2ntブログ
いじめ文学専用サイト
主人公はu15の少女たち。 主な内容はいじめ文学。このサイトはアダルトコンテンツを含みます。18歳以下はただちに退去してください。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
『マザーエルザの物語・終章 1』
『マザーエルザの物語・終章~1』
1998年4月3日、(愛名46年)

 「みなさん、今日はマザーエルザのことについてお話しをします」
 白を基調にした清廉な教室。そこに、よく通る声が響く。彼女は、子どもたちが大好きなシスターだ。その声を聞くと、みんなまじめに勉強をしたくなる。二人の姉たちのように、あまり勉強が好きではない、この少女でさえ、手を挙げたがる。
 
 「はーい知っています!」
「榊さん、まだ先生は質問していませんよ」
「あははは」
 笑い声が教室に木霊する。しかし、みんな彼女を嘲笑ってのことではない。榊あおいを心から好いていた。
「ふふっ・・・・」
 シスターは思わず、苦笑した。しかし、その目つきは、心からこの少女を愛していると言っている。

 「あなたには、誰も叶いませんね・・・じゃアギリは何処にありますか」
「ここから、ずっと南にあります。中国よりも南です。そして、とても暑いところです」
 あおいは、嬉々として立ち上がると、声に喜びを乗せた。その声は、心底、人生を楽しんでいるように見えた。柔らかな肌のキラメキは、誰よりも健康さを誇っていた。髪の毛と目の色は、ぬばだまの美しさを唄っている。まさに、黒曜石よりも美しい。しかし、彼女は自分の唄の美しさをまだ、知らない、誇ってもいない。余計なプライドはまだ、新芽さえ育っていない。
 
 「座ってもいいですよ、榊さん。みなさん、私の故郷、アギリはとても暑いところです。そして、とても遠いところです。だけど、皆さんを縁遠いわけではないですよ、安西さん、アギリで一番有名な人は誰ですか?」
 「お釈迦さま!」
「そうですね、アブダブラー=シッタルダはアギリ人で一番有名ですね。でも今は、我が国では、そんなに有名でもないのですよ、他にはどうですか?じゃ赤木さん」
「マザーエルザ!」
その時、榊あおいが、受けた衝撃はとても言葉では表現できない。

―――――何?何か用?!
 今、あおいは、何を思ったのか、一秒前のことを、よく憶えていなかった。ただ、自分の名前を呼ばれたと思ったことだけは事実である。
「ねえ、啓子、私の名前呼んだ!?」
「榊さん、授業中ですよ」
 「ハイ・・・・・」
 シスターは、まだ気づいていない。かつて見たる少女と、完全に容貌が変わってしまったのだ。

―――――どうしたの?あおいちゃん?
 啓子は、しかし、何かに気づいていた。異変。知り合って11年になるが、こんな親友の顔は、はじめて見る。

――――具合悪いのかな。
 それは、とても小学生らしい感想だった。しかし、正鵠を射ていたことに、後に気づくのである。今は、あまりにも幼すぎた。いや、あおいは、彼女よりも数倍幼すぎるくらいだ。少女が、これから味わう受難は、麻酔なしで重い虫歯を治療するようなものだった。しかし、彼女が、かつて犯した罪を償うには温すぎるかもしれない。

 「この次ぎの授業までに、マザーエレザについて調べてきてください。これは宿題です。良いですね、榊さん!」
「はい」
「赤木さん、ちゃんと言ってあげなさいよ、忘れないようにネ」
 シスターはウインクを作った。
「はい!」
「啓子ちゃん、忘れないって!」
 あおいは、親友に不満な顔を見せた。
「何度聞いたか、わからないけど?」
啓子は、皮肉な笑顔を見せる。決して、大人の前では見せない顔だ。
黒光りするランドセルに、教科書を詰め込みながら続ける。
 
