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『由加里 38』
 波乱の内に、裁判は終わったが、終わらせたのは、チャイムであって判決ではなかった。由加里は心身共に、さんざん打ちのめされた。その衝撃で、ぼっとしているうちに、終わったという感覚だった。

  「ねえ、人間のクズ!はやく、移動しなさいよ!そこ、私の席よ!?」
「ひっ!!」
 由加里は、背後から蹴り飛ばされた。床に両手をついたその姿勢は、まさに犬だ。
「西宮さん、鬼畜にふさわしい恰好ねえ、これからよつんばいで歩いたら?あなたにふさわしいんじゃない?!」

 「・・・・・・・・?!」
由加里は、下半身の圧迫と、精神的な圧力に裁判が終わっても歯ぎしりさせられる。むしろ、裁判という体裁が整っていない分、いじめは個々の自由で行われる。その分だけ残酷で際限がなくなっていく。
 「ホントに最低の人間よね、いまさらだけど、ここまでひどい人間だとはおもわなかったわ」
――――いままで、さんざん、いじめてたくせに!
 少女は、悔しい気持を呑んだ。

 照美の行為は、教室に一種の乱を起こした。しかし、それは由加里への敵意を麻痺させるだけの、効果はあったが、限定的なものにならざるをえなかった。そもそも、彼女がそのような意図を持って、行動したとは思えなかった。
――――海崎さん・・・・・。
 由加里はこっそりと照美の美貌を盗み見た。

 「いいこと!?これから、教室では、よつんばいでいるのよ、あんたは人間じゃないんだから、当然でしょう?!」
 もしかしたら、これが由加里に対するクラスの判決かもしれない。
 照美は、由加里の反応を知りたくなったのか、注視している。
「いやです・・・・・・・・ウウ・・・・ウウ・・・ウ!」
 その声はか細かったが、ある種の決意を含んでいた。
「何言ってるのよ!」
「ヒギ!」
 その少女の一蹴りによって、由加里は獣の断末魔のような声を出して、転がっていく。
「少しでも、罪を償おうと思わないわけ?本当の鬼畜よね!」
「最低!」
 その少女の唾が、由加里の頬を襲った。一瞬、ヤケドするくらいに熱を感じた。それは、人を温めて癒す熱ではなく、人を切り裂き辱める熱だった。少女の悪意を如実に表していた。そして、腐った柑橘類の臭いがした。焼きミカンというのを食べたことがあるだろうか?ものすごく苦くまずい。まさに、その焼きミカンの臭いと味がした。それは口臭と呼ばれるものだろう。
 「ううう・・・・!」
「何をかわい子ぶっているのよ!鬼畜のくせに!人間らしくしないでよ!」

 みじめな姿勢の、由加里を囲んでいじめているのは、もはや照美やはるか、それに高田や金江たちではなかった。今まで、そんなに積極的でなかった子たちまでが、少女に牙をむき始めたのだ。今回の裁判がゴーサインになったのだろうか。教師の公認ということが、後押しになったのだろうか。
 
 いじめっ子たちの目はどれもぎらぎらして、肉食獣めいていた。

―――どうして、そんな目で見るの?みんなと同じ女の子なのよ。
 由加里は心のモニターに、そっと文字を書き込んでみた。

 ―――わたし、やってない!そんなことやってない!!
 それは、どうしても言葉にならない。口を動かそうと、力んでみるが出てくるのは、ため息に、似た空気だけだ。

 ―――私は鬼畜じゃない。どうして、わかってくれないの!みんな、私と一緒にいたでしょう!?
 小学校の時からの同級生に、向かって声にならない叫び声を上げた。香奈見の顔が真っ先に浮かぶ。
 
 いくら泣きわめいても、それは許しを乞うているようにしか見えなかった。それは、しぜん、彼女が有罪であることを認めているとしか受け取られない。

―――これからは、何をやってもいいんだ。
クラスの誰もがそう思った。みんな由加里を獲物だと思っている。肉食獣の視線を送ってくる。窓に入ってくる青い風や、小学生の歓声までが、彼女の敵のように思えた。以前は、

――――ちょうど郁子が帰るころなのかな。
 
 そのように思うゆとりが、あった。それも、かなりいじめが深刻化してからでも、ランドセルが奏でる黄色い唄に、微笑む余裕があったのだ。
 しかし、いまや、何を五感で受け取っても震えしか起こらない。恐怖以外の感情は、すべてブラックホールにでも呑みこまれてしまったかのようだ。不安さえも産まれない。不安とは未来を予期してのことだろうが、いまの由加里には、未来などという単語はないのである。少なくとも、この煉獄のような教室にいる限り、それは変わらないだろう。



 その日、帰宅すると、夕食までかなり時間があるというのに、風呂場に直行した。ただいまも言わずに、風呂の扉が勢いよく閉まったのは、春子も郁子も聞いている。しかし、前者は、えらく心配したが、後者はそっけなかった。
 「どうしたのお姉ちゃんは?!」
 「知らない――――」
 郁子はそれだけ言うと、二階へと駆け上がっていった。
当然のことながら、由加里の耳に、その会話が届くことはない。ごうごうと、空気を斬るシャワーは完全に、外と内を隔絶させていた。

 由加里は、あぐらに似た姿勢で腰掛けると、頭から熱いシャワーを引っ被っている。まるで、修験者の荒行のようだ。少女の中学校生活は、実際、それ以外のなにものでもなかった。
 嫌でも、その日あったことが反芻される。未だに、信じられない。

 ――――今日、あったことは全部、本当のことなのだろうか?夢ではないのだろうか?もしかしたら、いままで、いじめられていたことは、すべて長い夢で、いま、それから醒めようとしているのではないか。すぐに朝が来て、私は、とてもだるい朝を迎える。だけど、夢のことは何も憶えていない。
「由加里ちゃん!来たよ」
 香奈見の声が聞こえる。はやくしないと、どうして、ママ、早く起こしてくれなかったの!

 「っふふふ!」
自分で自分が嫌になった。嗚咽とともに、ひどい自嘲の笑いが浮かぶ。それは地鳴りのように、地の底から響いてくる。自分の声のように思えない。だれかが由加里の代わりに合唱してくれているような気がする。彼女の気持ちを代弁してくれている。そんな風に思った。

―――海崎さん・・・・・・。
その日の照美の異常な行動についても、考えが及ぶ。あの時、煙に巻くようにして、丸当に口づけをした。

―――――だから、何だっていうの?あんな人に助けられたからって・・・・・まさか、海崎さんが、助けるわけない。あんなひどいことをしている人が?!

――――でも、私、うれしいの?あんな人に助けられたかもしれないって・・・・。
由加里は、悲しくてたまらなくなった。いや、悔しくてたまらないのだ。そんなかたちの優しさでも欲しいのだ。恵んでほしいのだ。まるで乞食のように。それほど、人間的な情に飢えている自分を発見して、情けない気持ちになったのだ。

―――だけど、卵の件はわからない。
由加里は、あの卵を食べさせられると思ったのだ。今までの行為からして、照美ならそんなひどいことを命令しかねない。

 しかし、あの日は違った。ホームルームが終わると、照美とはるかは、彼女を放送室に押し込めた。あの時、観念したのだ。
しかし、「さっさと、そこから帰れ」
 照美は、有紀とぴあのが来る前に、無理矢理に窓の外に、由加里を押し出してしまった。

「海崎さん、西宮は!?」
「あいつ、逃げちゃった ――――」
「今度、捕まえたら死ぬ思いをさせてあげようよ」
 「きっとよ!」
 照美は、窓の影で、有紀とぴあのの会話を震える思いで聞いていた。
しかし、二人がいなくなった後で、由加里を見つけて言った言葉が耳に木霊する。
「オマエは私たちだけのおもちゃなんだから、それを忘れるな」
 太い銅線のような声。それは、言うまでもなく、はるかだ。
照美はあさっての方向を向いて、何も言わずに手を組んでいた。その美しい横顔は、何かに悩んでいるように思えた。

――――どういうつもりなの?!何を考えているのかわからないよ!
 その実、由加里は自分自身のことがわからなかった。照美を好きだなどと、思った自分自身を許せなかった、できるくらいなら、八つ裂きにしてやりたいくらいだ。もしかしたら、それは婉曲的な自殺を意味しているのだろうか。

―――自殺?
 よく、メディアを通じて、中高生がいじめを原因にして、自殺をするニュースを聞く。しかし、それは由加里には考えられないことだった。どうしてなのか、本人にもわからない。彼女はキリスト教徒ではないし、あまつさえ、命の尊さを広めると称する偽善家でもない。それなら、両親に対して、申し訳ないと思う単純な動機なのだろうか。そうとも言い切れない。

――――深く考えたことがない。
 それが真実であろう。そもそも、この年齢で、自殺を考えるなどと、そのこと自体哀れなことだ。
「由加里ちゃん、可哀想!」
誰も言ってくれないから、自分で言ってあげた。自己憐憫の極致だが、他に自己保存の方法を知らなかった。

 石鹸が身体に染み込むぐらいに、擦り込むのは、もういつものことだ。性的ないじめの後は、皮膚を一枚剥いでやろうという意気込みで、洗う。ことに、似鳥かなんの相手をさせられた後は、筋肉ごと剥ぎ取りたくなるぐらいだ。
 彼女の愛撫は、頭の中から、足の指先まで、それこそ細部に渡る。性器の中はおろか、耳の孔に、舌を侵入された日には、本当に生きた心地がしなかった。全身が、かなんの唾液と汗まみれだ。それだけでなく、自らの液まで擦りつけてくるようになった。鼻の中に入れられた時には、閉口した。スポイトで奥まで挿入されたのだ。
「なあに?お姉さまの液がいやなの!?」
「とんでもございません・・・っとても、気もちいいです」

 由加里は、地獄のような悪臭と恥辱にまみれて、そのように言わされた。最近では、休日など、一日中所有されることもある。
 会っていない時も、毎日、携帯にメールを送るように躾られている。

 似鳥先輩、愛しています。毎日、毎日、先輩にいやらしいことされたいです。

                          先輩の恥ずかしいペットより。

 
 文面は、照美やはるかたちに命令されているほどの、創意工夫は要求されないが、それなりに変えないと責められる。
 「もう、あんたのことなんか相手にしないよ」
そのように言われたら、由加里は、元も子もない。
「お、お願いデス!かなん姉さま!許してください!ごめんなさい!」
 我慢できない寂寥感が襲う。この世のすべてから、見捨てられた気分になる。そんな時、由加里は、いっそのこと、身を焼き尽くしてしまいたくなるのだ。
 「じゃあ、これを食べてよ、由加里にエサを上げるよ」
そう言うと、バナナを剥き始めた。それをどうするかと思ったら。自分の陰部に押し当てはじめたのだ。しかる後に、頭を残して、スリットの中へとすっぽりとめり込んでしまった。
 「さあ、お口だけで食べるのよ、犬みたいにね」
 由加里は命令に従わざるを得なかった。

 その日は、口の中を強力洗剤で洗浄したい気分になった。それも、ただの洗剤でなしに、ペンキを落とすほどの超がつく、洗剤である。叔父たちの中に、日曜大工を趣味にしている人がいて、彼の家に行ったときに、それを見つけた。
 「これなんて、どんな汚れでも落とせそうね」
「そうだよ、ペンキなんていちころさ」
 「何か美味しそう」
 そんなこと言って、叔父を驚かせたくらいだ。彼には冗談だと言ったが、涙目になっていたのを見られたかもしれない。

 風呂場から出ると、郁子が恐ろしい顔で睨んでいた。
「い、郁子・・・・・」
 何も言わずに、風呂に入ろうとする妹。
「ちょっと、郁子!返事くらいしなさいよ!」
 由加里は、郁子の手首を摑むと、ねじる。まるでいじめっ子にそうされているように。この時、何故か不快ではなかった。自分の思うとおりに、相手が従ってくれる。

―――これが嗜虐心?
 照美たちに押しつけられた卑猥な小説から知ったばかりの言葉だ。しかし、郁子は、小さな躰を必死に動かして、抵抗しようとする。鎖骨の辺りから飛んできた汗からは、甘酸っぱい匂いが漂ってきた。まだ汚れていない少女の匂いだった。由加里はうらやましく思った。
「気持ち悪い!離して!」

 ―――まさヵ、あの小説とかマンガが見つかったの?鍵がかかるのに!
施錠が可能なタンスに隠してあるのだ。まさか見つかるはずはない。
「あんたなんか、お姉ちゃんじゃない!!」
「・・・・・ひどい!」

 由加里は、思わず手を離した。そして、涙ぐんでしまった自分を発見した。もしも、いじめられてなければ、こんなことで敏感に反応しなかったであろう。しかし、次の瞬間、愛する妹の口から零れた言葉は、あまりに衝撃的だった。
「そうやって、いじめをやっていたんだね?最低だよ!そんな ―――――ひ」
みなまで言い終わる前に、由加里の平手打ちが、郁子を黙らせていた。
「 ――――――――ひ!」
絶句した郁子は、まるで喘息の発作のように、殺された息を吐き出す。
「ママあ!」
――――あの人たちは、私から何もかも取りあげるつもりなの!?友達や学校だけに飽きたらず、大事な家族まで?!

 その目つきは、あたかも虚空に永遠の地平線があるかのように、まっすぐだった。




テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

『マザーエルザの物語・終章 1』
『マザーエルザの物語・終章~1』
1998年4月3日、(愛名46年)

 「みなさん、今日はマザーエルザのことについてお話しをします」
 白を基調にした清廉な教室。そこに、よく通る声が響く。彼女は、子どもたちが大好きなシスターだ。その声を聞くと、みんなまじめに勉強をしたくなる。二人の姉たちのように、あまり勉強が好きではない、この少女でさえ、手を挙げたがる。
 
 「はーい知っています!」
「榊さん、まだ先生は質問していませんよ」
「あははは」
 笑い声が教室に木霊する。しかし、みんな彼女を嘲笑ってのことではない。榊あおいを心から好いていた。
「ふふっ・・・・」
 シスターは思わず、苦笑した。しかし、その目つきは、心からこの少女を愛していると言っている。

 「あなたには、誰も叶いませんね・・・じゃアギリは何処にありますか」
「ここから、ずっと南にあります。中国よりも南です。そして、とても暑いところです」
 あおいは、嬉々として立ち上がると、声に喜びを乗せた。その声は、心底、人生を楽しんでいるように見えた。柔らかな肌のキラメキは、誰よりも健康さを誇っていた。髪の毛と目の色は、ぬばだまの美しさを唄っている。まさに、黒曜石よりも美しい。しかし、彼女は自分の唄の美しさをまだ、知らない、誇ってもいない。余計なプライドはまだ、新芽さえ育っていない。
 
 「座ってもいいですよ、榊さん。みなさん、私の故郷、アギリはとても暑いところです。そして、とても遠いところです。だけど、皆さんを縁遠いわけではないですよ、安西さん、アギリで一番有名な人は誰ですか?」
 「お釈迦さま!」
「そうですね、アブダブラー=シッタルダはアギリ人で一番有名ですね。でも今は、我が国では、そんなに有名でもないのですよ、他にはどうですか?じゃ赤木さん」
「マザーエルザ!」
その時、榊あおいが、受けた衝撃はとても言葉では表現できない。

―――――何?何か用?!
 今、あおいは、何を思ったのか、一秒前のことを、よく憶えていなかった。ただ、自分の名前を呼ばれたと思ったことだけは事実である。
「ねえ、啓子、私の名前呼んだ!?」
「榊さん、授業中ですよ」
 「ハイ・・・・・」
 シスターは、まだ気づいていない。かつて見たる少女と、完全に容貌が変わってしまったのだ。

―――――どうしたの?あおいちゃん?
 啓子は、しかし、何かに気づいていた。異変。知り合って11年になるが、こんな親友の顔は、はじめて見る。

――――具合悪いのかな。
 それは、とても小学生らしい感想だった。しかし、正鵠を射ていたことに、後に気づくのである。今は、あまりにも幼すぎた。いや、あおいは、彼女よりも数倍幼すぎるくらいだ。少女が、これから味わう受難は、麻酔なしで重い虫歯を治療するようなものだった。しかし、彼女が、かつて犯した罪を償うには温すぎるかもしれない。

 「この次ぎの授業までに、マザーエレザについて調べてきてください。これは宿題です。良いですね、榊さん!」
「はい」
「赤木さん、ちゃんと言ってあげなさいよ、忘れないようにネ」
 シスターはウインクを作った。
「はい!」
「啓子ちゃん、忘れないって!」
 あおいは、親友に不満な顔を見せた。
「何度聞いたか、わからないけど?」
啓子は、皮肉な笑顔を見せる。決して、大人の前では見せない顔だ。
黒光りするランドセルに、教科書を詰め込みながら続ける。
 
 「耳にたこができているよ、見てゴラン」
「そんな汚い耳なんか見たくないよ!」
 「何だって!?」
 リコーダーを振り回して、親友を追いかけ回すあおい。男子のいないこの教室では、彼女が一人で男子役を引き受けているようだ。
「何を!!」
  啓子は、負けじと、ゴミ箱を楯の代わりに使った。
バシッ!
 勢いよく、リコーダーはゴミ箱に命中する。しかし、とたんに、中身は床に転がった。級友たちの戸惑う声、声、声。こういう時、あざ笑う声にならないのは、ここが相当のお嬢様学校だからだろう。
 
 相当幼く見えるかもしれないが、少女たちは、既に最上級学年である。6年も使って、この色艶は、不思議とさえ言えた。一方、あおいのランドセルは、皺と傷が目立っている。帰宅してから、勢いよく投げつけるのか、目に見えている。双方とも性格を暗示しているのだろう。

 「そうか?今日は、啓子ちゃんの家に泊まるんだったわねえ、それなら、心配ないか」
シスターと入れ替わりに、入室した教師が言う。
「先生までが、そんなこというんですかぁ!?」
不平不満という文字を顔一杯に書いてある。わかりやすいこの子が、担任は可愛くてたまらなかった。

 「ほら、手伝いなさいよ!」
啓子は、一人で箒を取り出したところだった。
「あ!危ないって」
 電光石火の勢いで、親友に、同じものを投げつける。
「痛い!!何するの!!?」
箒の柄は、弧を描いて少女の額に当たった。おでこが広いので、おでこちゃんと小さいころ、呼ばれていた。

 「コラコラ、はやくしなさい!ホームルームをはじめますよ。あなたたちが終わらないと、始まりませんからね。良いですか?みなさん、それだけ帰るのが遅くなるということです!」
 「ちょっと!あおいちゃん!!」
「ま、いつものことか」
 「仕方ないわねえ!!」
「すぐにやるって言っているでしょう!?どうして、私たけに言うのよ!ひどいじゃない!?え?どうしたの?啓子ちゃん?」

