西宮春子は、娘たちの間に今までにない空気が漂っていることに気づいていた。特に次女がおかしい。確かに、中2に上がっていらい見舞われているといういじめ、それに約2週間の入院と、彼女はこれまでの順調な人生にはなかった荒波に揉まれている。だが、今度は、あくまでも姉妹の間だけに醸し出されているにおいのような危惧するのだ。
肉汁の匂いと食器どうしがしなやかに当たる音がカチカチと上品な音楽を奏でている。
今、夕食の最中である。
メニューは、好物のハンバーグにもかかわらず、由加里の箸は進まないようだ。何を思い詰めているのか、その口は固く閉じられている。それに好対照なのが、妹の郁子だ。いつも、彼女は明るくはしゃいでいるのだが、今、彼女が見せている態度は、何か姉に対して勝ち誇ったような顔をみせている。いったい、これはどういうことか。
そして、無言のままで由加里に何かを迫っているようにみえる。
それに促されたのか、次女は重い口を開いた。ほとんど、義務感と、今が夕食時どい長年続いた惰性から、ハンバーグを一欠片口に入れて呑みこむと、重い口を開いた。
「ま、ママ、郁子とあるゲームをしようと思うの・・・」
「ゲーム?」
「え?由加里お姉ちゃん、どんなゲームなの?」
嘘だと、長いこと二人の母親をやっている春子は、直感で思った。由加里は喉になにかが引っかかっているような声で、続ける。
かすかに首を傾けて郁子を伺うような姿勢を取って、「い、郁子と立場を逆にしてみようと思うの、たまには私がい、妹になってもいいかなあって、そんな気分を味わってみようとね・・・・」
この子は、いったい、何を言い出すのだろう。妹の気分ならば、長女の冴子が轟然と存在して、むしろ、母である自分よりもこの家で存在感を由加里に示してきたのではなかったか?
「それは具体的にどういうことなの?」
「わ、私が、郁子の、ことを・・・・い、郁子お姉さんって呼ぶから、郁子、は、私の・・ことを妹のそう呼ぶみたいに、ゆ、由加里って呼んでね・・」
無理矢理に造った笑いが、何処かマネキンめいている。しかし、プラスティックの肌の下には、確かに、温かい血が流れているはずなのだ。そう強く主張できないのが残念だが、春子の愛おしい娘が隠されているにちがいないのだ。
春子は、二人と自分の間に見えない壁が立っているのを見て取った。どうしても乗り越えられそうにない。郁子はわざとらしく笑った。
「そんなのヘンだよ、郁子がお姉さんだなんて!どうしたの、由加里お姉さん」
まるで台本を棒読みするような口調、彼女は完全に春子を意識していない。彼女を騙そうとすらしていないのだ。しかし、それが、彼女の幼さ故の無邪気な仕草とはとうてい思えない。だが、詳しいところまでは読めない。 何を考えているのかわからない。
一体、二人の間に何があったというのだろう?まるで何年もふたりと顔を合わせなかったようにすら思える。それほどまでに壁は高く、そして、強固だ。
郁子が由加里にそのように迫ったことはたしかだが、あれほどまでに仲がよかった二人の間に亀裂が入ったのは、いつのことなのだろう?春子の印象によると、妹の姉に対する信頼感は絶対だったはずだ。
こともなげに、郁子は言った。
「じゃあ、仕方ないなあ、由加里お姉・・由加里!」
「うん、郁子・・郁子お姉さん・・・」
俯いた由加里の顔を長い髪が隠したので、わからないが、涙ぐんでいるのではないか、ここで、春子は、ふたりの母親として言うことがあるべきではないか、もしかして、それを彼女に躊躇わせたものがあるとすれば・・・・それは、片方と自分が血のつながりがないせいか・・・そこまで考えて、春子は、態度に出るような勢いで、それを自分に対して否定した。
そんなことはあるまい、と・・。
