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『新釈氷点2009 10』


 翌朝、渋る陽子を説得して病院に行かせることになった。
 その任を担ったのは、言うまでもなく長崎城主だった。午前10時に、母親である夏枝が連れて行くことになっている。
 新緑がかまびすしい季節なのに、車内は零下になっていると、陽子は思った。
「お父様ったら、どうして、こんなに心配性なのかしら」
「陽子、あなたのことを思ってのことなのよ」
エンジンにキーを差し込みながら言った。夏枝は思う。

――――どうして、建造!? あなたはこの子が誰の娘なのか、わかっていたんでしょう!?それなのに、よくも父親面して、私の前に立てたわね!?

 陽子は、母親がそんなことを考えているなどと露ほども思わずに、窓に描かれた煙突状の建物を指でなぞっている。
 九州は北の大地。山の向こうには地平線まで続く牧場がある。牧場にはサイロなる建物が存在するのは、必定である。

 ろくに聞こえもしない牛の声を聞きながら、辻口家の三女は母親との気の乗らないドライブに興じている。
 病院、それも泌尿器科に連れて行かれるという。
 となると問題はただひとつ。  
 陽子はそれを口に出さずにはいられなかった。
「お母さま、もしも、男の先生だったら・・・・」
「大丈夫よ、女性の先生だって、お父様も請け合ってくれたじゃない」
 長崎城主婦人はこともなげに言う。

――――男の医者だったら、さぞかし面白かったのに。どうせなら、あそこの病院にしようかしら。

 たまたま、バックミラーに映った見知らぬ病院に視線を走らせた。泌尿器科とある。医者は圧倒的に男性が多いことから、十中八九、女医ということはないだろう。
 夏枝は、髭だらけのいやらしい医者に陽子が陵辱、いや、診療されることを想像した。大きく大腿を広げさせられて、他人に見せたこともない局所を異性に触れられようとしている。今、彼の手先が狂って、陰核に鉗子が触れてしまった。清楚な少女は瞬く間に、インランな売女に成り代わってしまう・・・。
 その瞬間を想像した瞬間、夏枝の中の母親が顔を出した。
「そんなことない! そんなこと絶対にさせてなるものですか!! 私の!!は・・・・・!?」
「お母さま!? どうなさったのですか? もう信号は青ですよ」

―――わ、私ったら、白昼夢? でも、どうして、こんな憎い娘にやさしくできたのかしら? 

 そう思うと、自分が許せなくなった。ルリ子のことが陽子に知られて以来、彼女の写真が辻口家に戻ることになった。この新車も例外ではない。隅に置かれた目に入れても痛くない実娘の肖像を見つけた夏枝は、臍をかんだ。
 
―――こんな子なんて、どうにでもなればいい。あんなひどい罪を犯した娘に人権なんてあるわけないわよ。
ブレーキが壊れんばかりに、踏みつけながら心の中で叫び続けた、陽子に聞こえないように。

 やがて、見慣れた辻口医院の建物が夏枝と陽子の視界に入ってくる。

「ああ、辻口先生の、ですね」
 受付に行くと、その一言で長蛇の列をはねのけて、母娘は医師の面前にでることを許された。
 驚いたのは夏枝だった。
「小松崎先輩・・・・・・」
 意味深げな展開に、思わず両目がロンパリになってしまう。医師が期待通り女性だったことを密かに喜んだ陽子は、ちょこんと小さな顔を下げた。
 そのあまりの可愛らしさに微笑んだ女医の顔は、ふつうでなかったが、当の陽子は頭を下げていたために、確認することはできなかった。
 だが、彼女の母親はその姿をとくと目の当たりにする。思わず、蘇る不快で陰湿な記憶に眩暈を覚える。しかし、一方、別の考えにほくそ笑むのだった。

―――これは使える。陽子をあの不快さを味合わせる。そして、血筋に相応しい罰を与えてくれるわ。

 夏枝は女医の目をみながら思った。
「小松崎先輩、九州に戻っていらしたんですか?」
「ええ、辻口さん」
 猫のような笑みを見ると、その思いを強くした。

―――やっぱり、全然、変わってない。

「ご本まで出版されたとか」
「ええ、夜尿症に精神科医的な視点を組み込んだよ」
「え? 精神科ですか?」
 他人事のように聞いていた陽子の目の色が変わる。そんな少女に女医はやさしい言葉をかける。
 女性だてらに銀縁のメガネをかけたその姿は、何処か太った大根を思わせる。
 外見を科学的に測量する以上、それほど太っているようには判定されないだろうが、実のところ豚にしか見えない。
 肥大化した女の精神が見る人に歪ませて見せているのかもしれない。
 それを補強しているのは目尻や鼻筋にできた複数の皺である。それを見つけると、もはや、隣に座っている母親と同世代にはとても思えない。彼女は30代前半と言っても十分通用すると、陽子は自負してきたのだ。それに比べると、これから少女を診察する女医は、50を優に超えているとしか思えない。
 名前を小松崎というらしい。
 だが、女医の名前よりも少女が気にするべきことがある。
 精神科という衝撃的な単語が問題なのだ。
 ところが、娘の窺い知れないところで、いつの間にか、夏枝までが色を失っていた。それは彼女の中で息づいている母親の顔である。

「先輩、精神科医の見立てが必要なんですか?」
「辻口さん、それは精神科に対する偏見よ、私が留学していたアメリカでは、歯医者に行くような感覚で、メンタルクリニックに行くのよ」
「メンタル?」
「精神科医院のことよ、お嬢さん。私はアメリカの精神科医の免許も持っているのよ」
「でも、わたし・・・・」
 もしも、学校や友達に知られたときのことを考えると思わず涙目になってしまう。
 一方、猫の目のように心境が変わる夏枝は、早くも別のことを考えていた。このような苦しめ方があるとは思わなかった。ただし、辻口家の娘が精神科医に通ってるなどと、外聞が悪い。それは十分留意しなければならない。
「先輩、くれぐれも外部には」
「わかっているわよ、私は精神科医的な視点って言っただけよ。まったく日本はだめね。さ、診療を始めましょうか、お嬢さん」

 いったん、憮然とした女医だったが、可愛らしい夏枝を見るとすぐに表情が元に戻った。
「ひどい尿意に苦しんでいるのね」
 陽子は女医の言葉を遮るように言った。
「わたしは、おねしょをしたわけじゃ・・・・・ないんですけど」
 ほとんど消え入りそうな声だった。上品な顔を真っ赤にして必死に声帯を震わせる。しかし、後半部はほとんど聞こえなかった。

「わかっているわよ、そうならないように、診療しているんじゃない」
 だが、女医の言葉に隠れて次のような言葉が発されたことを、陽子は知らなかった。

――――何、今晩にはそうなるのよ、陽子。

 ぷるぷると震えて縮こまった娘の影で、そんな悪魔的なことを計画していたのである。だが、彼女が現在考えていることはべつのことだった。
「先輩、直接は診てくれないんですか」
「え? お母さま?」
「そうね ―――」
 女医は意外そうな顔をした。しかし、すぐに満面の笑みを大根頭にはり付けると、こう言い放った。
あそこの処置台に乗ってちょうだい。
「な!?」
 彼女が指さした先には奇妙なものがあった。緑色のベッドに奇妙なアンテナがついている。アンテナにはベルトがついている。
 泌尿器科というキーワードから、そのアンテナが何を意味するのか、鋭敏な陽子には想像することができた。いや、できてしまったと表現するほうが適当だろう。これから、辻口家の三女が辿る運命を検証すれば、優れた知能は人を必ずしも幸福にしない例証になるにちがいない。
 話はかなり脇道にそることになるだろうが、死刑という刑罰がいかに残酷かということは、それが予告された死であるというただひとつのことに尽きる。怖ろしいことを予見できてしまった以上、目的地までの道がいかに救いのないことになるか、容易に想像できるだろう。
 アウシュビッツ行きの囚人たちが目的地について何も知らされていなかったことは、彼らにとって何よりの救いだったにちがいない。
もしも、知っていたら、おとなしく旅を楽しむなどということが、可能なはずがなかった。

 閑話休題。

 今、陽子はその優れた資質によって、怖ろしい未来を予見してしまったのである。

―――お、お母さま、助けて!

 無言のうちに、そして、無意識のうちに、夏枝の背中に逃げていた。
「陽子、先輩に診て貰いなさい」
「ハイ・・・・・・・」
 瀕死の状態まで働かされた挙げ句、ガス室行きを宣告されたユダヤ人のように、美少女は女医の前に出た。

――――まるで、五歳の女の子みたい。可愛らしいわ。

 女医は自分の頬笑ましい想像の中で涎を垂らした。
 陽子にもはや抵抗する気力はない。
 そして、死刑執行のひとことで脂で汚れた唇が震えた。

「さあ、下着を脱いであそこに乗りなさい」

 ベッドの横には、『EX-URO』という文字が書かれている。それは陽子から人格を失わせ、単なるものにしてしまうように思えた、
 女医は、さらなる脅迫の言葉を続ける。
「さあ」
「お母さま!」
 最後の助けと、少女は母親を呼んだ。そのコトバにはふたつの意味が隠されている。ひとつには、ここからいなくなってほしいという意味と、自分の手を握っていてほしいという意味である。
 それを要約すれば目を瞑って手を握っていてほしいということである。ただし、そんな都合のいいことはいえない。
 陽子は整った容貌を不自然に歪めて、おずおずと下着を脱ぎ始めた。

 辻口家の三女が下着を脱ぎ終わると、背後から音もなく現れた看護婦がそれを奪ってしまった。少なくとも、少女からすればそのようにしか受け取れなかった。かなり非難というスパイスが彼女の視線には含まれていたはずである。
 しかしながら、その看護婦はあくまで事務的に行動した。
 少女の肩に触れると抵抗する間も与えずに、座らせてしまった。

「先生 ――」
 そして、スカートを引ん剥いてしまったのである。そして、少女の無理矢理に開かせると、足首をアンテナにそれぞれ皮のベルトで固定してしまったのである。
「ああ・・・・・」
 思わず、可愛らしい顔を両手で隠す陽子。同性とはいえ、3人の視線に局所を晒されているのである。自分ですらまじまじと見ることがない、その文字通り秘所である。それをあられもない姿で晒している。
 それは、少女にとって耐え難い恥辱だった。しかも ――。
「安心してください」
 看護婦の事務的な言葉、まったく抑揚が感じられない電気仕掛けのような声である。ほら吹きの永和子が言っていた機械声がそれに当たるだろうか。彼女は誰も考えないことを空想するのが得意な少女である。近未来には、LPレコードがわずか10センチの円盤に収まってしまうとか、電話を歩きながら使えるとか、夢みたいなことを言っている楽しい友人なのである。
こんな絶体絶命の時には、彼女を思い浮かべるのがいい。
 しかし、彼女になら見られてもいいだろうか。 
 思えば、さいきん、こんなことを言われた。

「ねえ、陽子ちゃん、オナニーって知ってる?」
 もちろん、彼女はこう答えた。
「知らないよ、そんなこと、オナ? だって?」
 思わずうそぶいた少女だったが、性器の周囲を刺激すると快感のような、あるいは、胸をときめかすような、そんな奇妙な感覚が身体に起こることぐらいは知っていた。そして、それが人に知られてはいけないこともわかっていた。

――――永和子ちゃん、助けて!

