている。
「医学部か、飽きてきたな。由加里にでも任すかな・・・・」
 先ほどにはない投げやりな物言いである。だが、冴子は照美への観察をけっして怠っていたわけではない。
その証拠に、「由加里」という単語を発したとき、照美の美貌が微かに歪んだことを見逃さなかった。明かに、ふたりの間には何かがある。いじめの加害者と被害者か。元、いじめっ子である冴子はあたかも読心術者のように、 美貌の中学生の心を読み取っていた。
だが、それを知ってなお、この美しい女子中学生を自分のバンドに迎え入れることに疑義を感じていない。冴子の脳内会議は、あきらかに推進派の勝利に終わったのである。反対派は会議に参加することすら許されなかった。
一方、美貌の女子中学生の意識は、由加里の妹から五線譜に戻っていた。言うまでもなく、冴子が並べていたオタマジャクシの紙である。
 書き終わったと思うと、作曲者の手から奪い取った。
「へえ、音符が読めるのか?」
「読めますよ、私を誰の娘だと・・・え?これ・・・・・すごい!」
 思わず感嘆の声を、美貌の女子中学生は上げるのを見て、冴子はほくそ笑んだものである。
 女子医大生は、その笑いに含むところがあったが、それを明かにしなかった。まだその時期ではないと踏んでいるのだ。
・・・・・・焦ることはない、今のところは。
 今、照美は五線譜に見入っている。冴子は、照美が断ったにもかかわらず、支払い明細に1500円を置いて出て行った。
「後で、感想をちょうだいね」という言葉を残すのを忘れなかった。

 自分も帰ろうと席を立ったところ、面白いものが美少女の視界に混ざり込んだ。
「由加里の妹、確か、郁子ちゃんだっけ?」
 冴子は、はたして、末の妹を連れて帰らなかったようだ。
「・・・・・・・・・・・ふふ」
 モナリザの微笑を浮かべる照美。その表情からは、この世でもっとも憎い人間の係累に対する悪意や敵意は発見できなかった。
 

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『由加里 89』



「西宮さん、もう少し、足を踏み込んで下さい」
「ハァ・・・ハ・・あ・・・・あ」
 両者の応酬はプロアスリートとコーチとの関係を彷彿とさせる。
 柔らかいというよりは、季節通りにけっこう強い日差しが入るなか、由加里はリハビリに励んでいる。平均棒のようなバーに両手を添えてよちよちと両足を交互に揺らす。
 腕の骨折はすでに治癒しているので問題はないのだが、まだ痛みが残っているために微妙に両肩の角度が歪んでいる。それがやけに痛々しい。
 しかし、それだけが由加里に息を乱させる原因ではない。実は、この瞬間をも、可南子の企みによって性器に挿入された異物が底意地悪く少女を攻め続けるのだ。股間を丸く覆ったおむつが生じさせる圧力は、少女が感じる羞恥心を倍加させている。
 知的な美少女は訓練士のものではない誰かの視線を感じると、ぷるぷると震えた。
「ハァ・・あ・・はあ・・」
「少し、休みましょうか」
 見かねた訓練士は休みを提案することにした。
 だが、厳しいリハビリよりも怖ろしい鬼が近づいてきたことに、少女は気づいていた。
「いえ、もうすこし・・うう」
「やりすぎはだめですよ、それにお友達も来てくれたことですし」
 若い訓練士は心にもないことを言った。少女の性器に加えられたいじめを知らない彼は、彼女を不甲斐ない、そして耐えることを知らない今時の子供だと軽んじているのである。
だが、既に彼女の股間と気力は限界を超えていた。

「由加里ちゃん・・・がんばっているのね、その様子なら、もうじき学校に来れそうね」
 見慣れた美貌が少女を見下ろしている。いや、照美の美しさはたとえ家族であっても飽きることはないだろう。由加里はそう思った。
「か、海崎さん」
「西宮さん、ベンチで話したらどうですか?」
「そうですね、友人がお世話になっております・・・・」
 絶世の美少女の意識に、このヤサ男はいない。だが、表だけの挨拶はしておくことにする。彼が姿を消しても、 しかし、照美は本性を顕わにはしない。それが被虐のヒロインに、底抜けの恐怖を感じさせた。
「ほら、由加里ちゃん、捕まって」
「ァ・・あう」
 由加里に肩をつかませると、ベンチへと誘っていく。
「か、海崎さん・・・アア・・」
 だが、ベンチが近づくにつれて、しだいに本性らしきものを顕わにしはじめた。
「リハビリにご執心のようね、だけど、いじめられるためにやってるなんて、やっぱり、西宮は本当にマゾの変態なのね、いじめられるのが気持ちいいのよ、変態!」
「ウウ・ウウ、い、痛い!!」
 乱暴にベンチに投げ出された由加里は呻いた。しかし、それは足の骨折のためではない。股間に官能の刺激が起こったのである。それを押し隠すために、なけなしの勇気を振り絞ることにした。あえて、照美に向かって言い放つ。
「か、海崎さん!わ、わた、私は、もう、が、学校に行くつもりは、あ、ありません!!」
「あら・・・ふふ」
 照美も座る。視線が同じ位置になる。
 ここで気づいたことがある。鋳崎はるかがいないのだ。一見、照美よりも野生児めいた彼女は怖いように思える。しかし、ある面においては、親友の行きすぎた行為をやんわりと押さえる役割を果たしているような気がしていた。そんなはるかがいないとなると・・・・。  
 知的な美少女はそら怖ろしい気がした。
「か、海崎さん・・・ウウ」
「何を泣いているのよ、私たち、親友でしょう?」

 この人は何を言っているのだろうと、訝しげに思った由加里だが、歩み寄ってくる人たちを見付けると合点がいった。
「さ、冴子姉さん・・・・・」
「あら、海崎さん」
 しかし、姉は妹など歯牙にもかけていなかった。少なくとも、妹はそう受け取っている。照美はどう考えていたであろうか。挑戦的な視線で挨拶に代える。
「西宮さんですね、お久し振り」
 話は早いと思った。実はゆららから言づてを受け取っていた。それを確かめに病院に足を運んだのである。そこに意中の人間がやってきた。
 ゆららか仕入れた情報をそのままぶつけてみる。
「医学部の学生って暇なんですね、私も医学部を目指そうかしら」
 冴子の肩にかけられたギターに視線を、ごくさりげなくふり向けながら言う。言の葉、葉脈の一本一本にまで挑戦的な意図が流れ込んでいる。
それを冴子は如実に受け取っていた。何てことだろう、こんな子供に全身の神経が鳥肌が立っている。興奮を抑えながら答える。
「そうね、あなたならそう勉強しなくても入れそう」
・・・・・・・まるで姉妹みたい。
 由加里は並んで語り合う二人を見て自分が阻害されているのを感じると、めらめらと嫉妬の炎が燃え上がるのを感じた。いや、姉妹などと思うことじだい、そんなことを考える自分が許せない。
「さ、冴子姉さん・・・・さ」
「ちょうど良かったわ、あなたに話があるの」
 知的な美少女は悔しかった。自分がクラスでいじめられていることは、既に知っている。それなのに、自分とクラスメートである照美に親しげに話すのか。
 彼女がいじめの主犯だということは告げていないが、そのことだけはそれとなく告げてある。そうなら、そんな優しい目ができるはずがない。さいきん、自分にだって向けられたことなんてないのに、ひどい!
 知的な美少女は幼児にように腹を立てた。
 だが、照美が側にいる手前、それを顕わにできない苛立ちをどうしていいのわからずに、涙を浮かべるだけだった。
 しかも、美貌の同級生は女優の才能があるようだ。予想だにしない方法で攻め立ててくる。
「由加里ちゃん、どうしたの痛いの?看護婦さん呼んでこようか?」
「だ、大丈夫・・・・」
 暗く俯いた妹に、姉は冷たかった。
「由加里、あなた、もう病室に戻りなさい。お姉さんは海崎さんに話があるから」
「・・・・・?!」
 (冴子姉なんか嫌い!)と言いたかった。それが涙になって頬を伝っていく。
「由加里ちゃん、行こう」
 半ば強制的に、照美が肩を貸してくる。彼女がまるで刑務所の職員のように思えた。少年院を含めて、少女にはもちろんその経験は無いが、想像での鉄格子の中は少しでも叛意を示せば暴力で躾られるような怖ろしい場所だ。 そこで働いているのが獄吏であり、教室での照美やはるかなのだ。
 目の前に冴子がいるのに、一番の味方の大きな手が自分を守ってくれるはずなのに、美貌の悪魔の好きなようにさせている。
 何故?
「冴子姉さん、なんで、私がいちゃいけないの?」
 それは当然の疑問だった。だが、姉は妹の考えを共有してくれないようである。
「由加里!」
 さすがに冴子の態度には、照美も耳かきに一杯程度の疑問を感じざるを得なかった。彼女が教室における真実を知っていて、それを責めるために自分を呼び出しているのではない。それは、ゆららから聞いた話から真実のようである。
 それならば、何故、妹にこんな冷たい態度を示しているのか、冴子は由加里をなんら宥めることなく車イスに腰掛けさせた。
「押してくれないの?」
「甘えないの、腕は治っているんだから自分で動かせるでしょう?」
 その一言で片づけてしまった。
 すごすごと車輪を手回しする由加里を尻目に、何故か、照美は勝利感を得ることが出来ない。

「さ、病院のカフェテリアに行きましょうか」
 妹に対する態度とは対照的な微笑を自分に向けてくる。その理由がわからないので、尚更怖ろしげに感じる。
「はい」

 だが、その一方、素直に答える自分がいて彼女自身をこんわくさせるのだった。自分はこの状態を楽しんでいるのだろうか。姉妹兄弟がいないとはいえ、よりによって由加里の姉を、しかも鏡に映る虚像のようにそっくりな彼女に親しげな感情を抱くことなどありえるのだろうか。
 だが、怖ろしいことに気づいた。
 ・・・・・・ママにそっくり!?
 髪型が違うのでそれほど気にもとめていなかったが、仕草や表情の造り方をつぶさに観察してみると彼女じしん思いもよらない結論を出していた。
 店員とのやりとりや椅子の座り方など、普段ならば気にもとめないことが参考書の赤い下線部のようにやけに目立ってみえる。
 冴子が注文してくれたコーヒーフロートに口を付けながら、この不思議な女性を見あげる。何だか、時間旅行を果たして若い母親に出会ったような感覚が背筋を這っている。どう話しかけたらいいのかと悩んでいたら、向こうから言葉がかかってきた。

