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『マザーエルザの物語・終章 24』
 絵画と人間のやりとりとは真剣な行為である。両者の間に火花が散る。すこしでも気を抜けばとたんに心を奪われてしまう。
 それは、単なる絵の具の塊などではない。もしも真性の絵画ならば心を持っている。それゆえに、人間との関わり合いには自然と心のふれあいをもたらす。それは肉体を持つ人間との、いや、それ以上に真剣な心の鞘当てを必要とされる。
 だから、単に絵画が目の前にあるだけでは体面を意味しない。

 あおいと啓子が、再び井上順の絵画と本質的ないみにおいて体面するのは、かなり先のことである。
 仄かに蘇った記憶も単なる気のせいとして処理された。まだデジャブーという言葉すら知らなかった
ために、記憶にラベルが貼られることすらなかった。未処理というマークを付けられて段ボールの箱に混紡されて、記憶の奥底に放り込まれてしまった。
 やがて、冬休みが終わって三学期が始まると、日常の出来事に悩殺されてさらなる忘却の彼方へと押しやられてしまった。
 啓子の場合はともかく、謂われのない虐待を受けているあおいなぞは、何時か見た名前も知らぬ画家のことを憶えている余裕はなかった。

 しかし、啓子は、いつしか絵画への興味を憶えていた。その画家のことはタンスの上にでも押しやっていたのであるが、教科書の端に落書きをするていどのことははじめていた。いままで完全に美術に興味を持たなかった彼女のことだから、それは革命的な変化であった。
 しかしながら、その変化は美術以外の授業においては歓迎されなかった。
 だから、机上にて、弧を描いてダンスを踊る鉛筆の軌道。
 それが教師から認められないのは当然のことである。

―――――残念ながら、その女教師はそうとうにめざとい視力を持っていたのでした。
 教師は、啓子の机を見とおしながら思った。自分の行為を客観視したのである。一般に言って、作家と言われる人種から趣味で小説を書く人間まで、それは、幅広く見受けれることである。
 阿刀久美子は、聖ヘレナ学院5年B組の担任である。
 久美子は上品な容貌を意地悪そうに歪めて、笑った。とある理由があって、美貌を隠している。何ていうことはない。女性ならば化粧の技術しだいで、そのようなことは、造作もないのだ。
 しかし、子供たちは大人の予想を超えてめざといものである。ちょっとした瞬間の気のゆるみから、見せた横顔の美しさと陽光のフォーメーション。
 それは、100メートル先に飛ぶ蚊を矢で射るような確率で子供たちの目の前に現出した。それは、黄金食の絵画だった。
 
 久美子がそれを見つけたのは、教室の背後から教卓に向かって歩いているときだった。そのとき、算数の小テストの最中だった。久美子は、ある児童の席に視線を走らせた。その子は、テストはすでに終わってしまったらしく。手持ち無沙汰な様子で鼻歌を歌うマネをしていた。
 しかし、それもすぐに飽きたのか、鉛筆に弧を描かせていた。
興味深げに久美子が観察を継続していると、やがて、ある人物のポートレイトができあがっていくのがわかった。

 啓子はテストの隅に絵を描いていたのである。

 久美子は、ある瞬間を捕らえて、少女の肩にエナメルの爪を食い込ませた。もちろん、白いブラウスにかすかな食い込みを造るだけだったが、彼女にとってみれば肩ごと筋肉を食い破られるくらいの衝撃を受けたのかもしれない。
「赤木さん、何を書いているの? おもしろい解答ね」
 もしも、久美子以外の人物がその台詞を吐いたならば、単なる嫌みにしか聞こえないだろう。ただし、彼女が言ったならば凛とした核をその言葉に感じさせるのである。
「・・・・・・・・・・・・・?」
 しかし、この時はそのような色は完全にこの少女から褪せてしまっていた。ただ、驚愕と言いようのない不安だけが彼女を覆っている。
「残念だけど、どちらが解答なのかわからないわよ、だから0点ね、画家さん」
「ぁ」
 少女と好対照の態度が醸し出す空気は、冷静そのものだった。この劇場の客たちは、自分たちが完遂すべきテストのことなど忘れ去ってしまって、一種の寸劇に見入っている。
 