 気が付くと、椅子に座った小松崎女医が陽子のスカートの中を伺っていた。そして、そのかたわらには夏枝が同じところを覗いていた。
「お、お母さま、み、見ないでください」
「何言っているの、お母さまはあなたのおむつを替えたのよ、お尻の穴まで見てるのよ」
 微笑を浮かべた母親が鬼女に見えた。あんなに優しい聖母のような夏枝は一体何処に行ったというのだろう。
「さあ、調べるわよ・・・・」
 意気揚々と手術用の手袋を嵌める。
 無機質な素材どうしがセックスする。それは、ぎゅぎゅっという音だ。
 わざと恐怖を自分に見せつけているような気がした。その勿体ぶった仕草は、何処か芝居じみていた。まるで、おいたをした子供を躾るために鞭を用意する19世紀の親のように見えた。
ビニール質に覆われた指が少女の局所に触れた。

「ヒイ・・・・」
 思わず声をあげる陽子。とたんに、六つの目が彼女の方向に注視してくる。そこが熱くなって火を噴く。

 次に目を開けたときに驚いたのは、女医がペンライトを看護婦に持たせていたことである。それは、少女の目を潰した後、局所を照らした ―――と思った。当然のことながら、辻口家の三女からは自分の様子がわからない。
だが ――――。
 ただし、女医の興味本位としかいいようがない脂がのった視線を浴びているうちに、自分がいったい、どんな恰好で皿の上に載せられているのか自ずと想像できてしまうのだった。
 そう思うと、少女の上品な造りの鼻がぴくぴくと蠢き、頬がほんのりと上気してしまう。

「今日はここまでにしておきましょうか」

――――終わった。

 安心していながら、今日はという言葉に戦慄を覚えた。これ以上、何をされると言うのだろう。
 少女は、しかし、決心した。

―――もう、この人に診て貰うのは絶対にイヤ!

 これまで、陽子は夏枝の言うことに首を振ったことがない。もちろん、母親が娘を甘やかしてきたことが、それには十分寄与しているだろうが、少女自身の従順な性格が働いていたことも否めない。
 従順ということは依頼心にもつながるから、これを乗り越えようとすることは少女の精神的な成長を意味する可能性もある。
 ただし、出産に女性が非常な苦しみを味わうように、新しいことをするということには必ず苦痛が伴う。
 これから辻口家のお嬢さんが経験しようとする痛み。
 それは、この時、誰も想像しえない。
 ただ、そんな決意をした少女に意味ありげな微笑をぶつけてきたものがいる。それは看護婦だった。完全に生きる機械を自称してきた彼女が、はじめて見せた表情は陽子に何を訴えようと、あるいは、示そうとしているのだろうか。
 全く、読めない。
 英語や数学の教科書に当たるのとはまったく違う。
 どうやら看護婦が与えた答案用紙には、普段の彼女が渡される丸だらけとはならないようだった。
ただ、うすうすとわかったのは、それが胸を張り裂けそうな恐怖を暗示しているだろう、ということだった。






テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『おしっこ少女 6』


 麻木晴海のマンションはまひるの家から車で15分ほどの場所にある。
 だから、彼女が被虐のヒロインが放り込まれたドラマ空間を知るのに、同じ時間程度のタイムラグがあった。
「うーん」
 女性捜査官は、装置のスイッチをオンにすると煎れたばかりのコーヒーを手に、ソファに腰を据えた。
「さて、今日はどんなラジオドラマを聞かせてくれるのかな?」
 はたして、スピーカーは、晴海を満足させるほどの空気の波を造ることができるだろうか?
 乾いた電子音とともに、何か堅いものに躓いたような音、そう、それは声と呼ばれるかもしれない、それが聞こえてきた。
―――――ママ、ありがとうね、こんな高いもの・・・・。
―――――いえ、まひるちゃんが喜んでくれて嬉しいわ。わたしたちにとっては、何よりもあなた、家族のことが一番大切なのよ。
―――――そうだね、パパも、お前たちのためにがんばって働いているのだしね。
―――――そうよ、まひるちゃん、わたしたちはね。ねえ、皐。
―――――わたしたちって? 皐お姉ちゃん?
 
 おそらく小さな妹の声なのだろう。やけに黄色い声が耳に付く。家族の会話は当て所もなく続いていくが、晴海の関心は身体の清潔の保持に向かっていった。
「やれ、やれ・・・・・」
 女性捜査官はおもむろに立ち上がると、浴室へと向かう。
 着替えを用意するためにタンスの前に立った晴海は、あることに気づいた。

―――そうね、まひるちゃんの言葉が聞こえなかったわ。
 やけに大人しい少女のことが気になった。最初だけ聞かれた唯一の台詞も、何処か機械的で抑揚に乏しかった。それは、しかし、必死に自分を押さえている証左とも取れる。マグマのようなドロドロとしたものが、彼女の中で犇めいて今にも噴出しようとしているのだ。まひるの可愛らしくもはかない理性が、涙ぐましい努力でそれを防いでいる。
―――可愛らしいじゃない。

 晴海はほくそ笑んだ。自分の精神が嗜虐へと向かっていることに、今更ながら気づいた。どうしてなのかわからないが、佐竹まひるの苦しむ姿を想像して性的な興奮を得るまでに達している。

――――私は彼女を憎んでいるのかしら?
 
 浴槽の底に残った水滴を見ているうちに、風呂に入る気が失せた。シャワーですますことにする。何だか、生物めいた不潔をその中に感じたのである。

――――どうして?
 
 シャワーが吐き出す無機的な音と水流は、何故か、はじめで出会ったときのまひるの横顔を想い出させた。
 性欲に理性を失った男どもに囲まれながら、不敵な笑みを浮かべる美女のように、彼女は自身が犯されることを知っているのだが、あえて、泰然自若としている。
 心身共にぼろぼろになりながらも、虚勢を張っているまひるを見ていると、女性捜査官は、たがが中学生の少女に心を奪われている自分を発見して、苦笑するのだった。
 それが芝居であることがすぐに察知できたが、自我が崩壊寸前でありながら、あえて、それを保持しようとする自尊心の高さを愛したのではなかったか。
 それが、今、憎しみの感情に変わりつつあるのを感じる。それは、あたかも、外部から何者かの手によって強制されているような気分に、酷似していた。

――これほど迄に、私にこんな感情を抱かせるとは・・・・。

 それは ――――。
「チクショウ!」
 マックスにしたシャワーの音でさえ、その下品な叫びを押さえてはくれなかった。瞑目しているのに、自分の醜い姿を目の当たりにさせられる。
 完全なまでに、自分の感情をコントロールすることにかけては、自信がある彼女は、自分自身にすら感情の吐露を簡単には許さなかった。

 蛇口を摑む力。

 やがて、それは即座に豪雨を止ませる。しかし、数個の水滴は、なおも晴海の肌にまとわりついて、尿がほとばしり出るような音をたてている。

―――ふん、あんな子供にこの私が・・・・・。

 濡れた身体を清潔な布で包みながら、何故か女性捜査官の魂は、彼女の思いも寄らない場所へと誘っていた。
 彼女は今、自分を拭っているよりもさらに巨大な布、布団のようなものに包まれている。そして、何か温かく硬いものが幾つも自分の身体に沿って這ってくる。
とてつもなく温かいもの。
 彼女にそれを保証する何者かだった。少なくとも彼女はそう受け取っていた。
 やがて、それは満面の笑みとともに、目の前に具現する。

――――ママ・・・・・・。

 少女はそう名付けた。
名 称というものは、人間が外部世界を理解するために、ある対象に名義を与えることにすぎない。それによって単なるものが、彼や彼女にとって意味ある存在へと成り代わるのである。
 濡れた少女を支える指や手は ―――。
 それは指や手と名付けられた。
 そして ―――。
 それらを操るものは、母親と名付けられたのである。
 小さな晴海を見下ろす満面の笑み。
 それは限りない愛情に満ちていた。それを受けた少女はできるだけ同じ量と質を兼ねそろえたものを、返そうとする。
 豊潤な愛の応酬が滞りなく行われるはずだった ――――。
 しかし、それに異を唱えるものがいた。少女だけに聞こえる言葉でこう言ったのである。