「突然だけど、ヴォーカルとして私たちのロックバンドに加入してほしいんだけど」
「え?」
 あまりに単刀直入な物言いにあぜんとなった。小さな口をあんぐりと開けたままの照美に、冴子はさらに畳み掛けてくる。
「とある理由でヴォーカルがいなくなって困っているのよ」
 この人は一体、何を言っているのだろう。しかし、照美とてただ殴られているだけではない。切り返しをしなければならない。
「とある理由って何ですか?」
「ヴォーカルが少女暴行事件を起こしたの」
 きょとんとした顔で衝撃的な言葉を吐く。照美は相手が由加里でなければ、人が不幸になるのを兵器で見ていられない人間である。いとも簡単にしかも無表情でそんなことを言う冴子に反感を抱いた。
だが、彼女は一方的に話しを続ける。
「そういうわけで白羽の矢を立てたのよ、あなたに」
「どうして、私に?」
 いつの間にか、冴子が描くストーリーラインに乗せられていることに気づいていない。美貌を微かに歪ませた。
 冴子は優しげな微笑に猛禽の爪を隠しながら長言を弄しようとしていた。
「カラオケボックスから聞こえてくるあなたの声を拾った。女性ヴォーカルなんて想定さえしていなかったわ。だけど、あなたの声を賞味したとたんに、そんな考えはあさっての方向に飛んでいった」
「まるで、小説を書いているような物言いですね」
 はるかならこの人と話しが合いそうだなと思った。
「私はあなたの曲も聞いていない・・・・」
「あ、待って!」冴子の大きな手が遮った。筋肉のありようから、鍵盤を弾くんだと根拠のないことを考えた。
「どうしたんですか?」
「曲が浮かんできたの」
 何と、この大人はハンドバッグから五線紙を取り出すと、目の前に照美がいることも構わずに、音符を書き込み始めたのである。
「な」
 何処かで見た光景だと思った。何でもない、それは少女が常に味会わされている迷惑である。根拠が確定したデジャヴューを感じながら、言うべき言葉を完全に失っていた。




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『由加里 88』

 涙にくれる由加里を抱き続けた。ゆららは、その冷え切った背中を華奢な身体で温めたのである。
 自分が泣いているときにしてくれなかったことをどうして自分がしなくてはいけないのか、非常にシャクだったが、照美やはるかのことを考えると、そうせざるを得なかった。
さて、車イスを病室に運ぼうとしたゆららは、意外な人間と相対することになった。
 
 由加里の姉である西宮冴子。
 
 どうやら妹の見舞いに来たらしい。シックな色のスーツからは自分たちの世界とは別の人間だという空気を感じ取れる。そして、妹に似たほっそりとした肉付きながら、由加里とは違う芯の強さを見いだす。
 これが大人ということだろうか。ゆららは思わず、その迫力に煽られた。
 
 地域の『合唱の会』を通じて知り合いになっていた。その会は、少女が学校で冷遇されている間、数少ない他人とのコミュニケーションを取れる数少ない場所のひとつだった。そのために、彼女の性格から相容れぬことと裏腹に、異常なまでに積極的に参加していた。
 冴子と出会ったのは、練習中のことである。元卒業生ということで、慰問にきたのである。指導者としても、会が始まって以来の優等生だった冴子の訪問をいたく喜んでいた。
 ただ、西宮という姓を聞くまで、二人が姉妹だと気づかなかった。
 確かに、二人は似ている。
 
 しかし、高貴な肉食獣を彷彿とさせる、あの鋭い目つき。怜悧という言葉がこれほど適当な人間に、ゆららは出会ったことがない。
 遺伝的に姉妹だということは、外見からわかる。だが、皮膚の下に流れる血でもない何かあきらかに違う。それが醸し出すオーラのようなものが血に勝っていた。
 それが、二人の類似を打ち消していたのである。
 無条件に、ゆららは冴子に好感を持った。それは由加里に対する悪感情の裏返しだったのかもしれない。
指導者に促されて、渋々ながら疲労した歌唱はゆららの心を摑んだ。しかし、「先生、私は本質的にヴォーカリストじゃないですよ」と煙たい表情で謙遜する姿は、小学生じみた少女にいたく感銘を与えた。
 その冴子が目の前にいる。病室の前に立っている。
「冴子お姉さん!!」
 由加里が、羽目を外すのは当然のことだった。しかし、あくまで許せなかった。
「・・・・・」
「あれ、ゆららちゃん」
 医学部の女子大生は意外そうな目を後輩に向ける。彼女の話から妹の話題が出ない、あるいはこちらから話を向けても軽くあしらわれる、それらのことから、二人はそれほど親しい友人でないと践んでいたのである。
「ゆららちゃんがノートを持ってきてくれているんだよ」
 姉に話しかける由加里は、年齢よりもかなり幼く見える。自分の中に芽生えた嫉妬心を押さえるのに苦労した。
「由加里ちゃん、学校、来れないですし・・・・」
「・・ウウ・・ウ・ウ」
 小柄な少女は驚くべきものを見た。
 知的な美少女がとつぜん泣き始めたのである。もちろん、自分の台詞が彼女に影響を与えたとは、最初、信じられなかった。
 由加里ちゃんという呼称が、それほどの影響力を持っていることは、しかし、かつて、同じような境遇に、いや、彼女の何倍もの永きに渡って虐げられてきた少女にとって、てに取るように分かるのだ。
 自明の理という言葉は、まさにそのためにあるように思えた。

 一方、由加里は長い間感じたことのない喜びを感じていた。
 自分を友だちと呼んでくれている。それを家族の前で保証してくれた。それが何よりも嬉しい。大事な家族に対する後ろめたい気持が解消されていく。自分にも友だちがいる。そのようにみんなに胸を張れるような気がした。 もう、クラスの鼻つまみ者ではない。きっと、クラスメートも受け入れてくれる。ゆららもそう言っている。
 冴子の存在が、由加里を何故か楽観的な方向に向かわせていた。
 一方、ゆららは怖ろしい気持に陥っていた。妹がいじめられていることに、冴子は気づいているのだろうか。それなら、自分は大事な妹をいじめているクラスメートのひとりではないか。
 ゆららは逃げ出したい衝動に襲われた。
 しかし、冴子は自分を受け入れてくれる。少なくとも、そのような視線を自分に送ってくれていると思う。
 だが、この場に居続けるには、あまりに神経が細くできていた。

「あの、西宮さん、私、もう帰ります」
「え?ゆららちゃん、帰っちゃうの?もっと居ればいいのに」
 屈託のない笑顔を送ってくる由加里。
 再び、蘇ってくる憎悪の念。
 少女は複雑な気持ちをパンドラの箱に押しこめるような気持だった。

 パンドラの箱は、しかし、その存在感を急激に失うことになる。冴子の発言がその主因だった。
「海崎さんに連絡を取ってくれるかな?ゆららちゃん」
「え?」
 自分が何を聞かれたのか、一瞬、理解に苦しんだ。一方、由加里は完全に凍りついた。こんなところで、姉の口からどうしてその名前が出てくるとは。彼女は由加里がこの世でもっとも怖れる人間なのである。
 それよりも、どうして冴子が照美を知っているのだろう。それに対する疑問が先立つのは当然のことだ。
「「合唱の会」関係よ、由加里。そうよね、ゆららちゃん」
「ぁ、はい・・・・」
 意外そうな顔をする知的な美少女。
「ゆららちゃん、あそこに入っていたの?」
「うん、小学生の頃から」
 由加里は、小学生時代のゆららを思い浮かべてみた。しかし、今の彼女以外の何ものも想像しえなかった。
 だが、よく考えて見ると、注意すべきはそんなことではないことに気づいた。照美のことである。
「あ、冴子姉さん、か、海崎さんの・・・・・」
 冴子は、妹の話を皆まで聞かずに、冷蔵庫を開けるとリンゴを取り出す。赤い珠を後輩に見せながら、微笑する。
「ゆららちゃんも食べる?」
「ぁ、はい・・・」
 気まずい気持をかみ殺しながら、自分が長居をする羽目になったことを思い知らされた。それを剥かれようとしているリンゴが、我が身を犠牲にして主張している。
 リンゴを剥き終わった冴子は病室の片隅にあるテーブルを運んでこようとした。
「あ、手伝います」
「いいのよ、気を遣わなくて」
 妹には決して見せないような笑顔で応ずると、冴子は手伝おうとする少女を制した。本心からだけではなく、じっさい、背の高さに差がありすぎるのだ。ただでさえそんなに背が高くない由加里と比べても、ゆららは頭一つ以上低いのである。
 ランドセルを担がせたら、小学生にしか見えないだろう。冴子は正直、ゆららが苦手だった。別に悪意は感じないのだが、どうやって接したらいいのか難しい。相手は小学生ではないのだが、気が付くとそのように扱ってしまう。

 一方、由加里は完全に機を逃していた。照美の美貌がちらついて頭から離れない。

 目の前で姉とゆららが会話のキャッチボールをしている。
 二人の内面を知らない少女は、二人が何の支障もなくボールの投げ合いをしているのだと、変な嫉妬を感じていた。それだけでなく、姉の顔を見てから、やけに股間の異物が蠢く。ゆららと二人だけで居たときはそれほど感じなかったのに、少女の性器に隠されたものが蠢動しはじめたのである。
 ベッドに戻った知的な美少女は、腰をエビのように曲げて苦しそうに顔を歪め始めた。
「どうしたの?由加里ちゃん、具合が悪いの?」
 ゆららは自分がここから逃げる口実を得たと思った。だが、冴子はそれを許そうとしない。
「ゆららちゃん、ちょっと見ていてね、看護婦さん呼ぶから」
「あ、姉さん、大丈夫・・・・」
 由加里の言葉なぞ、公園に舞う枯れ葉のように無視して、姉は病室を後にした。

 病室に二人だけにされると、ゆららは所在なさげに窓の外を見る。しかしながら、今度は、由加里の方から噛みついてきた。
「海崎さんのことだけど、ゆららちゃん、知っていたの?どうして、冴子姉さんが海崎さんと?」
「・・・・・・・・」
 由加里の刺すような目つきから逃げるように、外へと逃げようとした。
「ゆららちゃん!?あぅぅぅ・・・!?」
「由加里ちゃん!?」
 ゆららが悲鳴に振り向くと、由加里は、先ほどよりもいっそう苦しそうに額に脂汗を滲ませているのが見えた。
「由加里?」
 ちょうど、その時、冴子と看護婦が入ってきた。
 看護婦は、あの似鳥加奈子である。
「西宮さん、どうされましたか?」
 抜け目のないことに、この女悪魔は第三者がいるときにはこのような口調なのだ。由加里の耳元に近づくと囁きかけた。
「由加里ちゃんたら、お友だちとお姉さんの目の前で欲情していたわけね」
「・・・・ウウ」
 加奈子は、しかし、この場ではそれ以上のことはしようとしなかった。冴子の目が光っていたからである。彼女からただならぬ空気を感じ取っていた。直感的に一筋縄ではいかない相手だと認知したのである。
 それに、悪魔の囁きだけで由加里は十分にダメージを受けていたのである。それをわかっていたからこそ、黒い看護婦も手を引く気になった。

「先生、呼びましょうか、西宮さん」
「あ、ハイ」
 ほとんど、操り人形のように加奈子の意のままになる由加里。冴子は、それを不審に思ったが、いじめられていることから来る精神的な現象だと、しごく客観的に受け取ってもいた。
「由加里、お姉さんはもう帰るから」
「ぁ、冴子姉さん・・・」
 医師が入室するころには、由加里は打たれた注射によって意識が混濁しはじめていた。
 意識の周辺で見ていたのは、冴子とゆららが連れだって部屋を後にする光景だった。何だか、姉をゆららに取られたような嫉妬を覚える。だが、すぐに夢の世界へと意識を溶かしていった。

