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主人公はu15の少女たち。 主な内容はいじめ文学。このサイトはアダルトコンテンツを含みます。18歳以下はただちに退去してください。
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『新釈 氷点2009 12』

 そこはかとない眠気だった。
 しかしながら、よく考えれば、その理由は明かである。昨夜は絶え間のない尿意のためによく眠れなかったのである。それが今になってやってきたのだろう。
 娘の手が止まったのを確認した夏枝が同じことを繰り返した。
「どうしたの?陽子ちゃん、やっぱり、口に合わない?」
「そ、そんなことないですわ、お母さま・・・・・・」
 娘は何事もないように、スープを口に運び、そして、肉にフォークを刺し入れる。
 だが、美味しそうに湯気を立てる料理にはとんでもない秘密が隠されているのだ。料理を作った彼女だけは知っている。かつて、彼女が小学生のころ、生まれて始めて料理を作ってみたときのように、凄まじい味になっているはずだ。
 味というのは割合の問題である。その配合を少し替えただけでも、美味になったり、あるいは人間の食べるものとはおもえないとんでもない味になったりする。

 あの時作った料理、当時、作ったのもビーフストロガノフだった、それが猫もまたいで食べないほどにまずかったのは、彼女が料理に関してあまりに未熟だったからである。何しろ、わずか11歳の少女が洋書の料理教則本を元にフライパンを振るったのである。
 コンクリートブロックを思わせる厚い辞書を参考に、何処からか持ってきたのか、英語の原書を読んでいる、それも台所という場違いな場所で。
 家族は、一体、家のお姫様が何を始めるのか、気が気でなかった。
 英語を読み間違えたのか、そもそも小学生の夏枝に料理の勘が育っていなかったのか、ビーフストロガノフはさんざんな結果に終わった。
 その時と違うのは、夏枝の分だけ、わざと料理に細工したからである。
 だが、すこし問題があることに気づいた。

 辻口家の三女が、もしも、食べなかったら、仮に食べたとしても薬の成分が効能を示すほどまで達しなかったら、 夏枝が望むような結果を得ることは難しいだろう。

―――大丈夫よ、きっと、この子は完食するわ。

 上品に尖った陽子の鼻梁などを眺めているうちに、実感として、それはやってきた。その根拠が何処にあるのか、彼女はそれを十分すぎるほど知っているはずだった。だが、あえて、それを考えないようにした。
 けっして、これ以上深く考えてはならない。今、自分がすべきことはただ一つ。娘の復讐をすること。できれば、込み上げてくる感情をそのまま両手に反映させてもいい。
 妄想の中では、何度も娘の首に手をかけている。
 今、彼女の細い首はあるかないかの喉仏を作動させている。
 料理とはとうてい思えない刺激が彼女の味覚神経を巡っているはずだ。べつに直接手をかけなくても、彼女を苦しめることはできる。それほどの権力と立場を持っているはずだ。なんと言っても、夏枝は陽子の母親なのだ。
 だが ―――。
 全く、表情が曇らないのはどうしたことだろう。むしろ、微笑まで浮かべて、彼女の悪意を迎え入れている。それはどのような罪も喜んで迎え入れるという、言わば、母の慈愛を彷彿とさせて、すこしばかりぞっとなった。あまりに、自分の母親に酷似していたからである。
 表情を変えずにひどい味の料理を次々と口に入れていく姿には、さすがに、彼女を憎んでいるはずの夏枝もはっとさせられた。
 その健気な姿にほろりとさせられたのである。
 自分で行っておきながら、矛盾する思いに辻口家の北の方は唖然とさせられた。目の前の少女を殺したいと思うほどに憎んでいるのではなかったか。愛おしいルリ子を、この娘の父親は無惨にも口の端に上せるのもおぞましい行為の後、絞め殺したのである。その数十倍もの苦しみを与えてくびり殺してやりたい。いや、何度、殺しても彼女の怨みは一ミクロンとは言え、消え去ることはないだろう。
 ならば、生きている限りこの娘に取り憑いて精神的な苦痛を与え続ける。
 そうルリ子に誓ったはずではないか。
 それなのに、今更、同情するとはどういうことだろう。

 一方、当の陽子は白い仮面の下で、叫び出したい気持を必死に押さえながら、口と舌を動かしていた。
味蕾から送られてくる情報は、あたかも、電撃のように少女の神経を刺激し、口の中のものを吐き出したい衝動に駆られる。すこしでも緊張を解いたら、表情を豹変してしまうどころか、今すぐに立ち上がり、目の前の料理をひっくり返してしまうだろう。そして、大声で母親を怒鳴りつけてしまうにちがいない。
 もしも、そんなことをしたら、今まで、13年間生きてきたことはどうなるのだろう。
 それは彼女を構成する土台すべて否定されることに等しい。
 今、辻口陽子という少女を構成する要素は、もはや、意地でしかない。
泣き叫びたい思いをひっしに押し隠しながら微笑の仮面を被り、いかにも美味しい物を食べているのだと、辺りにまき散らす。もっとも、それを見て欲しいのが誰なのか。それは明々白々だったが、何故か、その答えを出すのは憚られた。
 それは絶対に認めたくない。
 陽子の中で、真実を問いながら、けっして、それを明かにしてはいけないという、矛盾する思いが交錯し、この美しい少女を八つ裂きにした。
 それでも、どうにか苦しみに満ちた食事を終えると、陽子は食器を携えて食器を降ろそうとした。
その瞬間、夏枝は陽子の皿に、それこそ真っ白になるくらいに、何も残っていないことを密かに確認すると、人知れずほくそ笑んだ。
 確かに、彼女は完食した。
 だが、それがどんな意味を持つというのだろう。むしろ、それを見越すことができた自分を恥じた。これでは、完全に母親の反応ではないか。まだ、あの子を娘と思っているのだろうか。そんなことはルリ子への裏切り以外の何ものでもない。
 夏枝は唇をナプキンで拭いた。
 その時、現在生きている、唯一の実子の声が聞こえた。

「ママ、陽子、おかしくない?」
「年頃だからじゃないの?」
 もしも、この二人の性格が逆だったら、彼女はこんなことを絶対に訊いてこないだろうと、夏枝は思わずにいられない。
 それにしても、ここまであの子の性格を把握しているとは・・・・・・。
 それはあまりに長いこと一緒にいたせいだと考えた。ルリ子を殺した犯人の娘などと・・・。
 そんな汚い血の持ち主と一夜でさえ、同じ屋根の下にいることは耐えられない。それを企んだのは誰もでない、目の前で無神経にも煙草を吹かすこの家の主である。
 辻口建造。
 夏枝は、しかし、これ以上、彼と同じ部屋にいたくなかった。あと数秒で喚きたい衝動を止められなくなりそうだからである。
「あなた、お皿、下げますよ」
「ああ・・・」
 夫の皿にはレタスとキュウリが数枚ほど残っていた。
 さすがに、薫子にも気持が伝わったようだ。だが、必ずしも彼女が無神経というわけではない。陽子と変わらない感受性を持ち合わせていながら、簡単にはそれを表には出さない。
 あるいは、出さないために最前の手段を講ずる。