「まるで、可愛い飼い猫だな ―――」
 脱衣所の隅には兄が立っていた。
「・・・・・・・・・・」
 しかし、改めて見回しても、彼も母親もいない。あるのはがらんとした虚の空間だけだ。
 手早い手つきでネグリゲェに着替えると、洗濯機のスイッチを入れて、台所へと向かう。
 その日の夕食には、久しぶりにワインを一本開けた。拭いきれない不快な記憶が何重にも身体にまとわりついているような気がしたからだ。それを排除、あるいは忘れきるには、アルコールの力を借りる必要があったのである。
 何を食べたのか覚えていない夕食が済んで、意識を取り戻したとき、8時をすでに何分も回っていた。
「もう、こんな時間か ―――」
 そう言ったとき、聞き慣れた機械音が聞こえた。
「誰だ?」
 台所の隅にある応答機に触れるとアルコールに汚れた声を出した。

「わ、私です・・・・・・まひるです・・・」
「・・・・・・・・・」
 どんな表情をしていいのかわからず、美貌にいらぬ道草を食わせた晴海だったが、すぐに、ほくそ笑むと残酷な言葉を送った。
「まひる? 何処の誰? あいにくと聞いたことがないけど ―――」
「さ、佐竹、まひるです! ウウ・・・」
 怒ったような声とともに、押し殺したような泣き声が返ってきた。
「ふーん、何処の佐竹さん? 警視総監の佐竹弓彦さんが私ごときに、何の用かしら? 機械の調子が悪いね、何やら子供の声のように聞こえるんですけど」
 先方に映像を送ることができるわけでもないのに、わざと美貌を歪めて大根役者ぶりを発揮する。それは声に現れているが、それが顕わならば、顕わなほど、少女に与えるダメージも底なしになっていくのだった。
 だが、もう潮時だと判断した晴海はこう切り出した。
「わかったわ。鍵を開けるから来なさい」
 ただし、こう皮肉を付け加えることを忘れなかった。
「警視総監閣下」

 まひるが彼女のマンションを訪れるのは、これが二回目である。
 だから、ドアが自動的に開いて高級ホテルのような扱いを、受付から受けるのは少女にとって居心地の悪いことこの上なかった。
 消え入りそうな我が身を震わせながらも、エントランスを抜けるとエレベーターに身を潜める。
 たまたま、居合わせた母娘はふたりとも相当に高級そうな衣服に身を包んでいた。彼我の違いを思うと少女は胸が張り裂けそうな心持ちに顎まで涙を伝わせるのだった。

「ねえ、ママ、お姉ちゃん、泣いているわよ」
「しっ、見ちゃだめ」

 母親はそう躾るように言うと、娘の手を握るとまひるを避けるように、フロアに消えていった。まひるは、自分がいかにもおぞましいもののように思えて、さらに惨めになるのだった。あたかも、そのようなレッテルを貼られたような気になる。
 確かに、こんな時間に中学生くらいの少女がひとりでこんなところにいるというのは、どう考えてもおかしい。晴海が住んでいる高級マンションはかなりの高層であり、200戸以上が入っている。
 どの部屋にどんな人たちが住んでいるかなどと、知りようもないが、入ってきた人物が住人かそうでないかという区別ぐらいは、長く居れば人目でわかるものだ。
 あきらかに、さきほどの婦人はまひるを不振に思ったのだ。それ以上でも以下でもなかったのだが、自意識過剰になっている少女は、彼女の敵意を過大に受け取ったのである。


―――ああ、このまま消え入りたい。早く、お会いしたい、晴海お姉さまに。

 まひるは、心の中だけで、晴海のことをそう呼んでいた。個人的な日記にさえ記すことができなかった。
 死にたいほど辛いときには、そう念じて、どうにか理性を保つことができた。
 もうすぐだ、もうすぐ、その晴海に出会うことができる。そうすれば、これまでの辛い思いは雲散霧消するだろう。
 43F、晴海が住む部屋はこの高層にある。値打ちはナントカヒルズとはいかないが、少なからず辺鄙なところに 建っているために、室内の設備等は前掲の建物よりもむしろ豪壮とさえ言える。
 だから、少女は扉の前に立った時、震えを感じた。彼女が憧れる人物が自分とは完全に違う世界の人間のように思えたのである。
 恐る恐るブザーを押すと、まもなく、月の女神様のような晴海が現れた。
「ようこそ、警視総監閣下」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 この世のものとは思えない哀しい目で、少女は女神の顔を見上げた。
 晴海はさらに残酷な言い方を続ける。被虐のヒロインを中に案内しようとしながら・・・・。
「あれ、ずいぶん、可愛らしい警視総監だこと」
「も、もう、やめてください・・・ウウ・ウ」
 嗚咽を必死に押さえながら、まひるは泣き続ける。内装は思ったよりも豪華で、神聖な宮殿にしか見えない。自分の汚らしい唾が一滴でも飛び出たら大変だ。慎重に口を動かす。
「晴海さん・・・・・」
「晴海さん? そんな風に呼ばれるほど、あなたと親しかったかしら?」
「そ、そんな・・・・・」
 打って変わって冷たい晴海お姉さまの様子に、まひるは全身の細胞が凍りつく。そんな少女に女性捜査官はさらに冷酷な態度に出る。

「そんな汚らしい恰好で部屋に入られたら困るのよ」
「ア・・、すいません」
 まひるは、自分が濡れていることを叱られていると思ったのだ。その通り、少女は傘も持たずに雨が降り続ける夜の街に飛び込んだので、まさに濡れ鼠状態である。
 ところが ――――。
 少女が靴を脱ごうとすると ―――。
 晴海はまるでアヒルの首を摑むように、美少女の髪を乱暴に手にするとタイルの床にその綺麗な容貌を押し付けた。

――――なんだろう? この感覚は。

 嗜虐と愛情が交差する。

 ―――どうして、こんな残酷なことをしているんだろう。

 目の前の美少女は晴海の力とタイルの間に挟み込まれ、奇妙に歪んでいる。タイルは彼女の涙で濡れて、彫刻がくっきりと見え始めた。
「答えなさい、私は何て言ったのかしら?」
 氷よりも冷たい声で、少女を凍えさせる。

――どうして、ここまで!?

 自答自問しながら、さらに押さえつける。
「答えなさい!!」
「き、汚らしい、わ、私が入ると困ります・・・ウ・ウ・ウ・ウ・ウウ」
 絞首刑に処するように、まひるの頭を髪ごと引き上げる。自分の視線まで達すると、言葉の刃で少女の心を切り裂く。
「おわかりのようね、なら、それなりの処置をしてもらうわ」
そう言うと奥に戻ると30秒で帰ってきた。
「これを来て貰うわ」
「?」
 少女の目には、それはレインコートのようにしか見えなかった。黒曜石のように光る生地は、濡れてもいないのに、異様にテカっている。
「これで、あなたの汚い身体を包むの、そうしたら、入れてあげてもいいわ」
「ハ.ハイ・・・・・・・・・・・」
 自分が月の宮殿にでも迷いこんたと錯覚しているのだから、もはや、平静の状態とは言えないだろう。晴海の洗脳によって、もちろん、彼女がそう意図したわけではないが、恐怖すべき月の女神によって従順な子ネズミにされてしまったのだろうか。
 命令されたわけでもないのに、少女は制服を脱ぎ始めた。
「そんな汚いものを入れないで、そこに置きなさい!」
ビクビクしながら、被虐のヒロインは自分が着ていたものを床に投げ捨てた。
「ぬ、脱ぎました・・・・ウウ」
「下着もよ」
 残酷に言い放つ。

――ぞくぞくしてくるわ。

 晴海は、何もとも知れぬものからの力によって、そう感じていた。それをわかっていながら、もはや、自分の精神を制御不能になっていた、それもまた事実である。
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ」
 被虐のヒロインは、もはや、感じなくなった手で下着を脱ぎさった。
「さ、これを着るのよ」
 触れるとゴムのような感触に身の毛をよじった。
 すぐにでも手放したくなったが、晴海の目を見ると、従順な奴隷になるしか生きる道がないと気づく。
 そして、その黒光りするおぞましいレインコートに袖を通す。着てみてわかったのだが、それは上下がつながっている。チャックを開くとまず、足から入れる。何と裏生地まで、ゴムかナイロンのような生地だった。
 しかし、実際に肌に接すると、それが単なるゴムではないことがわかる。

 ―――――濡れてる?
 まるで、少女の心を読んだような声がふってくる。
「それは特殊なゴムで出来ているのよ、まるで濡れているみたいでしょう? ただでさえ。いやらしいまひるちゃんをさらにいやらしくしてくれるのよ」
 ぐにゅぐにゅ。
 実際にそのような音がするわけではないが、確かに、まひるはそれを聴いた。何だか、海底に引きずられていくようだ。
 上衣も同様だった。指から爪の先までおぞましい粘液によって包み込まれる。
 しかし、それだけではない。そのレインコートには仮面らしきものはついていたのである。
「そ、そんな、まさか・・・・ウウウウ」
「そのまさかよ、はやく被りなさい、あなたの気持ち悪い顔なんて見たくないの」
 さらに、まひるの人格を否定することば。

「着なくてもいいのよ、さっさと、お帰りなさい」
 少女の答えは決まっている。
「ウウ・ウウ・・ウ・ウ・ウ・ウ・・・むぐ・・・ウウ」
 仮面を被るとチャックを自ら上げる。
「むぐぐぐぐぐむぐぐ・・・」
 おぞましいゴムの感触に身の毛がよじる。おぞましいタコのお化けに喰われるような感触が顔面を襲う。
「だけど、これだけじゃないのよね、そこに、丸いのがあるでしょう? それは呼吸口なのよ。ここにこれを嵌めるとね」
 晴海は、ホースのようなものをまひるの顔に押し付ける。
「い、痛い」
「あら、まだしゃべれるのね。ふふふ」
 意味ありげ笑うとホースがつながった機械に手を伸ばした。
「こうするとね、一言も言えなくなるわ」

 ぐいいいいいん。

 船の汽笛のような音がすると、全身が万力で潰される。骨がきしむ音が聞こえた。しかし、そんな音楽を楽しむ余裕はなかった。

―――押し潰される! 苦しい。
 呼吸が出来ない。とどのつまり、それが一番苦しい。全身の体液が奪われるような気がした。
 しかし、同時に下からの突き上げに、少女は内臓を素手で摑まれるような気がした。
「むぐぐぐぐ・・・・・・・・・・・・」
 性器と肛門に世界中の男達の手が入ってくる。
 少女は悶えの苦しみの中でそう思った。

 晴海は自分の足下に苦しむダンゴムシを不思議な思いで見つめた。

―――私はこれの生き死にを握っている。あともう少しでどうにでもできる。もうすこしで。

 しかし、すんでの所で、女性捜査官は人間の中庸というものを取り戻したようだ。
「コレが限界のようね、さあ、これを銜えなさい!」
 ホースを引き抜くと別のそれを突っ込んだ。
 まひるからすれば、唇に何か硬いものを押し付けられたようなものだ。何か、冷たいものが顔にかかる。

―――え? サンソ?
 