 ほどんと見あげるような冴子の長身を仰ぎながら、ゆららは廊下を歩いている。好感を持つに至ったが、知らぬ相手への畏怖を否定することは難しい。こちらから話しかけるのはほどんと不可能だった。だが、何とかなけなしの勇気を絞り出すことにした。
「て、照美さんがどうかされたんですか?」
 由加里の前で、果たしてそう呼んだだろうか。目敏い冴子はそう考えた。彼女の洞察力は中学生同士の人間関係なぞ、人目で見切ってしまうのである。細かなところまではさすがに見抜くことはできなかったが、確かに、この二人は複雑な人間関係で結ばれているようだ。だが、由加里いじめに積極的に参加していないことは事実だろう。
「言ったろう、彼女の歌声を聞いたって」
「え?合唱の会に誘うんですか?」
 月並みな答えである。冴子はもっと面白みのある解答を期待した。
「いや、違う」
 だが、よく考えてみれば、彼女は自分がロックバンドを主催していることを知らないはずだ。
「彼女の歌声にいたく惚れてしまってね、今度、会ってみたいんだが、ゆららちゃんの方から連絡してもらえないかしら?」
「え?でも、携帯の電話番号を知っているのでは?」
「礼儀さ」
 ゆららは理解できなかった、何故、ここまで回りくどいやり方をするのか。冴子は、少女が思っている以上に大人だった。照美の歌唱力に関心を寄せる一方、由加里が晒されているいじめに探りを入れようとしているのだ。
 少女が、もちろん、知らないことだが、二人は言わば流浪の姉妹である。それほど冴子は表には出さないが二人の絆は外部の人間が考える以上に太い。
 だが、冴子が腹に一物を抱く理由は、その張本人がそれに無頓着なことである。
 何しろ、春子を実母と信じて疑わない。そのことに、冴子は大人げない怒りを覚えるのだった。

 一方、ゆららは由加里が毎日のように受けているいじめのことが、頭を過ぎる。それは罪悪感と一言で表現するには、あまりに複雑で、かつ、奇っ怪だった。何とかして、この思いを吹っ切りたい。それには、こちらから畳み掛けるしかない。
「あの、西宮さん」
「何かしら?」
 冴子は優しげな微笑を返す。こんな優しい顔も浮かべるのだと、少し安心して話を切りだす。
 さりげなく話題を逸らそうとする。
 だが、逸らそうとしたゆららが逆にそちらに引き込まれた。冴子がいきなり男性と思わせるほど低い声で朗々と 歌い始めたのである。
「今、みんなで『流浪の民』を歌うことにしたんですけど」
「そうか、あれだな、えーと、 なれし故郷を 放たれて       
夢に楽土求めたり          
なれし故郷を 放たれて       
夢に楽土 求めたり・・・・・本来はソプラノのパートだがな、結構、好きなんだ。どうした?」          
 ゆららは完全に言葉を失っていた。『合唱の会』総勢、40人で歌ってもこれほど迫力がない。ここは病院なので、冴子はそうとう音量を抑えて歌っていたのだ。それなのに、この歌唱力は何だろう。
 これほどの人が「自分は本質的にヴォーカリストではない」とはどういう意味だろう。そして、照美に声をかけるとはどういうことだろう。
 少女は是非とも知りたいと思った。
 

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『おしっこ少女 8』

「ううううぅぅっぅん?!」
「そのシートはメーカー製の特別あしらえなのよ。疲れた身体をたんと休めてね」
 運転者は傍らのシートに身を沈める奴隷に語りかける。
「この車が相当の高級車であることを感謝しなさい。あそこへの刺激もこの程度で済んでいるのよ」
 車に関するまひるの知識では、晴海のカービジネスの世界を理解することは難しい。よって、現在、彼女が乗せられている車種を教えられたところで、その価値を理解することは難しかった。
「ウウ・ウ・ウ・ウウ、ほんとうに、このままでテニスを?」
「してもらうわ」
 麻木晴海は接ぎ木の要領で言葉をつなげる。

 だが、最初の木とそれにつなげる枝との関係にそれほどの親和性は見いだせない。いや、むしろ、完全に相反する。生まれたときから憎しみあう兄弟のようで、とても握手しあうような仲とは言い難い。
 だが、後者の圧倒的な権力によって、無力な前者は支配されねじ伏せられる運命なのだ。
 そうは言うものの、学校でいじめられる時とは何かが違う。それを具体的に説明しろと言われても、あいにくと、まひるの語彙力ではうまく表現できなかった。
「ウウ・ウ・・・」
「これでも、学生時代はテニスをやっていたのよ」
 何がこれでもなのか、まひるにはわからない。
「そこにラケットがあるから見てみなさいよ」
「ウウ・ハイ・・・」
 晴海が指す先は背後の席だった。性器に生地が食い込むのを必死に我慢しながら、上半身を動かしてラケットに触れる。
「ウウ・・・・?!」
 ビニールに包まれたそのラケットはかなりの高級品である。
「眺めていないで、中を出してみなさいよ」
「・・・ハイ」

 まひるの上品な鼻梁がかすかに動いたことに、晴海は見逃さなかった。しかし、それをすぐに表に出すような真似はしない。運転しながら、少女の挙動を観察して楽しむ。
 少女はテニスラケットを握っている。
「振ってみなさいな」
「こ、ここでですか?」
「そうよ」
 晴海の声は小さいが至極断定的だ。被虐のヒロインに、背く気力すらない。
 何度も振るう。
 それを見ていたまひるはほくそ笑んだ。
「まひるちゃん、テニスの基礎があるのね」
「・・・・」
 とたんに、少女の顔色が青みを帯びるのを晴海は興味深く見ていた。
「言ったでしょう?これでもテニスの経験があるって、見れば分かるわよ、握り方をね。幼いころから相当、しごかれたわね」
「・・・・・・・・・」
 本来の表情をまひるは取り戻していた。しかし、本人はそれに気づいていない。まだ治りきっていない精神の傷に塩を塗られたのである。そんな時に見せる表情が本来の自分などと、誰が思うだろう。
 しかしながら、女性捜査官の慧眼は確かにそれを見透かしていた。知っていて、あえて、塩を塗る行為を強行してみせたのである。
「その通りです。でも、才能がなかったんです、でも、妹が同じテニスクラブのジュニアにいるんです」
「ふうん」
 語尾がふいに明るくなった。それにつなげるように晴海が言う。
「妹さん、ジュニアの選手権で準優勝を飾ったのよね」
「エ?ご存知なんですか?」
「公安の捜査能力を甘く見ないで欲しいわ」

 自分で言っておいて、思わず噴き出しそうになった。確か、そのような台詞があるコミックスにあったはずだ。彼女が小学生時代に読んだ旧い記憶である。
 まひるはそんなこととも知らずに、自分の車を運転する女性に恐怖を抱いた。この人は自分に関することをなんでも知っているのだろうか。
 自分がテニスに関することで傷を受けていることだけでなく、そのことで安藤ばななから脅迫を受けて、それが原因で彼女の奴隷になっていること等、それらのことをすべて知悉しているのではないか。
 しかし、それはまひるの買いかぶりと言えよう。
 それほど、この時の晴海が美少女に関心があったわけではない。もちろん、公安の捜査能力を行使すれば、それは不可能なことではない。しかし、それは事件に関する可能性がある場合に限られる。何故ならば、日本は民主国家であり名義上は少なくとも警察国家ではないからだ。
 まひるの妹の件も、たまたま見た地方紙の片隅に見たからだ。彼女の記憶力には定評がある。その点は、たしかに公安の捜査能力なのだろう。
 だが、この時、女性捜査官は被虐の美少女に関して新たな知識、そうまでいかなくても手がかりを直接的に得ることができた。

 テニス、そして、妹。
 この辺が佐竹まひるという少女を解くキーワードになりそうだった。
「今夜は泊まっていきなさい、連絡しておくから」
「・・・・」
 もはや、悪い意味での夢心地の状態に陥っている少女には、事態を正しく把握する能力はない。まひるは意識の外で、晴海が、彼女の義理の姉、すなわち、少女の実姉に電話をかけていることを知った。
 だが、それに何ら影響力を行使することはできない。
 よしんば、しようと思ったところで、彼女にその気力はない。全身が性器のようになっているまひるには、手足を生まれたときから奪われた巨大な海鼠以外のどんな存在価値があるというのだ。
 それにしても、この女性キャリア警官は、そんなまひるが可愛らしくてたまらないのである。いじめれば、いじめるほどに味わいが出てくる。
 そもそも、彼女に嗜虐という趣味はなかったはずだが、この女子中学生を目の当たりにした瞬間に、その感情が芽生えてしまった。何かを嗅ぎつけたのだが、現在の晴海に、具体的な理由を見つけ出すことはできない。
ただ、欲望が要求するままに、残酷な行為を続けているだけなのだ。

「まひるちゃん、起きてる?まひるちゃん!」
 車が止まったとき、少女は軽く意識を失っていた。
「あ、朝ですか・・・・・!?」
「何を寝ぼけているの?ほら、起きなさい!」
 まひるの股間に邪悪な指が侵入していた。
「えぐ?グウ・・・・・」
 意識を取り戻してみて、自分が悪夢の中にいることを知った。あるいは、現実そのものが悪意に満ちていることを知らされた。
「あ、安藤さん・・・・・」
「まだ、寝ぼけているのよ、ついたわよ。テニスコートに、折角、テニスウェアもあるけど中身が見えちゃうし」
「アヒイ・・・・ア・・・・・はあ、はあ!?」
 晴海の掌がまひるの大腿を摑んだ。それだけのことで、少女の性器に負担がかかるのだ。まさに全身性器である。
「このいやらしい足が見えちゃわね、仕方ないわ、今日はジャージで楽しみましょう」
 女性捜査官の美貌が、月夜によく映える。まひるはぞっとなった。だが、安藤たちに感ずる圧倒的な恐怖とそれに基づく拒否とは違う感情を、この年上の女性に感じていた。当然のことながら、姉に対する感情とは完全に異なる。

 かつて、体験したことのない感情に、まひるは戸惑っていた。それをどう受け取って、反応したらいいのか、皆目検討がつかない。
 全身を覆うぬめぬめした化け物は、情け容赦なく美少女を強姦していく。少女は身動きするたびに官能の疼きに耐えねばならない。あたかも、ボンデージ服は固有の意思を持っているかのような動きで、彼女を捕らえて放さない。
 ホテルのような高級感溢れるエントランスを通って、更衣室に入ったはずだが、その記憶はあやふやで頼りない。
いつの間にか、少女の虚ろな目はぼんやりとした光の束を見つけていた。
 テニスコートだ。
 夜の闇に咲く奇妙な都市である。天上まで続く柱とネットは、あたかも、少女を閉じ込める牢獄を構成しているように思えた。
「はあ、はあぁ・・・・・あぁ」
 いつの間にか、硬い地面に手をついていた。
「だ、駄目です・・・・・テ、テニスなんて、ハア、で、できません・・・・ハア」
「何言っているのよ、立ちなさい!」
 棒のようなものが少女の頬に突きささる。言うまでもなく、テニスラケットだ。
 まひるの位置からはちょうど逆光になっていて、晴海は闇の女王のように見えた。
「ハイ・・・・ハア・・ハアぁ」
 力無く答えると、少女は半病人のように立ち上がろうとした。右膝を地面に立てて、ようやく上半身を持ち上げる。
「ウウ・ウ・ウうう?!」
 たったそれだけの衝撃で、いきなり股間に指を突っ込まれたような官能が、少女の下半身を襲う。
 顔を上げると、既に、晴海はテニスコートに立っていた。
 本能的に、そう、かつて、テニスに打ち込んでいた記憶の残り滓が、少女を反対のコートに足を運ばせていた。
小さい頃から叩き込まれてきた教育によって、ほぼ無意識のうちに、まひるはボールを待つ体勢に入っていた。
テニスは大好きだった。小さい頃から、プロテニスプレイヤーになることだけを夢見て、辛い練習にも打ち込んできた。
 それが、彼女がテニスコートに出現することによって、内的にも、外的にも、少女を打ちのめす結果となった。妹が天賦の才脳を開花させるに至って、懸命に努力してきたことで勝ち取ってきた家族の関心は完全に奪われ、孤立した彼女たけがぽつんと取り残された。
 いまの、まひるのように。