 「いやなんでもない」
啓子は、親友に背を向けて、掃除を続ける。
――――もしも、私だったら、みんなどんな反応するのかな?
改めて、あおいを見る。ぬばだまの黒が、煌めいている。幼い日には、それが嫉視だと気づかなかった。それは、当然だろう「大好き!」「憎たらしい!」という異なる感情が同居しているのだ。同じ舟に敵同士が乗っているのと同じで、不安定なこと、他と比較ができない。

 ようやく掃除が終わったのは15分も後のことだった。二人は、クラスメートたちの友情に満ちたブーブーに囲まれながら、帰宅するのだった。

 聖ヘレナ学院は、小等部から大学まで一貫した教育を行っている。その幼稚舎は、慶應や青学に並ぶ人気を誇っている。あおいは大多数と同じく、幼稚舎から上がってきたのだが、啓子は違う。帰国子女なのだ。それゆえに、毛色が他と違う彼女がなじむのには相当苦労した。誰が?本人が、親が、学校が・・・・である。

 しかし、五年生になってあおいと出会ってから、180度変わってしまった。すなわち、よく教室になじむようになったのである。個性的な性格は、温存したままで、溶け込むことを憶えたようだ。そして、彼女に出会うことで、あおいの中にも変化があるはずだ ―――――――大人たちのほとんどはそう思いたかったにちがいない。

 担任である阿刀久美子は、礼拝堂の屋根裏部屋から、ふたりを見ていた。幼稚舎か大学まで、同じ敷地に揃った学園は広大で、校門ははるか、彼方にある。
 米粒のようなふたりが、校門を駈けていく。

「あーあ、転んじゃうわよ・・あああのドジ」
 久美子は頭を抱えた。あおいが転ぶのが見えたのである。
「どうしました?阿刀先生」
「あ、シスターいえ・・・」
「あの子ですよね、榊さん」
 シスターは浅黒い顔を、向けた。白いシスター服と、好対照を為しているが、人種差別だと思うと言うことができないのだった。チビ黒サンボの件でも、そうだが、日本人は、そういうものに弱い。おそらくは、知らない物には、怖れを抱くのだろう。触らぬ神にはたたりなしというわけだ。

 「本当に、神さまに愛された娘ですね」
「冗談じゃないですよ、心配で」
「誰にも愛されるという美徳を持っています、あの子は。それは天性の物でしょう」
「天性ねえ」
 どうも、宗教者という連中とは馬が合わない。たしかに、悪い人ではないと思うのだ。しかし、この学園の半数を占める宗教者は、不思議な雰囲気を放っている。それを否定することはできない。これまでいた職場とは、何処か違うのだ。
 
 それは、礼拝や聖書の朗読と言った、宗教行為のみにあるものではない。そこはかとなく学園全体を覆っているのだ。
 しかし、教会堂や十字架と言ったオブジェクト。すなわち、ヨーロッパを象徴するものに、本来、敵意を持っていない。敵意どころか、好意、いやそれを職業にするくらい心酔したこともある。
 ちなみに、彼女は史学科出身で、大学院、修士を通じて、ルネサンス時代のイタリアを専門に勉強した。そして、いざ、研究員というところにきて、興味を失った。
 
 イタリア自体にではない。チェーザレ=ボルジアへの愛を忘れたわけではない。加えて、ラテン語に嫌気がさしたわけでもない。
 
 学問というものに、そもそも違和感を感じるのだ。
――――自分は学問には向いていない。どちらかと言うと芸術だ。
今、彼女の視線の先には、美しい少女たちが、アポロンのキラメキに遊んでいる。それは傾きかけた黄金の光だ。太陽は、ギリシア神話では、アポロンである。
いや、アポロン以上に輝いているかもしれない。
――――誘拐されないようにネ、美しい少女たち。
ダフネーとアポロンの神話を思い出しながら、この将来の作家は、微笑むのだった。

 一方、この小学校の桜と梅は、大人たちの足下を駈けていた。彼等の迷惑も、考えずに、である。
  黄色い、まだ、湿った吐息にくるまった声が、飛び交う。
 「ちょっと、今日は京王線じゃないでしょう?!」
「あそうだ」
「あそうだじゃないでしょう?お金の勘定は大丈夫でしゅうね」
 新宿駅で、啓子はやはり頭を掻いていた。
「こっち、はやくしないと」
「い、痛いよぉ」
 啓子は、あおいの手首を掴むと、キップ販売機まで連れて行く。しかる後に、改札まで急ぐ。
「ちょっと!急がなくても!啓子ちゃん、もう、啓子姉!・・・あ」
あおいは、思わず声を詰まらせたが、もう遅かった。
「!!」

  啓子は、ぶんとあおいの手を投げると、言った。
「もう、いいよ、来たくないなら、帰りな」
「あー、ごめんね、啓子ちゃん、ごめんねー!!」
言ってはならないことを言ってしまった。あおいの頭の中で、そのことが反芻される。
 「オネガイだから!」
 あおいは、ホームに到着したところで、啓子のランドセルに抱きついて泣いた。まるで、黒曜石のように、自分の顔が映るランドセル。それは啓子を象徴しているようだった。
――――嫌われたくない、啓子に嫌われたら生きていけない!
あおいは、わんわんと泣く。

 「いいよ、もう―――――」
啓子は、あおいの頭を抱きながら言った。勢いで、黄色い帽子が、脱げてしまった。私立の学校らしく、6年生でもそのようなものを被っているのだ。ふつうは恥ずかしく思うが、幼稚舎から、純粋培養された少女たちは、それを誇りにすら感じていた。特権階級に産まれたことを優位に感じる気持だ。啓子などは、それに反感を感じていた。

 「いいって、泣かないで―――」
「ウウ・・・ウウウ・・」
思わず、慰める啓子が涙ぐんでしまった。
―――――この子相手じゃなかったら、こんな気持にならないのに、どうして?
啓子は不思議でたまらなかった。
その時、まるで空気をくの字に曲げたような音が聞こえる。電車がホームに滑り込んだのだ。

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『マザーエルザの物語・終章~序章』


 マザーエルザという名を知らない者はいないだろう。今、1997年9月5日、彼女の名前に、ふさわしくないくらいに、慎ましい病院で、息を引き取ろうとしていた。
 1910年8月26日に生を受けていらい86年。アギリは、いや、世界はこの女性と時間を共有できたことを神に感謝すべきである。
 世界の誰からも愛され、尊敬された聖女は、今、約束された最後の呼吸をしようとしている。
「ああ、もう息ができないわ」
 そのか細い声は、世界のすべてを貫くほどの衝撃を持っていた。

 「マザー!!」
「あああー!!マザー」
 医師の確認を待つまでもなく、修道女たちは、マザーの御たまが、天に召されたことを知った。目の前に横たわる、人間としてはあまりに、華奢な肉体の中に、マザーはもういない。このことを自己に銘記しなくてはならない、それを自覚するには、よほどの時間が必要だろう。
 今更ながらに、マザーの修行に叶わない自分たちなのだ。そう自覚しても、あまりの悲しみのあまり、理性を失わざるを得なかった。
 
 「ああ、マザー叱ってください!どんなに蔑まれてもかまいません、もういちど、お目を開けてください!」
 その若い修道女は、天に祈った。
マザーの顔は、それは晴れやかな顔だった。神々しいまでに、清らかだった。
 それは、その部屋にいる人間の総意のはずだった。
しかしながら、ある少年、黒人の少年だけは、そうは見ていなかった。
「おばあちゃん、本当に幸せだったの?」

 その言葉は、修道女にとってみれば、涜神ともいうべき恐ろしい言葉だったにちがいない。ただし、その場の誰も、自失のあまり、ちっぽけな子どもの声に耳を傾けなかった。
「おばあちゃん、本当に幸せなの?」
その声は、小さかったが、分子の一つ一つに食い込んでいくだけの力と執拗さを持っていた。
 
 今、陽光はきらめく。この世界の人は、みんなそのきらめきを恨んだ。1997年9月5日という、この日付を誰もが恨んだ。
 しかし、その少年だけは、永遠に、この日付を複雑な気持ちで、思い返すに違いない。

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『由加里 37』
 裁判は、6時限目に、厳かに始まった。道徳の授業という表向きである。今回は、担任の公認ということで、クラスメートの目の色がちがう。いつものように、手錠や腰ひもの演出こそなかったものの、クラス全体が、由加里を責める空気は、普段よりも、陰惨で残酷な空気に満ちていた。         
 大石先生の指導によって、座席の移動が始まる。すなわち、由加里は机を真ん中に移動し、他のクラスメートたちは、それを、黒板に向かってコの形で、囲むように設置した。
 大石先生は、裁判長、検察官、弁護士をそれぞれ発表した。あたかも、予めこの裁判を予定していたかのように、周到に準備されていた。
 証人席も、由加里のすぐ目の前に用意される。こうして、由加里を裁く舞台装置が完成した。哀れな少女は、こういう舞台道具をどんな心持ちで、見つめていたのだろう。
 
 裁判長は、海原ゆき、検察官は、真野京子、弁護士は、水崎ゆらら。この三人は、いままで、由加里いじめに、それほど積極的ではなかった面々である。
 少女が、すがるような視線を送っていた大石先生が、教室の背後に移動した。
こうして、前代未聞のクラス裁判が始まったのである。

 「私がこの裁判の裁判長をおおせつかった海原ゆきです。まず最初に検察官に、この裁判の趣旨を説明していただきます」
 海原は、何処と言って特長のない少女である。成績は中の中。容姿を形容すれば、何処にでもいるふつうの女の子という以外の表現は見あたらない。
彼女は、由加里を囲むコの字の、内側の窓側に席を占めている。立ち上がると、用意していた文章を読み上げはじめた。

――――ずっと前から、用意してたのね。どういうこと?これ?
 由加里の中で、不審が夜火のように広がっていく。しかし、今は震える心で、水崎の言葉に意思を集中させねばならない。
ゆららの顔には、悪意がありありと浮き出ている。
 「私が、検察官を拝命した水崎ゆららです。あそこに座っている西宮由加里を被告として、訴えたいと思います。その理由は、クラスメートみんなの要望によるものです。中2学年に進級して以来、この被告から受ける迷惑は、クラス全員が賛同するものであります。    
 みんなの要望によって、この裁判は始まりました。ここに、要望書と全クラスメートの署名があります」

 同意のどよめきが、教室に木霊した。
「それは、私が確認しています」
 大石先生が、みんなに呼応するように、口を挟んだ。
由加里は、すでに涙で顔を浸している。今更ながらのことだが、自分への悪意を公認されるのは、辛いことなのかもしれない。
――――先生、どうして?私はいじめられているのに、どうして、助けてくれないんですか?
 
 由加里は、背後の大石先生に、凍える背中ですがったが、何も、答えてくれそうにない。真夏が近いというのに、どうしてこんなに震えるんだろう?凍えるんだろう?机に落ちる涙さえ凍ってしまうかのように、寒かった。
 大石先生は、ただ、手を組んだ姿勢で、壁によりかかり、事態を傍観しているたけのようだ。
「では、弁護士は主張したいことがありますか」
 真野京子が立ちあがった。

 かってのクラス裁判で、照美がやった弁護はひどいものだった。ある意味、誰よりを由加里を徹底的に罵倒していた。京子は、一体、どのような弁護をするのだろう。
 しかし、複雑な立場であると推察される。何故ならば、由加里を非難しなければ、クラス全体の非難を受けるからである。といって、反対の立場を取れば、また弁護士という何にもとることになる。やはり、照美が主張したようにする以外にないのだろうか。
 
 「弁護人は、検察官の主張を全般的に認めるものであります。しかし、被告の育った家庭環境を示すことにより、みなさまのお情けを望みたいと思います」
 真野の言いようも、相当に、由加里を侮辱していた。
しかし、一体、由加里の何の罪を主張したいというのだろう。この辺りなど、さすがに中学生のおままごとに過ぎないのだろう。照美やはるかも、意味ありげな微笑を浮かべるだけだ。大石先生が助け船をだした。

 「検察官に聞くわ。あなたは、西宮さんの何の罪を主張したいの」
「はい、穂灘翔子さんへのいじめです」
「あああああ!!」
真野の言葉を聞いたとたんに、穂灘は泣き叫びはじめた。その声は明かに芝居がかかっていたが、それを主張するものは、誰もいなかった。

―――私がいじめを?!
 由加里は耳を疑った。大石先生との会話でも、主張したことだが。主語と述語が転倒している。穂灘がとやかくと言うのではない。彼女は積極的にいじめを行ってきたわけではない。いじめを囃し立てるクラスメートの一人、いわば、その他の一人にすぎない。小学校時代からの知り合いだから、一抹の淋しさは感じていたが、彼女は、それ以上でもそれ以下でもなかった。
「ウウ・・ウウウ!」
 その時、股間が疼いた。少女の下半身は大変なことになっている。おむつとはいえ、万能ではない。そのうち、漏れてしまうかもしれない。

―――――そんなことになったら・・・・・・・。
 少し、盗み見たのだが、照美とはるか、それに有紀とぴあにだけが、意味ありげに笑っている。もしかして、それは由加里の錯覚や思いこみかもしれない。何故ならば、四人が、少女の下半身の秘密を知っていると怖れているのは、誰よりも、まず彼女自身なのだから・・・・。
 ところが、当の照美は、由加里が思うようなことを考えていたわけではない。ここまでの展開は、決して、彼女の思うとおりではないのだ。

 「穂灘さん、立って発言してください」
海原が、すこしとまどいながら、言った。
穂灘は、しゃっくりを上げながら語るには、由加里に小学生のころからいじめられているということだった。彼女の告白が、佳境を迎えようとしたとき、誰かの泣き声が、教室を半分に割った。
「・・・・・・・・・?!」
 由加里もビクリとして、下半身をさらに濡らしたくらいだ。彼女の下半身は、海洋生物ではないのだ。その皮膚も鱗で出来ているわけではない。そのためにふやけて、組織に水分が入ってしまっているかもしれない。
おぞましさに形の良い眉をひそめざるをえない。

「・・・ウウ・・う」
もう、限界に達していた。おむつの上限は、臍のすぐ上にあるが、もう、そこまで海岸線は、膨脹しているのだ。さしずめ、由加里温暖化ということだろうか?恥辱と羞恥のために、精神的にかなり興奮していたにちがいない。そのために、体温も平均よりも、高かったかもしれない。
 
 由加里は、おろおろとそちらを向いた、声のする方向だ。
―――香奈見ちゃん!?!
立ち上がって泣き出したのは、かつて、互いに親友だと呼び合った工藤香奈見だった。

 「どうしたの?工藤さん、不規則発言はだめですよ」
海原は、この裁判ごっこに、首たけになっている。もはや、完全な裁判長きどりだ。それがおかしかったのか、照美は密かに、舌を出した。

 「わ、私が、・・・ウウ・・ウ・う、ここにいる、に、西宮さんと、穂灘さんを、・・・ウウ、いじ、いじめてました!ご、ごめんなさい!!」
 教室中がドッとなる。直角であるべき角が90度を超えて、120度に拡大される。教室のすべての物が歪み、声は光よりも、早く、飛び交い出す。

 「それは、西宮さんに命令されて、いやいやながらやったということですか?」
あきらかな、誘導尋問だ。由加里が一番、悪いのだと印象づけたいのが見え見えだ。しかし、香奈見はそうは答えない。
 「いえ、一緒になって、やりました。ものすごく反省しています、穂灘さん、ごめんね!」

 ひたすらに、真摯な態度で、泣きじゃくる穂灘に謝る香奈見。
「どうなんだよ!西宮!おめえは認めないのかよ!!」
「よくも、平然としていられるわね!このうそつき!!最低!」
「ひどい!あんたみたいな人非人(にんぴにん)が、同じクラスにいると思うと吐き気がするわ!」
 
 集団による暴力とは、恐ろしいものである。あの照美やはるかでさえ、それには抵抗し得ないであろう。そもそも、由加里は繊細な神経の持ち主なのである。それに、人に非難されるという経験に乏しい。チヤホヤされすぎた報いだと言うのは、少女に対する嫉妬であろう。
 
 彼女を罵る陪審たち、とりわけ、少女たちの中には、激しい嫉視を向ける子たちが多い。彼女等の被害妄想かもしれないが、中学くらいから、大人たちは、子どもを総じて、成績だけで評価してしまうことが多い。そのことが、余計に由加里を敵意の標的にしてしまったのである。       
 しかし、由加里が、庇護を受けられなかったのはどういうことだろう。
 成績がトップクラスである上に、おとなしく控えめ。これが、中学に上がった由加里に対する生徒や教師達のイメージである。
 照美ははるかのように、デキのいい子たちは、大抵プライドが高い。そのことが敵意の標的になるなら、話しは早いだろう。
 ところが、由加里はどのように、いじめられっ子になってしまったのだろう。その理由がわからないのである。

 「・・・・・ウウ・・う!」
 由加里は、ただ泣き続けるだけだ。もう口が震えて抗議する気力すらない。
 内憂外患とはまさに、このことである。少女の内側は、卵とおむつに責められ、外側は、
 少女の皮膚感覚として、実感される圧倒的な敵意。そして、下半身は大洪水を呈している。そして、少女に情け容赦ない罵声が浴びせかけられる。しかも、教師はそれを黙認しているのだ。
 しかも、彼女のいいぶんは何も聞いてもらえない。既に、有罪は既定事実として証人されてしまったかのようだ。

――――夢だよね。これは夢よね、悪い夢を見ているんだよね。
由加里は、涙の海に溺れながら、そう思うしかなかった。
 できるなら、溺れきってしまいたかったかもしれない。しかしながら、少女の理性と知性はそれを許さなかった。そんな少女に、真野はさらに責めの手を緩ませはしない。それは、彼女自身の個人的な怨みでなしに、クラス全体の意思のように思えて、ならなかった。
 香奈見が証人として、立たされる。
 
 「あなたは、穂灘さんにどのようなことをしたのですか」
「いじめをはじめたのは、小学校5年の三学期です」
 「被告人とふたりではじめたのですか」
 「西宮さん・・・・・・・彼女に勧めたのは私です」
香奈見は、由加里を見つめて震えている。

 「どうしたのですか?裁判官、工藤さんは明かに怯えています。西宮さんに後でドンナ目に遭わされるのか怖くてたまらないのです」
「被告は、証人を強迫しないように」
「・・・・・・・・・」
 香奈見はついに泣き出してしまった。
「証人に聞きます。被告人とはどんな関係ですか」
「・・・・・し、しんゆう・・・・・でス・・・・」