 被虐のヒロインは無意識のうちにそれをくわえ込んだ。
「ふふ、やっと息が出来るでしょう? で、これも銜えるのよ」
 そう言うと、ちょうとその穴の逆位置にある穴を開けると、別のホースを突っ込んだ。
「中にパイプがもう一個あるでしょう? それを銜えるのよ。そちらは二酸化炭素用よ。これで息ができるわ、感謝なさい、これを背負いなさいね、あなたの生命線よ」
 晴海は鉄の塊を背負わせた。それは酸素ボンベである。
「ムグ」
まひるは、これまで背負ったことのない重荷に直面させられたような気がした。しかし、その反面、こうも考えていた。

――――もしかしたら、これは生まれついでの宿命のようなものではないか、と。
 

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『由加里 85』


 まるで雪だるまのように膨れあがっていく妄想でさえ、由加里に恐怖からの逃亡を許さなかった。それはまさに目の前に差し迫っていたからである。
 ミチルと貴子が座を辞したものの、まだ、照美とはるか、それにあの悪魔の看護婦、似鳥可南子が被虐のヒロインを魔性の光で照らし出しているのである。
 由加里は怯えた。あまりに眩しすぎて完全に目がくらむ。いったい、自分はどんな目に遭わされるのだろう。その具体的な内容はわかっているはずなのだが、その背後に横たわる意味と恐怖に注意が行ってしまう。

「や・・・あ、止めてクダサイ、おしっこなんかしたくありません」
 由加里は、自分が人語を喋ることができたことに驚いていた。自分が人間であるという事実すら忘れていた彼女である。その彼女が意味のあることを言ったとき、眠っていた自尊心と羞恥心が蘇ってきた。
 しかし、それは同時に自分でも想像できなかった苦しみと苦痛を、呼びさますことにも通じる。
 少女の幼い性器がくわえ込んだゆで卵は、すでに頭が出ていた。少なくとも可南子の目にはそれが見えていたのである、小陰脚が微かに歪んでいるところを見逃していなかった。  

 可南子はほくそ笑んだ。一方、照美とはるかは理解不能な感情に支配されていた。いたずらっ子が自分の不道徳な行為が目の前で露見されてしまうような、すなわち、恥ずかしいようなこそばゆいような感覚である。
 どうして、この似鳥可南子という看護婦に対して、このような感覚を抱かねばならないのか、二人は理解できなかった。彼女たちの担任が目の前にいて、その行為が露見したとしても、そのような感覚の炎に身体を焼かれることはあるまい。
 だが、当の被虐のヒロインは、自分の身体を骨まで焼き尽くす猛烈な炎に苛まれているのである。

――――アア・・・・ああ、もう、限界だわ。出ちゃう! いや、こんなところで出しちゃうなんて!! 
 人間のもっとも恥ずかしいばしょに異物が蠢いている。その感覚は体験した人間ではないと理解できないであろう。
 由加里は識閾下で慟哭した。無意識の庭に飼っている狼が吠えていた。
 しかしながら、表面上は大人しい子猫が瀕死の呻きをあげるだけである。
「もう、ダイジョウブですから・・・・・・・ウウ」
「そう ――――」
 看護婦は、あっさりと患者の要請を許諾した。由加里は再び耳を側立てた。簡単に引き下がるとはとても思えなかったのである。粘液質で陰険なこの大人の女性が、他人に言われて、それも自分のおもちゃとしか見なしていない由加里に言われて、自分の意思を引っ込めるなど、完全に想定外だった。

―――あ、海崎さんと鋳崎さんがいるから・・・・・・。

 被虐のヒロインは水あぶくのような目を、二人に向けた。絶世の美少女と将来を嘱望されたアスリート少女は、複雑な視線を返した。このまま3人だけならば、この哀れなおもちゃ兼奴隷を思うままにいたぶるだけだが、ここには似鳥可南子がいる。どうしたものだろう。
 目の前にごちそうがあるというのに、簡単には手を出せない苦痛。それは、二人の若いというよりは、より幼いサディストたちの忍耐力を要求する。
 しかし ――――。
 はるかは思う。この似鳥という看護婦からは、何か自分と同じものを流れている。
 彼女が行っているのはもはや看護ではない。看護などという範疇を完全に超えている。それは正常人である彼女ならば簡単にわかることだ。異常と正常の峻別はその行為から導き出せるものではない。彼や彼女がどんなに異常な欲望を持っていようとも、あるいはその欲望を異常と認識できるならば、彼や彼女は正常なのである。もしもそうでなければ、この世の殺人者はみな異常である。よって、彼らはみな無罪になってしまうではないか。
 この点、はるかと照美は完全に正常だが、可南子のばあいそれがかなり危うい。
 だから、二人は先に引き下がろうとした。

「看護婦さん、私たち、用があるから帰りますね、じゃあな、由加里ちゃん」
「ァ、だめ!」
 由加里は小さく叫んだ。だが、その叫びは二人に聞こえないほど小さかった。目を瞑った少女が次に開眼したときには、悪徳の看護婦だけが不穏な笑みを浮かべているだけだった。
「お友だちは帰っちゃったわね、由加里ちゃん」
「ヒ・・・・・・」
 猛獣の檻に放り込まれた子ヤギのように、由加里は光を見ない目で白衣の悪魔を見上げた。
 目前に迫ってくる悪魔の前歯は、何故か異様に白い。プラスティックでコーティングでもしているのではないかと思わせるほどに軽々しいテカリにみちていた。

「由加里ちゃんの秘密がばれなくってよかったわね、ふふふ」
「な?!」
 聡明な美少女は絶句した。この人は一体何を言っているのだろう。ふいに、自分すら騙した。それは別の言い方で欺瞞というが、身体まで騙すことはできなかったようだ。
可南子は妖気を立ちのぼらせながら、そのジャガイモめいた顔を少女の眼前に近づけた。
 ろくろ首―――。
 子供の頃に記憶の肥やしにしたはずの名詞が、今更ながら醜い鎌首を擡げてくる。本当に、この白い悪魔には蛇の頭と胴体があるのではないかと、思わせる妖気を醸し出していた。
「ここに ――――」
 由加里は、悪魔の悪の奥深さとしつこさを思い知ることになる。
「ヒ?!」
 言葉と言葉を句切るのは、何故だろう。由加里は考えた。
 あふれんばかりの恐怖によって沸騰寸前の感情と切り離されたところに、理性の一部が生存していた。それは確かに事態を正確に観ていた。自我が宿命的に持っている生存本能から、完全に自由だったから、事を正確に観察することができたのである。
 だが、それ故に自分から分裂した理性に恐怖を感じたのである。

 人間が外部に恐怖を感じることはない。そのような言明がある。しょせんは、人間は自分の影以外を見ることはできないということである。少女は自分の影に怯えていたのかもしれない。
 可南子は、しかし、確かに彼女の目の前に実在する。
「何を入れているのかしら? 私にわからないとでも思ったの? インランの由加里チャンたら?」
「ァァウウ・・・・あぁ・・・・・ウウウいやぁぁぁ・・・・・あ」
 ミミズのような指が少女の性器に忍び込んでいく。
「ふふん、後でたっぷり可愛がってあげるわ、イケナイ由加里ちゃんには、看護婦さんは忙しいのよ・・ふふ」


 可南子がその炎のようにめらめら燃える舌を、食肉である由加里の身体にむかってちらつかせたとき、照美とはるかは病院のエントランスにいた。自動ドアが開くのを見ながら、二人はどうでもいい会話の花を咲かせていた。
そこで出会ったのはとても小さな少女だった。
「あら、ゆららちゃん」
「あ、照美さん」
 会話が始まるところで、横合いから邪魔が入った。
「おい、ゆららちゃん、いい呼び名があるぞ」
「え? 何?はるかさん」
「良いこと教えてやるんだから見返りがないと ――」
 ゆららは、この二人に対してまだ警戒心を取り除いていなかった。その上、このアスリートに対して恐怖に近い感覚を残していた。照美は、それがわかっていたから、親友を諫めた。
「はるか!」
「ゆららちゃん、向こうで話そうよ」
 優雅な手つきで売店前にある喫茶店を指さした。
 
 大きな鞄を顔が隠れんばかりに抱えている、その姿は、まさに小学生のようである。照美は彼女を目の前にすると、素直になることができる。西宮由加里と出会う以前の、本来の自分に、彼女が自分自身をそう見なしている、戻れるような気がした。
 自動ドアの前で立ち止まったゆらら。そんな彼女に思いやりの気持が働く。じゃあ、向こうの椅子で話そうか。あえて、おごると言わなかったのは彼女の自尊心を慮ってのことである。
「ええ」
 それでも、短く答えたゆららはいくらか気まずそうな顔をした。
 ここで、場を盛り上げようとした人間がいる。
「じゃあ、話を始めようか、てるちゃん」
「な、ちょっと待て!! このウドの大木!」
 絶世の美貌が奇妙に揺らぐ姿を、ゆららは目撃した。
「くす」
 あどけない笑声を振りまく同級生に、はるかと照美は思わず手を打つことしかできなくなった。クラスを代表する二人もゆららを目の前にすると、全く形無しである。二人ともそれを嫌がっているようすはない。むしろ喜んでいる風すらある。