 ボールは、情け容赦なく、右、左と放たれる。
 テニスボールがはずむ音は、少女に苦痛な既視感を与える。性器を襲う官能は、少女に、新たな道を示す。それらを同時に与えられた場合、少女の中で一体何が起こるというのだろう。
 過去と現在をつなぐもの。
 まるで、酔っぱらいのように千鳥足でボールを追いながら、あるいは、チョウのようにか弱い身体に凶悪なボールを受けながら、女子中学生は、過去と現在を行ったり来たりしていた。
すると、目の前に立ちはだかるテニスプレイヤーは何者だろう。
 妹か?
 いや、違う。それにしては背が高すぎる。
「ウウ・ウ・ウ・・うう?!」
 思わず、右膝を付いてしまった。
 股間のことはもうわからない。もう自分ではないようだ。得体の知れない宇宙生物に乗っ取られてしまったかのようだ。
「どうしたの?まだ始まったばかりなのよ」
 残酷な言葉が、ボールにもまして怖ろしい速度で飛んでくる。
 このまま得体の知れない化け物に、全身を乗っ取られてしまえばいい。脳にまでその汚らわしい触手が伸びれば、精神まで支配されることは必至だ。そうなれば、もう、まひるは苦しまないだろう。
 何となれば、まひるなどと言う少女はこの世の何処にもいなくなるからである。
 しかし、そうは問屋が卸さない。
 残酷なまでに美しい声が天頂から降ってきた。





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『新釈 氷点2009 12』

 そこはかとない眠気だった。
 しかしながら、よく考えれば、その理由は明かである。昨夜は絶え間のない尿意のためによく眠れなかったのである。それが今になってやってきたのだろう。
 娘の手が止まったのを確認した夏枝が同じことを繰り返した。
「どうしたの?陽子ちゃん、やっぱり、口に合わない?」
「そ、そんなことないですわ、お母さま・・・・・・」
 娘は何事もないように、スープを口に運び、そして、肉にフォークを刺し入れる。
 だが、美味しそうに湯気を立てる料理にはとんでもない秘密が隠されているのだ。料理を作った彼女だけは知っている。かつて、彼女が小学生のころ、生まれて始めて料理を作ってみたときのように、凄まじい味になっているはずだ。
 味というのは割合の問題である。その配合を少し替えただけでも、美味になったり、あるいは人間の食べるものとはおもえないとんでもない味になったりする。

 あの時作った料理、当時、作ったのもビーフストロガノフだった、それが猫もまたいで食べないほどにまずかったのは、彼女が料理に関してあまりに未熟だったからである。何しろ、わずか11歳の少女が洋書の料理教則本を元にフライパンを振るったのである。
 コンクリートブロックを思わせる厚い辞書を参考に、何処からか持ってきたのか、英語の原書を読んでいる、それも台所という場違いな場所で。
 家族は、一体、家のお姫様が何を始めるのか、気が気でなかった。
 英語を読み間違えたのか、そもそも小学生の夏枝に料理の勘が育っていなかったのか、ビーフストロガノフはさんざんな結果に終わった。
 その時と違うのは、夏枝の分だけ、わざと料理に細工したからである。
 だが、すこし問題があることに気づいた。

 辻口家の三女が、もしも、食べなかったら、仮に食べたとしても薬の成分が効能を示すほどまで達しなかったら、 夏枝が望むような結果を得ることは難しいだろう。

―――大丈夫よ、きっと、この子は完食するわ。

 上品に尖った陽子の鼻梁などを眺めているうちに、実感として、それはやってきた。その根拠が何処にあるのか、彼女はそれを十分すぎるほど知っているはずだった。だが、あえて、それを考えないようにした。
 けっして、これ以上深く考えてはならない。今、自分がすべきことはただ一つ。娘の復讐をすること。できれば、込み上げてくる感情をそのまま両手に反映させてもいい。
 妄想の中では、何度も娘の首に手をかけている。
 今、彼女の細い首はあるかないかの喉仏を作動させている。
 料理とはとうてい思えない刺激が彼女の味覚神経を巡っているはずだ。べつに直接手をかけなくても、彼女を苦しめることはできる。それほどの権力と立場を持っているはずだ。なんと言っても、夏枝は陽子の母親なのだ。
 だが ―――。
 全く、表情が曇らないのはどうしたことだろう。むしろ、微笑まで浮かべて、彼女の悪意を迎え入れている。それはどのような罪も喜んで迎え入れるという、言わば、母の慈愛を彷彿とさせて、すこしばかりぞっとなった。あまりに、自分の母親に酷似していたからである。
 表情を変えずにひどい味の料理を次々と口に入れていく姿には、さすがに、彼女を憎んでいるはずの夏枝もはっとさせられた。
 その健気な姿にほろりとさせられたのである。
 自分で行っておきながら、矛盾する思いに辻口家の北の方は唖然とさせられた。目の前の少女を殺したいと思うほどに憎んでいるのではなかったか。愛おしいルリ子を、この娘の父親は無惨にも口の端に上せるのもおぞましい行為の後、絞め殺したのである。その数十倍もの苦しみを与えてくびり殺してやりたい。いや、何度、殺しても彼女の怨みは一ミクロンとは言え、消え去ることはないだろう。
 ならば、生きている限りこの娘に取り憑いて精神的な苦痛を与え続ける。
 そうルリ子に誓ったはずではないか。
 それなのに、今更、同情するとはどういうことだろう。

 一方、当の陽子は白い仮面の下で、叫び出したい気持を必死に押さえながら、口と舌を動かしていた。
味蕾から送られてくる情報は、あたかも、電撃のように少女の神経を刺激し、口の中のものを吐き出したい衝動に駆られる。すこしでも緊張を解いたら、表情を豹変してしまうどころか、今すぐに立ち上がり、目の前の料理をひっくり返してしまうだろう。そして、大声で母親を怒鳴りつけてしまうにちがいない。
 もしも、そんなことをしたら、今まで、13年間生きてきたことはどうなるのだろう。
 それは彼女を構成する土台すべて否定されることに等しい。
 今、辻口陽子という少女を構成する要素は、もはや、意地でしかない。
泣き叫びたい思いをひっしに押し隠しながら微笑の仮面を被り、いかにも美味しい物を食べているのだと、辺りにまき散らす。もっとも、それを見て欲しいのが誰なのか。それは明々白々だったが、何故か、その答えを出すのは憚られた。
 それは絶対に認めたくない。
 陽子の中で、真実を問いながら、けっして、それを明かにしてはいけないという、矛盾する思いが交錯し、この美しい少女を八つ裂きにした。
 それでも、どうにか苦しみに満ちた食事を終えると、陽子は食器を携えて食器を降ろそうとした。
その瞬間、夏枝は陽子の皿に、それこそ真っ白になるくらいに、何も残っていないことを密かに確認すると、人知れずほくそ笑んだ。
 確かに、彼女は完食した。
 だが、それがどんな意味を持つというのだろう。むしろ、それを見越すことができた自分を恥じた。これでは、完全に母親の反応ではないか。まだ、あの子を娘と思っているのだろうか。そんなことはルリ子への裏切り以外の何ものでもない。
 夏枝は唇をナプキンで拭いた。
 その時、現在生きている、唯一の実子の声が聞こえた。

「ママ、陽子、おかしくない?」
「年頃だからじゃないの?」
 もしも、この二人の性格が逆だったら、彼女はこんなことを絶対に訊いてこないだろうと、夏枝は思わずにいられない。
 それにしても、ここまであの子の性格を把握しているとは・・・・・・。
 それはあまりに長いこと一緒にいたせいだと考えた。ルリ子を殺した犯人の娘などと・・・。
 そんな汚い血の持ち主と一夜でさえ、同じ屋根の下にいることは耐えられない。それを企んだのは誰もでない、目の前で無神経にも煙草を吹かすこの家の主である。
 辻口建造。
 夏枝は、しかし、これ以上、彼と同じ部屋にいたくなかった。あと数秒で喚きたい衝動を止められなくなりそうだからである。
「あなた、お皿、下げますよ」
「ああ・・・」
 夫の皿にはレタスとキュウリが数枚ほど残っていた。
 さすがに、薫子にも気持が伝わったようだ。だが、必ずしも彼女が無神経というわけではない。陽子と変わらない感受性を持ち合わせていながら、簡単にはそれを表には出さない。
 あるいは、出さないために最前の手段を講ずる。

 もしも、さきほど陽子と薫子で立場が逆ならば、「ママ、これ味がおかしいよ」とすぐに口に出すことは予期できる。
 あえて、危ない橋を渡らないことで、自分を巧みに隠すのがこの娘の性分なのである。だが、陽子にはそんな器用な手足の持ち合わせはない。
 さきほど、うまく、母親を煙に巻いたように見えたが、仮面の下はバレバレなのである。だからこそ、なおさら小面憎く思われたのだ。

 そのころ、陽子は自室にいた。
 ろくに電気も点けずに闇の中でただ呆然としていたのである。まるで命綱もなしに無重力状態に放り投げられたような気がする。上下左右の違いすら明らかではない。立っているのもやっとのことだ。
 一体、自分に何が起きているのだろう。食事が終わって以来、いや、食卓について、料理を口にした瞬間から、夢 遊病者のような状態に落ち込んでいた。ところが、そんな少女の心に過ぎったのは、ごく、中学生の少女らしい思いだった。

―――数学の宿題、しなきゃ。

 身近な事象に逃げ込むことによって、変わらない日常がいまも続いていると、自分に言い聞かせたのかもしれない。
 だが、それも長く続かなかった。猛烈な眠気に襲われたのである。行き先を机からベッドに変更せざるをえなくなった。
 少女は寝間着に着替えることすら忘れて、寝具の中に沈むことを望んだ。
―――――。
 彼女を眠りという冥界から叩き起こしたのは信じられない事実だった。
 下半身は温かい、そして、冷たい。
 矛盾する感覚が同時にやってくる不可解さと気持ち悪さに思わず飛び起きた。
 その時に、彼女は、しかし、自分に起こったことを自覚していたのである。
 おもらし。
 それは少女が10年も前に卒業したはずの出来事だった。母親の勝ち誇った顔が見えるような気がする。しかし、 次の瞬間、その映像は雲散霧消し、いつもの慈愛に満ちた母親が彼女を目で抱いてくれた。
だが、下半身から登ってくるおぞましい感覚と臭いに吐き気を覚えた。

―――身動きできない。

「・・・・・・・・・・・・・」
 それは決して起こってはならないことだった。何とかしなければならない。誰にも知られずに処理しなければ・・・・・・・。
 まるで、一時の感情から恋人でも殺してしまった犯人のように、沸き起こってくる感情のために身体が完全に凍りついてしまった。
 だが、理性は働いている。
 現在、彼女に起こっていることが荒唐無稽な洞話のようにありえない出来事であり、ぜったいに現実とは認めたくないことなのだ。もしも、認めたら、下半身を切断されてしまう。そんな恐怖が尿道から入り込み、脊髄を通って全身に蔓延るような気がした。
「ママ、陽子まだ起きてこないの」
「おかしいわね、具合が悪いのかしら・・・」
 何と、姉と母の声が部屋の外から響いてくる。それは死刑執行人の足音だ。いったい、どうしたらいいのだろう。 あの窓から飛び出て永遠にこの家に戻らない旅に出ようか。そんな非現実的な思考の海に泳いでいた。
 だが、彼女の家族はそんな非現実的な海への逃亡を許しはしなかった。
 母親の幾何学的な声が聞こえた。