―――――しんゆう?
 彼女の口からそんな言葉が出てくること自体が、信じられない。しかし、教室中の同情は彼女に集まっている。由加里に、友人関係を強要されているとみなされているのだ。
「裁判官に請願します。被告人と工藤さん、ふたりの関係を知っていると思われる証人を招聘したいと思います」
 「認めます」

 「猿渡さんです」
猿渡百合絵は、狸のような顔を、赤らめて証人席へと歩み寄る。正面から見ると、本当に狸そっくりだ。髭が生えていないのが、不自然なくらいである。海原は、噴き出すのをこらえるのに大変だったらしい。
「あなたは、いつから二人を知っていますか?」
「小学校二年からです」

――――このオンナの口から人語が出るのね。
海原は、やっぱりおかしくてたまらない。
「仲良く見えましたか」
「最初は、そうでした。西宮さんは、外向きだけは良い子ですから」
「・・・・・?」
 猿渡の言葉、言葉には相当、針が仕込まれている。

「最初とは!?」
「善意を押しつけるんです」
「具体的には」
「頼んだこともないのに、恩を売って後で見返りを請求するんです」
「ですから、具体的に示してください」
「テストの時がそうです。その時、席が隣同士だったのですか、テスト中に、わざと見せるんです。その後で、お金を要求されました」

「そ、そんなことしてない!!そんなことしてない!」
 由加里は、当然のように泣き叫んだ。そして、猿渡に詰め寄ろうとする。しかし、側にいた少女たちに取り押さえられた。
「被告人は静粛にしてください。そうだ、お二人に警察官になってくれるように頼みます」
「被告には手錠が必要だと思われますが、暴れますので」
「認めます」
 「いやあ!ぃいやああ!!」

 高田から手錠を受け取ると、いやがる由加里に手錠が填めた。少女は、下半身の秘密がばれることを怖れて、あるいは、暴れることによって、より強い官能を怖れて、すぐおとなしくなってしまった。
 密かに、警察官の一人は、由加里を余計に殴る機会を失って、悔しがった。

 この時、大石先生は何をしていたのだろうか?彼女は渋茶をしゅくしゅくと飲むように、言葉を並べた。
 「海原さん、こういうことは予めやっておきなさい。被告人が暴れることは予想できたはずです」
 「すいません」
海原は含み笑いを押し殺しながら言った。
「被告人は静粛に」

 「・・・・・」
由加里は涙を呑むしかなかった。まるで、血の流れを無理矢理に押しとどめられるように、感情の躍動を止められた。それは大自然を押しとどめるダムのような試みで、いつかは破綻するだろう。
 
 「検察官は質問を開始してください」
「はい、被告人はいくら請求してきました」
「300円です」
「裁判長、小学生に300円は高額です、被告の罪は重いと思われます」
「弁護人は何か言うことはありますか」

 一斉に、水崎に視線が集まる。思わず顔を赤らめてしまった。何か言うことはないかと、考えてひねり出したのが以下である。
「猿渡さん、被告にいいところはなかったですか」
「ですから、外見はいいです。人当たりはいいし、先生に対しての受けもいいです」
「裁判長、今話していることは、3000円のことのはずです」

 いつの間にか、3000円になっている。
「そうですね、では、被告人、3000円を要求したのは本当のことですか」
「嘘です!そんなこと!してません!」
 由加里は、涙を瞼で押し潰すように、訴えた。
「嘘つかないでよ!私にも要求したくせに!!」
「大善くんに、告白させたくせに、何を言っているのよ!!」

 「・・・・・・・?!」
由加里は絶句した。クラス全体がひとりの少年に注がれる。丸当大善。彼も小学校時代から知っている間からである。野球部でもないのに、丸坊主のとんがり頭は、何を語っているのだろうか。
 
 「裁判官、至急、新証人を呼びたいと思います
「許可します」
海原はみなまで言わせずに言いはなった。その語尾に、興味津々なのがあふれている。
「丸当くん、証人席まで」
 丸当は、おどおどしながら、席に着く。
「告白とはどういうことなのですか」
「・・・・・あの・・・小6のとき・・・・・に、西宮さんが好きでした・・・・・」
「どんなところが好きになったのですか?」
「・・・外見です」

 やっぱりという空気が教室を包む。由加里は、外見だけの人間だという雰囲気が醸成されている。由加里は、大善を直視した。訴えるような視線。しかし、大善は、そんな視線を意に介さない。
「ところで、告白というのは」
「あ、ある日の午後、西宮さんに告白しました。そうしたら、OKだと言うんです。そうしたら、ある場所で、次ぎの日に告白してほしいって言うんです。」

 「そんな!!?」
由加里の声は、ほとんど悲鳴に近い。
暴れそうだと判断した二人の警察官に取り押さえられた。どさくさに紛れて、平手打ちを喰わされた。しかし、大石先生は見てみぬふりを決め込む。
「そ、そうしたら、次ぎの日、指定の場所に行きました」
「そこは何処ですか?」
「墓場の前です」
「あははは!趣味悪い!でも西宮らしいよね、もっとも、すぐそこに入ってほしいけど」
「それって最高!」
「あははは!」

 「陪審は静粛に、おもしろいところなんだから!」
思わず、海原の口からホンネが漏れる。
「続けて、丸当くん」
「おかしいなあと思ったんですけど、浮かれていたのだと思います。好きですって言ったら、彼女はひどいこと言って笑ったんです。それだけじゃなくて、クラスメートがみんな一斉に出てきて、僕を笑いました」

 「そんなの嘘!嘘よおぉ!!」
泣き叫ぶ前に、殴られぞうきんを口に詰め込まれる由加里。股間を突き刺す官能も、この際、気にならないほどの侮辱だった。

 「それは、結局、被告人がしくんだことなのですか」
「そうです」
「西宮さんが予め、呼んだそうです」
「それを証明してくれる人はここにいますか」
「工藤さんと穂灘さん、それに井上馨くんです」
「大善、ごめん!」
 山形梨友が立ち上がった。
「証人になってくれますか」
「はい!」
ナチのように、片手を天井に向かって振り上げると、山形は立ち上がる。
「このオンナがおもしろいことがあるって言うからさ」
「そうよね、あたしも呼ばれた」
香奈見が立ち上がった。

 「工藤さん、それは本当ですか?それは・・・・では、被告に質問します。あなたはこれまでのことを認めますか?つまり、丸当くんを騙したばかりでなく、みんなの前で辱めようとしたのですか」
「ち、ちがう!ちがいます!そんなの嘘です!」
 言い終わるなり、机に伏して泣きじゃくる由加里。
「じゃあ、丸当くんが好きなのですか?」
ものすごい論法である。アリストテレスも裸足で逃げ出すような言いようである。

  「・・・・・・・・・!?」
「どうなのですか?じゃあ、嘘なのね」
「・・・・・・・好きです」
 おおお!教室中がどよめいた。このとき、どうして、由加里はこのように言ってしまったのか、後々まで悩んだ。
「じゃあ、どうして断ったのですか?それだけでなくひどいことを言ったそうじゃないですか」
「・・・・・・・・・」
「答えてください」
「恥ずかしかったからです・・・・・・・・・・」
「丸当くんは納得できますか」
「できません、ものすごい傷つきました。あんなひどいことをしなくても、すぐに断ってくれればよかったんです」

 丸当は、乾いたぞうきんを絞り出すような仕草で言葉を紡ぐ。その姿は哀れで、非常に同情を誘うものだったから、その分、由加里に対する敵意と非難は、雪だるま式に膨脹していくのだった。

 「でも好きだって言って居るんですよ、断りますか?」
「被告は、丸当くんを傷付けたんですよ、どういう風に罪を償うべきだと思いますか」
 もはや決めつけるというレベルではない。事実になっている。
「ごめんなさい」
「謝ってすむことかよ!」
「そうよ、恋人になって奉仕しなさいよ!」
 誰かの言った言葉に海原が反応した。
「では、恋人になったらどうですか?好きなんでしょう?もっとも、丸当くん次第ですが」
「願い下げだよな」
「当然よ、こんなヤツと」
「恋人になってほしいです」

「エ・・・・・!?」
由加里は、思わず仰け反った。しかし、二人の警察官に取り押さえられて、それは実現しなかったが。
 「では、恋人の儀式を行ってもらいましょうよ」
おおう!
 教室がうなり声を上げる。この教室は意思を持って、呼吸しているかのようだ。由加里は、そのおぞましい怪物に頭ごと喰われ、消化されようとしている・
 「ぎ、儀式って・・・・!?」
「当然、キスしてください、警察官、被告を連れてきてください」
「いや!いや!いやああ!!」
由加里は漁船に引き上げられた蛸のように、引きずり出される。

 「オネガイ!許して!ェエエエエ!」
泣きわめく由加里は頭を固定されると、目の前に男の顔を発見した。丸当大善、その人が目の前にいる。前に書いたとおり、別に醜男ではない。しかし、今、どんなイケメンが目の前にいようとも、フランケンシュタインの怪物にしか見えないだろう。

 その時、意外な声が由加里の耳に届いた。

 「待って下さい」
それは照美だった。
何という迫力だろう。それは、大石先生でさえ、見逃すことができなかった。すくっと立ち上がった照美は、身長以上の大きさを感じさせる。
「結婚式には、異論が許されるはずじゃない?」
いつのまにか、結婚式まで話しが進んでいる。
「具体的には?」
「結ばれる二人の前に、出よというはずね、異論がある人はね?」
「それが、あなただと?」
 震える声で、海原は言った。
「ちょっと待ってよ!照美さん!」
おおー!
男子たちが騒いだ。
あの丸当と、海崎さんが ―――――――と!?
「海崎さん!いやああ!!」
女子の数人が騒いだのは不思議なことだと、一応言っておこう。

 それを無視して、丸明の前に歩みを進める照美。
「私はあなたが好きです、どちらか選んでください」
絶世の美少女に、告白されたのである。

――――聞いていないぞ!こんな展開!
丸当は高田と金江を睨んだ。二人は、何処吹く風と、唇を吹いている。
繰り返すが、けっして、丸明は醜男ではない。しかし、照美や由加里と釣り合うはずはないのだ。

―――助けてくれているの?!
由加里は、もはや機能しなくなりそうな目で、照美を見た。どうして、そんな風に思うのか?自分自身に説明ができない。今まで、あの手この手で、自分を嬲ってきた照美である。その彼女が、どうしてこんな挙に出ているのだろう。まさか、本当に丸明が好きなのだろうか。いや、そんなことはありえない。何故か、由加里はそう断言できた。

「ああ――――」
ブザマにも、丸当は二人の美少女を前にして、腰を抜かしてしまった。床に転がるように逃げた。
「むむむむ~~~~~!!?」
照美は、丸当の上に跨ると、一片のためらいも見せずに。その口吻に口づけをしたのである。 灰色も、完全な黒の前では、白く見える。しかし、プラチナの白の前では、薄汚い灰色にすぎない。
 今の丸当は、まさにプラチナの前の灰色だった。

 向丘第二中学2年3組、総勢35人と教師1人は、信じられないものを目撃していた。
 


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『由加里 36』

 「あははは!帰ってきた、帰ってきた!」
「たっぷり、可愛がってもらったみたいじゃない、普段、誰にも相手にされないのにね」
「本当、一年生に、面倒見手もらったっていうじゃない!?西宮さん、よかったネ!1年生とはいえ、いい迷惑よね、こんなのの相手なんて!あはははは!」
 
 教室に入ろうとした由加里は、思わず、凍り付いてしまった。ドアを開けて、右足を踏み入れたことまでは、どうにか憶えている。でも、その後がよくわからない。
 「どーしたの?西宮さん、早く入りなさいよ、誰もあなたのこと、歓迎しないけどね」
「あははははは!」
 教室中がどっとなる。机、黒板消しに、カラーマーカー。まるで、それらすべてが、生きている有機体のように、変形し、あるいは体液を垂れ流して、蠢く。それが由加里には嘲笑に聞こえる。実際、直線のはずの教室が歪んで見える。

――――本で読んだけど、アインシュタインって正しかったんだ。空間が歪んでる。

 少女は、こんな事態にもかかわらず、心のどこかは冷静に、状況を分析している。それだけに、いじめの辛酸が増すのである。

 高田あみるが、近づいてくる。その足音は、由加里にとって恐怖の音を意味する。
「おかえり、西宮さん、荒木と古畑は、可愛がってくれた?たっぷり遊んでくれた?」
「・・・・ハイ・・?!」
 由加里は肯いて、改めて、自分がいじめられていることを自覚させられた。思わず、顔を赤らめてしまう。
 同時に涙腺が緩む。どれほどひどい侮辱を受けているのか、理解したからだろう。

 「ねえ、二人にありがとうって、ちゃんと言ったの?」
「・・・・・・?!」
 もはや、高田の発する侮辱に耐えられなくなっていた。

「二人はねえ、友達が誰もいない西宮さんのために、がんばってくれたのよ、そういう時は、ありがとうって言うの、わかった?」
 まるで、母親が小さい子供に言うような口ぶりである。

「あははははは!」

 それが、やけにおかしかったのか、クラスメートは女子も、男子もみんな笑っている。その声は、無数の飛びナイフに変化して、由加里にずんずんと、突き刺さる。

 「わかったの!?」
「ハイ・・・ワカリマシタ・・・・・・ウウ・・ウ!」
 ついに、泣き声が口から零れ出る。
しかし、高田は口撃を畳み掛ける。
「そんなこともできないから、みんなに嫌われるんだよ。あ、本当のコト、言っちゃったあ!あははははは!」

 「あはははははっ!」

 いじめっ子たちが、侮辱の言葉を並べるたびに、みんながわざとらしく笑う。まるで、寄席か、漫才の会場のようだ。そう、由加里は、さしずめ哀れなピエロである。このクラスの笑いモノである。こんなに、可愛らしくて頭がいいのに、そんな地位に甘んじている。  
 表向きはともかく、実際はそう思っている生徒は、少数だがいないわけではない。しかし、その少数者は、声を形にすることはできなかった。だが、その少数者は、片方の指の数にも満たない。
 
 「それじゃ、我らが西宮さんが、あまりに可哀相。だからね、今日の、道徳の授業だけどさ、大石先生に頼んだのよね。西宮さんに、お友達ができるようにねって、みんなで頼んだんだ」
 「そうだよ!みんな、あなたのこと心配してるんだよ!西宮さん!」
「ほら、ありがとうは?さっき、言ったじゃない?!」
「・・・・・・・」

 ―――私に何をしろって?

 「あ・り・が・と・う!こう言うのよ」
金江は、由加里に近寄ってくる。口臭が漂ってくるくらいに間近だ。今日のお弁当は、カレーが入っていたにちがいない。

 「ねえ、みんな、この子に教えてあげようよ、どうやってお礼を言うのか、さあ、はい」
「あ・り・が・と・う!!」
 クラスメート全員が、一斉に、「ありがとう」と哄笑する。 それは、まるで演劇部の発声練習を思わせた
「どう?わかった?」
 笑いを、必死に押し殺しながら、金江は言葉を続ける。
「・・・・・・ハイ、わ、わかりました・・・・あ、ありがとうございます・・・・ウウ!」
 由加里は頭を下げた。それは何度やったかわからない敗北宣言だった。

 ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!

 少女は、頭を下げているために、拍手をするクラスメートの顔を見ることはできない。しかし、どんな顔をしているのか、手に取るようにわかる。どんなに、彼女を嘲っているか、侮っているのか、明々白々だった。

――――ふん、劣等感っていうのは、こういう形にもなるものか。

 しかし、表向きだけ拍手をして笑いながらも、内面は別の心根を宿しているのが、二人もいた。照美とはるかである。
 クラスメートは、優等生である由加里に劣等感を持っているのである。それを消化するのに、こんな幼い方法をとらなければならない。それは、由加里と同じくらいに、いや、それ以上に、滑稽であほらしい。
 由加里は頭が良い。それは、照美やはるかだからこそ、認められうる事実なのである。

 しかし、二人はこの事態を達観することにした。言うなれば、高みの見物である。由加里は当然、その対象だが、このおろかなクラスメートたちも、道化者の一種にすぎない。
 いや、由加里に対しては、憎しみとしての対象や、獲物としての興味はあるが、道化者に対しては、路傍の石程度の、関心もない。

 「ねえ、西宮さん――――――」
しかし、照美が一口開けると、教室中がそちらに注目する。それは、いくら高田や金江が、大声を出そうとも叶わない力を持っている。
 
 由加里も、とてつもない衝撃を感じてる。

 いま、互いにしか解らない世界に、ふたりはいる。はるかは傍聴できるが、まだ中には入れない。それが、彼女にとってみれば、歯がみをするのである。照美にとって見ても、はるかは、親友であると同時に、唯一のライバルと認めているのだから、弱いところを見せたくないのかもしれない。
 「な、なんですか・・・・・・」
 驚いたことに、逆に由加里から質問してきた。それは、照美が、彼女を赤ちゃん扱いしなかったからかもしれない。照美にとってみれば、いじめも本気なのである。決して、遊びでやっている高田たちとは違う。

 「いや、何でもないわ、ただ、お尻が冷たくないかと思ってね・・・・・・」
「?!」
 照美の言葉に、一部の人間が反応した。
 由加里を含めて、五人だけが事情を知っている。

「ううウウウウ!」

 まるで固有の意思を持っているかのように、卵が女性器の奥を伺う。きっと、驚きのあまり筋肉が収縮したのだろう。その力によって、いったん押し出されそうになった異物は、おむつの締め付けによって、奥へと再び、押し戻された。
 
―――――いやぁあああ!

 由加里は思わず、床に手をついてしまった。下半身の秘密をみんなに知られたらもう、生きていけない。その場で舌を噛んで死のう。とまるでできるはずもないことを、考えた。
まさに、生きた心地がしないとは、このことだろう。

―――どうして、こんな目にあわないといけないのだろう。

 いじめられるようになって、何回、思ったことだろう。哀切極まりない涙が、頬を濡らす。
絶対に出るはずのない疑問だ。しかし、問わずにはいられない。

―――どうしたら、6時限目を何事もなく過ごせるだろう。

 少女はそれだけを考えて、数学の授業を受けた。先生の声は全く聞こえなかった。

―――先生が提案を受け入れたって、本当のことかしら?!