再び、顔を上げた由加里はハンバーグを口に放り込むと、ニコと笑ってみせた。強がって硬直した頬が痛々しい。だが、以前のように手を出せないことがもどかしい。もはや、子供たちとのつながりは切れてしまったのか。それともこれが成長の一歩だということか、しかし、ならば、まだ小学生にすぎない郁子はどうなのだろう。彼女と自分は正真正銘に、血が繋がった娘にもかかわらず、姉の由加里よりも心が読み取れない。
「由加里ったら、こんなに遺しちゃって、あたしが食べてあげるね」
半分も食べずに食卓を立った姉に、わざと聴かせているのではないかと訝るほどに大きな声で、郁子は言った
その声は、とうぜんのことながら、知的な美少女の耳にも入っていた。聴覚神経を通し送られる電気信号のうち、その声しか脳が受けとらないのではないかと思った。耳にこびりついた「由加里」という声を郁子が発するなどと、太陽が西に沈むことに等しかったはずである。
今、それが現実となった。
「うう・・ひどいっ」
暗いままの部屋で、寝具に沈み込んだ由加里が発した声は、郁子に向けたものなのか、それとも、照美かはるみ、あるいはそれとも全く違う誰かなのか、彼女には判断できない。いや、判断すらしたくなかった。そのような 気力すら、すでにないのだ。
その時、聞き慣れた着信音が、由加里の鼻面をぶちのめした。
「か、海崎さん・・・・!?」
携帯を手に取りたくない。だが、随意神経が勝手に働いている。あるいは、脳の中にRAMが勝手に設けられて、由加里の自我に、早く携帯を取ってご主人様に答えるように、と命じている。
「いや、いや、いや、いや!!このままじゃ、あの人に殺されちゃう!!」
由加里は大量の涙で顔を洗っていた。シーツは濡れて、まるでおもらししたみたいになっている。だが、それでもぬるぬるする手で携帯に手を伸ばした。
「何をしているの?奴隷の分際で!」
「・・・、もうしわけありません・・・」
もしも、一年前の由加里が今の自分の姿をみたら、きっと、いくらそれが自分に酷似していたとしても何か悪意の充ちたいたずらにしか思えないに決まっている。よく駅のホームなどで携帯片手に30度に状態を傾ける、模範的なお辞儀をしている姿を、彼女は、自分の父親ならばあんなことはしないと、心密かに哀れに思ったものだ。
その由加里が、今、かつての彼女が同情を向けた対象となんら変わらない姿勢を取って、しかも、幼女のように顔を涙でぐっちゃぐっちゃにして、土下座と錯覚するほどのお辞儀を披露しているのだ。
「今すぐ家に来なさい」
「え?こんな時間にですか?」
由加里は慌てた。いくら照美の命令と言っても、時計を見れば、午後7時半をまわっている。すでに、中学生が外を出歩く時間帯ではない。塾に通っていていればまだ夜とさえいえないかもしれないが、そんなものは彼女には必要なかった。
「聞こえなかったのかしら?」
照美の家には一度だけ行った、いや、行かされたことがある。あの時も惨めなおもちゃとしてさんざん嬲られたものだった。
しかし、と思う。もしかしたら、そんなことはこれで終わるかもしれないのだ。ゆららや、真野京子、それに藤沢さわの顔がちらつく。きっと、彼女たちが助けてくれる。そうなのだ・・・一条の光が天から差し込んできた。
だが、そんな由加里に美貌の悪魔は酷薄な命令を下してきた。
「そうだ、郁子ちゃん、あなたのお姉さんに服を借りて来なさい。そうね、学校の体操着がいいわ。下着はつけないで来るのよ、自転車を使うのよ!はやく来なさい」
由加里の返事を待たずに照美は電話を切った。
語尾がやけに落ち着いていた。それがおそろしい。
だが、郁子の服だって?小学5年の中でも小柄な彼女の服が自分に着られるはずがない。それに、午後8時、こんな時間に外出するなんて・・・・親からの躾と自分の主人、所有者の命令が、葛藤して由加里を苦しめる。