 「耳にたこができているよ、見てゴラン」
「そんな汚い耳なんか見たくないよ!」
 「何だって!?」
 リコーダーを振り回して、親友を追いかけ回すあおい。男子のいないこの教室では、彼女が一人で男子役を引き受けているようだ。
「何を!!」
  啓子は、負けじと、ゴミ箱を楯の代わりに使った。
バシッ!
 勢いよく、リコーダーはゴミ箱に命中する。しかし、とたんに、中身は床に転がった。級友たちの戸惑う声、声、声。こういう時、あざ笑う声にならないのは、ここが相当のお嬢様学校だからだろう。
 
 相当幼く見えるかもしれないが、少女たちは、既に最上級学年である。6年も使って、この色艶は、不思議とさえ言えた。一方、あおいのランドセルは、皺と傷が目立っている。帰宅してから、勢いよく投げつけるのか、目に見えている。双方とも性格を暗示しているのだろう。

 「そうか?今日は、啓子ちゃんの家に泊まるんだったわねえ、それなら、心配ないか」
シスターと入れ替わりに、入室した教師が言う。
「先生までが、そんなこというんですかぁ!?」
不平不満という文字を顔一杯に書いてある。わかりやすいこの子が、担任は可愛くてたまらなかった。

 「ほら、手伝いなさいよ!」
啓子は、一人で箒を取り出したところだった。
「あ!危ないって」
 電光石火の勢いで、親友に、同じものを投げつける。
「痛い!!何するの!!?」
箒の柄は、弧を描いて少女の額に当たった。おでこが広いので、おでこちゃんと小さいころ、呼ばれていた。

 「コラコラ、はやくしなさい!ホームルームをはじめますよ。あなたたちが終わらないと、始まりませんからね。良いですか?みなさん、それだけ帰るのが遅くなるということです!」
 「ちょっと!あおいちゃん!!」
「ま、いつものことか」
 「仕方ないわねえ!!」
「すぐにやるって言っているでしょう!?どうして、私たけに言うのよ!ひどいじゃない!?え?どうしたの?啓子ちゃん?」

 「いやなんでもない」
啓子は、親友に背を向けて、掃除を続ける。
――――もしも、私だったら、みんなどんな反応するのかな?
改めて、あおいを見る。ぬばだまの黒が、煌めいている。幼い日には、それが嫉視だと気づかなかった。それは、当然だろう「大好き!」「憎たらしい!」という異なる感情が同居しているのだ。同じ舟に敵同士が乗っているのと同じで、不安定なこと、他と比較ができない。

 ようやく掃除が終わったのは15分も後のことだった。二人は、クラスメートたちの友情に満ちたブーブーに囲まれながら、帰宅するのだった。

 聖ヘレナ学院は、小等部から大学まで一貫した教育を行っている。その幼稚舎は、慶應や青学に並ぶ人気を誇っている。あおいは大多数と同じく、幼稚舎から上がってきたのだが、啓子は違う。帰国子女なのだ。それゆえに、毛色が他と違う彼女がなじむのには相当苦労した。誰が?本人が、親が、学校が・・・・である。

 しかし、五年生になってあおいと出会ってから、180度変わってしまった。すなわち、よく教室になじむようになったのである。個性的な性格は、温存したままで、溶け込むことを憶えたようだ。そして、彼女に出会うことで、あおいの中にも変化があるはずだ ―――――――大人たちのほとんどはそう思いたかったにちがいない。

 担任である阿刀久美子は、礼拝堂の屋根裏部屋から、ふたりを見ていた。幼稚舎か大学まで、同じ敷地に揃った学園は広大で、校門ははるか、彼方にある。
 米粒のようなふたりが、校門を駈けていく。

「あーあ、転んじゃうわよ・・あああのドジ」
 久美子は頭を抱えた。あおいが転ぶのが見えたのである。
「どうしました?阿刀先生」
「あ、シスターいえ・・・」
「あの子ですよね、榊さん」
 シスターは浅黒い顔を、向けた。白いシスター服と、好対照を為しているが、人種差別だと思うと言うことができないのだった。チビ黒サンボの件でも、そうだが、日本人は、そういうものに弱い。おそらくは、知らない物には、怖れを抱くのだろう。触らぬ神にはたたりなしというわけだ。