 もしも、さきほど陽子と薫子で立場が逆ならば、「ママ、これ味がおかしいよ」とすぐに口に出すことは予期できる。
 あえて、危ない橋を渡らないことで、自分を巧みに隠すのがこの娘の性分なのである。だが、陽子にはそんな器用な手足の持ち合わせはない。
 さきほど、うまく、母親を煙に巻いたように見えたが、仮面の下はバレバレなのである。だからこそ、なおさら小面憎く思われたのだ。

 そのころ、陽子は自室にいた。
 ろくに電気も点けずに闇の中でただ呆然としていたのである。まるで命綱もなしに無重力状態に放り投げられたような気がする。上下左右の違いすら明らかではない。立っているのもやっとのことだ。
 一体、自分に何が起きているのだろう。食事が終わって以来、いや、食卓について、料理を口にした瞬間から、夢 遊病者のような状態に落ち込んでいた。ところが、そんな少女の心に過ぎったのは、ごく、中学生の少女らしい思いだった。

―――数学の宿題、しなきゃ。

 身近な事象に逃げ込むことによって、変わらない日常がいまも続いていると、自分に言い聞かせたのかもしれない。
 だが、それも長く続かなかった。猛烈な眠気に襲われたのである。行き先を机からベッドに変更せざるをえなくなった。
 少女は寝間着に着替えることすら忘れて、寝具の中に沈むことを望んだ。
―――――。
 彼女を眠りという冥界から叩き起こしたのは信じられない事実だった。
 下半身は温かい、そして、冷たい。
 矛盾する感覚が同時にやってくる不可解さと気持ち悪さに思わず飛び起きた。
 その時に、彼女は、しかし、自分に起こったことを自覚していたのである。
 おもらし。
 それは少女が10年も前に卒業したはずの出来事だった。母親の勝ち誇った顔が見えるような気がする。しかし、 次の瞬間、その映像は雲散霧消し、いつもの慈愛に満ちた母親が彼女を目で抱いてくれた。
だが、下半身から登ってくるおぞましい感覚と臭いに吐き気を覚えた。

―――身動きできない。

「・・・・・・・・・・・・・」
 それは決して起こってはならないことだった。何とかしなければならない。誰にも知られずに処理しなければ・・・・・・・。
 まるで、一時の感情から恋人でも殺してしまった犯人のように、沸き起こってくる感情のために身体が完全に凍りついてしまった。
 だが、理性は働いている。
 現在、彼女に起こっていることが荒唐無稽な洞話のようにありえない出来事であり、ぜったいに現実とは認めたくないことなのだ。もしも、認めたら、下半身を切断されてしまう。そんな恐怖が尿道から入り込み、脊髄を通って全身に蔓延るような気がした。
「ママ、陽子まだ起きてこないの」
「おかしいわね、具合が悪いのかしら・・・」
 何と、姉と母の声が部屋の外から響いてくる。それは死刑執行人の足音だ。いったい、どうしたらいいのだろう。 あの窓から飛び出て永遠にこの家に戻らない旅に出ようか。そんな非現実的な思考の海に泳いでいた。
 だが、彼女の家族はそんな非現実的な海への逃亡を許しはしなかった。
 母親の幾何学的な声が聞こえた。

「開けるわよ、夏枝」

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『おしっこ少女 7』

 釈放、いや、仮釈放される。
 佐竹まひるは、まぶしい光に目を細めながら思った。どうして、「仮」がつかなくてはならないのか。
 それは、自分が置かれている、なおも過酷な状況が彼女にそう思わせている。それは、言わば諦めの心境なのだろう。
 管の類はすべて放擲され、忌まわしい仮面から少女は完全に解放された。しかし、全身をなおも、黒曜石のゴムが覆っている、戒めている、縛っている。少しでも腕や足を曲げようものならば、鉄の重しを持たされているように激しい抵抗が発生する。指の先から足先まで緊縛されている状態となんら変わらないのである。
 ぬめぬめとした半ゲル状の物質から成る生地は、全身の窪みという窪みに情け容赦なく侵入してくる。それは性器や肛門と言った場所でさえ例外ではない。汗と粘液に汚れた生地は、少しでも彼女が動くとコバンザメのように何処までもついてくる。
「ぁあぁああ・・・・・ァァァ」
 思わず飛び出た声は言語を構成できなかった。
「そんなに気持ちいいのかしら?」
「・・・・・アア・ア・・ア・・・アアア、ああ!?」
 目の前に美貌があった。
 辺りを見回してみると、ここが寝室であることがわかった。彼女が寝かされているベッドは地平線まで続いているのではないかと錯覚するくらいに広い。
「起きあがってみようか」
「え? ぁあぁああ?!」
 それだけのことで、性器に激しい刺激が加えられる。

「ふふ、これにも慣れてもらわないとねえ」
 予想だにしない残酷な言葉が振ってくる。しかし、そんな少女を驚かせたのは、目の前に大型の鏡台が設置されていることだった。
 ぐじゅぐじゅという気色悪い音とともに少女の華奢な体躯が起こされると、鏡には自分の姿が映し出されていた。 肌に黒い塗料が塗られているように見える。それほどまでにおぞましい衣装は少女に密着し、その身体に同化しつつある。
 それは人間と衣装の主従関係を完全に逆転させていることを意味する。まひるが何とも形容しがたい衣服に奴隷にされ食いつくされようとしているのである。被虐の少女はそれにせめても抵抗をしようとひたすら足掻いている。

 もっとも、驚いたのは乳首と性器である。芽乳房としか表現しようがないほど未熟なイチモツながら、両側の胸に立派に鎮座ましまして、互いの45度の角度でロンパリを見ている。その姿が顕わに生地の上に出ているのである。 微妙な凹凸をリアルに表現されている姿を見るにつけ全裸よりも全裸という表現がまことに似つかわしい。
 それよりも、少女を行動に移させたことがある。
「ぁ?!」
 思わず可愛らしいヨダレを垂らしながら、股間を両手で覆おうとした。
 しかし ―――――。
「ぁ、アアアグウウ・・・ぁ、ハア、ハア、ハア」
 言うまでもなく、全身をくまなく覆った生地はある一点の動きを即座に全身に送る。
 簡単な物理の法則である。
 その動きによって、余計な刺激が少女の局所に加わった。それでも、最初の目的を完遂させないわけにはいかない。
「ァアァァ、お、お願いですから、み、見ないでください! イヤヤヤッヤヤッヤ・・・・あああ!?」

 目を瞑っても、黒光りする性器の映像が消えない。襞の細部までがリアルに再現されていた。少女の幼い性器は、 無惨にも押し広げられ生地の圧力によって歪んでいた。内部がどうなっているのか、誰でもない、まひる自身が熟知しているはずだ。
「あら、あら、どうして隠すの? まひるちゃんの一番大切なところでしょう?」
「だって、だって・・・・ウウ・ウ・ウ・・ウ・ウ!?」
 寝具を経由して少女の背後に回ると、自分の膝に彼女の尻をすとんと乗せた。
「ァアァググウ・・・・あアアウウ・・ウ!?」
 そんな些細な動きでも、現在の少女には数トンの威力と変わらないように感じる。
「ほら、足を広げてごらん、面白いものが見られるわよ」
「グググウグググ・・・・ウン」
 100メートルダッシュを連続で数回やるような気持で、両足を動かす。だが、晴海を満足させるのには、まだ数キロの距離がありそうだ。
「こ、これ、これ以上は・・・ハア・ア・ア・ア・アああ、む、無理です、ゆ、許してクダサイ・・・・うう」
 赤ん坊のように涎を流して喘ぐまひる。その様子にかつての誇り高い少女の姿は微塵も感じられない。