「開けるわよ、夏枝」

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『由加里 87』

 溢れようとする涙を必死に堰き止めようとしている姿は、さすがに、ゆららの感情の何処かを刺激する何かしらのものがあった。
 しかしながら、一方で、沸き起こってくる感情を、彼女も懸命に堰き止めていたことも事実である。ここで、一時の感情に流されてはいけない。心を鬼にしなければと、ゆららは奥歯を密かに噛みしめていた。

「そうね、わかっているわよ、由加里ちゃん・・・・」
「ウウ・・ウウ・ウ・・ウウ!?」
 ゆららのその一言を聞いたとたんに、高いダムは大自然の驚異の力によって、いとも簡単に崩れた。そして、白魚のような手が少女の元に忍び寄ってきたのだ。その瞬間、彼女の背中に無数のウジ虫が登ってきた。
押さえきれないおぞましさを堪えながらも、ゆららは、しかし、現在、彼女に科せられている任務が女優であることを忘れなかった。

「由加里ちゃん・・・・・」
「ウ・・ウ・・ウ、ゆららちゃん、お願い・・・・・・」
 瀕死の病人のように、由加里の握力は完全に計量以前の段階までに後退していた。
 ゆららは簡単に理解していた。
 被虐の美少女が一体、何を言わんとしているかが手に取るようにわかるのだ。いや、長い経験から、それがいやでもわかってしまうのだ。

「わかっているわよ、由加里ちゃん」
「・・・・・!?」
 吐息が顔にかかるくらいに近づいた。すると、彼女が怯えていることがわかる。捨てられた猫のように、まだ、ゆららを警戒しているのだ。それを、非常に上から目線だが、とても可愛らしく感じたのである。
 だから、彼女自身、気づいていなかったが、愛玩動物に対する憐憫の情を由加里に指し示した。知的な美少女はそれを無条件に受け止めた。無意識の何処かにおいては、それを見抜いていたのかもしれないが、何日も水も食糧もなしで炎天下の砂漠を歩き続けた旅人が、水が入っている水筒を発見した場合、まず、何も考えずに水を飲み干すにちがいない。
 それに毒が混入しているなどと、疑いもしないだろう。
 今の由加里は今こそ、そう言った心持ちになったのである。
 
 鈴木ゆららという人間の中に、どんな毒が混入しているのか。例えば、照美やはるかなど、あるいは、貴子や高田などという得体の知れない、体をあきらかにこわすものが隠されているのかわからない。
 その可愛らしい笑顔に裏など会って欲しくないと希がった。
 人間というものは、得てして、自分の主観を外に照射するものである。そうなるはずがないのに、自分の都合のいいように世界を見てしまう。得てして、追いつめられている人間ほどその傾向が強い。
 だが、さすがに由加里は聡明だった。
「ご、ごめんね・・・・・ゆ、ゆららちゃん・・・・・・私ったら・・・・」
 はにかむように両手を引っ込めた。
 だが、ゆららは意を決したように、傷だらけの草食獣を追いかけた。
「いいのよ・・・・由加里ちゃん」
 その傷を庇うように由加里の背中に覆い被さった。まるで、テレビゲームのように、こう操作すればこうなると簡単にわかる。由加里はまるでこの世の終わりが急に訪れたように泣きじゃくり始めた。
 かつて、彼女にやって欲しかったことをやっていた。そうすることで実は復讐を行っているのではないか。ゆららは意識の底辺に過ぎった思いを必死に打ち消した。だが、そうしようとすればそうするほど、無尽蔵の泉よろしく、地中から幾らでも浮かんでくるのだった。

「あれ、車イスがあるんだ・・・・・・」
 ふと、自分のいやな考えから意識を逸らそうとした少女は、部屋の隅に鎮座しているものを見つけた。
「あ、家族とか、看護婦さんが散歩に連れて行ってくれるの」
「じゃ、行こうよ。晴れているし・・・」
「いいの? ゆららちゃん、連れて行ってくれるの?」
 由加里は、鈴木ゆららという少女を通して、いじめっ子たちの魔術に取り込まれようとしていた。
 暗闇ばかりの人生に突き落とされて、永いこと地獄の日々を過ごしてきた。だが、ようやく薄日がさしてきた ――――。
 かつて、トワイライトゾーンという魔術世界を描いた映画があった。薄日を英語でトワイライトと言うのだが、人はそのような時間にまやかしの世界へと誘われてしまうのだろうか。
 完全に由加里はその世界へと足を踏み入れている。 
 
 鈴木ゆららによって、車イスに乗せられて一見甘美な雲の絨毯へと誘われていく。しかしながら、人間が雲に乗ることができないことは自明の理である。さいきんでは、小学一年生でもそんなことは理解の射程内である。
それを人一倍知的な由加里が心得ていなかった。
 初夏の太陽はトワイライトと表現するには、あまりに笑止である。まばゆい光と緑が知的な美少女の視力を奪う。
「あつい・・・・・・・もう、夏だね」
「うん・・・・・」
 いつの間にか元気を取り戻していた由加里に、ゆららは真水の憎しみを憶えていた。

――――やはり、自分は彼女を恨んでいるんだ。だから、どんなひどいことをしてもいいんだわ。

 一見、小学生と見間違われがちな、とても小柄な少女はここでもう一度初志を思い出していた。
 ここにはいない誰かに向かって胸を張って宣言するのだった、雲の上であぐらを掻いていた由加里を奈落の底に叩きのめしてやるのだと。
 もはや、照美やはるかと言う具体的な像は、少女の網膜に像を構成しない。自分のうちに芽生えた何かしらの目的のためにそれを行っているのだ。
 由加里を籠絡して、学校に来させること。
 彼女にとって、戦場、いや、地獄とでもいうべき教室に放り出すためにならば、どんなことでもできる。ここで、友人と偽って彼女の心を絆させるためならば、どんなひどいことでもできるだろう。
 ゆららは車イスの上にちょこんと座っている由加里を見下ろした。始めて見掛けた時は、どれほど大きく思えたことか。あの時は、完全に胸を張っていた。華奢な身体ながら、沢山の友人と信望者に囲まれて輝いていた。
 永年、戦場を駆けめぐって、由加里は心身ともに疲れ果てた傷病兵でしかなかった。そんな彼女をもう一度、傷も癒されていないのに、戦場へと帰還させよというのだ。それも味方がひとりもいない劣悪な環境へと叩き込むのである。
 車イスは見掛けよりも動きが軽い。
 それは知的な美少女が軽いのか、それとも、車イスというハードがゆららの想定よりも技術革新が進んでいるのか、即座には判断できなかった。
 ゆららは自分の薄暗い企てのために、由加里に話しかける。
「由加里ちゃん、どう、辛くない?」
「大丈夫だよ、それにしてもいい天気ね」
 しかし、会話は長く続かない。ここで思い切って、話を切り出すことにした。
「もう、中間テストが近いよ・・・・・」
「うん・・・・・」
 由加里は黙り込んでしまった。視線が虚ろになった。話の持っていき方が悪かったであろうか。彼女にとって学校に付随するあらゆることは、タブーなのだろうか。
 いや、そうではあるまい。何しろ、彼女が入院していらい、ずっと受業のノートを提供してきたのである。その間、ゆららは由加里に勉強の仕方を教えてもらうことすらあった。それは、照美やはるかが企む目的への一貫だと、自分に言い聞かせて、彼女の友人を演じてきた。
 ゆららはさらに畳み掛けることにした。
「由加里ちゃん、学校に来ようよ。みんな待っているよ」
「うん・・・手紙、読んでいるだけどね・・・」
「・・・・・・」
 由加里の両目から涙が零れていた。それは彼女の目がガラス玉ではない証拠だった。
「・・・・信じられないの」
 そう言うと、小さな顔を両手で埋めて泣き声を発しはじめた。
 何て言うことだろう。たが、数ヶ月ほどいじめられただけで、このザマはどうしたことだろうか。
 ゆららは学校という概念を体感していらい、ずっと、いじめられてきたのだ。そうでなくても、軽視されてきたことは事実である。改めて、怒りが沸き起こってくるのを感じた。
 血液が沸騰して皮膚の下から噴き出てくるような気がする。
 だが、それをストレートに感情に反映させるわけにはいかない。彼女にわからないように、悪意を言葉に含ませるべきだ。それには慎重の上に慎重が要求される。
「由加里ちゃん、あれほどヒドイ目にあったんだから、仕方ないと思うけど・・・・」
「ゆららちゃんの言うこと、わかるのよ、わかるんだけど・・・・・・」
 ここで、ゆららは心にもないことを言うことにした。
「絶対に、私が護るから、何があってもね、ううん、護れなくても、一緒にいじめられるから・・・・・」
 いじめられてあげると表現しなかったことに、ゆららが冷遇されてきたことの証左になるだろうが、それは由加里の洞察力の及ぶところではない。もしも、この時、それを見ぬいた上に、態度に表すことができたならば、完全に、ゆららの友情を得ることができたであろうか。

 いや、それは難しいだろう。照美と由加里の間に挟まれて、引き裂かれてしまうにちがいないのだ。
 由加里は、ゆららが思ってもいないことを言った。
「それはないと思うな、高田さんや金江さんたちはともかく、照美さんやはるかさんは私以外をいじめたりしないわ・・・・・」
 まるで、自分に言い聞かせるような口調だった。
 彼女が照美の本質を理解していることに驚いた。やっぱり、この人は頭がいいんだと、実感させられる。
「私ねえ・・・・・・」
 由加里は思い詰めるあまり、言葉を詰まらせた。
 だが、思い切って舌を動作させる。そうできなくても、そうしようと努力しているのが見て取れる。
「由加里ちゃん・・・」
 おもむろに、彼女の冷え切った手がゆららの手に重ねられた。
「ねえ、触れていていい?」
 ゆららを見上げる黒目がちな瞳は過剰なまでに涙が溜まっていた。
「いいわよ・・・・・・」
 もしも目の前に崖があったら、無条件に飛び込んでしまうのではないかと思われた。何か声をかけなければならない、そう思ったが何を言って良いのかわからない。そんなところが、非情な女優になりきれないゆららの本質を表しているのであろう。
 由加里に言葉を求めるのは、からからした不毛の砂漠に水をもとめるようなものだった。だが、少女は何とか口を開いた。
「ゆららちゃん、どうして・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 ゆららはこの時、女優であることを忘れていたかもしれない。由加里の言葉をただひたすら待った。
「どうして、みんな、照美さんたちに同調したのかな?・・・・・・私、それがわからなくって、そんなに、私はイヤな人間なのかな?」 
 知的な美少女はゆららの手を握ったまま、泣きじゃくり始めた。






テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『おしっこ少女 7』

 釈放、いや、仮釈放される。
 佐竹まひるは、まぶしい光に目を細めながら思った。どうして、「仮」がつかなくてはならないのか。
 それは、自分が置かれている、なおも過酷な状況が彼女にそう思わせている。それは、言わば諦めの心境なのだろう。
 管の類はすべて放擲され、忌まわしい仮面から少女は完全に解放された。しかし、全身をなおも、黒曜石のゴムが覆っている、戒めている、縛っている。少しでも腕や足を曲げようものならば、鉄の重しを持たされているように激しい抵抗が発生する。指の先から足先まで緊縛されている状態となんら変わらないのである。
 ぬめぬめとした半ゲル状の物質から成る生地は、全身の窪みという窪みに情け容赦なく侵入してくる。それは性器や肛門と言った場所でさえ例外ではない。汗と粘液に汚れた生地は、少しでも彼女が動くとコバンザメのように何処までもついてくる。
「ぁあぁああ・・・・・ァァァ」
 思わず飛び出た声は言語を構成できなかった。
「そんなに気持ちいいのかしら?」
「・・・・・アア・ア・・ア・・・アアア、ああ!?」
 目の前に美貌があった。
 辺りを見回してみると、ここが寝室であることがわかった。彼女が寝かされているベッドは地平線まで続いているのではないかと錯覚するくらいに広い。
「起きあがってみようか」
「え? ぁあぁああ?!」
 それだけのことで、性器に激しい刺激が加えられる。

「ふふ、これにも慣れてもらわないとねえ」
 予想だにしない残酷な言葉が振ってくる。しかし、そんな少女を驚かせたのは、目の前に大型の鏡台が設置されていることだった。
 ぐじゅぐじゅという気色悪い音とともに少女の華奢な体躯が起こされると、鏡には自分の姿が映し出されていた。 肌に黒い塗料が塗られているように見える。それほどまでにおぞましい衣装は少女に密着し、その身体に同化しつつある。
 それは人間と衣装の主従関係を完全に逆転させていることを意味する。まひるが何とも形容しがたい衣服に奴隷にされ食いつくされようとしているのである。被虐の少女はそれにせめても抵抗をしようとひたすら足掻いている。

 もっとも、驚いたのは乳首と性器である。芽乳房としか表現しようがないほど未熟なイチモツながら、両側の胸に立派に鎮座ましまして、互いの45度の角度でロンパリを見ている。その姿が顕わに生地の上に出ているのである。 微妙な凹凸をリアルに表現されている姿を見るにつけ全裸よりも全裸という表現がまことに似つかわしい。
 それよりも、少女を行動に移させたことがある。
「ぁ?!」
 思わず可愛らしいヨダレを垂らしながら、股間を両手で覆おうとした。
 しかし ―――――。
「ぁ、アアアグウウ・・・ぁ、ハア、ハア、ハア」
 言うまでもなく、全身をくまなく覆った生地はある一点の動きを即座に全身に送る。
 簡単な物理の法則である。
 その動きによって、余計な刺激が少女の局所に加わった。それでも、最初の目的を完遂させないわけにはいかない。
「ァアァァ、お、お願いですから、み、見ないでください! イヤヤヤッヤヤッヤ・・・・あああ!?」

 目を瞑っても、黒光りする性器の映像が消えない。襞の細部までがリアルに再現されていた。少女の幼い性器は、 無惨にも押し広げられ生地の圧力によって歪んでいた。内部がどうなっているのか、誰でもない、まひる自身が熟知しているはずだ。
「あら、あら、どうして隠すの? まひるちゃんの一番大切なところでしょう?」
「だって、だって・・・・ウウ・ウ・ウ・・ウ・ウ!?」
 寝具を経由して少女の背後に回ると、自分の膝に彼女の尻をすとんと乗せた。
「ァアァググウ・・・・あアアウウ・・ウ!?」
 そんな些細な動きでも、現在の少女には数トンの威力と変わらないように感じる。
「ほら、足を広げてごらん、面白いものが見られるわよ」
「グググウグググ・・・・ウン」
 100メートルダッシュを連続で数回やるような気持で、両足を動かす。だが、晴海を満足させるのには、まだ数キロの距離がありそうだ。
「こ、これ、これ以上は・・・ハア・ア・ア・ア・アああ、む、無理です、ゆ、許してクダサイ・・・・うう」
 赤ん坊のように涎を流して喘ぐまひる。その様子にかつての誇り高い少女の姿は微塵も感じられない。

 だが、その姿に微塵でもその痕跡を探そうとして、晴海は情け容赦ない鞭を振り下ろした。
「開くのよ!」
「ぐぐあうあ!」
 一瞬だけ、小熊を殺された母熊のような声を出した。完全に被虐の少女の視界をホワイトアウトが襲った。まさに地平線まで続く大地が雪原で覆われたのである。いや、天と地の区別すらつかない、そして太陽が何処にあるのかも判然としない、不毛の大地にただひとり立たされたのである。
 唯一、彼女に残された命綱は女性捜査官の残酷な長い指爪だけである。
 その指で、少女の股間が蹂躙される。
「ひ、ひひ、さ、触らないで・・・・ああっっ!!」
「ほら、見てご覧なさいよ、まひるちゃんのいやらしいおまんこが丸見えよ、ほら、こんな細かい襞まではっきりと見えるでしょう?!」
「ウウ・ウ・・ウ・ウ!?」
 無理矢理に、顔をこねくり回され、閉じようとする目を開けさせられる。
「ぅあ、ぅあ・・・・ああ・・・あ」
 まひるの眼前には、漆黒に塗られた性器が、身体が、妊娠中毒になった雌蛇のようにのたくり回っていた。
 
 しかし、それは他ならぬ彼女じしんだと言うしかない。他ならぬ佐竹まひる以外の何者でもないのである。
「見てごらん、こんなにはっきりとまひるちゃんご自慢の場所が見えるわよ」
「そ、そんな・・・あうあう・・・そ、そんなにしちゃ・・あぁぁぁっぁあぁ!?」
 辛辣な指が少女の局所にめり込んでいく。
「本当に、好都合な衣服よね。まひるちゃんの汚らしいココも、素手にいじめることができるわ」
「っそ、そんな・・・・・・・あ・あ・あ・あ・・っ?!」
 予想だにしなかった言葉が信頼しつつあった相手から発せられる。しかしながら、その一方、その言葉の一部が温かく自分に染み込んでくることを否定できずにいた。
「いじめ」
 安藤ばななたちにされていることを、決して、その一言に収斂させたくなかった。もしもそんなことになったら、 辛うじて保っているプライドが一瞬にして崩れてしまうように思えた。
 その瞬間、何故か、ばななのイヤラシイ声がまひるの耳に響いた。
「いや!ぁぁあぁああぁ・・・・あああぁぁああ!?」
 思わず腰をひねった瞬間に、性器の中に生地と晴海の指がまともに食い込んだのである。
「あら、自分から望むなんて、本当にイヤラシイ子になったわね、いや、もともと、変態だったのかしら?」
「ち、ちがいます!ッウウ・ウ・・ウ・ウ・・・・・うう、はあ、は、お、お願いですから、もう許してください・・・」
 
 晴海は、目敏く自分の奴隷が何をしようとしているのか、完全に見抜いていた。
「誰が脱いでいいって言ったのかしら?」
「・・・・・・・・」
 ただ、激しく首を振ってイヤイヤをする。
 それは完全な否定なのか、その逆なのか晴海は判断する前に欲望に従うことにした。
「答えなさい、誰が脱いでいいって言ったの?」
「だ、誰も申してません・・・・」
 古びた機械仕掛けの人形のように、少女は口をただ動かした。その中でどのような歯車と歯車が作用しあって、ひとつの動きを産み出しているというのか。
「そうねえ、なら、どうして脱ごうとしたのかしら? もっとも、永遠に自分の力じゃ脱ぐのは不可能なんだけど」
「え?」
 阿呆のように口を開けたままの美少女に、晴海は宣告するように言った。
「空気を抜いて圧縮しているってことは相当の圧力がかかっているのよ、それを打ち消すためには空気を入れないとだめなの、私の許可なしには永遠にその中にいてもらうことになるわ」
「そ、っそんな・・・・・」
「だけど、もう、そんなことはどうでもよくなったの。いいわ、脱がしてあげるわ」
「え?」
 思いもよらず冷たい言葉に唖然となるまひる。
「ほら、来なさい、空気を入れてあげる」
「ひう!?ぃ、痛い!!ぁ」
 長い髪を乱暴に摑まれ、引っ張られながらも、さすがは鋭敏な少女ではある。主人の意思をほぼ正確に見抜いていた。次に言われる言葉まで予知していたのである。
「ぁぁああ。そ、そんなの、いやです!! お、お願いですから、まひるを見捨てないで、見捨てないでください!!」
 その言葉に晴海はその美しい肢体に優雅な曲線を描かせて止まった。
「じゃあ、永遠にそのままでいいの?」
「ウ・ウ・ウウウ、ご命令があるまでは ――」
 晴海は、満足そうにほくそ笑むと少女の頭を踏みつけながら訊く。
「私の言いたいことがわかってのね、可愛らしい子猫だわ」
「・・・・・・・・・・・・・」

「じゃあ、私の言うことならなんでも従うのね」
 女主人は奴隷の意思など忖度しない。
「なら、着替えてもらうわ、私と一緒にしてもらうことがあるの、早く、制服に着替えるのよ、その恥ずかしい身体を覆い隠すの」
 制服が何処からか飛んできた。汚れた制服。度重なる安藤ばななたちのいじめによって汚され、本来、彼女が信頼するべき旧友たちから浴びせかけられた罵声によって汚された、哀しみの汗と涙が沢山含んだ制服である。
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・・・・ウウ・・・・うう!?」
 ただ、大粒の涙が両の目からこぼれ落ちるだけである。
 だが、哀れな奴隷に非暴力、不服従の権利などあるはずがない。
「さっさと着なさい!」
「ハイ・・・・ウ・ウウ・・・ッッっっああああ」
 まるで全身に釘が打たれているかのような仕草だった。ただし、少しでも動くと全身に響くのは激痛ではなくて、官能だった。もっとも、その意味をまだほとんど理解できていないレベルにすぎなかった。
 だが、性の意味について、女性に生まれてきたことの意味について、無意識のうちに何事かを摑んでいることは確かだった。
 それを見切った女性捜査官は、飢饉で我が手を喰う封建時代の絵のような、自分の奴隷に、にべもなく言いはなった。
「これから、テニスをしましょう。夜でもできるコートがあるの。あなたの妹さんがプロを目指しているんでしょう?義姉さんが言っていたわ」
 それは、安藤ばななの脅迫にも符合することだった。


 


テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『新釈 氷点2009 11』

 辻口陽子が帰宅したのは昼食を母親と取った後だった。本来ならば、仲のいい母娘がどういう理由からか始終無言を通していた。そのレストランは辻口家に馴染みの店だったために、普段と違う二人の様子を目の当たりにして店主は不思議に眺めたものである。
 二人の頭の中はまったく違う考えが支配していた。母親は娘に対する憎しみと愛に引き裂かれ、娘は、かつて、経験したことのない羞恥心に身を焼かれて、まさに自愛の最中だったのである。
 だから、二人は同じレストランにいようとも、アフリカとアラスカに別れているのも同様だった。

 だが、辻口家の三女は帰宅して、室内用のスリッパに右足を挿入したとたんに、母親に対して自己主張するという、彼女の性向からすれば実に革命的な出来事を起こした。
 母親の背中に向けて言葉の矢を放ったのである。それはひとつの壁に見えた。しかも、シベリアにあるという強制収容所の壁のようにも見えた。しかし、思い切って声を張り上げた。なけなしの勇気を絞り出したのである。