 由加里はまだ、信じられなかった。どうしようもない向丘中の教師の中では、良い方だと思っていたのだ。
 そんなことを考えながらも、数学の授業はあっという間におわってしまった。
ついに、始まってしまう。

―――私のために、って何をするつもりなんだろう????
由加里は狼狽のあまり、周囲を見回した。しかし、彼女を嘲るクラスメートばかりが目につく。みんな、何も答えてくれそうにない。
「ググ・・・・ウ!」
 精神的に動揺すると、卵が蠢く。おむつの中は、魚が飼えそうな状態だ。気持ち悪い。はやく、このオゾマシイ液体を流したい。いや、おむつなどという気持ち悪いモノとは、すぐにでも訣別したい。
「西宮さん、先生が呼んでいるよ」
「ハイ・・・・・」

 まるで、死刑の執行を言い渡された受刑者だ。由加里は、罪人のように立ちあがった。そして、その少女の後ろを惨めな心持ちでついていく。
――――大石先生、助けてください!
 
 由加里は、心の中で叫んでいた。廊下と階段を幾つか抜けて、国語科準備室に入る。
「真野さん、あなたは教室に戻っていなさい」
「はい・・・・」
 真野京子は、機械のような動きで、ドアを開け、閉めた。
「せ、先生!」
既に涙声になっていた。
「・・・・・・・」

 「お願い・・・です!」
 国語科教師の、大石久子。年齢は27才。14才にすぎない由加里たちにとってみれば、ものすごく大人に見えるだろう。慎ましげなその風情は、由加里に好感を与えてきた。小説が好きな由加里は、かつては久子と和やかな談笑をしたことがあった。そこには、友人もいた。久子を囲んで、同好の士が集ったわけだ。とりわけ、由加里は可愛がられていた。
 だから、一筋の希望にすがったわけだ。

 「何が、お願いなのかしら?」
すっとぼけたように、久子は言った。
「み、みんなが・・・・」
口がうまく動かない。ただ涙が零れるばかりだ。久子の顔は全く見えない。
「お、お願いです!許してください」
 懇願する由加里が、久子から聞く言葉は、とうてい信じられない内容となる。
「クラスの子が言うには、あなたいじめをやっているそうじゃない?!」

―――主語と述語が違う!

 由加里は思ったが、文章化することはできなかった。
「そんなの嘘です!!」

―――――なんで、涙は音も立てずに、落ちていくのだろう。

 由加里はそんなことを考えていた。あまりにも衝撃的で、恐ろしいことが目の前で、起こっているにもかかわらず、涙は無音で落ちていく。それが不思議でたまらない。
「もしも、それがホントなら、幻滅だわ!それがモノを書く人がすること!?」
「だって、それは嘘です!!」

――――私がいじめられているんです!
とは、何故か口が動かない。

 由加里がいじめをやっていることは、既成事実になっている。大石先生も、それを認めてしまっている。裁判をやる前から、判決は決まっているのだ。そもそも、学校の授業で、一人の生徒を責めるような裁判をやる。
 そんなことが許されるのか?
  久子の口から出てくる言葉は、由加里の理解をはるかに超えている。
「小学校でもいじめをやっていたそうね」
「・・・・・・・?!!」
もう、何も言えない。ただ、無音の雨を降らせるだけだ。

 「・・・私に、友達ができるようにってどういうことですか?」
やっと、まともな質問ができた。冷静さを取りもどしつつあるのだ。
「感謝しなさいよ、みんな、本当に優しい子ばかりね、そんなあなたとやり直したいって言ってくれてるのよ」
 「ひどい!私のいいぶんは、何も聞いてくれないんですか?」

 由加里は抗議した。一度、頭が回転すれば、久子を凌駕するような言葉はいくらでも出てくる。
「一体、授業で裁判をやるようなことが、許されるんですか?そんなこと、ありえないですよ!校長先生を出して下さい!」
 そう言って後悔した。鷲妻校長は、コピペ校長と影で呼ばれている。人畜無害を表す好表現だ。そんな教師が頼りになるはずはない。
「こんなこと、文科省の通達にあるんですか?え!?」
ぴし!
 その時、乾いた音が狭い部屋に木霊した。久子の手が宙を舞ったのだ。思わず頬を押さえる。信じられないという表情で、久子を見つめる。その頬は赤く腫れている。
「いい加減にしなさい!いいですか?裁判は道徳の時間にやります!あなたの罪を明かにしてあげます」

 いつの間にか、裁判という言葉が教師自身の口から、飛び出してしまった。
 一体、クラスメートは久子に何を訴えたのか?そして、彼女はそれをどのように受けとめたのか、一切、不明のまま、裁判という形になってしまった。それは、久子自らの口で、証明されてしまったのだ。
 

テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

『由加里が借りたエロマンガ、小説』
 【雑誌】
『SMえれくと 3月号』青才社 780円
『SMえれくと 4月号』青才社 780円
『SMえれくと 5月増刊号』青才社 1080円

『ろりコンCLUB 三月号』 参会社 1790円
『ろりコンCLUB 四月号』 参会社 1790円
『ろりコンCLUB 五月号』 参会社 1790円
『ろりコンhaus 三月号』 参会社 1790円
『ろりコンhaus 四月号』 参会社 1790円
『ろりコンhaus 五月号』 参会社 1790円
 
 【小説】
『美姉妹奴隷生活』 杉村春也著 フランス書院 970円
『』

 【マンガ】
『さーびすげーむ』 破邪著 富士見出版
『気まぐれな天使たち』 中ノ原恵 一水社 720円
『M』      :TWILIGHT  著桜桃書房 価格:918円(税込)
『私のペットはフタナリ』 榊原東子著 哀冠書房 876円
『リボンと妖精』 内山亜紀著 久保書店 W0RLDコミック

テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

向丘第二中学教師名簿
2年1組 担任 多賀春昭(英語)
2年2組 担任 大久保二蔵(国語)
2年3組、担任 大石久子(国語)
2年4組 担任 佐田啓治(体育)
2年5組 担任
 

テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

『由加里 35』
 「こづえちゃん、『24の瞳』ってどんな話しなの?」
「とても破天荒な女教師の話よ、大石先生ってのが、田舎の学校に転任して、苦労するんだけど、渡された台本は、それから10年後の話しね、戦争が終わってからのことみたい」
  ここは、向丘第二中学テニス部、部室である。校舎脇にあるプレハブの建物は、冷暖が完備されている。元々は、無化粧な内観は、少女らしい装飾に、リフォームされている。ミッキーマウスの張り紙は、その良い例だ。

 古畑喜美は、台本を改めて見た。
 ちなみに、由加里は、犬のようによつんばいになって、エサにその舌を這わせている。高田から渡された弁当箱である。三人で開けてみると、いつものように残飯が入っていた。

 少女は、生物部に飽きられると、代わりのエサを与えられるようになった。以前のように、自分の弁当を食べさせてもらうというわけにはいかない。
 そして、もう一つ付け加えることがある。弁当箱には、犬の首輪と紐が添えられていた。
由加里は哀れにも、犬の首輪を付けられ、紐を後輩に握られて、まさに犬にさせられたわけだ。涙を弁当箱に零しながら、ひどい臭いがするものに、口を付けていた。

 「ほら、残しちゃだめですよ、西宮先輩」
 「折角、先輩のお友達が、つくってくれたお弁当でしょう?」
『お友達』という言葉がやけに、由加里の耳に引っかかる。先輩を侮辱するために、わざと使っているにちがいない。そう言えば、わざわざ、由加里に敬語を使い、先輩と呼んでいるのも、その一環であるが。実は高田の命令である。その侮辱の意味を理解していたらしい。

 「それにしても、すごい臭いですよね、さすが、西宮先輩が召し上がる餌ですよねえ」
 こづえは携帯を取り出した。
「高田先輩に聞いてみようよ・・・・・・先輩ですか?西宮先輩のエサについて知りたいんですが、・・・・え?みんなの残飯に、マヨネーズをぶっかけて、みんなの唾を・・・・はいはい」
 そこまでは、いつものことだから、由加里も驚かなかった。しかし ―――――。
「セーエキ?それ何ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・!??!」
由加里は、口の周りに残飯を一杯つけたまま、顔を上げた。
「高田先輩、それ何ですか?え?西宮先輩に聞いたらわかるんですか?じゃ、ちゃんと特訓やりますから、今はたんまりと栄養つけてもらわないと・・・・はいじゃ」
 

 「こ、こづえちゃん!!?」
「西宮先輩、口の端におべんとう、いっぱい、つけてますよ」
いじわるな微笑を浮かべながら、古畑喜美は、からかう。
「先輩、せーえきってなんですか?」
 こづえの口から、衝撃的な言葉が零れる。無邪気な笑顔を絶やさずに、言うもんだから、恐ろしい。
「いや!いや!いや!そんなのって・・・・・・・・・ぐ!」
由加里は、立ち上がると廊下に出ようとしたが、それは、首輪と紐が許さない。

 「ほおあら、先輩は犬だってこと忘れていませんか?」
由加里はブザマに転がった。その肢体に足を乗せる。
「西宮先輩!はやく食べてください、先ほどのは嘘ですよ、高田先輩と話しなんかし・て・ま・せ・ん!」
「・・・・・・ウウ・・・・ひどい!こづえちゃん、私はそんなひどいことをあなたにしたの?」
 それは、決して、いじめっ子に言ったことがないことだ。

 「先輩、小学校の時にいじめやってたんでしょう?高田先輩に聞いたんですよ」
―――――ぴあのちゃんのことだ。
直感的にそう思った。
「最低です!そんな人、同じ中学にいてほしくないです、よろしければ学校に来ないでください!!」
 語気を強めるこづえ。由加里は、彼女がいじめられていたことを知っている。いま、言ったことは本音だろう。

 「こづえちゃん!私、そんなことしてない!本当だよ!お願い!信じ・・・・・ギウ!」
言い終わる前に、喜美が紐を引っ張っていた。当然の事ながら、首が絞まる。
「このまま、絞首刑って良いですよね、首が絞まって死んでみます?こうなるのは当然の報いなんですよ、はやく食べてください!特訓をはじめますから」
 死刑の執行命令に等しい言葉が、喜美の口から零れる。

 「・・・・・・ウウ・・・・・・・」
 由加里は、運命に導かれるように、残飯に口を付ける。いま、口に硬いモノを感じた。きっと、誰かの弁当に魚が入っていたにちがいない。それは魚の骨だった。
「いいですか?話しの概要を読み上げますよ」
 こづえがその内容を言おうとした時に、携帯が鳴った。
「高田先輩、・・・・・・・・・・・そうですか?はい、わかりました。ねえ、喜美ちゃん、ビデオテープってもらってる?」
「あ、そうだ忘れてた。鞄から出してくるよ、待ってて」
「西宮先輩、見習いがあるみたいですよ、演劇のテープですかね」

 由加里の耳に、こづえの言葉は届かない。想像を絶する恥辱に、心が膨張し、今や、破裂寸前なのだ。
「聞いてるんですか?!」
「ぐ・・・」
 お手軽な手つき、いや足つきで、ひょいっと
由加里のお腹に、つま先をめりこませた。
「今度、返事をしなかったら、ハダカになってもらいますからね」
「・・・・!?」

 そんなことになったら大変だ。下半身の秘密がばれてしまう。このふたりにまで知られたらもう生きていられない。由加里は、耳を傾けることにした。
 「1946年、まだ赤線が残っていたと書いてありますけど、先輩、赤線ってなんです?」
「ば、売春街のこと、1958年の、売春禁止令まで、戦前から、それが公認されていたの」
 由加里は、読書から得た知識を並べた。
「さすがですね、西宮先輩」
 別に、こんな状況でほめられても嬉しくなかった。

 「その赤線に、大石先生が訪れるらしいです。売春をやめさせる運動をしている際のことですが、その時に、元教え子の早苗と出会ってしまうって書いてありますけど、どうです?」
 「原作にないわ、そんなの」
純真な由加里は、『24の瞳』の作者である壺井榮が気の毒に思った。

 「ここで、ビデオを見ろと書いてあります、ああ、喜美ちゃんこれだ」
喜美から渡されたテープをデッキに挿入する。部室には、テレビとビデオデッキが完備されている。テニスを映像で勉強しようというのは、あくまで表向きだ。ほとんど、好きなアニメを見るためのおもちゃと化している。そして、いま、とんでもないモノを視聴するために使われるのだ。
 「先輩、見てみてください・・・・・え!?」
こづえは、自分で挿入しておいて、まず映し出された文字に驚いた。
――――この映像は、アダルトです。18歳未満は視聴禁止です ――――――――
「ねえ、喜美ちゃん、私たち、何歳だっけ?」
「12歳」
喜美はごく完結に答えてみた。
 まじめな由加里は、少なからず罪悪感を感じた。

――――なあに?これ!?男と女が重なってる?これって機械体操!?

 こづえの感想を、読者にわかりやすく言い直そう。ハダカの男女が映っている。よつんばいの女性の後ろから、男が後ろから重なっている。男の股間から棒のようなものが飛び出て、女の股間にはまっている。ちなみに言うと、これは未修整AVである。
 それは、中学生の女の子にとって、あまりに刺激が強すぎた。はじめての酒以上の衝撃だろう。
  なんと言っても、背後からのセックスを、機械体操と言うほどの幼さなのだ。この映像から受ける 衝撃の大きさをおしはかれるというものであろう。

 「・・・この様子を、大石先生が発見するらしい・・・・・です」
その目は、画面に釘付けになっている。
 当然ながら、犯されている女性、早苗は、由加里と書いてある。
「ねえ、この男役、だれやるの?!」
 喜美が疑問を呈した。
「あたし、大石先生をやるよ、喜美やってよ」
「やあだよ!テニス部の男子にやってもらおう、でも、この棒なに?なんで、ハアハア言っているのかな、男もオンナも?」
「さあ、すごい疲れるからカナ?」

 由加里は、二人の会話を、魚になって聞いていた。彼女は、水槽の魚で、外から聞こえる人間の会話を聞いている。自らの生殺与奪の権利は、当然、外の人間に握られているのだ。
 オナニーどころか、本番セックスをみんなの前で、させられようとしているのだ。現実感がなくて当然だ。しかし、ここまで残酷ないじめに晒された由加里としては、それがあながち嘘でもないと思えるのだ。
 由加里は、吐き出すように言の葉を漏らした。

 「こ、こづえちゃん、嘘よね・・・・・・ねえ、私がいじめをやってたっていうの、嘘なの!!信じて!こんなことやめて!」
 あくまで情に訴えようとした。しかし、彼女たけが知っている事実を打ち明けようとはしなかった。幸いに、喜美はそれを知らない。もっとも、知っていたとしても知らせようとはしないだろう。
 それは、こづえのプライドを護るためである。

 当初、こづえがかつて、いじめられていたと聞いて、単純に可哀相とだけ思った。しかし、本当にいじめられるようになって、その辛さが身にしみてわかった。
――――あの時の同情なんて、ほんの遊びにすぎなかったんだね。
由加里は思う。だからこそ、情に訴えればわかってもらえるかもしれない。そのように、考えたのだ。 しかし ――――。
 ここで、もしも彼女が同情を示したら、事態はどうなるだろう。それを考えると、何も考えられなくなる。
 実は、一握の砂が欲しかったのだ。それだけの同情が欲しかった。それさえ見せてくれるなら、どんないじめにあってもいい。しかし、それは認めたくない。新芽をみせたプライドがそれを意識に乗せなかった。それが事実である。
 
 しかし、それを意識で理解したとしても、本番のセックスを公にするなんて、考えられない。いや、個室であっても、考えられないことでは、ある。彼女の常識によれば、大人になって、結婚してはじめて、愛している異性と育むことだからだ。ちなみに、性教育の教科書にそう書いてあった。

 「だって、みんなそう言うんですよ!先輩と同じ小学校だった人はみんな」
「私は、誤解が元で、みんなに嫌われているの」
 由加里は、いじめられているとは言えなかった。それは、原始的なプライドのせいであろう。
涙ぐみはじめたこづえに、さらに畳み掛ける。
 「こづえちゃん・・・・・おねがいだから信じて」
「先輩は本当に醜い人ですね、だから学校中に嫌われているんですね、よくわかりましたよ」
 喜美は、「全く、あきれ果てた」という口調で決めつける。
「何で、信じてくれないの!?」
もう抗議することは、やめた。やるせない思いは、みんな流れる涙に任せることにした。
「認めるんですね、だったら、罪を背負ってもらいますよ」
「・・・・・・・・・」

 「ほら、エサが残っていますよ!」
「・・・・・」
紐を引っ張られると、由加里は、唾液を垂れ流しながら、犬のように舌を伸ばす。
「で、どうするの」
「人形でいいじゃん、先輩の背中に乗せればいいよ」
喜美は気楽に言う。
「でも、その分、先輩には余計に動いてもらわないと」

 ほんとうに、こづえは自分が言っていることを理解しているのだろうか?
「台本の説明、続けますよ、っていうことで赤線で、早苗と男が、今のようにやっているところに、大石先生が遭遇するわけです・・・・・ええ?こんなの読めないよ」
「本当だ、先輩くらいに恥ずかしい人じゃないと、無理だね」
喜美は、わたされた台本を、由加里に示した。
「私たちじゃ、文字を見るのも恥ずかしいデス」

――――じゃあ、私なら恥ずかしげもなく読めるって言うの?!