 由加里が地獄のような羞恥を味わった後、精神の危機に苛まれているあいだ、彼女の3人の同級生たちは、つかの間の頬笑ましい時間を過ごしていた。
それを壊したのは照美の一言だった。
「かばんの中、例のアレなんだ」
「え? うん・・・・・」
 とたんに、少女の顔が曇る。
 それを無視して、はるかは話を繋ぐ。
「どう? 様子は?」
「あの人は・・・・・」
 小学生のような同級生が主語を選択するにあたり、どうして、それを使ったのか。照美にも理解できたような気がした。しかし、速やかに事を進めなければならない。はるかの計画通りに、由加里を破壊しなければ、本来の彼女に戻れないような気がしたからである。

「ゆららちゃんを好きになってきた?」
 もちろん、信用という言葉を使わなかったのは、照美の意識によらない作為である。
「あんな人に好かれても・・・・あ」
 少女の物言いには二つの要素が合成している。照美たちに対する配慮とそれによって産まれた由加里に対する悪意である。それが真実なのか偽りなのか、即座には判断しかねる。
「照美さん、聞いてもいいですか?」
「ゆららちゃん」
「あ、照美さん、聞いてもいい?」
 はるかが話の腰を折る挙に出た。

「ち、ち、ちがうな」
 長い指をちらちらさせて、茶目っ気一杯の笑顔を見せる、鋳崎はるか。けっして、クラスで見られない代物だが、それが自分に向けられるに当たって、どれほど、自分の身分というものを理解できていたのか、この時はまだわかっていなかった。
「てるちゃんさ」
「おい、はるか!」
「じゃあ、てるちゃん・・・」
 照美の気色をうかがうようにゆららは桃色の声を出した。そんな顔をされたら無碍に拒否できるものではない。
「まあ、いい、今度だけだかね・・・・で、何を?」
「・・・」
 数秒、時間の停止があって、ようやく、ゆららは言葉をわき水のようにちょろちょろと流し始めた。
「どうして、あの人をそこまで憎むんですか」

――ちがう、私、私が、あの人を憎んでいるの! あの時、あの時の、あの人の顔! それが。

 心と身体は別のことを考えていた。照美の考えなどが問題なわけではない。それは自分を納得させるための方便にすぎない。自分が何処に立っていて、何をすべきなのか。そういうことを把握するには、あえて、照美のことを出す以外に方法がなかった。
 一方、自分の心に入ってくる者に対して、簡単に戸を開くような美少女ではない。だが、ゆららに対しては一定の思いがある。
 相手を自分たちの目的のために利用している、そのことに対する良心の呵責がその思いに含まれていることは、確かなことである。だが、それだけではない。
 高田たちがゆららに対して行っていたいじめを見過ごしていたという、否定できない事実は、何よりもこの美少女の良心に罅を入れていた。由加里に対して行っていることを思えば笑止というほかはないが、彼女に対していじめを行っているという意識は、少なくとも、今のところ彼女にはない。
 だから、由加里のことはこの際関係ない。ただ、彼女に対する圧倒的な憎悪が類い希な美少女の心を支配している。
「それは ―――」
 一語一語区切りながら、いちいちそれらを確認しながら言の葉を縫い合わせる。
「何故だかわからないけど、殺したいほど憎んでいるの、このままじゃ、本当にそうしそうで怖い」
「きっと、照美さんをそこまで追いつめるようなことをしたのね」
 あっさりとゆららが受け答えをするなかで、はるかは驚いていた。自分以外に、ここまで心を許すことに、そして、そんなゆららに少しばかり嫉妬を覚える自分に対して、むかつくような嫌気を感じていた。
 


テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『おしっこ少女 5』
 あくまでも音声を通じてしか事態を把握できなかった晴海は、裸眼でまひるの偉容を見たことはない。
 ふいに、この学校の至る所に隠しカメラを仕掛けたくなった。この細い足を怪我した白鳥の子がいじめられているところをつぶさに見物したくなった。少女の演技を生で見たくなったのである。『偽りの生徒会長』というBC級映画並の題が適当だろうか。そもそも生なので、舞台と表現したほうが適当かも知れない。
 
 他の生徒に見られるとまずいので、まひるから少し離れて歩く。まるで、校舎内が濡れているように思えた。それは、少女が流した涙かもしれない。知らず知らずのうちに流れた涙は露や霜になって大気中に発散し、やがて、リノリウムの廊下や窓、そして、天井に結露する。
 昼間なのにやけに薄暗い校舎を歩いていると、短い距離でも、そして、単純な経路でも、難解複雑な迷宮を彷徨っているような気がする。
 やがて、簡単に時間を乗り越えてしまうかもしれない。
 気が付くと自分があの制服を着て、あんな感じで歩いているかもしれない。かつてのように、肩で風を切って・・・・・・・・・。
 
 いやな想像と回想を消し去るべくかぶりを振ったところで、気が付くと駐車場に立っていた。夕日に照らし出されたまひるが、その字のごとくまぶしかった。驚くべきことは、彼女が上履きを履いていることだ。この手の少女は大から小まで、神経症的な注意深さで約束事というものを遵守する。生きるための力を、ほとんどそのためだけに使い果たしてしまうのである。
 それなのに、被虐のヒロインは下履きに履き替えなかった。晴海が命じた経路を歩いていた。少女の手足はそれぞれ交互に、まるで自動機械のように動く。
 リノリウムの床に映る少女の手足は、吊られる瞬間の魚のように揺れる。実像と虚像の区別は曖昧になってもはや区別するのは不可能だ。
 まひるの演技はたしかに堂に入っている。仮面が仮面でなくなってしまうパントマイムの比喩は、もう使い古されたが、あえて、ここで使ってみたい。
 
 痛々しくてたまらない。そして、それを歪んだ欲望を抱いて眺めている。女性警官はそんな自分をもっと高い場所から達観している。
 実体験からそれを知悉しているからこそ、佐竹まひるという少女の苦しみがわかるのだ。彼女の哀しみと痛みが我が事のように感じる。時間を簡単に飛び越えてしまいそうな、薄暗い迷路を彷徨ったことも、それに荷担しているだろう。
 まるで殺人の現場を目撃された犯人のように、晴海は自分の言うことを聞く。

 この時刻、場所で、少女は脊椎を曲げて、車に乗り込む。それは、この世の開闢のとき、既に、そのことは決定されているように見えた。この哀れな少女は運命の海にただ弄ばれるだけ、そうされた挙げ句、切り捨てられてしまうのだろうか。

 その細い腰、華奢な肩、バンビー人形のような手首や、足首。ただし、その造りは荒削りで、まだ完成までほど遠いことがわかる。
 世の男性の中には、成熟した女性よりも、そのほうが性欲を感じる、あるいは、それにしか感じることができない趣向の人たちがいると聞く。若者が造り出すサブカルチャー等々を概観すれば、誰でもわかるだろう。
 晴海は、彼らとは違った意味で、言い換えれば、距離を置いた視線で少女を見ている。もちろん、それに欲望が加味されていないというわけではない。むしろ、生殖を基礎にしていないぶん、それは先鋭化し、欲望として暴力的なまでに純粋になっていく。
 まるで樽の中の最高級ブランデー。
 
 エンジンに点火する作業は、ただの物質に生命を吹き込むことに似ている。それをする度に、一個の生命を産んでいるような気がする。「これが母親になるということか」と、子供を産んだことがない晴海がそう思う。
 一方、助手席に座っているまひるはどう思っているだろうか。座っているというよりは、人形のように、置かれていると表現したほうがより適当だろう。ほぼ放心状態の美少女は、自分が何処に何のためにいるか、というごく基本的なことすら呑み込めていないように見える。

 ここで、晴海はカンフル注射を打ってみることにした。
 少女の透けるように白い耳に口を近づけるとこう囁いたのである。
「愛しているわよ、まひるちゃん」
「・・・・・・・・・・・」
 いっしゅん、惚けたような顔で自分がいる場所を確かめようとした被虐のヒロインだったが、車がゲートを過ぎてかすかな段差を超えたところで、今まで溜め込んだ苦しみと哀しみを吐き出すように泣き声を上げ始めた。
「ああ・あ・あ・・ああぁあっぁ!!」
 それはまったく疑問の余地のない感情だった。
 白魚のような指を幽霊の顔に嵌め込んで、おいおいと泣き続ける。水晶の液体が氷柱の指を伝ってスカートに流れ落ちる。その軌跡を眺めてみると、始めて邂逅したときのあの出来事を想い出す。
 仕事先からの帰宅中、列車の中で・・・・・。
 やおら、見知らぬ少女が近づいてきた。
「まひる、おしっこ!」
 少女はたしかにそう言った。
 見ず知らずの年上の女性に、そう言いながらスカートを捲った。そこにあったのは局所が顕わな下半身だった。
 その後、衆人環視の中、男子のような姿勢で排尿を行ったのである。
 まったく、感情を顔に出さなかったぶん、凍傷を起こしそうな悲しみと痛みが直で伝わってきた。

 女性捜査官は、今までこの少女に何が起こったのか、音声によって知っている。映像が伴わないとはいえ、会話等からかなり的確な情報を得ることが出来る。
 しかしながら、その日のことはわかっていない。何故に、彼女がトイレに全裸で閉じ込められていたのか、その事 情を摑んでいないのだ。だが、それを不都合とは思わなかった。まるで込み入った推理小説を読み解くように、この美少女の頬に流れる涙の滝を遡って、その源流を確かめようと思ったのである。
まず始めに当然浮かんでくるべき質問をぶつけてみた。