 巻き貝をモティーフにした内装は、一見して、修道院の峻厳さを思い起こさせる。それが私立だとはいえ、とても小学校の一教室とはいえない雰囲気を醸し出している。そんな大道具たちは、ふたりの寸劇にある色合いを提供していた。
「ぁ、じゃないわよ、どちらが解答なの? 0点になりたくなかったら、解答じゃないほうを消して起きなさいね」
「はい・・・・・」
 微かに漂う香水の匂い。少女の知識ではその種類を類推するのでさえ困難だった。
 啓子が、次ぎに見えたのは久美子の後ろ姿だった。少女が自分を見失っている間に、教師の眼中から消え失せていたのである。少なくとも、少女はそう受け取っていた。
 しかし、久美子の脳裏には少女が描いた絵が刻み込まれていた。その絵が少女たちのよく描くアニメ絵でないことは、印象に残った原因のひとつかもしれない。美術は素人の久美子の目からみても、技術的には物足りないものがあったが、たしかに人の顔を人の顔として受け止めていた。

 その絵には、そういう姿勢がよく見て取れた。

―――あの絵は、榊さんじゃなったわよね?!
 たしかに第一印象はあおいそのものだった。しかし、よく見ていると全く違うことがわかった。天に向かって尖った鼻、鋭い目つきはあきらかにどちらとも、あおいのそれではない。だが、久美子に錯覚させる何かをその絵は持っていたのである。
 しかし、そんな素振りも見せずに、ただ一介の教師としてここにいる。それを自分に厳守させることにした。無意識が自分に何をさせようとしているのか、ただ、それを楽しもうとしているだけだ。ちょうどテレビや映画のドラマを楽しむように。
 どのような配慮によって、啓子が存在し、あおいが存在し、そして自分がこの場に立っているのか。それはこの段階の彼女にとって永遠の謎だった。いや、謎ですらなかった。そもそも問題提起すら為されていないのである。
 今はただそれらのことを受け流すことしかできない。

 一方、あおいは、どのようにこの教室に根を生やし芽吹いていたのだろう。
 少女は未だかってない気分を味わっていた。手がすらすらと動くのである。鉛筆が正しい答えを紙の上に記していく。こんなことはあまりなかった。学業などは啓子に頼り切っていたので、ほとんど準備をせずに試験に向かうことしきりだったからだ。しかしながら、今回は違う。
 我ながら不思議だった。これまでの100分の1も自由時間を与えられていないのに、なぜか、あおいの心は学業に向かっていたのだ。そして、元々頭が悪いわけではないぶん、スムーズにその能力が開花しはじめたというわけだ。しかし、そのからくりを当時の少女が知悉していたわけではない。
 ただ、目の前ですらすら動く筆記用具に、驚きを隠せないだけだ。

―――今までとちがう。
 自動的に動く鉛筆を眺めながら、あおいは思った。この教室で無邪気に翼をはためかせていた自分は何処に行ってしまったのだろう。
 いや、翼のありかに気づいたときは、すでに鳥は翼を失っている。当時、少女は自分が翼を持っているなどとは露ほどにも思わなかった。みんなが持たぬ黄金の翼を煌めかせているなどとは、考えもしなかった。しかし、それを失ってみてはじめて、自分が大変に貴重なものを備えていたことを知ったのだ。
 もう飛べない。そう思っただけで不安になる。自分がこのクラスにいるべきではないと思える。まるではじめてこのクラスに入ったかのようだ。寄る辺がいっさいないとはこれほどまでに不安なものか。
 いや、ちがう。ひとりだけあおいが寄る辺だと認識できる人間がいた。

 赤木啓子。

 たしかに、かつてのように無邪気に頼り切れるわけではないが、彼女とは深い絆で結ばれていることがわかる。直截的にその事実を認識できる。しかし、なんだろう、この罪悪感は。
 それまであおいは罪の意識について考えたことはなかった。ただ、親や教師という彼女を圧倒し支配する存在に保護される代償として、彼らの言いつけを護る。もしも、それを破ったときに感じる。それが子供にとっての罪悪感の源である。彼女から積極的にそれを求めることはなかったのである。大人は常に少女の法律の裏付けだった。
 しかし、いま、積極的にそれを感じるのだ。それも啓子に対してだけ。自分がどれほど悪いことを彼女にしたのだろう。
 少女は、大腿をよじった。その制服のよじれは下半身から上半身へとすなおに伝わる。ちなみにこの学校の制服は上から下まで統一されたブレザーである。初等部おいては、デザイン的に早すぎるという意見もあるが伝統の一言で一刀両断されてしまう。まさに伝家の宝刀だ。