 言うまでもない、読めというのである。由加里は目を瞑った。
「西宮先輩!」
「ウウ・・・・・・アハ・・ア・・ン・・あ、お、大石先生でいらっしゃいますね、おひさしぶりで・・・・あああ!」
由加里は、仕方なく口を動かす。すぐに舌が熱を帯びていく。羞恥の熱だ。
「さ、早苗ちゃん」
これは、こづえ。当然、大石先生の台詞である。

 「気持ちいいですよお、早苗、せっくす、大好き!ああははは、もっと!もっと!」
「ねえ、ここ由加里って名前に変えようよ」
「・・・・・・・?!!」
「そうだね、先輩、変えてください」
「由加里ちゃん、あなたのしていることは、いけないことなのよ」
「ウ・・・ア・・・アハ・・アあ・・ンなあに、ウ・・・・・・アハ・・ア・・ンいってるかわかっらないな、ウ・・・・ア・・アハウ・・ア・・ン大石せんせも、いっしょに、3Pやろうよ!」
 
 「あははは、本当に欲情しているみたい!」
「先輩、腰を動かしてみせてください」
「!?!」
「いちいち反応しないでくださいます?淫乱のくせに!」
 由加里は、恥辱の痰にまみれながら、腰をそっと動かしはじめた。
「ほら、もっと、映像を視ていたでしょう?!それにしても本当にやらしい腰ですねえ、AV嬢になるために、産まれてきたとしか思えませんわ、ほら、台本を読んでください」

 「ハア・・・・・アアあ、大石せんせ!きもちい、さ、早苗」
「由加里でしょう?!」
「痛い!」
 喜美の張り手が、由加里のかたちのいい頬を打った。後輩にぶたれる。それは予想以上に、恥辱を伴うものだった。涙でなにもみえない。もう、何も感じない。なのにどうして、顔が濡れていくのだろう。

 「大男に背後から突かれて、欲情する由加里は、旧師の姿を見て、さらに興奮するのだった。彼女を説諭しようとする、大石に局所を見せるべく、男に抱きかかえるようにせがむ始末である・・・・・・・・・」
 喜美がナレータを務めた。
「止めなさい!お母さまが、小豆島で泣いてますよ!あなたのことを思って、ご自分を大事にしないと」
 「見て下さい!ゆ、由加里の・・・ウ・・・・・・ウハ・・ウ・・ン・・・・・じ、自慢の・・・・・い、言えない!!もう許して・・・ウ・・・・・・ウハ・・ウウ・・ン・ウウ・!」
そんな恥ずかしい語句を舌に乗せるよりは、殴られるほうがましだった。
「高田先輩」
「ひ!言います!ウ・・・・・・ウハ・・ウゆ、由加里の、ウ・・・・・・ウハ・・ウお、おま、オマ○コ、じ、じま、自慢のを見て、ウ・・・・・・ウハ・・ウ見てください、大石先生!!」

 「あははは、まるで本当に欲情しているみたい、先輩たら、ヴィデオそっくりですよ!あははは」
 こづえの感想は、半分ほどまちがっている。由加里の性器に卵が押し込められ、それはおむつによってギチギチに、締め付けられていること知らなかった。それは、由加里の腰の動きによって、疑似セックス状態になっていることは、さらに知らなかった。
 由加里は、たしかに欲情しているのだ。

 しかし、それは完全な痴呆状態になっているわけではない。最高の快楽の後には、最高の後悔が待っているのだ。
「ウ・・・・・・ウハ・・ウウウウう!こ、こんな大っきなの、お、オ○ンコに、・・ウハ・・ウウウ食い込んでじゃってるの!きれいでそう?・・ウハ・・ウウウゆ、ゆか、由加里のおま、おま、お○んこ・・ウハ・・ウウウ!!!」

―――――いやあ!こんなのいやああ!!いやあ!いやああああ!!いやああ、助けて!か、海崎さん、鋳崎さん!え?私!何を!???
 
 由加里は信じられなかった。あの二人に、一体何を求めているのだろうか?あの二人のいじめと後輩、二人のそれが違うとでもいうのだろうか?どちらも残酷きわまりない悪鬼には変わりないのだ。しかし、確かに何かが違う。その正体は、中心が曖昧でよくわからないが、存在することは確かである。

「ま、最初はこの程度でしょう?練習は1週間しかありませんからね、いいですか西宮先輩」
 昼休みを10分ほど残して、恥辱の稽古は終わりを告げた。由加里は、喜美の言葉が聞こえたのか、聞こえないのか、号泣をし続けている。
「ボロぞうきんですね、先輩」
「あはははは、当たってる!」
ふたりは、悪意に満ちた嘲笑をまき散らしながら帰っていった。
 

テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

『由加里 34』
 「イヤアアああああ!!」
 泣き叫んで暴れる由加里は、瞬く間に、四股をいじめっ子たちに押さえつけられた。
「ほら、もう一度、ママのお腹の中に卵を戻してやンな」
 はるかが命ずる。
 すると、有紀はほくそ笑みながら、性器に卵を埋め込んでいく。
「ぅぐっっ!!」
「何よ、処女みたいな声だして!おかしい!」
「あははは!ねえ、西宮さん」
 照美が、甘い声を披露したときは、ものすごい秘策があるときだ。由加里は、身構えた。
「ねえ、コレ見てよ、何かオワカリ?」
 ぴあのは、一枚の布をヒラヒラさせた。

 「ひっ?!」
 由加里は、それを見ると、思わずひるんだ。
「そう、あなたに、是非とも必要なモノよ」
「・・・・・そ、そんなひどい!」
 少女は呻くように言葉を漏らした。
「答えなさいよ、これから、あなたがお世話になるものなんだから」
 はるかが、耳元に囁いた。
「ほら、わからないの!?」
「ひ、い、痛い!イ!お、おむつです!!ウウウウウ・・・・・・・ウウ!そ、そんなのいやです!」

 以前、由加里がおむつを見たのは、妹の郁子の時だった。一体、何年前のことになるのだろう。ぴあのが引っ張ると、キチキチとゴムが収縮する音がする。
「ぴったりと、西宮さんのだらしない下半身にフィットするからね」
「それとも、みんなの前でおもらししてもいいの?」
「お、おもらしなんてしません!・・・・ウウ・・・う!」
 由加里は、自分にふりかかってくる現実に、全身の血が凍り付くのを感じた。

「自分で、その姿視てゴランなさいよ」
 照美は、有紀に鏡を用意させる。
「ほら、とくと視てゴラン?」
「ァアア・・・・・あ!いや!」
 由加里の目の前に、突然、鏡が現れる。顔を固定されると、目を無理矢理に開かされた。
「コレをおもらしって言わずに、何をおもらしっていうのカナ?」
「それに、みんな迷惑するじゃない?あなたの臭いおま○んこから、漂ってくるニオイにはほとほど困っているのよ」
「ウウウウ・・・・・ウ!そ、そんなことない!ウウ・・・・・・うう!」
 由加里は力無くも抵抗の意思を示す。それが照美やはるかには、おもしろくてたまらない。いや、興味深いというべきか。ようやく育ってきたプライドに、ほくそ笑んでいるのだ。もっとも、二人は無意識のうちに、由加里を育てていることに、このとき気づいていなかった。

 「とにかく、オトナしくしてなちゃいね、由加里赤ちゃん!」
ぴあのから、飛び出てくる赤ちゃん言葉はとにかく気持ち悪い。照美は見られないように、顔を歪めた。しかし、当の由加里は、歪めるどころではない。可愛いカオをゴムのように丸めて、嫌がった。
 「ぃい!いやあああああ!!ぶっ!!」
 泣き叫ぶ由加里の口を塞ぐはるか。ポールギャグなど、当然ないので、たまたまそこにあった漫画雑誌を噛ませる。
 毎週月曜に、発売される人気少年誌だが、相当の厚さがある。ちなみに、1980年代と違って、その厚さだけの価値は、今のその雑誌には、たぶん、――――――――ない。

 ―――――――いやああ!気持ち悪い!
 声にならない言葉が、宙空に閉じこめられる。

 下半身を覆う、おぞましいゴムの感触。少女の下半身は濡れそぼっているために、余計に張り付く。まるで厚手のサランラップで巻かれたような感触だ。毛穴の一つ一つ、皮溝の一つ一つにまで、張り付いてくるようだ。
 それは、下半身を縛られるようなイメージと言っていい。由加里の下半身が、世界と隔離される必要があるくらいに、汚らわしい。そのように言い渡されているような気がした。

 「あはははははっっ!かわいい!由加里赤ちゃん!」
有紀が黄色い声を上げる。
「ママが、恋しいみたいだからネ」

―――――うう!
その言葉は、やはり照美の何かを刺激する。かすかに由加里を押さえる手がゆるんだ。
「・・・・・・・・?!」
はるかだけは、照美の異変に気づいていたようだ。
 しかしながら、有紀とぴあのには、そんなことを構う様子はない。自らが吐いた侮辱の言葉に、完全に満足している。そして、どれほど相手を傷付けているのか、その自覚もない。

 「うぐぐぐぐ!」
思わず、漫画雑誌を吐き出した。
 「暴れないでよ!」
「いやああ・・・・ウウウウう・・・ウウ!いやああ・・・・ウウ・・・ウウ!いやああ!!ア・・・・・ウウウ・・・ウウ!」
 涙が中空に、吹き飛ぶ。雷雲のように、泣き叫ぶ由加里。一度浮かんで戻ってきた涙は、きもちわるい温かさを含んでいた。
 あたかも、自分に唾を吐かれているような錯覚に陥る。
 
 「ほ~~~~ら、みてごらん、よく似合っているわよ、由加里赤ちゃん!あははははっ!」
有紀が由加里に向けた鏡。その中には、大きな赤ん坊が映っていた。その赤ん坊は、まるで、本当の赤ちゃんのように泣きはらして、頬は真っ赤になっている。
 大腿を、はずかしげもなく開いたその恰好を視認してみるといい。赤ちゃんのポートレート以外の何物にも見えないだろう。

 「ィイヤアアア!!こんなのいやあああ!!お、お願い、お願いだから、かんにんしてエエエエ!!」
 由加里は、心臓が爆発しそうな羞恥心に、身を焦がされ、悶える。身動きする度に、クキクキと、いじわるなゴムは、少女の躰に合わせて、迫ってくる。まるでストーカーのように、由加里の躰に合わせて、執拗に攻め抜いてくる。
 「このまま授業を受けてもらうわ」
 混乱する由加里に、残酷な判決が下される。
 有紀は言った
「ほら、立って!立つのよ!そろそろチャイムが鳴るわ」

 「ウウウ・・・・ウ」
 こんな恥ずかしい下半身を、制服の下に隠して、みんなの前に行かなくてはならない。こんな屈辱的なことがあろうか。それに、クラスメートはほぼ全員、少女の敵なのだ。彼女が、何かミスでも犯さないだろうかと、その一挙一動を監視している。
 そんな監視の元では、この恥ずかしい秘密など、すぐにばれてしまいそうだ。

 「ウウ・・・・ウお願いです!ウウ・・・・ウう!許して下さい!」
事、ここに至っても、由加里は許しを乞うのだった。
しかし、犠牲者が嫌がれば嫌がるほど、いじめっ子は喜ぶものだ。
 結果、少女は罪人のように、教室に連れて行かれた。

 「・・・・・・・?!!」
 思わず、仰け反る。
 由加里が、教室に入ると、その迫ってくる圧力のために、顔の表皮が剥けそうになった、女子も男子も、ものすごい視線を送ってくる。蔑視、好奇心、嫌悪、嗜虐心、いろんな悪感情がない交ぜになって、由加里に迫ってくる。息がうまくできない。吐き気がしてくる。
「何しているのよ、みんな歓待してくれているのよ、わからない?」
 照美は、いつもの調子を取り戻したようだ。

――――うう、そんな目で見ないで!私は、そんなにみんなと違うの?!ふつうの女の子なのよ、お願いだから、そんな目で視ないで!

 由加里は、今すぐここから逃げ出したい気持で一杯だった。教室の空気は、腐ったリンゴの臭いに似ていた。クラスメートの囁き声、授業中の陰口などは日常茶飯事なのだが、その日に限っては、様相が違った。
 海崎さんたちは、この下半身の秘密をバラしているのではないか。みんな、それを知っていて、笑っているのではないか。そんな思いで頭の中が一杯になってしまう。由加里の周りだけ、空気の硬さが違うような気がする。
 そんな辛い授業が続いて、昼休みになった。
 
 昼休みには、恒例のクラス裁判が行われるはずだった。

 しかし、突如、2年3組を訪れたふたりの一年生によって、取りやめになった。二人はテニス部の後輩である。荒木こづえと古畑喜美である。言うまでもなく、ミチルと貴子に代わって、由加里飼育係に就任した二人である。
「高田先輩、西宮先輩を貸してもらえませんか」
 うやうやしく、高田に願い出たのである。
「いいわよ」
「ありがとうございます」
高田は、いとも簡単に答えた。
「ちょっと!こいつの責任追及はどうなるのよ!」
「正義の実現を、どう思っているんだ!」
 クラスメートたちは、ケンケンガクガクの非難を表明したが、何故か、照美とはるかは、無反応だった。

―――海崎さん、鋳崎さん・・・・・・・・・・・・・・・・。

 由加里はちらりと二人の方向に、視線を移した。
 しかし、二人は路傍の石程度の関心すら見せない。
「西宮さん、二人が呼んでるよ、はやく立ちなさいよ」
 高田の声が響く。
「だったらさ、ここでやればいいじゃない?!あんたらが何をしたいのかわからないけど」
「出し物は、本番まで秘密にしておきたいんです」
 こづえが言った。
「それはテニス部のことでしょう?あたしら、関係ないもん」
「なんなら、本番に招待してもいいよ」
 高田の発言に、由加里はギョとなった。一体、何人の前で、辱めを受けるのだろう。それもいじめっ子は後輩だ。後輩にいじめられることは、筆舌に尽くしがたい苦痛だ。その姿をクラスメートの前に晒すのである。

「わかったよ、裁判は放課後にやればいいか」

 「6時限目の道徳の時間にやればいいさ」
はるかの何気ない一言は、つぶやく程度であったにもかかわらず、教室全体に響いた。まさに鶴の一声である。

―――まさか先生が許すはずがない・・・・・・でも ――――――――。
由加里は、担任である大石久子を思い浮かべた。
―――あの先生なら、やりかねない。

 「まあ、いいわ、はやく持って行きな」
「ちょっと、西宮さん、今日のエサまだ食べてないから、これを」
「はい」
 こづえが渡されたのはいつもの弁当箱だった。由加里の持ち物である。しかし、中身は、春子が拵えたものではない。
「じゃ、行きますよ、部室に!!」
こづえは嬉々として、由加里に笑いかける。
「2年3組の先輩のみなさん、西宮先輩をお借りしま~す!」
こづえと喜美のふたりは、まるでおもちゃを借りるように、手を振る。

―――私は何なの?!モノ?ひどい

 まるで、奴隷商人に買われた少女のようだ。それを見送るクラスメート。そして、廊下に集まった他のクラスの子たち。みんな、由加里を嘲笑している。
 しかし、由加里は、外に向かって非難の矛先を向ける気にはならない。何故ならば、身の内がひどい状況になっているからだ。一言で言えば、少女の下半身は、洪水状態だ。もしも、おむつに覆われていなければ、スカートまで染みていたであろう。
 そんな、自らが恥ずかしい状況なのに、どうして他人を非難できるだろう。
 その点では、あの四人に救われたことになるのだろうか。

 「ねえ、西宮先輩!聞いてるンですか?」
「・・・・・・」
 こづえは話しかけても黙っている由加里に、しびれを切らしたらしい。
それでも、ただだまって、頷くだけだ。
 どうしたら、自尊心を守れるのかそれだけを、無意識のうちに考えている。しかし、こづえと喜美の背後には高田がいるのだ。それは、由加里の生殺与奪を握っていると言ってもいい。
 
 だが、照美とはるかが、簡単に許したのはどうしてだろう。

「西宮先輩も、テニス部のみんなに楽しんでほしいでしょう?!」
押しつけがましく聞いてくる。
「・・・・・・」
また、黙って肯く。
「でも、あの安宅の関を超えるとなると、難しいな、休みの日も集まって考えますか」
それは提案ではない。
「・・・・・・・」
 肯くしかない。涙がこぼれるのが見えた。

「泣かないでくださいよ」
「でも、後輩にいじめられるなんて、惨めですね」
「・・・・・・・・?!」
 由加里は、喜美の言葉に敏感に反応する。キッと睨みつけた。涙がさらに宙を舞う。
「いいんですか?わたしたちの後ろには、高田先輩がいるんですよ!」
「ぐ!」
 喜美は、周囲に見られないように、自身の膝を由加里の腹に入れた。
 みぞおちに、強烈な電流が走る。
予想しない痛みに、廊下に崩れた。
「何してるんです?謝ってくださいよ!」
「ごめんね・・・・・」
 少し間があって、由加里は謝った。しかし ―――――
「聞こえませんね、無礼な言い方は聞こえません」
 喜美は、倒れた由加里の前に立ちふさがった。

「ごめん・・・・ナサイ・・・・」
 これでも、残った自尊心を切り刻んで、ようやく言ったのだ。だが、――――――――。
「教えてあげますよ、先輩に、礼儀ってものをね。こういうときは『すいません』って言うんです」
「・・・・・・・・・?!」
――――そんな!
 由加里は、喜美を見上げた。そして、あさっての方向を見る。
――――これ以上は我慢できない。わたしは先輩なの!
 しかし、それはとうてい言葉にはできない。高田の影がちらりちらりと見えた。
「わかっていないようですね!」
「グギ!」
 由加里のお腹に、喜美のつま先が食い込む。
「・・・・・・・!?」
 強烈な痛みのために、思わず。みぞおちを押さえて、無言のダンスを踊る。先に書いたが、いじめに慣れないものの、行為は、常に危険を伴う。それに精神性がついていかれないからだ。それでも、有紀やぴあのには、照美やはるかがついていた。だから、ブレーキも効く。
 
 「スイマセン!」
由加里は、敏感に我が身の危険を察知したのか、思わず言ってしまった。そして、後悔した。崩れゆく自尊心。
 下半身に負けないくらいに、由加里の顔は、涙で濡れていく。
「いいですか?西宮先輩、これからは私たちの言うこと、聞いていただけますね?」
無理矢理に慣れない敬語の羅列は、余計に、由加里を侮辱している。
「・・・・・・ハイ・・」
由加里は、吐きそうな恥辱の中、そう答えた。血を吐くような思いだった。
 
 テニス部室は、もうそこである。






テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

『由加里 33』
 
 その日は一日中雨だった。きっと、梅雨の最後の一絞りだろう。小さいころは、雨雲が綿飴に見えた。雨を絞ると、完成するのだ、甘くて美味しい食べ物に変わる。
 由加里は、しかし、今日の雨雲のようには行かないだろう。一涙で、いじめが無くなるとはとうてい思えない。天気はいづれ晴れるだろうが、残酷ないじめは続く、・・・・・たぶんずっと。
 
 由加里が家を出たのは、まだ午前6時だった。両親、妹ともにまだ眠りの世界にいる。
――――きっと、気持ちよく寝てるんだわ。家族がドンナ目にあっているのかも知らないで!
 
 憤懣やるせなかったが、できるだけ静かに外に出た。
――――なんて、鬱陶しい空気。まるで・・・・
 いじめっ子たちのようにしつこい。

 「ウウ・・・・・ぁ」
 調子に乗って早歩きなどすると、すぐに股間のモノが蠢く。照美の命令で入れてきた卵である。当然の事ながら、処女である由加里は、オナニーをしないと奥まで入れ込むことができない。照美の命令は、同時に強制オナニーをも暗示していた。その場に、誰もいないとわかっていながら、その行為は、常に誰かに見られているという錯覚を伴っている。    
 
 しかし、それ故に、よけい興奮するのである。そして、興奮の後には羞恥心が待っている。そうやって、絶頂を迎えるまで、交互に、異なった感情が出現するのだ。

 「ねえ、あれ、2年3組の名物女じゃない?」
「あたし、見たんだよ、ハダカみたいな恰好でテニスやってた」
「そうね、露出狂だって?テニス部の変態でしょう?あはははは」
「あんな、可愛い顔してね、あはははは!」

 向丘第二中学は、学年によってカラーが違う。三人の鞄を見ると、赤だ。1年生であることがわかる。
―――― 一年生まで・・・・・・・・・・・・・?!
 