「これから、何処に向かえばいいかな」
「ウウ・ウ・ウ・・ウ・ウウ、い、今、何時ですか?」
「?4時すぎだけど」
「え!? あ、あ、ああ」
 その声はさらなる絶望の色に染まっていた。その美しい体躯を弓なりに歪ませて泣き始めた。
「だから、4時に何があるっていうの」
 あえて感情を含めずに言の葉を舞わせる。
「4時半までに家に帰らないとわたし・・・・・・ウウ」
 ずいぶん、早い門限だなと晴海は聞いていた。まさに、推理小説を一頁ずつ捲る感覚である。しかし、まひるの様子を見ていると事態が深刻の度を濃くしていることがわかる。まるで赤子が引きつけの発作を起こすように、絶え間なく震えている。
「わた、わたし・・・・・・ウウ・・・・・みんなに、見捨て・・・・・られちゃう・・・・ウウウ・ウ・うう」
「みんなって?」
 車は高速に乗った。まひるはそれを別世界への行旅に思えた。

―――そうだ、このまま何処かにイッちぇばいい。この人とともに、家族のことなんか、もう考えたくない。そうだ。最初からいないと思えばいいんだわ。そうすれば見捨てられたなんて思わなくていい。
 
 オレンジ色に視野が染まっていく雲が、自分が産まれた世界のものとは思えない。

――――雲ってこんなに美しかったっけ。

 そんな風に思考を飛ばす、まひるの耳にはさきほど囁かれた言葉がハウリングしていた。
(まひるちゃん、愛しているわよ)
 辛うじて生き残っている自我は、その言葉に飛びついたのである。しかし、当の晴海は同じ声で違う言葉を吐いていた。それは打って変わって冷たく乾いていた。
「何を急いでいるのか、教えてもらってもいいかしら?」
「・・・・・・・・」
 痺れを切らした女性警官は言葉に刺をしのばすことにした。
「何なら、車を停めてもいいんだけど」
「い、言います!」
 空母を破壊される寸前に命からがら飛び立つ艦載機のように、まひるの声は逃げるように声の主から飛び立つ。
「お、お願いですから・・・・・ぁぁぁ・・・・ウウ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
 無言でフロントガラスを見つめる美貌の警官に、まひるは、かえって恐怖を覚えた。自然、それは少女の神経系に圧倒的な服従を強いる結果となる。
「あ、あ、わた、私、まひるは、家族のみんなに、嫌われて・・・ウウ・・・るンです」
「・・・・・・・・!?」
 捜査官として才能を認められ始めた晴海とはいえ、さすがにこの答えを予期することはできなかった。そのうえ、それは同時に彼女の心の琴線に触れていたから、彼女にあるていどの動揺を与える結果となった。
「そうなのか・・・・・・・」
「私、私、もう駄目なんです! 今日の、誕生日に時間通りに家にいなかったら、もう、家から追い出されちゃう!!」
 白皙の顔を両手で覆って泣きじゃくるまひるに、晴海はかかとで押し出すような声を出した。その動揺ぶりは敬語を使い忘れていることにも如実に現れている。
「血縁っていうものはそんなものじゃないんじゃないかしら? 血は水よりも濃いと言うし・・・・・」
「こ、今回が二回目だから、この前の旅行に行けなかったんです!」

 この言葉でピンとくるものがあった。正確には「行かせて貰えなかった」と表現すべきだった。
「何か、あの子たちはそんなことを企んでいるのか、まひるちゃんが家族から嫌われるように仕向けたと?」
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・ウ」
 まひるの涙は、女性警官の問いを肯定していた。
「だから、全裸にして閉じ込めたということか ――――。まてよ、どうしてそこまでして彼女たちの言うことに唯々諾々と従っているのかしら?」
「それは ―――」
「まあ、いいわ、それは追々話して貰うとして、あの子たちはすごいことを考えているのね、これじゃ単なるいじめと違うじゃない。それほど恨まれる何をしたの? あなた」
それまでの優しさの籠もった花瓶にすこしはかり罅を入れる。
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ」
「何を泣いているのよ、もうすぐおうちよ、みんなきっとまひるちゃんを待ちわびていると思うわ」
 高速を降りる手続きをしながら、義理の姉を思い浮かべた。すこしばかり童顔で笑顔が優しい印象的を与える彼女と並んでいると、「どちらが、姉か妹なのかわからない」とよく言われる。本人たちもそう言われることに不都合を感じないようで、出会って間もないというのに、もう二回ほど女性同士の友情を養うデートとしゃれ込んでいる。晴海の仕事が身体の自由が利かないことを考えれば、短い期間にこの回数は異常といってもいい。兄が目を丸くしたのも至極頷ける話であろう。

 高速から30分ほどして車はようやく五時前に佐竹家に到着した。
「ほら、着いたわよ」
「大丈夫だって、ほら、涙を拭いて」
「ウグ・・・・・・・!?」
 晴海は、外に誰もいないことを、特にまひるの家族がいないことを確認すると少女の小さな唇に自分のそれを重ねた。










テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『新釈 氷点2009 9』
 夕食が済んで3時間が過ぎていた。
 長崎城主婦人は台所で食器棚を整理している。瀬戸物が発する銀色の音に誘われたわけではないが、陽子が入ってきた。
「お母さま・・・・・・」
「あ、陽子?!」
 おずおずと母親を上目遣いで見る娘に思わず息を呑む。
 思えば、この子にはいつも気を遣ってきたものだと思う。強いて優しくしてきた、言い換えればスポイルしてきた。それがこの結果である。少し冷たくしただけで、この体たらくである。塩を掛けられた青菜のようにしゅんとしている。
 しかしながら、そんな陽子を見せつけられると、自分の中に虹色の卵を発見して、とことんいやな気分を味わうのだった。その卵が孵ると陽子に対する情愛がぴーちくと歌を歌い始めるのである。
 そんな時、無理矢理にでもルリ子の顔を想い出すことにした。彼女を殺したのは誰だったのか。言うまでもなく、この少女の父親なのだ。すると、復讐心に燃える自分が奈落の底から這い出てくる。
 だが、それをあからさまにするつもりはない。復讐は時間を掛けて行うのがいい。この娘は自分の正体を報されたとき、いったい、どんな顔をするだろう。それを考えるだけで、復讐は半ば済んだような気がするのだ。それに、神父が言ったことははたして真実なのだろうか。疑ってみる必要性はないのか。
彼女が生来与えられた知性が鎌首を擡げる。それは、夏枝にごく慎重な態度を要請するのだった。

 ここは、確証が得られるまで事実を告げるのは待つべきではないか。
 だが、いったん、這い出てきた復讐心を収めるためには、何か行動する必要があった。それが、彼女がこの時間に台所にいる理由だった。この時点において、核心を彼女に告げる必要はないが、今、手に温めているこのコップを渡す必要はある。

「もう、おやすみの時間でしょう? ホットミルクを用意しておいたわよ。中学に上がる前はお母さまが用意してあげてたじゃない」
「お母さま・・・・・・」
 思わず、数粒の水滴が子憎いまでに美しい瞳からこぼれ落ちる。その水晶の液体には、見る人の憎しみを溶かす効力があるのか、夏枝の心は激しく揺り起こされた。

――――陽子!

「お嫌いになってはいやです・・・・・」

 ごく、控えめに、今度は黄金の唇が震えた。金無垢の便器などという代物を造りたがる金満家がいるが、彼の審美のセンスは地に落ちていると言う他はない。美しいものは目立つべきではない。美しい淑女が身につけるネックレスのようにそこはかとない量で輝いているのがいちばんなのである。
 その点、辻口家の三女の小さな唇は、十分、その価値観に合致している。夏枝もそれに異論がない。いや、それどころか、まるでむしゃぶりつきたくなるくらいの情愛を感じたのである。それは、かつて、胸に抱いた陽子に感じたそれに酷似していた。

――――陽子ちゃん!!

「誰が、貴女を嫌いになんてなるものですか」
「ウウ・・お母さ」
 最後まで陽子は台詞を完成させることができなかった。
 何故ならば、夏枝の胸に口を塞がれたからである。そして、彼女が敬愛してやまない母親から与えられた言葉は金粉よりも価値があった。
「ごめんね、陽子、お母さまはちょっと機嫌が悪かったの」

――うん、うん。

 少女は、珍しく心の中では、母親に対して敬語を使わないことを許可していた。この時はまだ自分がどうして見えない壁を造ってしまっているのか、その理由を知らなかった。
 幸せな嗚咽とほぼ同じリズムで液体の水晶が大きな瞳から零れては、黒曜石の沁みを母親のワンピースに造る。
 しかし、この時、麗しい母娘の間には二万光年ほどの距離があった。同床異夢という陳腐な表現はこのさい相応しくない。それはふたりが置かれた環境と境遇の微妙さに関連している。有史以来、地上にこのふたりほど複雑な人間関係が存在したであろうか。愛憎とはいうが、それはこの二人の間に流れる潮を端的に表現することばに限定されるべきだろう。
 その証拠に、母から娘に渡されたホットミルクには、その毒とでもいうべき一滴が含まれていたのである。
 それを知らずに、あたかも、自分の涙を飲み干すように白い液体に口を付ける。まるで、その液体が持つ温かさが母親の情愛であるという理論を鵜呑みにするように、満足そうな笑みが喉の動きと呼応して豊かになっていく。夏枝はそんな姿を見せられると、胃を直接握りつぶされるような痛みを感じるのである。

―――私ったら、何て事を!? そんな・・ああ、だめ、だめ、全部、飲んじゃ・・・・・・。

 しかし、同時にその可愛らしい顔を潰してやりたいという欲望がその触手を蠢かせてもいる。
 いったい、自分は何者なのだろう。既に母ではないような気がする。そして、女でもないような気がする。いや、人間ですらないような気すらする。
 そんな長崎城主婦人の感傷を破ったのは、コップが置かれる音だった。そして、世にも妙なる音が彼女の耳を楽しませる。
「ごちそうさま、お母さま!」
「そう ――――」