 視線は啓子に向かっていた。彼女はいつものようにテストを早めに切り上げてしまったらしく、絵を描いていた。それはあおいの席からも見て取れた。新学期を迎えて、席順が変わったものの、ふたりの間には見えない引力のようなものが働いているのか、そう離れ離れになることはなかった。
啓子などは、冗談めかして言ったものである。
「まさに腐れ縁だね ――――」
 その言葉遣いは、小学5年生にしては大人じみていたので、あおいの耳にはストレートに浸みてこなかった。しかし、啓子の口調や表情から、それが良い意味ではないことぐらいはわかったので、複雑そうな顔をして親友を睨んだのである。

 啓子は、久美子に叱られてケシゴムに手を伸ばしたところだった。あおいが注視していると自ら描いた絵を消そうとしていた。その顔からはいかにも憮然とした表情が見て取れる。
 その時、ケシゴムが転がった。
啓子とあおいの視線がぶつかり合った。前者はばつが悪そうに、そして、後者は驚いて解答用紙を床に落としてしまった。
 突然、辺りが暗くなった。急に夜が来たのかと思った。
 よく見てみると目の前に黒い人々の行列が出来ている。逆光かと思ったがそうではない。夜と昼が逆転したかと思ったがそうではない。頭の上には凶暴な太陽が吠えている。
――――私、こんなところに来ちゃった・・・・・本当によかったのかしら?
 思考が自由にならない。あたかも頭の中にテープがあって、自動再生をしているかのように、考えが流れてくる。
―――――啓子?
 脳裏に映ったのは確かに彼女だった。しかし、口が開かれて発せられた声は、野太い大人の男性のそれだった。
 彼?は激しく罵っていたがあおいはそれを聞き取ることはできなかった。

 少女を現実に戻したのは懐かしい声だった。
「何をしているのかしら? 榊さん?」
―――テストは済んだのかしら? 相当に良い成績を期待していいんでしょうね?
 言葉にならなかった部分は、久美子なりの配慮である。常ならぬ少女の態度が彼女にそうさせたのかもしれない。教室の空気が確かに感染していた。

――私、どうしたのかしら?
 ものすごく短い時間の間に、自分が10年も年をとったような気がした。大人になったような気がした。身体も心も強くたくましくなったような気がしたのである。しかし、久美子の声がした瞬間に10歳の少女に戻ってしまった。
 久美子に促されて、啓子は何事か話していたが、それは確かに少女の声だった。たしかにその年齢に比較すれば大人びた声であったが、いつもの彼女のそれだったことは疑いようもない。



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『マザーエルザの物語・終章 23』
 赤木祥子は長いすに座っていた。展覧物はあらかた回ったので、一休みしようと思ったのだ。すぐにでも帰ろうとも思ったが、思いの外、あおいが夢中になっているので、少しばかり待っていようと思ったのである。
 もっとも、啓子のほうはかなり迷惑そうだったが、それは意識からあえて除外することにした。

  当然のように煙草は吸えないので、たいへん、手持ち無沙汰だった。それに口が淋しい。レストランでも車の中でも、子供たちがいたので、ニコチンを摂取するわけにはいかなかった。その代わりと言ってなんだが2500円もする画集を開いている。
 そこには、啓子が今の今まで座っていたが、あおいにせかされて、あたかも獄舎に連行される囚人のように展示のある方向へと歩いていった。

――――そんなに不快なのかしら? この絵が?
 生まれて始めて自費で買った画集をパラパラやりながら、祥子は思った。彼女の祖父は相当な絵好きであり、彼の家に行くと画集や展覧会のパンフレットが所せましと部屋を占領していたものだ。

――――おじいちゃんの所にこの画家のってあったけ。
 幾ら自分の記憶を辿っても井上順の画業と挨拶をすることはできなかった。彼の絵は見れば見るほどに独特なことがわかる。たった一人の女性というモティーフだけで、独自の世界を建築できたとすれば、かなり希有な画家ということになるだろう。これは、画集の編集者の言であるが、素人にすぎない祥子にすればその成否を云々することはできない。ただ、絵と見つめあうことだけしかできないのである。