 だが、その姿に微塵でもその痕跡を探そうとして、晴海は情け容赦ない鞭を振り下ろした。
「開くのよ!」
「ぐぐあうあ!」
 一瞬だけ、小熊を殺された母熊のような声を出した。完全に被虐の少女の視界をホワイトアウトが襲った。まさに地平線まで続く大地が雪原で覆われたのである。いや、天と地の区別すらつかない、そして太陽が何処にあるのかも判然としない、不毛の大地にただひとり立たされたのである。
 唯一、彼女に残された命綱は女性捜査官の残酷な長い指爪だけである。
 その指で、少女の股間が蹂躙される。
「ひ、ひひ、さ、触らないで・・・・ああっっ!!」
「ほら、見てご覧なさいよ、まひるちゃんのいやらしいおまんこが丸見えよ、ほら、こんな細かい襞まではっきりと見えるでしょう?!」
「ウウ・ウ・・ウ・ウ!?」
 無理矢理に、顔をこねくり回され、閉じようとする目を開けさせられる。
「ぅあ、ぅあ・・・・ああ・・・あ」
 まひるの眼前には、漆黒に塗られた性器が、身体が、妊娠中毒になった雌蛇のようにのたくり回っていた。
 
 しかし、それは他ならぬ彼女じしんだと言うしかない。他ならぬ佐竹まひる以外の何者でもないのである。
「見てごらん、こんなにはっきりとまひるちゃんご自慢の場所が見えるわよ」
「そ、そんな・・・あうあう・・・そ、そんなにしちゃ・・あぁぁぁっぁあぁ!?」
 辛辣な指が少女の局所にめり込んでいく。
「本当に、好都合な衣服よね。まひるちゃんの汚らしいココも、素手にいじめることができるわ」
「っそ、そんな・・・・・・・あ・あ・あ・あ・・っ?!」
 予想だにしなかった言葉が信頼しつつあった相手から発せられる。しかしながら、その一方、その言葉の一部が温かく自分に染み込んでくることを否定できずにいた。
「いじめ」
 安藤ばななたちにされていることを、決して、その一言に収斂させたくなかった。もしもそんなことになったら、 辛うじて保っているプライドが一瞬にして崩れてしまうように思えた。
 その瞬間、何故か、ばななのイヤラシイ声がまひるの耳に響いた。
「いや!ぁぁあぁああぁ・・・・あああぁぁああ!?」
 思わず腰をひねった瞬間に、性器の中に生地と晴海の指がまともに食い込んだのである。
「あら、自分から望むなんて、本当にイヤラシイ子になったわね、いや、もともと、変態だったのかしら?」
「ち、ちがいます!ッウウ・ウ・・ウ・ウ・・・・・うう、はあ、は、お、お願いですから、もう許してください・・・」
 
 晴海は、目敏く自分の奴隷が何をしようとしているのか、完全に見抜いていた。
「誰が脱いでいいって言ったのかしら?」
「・・・・・・・・」
 ただ、激しく首を振ってイヤイヤをする。
 それは完全な否定なのか、その逆なのか晴海は判断する前に欲望に従うことにした。
「答えなさい、誰が脱いでいいって言ったの?」
「だ、誰も申してません・・・・」
 古びた機械仕掛けの人形のように、少女は口をただ動かした。その中でどのような歯車と歯車が作用しあって、ひとつの動きを産み出しているというのか。
「そうねえ、なら、どうして脱ごうとしたのかしら? もっとも、永遠に自分の力じゃ脱ぐのは不可能なんだけど」
「え?」
 阿呆のように口を開けたままの美少女に、晴海は宣告するように言った。
「空気を抜いて圧縮しているってことは相当の圧力がかかっているのよ、それを打ち消すためには空気を入れないとだめなの、私の許可なしには永遠にその中にいてもらうことになるわ」
「そ、っそんな・・・・・」
「だけど、もう、そんなことはどうでもよくなったの。いいわ、脱がしてあげるわ」
「え?」
 思いもよらず冷たい言葉に唖然となるまひる。
「ほら、来なさい、空気を入れてあげる」
「ひう!?ぃ、痛い!!ぁ」
 長い髪を乱暴に摑まれ、引っ張られながらも、さすがは鋭敏な少女ではある。主人の意思をほぼ正確に見抜いていた。次に言われる言葉まで予知していたのである。
「ぁぁああ。そ、そんなの、いやです!! お、お願いですから、まひるを見捨てないで、見捨てないでください!!」
 その言葉に晴海はその美しい肢体に優雅な曲線を描かせて止まった。
「じゃあ、永遠にそのままでいいの?」
「ウ・ウ・ウウウ、ご命令があるまでは ――」
 晴海は、満足そうにほくそ笑むと少女の頭を踏みつけながら訊く。
「私の言いたいことがわかってのね、可愛らしい子猫だわ」
「・・・・・・・・・・・・・」

「じゃあ、私の言うことならなんでも従うのね」
 女主人は奴隷の意思など忖度しない。
「なら、着替えてもらうわ、私と一緒にしてもらうことがあるの、早く、制服に着替えるのよ、その恥ずかしい身体を覆い隠すの」
 制服が何処からか飛んできた。汚れた制服。度重なる安藤ばななたちのいじめによって汚され、本来、彼女が信頼するべき旧友たちから浴びせかけられた罵声によって汚された、哀しみの汗と涙が沢山含んだ制服である。
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・・・・ウウ・・・・うう!?」
 ただ、大粒の涙が両の目からこぼれ落ちるだけである。
 だが、哀れな奴隷に非暴力、不服従の権利などあるはずがない。
「さっさと着なさい!」
「ハイ・・・・ウ・ウウ・・・ッッっっああああ」
 まるで全身に釘が打たれているかのような仕草だった。ただし、少しでも動くと全身に響くのは激痛ではなくて、官能だった。もっとも、その意味をまだほとんど理解できていないレベルにすぎなかった。
 だが、性の意味について、女性に生まれてきたことの意味について、無意識のうちに何事かを摑んでいることは確かだった。
 それを見切った女性捜査官は、飢饉で我が手を喰う封建時代の絵のような、自分の奴隷に、にべもなく言いはなった。
「これから、テニスをしましょう。夜でもできるコートがあるの。あなたの妹さんがプロを目指しているんでしょう?義姉さんが言っていたわ」
 それは、安藤ばななの脅迫にも符合することだった。


 


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『新釈 氷点2009 11』

 辻口陽子が帰宅したのは昼食を母親と取った後だった。本来ならば、仲のいい母娘がどういう理由からか始終無言を通していた。そのレストランは辻口家に馴染みの店だったために、普段と違う二人の様子を目の当たりにして店主は不思議に眺めたものである。
 二人の頭の中はまったく違う考えが支配していた。母親は娘に対する憎しみと愛に引き裂かれ、娘は、かつて、経験したことのない羞恥心に身を焼かれて、まさに自愛の最中だったのである。
 だから、二人は同じレストランにいようとも、アフリカとアラスカに別れているのも同様だった。