最終的に勝ったのは、類い希な美少女だった。
「郁子・・郁子お姉さん・・」
「あら、どうしたの?由加里お姉・・・由加里?!」
どうやら、照美は郁子に知らせていなかったと見える。由加里が来ることを予見していなかっと見えて言い間違えた。やはり、彼女は妹なのだと、嬉しくなったが、それどころではない。郁子から体操着を借りなくてはならない。
「郁子、郁夫お姉さん・・・体操着を借りたいの?貸してね」
「何をばかなことを言っているの?」
「あ、あした、体育があって。洗濯したままなの」
「じゃ、敬語で頼んでよ、昔はお姉さんに敬語使ったのよ。国語で習ったんだから」
「そ、そんな・・・・」
涙にくれる由加里だが、郁子の背後に照美を見てしまった。彼女の部屋の窓から見えるネオンサインが爛々と輝く、照美の瞳に見えた。
「わかった・・・」
「わかった?」
「いえ、わかりました。お、お願いですから、い、郁子お姉さん・・」
照美の酷薄さや残酷さには、品格の意味からも、そして、程度の意味合いからも、大人と子供くらいの差があったが、由加里は、かなりのダメージを受けた。
「い、郁子、お姉様、体操着をお貸しクダサイ・・・ううう」
身も世もなく泣き崩れる由加里、そんな姉に郁子はふいに怒りを感じた。
「何よ・・・!?」
お姉さんならどうして抵抗しないのよ!という言葉を呑みこんで、溜まりに溜まった憤懣を、自分の右足に爆発させる。身体をくの字にして亡きじゃくる姉の腹に向けて蹴りはじめたのである。
「い、痛い!郁子!やめて!!」
「あんたは私の妹でしょ!?」
7発目の蹴りが由加里のみぞおちに食いこんだ。
「うぐぐう・・・い、郁子、お姉さん・・」
ふいに意識が遠のいた。
・・・・・・・・。
しばらく暗転があって、気が付くと薄汚れた体操着が置かれていた。
「・・・・・!?」
由加里は、上着に貼ってあるゼッケンをみて、我が目を疑った。
3-1、西宮郁子。
「こんなのが入るわけ・・・、やっぱり、海崎さんの・・・・・・!?」
絶望しながらも、極度の緊張と羞恥心のために全身の筋肉が吊りそうになっても、由加里は絶対に遂行しなくてはならないことがある。それは、海崎照美の命令のことだ。
少女は、躊躇いながらも全裸になると、布の切れ端のような体操着に袖を通し始めた。
肉汁の匂いと食器どうしがしなやかに当たる音がカチカチと上品な音楽を奏でている。
今、夕食の最中である。
メニューは、好物のハンバーグにもかかわらず、由加里の箸は進まないようだ。何を思い詰めているのか、その口は固く閉じられている。それに好対照なのが、妹の郁子だ。いつも、彼女は明るくはしゃいでいるのだが、今、彼女が見せている態度は、何か姉に対して勝ち誇ったような顔をみせている。いったい、これはどういうことか。
そして、無言のままで由加里に何かを迫っているようにみえる。
それに促されたのか、次女は重い口を開いた。ほとんど、義務感と、今が夕食時どい長年続いた惰性から、ハンバーグを一欠片口に入れて呑みこむと、重い口を開いた。
「ま、ママ、郁子とあるゲームをしようと思うの・・・」
「ゲーム?」
「え?由加里お姉ちゃん、どんなゲームなの?」
嘘だと、長いこと二人の母親をやっている春子は、直感で思った。由加里は喉になにかが引っかかっているような声で、続ける。
かすかに首を傾けて郁子を伺うような姿勢を取って、「い、郁子と立場を逆にしてみようと思うの、たまには私がい、妹になってもいいかなあって、そんな気分を味わってみようとね・・・・」
この子は、いったい、何を言い出すのだろう。妹の気分ならば、長女の冴子が轟然と存在して、むしろ、母である自分よりもこの家で存在感を由加里に示してきたのではなかったか?
