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『由加里 89』



「西宮さん、もう少し、足を踏み込んで下さい」
「ハァ・・・ハ・・あ・・・・あ」
 両者の応酬はプロアスリートとコーチとの関係を彷彿とさせる。
 柔らかいというよりは、季節通りにけっこう強い日差しが入るなか、由加里はリハビリに励んでいる。平均棒のようなバーに両手を添えてよちよちと両足を交互に揺らす。
 腕の骨折はすでに治癒しているので問題はないのだが、まだ痛みが残っているために微妙に両肩の角度が歪んでいる。それがやけに痛々しい。
 しかし、それだけが由加里に息を乱させる原因ではない。実は、この瞬間をも、可南子の企みによって性器に挿入された異物が底意地悪く少女を攻め続けるのだ。股間を丸く覆ったおむつが生じさせる圧力は、少女が感じる羞恥心を倍加させている。
 知的な美少女は訓練士のものではない誰かの視線を感じると、ぷるぷると震えた。
「ハァ・・あ・・はあ・・」
「少し、休みましょうか」
 見かねた訓練士は休みを提案することにした。
 だが、厳しいリハビリよりも怖ろしい鬼が近づいてきたことに、少女は気づいていた。
「いえ、もうすこし・・うう」
「やりすぎはだめですよ、それにお友達も来てくれたことですし」
 若い訓練士は心にもないことを言った。少女の性器に加えられたいじめを知らない彼は、彼女を不甲斐ない、そして耐えることを知らない今時の子供だと軽んじているのである。
だが、既に彼女の股間と気力は限界を超えていた。

「由加里ちゃん・・・がんばっているのね、その様子なら、もうじき学校に来れそうね」
 見慣れた美貌が少女を見下ろしている。いや、照美の美しさはたとえ家族であっても飽きることはないだろう。由加里はそう思った。
「か、海崎さん」
「西宮さん、ベンチで話したらどうですか?」
「そうですね、友人がお世話になっております・・・・」
 絶世の美少女の意識に、このヤサ男はいない。だが、表だけの挨拶はしておくことにする。彼が姿を消しても、 しかし、照美は本性を顕わにはしない。それが被虐のヒロインに、底抜けの恐怖を感じさせた。
「ほら、由加里ちゃん、捕まって」
「ァ・・あう」
 由加里に肩をつかませると、ベンチへと誘っていく。
「か、海崎さん・・・アア・・」
 だが、ベンチが近づくにつれて、しだいに本性らしきものを顕わにしはじめた。
「リハビリにご執心のようね、だけど、いじめられるためにやってるなんて、やっぱり、西宮は本当にマゾの変態なのね、いじめられるのが気持ちいいのよ、変態!」
「ウウ・ウウ、い、痛い!!」
 乱暴にベンチに投げ出された由加里は呻いた。しかし、それは足の骨折のためではない。股間に官能の刺激が起こったのである。それを押し隠すために、なけなしの勇気を振り絞ることにした。あえて、照美に向かって言い放つ。
「か、海崎さん!わ、わた、私は、もう、が、学校に行くつもりは、あ、ありません!!」
「あら・・・ふふ」
 照美も座る。視線が同じ位置になる。
 ここで気づいたことがある。鋳崎はるかがいないのだ。一見、照美よりも野生児めいた彼女は怖いように思える。しかし、ある面においては、親友の行きすぎた行為をやんわりと押さえる役割を果たしているような気がしていた。そんなはるかがいないとなると・・・・。  
 知的な美少女はそら怖ろしい気がした。
「か、海崎さん・・・ウウ」
「何を泣いているのよ、私たち、親友でしょう?」

 この人は何を言っているのだろうと、訝しげに思った由加里だが、歩み寄ってくる人たちを見付けると合点がいった。
「さ、冴子姉さん・・・・・」
「あら、海崎さん」
 しかし、姉は妹など歯牙にもかけていなかった。少なくとも、妹はそう受け取っている。照美はどう考えていたであろうか。挑戦的な視線で挨拶に代える。
「西宮さんですね、お久し振り」
 話は早いと思った。実はゆららから言づてを受け取っていた。それを確かめに病院に足を運んだのである。そこに意中の人間がやってきた。
 ゆららか仕入れた情報をそのままぶつけてみる。
「医学部の学生って暇なんですね、私も医学部を目指そうかしら」
 冴子の肩にかけられたギターに視線を、ごくさりげなくふり向けながら言う。言の葉、葉脈の一本一本にまで挑戦的な意図が流れ込んでいる。
それを冴子は如実に受け取っていた。何てことだろう、こんな子供に全身の神経が鳥肌が立っている。興奮を抑えながら答える。
「そうね、あなたならそう勉強しなくても入れそう」
・・・・・・・まるで姉妹みたい。
 由加里は並んで語り合う二人を見て自分が阻害されているのを感じると、めらめらと嫉妬の炎が燃え上がるのを感じた。いや、姉妹などと思うことじだい、そんなことを考える自分が許せない。
「さ、冴子姉さん・・・・さ」
「ちょうど良かったわ、あなたに話があるの」
 知的な美少女は悔しかった。自分がクラスでいじめられていることは、既に知っている。それなのに、自分とクラスメートである照美に親しげに話すのか。
 彼女がいじめの主犯だということは告げていないが、そのことだけはそれとなく告げてある。そうなら、そんな優しい目ができるはずがない。さいきん、自分にだって向けられたことなんてないのに、ひどい!
 知的な美少女は幼児にように腹を立てた。
 だが、照美が側にいる手前、それを顕わにできない苛立ちをどうしていいのわからずに、涙を浮かべるだけだった。
 しかも、美貌の同級生は女優の才能があるようだ。予想だにしない方法で攻め立ててくる。
「由加里ちゃん、どうしたの痛いの?看護婦さん呼んでこようか?」
「だ、大丈夫・・・・」
 暗く俯いた妹に、姉は冷たかった。
「由加里、あなた、もう病室に戻りなさい。お姉さんは海崎さんに話があるから」
「・・・・・?!」
 (冴子姉なんか嫌い!)と言いたかった。それが涙になって頬を伝っていく。
「由加里ちゃん、行こう」
 半ば強制的に、照美が肩を貸してくる。彼女がまるで刑務所の職員のように思えた。少年院を含めて、少女にはもちろんその経験は無いが、想像での鉄格子の中は少しでも叛意を示せば暴力で躾られるような怖ろしい場所だ。 そこで働いているのが獄吏であり、教室での照美やはるかなのだ。
 目の前に冴子がいるのに、一番の味方の大きな手が自分を守ってくれるはずなのに、美貌の悪魔の好きなようにさせている。
 何故?
「冴子姉さん、なんで、私がいちゃいけないの?」
 それは当然の疑問だった。だが、姉は妹の考えを共有してくれないようである。
「由加里!」
 さすがに冴子の態度には、照美も耳かきに一杯程度の疑問を感じざるを得なかった。彼女が教室における真実を知っていて、それを責めるために自分を呼び出しているのではない。それは、ゆららから聞いた話から真実のようである。
 それならば、何故、妹にこんな冷たい態度を示しているのか、冴子は由加里をなんら宥めることなく車イスに腰掛けさせた。
「押してくれないの?」
「甘えないの、腕は治っているんだから自分で動かせるでしょう?」
 その一言で片づけてしまった。
 すごすごと車輪を手回しする由加里を尻目に、何故か、照美は勝利感を得ることが出来ない。