 だが、辻口家の三女は帰宅して、室内用のスリッパに右足を挿入したとたんに、母親に対して自己主張するという、彼女の性向からすれば実に革命的な出来事を起こした。
 母親の背中に向けて言葉の矢を放ったのである。それはひとつの壁に見えた。しかも、シベリアにあるという強制収容所の壁のようにも見えた。しかし、思い切って声を張り上げた。なけなしの勇気を絞り出したのである。

「お、お母さま、もう、あの先生はイヤです!」
「・・・・・・・・・・・」
 長崎城主婦人は静かにふり返った。しかしながら、陽子にとってみれば完全武装の軍人よりも威厳と迫力を感じることができた。
「何ですって?」
「お、お母さま・・・・・」
 夏枝は一冊本を大事そうにでもなく両手で抱えている。何気なく見えたその題名と著者の氏名が、陽子に恐怖を植え付けた。
『夜尿症と精神療法』小松崎郁子著。
 
 その中でも精神の2文字が、辻口家の三女の心に言いしれぬ恐怖を含んだ闇をしのばせる。精神病院を連想させる。それは少女にとって刑務所と同義である。それに係わる人間に係わることすら、高圧電流を直接心臓に当てられるような痛みを感じる。
「お、お母さま・・・・」
 いつしか、少女は涙ぐんでいた。哀願という言葉がまさに相応しい。しかし、母親はにべもなく、言い渡した。
「いいえ、だめよ、先輩が何よりも的確だと思うわ」
「だけど、私はお漏らしをしたわけじゃ・・・ヒ!?」
 ようやく芽吹いたばかりの反抗心は、母親の美しすぎる手によって阻まれた。陽子のかたちのいい頬に張り手が炸裂したのである。
「ウウ・・・・・・・ウウ・ウ・ウ?!」
 優しい、いや、あんなに優しかったはずの母親の急激な変容に、陽子は自分の体液がすべて急速冷凍されてしまった。
「お、お母さま・・・・」
「わかったわね?」
「・・・・・・」
「返事は!?」
「ハイ・・・・」
 それらのやり取りがあって、陽子はようやく首を縦に振った。もしも、このまま拒否しつづけたら、もう二度と母親から笑いかけてもらえないと思ったのである。しかし、もう陽子の方に一度も振り向くことなく自室に戻っていった。
 辻口家の三女は、その背中に声をかけることすらできずに佇むだけだった。泣いたらいいのか、笑ったらいいのか、大変判断に苦労する。いや、感情という土台そのものが崩れ去っていくような気がした。
 そんな時に、彼女の肩を叩いたものがいた。
 ちょうど、学校から帰宅した薫子である。

「きゃ・・・・」
「どうしたの? まるで痴漢にあった女の子みたいな顔をして ―――」

――――私は女の子ですわ。

 辻口家の次女は、そのよう返ってくることを期待した。
そうしたら、こう答えてやるつもりなのだ。

――――まあ、姉を痴漢呼ばわりするなんて、なんて非道い妹かしら?

 しかし、薫子が見たものは、ポロポロと涙を流す妹だった。可愛らしい妹の変容に驚いた姉はその理由を問わずにはいられない。
「一体、何があったの?」
「・・・・・・・・・・ウウ」
「陽子?」
「・・うう・・うお、お姉様・・・ウウ」
 30秒ほどして得られたのは、妹の自分を呼ぶ声だけだった。
「とにかく、部屋に入りなさい」
「だ、大丈夫だから・・」
「陽子!」
 妹の二の腕を捉えた瞬間、理由を質されると予感したのか、彼女は涙を拭って自室に逃げ込んでしまった。この時、妹が自分に対していつものように敬語を使わなかったことに、ついに気づかなかった。だが、妹の変化を無意識のうちに受け取っていたことは事実である。それを感情に表すのに、方頬の筋肉を微かに動かすことしかしなかった。

―――たしか、ママと病院に行ったはず。

 薫子は母親を捜しに家の奥へと足を速めた。
はたして、母親は広いリビングにいた。
 彼女が尊敬して止まない母親は、優雅な仕草でハードカバーの本を操りながら、ソファに身体をうずめていた。
「探したのよ、ママ」
「薫子・・・・」
 辻口家の長女は驚いた。いつの間にか10才も老け込んでしまったかのように思えたからだ。一体、病院で何があったのというだろう。
「陽子に何があったのよ」
だが、口を開くといつもの美しい母に戻っていた。だが、安心する暇もなく彼女の口から予想だにしない言葉が飛び出てきた。
「薫子、ねえ、あなたは私の娘よね」
「何を当たり前のことを言っているのよ!」
しっかりしてよ!という気持で言ってみた。
「ねえ、見て・・・・」
 そう言って震える手で一枚の写真を指しだしてきた。なんと、あの母親の目には涙までが滲んでいるではないか。
 その震える手が示した写真は、薫子の目にはもはや過去そのものでしかなかった。

「ルリ子・・・・」
「そうよ、この子も私の娘よ・・・・・」
「ママ!?」
「薫子、どうして、そんな目でママを見るの?」
 いつの間にか、顔を奇妙なかたちに歪めていたようだ。母親の前では感情のコントロールがいまくいかなくなって当然だろう。
 常に自制をモットーにしている彼女が立てこもる城の一角が崩れた。
 夏枝は矛先を替えようとしているようだ。
「薫子、あなたは私によく似てる。確かに、私の娘だわ!」
「マ、ママ、止めて・・・・・・」
 夏枝はその上品な手の中に娘の顔を収めると、自分の眼前に近づけた。母親特有の香水の匂いが嗅覚神経を刺激する。においというものは、五感の中でもごく原始的な部類に属する。それは自ずと幼い記憶を想起させる。
その香水は、長女が産まれる前から使っていたものである。だから、イコール母親という図式が彼女の中に生まれていた。
 間近にある母の薫りは、かつて、彼女が可愛がっていたルリ子のことを否応なしに想い出させる。だが、彼女のイメージが完成する前に、自らそれを断ち切ることにした。
「ママ、陽子もママの娘でしょう!?」
「・・・・・・・・」

 夏枝は、鼻を摘まれたような顔をした。心なしかロンパリになった目は、無機質な光を放ち、その美しい顔をひとつの彫像に仕立てている。
「ママ?」
「・・・そうね」
 ただそう一言零しただけで娘から両手を話すと、すくっと立ち上がった。
「ママ・・・・・・・・・」
 まるで夢遊病者のように夏枝は立ち上がると、彼女が唯一の生きている娘だと認める薫子に背中を向けた。そして、キッチンへと消えていった。
 娘は声を再びかけたいと思ったが、処刑場に追い立てられる魔女のように肩を落として歩くその姿に、辻口家の長女はとてもそんな気にならなかった。
ふと彼女の目に入ってきた四角い箱がある。
それは、一冊の本だった。
『夜尿症と精神療法』小松崎郁子著。
「これは?」
 美少女はレンガと間違えそうな本を抱えると、ページを捲り始めた。