「お、お母さま、もう、あの先生はイヤです!」
「・・・・・・・・・・・」
 長崎城主婦人は静かにふり返った。しかしながら、陽子にとってみれば完全武装の軍人よりも威厳と迫力を感じることができた。
「何ですって?」
「お、お母さま・・・・・」
 夏枝は一冊本を大事そうにでもなく両手で抱えている。何気なく見えたその題名と著者の氏名が、陽子に恐怖を植え付けた。
『夜尿症と精神療法』小松崎郁子著。
 
 その中でも精神の2文字が、辻口家の三女の心に言いしれぬ恐怖を含んだ闇をしのばせる。精神病院を連想させる。それは少女にとって刑務所と同義である。それに係わる人間に係わることすら、高圧電流を直接心臓に当てられるような痛みを感じる。
「お、お母さま・・・・」
 いつしか、少女は涙ぐんでいた。哀願という言葉がまさに相応しい。しかし、母親はにべもなく、言い渡した。
「いいえ、だめよ、先輩が何よりも的確だと思うわ」
「だけど、私はお漏らしをしたわけじゃ・・・ヒ!?」
 ようやく芽吹いたばかりの反抗心は、母親の美しすぎる手によって阻まれた。陽子のかたちのいい頬に張り手が炸裂したのである。
「ウウ・・・・・・・ウウ・ウ・ウ?!」
 優しい、いや、あんなに優しかったはずの母親の急激な変容に、陽子は自分の体液がすべて急速冷凍されてしまった。
「お、お母さま・・・・」
「わかったわね?」
「・・・・・・」
「返事は!?」
「ハイ・・・・」
 それらのやり取りがあって、陽子はようやく首を縦に振った。もしも、このまま拒否しつづけたら、もう二度と母親から笑いかけてもらえないと思ったのである。しかし、もう陽子の方に一度も振り向くことなく自室に戻っていった。
 辻口家の三女は、その背中に声をかけることすらできずに佇むだけだった。泣いたらいいのか、笑ったらいいのか、大変判断に苦労する。いや、感情という土台そのものが崩れ去っていくような気がした。
 そんな時に、彼女の肩を叩いたものがいた。
 ちょうど、学校から帰宅した薫子である。

「きゃ・・・・」
「どうしたの? まるで痴漢にあった女の子みたいな顔をして ―――」

――――私は女の子ですわ。

 辻口家の次女は、そのよう返ってくることを期待した。
そうしたら、こう答えてやるつもりなのだ。

――――まあ、姉を痴漢呼ばわりするなんて、なんて非道い妹かしら?

 しかし、薫子が見たものは、ポロポロと涙を流す妹だった。可愛らしい妹の変容に驚いた姉はその理由を問わずにはいられない。
「一体、何があったの?」
「・・・・・・・・・・ウウ」
「陽子?」
「・・うう・・うお、お姉様・・・ウウ」
 30秒ほどして得られたのは、妹の自分を呼ぶ声だけだった。
「とにかく、部屋に入りなさい」
「だ、大丈夫だから・・」
「陽子!」
 妹の二の腕を捉えた瞬間、理由を質されると予感したのか、彼女は涙を拭って自室に逃げ込んでしまった。この時、妹が自分に対していつものように敬語を使わなかったことに、ついに気づかなかった。だが、妹の変化を無意識のうちに受け取っていたことは事実である。それを感情に表すのに、方頬の筋肉を微かに動かすことしかしなかった。

―――たしか、ママと病院に行ったはず。

 薫子は母親を捜しに家の奥へと足を速めた。
はたして、母親は広いリビングにいた。
 彼女が尊敬して止まない母親は、優雅な仕草でハードカバーの本を操りながら、ソファに身体をうずめていた。
「探したのよ、ママ」
「薫子・・・・」
 辻口家の長女は驚いた。いつの間にか10才も老け込んでしまったかのように思えたからだ。一体、病院で何があったのというだろう。
「陽子に何があったのよ」
だが、口を開くといつもの美しい母に戻っていた。だが、安心する暇もなく彼女の口から予想だにしない言葉が飛び出てきた。
「薫子、ねえ、あなたは私の娘よね」
「何を当たり前のことを言っているのよ!」
しっかりしてよ!という気持で言ってみた。
「ねえ、見て・・・・」
 そう言って震える手で一枚の写真を指しだしてきた。なんと、あの母親の目には涙までが滲んでいるではないか。
 その震える手が示した写真は、薫子の目にはもはや過去そのものでしかなかった。

「ルリ子・・・・」
「そうよ、この子も私の娘よ・・・・・」
「ママ!?」
「薫子、どうして、そんな目でママを見るの?」
 いつの間にか、顔を奇妙なかたちに歪めていたようだ。母親の前では感情のコントロールがいまくいかなくなって当然だろう。
 常に自制をモットーにしている彼女が立てこもる城の一角が崩れた。
 夏枝は矛先を替えようとしているようだ。
「薫子、あなたは私によく似てる。確かに、私の娘だわ!」
「マ、ママ、止めて・・・・・・」
 夏枝はその上品な手の中に娘の顔を収めると、自分の眼前に近づけた。母親特有の香水の匂いが嗅覚神経を刺激する。においというものは、五感の中でもごく原始的な部類に属する。それは自ずと幼い記憶を想起させる。
その香水は、長女が産まれる前から使っていたものである。だから、イコール母親という図式が彼女の中に生まれていた。
 間近にある母の薫りは、かつて、彼女が可愛がっていたルリ子のことを否応なしに想い出させる。だが、彼女のイメージが完成する前に、自らそれを断ち切ることにした。
「ママ、陽子もママの娘でしょう!?」
「・・・・・・・・」

 夏枝は、鼻を摘まれたような顔をした。心なしかロンパリになった目は、無機質な光を放ち、その美しい顔をひとつの彫像に仕立てている。
「ママ?」
「・・・そうね」
 ただそう一言零しただけで娘から両手を話すと、すくっと立ち上がった。
「ママ・・・・・・・・・」
 まるで夢遊病者のように夏枝は立ち上がると、彼女が唯一の生きている娘だと認める薫子に背中を向けた。そして、キッチンへと消えていった。
 娘は声を再びかけたいと思ったが、処刑場に追い立てられる魔女のように肩を落として歩くその姿に、辻口家の長女はとてもそんな気にならなかった。
ふと彼女の目に入ってきた四角い箱がある。
それは、一冊の本だった。
『夜尿症と精神療法』小松崎郁子著。
「これは?」
 美少女はレンガと間違えそうな本を抱えると、ページを捲り始めた。

 一方、長崎城主婦人は、片隅にある買い物籠をひたすら睨んでいた。その籠に肉や野菜等々が盛られるのはその約一時間後のことである。それは家族の幸せを暗示しているはずだった。籠から飛び出たネギは、ランドセルから飛び出たリコーターに煮て、幸福の歌を歌うはずだった。
 その日も、あくまで表向きは、幸福な晩ご飯が始まっていた。
 その中心に辻口建造がドカっと座っている。本人はその気はないのだが、自然にそうなる。元来、建造は両家の坊ちゃんらしく鷹揚に育ったためか、一家の主人として威勢を貼ることを好かなかったが、妻である夏枝によって本人の知らないうちに、そのように仕立てられていった。言わば、洗脳ということができるだろう。
 高級な木材として有名すぎるくらいに名を馳せる、マホガニーの楕円形のテーブルの上に、美味しそうな湯気が立った料理がのっていく。設置された席は四つ。それは辻口家の不動のメンバーのはずである。
だが、まだそれが揃っていない。

「陽子はどうしたのかしら?」
「気分が悪くて寝ちゃったらしいよ」
 薫子の言葉が終わる前に、辻口家の末っ子が顔を出した。
 先ほどと打って変わって可愛らしい、元の彼女に戻っている。
 長崎城主は、外見には聖母マリアの仮面を被って、その実、心に鬼火を灯した。

―――なんて、憎らしい、図太い子かしら? もう、元に戻っちゃって!!

 だが、母親の観測はあくまでも表向きにすぎない、大変浅い洞察に留まっていた。
 表面上はいつもと変わらない可愛らしい笑顔を保ちながら、その実、5才の幼児の泣きじゃくった顔を隠匿していたのである。
 こうして、互いに仮面を被った母、娘の食事が始まった。
 今夜の主菜はビーフストロガノフ。
 白いパスタと焦げ茶色の牛肉のコントラストが食べる人の食欲をそそる。
「まあ、お母さま、美味しそう!」
 つい、この前ならば、母親を心から喜ばせそうな笑顔をばらまくと、両手を可愛らしい仕草で合わせた。
「さあ、いただきましょうよ」
 まず最初に建造が、試食のように口に料理を入れる。その結果、生まれる表情の変化は、今更だが、夏枝の料理の腕を証明するものである。
 それに気をよくしたわけではないが、二人の姉妹も同じ行動を取る。だが、その内面構造はまったく違っていた。
 ちなみ、三女がスプーンを料理に挿入し、かつ、自分の口腔に送る作業をまるでストップモーションのように、夏

 夏枝は目を皿にして事態を見つめていた。それに三女は気づかなかった。いや、気づく余裕はなかった。
「・・・・・・・・・!?」
 細心の注意を払って、陽子は自分の本心が外に漏れるのを防ごうとした。しかし、それは完全に行うことは不可能だったようである。
 それもそのはず、その理由を彼女は知っているのだから。
 夏枝。
 彼女が自らの意思によって、それを行ったのである。

 スプーンを口に入れたとたん、食べ物とは思えない味が口の中に広がった。予想だにしない塩味とこしょう、その他、聞いたこともない香料が一斉攻撃を仕掛けてきたために、少女の味覚神経を異常に刺激した。

――― 一体、何が起こったというのだろう。

 混乱は混乱を呼び、あくまで一瞬だけだが、少女は、自分がどのような名前で、自分が何処にいるのかという根本的な認識すら奪われてしまった。
 陽子の中で何が起こっているのか、熟知している夏枝はいとも簡単にこう言ってのけた。
「どうしたの? 陽子、美味しくない?」
「そ、そんなことないですよ、お母さま、とっても美味しい」
 夏枝の予想に反して、この娘は満面の笑みを浮かべて、母親に報いた。
 しかし、じっさいは、心が破裂しそうな思いを味わっていたのである。できることならば、恥も外聞もなく、母親にしがみついて抗議したかった。だが、そうしてしまったら、この事実を認めることになる。自分の料理の味がおかしいこと、そして、それが故意に行われたこと。

―――これは事故なのよ!きっと!!

 陽子はこう確信した。そうでなければ、今まで築いてきたものが一瞬で崩れてしまうように思えた。彼女にとって敬愛してやまない母親は、精神構造の柱のひとつを為すものだった。いや、大黒柱そのものだったのである。

―――これは何かの事故!きっと、そう!!変わらずに自分を愛してくれている! 絶対に!!