 他のクラスの子ばかりか、後輩までが、それもテニス部でない子までが、由加里を嘲笑する。どれだけいじめが広がっているのか、見当もつかない。その様子は、まるで、黴や茸のようだ。汚れた胞子は、地面ばかりか、地下にまで根深く広がっている。

 「せんぱい!西宮先輩!」
まるで由加里の内面とは裏腹に、快活な声が聞こえた。
「あ、荒木さん・・・・・・・・・」
「おはようございます!教室じゃ、誰にも挨拶してもらえないんでしょう?代わりにしてあげてるんですよ」
 慣れ慣れしく由加里の肩に手をかけたのは、古畑喜美だ。
古畑とはそれほど、つながりは無かったが、荒木こづえとは、深い関係がある。
「今度、西宮せんぱいの飼育係をうけたまわった荒木と古畑です。よろしくおねがいしますね」
「・・・・・・・・・!?」
 快活な口調で、いとも屈辱的なことを言うものだと、由加里は涙を浮かべた。

―――でも、ミチルちゃんと貴子ちゃんは?
 「小池さんたちよりも、おもしろい芸を見せないと、高田先輩が怒りますからね」
「しっかりしてくださいよ、しこたま働いてもらいますよ、西宮先輩」
二人は笑いながら由加里を抜いていく。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 少女はあまりの恥辱に、声すらでなかった。しかし、ぐずぐずしていられない照美が待っているのだ。

 ―――――早く、抜いてもらわないと、どうにかなっちゃう!まさか、一日中このままってことは?!
 不快な未来図が浮かぶ。早く照美に会わなければ・・・・・・。由加里は、股間のモノが寄生虫のように、身体を犯すのを我慢して、走らなければならなかった。ちなみに、由加里のイメージではオスの寄生虫に、全身を犯されるというもの。性器を食い破った寄生虫は、子宮にまで、侵入する。
 
 そして、脊椎にからみつき、内臓や筋肉を食いつくす。しまいには、脳にまで食いかかる。
 いやな想像は果てしなく続く。終わりはない。脳を食いつくされると、別のイメージが始まる。由加里の子宮に線虫のオスとメスが愛の巣をつくり、二人で愛のダンスを踊る。それが終わると、メスはオスを食いつくし、卵を産んで死ぬ。やがて、卵は孵り、由加里を栄養にして成長していく。

 「・・・・・・・・・!?」
 由加里は、頭を振った。こんな想像はイヤだ。照美から渡された猥褻なマンガや小説によって、由加里はかなり感化されてきた。少女が望もうが、望むまいが、性的な情報が脳内に蓄積されていく。まさに、少女の心を、それこそ寄生虫のように犯してきた。
 照美とはるかのふたりは、由加里のすべてを食いつくそうとしている。そう言っても過言ではない。

 渡り廊下を走る由加里。この時刻では、ほとんど生徒はいない。さきほどの二人はテニス部の朝練に出るために、こんなに早く登校していたのだ。

 ギチ!ギチィ!

 由加里が、ドアを摑むと、放送室のドアが、悲鳴を上げた。もう壊れ掛かっているのだ。
 しかし、それは少女自身の心の叫びように聞こえる。
「おーは!、西宮さん」
 原崎有紀が、悲鳴に似た挨拶をした。それは喜びに満ちていた。

 「明大前では楽しかったね、西宮さんも楽しんで貰えたようね、あんなにおもらししてたもんね、あはははっ!」
 ぴあのが嘲笑う。
「たしかめようか、はやくいつものカッコしてよ」
有紀が近づいてきた。何故か、照美とはるかは奥にいる。椅子に腰掛けて、こちらを伺っているだけだ。

 「ちゃんと手袋しないと、エイズに感染するわよ」
「・・・・・・・・?!」
 由加里は、涙のいっぱい溜まった目で、照美を睨んだ。何か様子がおかしい。しかし、そんなことを気にしている場合ではない。いじめっ子たちの要求に即座に従わないと、ひどい暴力が待っている。
速やかに、いつものように制服を脱ぐ。
 「ぅ・・・あ!」
 由加里は絶望的な羞恥の中、正座をする。
すると ―――――――――。
吐くような声と同時に、少女の性器から、ゆで卵が飛び出した。

 「あははははは!これって出産じゃない?!」
「あははは、卵だから、排卵じゃない?」
「違うわよ、それは生理でしょう?これは産卵だよ!あははっ!ほとんど虫だね、西宮は」
 四人とも、笑い転げる。
「じゃあ、これはさしずめ、体液かなあ?」
有紀は、手袋をした手で、由加里の大腿に触れる。
「ひ、イヤ・・・・・・ぁ」
 由加里は羞恥心で気が狂いそうになった。
「何が、イヤ!よ、こんなに濡らして!いやらしい虫だこと!?」
ぴあのは、無理矢理に由加里の大腿を広げさせる。

 「これが、西宮さんが産卵した卵だよ、どんな虫が孵るのかなあ?」
有紀は、これまで手ずからいじめられなかったストレスを、ここで解消するように、意欲的な態度でいじめに取り組む。

 「ほら、嗅いでみな、どんな臭いがする?あんたが産卵した卵だろう?」
「・・・・ウウ」
 ぴあのは有紀から卵を受け取ると、イヤイヤをする由加里の鼻に近づける。そして、しかるのちに、その小さな孔に入れようとする。
「ムグ・・・・・ムグ・・・・イヤアあああ!許してぇええええええ!」
 卵は、まるで今、動物から産卵されたかのように、粘液が糸を引いている。

 「まるでエイリアンの卵みたいに気持ち悪いな」
はるかが、背後から口を出した。由加里はぞっとさせられた。ふたりとはまるで違う迫力だ。
「どんな臭いがするかって、聞いているでしょう?!」
「ヒグ!!」
 二人はまだいじめの初心者だ。いじめに初心者も玄人もあるのか知らないが、少なくとも、まだ手加減というものを知らない。そして、じわじわといじめるサディズムの極意をわかっていない。だから、ただ、力一杯傷付けることが、いじめだと勘違いしている。

――――どうして、原崎さんと似鳥さんに任せるんだろう?

 照美とはるかの意図は何処にあるのか。由加里はそれを思うと生きている心地すらしないのである。
 「・・・・臭い・・・・・・です・・・ウウ・・ウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウう!」
 由加里は、ただ泣くだけだ。そこに屈辱を段階的に与える、サディズムの美学のひとかけらもない。自ら、許しの膝を乞わせる技術のひとかけらもない。
 
 しかし、二人からしてみると、そんな未熟ないじめを、上から睥睨する喜び。あるいは、俯瞰的に見るコトを憶えたのかもしれぬ。

「じゃあ、西宮さんは卵をそんなに臭くするくらい、汚れて腐臭を放っているのね、あなた食べ物の大切さを何だと思っているの?」
 照美が手本を見せる。
「ウグ・・・・??!」
由加里は、あまりに恥辱のために、コトバをその意味において、完全に失っていた。普段、少女が気になって仕方ないところを、残酷に、そして、的確に責めてくる。

 「卵はねえ、あなたに腐らされるために産まれてくるんじゃないのよ、お父さんとお母さんの愛の結果として産まれてくるの!金色のひよこになって可愛がられるために産まれてくるのよ!!わかっているの?」
 照美は、自分で言っていて、おかしくてたまらない。はるかは、我慢できずに笑いを押しとどめるのに苦労している。
しかし、ぴあのたちは、笑うに笑えない。むしろ、理解できない恐怖のためにガチガチと震えている。

「ウウウ・・・・ウウウ・・う、ひどい!」
 由加里はかっての由加里じゃなかった。彼女自身、気づかない自尊心が、たしかに新芽を出していた。
 「ひどくないさ、この臭い卵が証明しているよな」
 ぴあのの持っている卵に、鼻を近づけるはるか。
 「すごい、悪臭だな、アンモニアを超えるよな、そうだ似鳥さんは、バカやったよな」
「うん、でもそれ以上だよ、この臭いは!」

 バカとは、理科の実験の時のことだ。ぴあのは、こともあろうか実験で発生したアンモニアに、直接鼻を近づけたのだ。本当なら、手ですこしずつ、仰ぎながら嗅ぐ。そうしないと、鼻を太い針で刺したような痛みを感じる。ぴあのは、クラス中の笑いモノになった。もっとも、約一名は笑っていなかったが。

 「言ってみな、中間テストに出たろ?」
 はるかが意地悪そうな顔をする。しかし、二人は答えられない。
「西宮に聞くのは、侮辱か?」

「塩化アンモニウム + 水酸化カルシウム
          → アンモニア + 塩化カルシウム + 水です・・・・・・・」

「正解だ。じゃ、西宮と卵の関係は?」
「・・・・・・・・」
「わからないか?西宮の腐った子宮+タンパク質→ゴキブリの排泄物+ヘドロ+水だ」
「ゴキブ・・・・・??!」
 由加里は、もう何を言われているのかわからない。はるかの口が動いているのに、何も聞こえない。音声は意味を失って、空気の振動が、音を意味するという物理は意味を失った。 

 しかし、次ぎのことばを聞くと、顔の表皮下が、零度以下になるのを感じた。
「おまえ、本当に人間の母親から産まれたのか?ゴキブリから産卵されたんじゃ・・・・・なあ!!」
「ママは、ゴキブリじゃあない!!」

 絶対零度になった分子は、瞬時に破裂する。

 由加里は、自分よりも20センチも大きなはるかに体当たりした。そして、その華奢な腕を振り上げると、ぽこぽこと殴りつける。しかしながら、まさに、そう表現するしかないくらい、可愛い様子である。まるで木魚を思わせる音。
 しかし、その感情の爆発は、ものすごい威力を発揮した。あのはるかを、突き飛ばしたのである。それは、由加里の精神力と自尊心のなせる技だった。いや、ちがう!
 
「ママは!私の大切なママは!ゴキブリじゃない!私を産んでくれたのォ!」
―――ママは!私の大切なママ? ――――――何ですって?
その言葉は照美の中にある何かに共鳴した。だから、瞬時に、由加里に危害を加えることはできなかった。
 「ママは!ママは!あああああああああ!!」

 由加里は、唖然とする四人の前で、膝を屈して号泣した。

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『由加里』キャラクター名簿3 鋳崎はるか
 キャラクターNO.3 鋳崎はるか(いんざき はるか)
       属性:準主人公
       身分:向丘第二中学2年生 (14才)
       知能指数:129
       一学期、中間試験結果 :7位
       美人度:81(海崎照美を100とする)
       運動能力:100(鋳崎はるかを100とする)
       人気:61(1年次終了、西宮由加里を100とする)
       性格:攻撃性:95(高田あみるを100とする)
           自尊心:98
           協調性:36(鈴木ゆららを100とする)
           残虐性:71
            親和性:37(鈴木ゆららを100とする)
           劣等感:34
           カリスマ性:94(海崎照美を100とする)
         
        作者から愛され度:93(海崎照美を100とする)
        作者から憎まれ度:9(高田あみるを100とする)
        身長:171センチ
         体重:58キログラム
         家庭環境:91pts/100pts
         経済状況:94pts/100pts
         愛情:91/100pts

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『由加里 32』
 夜の下北沢。そこは、由加里にとって未知の世界だった。時計店を盗み見ると、午後8時半を超えている。こんな時間に、ひとりだけでこんなところを走っている。それは現実感のない体験である。股間から込み上げてくる官能も、由加里を麻薬に誘うことはできない。

 例え、おむつが必要なくらい濡れそぼっていても、少女はそれを気持ち悪いと思うだけだ。それに、ちょっぴり羞恥心が加味される。心臓がドキドキする。何処をどうくぐりぬけたのかよく憶えていない。ただ、ネオンサインが目にしみた。

 気がつくと、京王線の改札を潜っていた。
―――――こんな時間でも、高校生ならいるんだ。
同じ、制服姿とは言え、中学生と高校生は月とすっぽんくらい違う。中学生は、さすがにいない。由加里はここでは大変浮いた存在になっている。
「ブブブブ」
 その時、携帯のバイブが鳴った。きっと、家族だろう。
――――めんどくさい。
由加里は、姉にメールを送っておくことにした。

 冴子姉さんへ、
 8時半に京王線に乗ったって、伝えて。
 新宿には、冴子姉さんが呼んだって言っておいてよ。
  オネガイ!
             由加里より。


 さすがに、この通り、冴子が実行してくれるとは思わなかった。しかし、いちおうそのように頼んでおきたかったのだ。
 
 ガタン・・・・・カタン・・・ガタ、ガタ・・・・・・

 午後9時も近づいて、下りの京王線。当たり前のことだが、車内は閑古鳥が泣いている。それだけに、その音は余計に響く。まるで列車の鼓動のようだ。実は、レールには遊びが造ってある。寒暖の差によって伸び縮みするので、それは必要なのだ。由加里は、それを小学校3年の時に知った。決して本や学校ではなく、耳学問だったと記憶している。たまたま乗った京王線で、隣の老人が教えてくれたのだ。

―――あの時は、私をいじめる子はだれもいなかった。ちょうどあの少女のように。
 由加里は、母親に、屈託ない笑顔をばらまく少女を見つめていた。赤いドレスがよく似合っていた。それにフリルの飾りがとても可愛い。紫色がよく赤と合っている。

 「オネーちゃん、オネーちゃん!」
 少女は、由加里に笑いかけてくる。母親と目が合う。思わずニコリとする。その母親もふつうに笑顔を返してくれる。確かに、由加里は現実世界に迎えてくれているのだ。そのような安心感があった。しかし、ひとたび、少女自身の変態性を知ったらどうだろう。こともあろうか、こんな所で欲情していると知ったら・・・・・・・。娘を抱いて「近づかないでください!」と罵るかもしれない。

 そう思うと、由加里はその表情に影を射してしまうのだった。

 「オネーちゃん、オネーちゃん、なんで、ないてるの?どこかいたい、いたいの?」
「ううん、ダイジョウブ・・・・・」
「・・・・・・・・!?」
 母親はとまどいの表情を作った。しかし、決して不快を表明しているわけではない。その証拠に、子供を引き離しようなマネはしない。むしろ、由加里に害を与えることを怖れているように見える。
 「オネーちゃんね、もうじゅうぶん、ないたよね、きっと、いっしょうぶんないたんだよ、だからこれからえがおだよ」
「ま、この子ったら、こら、らんちゃん、ごめんなさいね・・・・・・・・・・・?!」
 母親は、恐縮する前に、号泣をはじめた由加里に絶句した。
「ウウ・・・・ウウ・・らんちゃんって言うの?ウ・・・・ウ」
「そうだよ、きずぎらん、たまごってかくの、オネーちゃん、もうなかないで」
「うん、うん、うん、うん、うん」
 震える手で、涙を拭うとその顔は新たな光に満ちていた。

 「らんちゃんに笑ってもらったから、オネーちゃん、元気になったよ」
無理に笑って見せる。しかし、この年頃の幼児は慧眼だ。そういう表現がけっして適当とは思わないが。とにかく、何事も、ウソは瞬時に見抜いてしまう。それが良かれ、悪しかれ関係ない。
 
 由加里は大きな瞳を潤ませながらも、かわいい少女を見つめた。すると、こころの奥にそっと光が射した。すると、自然に笑うことができた。きっと、過去に経験した楽しい記憶に日が当てられたのだろう。過去になら、由加里はたくさん財産を持っているのだ。

 「オネーちゃん、わらった!いつまでも、わらっていてネ、オネーちゃん、やさしいから、ないちゃうんだよ。やさしいと、いたいいたいじゃなくても、ないちゃうって、せんせ、いってた」
「うん!ありがとう!」
 由加里は、下車しようとする少女に、心からの笑顔を返すことができた。まだ14年しか生きていないのに、何十年も笑っていないように思えた。

 ―――天使っているんだわ。
 由加里は、そう思わざるを得なかった。あんな小さな存在が、日だまりになってくれる。あまりにまぶしくて、目がヤケドしそうだった。しかし、その優しい光は、決して彼女の網膜や虹彩を傷付けたりはしなかった。むしろ、涙で濡れた瞳を乾かしてくれた、癒してくれた。
 列車はやがて、出発した。由加里は、少女が見えなくなるまで、笑顔を送りながら手を振り続けた。

 帰宅すると、春子が玄関で、仁王立ちしていた。ドアを閉めた由加里を睨みつけると微動だにしない。まるで弁慶のように、由加里から視線を離さない。
「由加里、こんな時間まで何をしていたの!?心配したのよ!でも、冴子も冴子よね、一体、何の用だったの?」
「・・・・・・・・・・・」
 拍子抜けした由加里を背に、春子は廊下を駆けていった。

 ―――――冴子姉さん、連絡してくれたんだ・・・・。
 しかし、春子は思いついたように、振り返った。
「でも、よく交通費あったわね、お金持って行っているわけじゃないでしょう?」
「ううん、友達が貸してくれたの」
「え?友達がいるの?」
 春子は驚いた顔した。
「うん・・・・・・・・・やっと口を聞いてくれる子ができたの」
由加里は嘘を言った。
「そう・・・・・・・・・」
 もちろん、納得したわけではないが、春子は一応フリだけはしておいた。

 由加里は、何を後においても入浴をしたくてたまらない。汗まみれの身体から、酸っぱい臭いが発しているような気がする。動物は、それを腐った食物として本能的に拒否するそうだ。

―――ああ、気持ち悪い!

 しかし、ひとつだけやるべきことがあった。薄暗いキッチンに侵入すると、パッキングシートを一枚借用した。それは、濡れた食物などを効率よく封入できるシートである。何でも、発明主婦だとか言って、マスコミが騒いでいた。うん千万も、利益を得た女性がいるようだ。少女はそれを持って自室に入る。
 
 そして―――――。
 
 「あアアウ・・・・・・・・!」
 由加里は恥部から、ゆで卵を取り出した。まるで、おでんのバクダンのようにふやけていた。
「ううー!臭い!」
その物体の臭気は予想以上だった。その醜い脳のような物体は、まるで由加里自身を鏡で映したように見えた。しかも、その鏡は、映像だけでなく臭いや感触など他の五感をも、忠実に写し取っているのだ。
「もう!イヤあ!」
急いで、それをパック詰めにする。

―――――どうして?どうして!私がこんなことしなきゃいけないの!?
パック詰めにされた卵を見て思った。それは、まるでホルマリン漬けにされて、理科室に寝かされた動物たちのようだった。優しい由加里は、常日頃、かれらが可哀相でたまらなかった。

 照美やはるかが、笑っている声が聞こえる。クラスメート、みんなが笑っている。テニス部の部員も、後輩さえ笑っている。その中には、ミチルや貴子もいるではないか?

