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『新釈 氷点2009 12』

 そこはかとない眠気だった。
 しかしながら、よく考えれば、その理由は明かである。昨夜は絶え間のない尿意のためによく眠れなかったのである。それが今になってやってきたのだろう。
 娘の手が止まったのを確認した夏枝が同じことを繰り返した。
「どうしたの?陽子ちゃん、やっぱり、口に合わない?」
「そ、そんなことないですわ、お母さま・・・・・・」
 娘は何事もないように、スープを口に運び、そして、肉にフォークを刺し入れる。
 だが、美味しそうに湯気を立てる料理にはとんでもない秘密が隠されているのだ。料理を作った彼女だけは知っている。かつて、彼女が小学生のころ、生まれて始めて料理を作ってみたときのように、凄まじい味になっているはずだ。
 味というのは割合の問題である。その配合を少し替えただけでも、美味になったり、あるいは人間の食べるものとはおもえないとんでもない味になったりする。

 あの時作った料理、当時、作ったのもビーフストロガノフだった、それが猫もまたいで食べないほどにまずかったのは、彼女が料理に関してあまりに未熟だったからである。何しろ、わずか11歳の少女が洋書の料理教則本を元にフライパンを振るったのである。
 コンクリートブロックを思わせる厚い辞書を参考に、何処からか持ってきたのか、英語の原書を読んでいる、それも台所という場違いな場所で。
 家族は、一体、家のお姫様が何を始めるのか、気が気でなかった。
 英語を読み間違えたのか、そもそも小学生の夏枝に料理の勘が育っていなかったのか、ビーフストロガノフはさんざんな結果に終わった。
 その時と違うのは、夏枝の分だけ、わざと料理に細工したからである。
 だが、すこし問題があることに気づいた。

 辻口家の三女が、もしも、食べなかったら、仮に食べたとしても薬の成分が効能を示すほどまで達しなかったら、 夏枝が望むような結果を得ることは難しいだろう。

―――大丈夫よ、きっと、この子は完食するわ。

 上品に尖った陽子の鼻梁などを眺めているうちに、実感として、それはやってきた。その根拠が何処にあるのか、彼女はそれを十分すぎるほど知っているはずだった。だが、あえて、それを考えないようにした。
 けっして、これ以上深く考えてはならない。今、自分がすべきことはただ一つ。娘の復讐をすること。できれば、込み上げてくる感情をそのまま両手に反映させてもいい。
 妄想の中では、何度も娘の首に手をかけている。
 今、彼女の細い首はあるかないかの喉仏を作動させている。
 料理とはとうてい思えない刺激が彼女の味覚神経を巡っているはずだ。べつに直接手をかけなくても、彼女を苦しめることはできる。それほどの権力と立場を持っているはずだ。なんと言っても、夏枝は陽子の母親なのだ。
 だが ―――。
 全く、表情が曇らないのはどうしたことだろう。むしろ、微笑まで浮かべて、彼女の悪意を迎え入れている。それはどのような罪も喜んで迎え入れるという、言わば、母の慈愛を彷彿とさせて、すこしばかりぞっとなった。あまりに、自分の母親に酷似していたからである。
 表情を変えずにひどい味の料理を次々と口に入れていく姿には、さすがに、彼女を憎んでいるはずの夏枝もはっとさせられた。
 その健気な姿にほろりとさせられたのである。
 自分で行っておきながら、矛盾する思いに辻口家の北の方は唖然とさせられた。目の前の少女を殺したいと思うほどに憎んでいるのではなかったか。愛おしいルリ子を、この娘の父親は無惨にも口の端に上せるのもおぞましい行為の後、絞め殺したのである。その数十倍もの苦しみを与えてくびり殺してやりたい。いや、何度、殺しても彼女の怨みは一ミクロンとは言え、消え去ることはないだろう。
 ならば、生きている限りこの娘に取り憑いて精神的な苦痛を与え続ける。
 そうルリ子に誓ったはずではないか。
 それなのに、今更、同情するとはどういうことだろう。

 一方、当の陽子は白い仮面の下で、叫び出したい気持を必死に押さえながら、口と舌を動かしていた。
味蕾から送られてくる情報は、あたかも、電撃のように少女の神経を刺激し、口の中のものを吐き出したい衝動に駆られる。すこしでも緊張を解いたら、表情を豹変してしまうどころか、今すぐに立ち上がり、目の前の料理をひっくり返してしまうだろう。そして、大声で母親を怒鳴りつけてしまうにちがいない。
 もしも、そんなことをしたら、今まで、13年間生きてきたことはどうなるのだろう。
 それは彼女を構成する土台すべて否定されることに等しい。
 今、辻口陽子という少女を構成する要素は、もはや、意地でしかない。
泣き叫びたい思いをひっしに押し隠しながら微笑の仮面を被り、いかにも美味しい物を食べているのだと、辺りにまき散らす。もっとも、それを見て欲しいのが誰なのか。それは明々白々だったが、何故か、その答えを出すのは憚られた。
 それは絶対に認めたくない。
 陽子の中で、真実を問いながら、けっして、それを明かにしてはいけないという、矛盾する思いが交錯し、この美しい少女を八つ裂きにした。
 それでも、どうにか苦しみに満ちた食事を終えると、陽子は食器を携えて食器を降ろそうとした。
その瞬間、夏枝は陽子の皿に、それこそ真っ白になるくらいに、何も残っていないことを密かに確認すると、人知れずほくそ笑んだ。
 確かに、彼女は完食した。
 だが、それがどんな意味を持つというのだろう。むしろ、それを見越すことができた自分を恥じた。これでは、完全に母親の反応ではないか。まだ、あの子を娘と思っているのだろうか。そんなことはルリ子への裏切り以外の何ものでもない。
 夏枝は唇をナプキンで拭いた。
 その時、現在生きている、唯一の実子の声が聞こえた。