 辻口家の三女は、ひたすらにそれを祈らざるを得なかった。口腔内が腐ってしまいそうな苦痛と惨めさに堪え忍びながら・・・・・・。
 だが、同時に異様な感覚が脊髄に走るのを感じていた。

 それは ―――――。



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『由加里 86』

 ゆららは、思いだしたようにある名前を出した。
「そうだ、工藤さんとは?」
「ああ、工藤さんは、なかなか、私たちと関わり合いたくないようでね」
「いや、あの子は由加里と関わり合いたくないらしい」

――――お前と違う意味で、あいつを憎んでいるのかもね。

 それをあえて言葉にしなかったはるかは、思案下にガラス張りの壁ごしに空を見た。その時、太陽を横切った鶴のような鳥。その長い足は彼女に何を問いかけているのだろう。  
 あるいは、それをどう受け取ったのか、今のところ、その疑問に答える用意はないようだ。

「小学校のころは、一番の親友だったらしいじゃない」
「去年も相当仲良く見えた」
 ゆららが口を挟んだ。
「じゃあ、同じクラスだったの?」
 「うん ―――」
 小さく肯いたゆららを見ていて、照美とはるかは、やはり、工藤香奈見の登板が必要だと再確認した。

 かつて開催された由加里裁判は、クラスにおける彼女の立ち位置を決定したが、その裁判において裁判長を務めたのを最後に、由加里いじめに積極的に参加しなくなった。そうは言っても、裏でかつての親友をサポートしているという情報もない。

「口ではもう係わるつもりはないとか言っておきながら、プライベートでは密かにサポートしているのかも」
「照美、それはないな」
「何でわかるのよ」
「いや、なんとなく。そうだ、ゆららちゃん、工藤さんに探りを入れてみてよ」
 ふたたび、哲学者の顔に戻った親友に、照美は、不埒なものを感じた。
「ちょっと、何を考えているのよ。それで彼女とあいつが裏で係わっていたら、どうするつもり?!」
「照美・・・・・・・・・・・」
 はるかは言葉を失った。あまりにも親友の顔が美しかったからだ。いや、それは顔かたちのことを言っているわけではない。それは地球が丸いことよりも自明の事実だからである。
まっすぐな目ははるかを射るように見据えている。

――――人の弱みを握って、その人を脅迫するなんて人間として最低だと思う!

 無言のうちに、親友はそう言っている。
 以心伝心。
 ふたりの間には見えない絆が、一本の線ではなく、それこそ網の目のように結ばれているのだ。
「何よ!?」
 かつて、照美も、自分もこんな目をしていたのではなかったか。西宮由加里という人物に出会う前は人一倍優れてはいたが、その実相は何処でもいるごく普通の中学生だった。
 照美とはるか。
 たまにはぶつかることもあったが、互いを磨きあって、育ってきたふたりである。その姉妹以上の絆は、今となっては、彼女に対する攻撃へと、ただひたすらに向かっている。
 第三者の目から見れば、ベクトルを間違えばどんな美しい絆もとんでもないマイナスの方向へと舵を取るものだ、と映るにちがいない。
 だが、当事者たちにとってみれば、まっすぐ進んでいるつもりなのである。それは決死の樹海行に似ているかもしれない。
 彼の地も、まっすぐ歩いているつもりなのに、じっさいは、同じ所をぐるぐると回っていることがよくあるそうだ。
 ふたりにとって学校生活とは樹海にも勝る迷路なのかもしれない。
 こんな中学生活を送るはずじゃなかった、はるかはそう思うと、自分たちからすべてを由加里に奪われたように思えて、照美とは違った意味において陰険で残酷な憎しみを抱くのである。

「まあ、いい。私からコンタクトをもう一度とってみる。じゃあ、よろしく頼む、じゃ」
 憮然とした顔で、はるかはそう言うとエントランスへと歩き出した。
「ちょっと、はるか! じゃ、ゆららちゃん、よろしく」
 小柄な少女の目の前で、美しい珠がはじけた。あまりの美しさに魂を奪われたゆららは、思わずふたりを追いかける機会を失ってしまった。
 本当は、自分を認めてくれる存在であるふたりに付いていきたかったのである。例え、相手が由加里であろうとも、人を騙すようなまねが彼女のような少女にとって幸せな時間に充当するはずがなかった。だが、彼女が認められる条件が二人の要求に答えることだと、当のゆららが思いこんでしまった。
 その罪を二人だけに背負わせるのは酷というものだろう。今の今まで人間として扱ってこなかった同級生たちや、 それに、教師たち全員が平等に追わねばならない罪のはずだ。

 それに気づいていたのは照美とはるか、それに、もうひとり。
 傷心の少女がこれから傷付けようとしている、西宮由加里、そのひとだったのである。

 ゆららが由加里の病室をノックしたとき、既に似鳥可南子による性器の検査が済んだところだった。
 すこしばかり、時間を元に戻してみよう。
 
 陰核から小陰脚まで一通り、局所の濡れ具合を調べ終わると、卵を入れたまま新しいオムツで下半身をくるんでしまった。しかも、それは普通の成人用ではなくて、SMで使われる特製の品である。エナメルのように妖しく黒光りする生地はゴムとも柔プラスティックとも言えぬ感触を着る者に与える。
 薄手の生地は身体のラインを外に完全に露出させる。しかも、性器の形がはっきりとわかるほど、それは顕わなのだった。
 可南子はすっかり穿かせ終わると、まるで一仕事終わったように満足そうな顔を見せた。

「どう? 新しいオムツの具合は? アメリカのマニア店から直輸入したのよ、相当、根が張ったんだから」
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウウ・・・う、お、お願いですから、もう少し、緩めてください・・・・うう、く、食い込んで・・・ウウウ」
 少女の懇願に、可南子は嘲笑で答えた。
「ふふ、あなたのイヤラシイおまんこがはっきりと見えるわよ、こんなに食い込ませちゃて、いやらしい」
 自分で締めておきながら、この物言いである。
 ちなみに、舶来物の特製オムツは、ベルトと革ひもによって締め具合の調節が自由である。由加里の性器は陰核まではっきりとわかるが、これでも、まだ強く締めることが可能なのである。もちろん、それは被虐の少女には言ってない。
 しかも、可南子は最後のこう言ってのけた。それは永久に煉獄に閉じ込められることと、同意である
 鍵を由加里の面前にちらちらとさせながら、可南子はにめにめと笑う。
「鍵をかけておいたわよ、これで夕食後まで楽しめるわよ、心おきなく、フフ」
「ウウ・・ウ・ウ・ウウ・ウウ、ヒドイ・・・・。」
 思わず泣きじゃくる由加里。

 そんな少女に仕事前に見せた仕打ちはこれで終わりではなかった。これ見よがしに、少女の愛液で汚れた手を鼻に近づけると、いかにも臭いニオイを嗅ぐような仕草をして、洗剤でごしごしと洗い始めたのである。
可南子が傷口に塩を塗り込めるような真似をしているとき、ゆららによるノックが由加里の胸を打った。
「はーい」
 看護婦はしおらしい声を返した。由加里は心底ぞっとさせられた。

―――この人は、どうしてあんなひどいことをしていながら、どうして、あんな声が出せるのかしら?

 しかじ、もっと驚かせたのはノックの正体を知ったときのことである。
「失礼します。あ、西宮さん」
「ゆららちゃん!?」
 由加里は全裸にさせられたような気がした。思わず、股間と胸を隠そうとしたぐらいである。だが、少女の局所はおぞましい締め具で隠匿させた上に、寝間着とシーツで隠されていた。
「由加里ちゃんの妹さんかしら」
「イエ・・・・友だちです」
 ゆららは短く答えた。可南子の無礼な言い方に憮然とした上に、彼女の内面に反問するものがあったからである。
 由加里は目敏くそれを察した。
「ゆららちゃん・・・・」
 少女は目を見張った。13年も生きてきたが、こんなに哀愁に満ちた目を見たことがなかったからである。それだけではない。
 その瞳は例えようもなく美しかった。

―――キレイ・・・・。

 心の中を憎しみに浸していたはずなのに、おもわず、その一言が浮かんできた。目の前の人物は、他人を裏切りに裏切ったとんでもない人間なのだ。彼女のような人間に、ひとりとして友人がいていいはずがない。なぜならば、その人物は早かれ遅かれ裏切られる運命だからである。
「西宮さん・・・・・」
 由加里はそっと手を、サクランボウのように可愛らしい手を指しだしていた。ゆららは、彼女がその生涯でひどい扱いを受けてきた上に、そして、心の奥底から友だちというものを求めてきた上に、目の前の病院が何を求めているのかはっきりとわかった。
 もはや、反射運動のような勢いで傷つきやすい果実を、その手で包んでいた。彼女らしい優しさはその手つきに現れている。まるで壊れ物を扱うように慎重だが、確実に由加里の手を支えていた。
それが伝わるからこそ、茶碗に注がれた湯はあえなく零れだした。
「ぁぁあぅ・・・」
 低く喘ぐと、被虐のヒロインはしくしくと再び泣き始めた。黒曜石の瞳は閉じられ、さきほどとは違う種類の涙が少女のかたちのいい頬を濡らす。

 悪魔の看護婦は、そんな様子を密かにせら笑うと、病室を後にした。
 二人がそれに気づかないくらいに、その運動は猫じみていたのである。

「西宮さん・・・」
「ウウ・・」
 ゆららは、しかし、自分の手元に由加里の泣き声を感じ取り、その吐息をかけられていると、別のことを考えるようになっていた。
 由加里に対する悪意が、その鎌首を擡げてきたのである。
 だが、それをあからさまにするわけにいかない。だから、由加里がこんなことを言っても表情に出すわけにはいかない。
「ゆ、ゆららちゃ・・・わ、私、友だち? ウウ・・ウ・・ウ」
「と、友だちだよ・・・」
 再び、芽吹き始めた罪悪感にぴくんとなりながらも、ようやく回答することができた。
「なら、由加里って呼んでくれないの?!」
「・・・・・・・・・」
 かつての颯爽とした姿はもはや微塵も感じられない。そこには、誰からも見捨てられた哀れないじめられっ子しかいない。
「・・・・・・・」
 ふいに、視線を反らした。それは同族嫌悪というものだろう。何よりも、自分がいじめられっ子であることを恥じてきた歴史がある。自分のそんな姿を見せつけられたくなかったのである。
 だが、照美とはるかの顔がふいに浮かぶと、こう答えた。
「由加里ちゃん・・・・」
 「ウウ・ウ・・ウ」
 それは可南子の言い方を単に真似ただけである。しかし、被虐のヒロインにとってみれば、友情の告白のように思えた。

 ふいに、起きあがろうとした。
 その時である ――――。
「ヒィ?!!ぁあぁっぁ!」
 由加里は、金切り声を上げるとベッドに沈んでしまった。柔らかな身体がエビのように折曲がった。
「に、西宮さん!? どうしたの?苦しいの!? 先生、呼ぼうか?」
 ゆららは、病人がその傷病のために苦しみ出したのだと思った。しかしながら、それは完全に事実と異なる観測だった。実は、身体を動かしたことによる衝撃によって、オムツの生地が局所に食い込んだ結果、胎内の中に埋め込まれた異物が、さらに奥へと潜っていったのである。
 官能と苦痛は表情が酷似しているという。
 だから、ゆららは由加里が苦しんでいるとカンチガイしたのである。
「ウウ・ウ・・ウウ・ウ・・うう」
 今更ながら、由加里は自分が手枷足枷を嵌められた上に、鋼鉄の鎖で繋がれていることに気づいた。自分は、単なる可南子と病院の奴隷にすぎないのだ。だが、ゆららを見た瞬間に自分の中で、自由人の魂が芽吹いた。
「ダ、大丈夫だよ、ゆららちゃん」
 虫の息の下で、由加里はあることに気づいていた。

――――さっき、私のことを「西宮さん」って呼んだ。やっぱり、わだかまりがあるのね。
「ゆららちゃん!!」
 被虐の奴隷は、残った力を最大限に振り絞った。
 ゆららの手首を摑むと言ったのである。
「わ、私、ゆららちゃんが思うような女の子じゃないよ!」




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