 一方、長崎城主婦人は、片隅にある買い物籠をひたすら睨んでいた。その籠に肉や野菜等々が盛られるのはその約一時間後のことである。それは家族の幸せを暗示しているはずだった。籠から飛び出たネギは、ランドセルから飛び出たリコーターに煮て、幸福の歌を歌うはずだった。
 その日も、あくまで表向きは、幸福な晩ご飯が始まっていた。
 その中心に辻口建造がドカっと座っている。本人はその気はないのだが、自然にそうなる。元来、建造は両家の坊ちゃんらしく鷹揚に育ったためか、一家の主人として威勢を貼ることを好かなかったが、妻である夏枝によって本人の知らないうちに、そのように仕立てられていった。言わば、洗脳ということができるだろう。
 高級な木材として有名すぎるくらいに名を馳せる、マホガニーの楕円形のテーブルの上に、美味しそうな湯気が立った料理がのっていく。設置された席は四つ。それは辻口家の不動のメンバーのはずである。
だが、まだそれが揃っていない。

「陽子はどうしたのかしら?」
「気分が悪くて寝ちゃったらしいよ」
 薫子の言葉が終わる前に、辻口家の末っ子が顔を出した。
 先ほどと打って変わって可愛らしい、元の彼女に戻っている。
 長崎城主は、外見には聖母マリアの仮面を被って、その実、心に鬼火を灯した。

―――なんて、憎らしい、図太い子かしら? もう、元に戻っちゃって!!

 だが、母親の観測はあくまでも表向きにすぎない、大変浅い洞察に留まっていた。
 表面上はいつもと変わらない可愛らしい笑顔を保ちながら、その実、5才の幼児の泣きじゃくった顔を隠匿していたのである。
 こうして、互いに仮面を被った母、娘の食事が始まった。
 今夜の主菜はビーフストロガノフ。
 白いパスタと焦げ茶色の牛肉のコントラストが食べる人の食欲をそそる。
「まあ、お母さま、美味しそう!」
 つい、この前ならば、母親を心から喜ばせそうな笑顔をばらまくと、両手を可愛らしい仕草で合わせた。
「さあ、いただきましょうよ」
 まず最初に建造が、試食のように口に料理を入れる。その結果、生まれる表情の変化は、今更だが、夏枝の料理の腕を証明するものである。
 それに気をよくしたわけではないが、二人の姉妹も同じ行動を取る。だが、その内面構造はまったく違っていた。
 ちなみ、三女がスプーンを料理に挿入し、かつ、自分の口腔に送る作業をまるでストップモーションのように、夏

 夏枝は目を皿にして事態を見つめていた。それに三女は気づかなかった。いや、気づく余裕はなかった。
「・・・・・・・・・!?」
 細心の注意を払って、陽子は自分の本心が外に漏れるのを防ごうとした。しかし、それは完全に行うことは不可能だったようである。
 それもそのはず、その理由を彼女は知っているのだから。
 夏枝。
 彼女が自らの意思によって、それを行ったのである。

 スプーンを口に入れたとたん、食べ物とは思えない味が口の中に広がった。予想だにしない塩味とこしょう、その他、聞いたこともない香料が一斉攻撃を仕掛けてきたために、少女の味覚神経を異常に刺激した。

――― 一体、何が起こったというのだろう。

 混乱は混乱を呼び、あくまで一瞬だけだが、少女は、自分がどのような名前で、自分が何処にいるのかという根本的な認識すら奪われてしまった。
 陽子の中で何が起こっているのか、熟知している夏枝はいとも簡単にこう言ってのけた。
「どうしたの? 陽子、美味しくない?」
「そ、そんなことないですよ、お母さま、とっても美味しい」
 夏枝の予想に反して、この娘は満面の笑みを浮かべて、母親に報いた。
 しかし、じっさいは、心が破裂しそうな思いを味わっていたのである。できることならば、恥も外聞もなく、母親にしがみついて抗議したかった。だが、そうしてしまったら、この事実を認めることになる。自分の料理の味がおかしいこと、そして、それが故意に行われたこと。

―――これは事故なのよ!きっと!!

 陽子はこう確信した。そうでなければ、今まで築いてきたものが一瞬で崩れてしまうように思えた。彼女にとって敬愛してやまない母親は、精神構造の柱のひとつを為すものだった。いや、大黒柱そのものだったのである。

―――これは何かの事故!きっと、そう!!変わらずに自分を愛してくれている! 絶対に!!

 辻口家の三女は、ひたすらにそれを祈らざるを得なかった。口腔内が腐ってしまいそうな苦痛と惨めさに堪え忍びながら・・・・・・。
 だが、同時に異様な感覚が脊髄に走るのを感じていた。

 それは ―――――。



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『新釈氷点2009 10』


 翌朝、渋る陽子を説得して病院に行かせることになった。
 その任を担ったのは、言うまでもなく長崎城主だった。午前10時に、母親である夏枝が連れて行くことになっている。
 新緑がかまびすしい季節なのに、車内は零下になっていると、陽子は思った。
「お父様ったら、どうして、こんなに心配性なのかしら」
「陽子、あなたのことを思ってのことなのよ」
エンジンにキーを差し込みながら言った。夏枝は思う。

――――どうして、建造!? あなたはこの子が誰の娘なのか、わかっていたんでしょう!?それなのに、よくも父親面して、私の前に立てたわね!?

 陽子は、母親がそんなことを考えているなどと露ほども思わずに、窓に描かれた煙突状の建物を指でなぞっている。
 九州は北の大地。山の向こうには地平線まで続く牧場がある。牧場にはサイロなる建物が存在するのは、必定である。

 ろくに聞こえもしない牛の声を聞きながら、辻口家の三女は母親との気の乗らないドライブに興じている。
 病院、それも泌尿器科に連れて行かれるという。
 となると問題はただひとつ。  
 陽子はそれを口に出さずにはいられなかった。
「お母さま、もしも、男の先生だったら・・・・」
「大丈夫よ、女性の先生だって、お父様も請け合ってくれたじゃない」
 長崎城主婦人はこともなげに言う。

――――男の医者だったら、さぞかし面白かったのに。どうせなら、あそこの病院にしようかしら。

 たまたま、バックミラーに映った見知らぬ病院に視線を走らせた。泌尿器科とある。医者は圧倒的に男性が多いことから、十中八九、女医ということはないだろう。
 夏枝は、髭だらけのいやらしい医者に陽子が陵辱、いや、診療されることを想像した。大きく大腿を広げさせられて、他人に見せたこともない局所を異性に触れられようとしている。今、彼の手先が狂って、陰核に鉗子が触れてしまった。清楚な少女は瞬く間に、インランな売女に成り代わってしまう・・・。
 その瞬間を想像した瞬間、夏枝の中の母親が顔を出した。
「そんなことない! そんなこと絶対にさせてなるものですか!! 私の!!は・・・・・!?」
「お母さま!? どうなさったのですか? もう信号は青ですよ」

―――わ、私ったら、白昼夢? でも、どうして、こんな憎い娘にやさしくできたのかしら? 