「さ、病院のカフェテリアに行きましょうか」
 妹に対する態度とは対照的な微笑を自分に向けてくる。その理由がわからないので、尚更怖ろしげに感じる。
「はい」

 だが、その一方、素直に答える自分がいて彼女自身をこんわくさせるのだった。自分はこの状態を楽しんでいるのだろうか。姉妹兄弟がいないとはいえ、よりによって由加里の姉を、しかも鏡に映る虚像のようにそっくりな彼女に親しげな感情を抱くことなどありえるのだろうか。
 だが、怖ろしいことに気づいた。
 ・・・・・・ママにそっくり!?
 髪型が違うのでそれほど気にもとめていなかったが、仕草や表情の造り方をつぶさに観察してみると彼女じしん思いもよらない結論を出していた。
 店員とのやりとりや椅子の座り方など、普段ならば気にもとめないことが参考書の赤い下線部のようにやけに目立ってみえる。
 冴子が注文してくれたコーヒーフロートに口を付けながら、この不思議な女性を見あげる。何だか、時間旅行を果たして若い母親に出会ったような感覚が背筋を這っている。どう話しかけたらいいのかと悩んでいたら、向こうから言葉がかかってきた。

「突然だけど、ヴォーカルとして私たちのロックバンドに加入してほしいんだけど」
「え?」
 あまりに単刀直入な物言いにあぜんとなった。小さな口をあんぐりと開けたままの照美に、冴子はさらに畳み掛けてくる。
「とある理由でヴォーカルがいなくなって困っているのよ」
 この人は一体、何を言っているのだろう。しかし、照美とてただ殴られているだけではない。切り返しをしなければならない。
「とある理由って何ですか?」
「ヴォーカルが少女暴行事件を起こしたの」
 きょとんとした顔で衝撃的な言葉を吐く。照美は相手が由加里でなければ、人が不幸になるのを兵器で見ていられない人間である。いとも簡単にしかも無表情でそんなことを言う冴子に反感を抱いた。
だが、彼女は一方的に話しを続ける。
「そういうわけで白羽の矢を立てたのよ、あなたに」
「どうして、私に?」
 いつの間にか、冴子が描くストーリーラインに乗せられていることに気づいていない。美貌を微かに歪ませた。
 冴子は優しげな微笑に猛禽の爪を隠しながら長言を弄しようとしていた。
「カラオケボックスから聞こえてくるあなたの声を拾った。女性ヴォーカルなんて想定さえしていなかったわ。だけど、あなたの声を賞味したとたんに、そんな考えはあさっての方向に飛んでいった」
「まるで、小説を書いているような物言いですね」
 はるかならこの人と話しが合いそうだなと思った。
「私はあなたの曲も聞いていない・・・・」
「あ、待って!」冴子の大きな手が遮った。筋肉のありようから、鍵盤を弾くんだと根拠のないことを考えた。
「どうしたんですか?」
「曲が浮かんできたの」
 何と、この大人はハンドバッグから五線紙を取り出すと、目の前に照美がいることも構わずに、音符を書き込み始めたのである。
「な」
 何処かで見た光景だと思った。何でもない、それは少女が常に味会わされている迷惑である。根拠が確定したデジャヴューを感じながら、言うべき言葉を完全に失っていた。




テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

コメント
由香里を裸にして、犬として夜の公園を散歩させたいです(笑)次のお話まってます。
2010/07/23(金) 12:20:16 | URL | むー #-[ 編集 ]
コメント、ありがとうとざいます。
コメント、ありがとうございます。
お久し振りです。
 由加里を犬のですか?今度、考えておきましょう。
 これからも、よろしくお願いします。
2010/07/24(土) 20:18:46 | URL | cesare borgia #B3tPMIzc[ 編集 ]
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