 ―――ミチルちゃん、あなたたちも、どうせ同じよ!もう、誰も信用できない!信用しない!
 
 由加里は、泣きながら浴室のドアを開けた。はたして、そこには郁子が服を脱いでいた。
「由加里姉ちゃん?一緒に入る?」
「じょ、冗談じゃないわよ!私が入るの!早く出て!」
 由加里は、烈火のごとく怒ると、妹の手首を掴むと強引に放り出した。
――――郁子!
 心の中で後悔したが、先立たずだった。
 妹の泣きわめく声を背中に、由加里は、浴室を開けた。

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『由加里 31』
 由加里たち三人は、下北沢では有名なステーキ店に入っていた。個室のこの部屋は予約無しでは、この時間帯では部屋がとれない。淳一が常連だったために、余計な注文に応じたのである。既に、食事は終わり、恭しい(うやうやしい)手つきで給仕がコーヒーを持ってくる。
 由加里は神妙な面持ちで、ふたりの会話を聞いている。それは、彼女が想像した恋人同士の会話ではない。音楽の話しばかりが続く。Assemble Night というバンドを彼等は組んでいる。
「バンド名の由来は、何ですか?」
突然、話しに入ってきた由加里に、驚いた二人。
「語感だよ、深い意味はないな。組み立てる夜という意味らしい」
淳一は、とまどいながらも受け答えする。
 
 このいたいけな少女に何があったのか、どうして、あんな時間に、新宿などにいたのか。ふたりとも変な気を使って、深いところまで、理由を聞くことができなかった。
 そんなことをしているうちに、由加里は黙りこくってしまい。二人は仕方なく互いに会話をはじめたのだ。そのうちに、バンドの話しに夢中になってしまった。
 
 「たまたま浮かんだんじゃないのヵ?どうせ、直前にパソコン関係の雑誌でも読んでたんじゃないか」
冴子が言う。
「バンドの名前なんて、いい加減なほうが大成するのよ、Bail sound partyなんて、ほとんど意味をなさないじゃん」

 ―――大成って、お医者さんになるんじゃないの?
 由加里は思ったが口にはしなかった。しかし、冴子が否定しないことを考えると、音楽を本気でやるつもりなのだろうか。それを思うと、父親との衝突は避けられないのだと思った。そもそも、ふたりは結婚すると言っているのだ。

 ――――王道。
 まさに人間として、王道を歩んできた冴子が、どうしたと言うのだろう。姉は、由加里にとって理想そのものだった、学業成績はもとよりも、由加里が苦手な運動や社交なども、まるで魚が水中を泳ぐように、こなしていく。親との関係も良好そのものだった。
 それなのに、あえて平地に乱を起こすようなことをどうしてやるのか?音楽をやるなら隠れてやればいい。由加里の誕生日の日にあんなことをしなくてもよかった。そう、これみよがしに、妹に自分がやっているバンドのCDをプレゼントしたのだ。

 「冴子姉さんのバースディプレゼント、聞いてるよ」

「あのアルバムは、ファニーミュージックが目を付けた契機になった作品だよな」
 ファニーミュージックは、音楽産業としては大手、いわゆるメジャーである。
「すごい、そんなところまで話しが進んでいるの!?」
「医師国家試験を持っているメンバーがいる二つ目のバンドになるな」
「まだ、持っていないじゃない」
 冴子は、カップに口を付けながら笑った。
――――本当に医者になる気はないんだ。
由加里は密かにそう思った。

 「・・・ウグ・・・・・・」
 ふいに、可愛い顔を歪めた。大人、二人が由加里のただならぬ様子に、不審を抱く。あどけない顔に、冷や汗が何粒も浮かぶ。
 「・・・・・・!」
 冷房が効いているというのに、全身に炎が走るようだ。
 熱はないはずなのに、100メートルを全力で走りぬけたようだ。

 「どうしたの?由加里?」
「ううん、大丈夫」
 股間のモノが蠢いたのだ。照美の命令によって、性器に埋め込まれた卵。それは、いつなんどきでも少女を責め立ててくる。こんな平和な時間をも、いじめっ子たちは浸食し、支配し続ける。照美やはるかだけではない。高田や金江たち、クラスメートたち全員が、常に、少女を見張って嘲笑っている。そんな錯覚に襲われるのだった。常に、見えない敵に脅かされている。見えない手枷足枷をはめられている。
 
 冴子は、いじめの状況を詳しく知っているわけではない。ただ、人間関係で悩んでいる・・・・・程度のことは知っている。そんな妹が心配なことは、たしかだが、いまは目の前のふたつのことに夢中になっている。一つはバンド。もうひとつは恋愛である。そして、そのふたつは常に交錯し合っている。
 その時由加里の携帯に、着信が着た。バイブ設定にしてある。
「ごめん、トイレに行ってくる」
由加里は、席を立った。あふれてくる感情を、姉に見られたくないのだ。どうせ、相手は決まっている。消毒薬の臭いが鼻を突くと、携帯を開いた。

 親愛なる西宮さんへ
   今日は楽しかったね。西宮さんも楽しかったでしょう?あなたの親友のワタシたちも楽しかったよ。大好きな西宮さんが、楽しいと、ワタシたちも嬉しいよ。
  そんでさ、あのゆで卵、明日も入れてきてネ。朝いちで確認するからね。
じゃばーい。今夜も良い夢が見れるといいネ。
                        西宮さんの親友より
 

 完全に、由加里を嘲った文面。人間を人間とも思わない内容。一瞬、携帯をたたき壊したい衝動にかられた。もはや、ミチルや貴子にさえ見捨てられてしまった。絶望の理由は、それだけではない。少女は心のどこかで、照美の言ったことを信じてしまったのだ。

―――――私を苦しめるために芝居を打ったのだ。
 
 そんなことがあるはずはない。絶対にあってはならない。そう思っても、いや、そうおもうことが既に、ふたりへの裏切りを意味する。

―――――私は自分から、ミチルちゃんから出された救いの手を振り払ってしまったんだ・・・・・。
 
 由加里は、そう思うと、おもいっきり自分を罰していまいたくてたまらなくなる。このまま、照美やはるかたちにいじめ抜かれればいい。それがより残酷なら、そのほうがいい。そうして、ボロぞうきんみたいに飽きられて捨てられるのだ、そうなったら最後、もはや、だれにも見向きもされない。しかし、そうなったら、一片の同情くらい恵んでくれるかもしれない・・・・・・・・・。

 もう、この携帯は、家族の他は、少女をいじめるための道具になってしまった。あたかも、意思を持って、照美たちのいじめを手伝っているかのようにすら思える。そんな携帯が憎くてたまらない。しかし、壊してしまうわけにはいかない。そうすれば、彼女の所有者たちに叛意を知られてしまうからだ。
彼女たちに、完全なる隷属を誓っても、この扱いなのに、少しでも従順ならざるときは、どんな目に合わせるか知れたものではない。
 
―――――殺されるかもしれない。
 
 由加里は、照美の瞳に殺意すら感じていた。あの嘲笑に満ちた視線の裏には、たしかなる怨みがある。高田や金江、それに、有紀やぴあのたちのように、遊びでいじめをやっているわけではない。けっして、いじめを本質的には楽しんでいない。怨みを雪いでいるのだ。その心当たりは全くないが、それはたしかなことだった。
 だからこそ、あの奇麗な瞳が、由加里に命の危険すら感じさせるのだ。
――――― 一体、わたしが何をしたの?
「あアアウウ・・・・・・・・」
由加里は、気がつかないうちに自慰に及んでいた。制御しえない精神的混乱を迎えたときの、常套手段だ。
「ぐアアッ・・・・・ぁああ!」
 由加里の白魚のような指は、粘液に濡れた秘所を泳いだあげく、ひとつの球体を探しあてていた。それは、この数時間というものの、少女を辱め、その精神に到るまで浸食と陵辱を加えてきた。しかし、それを外すことは、おろか、捨ててしまうことなど思いも寄らない。それは、彼女の所有者が許さないのだ。あの残酷なご主人さまが。

 「アア・・・・・・か、海崎さん!い、鋳崎さん・・・アアあ・・・・ああ!?!」

――――今、私は何を言ったの!?

 由加里は、絶頂を迎える前に、我に帰ってしまった。自慰をしながら、思わず口走ってしまった言葉に絶句したのだ。どうして、いじめっ子の名前などが出てきたのだろう。もしかして、無意識のうちにいじめられることを臨んでいるのだろうか。

―――――まさか!そんな・・・・・・・・・・・・・・!!
 
 もしかして、照美から渡された恥ずかしい本の影響だろうか。その本やマンガには、いじめられて快感を感じる女の子の話が載っていた。こんなことは、絶対嘘だろうと思わせる内容だった。
 照美は、そのマンガや小説をコピーするように命令した。トレーシングペーパーで、精密に映すことを強要した。しかし、やがて、美術の授業を通じて、由加里に絵心があることを発見すると、ペーパーなしで制作するように言った。
 それは自宅で行われたのであるが、家族の目を盗んでやる行為は、罪悪感と羞恥心に満ちていた。そもそも、子供たちに個室を与えてはいるが、開け放たれた空間を子育ての常であると標榜する春子。その目を盗むのは難しかった。だから、家族が寝静まった深夜に、作業は行われるのだった。

 ――――――――どうして、こんなことをしなきゃいけないの?!
 
 と涙しながら恥辱の行為を続けた。
 しかし、それに飽きてくると、照美は、さらにグレードアップを要求した。マンガを参考に、独創性を要求するようになったのだ。あたかも、エロマンガ出版の編集者と化して、照美はあれこれ命令した。プロ作家と違うのは、無給で、自分の意に添わない内容を書かされることである。風の便りには、後者は必ずしも嘘ではないという。それはさておき、由加里が、受けたいじめは肉体的及び、性的な手段に留まらなかった。照美やはるかは、少女を心身両面に渡って苦しめた。

 「ウウウ・・・・・・!」
 辛い記憶の羅列は、
思わず嗚咽が、口から漏れる。
――――いじめなんて、絶対に慣れないよ!あんなの嘘だよ!
 由加里は、ネット上の書き込みを思い出しながら、泣いた。自称いじめられっ子という少女の書き込みだ。自分は、10年もの間、いじめられ続けられたが、やがて慣れてしまったと書いてあった。

 「ウッググ・・・あふうう!!ハア・・・・・ハアハ・・・・アア」
 少女は、完全なる惨めさに満ちた絶頂を迎えた。
「・・・?!」
 由加里は、個室から飛び出ると神経質なまでに、手を洗った。泡だった石鹸を丹念に擦りつける。皺の細かな箇所にまで、石鹸が行き渡るように、両手を合わせる。そうすることで、あたかも、重なりに重なった汚辱が洗い流せるかのように。

 あたかも、心の襞の一つ、一つに刻み込まれた傷が癒されるかのように。しかし、少女の両の目から、無音で、涙が零れる。それは演奏前の調整を思わせた。例え、楽器が、ストラディバリウスの一流品であろうとも、例え、その演奏家が、五嶋みどりであろうとも、調整音に感動する者はだれもいない。ただし、一流の演奏を聴きたいのならば、それを無視することはできない。
 これは、哀れな少女に与えられた試練だというのだろうか?この煉獄に似た運命が!?
 しかし、この苦痛に満ちた時間が、少女に与えられた試練というならば、あまりにも神さまは酷薄だ。

 由加里は、トイレを飛び出ると店外に飛び出した。涙で濡れた顔で、もういちど、姉にまみえる自信がなかった・・・・・・・・・・・のである。


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『由加里 30』
 石毛まりは、椅子に座って泣き続けている少女を見下ろした。まるで、刑事と被疑者の関係に見えた。
 ここは、通常、万引き犯を連れてくる場所である。しかし、特別にそのために設えたわけではないが、結果として、取調室になってしまった。決して、万引きが減ることはあっても、無くなることはないからである。
 しかし、この少女は万引きをしたわけではない。ただ奇矯な行動のせいで、石毛に連れてこられたのだ。
 
 石毛は、25歳の若さで、タナカ電気、新宿方面販売室長を仰せつかっている。個々の販売をするのでなしに、職員を監視する役割である。軍隊とMPとの関係にそれは似ている。女性で、その若さでの就任は異例といってもいい。
 「ちょっと、いつまで泣いているつもりなの」
「・・・・・・・・・・・」
 石毛は、少女の生徒手帳と机上のマンガを見比べながら言った。18禁というマークがデカデカと、表紙に刻印されている。目の前の少女は、生徒手帳によれば、中学2年だ。しかし、小学生が制服を着ているようにしかみえない。たしかに、その容姿からは大人びた光を見ることができるし、知性の匂いもする。しかし、その外見は、どう見ても小学生が背伸びしたようにしかみえない。けばけばしい化粧と、その中身の不相応はどうだろう。どう見ても、ガングロと称する痴呆どもとはちがうようだ。彼女らは、きっと脳に寄生虫が沸いているのだと、勝手に思っている。
 
 そういう輩とは、根本的にちがう何かを、持っている。これも石毛の勝手な思いこみかもしれない。
 
 その容姿を推定すれば、なかなかの美少女であることが見て取れる。
 生徒手帳には、緊張した優等生が、映っている。
 向丘第二中学2年3組、西宮由加里。
「大人をからかわないでくれる?私は忙しいんだけど、どうしてこんな時間に、中学生が新宿なんかにいるわけ」
 
 明大前かと心の中で思った。見れば、新宿行きの京王線の中で。自分たちに下半身を露出した少女だった。最初、単なる変態かと思ったが、ただならない羞恥心の表明と、背後で笑っている少女たちの群れ、それを見比べて、直感的にいじめられているのだと直感した。

 石毛は机上のマンガ本と少女を見比べる。これほどに、ミスマッチなペアも珍しい。女子大生の時、マニアックな友達に、コミックマーケットなる異世界に連れられて行ったことがある。その時に、見かけた美青年がロリコン同人誌を、山ほど抱えていたの思い出す。
 
 今回は、もちろん、その逆なのだが・・・・・・・・・。

 石毛は、そのマンガを指さす。
「それにこの本はなに?」
「・・・うウウウ・・う・オネガイです!・・・うウウウ・・う・許してください!堪忍してください、・・・うウウ・・う・もう」
 由加里は、まるで鬼刑事を前にした犯罪者のように縮こまってしまった。
――――まったく、私がいじめているみたいじゃない。
 石毛は、店内での少女と同級生たちの様子を見て、事態を把握することができた。
「私は忙しいんだけど」
「・・・・・・・?!」
 由加里にしてみれば、石毛は怖くてたまらない。能面のような顔に、優しさのひとかけらも発見することは出来ない。もっとも、少女は、社会人の厳しさと完全に無関係だ。由加里に、それが理解できるはずもなかった。
 「わかったわ、二度とこんなことしないのよ。帰っていいわ」
しびれを切らしたのか、石毛は言い渡した。
「あ、ありがとうございます」
 由加里は力無く答えた。だから、生徒手帳を返してもらったとき、異変に気づかなかった。

 「ねえ、西宮さん、帰りの交通費持っているの」
「・・・・・・・・・・・」
 由加里は、照美から借りて新宿まで来たのである。
「いくら?」
「さ、390円です」
「ほら、残りは小遣いにでもしなさい」
「え?コマリます」
 由加里は上目遣いで、石毛を見た。机上に置かれたのは、千円札だった。夏目漱石が、何故か恨めしそうに睨んでいる。

 石毛は、改めてこの可哀相な少女を見下ろした。
その目は「あなたは信用できない」って言っている。少なくとも、石毛の目にはそう見えた。
「はやく帰りなさい、もしも返したかったら、今度明大前に来たときにでも、店まで持ってきてくれたらいいわ。オトナは忙しいの、おむつつけた子供は、ママのところに帰りなさい」
 石毛はそっけなく言って、夏目漱石を、数枚加えると由加里のポッケに突っ込んだ。
 そして、すぐさまドアの向こうに消えようとした。

「わたし、ママの顔知らないんですけど」
 由加里は、むかっとしたのか、思わず、作り話をした。当たり前のことだが、それが一概に嘘でないことを、彼女自身、このとき理解していなかった。しかし、無意識の何処かで、それを察していたことは事実なのだろう。それが今、見ず知らずの他人の前でポロっと零れたのかもしれない。
 「・・・!」
 石毛は心の内で舌打ちをした。
なんと言っていいのかわからずに、由加里を見つめた。
 「いいんですよ、別に悪いって思ってもらわなくても」
少女は鞄を持つと、エロマンガを悲しい手つきで持ち上げる。それを鞄に詰めて、口調とは裏腹に、逃げるように出口に向かって、走っていく。

 「あ、せんえん・・・・」
由加里は、店の外に足を踏み出してから、急にサングラスをかけたような気がした。薄闇は、少女の理性を呼びよこしたのか。自分がとんでもないことをしてしまったことを、思い出させた。

 ふいに、照美たちのことが、頭に浮かんで、身を固くしてキョロキョロした。しかし、もう彼女をからかったり、こづいたりするいじめっ子は誰もいなくなっていた。おそらくもう帰ってしまったのだろう。
 次ぎに思い出したのは、夏目漱石のことである。
 胸のポッケからそれを取り出して数える。

 ――――いちまい、にまい、さんまい・・・・・・こんなに・・・・・・でも。
「うウウ・・・」
 由加里は、思わず筆舌に尽くしがたい悲しみが蘇ってくるのを感じた。あの四人はいないのに、恐怖と悪寒が込み上げてきた。
 そのお金は、あたかも由加里が恥ずかしい行為を行った代価かのように思えたからである。
――――私は単なる物なの?商品なの?人間じゃないの?!わたしの価値って、さんぜんえん?!
 ビルの最上階に、でかでかと輝いている掲示板を見つけた。その大時計は、6時半を指している。
 こんな時間に、たった一人で都心にいるという事実が、少女から現実感を奪っていた。