「それは具体的にどういうことなの?」
「わ、私が、郁子の、ことを・・・・い、郁子お姉さんって呼ぶから、郁子、は、私の・・ことを妹のそう呼ぶみたいに、ゆ、由加里って呼んでね・・」
無理矢理に造った笑いが、何処かマネキンめいている。しかし、プラスティックの肌の下には、確かに、温かい血が流れているはずなのだ。そう強く主張できないのが残念だが、春子の愛おしい娘が隠されているにちがいないのだ。
春子は、二人と自分の間に見えない壁が立っているのを見て取った。どうしても乗り越えられそうにない。郁子はわざとらしく笑った。
「そんなのヘンだよ、郁子がお姉さんだなんて!どうしたの、由加里お姉さん」
まるで台本を棒読みするような口調、彼女は完全に春子を意識していない。彼女を騙そうとすらしていないのだ。しかし、それが、彼女の幼さ故の無邪気な仕草とはとうてい思えない。だが、詳しいところまでは読めない。 何を考えているのかわからない。
一体、二人の間に何があったというのだろう?まるで何年もふたりと顔を合わせなかったようにすら思える。それほどまでに壁は高く、そして、強固だ。
郁子が由加里にそのように迫ったことはたしかだが、あれほどまでに仲がよかった二人の間に亀裂が入ったのは、いつのことなのだろう?春子の印象によると、妹の姉に対する信頼感は絶対だったはずだ。
こともなげに、郁子は言った。
「じゃあ、仕方ないなあ、由加里お姉・・由加里!」
「うん、郁子・・郁子お姉さん・・・」
俯いた由加里の顔を長い髪が隠したので、わからないが、涙ぐんでいるのではないか、ここで、春子は、ふたりの母親として言うことがあるべきではないか、もしかして、それを彼女に躊躇わせたものがあるとすれば・・・・それは、片方と自分が血のつながりがないせいか・・・そこまで考えて、春子は、態度に出るような勢いで、それを自分に対して否定した。
そんなことはあるまい、と・・。
再び、顔を上げた由加里はハンバーグを口に放り込むと、ニコと笑ってみせた。強がって硬直した頬が痛々しい。だが、以前のように手を出せないことがもどかしい。もはや、子供たちとのつながりは切れてしまったのか。それともこれが成長の一歩だということか、しかし、ならば、まだ小学生にすぎない郁子はどうなのだろう。彼女と自分は正真正銘に、血が繋がった娘にもかかわらず、姉の由加里よりも心が読み取れない。
「由加里ったら、こんなに遺しちゃって、あたしが食べてあげるね」
半分も食べずに食卓を立った姉に、わざと聴かせているのではないかと訝るほどに大きな声で、郁子は言った
その声は、とうぜんのことながら、知的な美少女の耳にも入っていた。聴覚神経を通し送られる電気信号のうち、その声しか脳が受けとらないのではないかと思った。耳にこびりついた「由加里」という声を郁子が発するなどと、太陽が西に沈むことに等しかったはずである。
今、それが現実となった。
「うう・・ひどいっ」
暗いままの部屋で、寝具に沈み込んだ由加里が発した声は、郁子に向けたものなのか、それとも、照美かはるみ、あるいはそれとも全く違う誰かなのか、彼女には判断できない。いや、判断すらしたくなかった。そのような 気力すら、すでにないのだ。
その時、聞き慣れた着信音が、由加里の鼻面をぶちのめした。
「か、海崎さん・・・・!?」
携帯を手に取りたくない。だが、随意神経が勝手に働いている。あるいは、脳の中にRAMが勝手に設けられて、由加里の自我に、早く携帯を取ってご主人様に答えるように、と命じている。
「いや、いや、いや、いや!!このままじゃ、あの人に殺されちゃう!!」
由加里は大量の涙で顔を洗っていた。シーツは濡れて、まるでおもらししたみたいになっている。だが、それでもぬるぬるする手で携帯に手を伸ばした。
「何をしているの?奴隷の分際で!」
「・・・、もうしわけありません・・・」
もしも、一年前の由加里が今の自分の姿をみたら、きっと、いくらそれが自分に酷似していたとしても何か悪意の充ちたいたずらにしか思えないに決まっている。よく駅のホームなどで携帯片手に30度に状態を傾ける、模範的なお辞儀をしている姿を、彼女は、自分の父親ならばあんなことはしないと、心密かに哀れに思ったものだ。