 そう思うと、自分が許せなくなった。ルリ子のことが陽子に知られて以来、彼女の写真が辻口家に戻ることになった。この新車も例外ではない。隅に置かれた目に入れても痛くない実娘の肖像を見つけた夏枝は、臍をかんだ。
 
―――こんな子なんて、どうにでもなればいい。あんなひどい罪を犯した娘に人権なんてあるわけないわよ。
ブレーキが壊れんばかりに、踏みつけながら心の中で叫び続けた、陽子に聞こえないように。

 やがて、見慣れた辻口医院の建物が夏枝と陽子の視界に入ってくる。

「ああ、辻口先生の、ですね」
 受付に行くと、その一言で長蛇の列をはねのけて、母娘は医師の面前にでることを許された。
 驚いたのは夏枝だった。
「小松崎先輩・・・・・・」
 意味深げな展開に、思わず両目がロンパリになってしまう。医師が期待通り女性だったことを密かに喜んだ陽子は、ちょこんと小さな顔を下げた。
 そのあまりの可愛らしさに微笑んだ女医の顔は、ふつうでなかったが、当の陽子は頭を下げていたために、確認することはできなかった。
 だが、彼女の母親はその姿をとくと目の当たりにする。思わず、蘇る不快で陰湿な記憶に眩暈を覚える。しかし、一方、別の考えにほくそ笑むのだった。

―――これは使える。陽子をあの不快さを味合わせる。そして、血筋に相応しい罰を与えてくれるわ。

 夏枝は女医の目をみながら思った。
「小松崎先輩、九州に戻っていらしたんですか?」
「ええ、辻口さん」
 猫のような笑みを見ると、その思いを強くした。

―――やっぱり、全然、変わってない。

「ご本まで出版されたとか」
「ええ、夜尿症に精神科医的な視点を組み込んだよ」
「え? 精神科ですか?」
 他人事のように聞いていた陽子の目の色が変わる。そんな少女に女医はやさしい言葉をかける。
 女性だてらに銀縁のメガネをかけたその姿は、何処か太った大根を思わせる。
 外見を科学的に測量する以上、それほど太っているようには判定されないだろうが、実のところ豚にしか見えない。
 肥大化した女の精神が見る人に歪ませて見せているのかもしれない。
 それを補強しているのは目尻や鼻筋にできた複数の皺である。それを見つけると、もはや、隣に座っている母親と同世代にはとても思えない。彼女は30代前半と言っても十分通用すると、陽子は自負してきたのだ。それに比べると、これから少女を診察する女医は、50を優に超えているとしか思えない。
 名前を小松崎というらしい。
 だが、女医の名前よりも少女が気にするべきことがある。
 精神科という衝撃的な単語が問題なのだ。
 ところが、娘の窺い知れないところで、いつの間にか、夏枝までが色を失っていた。それは彼女の中で息づいている母親の顔である。

「先輩、精神科医の見立てが必要なんですか?」
「辻口さん、それは精神科に対する偏見よ、私が留学していたアメリカでは、歯医者に行くような感覚で、メンタルクリニックに行くのよ」
「メンタル?」
「精神科医院のことよ、お嬢さん。私はアメリカの精神科医の免許も持っているのよ」
「でも、わたし・・・・」
 もしも、学校や友達に知られたときのことを考えると思わず涙目になってしまう。
 一方、猫の目のように心境が変わる夏枝は、早くも別のことを考えていた。このような苦しめ方があるとは思わなかった。ただし、辻口家の娘が精神科医に通ってるなどと、外聞が悪い。それは十分留意しなければならない。
「先輩、くれぐれも外部には」
「わかっているわよ、私は精神科医的な視点って言っただけよ。まったく日本はだめね。さ、診療を始めましょうか、お嬢さん」

 いったん、憮然とした女医だったが、可愛らしい夏枝を見るとすぐに表情が元に戻った。
「ひどい尿意に苦しんでいるのね」
 陽子は女医の言葉を遮るように言った。
「わたしは、おねしょをしたわけじゃ・・・・・ないんですけど」
 ほとんど消え入りそうな声だった。上品な顔を真っ赤にして必死に声帯を震わせる。しかし、後半部はほとんど聞こえなかった。

「わかっているわよ、そうならないように、診療しているんじゃない」
 だが、女医の言葉に隠れて次のような言葉が発されたことを、陽子は知らなかった。

――――何、今晩にはそうなるのよ、陽子。

 ぷるぷると震えて縮こまった娘の影で、そんな悪魔的なことを計画していたのである。だが、彼女が現在考えていることはべつのことだった。
「先輩、直接は診てくれないんですか」
「え? お母さま?」
「そうね ―――」
 女医は意外そうな顔をした。しかし、すぐに満面の笑みを大根頭にはり付けると、こう言い放った。
あそこの処置台に乗ってちょうだい。
「な!?」
 彼女が指さした先には奇妙なものがあった。緑色のベッドに奇妙なアンテナがついている。アンテナにはベルトがついている。
 泌尿器科というキーワードから、そのアンテナが何を意味するのか、鋭敏な陽子には想像することができた。いや、できてしまったと表現するほうが適当だろう。これから、辻口家の三女が辿る運命を検証すれば、優れた知能は人を必ずしも幸福にしない例証になるにちがいない。
 話はかなり脇道にそることになるだろうが、死刑という刑罰がいかに残酷かということは、それが予告された死であるというただひとつのことに尽きる。怖ろしいことを予見できてしまった以上、目的地までの道がいかに救いのないことになるか、容易に想像できるだろう。
 アウシュビッツ行きの囚人たちが目的地について何も知らされていなかったことは、彼らにとって何よりの救いだったにちがいない。
もしも、知っていたら、おとなしく旅を楽しむなどということが、可能なはずがなかった。

 閑話休題。

 今、陽子はその優れた資質によって、怖ろしい未来を予見してしまったのである。

―――お、お母さま、助けて!

 無言のうちに、そして、無意識のうちに、夏枝の背中に逃げていた。
「陽子、先輩に診て貰いなさい」
「ハイ・・・・・・・」
 瀕死の状態まで働かされた挙げ句、ガス室行きを宣告されたユダヤ人のように、美少女は女医の前に出た。

――――まるで、五歳の女の子みたい。可愛らしいわ。

 女医は自分の頬笑ましい想像の中で涎を垂らした。
 陽子にもはや抵抗する気力はない。
 そして、死刑執行のひとことで脂で汚れた唇が震えた。

「さあ、下着を脱いであそこに乗りなさい」

 ベッドの横には、『EX-URO』という文字が書かれている。それは陽子から人格を失わせ、単なるものにしてしまうように思えた、
 女医は、さらなる脅迫の言葉を続ける。
「さあ」
「お母さま!」
 最後の助けと、少女は母親を呼んだ。そのコトバにはふたつの意味が隠されている。ひとつには、ここからいなくなってほしいという意味と、自分の手を握っていてほしいという意味である。
 それを要約すれば目を瞑って手を握っていてほしいということである。ただし、そんな都合のいいことはいえない。
 陽子は整った容貌を不自然に歪めて、おずおずと下着を脱ぎ始めた。

 辻口家の三女が下着を脱ぎ終わると、背後から音もなく現れた看護婦がそれを奪ってしまった。少なくとも、少女からすればそのようにしか受け取れなかった。かなり非難というスパイスが彼女の視線には含まれていたはずである。
 しかしながら、その看護婦はあくまで事務的に行動した。
 少女の肩に触れると抵抗する間も与えずに、座らせてしまった。