 ――――ここは何処?どうして、こんなところにいるの?
 本来ならば、家庭にいて、母親の愛情がたっぷりと籠められた料理を待っているはずだった。それなのに、こんなところで泣いている。
 涙を何度も拭って、袖にアイシャドウがべっとりと付いてしまった。その時、少女は壁にぶつかった。
 「おっと、危ないな・・・・・え?冴子?いや、まさか」
「・・・・・・・・・?!」
 由加里は、驚愕のまなざしを向ける。もちろん、冴子という単語に反応したのである。鏡を見ても、自分は姉に似ていると思う。年の差はかなり離れているが、もしも同年代だったら双子をみまごうばかりではないか。試みに、それぞれ同年代の写真を並べてみると、本当に双子のようである。
「シロクロじゃないよね」と冗談を言って、ポコと頭を殴られたのは、今となってみれば、楽しい記憶だ。
 この人は、姉と知りあいなのだろうか。
――――姉を知っているんですか?
という言葉が何故かでてこない。それほど。見上げる男性はかっこうよかったのである。イケメンという言葉では表現できないほど、端正な外見に恵まれていた。
――――姉を知っているんですか?と言おうと思った瞬間、聞き慣れた声を聞いた。
「淳一、どおしたの」
「冴子姉さん?!」
「由加里!あ、待ちなさい!」
 由加里は、思わず走り出してしまった。
ピー!耳をつんざく警告音と、自動車のヘッドライトに、目がくらんでしまった。
 「バカヤロ!!」
 ドライバーの怒鳴る声は、まるでテレビから聞こえてくるようだった。それも相当ブラウン管が痛んだ年代物のテレビである。まったく現実感が、少女にはない。しかし ―――。
 「うぐ!」
少女は股間を押さえて、蹲ってしまった。実は、例の卵は、まだ少女の胎内に埋め込まれているのだ。
――――海崎さんの許可なしに、取っちゃったらどんなひどい目にあうのかわからない。
 このとき、由加里はほとんど照美とはるかの性奴になりはてていた。二人がいなくても、見えない鎖で繋がれているのだ。

 「由加里!」
 冴子は、フラフラと彷徨う妹を抱き留めた。すんでのところで、次ぎの車に跳ねられるところだった。
「さ、冴子姉さん!」
尋常な状態ではない。由加里は、中学生になってもまったく色香というものを感じさせなかった。その点は、冴子と好対照である。彼女の場合、かなり早い段階で男性体験もすませていたが、持ち前の計算高さで、周囲のオトナたちをだましていた。
 しかし、義母である春子は、それを見逃さないだけの慧眼を持っていた。そのことがふたりの確執を産み、それを乗り越えたとき、実の母娘でも培えない信頼を育んだわけだ。

 目の前にいるのは、冴子が知っている由加里ではない。まるで戦後まもなくの娼婦のような化粧は、まるでピエロだ。最近の売女はこんな恰好をしない。男も寄ってこないだろう。しかし、冴子は、その哀しい仮面の下に、本来の妹が眠っていることを見抜いて、ひそかに安心させられた。
「あ―――――――」
 もう言葉も悲鳴も必要なかった、ただ、姉の胸に飛び込むだけでよかった。しかし、このときは、その愛に浸っていられる状態ではなかった。股間から響いてくる官能の渦は、少女の幼い性器と器官を絶えず、刺激し攻め抜いていた。
 だがら、もはや純粋な妹には戻れないという気持になった。それは、とても哀しいことだった。もう、誰にも頼ることはできない。

 固まってしまった二人に、淳一が話しを進めようとした。
「こんなところでなんだし、早く入ろうよ、彼女のぶんも追加予約してもらうからさ」
「そうだ、由加里、お腹空いたでしょう?まだ夕食まだじゃない?」
 冴子は優しい声で語りかけた。
「でも、せっかくのデートをじゃましちゃ」
「子供が何言っているの!」
 冴子は、ごつんと妹の頭を小突いた。痛くもないのに、わざと顔をしかめる由加里。
「ああ、こちらは、あなた兄になる人よ、淳一って言うの」
「オレは高崎淳一、冴子さんがやってるバンドのヴォーカル。ついでに言うと冴子さんのカレ。もっと言うと、同級生」
「ついでなの?」
 冴子は不満そうな顔を作った。

 「・・・・・・・・」
 由加里は不思議なものを見てしまった。冴子のそんな顔を見るのは、はじめてだ。
「今日は、オレの誕生日でさ、それを祝ってくれるって話しだったんだけど、由加里ちゃんだったよね、おいでよ」
 初対面の人間に名前を知られているというのは、きもちわるいものだ。
目の前の人物は、いったい、何者だろう。由加里は、いじめられるようになって注意深くなってしまった。以前ならば、姉の知り合いというだけで、無条件に信頼したことだろう。

 淳一の顔が背景から浮いて見える。まるでアニメのように面取りされた顔。それは確かに奇麗なのだが、何かが足りない。欠けている。一度冷静になってみると。確かな人物眼が、がま首を擡(もた)げた。それは、どんなひどいことをされても照美とはるかに対して、一目置いている、彼女の性格から見ても、わかる。

 淳一は、ふたりをしみじみと見比べた。

 「でも、ふたりとも凄い似ている姉妹だよな」
「そう、よく言われるわ、とにかく暑いから早く入ろうよ」
冴子は、由加里の肩に、ぽんと手を乗せた。由加里は、改めて二人に視線を向けた。お似合いの二人に見えた。さきほど思った危惧は、杞憂であることを祈るしかない。由加里ができるのはそれだけだった。
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『由加里 29』
 電車から降りた由加里は、すぐさま、後から追いかけてきた照美たちに捕まった。
「いや!いや!いや!もういや!」
 泣きながら、激しく抵抗する由加里。しかし、いじめっ子たちは、無理矢理にトイレに押し込もうとする。駅構内を往来する人々は、この顛末を、まるで映画の撮影か何かと思っているようだ。
 
 それもそのはず、はるかは鞄から、小型ビデオカメラを取り出して、事態を撮影しはじめたのだ。
――――中学生の自主映画か?
ある白人男性は、そのように認識して去っていった。
 「はやくしろ!」
「いや!いや!いや!もう、許してぇ!!」

 由加里は、やがて女子トイレの個室に、押し込められた。すると、いじめっ子たちは、その本性を明かにする。すなわち、怒りの感情が、噴き出るままに少女をめった打ちにした。しかし、それでも一応、理性は働いているのか、顔や手足など露出する場面は、できるだけさけて、正義の拳を打ち込む。
 「ひい!痛い!お願いですから!許して!いや!」
照美は、ある程度痛めつけてから、みんなを制した。
 由加里は、イソギンチャクのようになって、泣き伏している。
「可哀相に、まるで床が抜けそうな泣きぶりねえ?あはははは」
「照美、一体、だれがいじめたんだろうね、こんなにするまでいじめることないのに」
由加里は、ふたりを悪魔と見なしたにちがいない。
「立ちなさいよ」
「ヒッ!」
 少女は、照美の声を聞くだけで悲鳴を上げた。きっと、触られでもしたら、神経が吹き飛んでしまうかもしれない。
「腰が抜けたみたいねえ、そうだ!顔を洗おうね」
「ひぎぃ」
 情けない声を上げる由加里の頭を、乱暴に摑むと、洋式便器に突っ込む。
「なーに、逃げてんだよ!」
「ごめんなさい!ごめんなさぃ!」
 謝りながらも、何回も、便器に可愛い顔を突っ込まれる。

 「どーして逃げたのよ!」
「ううう・・・・・!!」
「ほら立ちな!照美、明大前ってタナカ電気あったけ?」
「あったと思うよ、別にタナカ電気じゃなくてもいいし、とにかく予定通りやろう」
 照美は、ぐちゃぐっちゃになった由加里に、なお容赦ないことを言い渡す。
「ほら、拭くのよ」
「・・・・・・・・」

 由加里は、ハンカチを取り出すと、濡れた顔を拭く。
「拭いたら、髪をとかすのよ、そんな頭の子といっしょに歩きたくないし」
 ものすごい論理である。いじめっ子の言っていることというのは、何時の時代も、どのケースでも、似たり寄ったりである。
 すなわち、まったくめちゃくちゃだということだ。言っている本人はそれを理解しているのだろうか?彼女たちの場合、それを理解しているのが、照美とはるかであり、理解していないのが、有紀とぴあのである。

 由加里は、個室から引き出されると。鏡の前に立たされた。彼女の涙は、さきほどまで受けた暴虐の蹟だ。
 「美人が台無しだよ、これじゃ、ふふ」
照美が微笑を浮かべて言った。
 由加里はみじめだった。髪の毛の手入れは、女性の特権である。毎朝恒例の行事は、楽しみのはずである。照美ほどではないが、由加里とて美人の部類に、十分入る。男どもの中には、彼女こそが好みだというヤツもいるだろう。そんな少女が、便器で顔や頭を洗われた上、改めて水で注ぐことも許されずに、毛繕いをされているのだ。
 
 「べっぴんさんは、お化粧しないとね」
原崎有紀は、化粧ケースからマスカラやアイシャドウを取り出すと、由加里をカンバス代わりに塗り始めた。
「ほら、逃げないの!」
 いじめっ子たちの辱めは、終わりというのを知らない。鏡の中で、由加里は浅はかな売春婦になっていく。濃い化粧はその証拠だろうか。濃い紫のアイシャドウに、真っ赤な血の色の口紅。全てが、  由加里を辱める衣装だった。
「西宮さん、似合っているよ、とてもかわいい」
「これからウリに行くか?!」
はるかの言葉がぐさりと突き刺さる。もはや、言葉すら出ない。

 「さ、用意もできたし、街に繰り出すか」
 時刻は午後5時を回っていた。こんな時間に、自分たちだけでこんなところにいるなどと、少女たちにはありえないことだった。きょうびの女子中学生よりも、その辺は遅れていると言えるのだろう。
「ねえ、タナカ電気ってどっち?」
「たしか、下北沢の方向だったと思う」
 照美が答えた。
一行は東松原の方向へ、歩を進める。歩いて20分と言ったところだろうか。
 由加里は、四人よりも10歩ほど前を歩くことになった。

 「あなたみたいな、ミットモナイ子と一緒に歩けるはずはないでしょう?」
その身勝手ないいぶんに、由加里はもはや、反論する気力すらなかった。絞り上げられたスカートの裾を摑む。
 「ねえ、スカートを元に戻したら、ただじゃすまないわよ」
照美は、言の葉にすごみを混ぜた。実は、トイレから出るときに、スカートを織り込むように命令されたのだ。
「ほら、それじゃ足りない!もっと、織り込むのよ!」
「・・・そんな」
 躊躇はしたものの、最終的には照美たちの言いなりになるしかない。気が付いたら、スカートはまるでホットパンツ状態になっていた。こういう顛末があって、少女は若者が集まる下北沢に足を踏み入れたわけだ。
 大学生になったら行きたいと思っていた。別に何処の大学に行きたいという志望があるわけではない。ただ、下北沢は、大学生が集う街というイメージがあった。
 
 とはいえ、少女は、まだ中学2年なのだ。

 冴子のように、子供時代から医者を運命づけられているわけではなかった。彼女はいわば、西宮クリニックの後継ぎであることを宿命づけられていた。父親から直接、命じられたわけではなかったが、不文律として、西宮家とその親族の間で流布していたのだ。

 「冴子は神童だよ、西宮家の未来は明るいよね」

 そのように、親戚が言うとき、由加里は両親の誇らしい顔には気づいたが、冴子のけだるいような表情には気づいていなかった。そして、彼女の刺すような、あるいは羨望を含んだ視線にも気づいていなかった。
 由加里は、心底、この姉が誇らしかった ――――ただそれだけだった。

「ねえ、あの子おかしくない?」
「中学生よね、それに、あの化粧はなに?あんなにおとなしい顔して?」
由加里の化粧は、その顔によほど似つかわしくないと見える。街を行き交う若者たちは、といっても、大半が少女たちよりも年上なのだが、彼女を好奇に満ちた視線を送ってくるのだった。
 由加里は、その視線の一つ一つにビクビクと反応する。その様子が、照美たちはおかしくてたまらない。
 7月も半ばになったとはいえ、ようやく太陽の天下も揺らいできた。自動車がライトを付けはじめた時刻。さすがに有紀たちは、不安になってきたようだ。
「はやくすませようよ、タナカ電気ってまだなの?」
「大丈夫だって、不安なのか」
はるかは白目で、有紀を見た。
「う・・・大丈夫」
有紀は、まるで蛇に睨まれた鼠のようにしょげかえってしまった。

 目抜き通りは、やがて細い路地に入っていく。ここには、色んな店が軒を連ねている。古本屋に、同人誌専門店に、喫茶店。関連性のない店が、法則性のないままに、並んでいる。まさに若者のための街だ。みんな、楽しそうに行き交っている。大学生が主だろうが、高校生も見られる。中には中学生らしい制服も見られるが、それはごく少数だった。
 その少数である由加里は、照美たちのいるところから、7メートルくらい先を歩いている。連絡は携帯で取っている。

 「ほら、みんなが見ているよ、西宮さん、露出狂のあなたには耐えられない楽しみよね」
「・・・・・・そ、そんなことありません」
「だったら、何で太腿まで、濡らしているのよ、恥ずかしい姿を見られて欲情しているくせに」

 照美は、惨めに震えている由加里を見て、満足げだった。
「なあ、西宮、もう少しスカートあげてみなよ、そこにロリコンのヘンタイが、欲情して見ているぜ」
はるかが、照美から携帯を受け取っていた。
「うううう・・・・・」
 由加里は、泣き続けるしかない。ふと背後を向いた。その時、恐るべき光景を見た。照美の様子がおかしい。
「どうしたの、照美」
「ううん、あのおばあさん、おかしい」

 照美が、示す先には、路上で、老婆が立ち往生していた。車が警告音を鳴らしているではないか。よく見れば、ゴロゴロの車輪が穴にはまって動けなくなっているのだ。往来の若者たちは、見て見ぬフリして去っていく。
「おい、ババア!どけよ!ひき殺すぞ!」
いたいけな老婆をドライバーが下品な声で怒鳴りつけているというのに、みんな知らん顔だ。
「もう!」
しびれを切らした照美が、ついに動いた。
 照美は、無言で恐縮する老婆に近づくと、車輪を外してやった。
「これで、大丈夫ですよ、おばあさん」
「ありがとうね、本当に、めんこい子だねえ」
老婆は、90度に曲がった腰をさらに曲げて、何度もお礼をしていった。
「いいえ、とんでもないです」
照美は、照美で、まるで悪いことをしたかのように頭を下げて、老婆に答えていた。

 「・・・・・・・・・・・?!」
はるか以外は、目をシロクロさせて事態を見ていた。今、目の前に存在する照美は、本当に、先ほどまでの彼女だろうか?心底驚いたのは、ぴあのと有紀である。聖母マリアのそれと見まごうばかりの慈愛にあふれてるではないか。普段、冷酷に人を射抜く慧眼からは、あふれんばかりの慈愛に満ちている。
―――――この人、本当にわからない。
冷や汗すら、背骨の窪みを流れた。
 しかし、由加里は、何故か不思議じゃなかった。透明な目で照美を見つめた。しかし―――。
「何してるのよ、変態!先へ急ぎなさいよ!」
表情が180度変わった照美がそこにいた。
――――うう!すごいぃ!
ぴあのと有紀は、戦慄すら憶えた。
―――この人を敵に回しちゃいけない。

 二人は、密かにそう思った。しかし、それは誤解だった。はるかが、誰よりもそれを知っている。彼女が由加里に会うまで、こんな冷たい目を見たこともない。それははるかも同じだった。由加里に出あうまで、いじめというものを嫌悪しこそすれ、自分が実行するなどということは、考えもよらなかった。
―――この女に会うまではこんなじゃなかった。オマエの顔があの人に似ているばかりに!
「ぐずぐずしていると、本当にやらせるぞ!」
はるかは、照美から携帯を奪い取ると、怒鳴りつけた。その声は、携帯を使わなくとも、由加里にとどくほどである。
 
 ビリビリ!!
 
 まさに、その擬音がまさにふさわしい情況に、追い込まれた、全身を電気が走る。
さきほど、はるかが言った「ウリ」という言葉が伏線になって、由加里を苦しめる。その言葉があって、はじめて「やらせるぞ!」という言葉が効いてくる。

 中学生の女の子にとって、異性と行為をやるなどということは、想像もつかないことだ。それもおそろしいはるかに言われたのだ。由加里は、すぐにでも大柄の黒人に強姦される錯覚に襲われた。

 「ほら、見えてきたろう?タナカ電気だよ」
「・・・・・・・・オネガイです!何でもしますから、それだけは許してください!」
由加里は叫んでいた。
「じゃあ、そこで全裸になって、オナニーする?そうしたら、許してあげてもいいわ」
「・・・・・・・・・?!」
由加里は絶句するほかない。もう、ことばは必要ではない。
 少女は、震える足を必死に御しながら、きらめく店内に入るほかになかった。

 最近売り出し中の薄型テレビが、エッフェル塔が崩落する様を映している。それは、まさに由加里の境遇そのものだった。かつて、花高い文化国家を象徴した塔は、アラブ人の嘲笑と共に、滅びようとしている。由加里は、14歳まで涙を知らない人生を送ってきた。家庭の愛と教室の人気者という、二つの花に恵まれてきた。
 いま、その一つが地にまみれようとしている。今の西宮由加里、その人じゃないか。

 「そこの店員に聞いてみな、いや、あの女性店員がいいわ」
照美の声だ、何故か、相手が女性であることに拘っている。
「・・・・・ハイ・・・・」
由加里は携帯だというのに、頭を下げた。その姿はあまりに滑稽だったので、みんな笑った。その笑い声は、由加里にまで当然届いている。
 「何しているの?幸田くん、ちゃんとしてもらわないと困るわよ。私はまだ来社したばかりなの!新宿からバイク飛ばしてきたのよ。西原さんからわざわざ借りて!」
照美が示した女性は、携帯を片手に、颯爽とOLをこなしている。名札を見ると石毛という文字が見えた。

 「・・・あ、あの・・・」
由加里は、凍り付く口を、どうにか動かそうとした。
「う!」
そのとき、股間のモノが蠢いた。
「どうしたの?お嬢さん、気分でも悪いの?」
 石毛という店員は、まだ20歳をいくつも過ぎていないと思われる。彼女は、上品な物腰で由加里に逆質問してくる。
「コレ・・・・・コレ・・・く・だ・さい!」
「あ、あなた・・・・?!」
 由加里は、バッグからエロマンガを取りだすと、予め捲っていたページを見せた。そして、その機械を指さしたのだ。
 バイブレータ。
少女はその名前すら知らない、いや知らなかった。もしも、照美たちにいじめられることがなければ、そんなものを知らずにすんだのだ。
 震える手。凍り付く心。
由加里の精神は崩壊寸前だった。

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