その由加里が、今、かつての彼女が同情を向けた対象となんら変わらない姿勢を取って、しかも、幼女のように顔を涙でぐっちゃぐっちゃにして、土下座と錯覚するほどのお辞儀を披露しているのだ。
「今すぐ家に来なさい」
「え?こんな時間にですか?」
由加里は慌てた。いくら照美の命令と言っても、時計を見れば、午後7時半をまわっている。すでに、中学生が外を出歩く時間帯ではない。塾に通っていていればまだ夜とさえいえないかもしれないが、そんなものは彼女には必要なかった。
「聞こえなかったのかしら?」
照美の家には一度だけ行った、いや、行かされたことがある。あの時も惨めなおもちゃとしてさんざん嬲られたものだった。
しかし、と思う。もしかしたら、そんなことはこれで終わるかもしれないのだ。ゆららや、真野京子、それに藤沢さわの顔がちらつく。きっと、彼女たちが助けてくれる。そうなのだ・・・一条の光が天から差し込んできた。
だが、そんな由加里に美貌の悪魔は酷薄な命令を下してきた。
「そうだ、郁子ちゃん、あなたのお姉さんに服を借りて来なさい。そうね、学校の体操着がいいわ。下着はつけないで来るのよ、自転車を使うのよ!はやく来なさい」
由加里の返事を待たずに照美は電話を切った。
語尾がやけに落ち着いていた。それがおそろしい。
だが、郁子の服だって?小学5年の中でも小柄な彼女の服が自分に着られるはずがない。それに、午後8時、こんな時間に外出するなんて・・・・親からの躾と自分の主人、所有者の命令が、葛藤して由加里を苦しめる。
最終的に勝ったのは、類い希な美少女だった。
「郁子・・郁子お姉さん・・」
「あら、どうしたの?由加里お姉・・・由加里?!」
どうやら、照美は郁子に知らせていなかったと見える。由加里が来ることを予見していなかっと見えて言い間違えた。やはり、彼女は妹なのだと、嬉しくなったが、それどころではない。郁子から体操着を借りなくてはならない。
「郁子、郁夫お姉さん・・・体操着を借りたいの?貸してね」
「何をばかなことを言っているの?」
「あ、あした、体育があって。洗濯したままなの」
「じゃ、敬語で頼んでよ、昔はお姉さんに敬語使ったのよ。国語で習ったんだから」
「そ、そんな・・・・」
涙にくれる由加里だが、郁子の背後に照美を見てしまった。彼女の部屋の窓から見えるネオンサインが爛々と輝く、照美の瞳に見えた。
「わかった・・・」
「わかった?」
「いえ、わかりました。お、お願いですから、い、郁子お姉さん・・」
照美の酷薄さや残酷さには、品格の意味からも、そして、程度の意味合いからも、大人と子供くらいの差があったが、由加里は、かなりのダメージを受けた。
「い、郁子、お姉様、体操着をお貸しクダサイ・・・ううう」
身も世もなく泣き崩れる由加里、そんな姉に郁子はふいに怒りを感じた。
「何よ・・・!?」
お姉さんならどうして抵抗しないのよ!という言葉を呑みこんで、溜まりに溜まった憤懣を、自分の右足に爆発させる。身体をくの字にして亡きじゃくる姉の腹に向けて蹴りはじめたのである。
「い、痛い!郁子!やめて!!」
「あんたは私の妹でしょ!?」
7発目の蹴りが由加里のみぞおちに食いこんだ。
「うぐぐう・・・い、郁子、お姉さん・・」
ふいに意識が遠のいた。
・・・・・・・・。
しばらく暗転があって、気が付くと薄汚れた体操着が置かれていた。
「・・・・・!?」
由加里は、上着に貼ってあるゼッケンをみて、我が目を疑った。
3-1、西宮郁子。
「こんなのが入るわけ・・・、やっぱり、海崎さんの・・・・・・!?」
絶望しながらも、極度の緊張と羞恥心のために全身の筋肉が吊りそうになっても、由加里は絶対に遂行しなくてはならないことがある。それは、海崎照美の命令のことだ。
少女は、躊躇いながらも全裸になると、布の切れ端のような体操着に袖を通し始めた。
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