「さて、そろそろ帰るか」
 祥子は、ふたりの子供を回収するために絵の方向へと歩み寄った。
 はたして、ふたりはある絵の前に立ち止まっていた。
 それは、例の女性が民族衣装に身を包んでいる姿を描いた絵だった。説明書きには、結婚式の衣装とあったが、何故か、祥子は視なくてもわかっていた。それは一種の既視感にも似たような感覚だった。
 その衣装は、一般的に言う結婚式用のそれとは、完全に一線を画しているにもかかわらず、祥子は視た瞬間に、すべてを悟っていた。
 凛として前を見据えた蒼い瞳は、確として少女の性格を暗示している。そして透けるような白い肌は、清らかな彼女の属性を語っていよう。整った鼻梁はいささか天を向けて尖っている。それは王侯貴族のように誇り高いこと高らかに宣言しているのだろう。

 しかし、少女の煌びやかさに比して、衣装の色調の暗さはどうだろう。黒を基調とした衣装はたしかに貴族の誇りを感じさせるが、どう見ても葬式用の衣装としか思えない。それがこの国の文化というヤツだろうか。所変われば文化も変わる。
 しかし、洋の東西を問わずに典礼用の衣装などというものは共通した性格を持つものだ。
結婚式は派手やかで、葬式はその逆。
 そのイメージに対して真っ正面から挑戦するような衣装がそこにあった。美しい真珠のような少女を包んでいた。
 啓子とあおいは恋人のように手を繋ぎ合って、その少女に魅入っている。まるで時間の神さまから忘れ去られてしまったかのように、ふたりはたじろぎもせずに絵を見つめている。しかし、ふたりの視線は微妙に違うように見受けられる。しかし、具体的なことは何も分からなかった。

「早く、帰ろうか。夕飯の用意もしないといけないし ――――」
 その言葉は意外と、現実回帰のために役に立った。
 祥子の言葉はしたたかに影響を与えていた。ふたりは、将来の空腹に思いを馳せていたのである。
 今まで夢を見ていたかのように、起こったことを押し入れの奥に片づけていた。
 さきほどまで見せていた表情は、いったい何処にいってしまったのだろう。あの時、たしかにふたりの顔が違って見えた。
 年齢を超越したようなその顔は、あきらかに日本人が見せる表情ではなかった。とても乾いた大気。それは祥子が生まれ育った環境とはあきらかに違う、完全に異界だった。地平線が見える。視力が蘇ったのかはるか遠くの樹木がはっきりとみえる。葉脈のひとつひとつから、それにまとわりつくトンボの触角までが手に取るようにわかるようだ。

「ねえ、ママどうしたの? 早く帰ろうよ」
「ァ?うん」
 娘に肘を引っ張られて、祥子は、現実に回帰した。
 啓子とあおいが不思議そうな顔で自分を見つめている。ここは何ていう星なのだろう。意味不明なことが意識に昇る。
 ちょっとした酩酊状態に陥っていたようだ。まったく恥ずかしい限りである。何とかしないと。また啓子に何を言われるのかわからない。かつての久子にされた時のように、この娘にいいように言われるのだ。自分がずぼらなことは棚の上に押し込んでおいて、文句を言い続ける。

「そうだね、絵はどうだった?」
 すっかり普段のふたりにもどっている。祥子は、安心して語りかけた。

「少し、疲れたかな」
「でも、おもしろい絵だったね」

 当たり障りのない返事をするふたり。しかしながら、次ぎの啓子の言葉は祥子の中の何かを動かす力を持っていた。
「ねえ、ママ、私、絵を描こうかな?」
 あれほど絵に悪印象を抱いていた啓子が、態度を豹変させていた。再び、大人びた色が少女の凛とした顔に芽吹いていた。
 不思議な感覚が祥子の胸に浮かんできた。子供が大人になる瞬間というのはこういうものだろうか。
 昨日、子供にすぎなかった子供が、次の朝には急に大人びている。親は、そういうとき、心強さとともにそこはかとない淋しさを感じるという。今、まさに祥子はそれを感じているのだろうか。
 語るべき言葉を祥子は持たなかった。しかし、友人とじゃれ合う啓子を見ていると何故か安心できた。
 傾き欠けた太陽が何事か語りかけてきている。オレンジ色に伸びた陽光に、祥子は返すべき言葉も見いだせない。SFアニメの中に登場するスペースコロニーのような美術館を見上げる。

「どうしたの? はやくしようよ、お腹空いたよ」
「そうだね、お腹すいたね」
 欠食児童たちを率いる鬱陶しさを煙に巻きながら、祥子は、改めて美術館を見直してみた。
 確かにコロニーは回転を開始していた。確かにあの場所は特殊な重力場を構成していたのだ。相対性理論によれば重力は時間と空間を支配するらしい。あの空間はたしかにかぎりない懐かしさと哀しみを祥子にもたらしてくれた。