――――いけない。こんな表情をしていたら、ばれてしまう。この子はとても勘が鋭い。無理にでも笑顔を見せない。
 みるみるうちに、陽子の微笑が曇っていく。
「お母さまも、具合が良くないから寝ることにするわ」
「・・・・・・・!?」
 どんよりと曇った空から小雨が降りだした。しかし、それは母親の健康を気遣ってのことであり、間違ってもミルクに対する疑念ではないだろう。
 夏枝は、辻口家の三女がキッチンを後にしたのを確認してから、紙袋に視線を走らせた。そこには確かにこう書かれていたのである。
 リニョウザイ・・・・・・・・と。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 おぞましいものを見たような顔で、それをバッグに押し込めると、自身も寝所に戻るべく足を動かした。


 翌朝、起床した夏枝は今まで感じたことのない頭痛に苦しんでいた。午前五時半、まだ朝食の用意を始めるには早い時間である。だが、あることが気になってたまらずに、寝具から身体を揺り起こした。
なおも寝息を立て続ける夫に、ぎょっとさせられながらも、辻口夫人はたいした音も立てずに室を後にすることに成功した。
だが、廊下の人となった夏枝は、自分とは打って変わってかしましい音を立てる人間を発見した。それは、陽子だった。
 溜まらずに叱責する。
「何時だと思っているの? みんな、まだ寝ているのよ」
「ごめんなさい、お母さま、トイレ」
 知的で上品な仕草は何処かに消えていた。
 パタパタとスリッパに、無駄な歌を歌わせて、少女は向かうべき場所に消えていった。
その時、夏枝の耳を襲う不快なバスが聞こえた。
「どうしたんだ、陽子は、夜中、トイレに行きっぱなしじゃないか」
「何ですって?」
 思わず怪訝な顔に美貌を歪める夏枝。それは一体、どういうことなのだろう。どうやら事態は、彼女の思うとおりにはいかなかったようだ。

 実は、陽子は絶え間なく襲っていく尿意に苛まれていた。午後10時、寝具に入るととつぜん、尿意を感じた。予め、すませてあったにも係わらず、再び、下半身に起こった感覚に悶えた。
 それは、明らかにかつて感じたある感覚に似ていた。親友である財前永和子から借りたきわどい表現に満ちた小説を、読み始めたころに感じたことである。その時、――フランソワーズ・ピアズとかいうフランス人作家の『O嬢の物語』という作品だったが、陽子はその題名を忘れてしまいたかったのだが、網膜に刻印されたかのようにどうしても忘れられないのだ。
 それはともかく、陽子は数頁開いただけで、尿意に似た感覚を覚えたのである。股間を小筆で撫でられたかのような、異様な感覚が身体を這い上がってくる。思わず、性器の周囲を下着の上から押さえてしまったのだが、あの時はトイレに行こうとは思わなかった。直感的に、尿意とは違うことを認識していたのかもしれない。
しかし、その時は迷わず寝具を除けて、トイレに直行していた。普段ならば、寝ている人のことを慮って音を立てないようにするのに、そんな余裕もなかった。

――――いったい、どうしたというのだろう。

 辻口家の三女は焦った。何故ならば、何度トイレに行こうとも、強烈な尿有から逃れられなかったからである。極度に水分を取りすぎたわけでもないように、トイレから寝具に戻ったとたんに、再び、尿意が襲ってくる。
 そのおかげで一睡すらできなかった。
 毛虫が何匹も股間の辺りを這い回る感覚を取り払うことはできない。それが一晩中続いたのである。

 夏枝が朝食の用意をしている間、ずっと、陽子は生あくびを続けていた。そのために薫子にからかわれることがあっても、真剣に相手をすることができなかった。
 眠くて眠くてたまらないのである。
 ベーコンの焼ける匂いの芳しい目玉焼きを、テーブルの上に乗せながら長崎城主婦人は言う。
「どうしたのよ、陽子ちゃん」
「陽子ったら、夜中、トイレに言っていたらしいのよ」
 間一髪入れず、辻口医院の院長が口を出す。
「何? そんなことがあったのか?」
「ええ、お父様・・・・・・・」
 父と娘の会話を聞きながら、夏枝は、内心穏やかではなかった。

―――――何て言うことかしら。眠れなかったなんて。

 臍を噛んだが、かつて、自分が睡眠脈を処方されたことを思いだした。眠れないならば、無理やりに眠ってもらえばいい。それならば ―――――。
 この時、今から利尿剤と睡眠薬を混ぜて飲ませればいいと考えた。しかし、少し考えると、それは適当でないことに気づいた。
 このまま、眠られても計画通りにはいかないし、学校でされても ―――――それもおもしろいとは思うが、しかし ―――――。
 夏枝は、考えたのである、それはまだ先のことであると。
「具合が悪いならば、今日は休んだら?」
「大丈夫です、お母さま、学校に行けます」
 いつもとは違った生気のない顔で、答えた娘は本当に眠そうに見えた。
 院長夫人は、しれっとした顔で娘たちを送り出すと、夫に鞄を渡した。
「行ってらっしゃい」
 その日の過密スケジュールにうんざりしていた建造は妻の顔をろくにみなかった。だから、家族の誰もがこの家の主婦がどんな顔をしていたのか、観察することがなかった。それを陽子の身体の不調と関連づけて考えることをしなかった。-


テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『おしっこ少女 4』


 雨が降っていた。
 午後3時半を回ったところだ。五月は初夏といえ、こんな日は底冷えするものだ。麻木晴海は、ワンピースに付着した水滴に肌寒い思いをさせられながら、ハンドルを握っていた。樹脂製の素材がもたらす感覚に気持ち悪さを感じていた。
 普段ならば、このような手に吸い付いてくるような脈動感が、ドライブの醍醐味なのだが、こんな日は不快なきぶんだけが粟粒をつくりながら肌の上を一人歩きするだけだ。
 やけに手が粘つく。納豆のようないやらしい粘液がねばねばと糸を引いている。

「まったく、もう、露? 一ヶ月以上、季節が早まってるんじゃないの?」
 車内にいる架空の人間に文句を言って、女性警官は苦笑した。しかし、次の瞬間、架空を実在に進化させた結果、美少女が背後に座っているのを確認して、さらに苦笑する。
「まったく、こんなかたちに母校を訪問するとは・・・・・・・それにしても、クククク・・・」
 きっと、ここに精神科医がいたら、入院か、あるいは、そこまでいかなくても三ヶ月の投薬治療を提案するだろう。

 声望学園は、説明するまでもなく私立の学校だ。だから、公立のそれよりもはるかにセキュリティーのチェックが厳しい。そのために、晴海の腕と肩は強い雨のためにしたたかに濡れてしまった。IDを係官に見せるというただそれだけの理由だった。
 ちなみに、卒業生はみなそれを持っている。だが、来校する前に予め報告しておかねばならない。それとIDが一致したときのみ、来客用のゲートが上がる。
 まるで、映画の中に直接入り込んだような気分が、晴海をさいなんでいる。いや、ごく普通に囲むと言った方が適当だろうか。
 ゲートが下がる音、雨音、係官の無味乾燥な態度、それらすべてが、この世のものとは思えない。少なくとも、晴海側に存在する事象ではないような気がする。車の外にあるあらゆるものから現実感というものが欠けている。
 それが生理的な不快感を呼んで、なかなか車外に出ることができなかったが、勇気を振り絞ってドアを開けてハイヒールの足を外に向かってけり出してみたら、雨の冷たさを実感して内心ホットした。

 雨はやはり冷たい。

 自分はたしかにこの世界の住人だ。だが、それに気づいてとして何だろう。いやな記憶に脳下垂体を焼かれようとも、自分はやるべきことをしなければならない。

 車内から紙袋を取り出すと、校内へと急いだ。
 将来の警察官僚は、何らノスタルジーを感じるようなそぶりを見せることなく、外廊下につながるドアを開けると、ハイヒールを脱いで予め用意した上履きに履き替えた。
 光の点滅は ――――。
 それは時間旅行への誘いのように思えた。想像しようもない未来の機械がちかちかと作動している。
非現実的な感覚を振り払おうと歩を早める。しかしながら、リノリウムの床を激しく打つ音は、真冬の朝の顔洗いのような効果を出してはくれない。ハイヒールではないからだ。スリッパのかかとではそうはいかない。
 永遠に溶けない氷の城を護る騎士のように、颯爽と、しかし、生気のない一人だけの行進が続く。何処からか聞こえてくる生徒たちの笑い声や楽器の調律の音たちは、晴海の意識から速やかに除外されるものの、消える五秒前に、 無意識へのせめてもの抵抗を忘れてはいない。
「やれやれ、学校というものはこんな不気味なばしょだったかしら?」
 自分がこのようなところに何年も通っていたとは、とうてい信じられない。それは学校という空間を卒業したとき、彼女や彼らは、もはや、永遠にこのような場所に戻るとは思ってはいまい。何故ならば、未来への期待に満ちるものが、もはや古巣を見返ることなぞないからだ。
 ただし、何年間経って、結婚し、我が子が生まれ、それなりの年齢に生育すると、必然的にあのリノリウムの床に足を踏み入れることになる。

 その時、かつての生徒たちは何を思うだろうか。懐かしいと思うだろうか。それとも不気味な感覚を抱くだろうか。今の晴海のように、かつての自分に疑念を抱くようなことがあるだろうか。
 少なくとも、将来の警察官僚は自分の足にまったく疑問を抱いていないようだ。
 晴海の歩幅は明らかに広くなっていく。あたかも、予め用意された道程を歩いているように見える。彼女にしか見えないレッドカーペットが敷かれているというのだろうか。

 そんな空間と回廊を数分ほど歩くと、トイレのタイルを踏みつけていた。少し、周囲を見回すと携帯に舌を伸ばしながら、ひとつの個室の前に立つ。
 アルトの声を静かに響かせる。
「私だ」
「え? まさか、本当に来てくれたんですか?」
 携帯の向こうからは泣き声に混じって人語らしきものが紛れていた。
「いいから、鍵を開けろ」
「ハイ・・・・」
 留め具が解除される錆びた音から、そうとうの年代物だということがわかる。だが、晴海にとって、そんなことはどうでもよかった。
 狭い個室に囚われた全裸の美少女を眼で捉えると、邂逅一番、言った。