「ママ、陽子、おかしくない?」
「年頃だからじゃないの?」
 もしも、この二人の性格が逆だったら、彼女はこんなことを絶対に訊いてこないだろうと、夏枝は思わずにいられない。
 それにしても、ここまであの子の性格を把握しているとは・・・・・・。
 それはあまりに長いこと一緒にいたせいだと考えた。ルリ子を殺した犯人の娘などと・・・。
 そんな汚い血の持ち主と一夜でさえ、同じ屋根の下にいることは耐えられない。それを企んだのは誰もでない、目の前で無神経にも煙草を吹かすこの家の主である。
 辻口建造。
 夏枝は、しかし、これ以上、彼と同じ部屋にいたくなかった。あと数秒で喚きたい衝動を止められなくなりそうだからである。
「あなた、お皿、下げますよ」
「ああ・・・」
 夫の皿にはレタスとキュウリが数枚ほど残っていた。
 さすがに、薫子にも気持が伝わったようだ。だが、必ずしも彼女が無神経というわけではない。陽子と変わらない感受性を持ち合わせていながら、簡単にはそれを表には出さない。
 あるいは、出さないために最前の手段を講ずる。

 もしも、さきほど陽子と薫子で立場が逆ならば、「ママ、これ味がおかしいよ」とすぐに口に出すことは予期できる。
 あえて、危ない橋を渡らないことで、自分を巧みに隠すのがこの娘の性分なのである。だが、陽子にはそんな器用な手足の持ち合わせはない。
 さきほど、うまく、母親を煙に巻いたように見えたが、仮面の下はバレバレなのである。だからこそ、なおさら小面憎く思われたのだ。

 そのころ、陽子は自室にいた。
 ろくに電気も点けずに闇の中でただ呆然としていたのである。まるで命綱もなしに無重力状態に放り投げられたような気がする。上下左右の違いすら明らかではない。立っているのもやっとのことだ。
 一体、自分に何が起きているのだろう。食事が終わって以来、いや、食卓について、料理を口にした瞬間から、夢 遊病者のような状態に落ち込んでいた。ところが、そんな少女の心に過ぎったのは、ごく、中学生の少女らしい思いだった。

―――数学の宿題、しなきゃ。

 身近な事象に逃げ込むことによって、変わらない日常がいまも続いていると、自分に言い聞かせたのかもしれない。
 だが、それも長く続かなかった。猛烈な眠気に襲われたのである。行き先を机からベッドに変更せざるをえなくなった。
 少女は寝間着に着替えることすら忘れて、寝具の中に沈むことを望んだ。
―――――。
 彼女を眠りという冥界から叩き起こしたのは信じられない事実だった。
 下半身は温かい、そして、冷たい。
 矛盾する感覚が同時にやってくる不可解さと気持ち悪さに思わず飛び起きた。
 その時に、彼女は、しかし、自分に起こったことを自覚していたのである。
 おもらし。
 それは少女が10年も前に卒業したはずの出来事だった。母親の勝ち誇った顔が見えるような気がする。しかし、 次の瞬間、その映像は雲散霧消し、いつもの慈愛に満ちた母親が彼女を目で抱いてくれた。
だが、下半身から登ってくるおぞましい感覚と臭いに吐き気を覚えた。

―――身動きできない。

「・・・・・・・・・・・・・」
 それは決して起こってはならないことだった。何とかしなければならない。誰にも知られずに処理しなければ・・・・・・・。
 まるで、一時の感情から恋人でも殺してしまった犯人のように、沸き起こってくる感情のために身体が完全に凍りついてしまった。
 だが、理性は働いている。
 現在、彼女に起こっていることが荒唐無稽な洞話のようにありえない出来事であり、ぜったいに現実とは認めたくないことなのだ。もしも、認めたら、下半身を切断されてしまう。そんな恐怖が尿道から入り込み、脊髄を通って全身に蔓延るような気がした。
「ママ、陽子まだ起きてこないの」
「おかしいわね、具合が悪いのかしら・・・」
 何と、姉と母の声が部屋の外から響いてくる。それは死刑執行人の足音だ。いったい、どうしたらいいのだろう。 あの窓から飛び出て永遠にこの家に戻らない旅に出ようか。そんな非現実的な思考の海に泳いでいた。
 だが、彼女の家族はそんな非現実的な海への逃亡を許しはしなかった。
 母親の幾何学的な声が聞こえた。

「開けるわよ、夏枝」

テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

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