「先生 ――」
 そして、スカートを引ん剥いてしまったのである。そして、少女の無理矢理に開かせると、足首をアンテナにそれぞれ皮のベルトで固定してしまったのである。
「ああ・・・・・」
 思わず、可愛らしい顔を両手で隠す陽子。同性とはいえ、3人の視線に局所を晒されているのである。自分ですらまじまじと見ることがない、その文字通り秘所である。それをあられもない姿で晒している。
 それは、少女にとって耐え難い恥辱だった。しかも ――。
「安心してください」
 看護婦の事務的な言葉、まったく抑揚が感じられない電気仕掛けのような声である。ほら吹きの永和子が言っていた機械声がそれに当たるだろうか。彼女は誰も考えないことを空想するのが得意な少女である。近未来には、LPレコードがわずか10センチの円盤に収まってしまうとか、電話を歩きながら使えるとか、夢みたいなことを言っている楽しい友人なのである。
こんな絶体絶命の時には、彼女を思い浮かべるのがいい。
 しかし、彼女になら見られてもいいだろうか。 
 思えば、さいきん、こんなことを言われた。

「ねえ、陽子ちゃん、オナニーって知ってる?」
 もちろん、彼女はこう答えた。
「知らないよ、そんなこと、オナ? だって?」
 思わずうそぶいた少女だったが、性器の周囲を刺激すると快感のような、あるいは、胸をときめかすような、そんな奇妙な感覚が身体に起こることぐらいは知っていた。そして、それが人に知られてはいけないこともわかっていた。

――――永和子ちゃん、助けて!

 気が付くと、椅子に座った小松崎女医が陽子のスカートの中を伺っていた。そして、そのかたわらには夏枝が同じところを覗いていた。
「お、お母さま、み、見ないでください」
「何言っているの、お母さまはあなたのおむつを替えたのよ、お尻の穴まで見てるのよ」
 微笑を浮かべた母親が鬼女に見えた。あんなに優しい聖母のような夏枝は一体何処に行ったというのだろう。
「さあ、調べるわよ・・・・」
 意気揚々と手術用の手袋を嵌める。
 無機質な素材どうしがセックスする。それは、ぎゅぎゅっという音だ。
 わざと恐怖を自分に見せつけているような気がした。その勿体ぶった仕草は、何処か芝居じみていた。まるで、おいたをした子供を躾るために鞭を用意する19世紀の親のように見えた。
ビニール質に覆われた指が少女の局所に触れた。

「ヒイ・・・・」
 思わず声をあげる陽子。とたんに、六つの目が彼女の方向に注視してくる。そこが熱くなって火を噴く。

 次に目を開けたときに驚いたのは、女医がペンライトを看護婦に持たせていたことである。それは、少女の目を潰した後、局所を照らした ―――と思った。当然のことながら、辻口家の三女からは自分の様子がわからない。
だが ――――。
 ただし、女医の興味本位としかいいようがない脂がのった視線を浴びているうちに、自分がいったい、どんな恰好で皿の上に載せられているのか自ずと想像できてしまうのだった。
 そう思うと、少女の上品な造りの鼻がぴくぴくと蠢き、頬がほんのりと上気してしまう。

「今日はここまでにしておきましょうか」

――――終わった。

 安心していながら、今日はという言葉に戦慄を覚えた。これ以上、何をされると言うのだろう。
 少女は、しかし、決心した。

―――もう、この人に診て貰うのは絶対にイヤ!

 これまで、陽子は夏枝の言うことに首を振ったことがない。もちろん、母親が娘を甘やかしてきたことが、それには十分寄与しているだろうが、少女自身の従順な性格が働いていたことも否めない。
 従順ということは依頼心にもつながるから、これを乗り越えようとすることは少女の精神的な成長を意味する可能性もある。
 ただし、出産に女性が非常な苦しみを味わうように、新しいことをするということには必ず苦痛が伴う。
 これから辻口家のお嬢さんが経験しようとする痛み。
 それは、この時、誰も想像しえない。
 ただ、そんな決意をした少女に意味ありげな微笑をぶつけてきたものがいる。それは看護婦だった。完全に生きる機械を自称してきた彼女が、はじめて見せた表情は陽子に何を訴えようと、あるいは、示そうとしているのだろうか。
 全く、読めない。
 英語や数学の教科書に当たるのとはまったく違う。
 どうやら看護婦が与えた答案用紙には、普段の彼女が渡される丸だらけとはならないようだった。
ただ、うすうすとわかったのは、それが胸を張り裂けそうな恐怖を暗示しているだろう、ということだった。






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『新釈 氷点2009 9』
 夕食が済んで3時間が過ぎていた。
 長崎城主婦人は台所で食器棚を整理している。瀬戸物が発する銀色の音に誘われたわけではないが、陽子が入ってきた。
「お母さま・・・・・・」
「あ、陽子?!」
 おずおずと母親を上目遣いで見る娘に思わず息を呑む。
 思えば、この子にはいつも気を遣ってきたものだと思う。強いて優しくしてきた、言い換えればスポイルしてきた。それがこの結果である。少し冷たくしただけで、この体たらくである。塩を掛けられた青菜のようにしゅんとしている。
 しかしながら、そんな陽子を見せつけられると、自分の中に虹色の卵を発見して、とことんいやな気分を味わうのだった。その卵が孵ると陽子に対する情愛がぴーちくと歌を歌い始めるのである。
 そんな時、無理矢理にでもルリ子の顔を想い出すことにした。彼女を殺したのは誰だったのか。言うまでもなく、この少女の父親なのだ。すると、復讐心に燃える自分が奈落の底から這い出てくる。
 だが、それをあからさまにするつもりはない。復讐は時間を掛けて行うのがいい。この娘は自分の正体を報されたとき、いったい、どんな顔をするだろう。それを考えるだけで、復讐は半ば済んだような気がするのだ。それに、神父が言ったことははたして真実なのだろうか。疑ってみる必要性はないのか。
彼女が生来与えられた知性が鎌首を擡げる。それは、夏枝にごく慎重な態度を要請するのだった。

 ここは、確証が得られるまで事実を告げるのは待つべきではないか。
 だが、いったん、這い出てきた復讐心を収めるためには、何か行動する必要があった。それが、彼女がこの時間に台所にいる理由だった。この時点において、核心を彼女に告げる必要はないが、今、手に温めているこのコップを渡す必要はある。

「もう、おやすみの時間でしょう? ホットミルクを用意しておいたわよ。中学に上がる前はお母さまが用意してあげてたじゃない」
「お母さま・・・・・・」
 思わず、数粒の水滴が子憎いまでに美しい瞳からこぼれ落ちる。その水晶の液体には、見る人の憎しみを溶かす効力があるのか、夏枝の心は激しく揺り起こされた。

――――陽子!

「お嫌いになってはいやです・・・・・」

 ごく、控えめに、今度は黄金の唇が震えた。金無垢の便器などという代物を造りたがる金満家がいるが、彼の審美のセンスは地に落ちていると言う他はない。美しいものは目立つべきではない。美しい淑女が身につけるネックレスのようにそこはかとない量で輝いているのがいちばんなのである。
 その点、辻口家の三女の小さな唇は、十分、その価値観に合致している。夏枝もそれに異論がない。いや、それどころか、まるでむしゃぶりつきたくなるくらいの情愛を感じたのである。それは、かつて、胸に抱いた陽子に感じたそれに酷似していた。

――――陽子ちゃん!!