「よくも、携帯だけは盗られなかったな」
「ぁ・・・・」
 少女はあまりに美しかった。その白い肌は完全に周囲から浮いていた。あたかも天使の輝きが乗りうつったかのように密やかな光沢を放っているのだ。あたかも生クリームとチョコレートとアイスで固められた特大パフィーを目の前にした少女のように、奥歯と両手に力を入れていないと、次の瞬間には食指を伸ばしてしまいそうに思えた。
 しかし、頑是無い少女を目の前にしてそんな自分をさらけ出すのは、当然、晴海の沽券に係わる。
 そのために、わざと素っ気ない態度を取る。
「・・・・・・」
 全裸にされた少女にありがちな、胸と股間を隠したその姿は、晴海の勘気に触れた。
―――鳩胸のくせに何よ、その姿は!?
 自分の身体を中に押し込め、再び、錠を施した。
「さて ――」
「ヒ・・・・・」
 佐竹まひるは完全に凍りついていた。だから、晴海の方から働きかけようとした。ただし、溶かそうというのではない。床に叩きつけて壊そうとしたのである。
「答えを貰っていなかったな。どうして、携帯だけは盗られなかったんだ」
「ひ、必死に、後ろに隠したんです、ここに押し込められたときに・・・・・」
「ここで、脱がされたのか」
 まひるは、黙って肯いた。何粒のもの銀色の水滴が汚いトイレに落ちた。晴海は、刑事らしく彼女の言葉を裏付けるべく、美少女の指さした方向を確認する。たしかに、そこには窪みがある。タイルに穴があいているのだ。おそらく、咄嗟に携帯を嵌め込んだにちがいない。
 嘘をついていないと判断しても、そう簡単には納得してやらない。
「咄嗟の判断で、よくもこんなことができたこと?」
「いつも、ここに閉じ込められているんです」
 眼が痛い。なおも晴海の欲望を刺激する光が放たれている。

「で、どうして、私をこんなところに呼び出したわけ? 仕事中だったんだけど。容疑者の家に踏み込むところだったというわけで ――――」
 晴海は嘘を言った。自分の起こした行動によって、どんな風に美少女の表情が変わるのか楽しむだめである。
 憮然とした顔の女性捜査官に、まひるはさらに表情を曇らせた。
「だけど、どうして、ここがわかったんですか? あれだけの説明で? 麻木さん」
「私を誰だと思っている? それは、まあいい。どうして、私を呼んだ? いつものことだろう? いじめられているのは。それとも、今日は特別な日なの?」
 女性捜査官が観察したところ、少女から、微かだが恐怖を読み取ることができた。改めて、彼女の内面を探る。
5月10日が彼女の誕生日であることを知りながら訊いた。
「きょ、今日は、私の ―――」
「それはどうでいい」
「そ、そんな ―――」
 一方的に決めつけられたまひるは、打って変わって、抗議の色を発した。

――その顔よ。私が見たかったのは!

 将来の警察官僚は密かに悦んだ。その目に光が蘇ってきたのである。しょせんは敗残兵の最後の自尊心の類にすぎないが、それだからこそ、強者の自負心を刺激するのだ。だが、全裸でいくら気張っても迫力がないと晴海もようやく気がついた。
持ってきた紙袋を渡す。
 「ほら、持ってきたわよ」
「・・・・・・・・・・・!?」
 まひるは驚きを隠さなかった。それは声望学園の制服だったからである。
 ありふれた紺のブレザーに明るい紫のリボンタイ。奇を衒っていない制服は、学校の方向性が時流に流されないことを暗示している。だが、いかにも人間を同じ殻に閉じ込めようとの腹が透けて見える。それは一種のSMではないか。軍にしろ、警察にしろ、あるいは企業にしろ、制服というのは人間を一定の洞窟に閉じ込める役割を果たす。そこにはすこしばかりの差異は同じ色で塗り固めてしまおうという支配する側の意図が見え隠れする。晴海は別にそれが嫌いではない。ただ、支配する側にいたいと思うだけだ。もっとも、かつて逆の立場にいたことを恥じだと思わないし、快楽らしきものがなかったわけではない。ただ、元に戻ろうとは思わない ―――本人としてはそのつもりである。
 
 だが、目の前の美少女を通じて婉曲的な意味からそれを為そうとしていることに、この怖ろしいほどに知的な人物は気づいていない。

 まひるはなおも晴海を睨みつけているが、それは言うまでもなく虚勢であり、何ら実体があるわけではないが、そういう姿勢を精一杯見せる姿が、女性捜査官にとってみれば頼もしく、あるいは、可愛らしいと映るのである。
 俗に言うならば、やせ我慢という言葉が適当だろうか。
 しかし ―――――。
 そんな哀れな背伸びも、この悪女の前では数分と続くものではない。
「ナ・・・・・・・・・?!」
 少女の小さな口から、身も世もない吐息が漏れる。もしも、我慢というものがある種の液体の量によって示され、それが人体につけられた機械によって計測されるとするならば、そのバロメーターは針が振り切ってしまうにちがいない。
 今、緊張の糸は完全に切れようとしていた。
 目に見えないほどの動きで屈むと被虐のヒロインの股間を捉えたのである。両手で少女の大陰脚に指を伸ばし、小陰脚にまで手を伸ばす。

「はやく着替えなさいよ、それともこうしてほしいの?」
「ィイヤァァァアア・・・・・あああ・・・・・ぁ!」
ま ひるは、見られたくないものを外敵から守るように息をひそめた。全裸の上に性器まで顕わにされているのに、これ以上何を隠すというのだろう。晴海はさらに膣内の探索を始める。
「ぃぅあぁうぁう・・・・・アア・・・ぁは・・・ア」
 タランチュラのような指が少女の胎内で蠢く度に、それらはまひるの敏感な部分を刺激する。そうすると、さしものの高いプライドも砂上の楼閣のように崩れ始める。いや、崩れる瞬間まで追い込まれた。
「あレ?これは何かしら?こんなところにどうしてこんなものが?」
 女性捜査官は演技ではなくて本当に疑問を呈した。少女の膣の奥から米と思われる塊が、まるで寄生虫のように、這い出てきたのである。
「ひい、いや! いや!」
 どうやら、この米には少女が知られたくない秘密が隠されているようである ――――というよりも、それを晴海は熟知しているのである。それでいて、見え透いた演技を疲労した。

「どうしてカナ? まひるちゃんはこんなところから栄養を摂取してるの?」
「ヒィィィィィィィィィィいいい?!」
 性器を蹂躙されるまひるには、もう抵抗する力が残っていないと見えて、晴海の頭を摑みながら翼をもがれて押さえつけられたウグイスのように、可愛らしい喘ぎ声を発している。
「答えなさい、どうして、こんなものがここにあるの?」
「ウ・ウ・ウ・ウ・ウウウ・う・・うう、いや! ウウ・ウ・・ウ・ウウ」
 すべてを知っていながらあえて訊くという行為の残酷さを認識している。ぴょこんと可愛らしく立ちはじめたクリトリスを銃の照準にして、美少女の涙顔を狙い打ちする。ちなみに、銃弾は女性捜査官の視線である。だから、正確を期すならば、レーザー銃ということができるだろう。
 もっとも、現代の科学力ではそのような武器は発明されていないのだが、SFという設定に焼き直せば、それも可能だろう。
 どうやら、被虐のヒロインには、現代武器技術の考証などは不必要だったと見えて、素直に口を開いた。もちろん、それには一回、口を動かすたびに、相当量の涙を必要としたのだが。
「アア・・・あ、そ、それは・・ウウ・・ウ・ウ・ウ、きょ、今日の、お、お弁当です・・・ウウ・・ウ・・ウ・ウ」
「何? まひるちゃんは、こんなところにお弁当をつけて、登校しているの?」
「あぎぃ・・・うう、いや、ぁぁぁ、ま、毎朝、か、彼女たちに、ここに、お、お弁当を入れさせられます・・・・・
「日本語の使い方が違うわね、入れられるんでしょう?」
「さい、最初はそうでしたけど、ウウ・ウ・・ウ・ウ」
「最近では、悦んで入れてるのね」
「ち、違う! よろ、ウウ、悦んでなんかないです!!ウウ・ウ・・ウウ・ウ」
「まあ、いいわ、そんなものをここにくわえ込んで居ながら、授業を受けているわけ?」
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウ」
 もはや人語が出なくなった時点で、矛を収めることにした。
「さ、はやく、着替えなさい、どうしても行かなくっちゃいけない用があるんでしょう?!」
「ハイ・・・・・・」
 もちろん、この悪徳婦人警官の頭の中には、その情報も放り込まれている。
 
 涙を流しながら、あたかも、おもらしをした幼児が母親から着替えを促されるような緩慢な動作で、渡された制服に袖を通す。

――――ふん、身長が身長だけに、ぴったりね。私の制服。

 しかし、どうやらみはるのほうがやや華奢なようで、身体にぴちぴちだった。おかげで、ワイシャツの上から乳首の形がはっきりとわかる。
それをからかうのは簡単なことだが、これ以上いじめると崩れそうに思えたから、ここで打ち止めにすることにした。
「ほら、はやくなさい」
「・・・・・・・・・」
 しかし、鍵が解錠されたとき、晴海はわずか数秒先のことを予測できなかった。
「・・・・・!?」
 それを目撃した瞬間、彼女は目を疑った。
この個室に囚われていた時とはまるで別人に見えた。幼女が大人になった。葉の上を這っていた芋虫が、さなぎを経ることなく、一瞬で、見事な蝶になったかのように見えた。

―――生徒会長とはこういうことか。

 全身に創傷を負いながらも肩で風を切るその姿は、音声だけではとても摑みきれない偉容 ―――――だった。











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