 「本当に、神さまに愛された娘ですね」
「冗談じゃないですよ、心配で」
「誰にも愛されるという美徳を持っています、あの子は。それは天性の物でしょう」
「天性ねえ」
 どうも、宗教者という連中とは馬が合わない。たしかに、悪い人ではないと思うのだ。しかし、この学園の半数を占める宗教者は、不思議な雰囲気を放っている。それを否定することはできない。これまでいた職場とは、何処か違うのだ。
 
 それは、礼拝や聖書の朗読と言った、宗教行為のみにあるものではない。そこはかとなく学園全体を覆っているのだ。
 しかし、教会堂や十字架と言ったオブジェクト。すなわち、ヨーロッパを象徴するものに、本来、敵意を持っていない。敵意どころか、好意、いやそれを職業にするくらい心酔したこともある。
 ちなみに、彼女は史学科出身で、大学院、修士を通じて、ルネサンス時代のイタリアを専門に勉強した。そして、いざ、研究員というところにきて、興味を失った。
 
 イタリア自体にではない。チェーザレ=ボルジアへの愛を忘れたわけではない。加えて、ラテン語に嫌気がさしたわけでもない。
 
 学問というものに、そもそも違和感を感じるのだ。
――――自分は学問には向いていない。どちらかと言うと芸術だ。
今、彼女の視線の先には、美しい少女たちが、アポロンのキラメキに遊んでいる。それは傾きかけた黄金の光だ。太陽は、ギリシア神話では、アポロンである。
いや、アポロン以上に輝いているかもしれない。
――――誘拐されないようにネ、美しい少女たち。
ダフネーとアポロンの神話を思い出しながら、この将来の作家は、微笑むのだった。

 一方、この小学校の桜と梅は、大人たちの足下を駈けていた。彼等の迷惑も、考えずに、である。
  黄色い、まだ、湿った吐息にくるまった声が、飛び交う。
 「ちょっと、今日は京王線じゃないでしょう?!」
「あそうだ」
「あそうだじゃないでしょう?お金の勘定は大丈夫でしゅうね」
 新宿駅で、啓子はやはり頭を掻いていた。
「こっち、はやくしないと」
「い、痛いよぉ」
 啓子は、あおいの手首を掴むと、キップ販売機まで連れて行く。しかる後に、改札まで急ぐ。
「ちょっと!急がなくても!啓子ちゃん、もう、啓子姉!・・・あ」
あおいは、思わず声を詰まらせたが、もう遅かった。
「!!」

  啓子は、ぶんとあおいの手を投げると、言った。
「もう、いいよ、来たくないなら、帰りな」
「あー、ごめんね、啓子ちゃん、ごめんねー!!」
言ってはならないことを言ってしまった。あおいの頭の中で、そのことが反芻される。
 「オネガイだから!」
 あおいは、ホームに到着したところで、啓子のランドセルに抱きついて泣いた。まるで、黒曜石のように、自分の顔が映るランドセル。それは啓子を象徴しているようだった。
――――嫌われたくない、啓子に嫌われたら生きていけない!
あおいは、わんわんと泣く。

 「いいよ、もう―――――」
啓子は、あおいの頭を抱きながら言った。勢いで、黄色い帽子が、脱げてしまった。私立の学校らしく、6年生でもそのようなものを被っているのだ。ふつうは恥ずかしく思うが、幼稚舎から、純粋培養された少女たちは、それを誇りにすら感じていた。特権階級に産まれたことを優位に感じる気持だ。啓子などは、それに反感を感じていた。

 「いいって、泣かないで―――」
「ウウ・・・ウウウ・・」
思わず、慰める啓子が涙ぐんでしまった。
―――――この子相手じゃなかったら、こんな気持にならないのに、どうして?
啓子は不思議でたまらなかった。
その時、まるで空気をくの字に曲げたような音が聞こえる。電車がホームに滑り込んだのだ。

テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
トラックバック