「誰が、貴女を嫌いになんてなるものですか」
「ウウ・・お母さ」
 最後まで陽子は台詞を完成させることができなかった。
 何故ならば、夏枝の胸に口を塞がれたからである。そして、彼女が敬愛してやまない母親から与えられた言葉は金粉よりも価値があった。
「ごめんね、陽子、お母さまはちょっと機嫌が悪かったの」

――うん、うん。

 少女は、珍しく心の中では、母親に対して敬語を使わないことを許可していた。この時はまだ自分がどうして見えない壁を造ってしまっているのか、その理由を知らなかった。
 幸せな嗚咽とほぼ同じリズムで液体の水晶が大きな瞳から零れては、黒曜石の沁みを母親のワンピースに造る。
 しかし、この時、麗しい母娘の間には二万光年ほどの距離があった。同床異夢という陳腐な表現はこのさい相応しくない。それはふたりが置かれた環境と境遇の微妙さに関連している。有史以来、地上にこのふたりほど複雑な人間関係が存在したであろうか。愛憎とはいうが、それはこの二人の間に流れる潮を端的に表現することばに限定されるべきだろう。
 その証拠に、母から娘に渡されたホットミルクには、その毒とでもいうべき一滴が含まれていたのである。
 それを知らずに、あたかも、自分の涙を飲み干すように白い液体に口を付ける。まるで、その液体が持つ温かさが母親の情愛であるという理論を鵜呑みにするように、満足そうな笑みが喉の動きと呼応して豊かになっていく。夏枝はそんな姿を見せられると、胃を直接握りつぶされるような痛みを感じるのである。

―――私ったら、何て事を!? そんな・・ああ、だめ、だめ、全部、飲んじゃ・・・・・・。

 しかし、同時にその可愛らしい顔を潰してやりたいという欲望がその触手を蠢かせてもいる。
 いったい、自分は何者なのだろう。既に母ではないような気がする。そして、女でもないような気がする。いや、人間ですらないような気すらする。
 そんな長崎城主婦人の感傷を破ったのは、コップが置かれる音だった。そして、世にも妙なる音が彼女の耳を楽しませる。
「ごちそうさま、お母さま!」
「そう ――――」

――――いけない。こんな表情をしていたら、ばれてしまう。この子はとても勘が鋭い。無理にでも笑顔を見せない。
 みるみるうちに、陽子の微笑が曇っていく。
「お母さまも、具合が良くないから寝ることにするわ」
「・・・・・・・!?」
 どんよりと曇った空から小雨が降りだした。しかし、それは母親の健康を気遣ってのことであり、間違ってもミルクに対する疑念ではないだろう。
 夏枝は、辻口家の三女がキッチンを後にしたのを確認してから、紙袋に視線を走らせた。そこには確かにこう書かれていたのである。
 リニョウザイ・・・・・・・・と。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 おぞましいものを見たような顔で、それをバッグに押し込めると、自身も寝所に戻るべく足を動かした。


 翌朝、起床した夏枝は今まで感じたことのない頭痛に苦しんでいた。午前五時半、まだ朝食の用意を始めるには早い時間である。だが、あることが気になってたまらずに、寝具から身体を揺り起こした。
なおも寝息を立て続ける夫に、ぎょっとさせられながらも、辻口夫人はたいした音も立てずに室を後にすることに成功した。
だが、廊下の人となった夏枝は、自分とは打って変わってかしましい音を立てる人間を発見した。それは、陽子だった。
 溜まらずに叱責する。
「何時だと思っているの? みんな、まだ寝ているのよ」
「ごめんなさい、お母さま、トイレ」
 知的で上品な仕草は何処かに消えていた。
 パタパタとスリッパに、無駄な歌を歌わせて、少女は向かうべき場所に消えていった。
その時、夏枝の耳を襲う不快なバスが聞こえた。
「どうしたんだ、陽子は、夜中、トイレに行きっぱなしじゃないか」
「何ですって?」
 思わず怪訝な顔に美貌を歪める夏枝。それは一体、どういうことなのだろう。どうやら事態は、彼女の思うとおりにはいかなかったようだ。

 実は、陽子は絶え間なく襲っていく尿意に苛まれていた。午後10時、寝具に入るととつぜん、尿意を感じた。予め、すませてあったにも係わらず、再び、下半身に起こった感覚に悶えた。
 それは、明らかにかつて感じたある感覚に似ていた。親友である財前永和子から借りたきわどい表現に満ちた小説を、読み始めたころに感じたことである。その時、――フランソワーズ・ピアズとかいうフランス人作家の『O嬢の物語』という作品だったが、陽子はその題名を忘れてしまいたかったのだが、網膜に刻印されたかのようにどうしても忘れられないのだ。
 それはともかく、陽子は数頁開いただけで、尿意に似た感覚を覚えたのである。股間を小筆で撫でられたかのような、異様な感覚が身体を這い上がってくる。思わず、性器の周囲を下着の上から押さえてしまったのだが、あの時はトイレに行こうとは思わなかった。直感的に、尿意とは違うことを認識していたのかもしれない。
しかし、その時は迷わず寝具を除けて、トイレに直行していた。普段ならば、寝ている人のことを慮って音を立てないようにするのに、そんな余裕もなかった。

――――いったい、どうしたというのだろう。

 辻口家の三女は焦った。何故ならば、何度トイレに行こうとも、強烈な尿有から逃れられなかったからである。極度に水分を取りすぎたわけでもないように、トイレから寝具に戻ったとたんに、再び、尿意が襲ってくる。
 そのおかげで一睡すらできなかった。
 毛虫が何匹も股間の辺りを這い回る感覚を取り払うことはできない。それが一晩中続いたのである。

 夏枝が朝食の用意をしている間、ずっと、陽子は生あくびを続けていた。そのために薫子にからかわれることがあっても、真剣に相手をすることができなかった。
 眠くて眠くてたまらないのである。
 ベーコンの焼ける匂いの芳しい目玉焼きを、テーブルの上に乗せながら長崎城主婦人は言う。
「どうしたのよ、陽子ちゃん」
「陽子ったら、夜中、トイレに言っていたらしいのよ」
 間一髪入れず、辻口医院の院長が口を出す。
「何? そんなことがあったのか?」
「ええ、お父様・・・・・・・」
 父と娘の会話を聞きながら、夏枝は、内心穏やかではなかった。

―――――何て言うことかしら。眠れなかったなんて。

 臍を噛んだが、かつて、自分が睡眠脈を処方されたことを思いだした。眠れないならば、無理やりに眠ってもらえばいい。それならば ―――――。
 この時、今から利尿剤と睡眠薬を混ぜて飲ませればいいと考えた。しかし、少し考えると、それは適当でないことに気づいた。
 このまま、眠られても計画通りにはいかないし、学校でされても ―――――それもおもしろいとは思うが、しかし ―――――。
 夏枝は、考えたのである、それはまだ先のことであると。
「具合が悪いならば、今日は休んだら?」
「大丈夫です、お母さま、学校に行けます」
 いつもとは違った生気のない顔で、答えた娘は本当に眠そうに見えた。
 院長夫人は、しれっとした顔で娘たちを送り出すと、夫に鞄を渡した。
「行ってらっしゃい」
 その日の過密スケジュールにうんざりしていた建造は妻の顔をろくにみなかった。だから、家族の誰もがこの家の主婦がどんな顔をしていたのか、観察することがなかった。それを陽子の身体の不調と関連づけて考えることをしなかった。-


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