「わかったわよ、はやくスーパーに行こうよ」
「え? デパートがいいな」
 娘の小ずるい注文に財布を振ってみる祥子だった。


 その夜、あくどい方法で祥子に高級食材を買わせた少女たちは、たらふくごちそうを平らげた上に、赤木家の子女たちの感謝までもらったのである。
 もっとも、それはあおいに集中したわけである。赤木家の末っ子である啓子には、十字勲章モノの武勲を立てたにもかかわらず、一片の祝福も与えられなかった。
 しかし、内心姉たちは、妹の変心ぶりが嬉しかった。ただし、ここまでうち解けてくれたのは、あおいのおかげだと、結果的にこの少女に感謝が与えられたわけではあるが。
 あおいと親密になるたびに変わっていく啓子に成長を、姉たちは見ていた。あまり外部の人間と人間関係を造ろうとしない妹に、姉たちは気を揉んでいたのである。それがここにきて、もうほとんど普通の娘と変わらない。そこいらではしゃぎ回っているランドセルたちとそう変わりはない。
ただし、あおい以外が対象のばあい、はたして同じように係わっているのかという命題に関しては、あまり深入りしないことにしていた。

「あの子、変わったわよね」
「そう ――――?」
 長女の物言いに、祥子は気のない返事を返した。彼女は、特に気にしていなかったのである。

 
 そのころ、ふたりは啓子の部屋にいた。
 あおいが、あれほど固執していた井上順という画家。もはや、彼に対する興味は急速に失せてしまったようだ。その証拠に、せっかく買ってもらった画集はあさっての方向をむいて頓挫ましましている。 
 部屋の隅で悲しく蜷局を巻いている。

 画家は、おのれの魂を絵の具によってキャンバスに埋め込むという。それならば、複製にすぎない画集の絵にも万分の一くらいは残存しているのだろうか。その思惟の片鱗くらいは見いだすことができるだろうか。
 もしも、そうだとするならば、どういう気持でここにいるのだろう?娘たちにうち捨てられた今となっては、完全に聖なる力を失い、虚空に思いを馳せるだけだ。
「ねえ、啓子」
「何よ」
 啓子は、組み立てテーブルを机の下から取り出すところだった。
「そんなもの何するの?」
「あんた、本当にわからないの?」
 おもむろに燃え上がってきた怒りを辛うじて、啓子は口を動かす。少しでも気を緩めたら口から火を噴いてしまいそうだ。
「オセロでもするの?」
「ほら、手伝いなさいよ! あんたのためにやってるんでしょう!? 宿題よ! しゅくだい!!」

 ついに啓子は火炎を吹いてしまった。その先にあおいはいなかったが、背後にあるベッドに座ってマンガでも読んでいるだろうと思われる ―――その友人に本の一冊でもぶつけてやろうと摑みとった。
 その本の表紙を認めると、啓子は時間を止めた。

『井上順 画集』

 素っ気ない表題。挿絵などいっさい挿入されていない。ただでかでかと銀色の文字が、黒字に書かれているだけだ。見方によっては、なんと豪家な装填なのだろう ――――ということになるだろう。
黒い色は硬いイメージを見る人に与える。
 それに啓子は何か心を打たれたような気がした。何かを語りかけているように思えたのだ。しばらくその文字を見つめていたが、やがて意を決したように舌を動かしはじめた。
「はやくしよう、もうこんな時間だよ」
「うん ―――」
 何故か、素直に啓子の言うことを聞くあおい。あたかも、それが当たり前のように、啓子は用意をするために背中を向けた ――――その時である。
 啓子にとってみれば、不意の出来事が起こった。
「・・・・・・・・!」
 聞いたこともない言葉が、あおいの口から漏れたかと思うと、背中と肩に熱と重量を感じた。
「あ、あおい!?」
 親友の手が身体に絡みついてくる。その手はあまりにか細く冷たかった。まるで何キロも冬山を歩き続けてきたかのように、凍えていたのである。
 いっしゅんだけ、ひるんだ啓子だったが、やがて、それが当たり前のように右手を使うと、あおいの 頭を抱いた。手を通して伝わってくる髪の脂はつげの櫛の櫛を美しくするように、ふんわりとした温かみと輝きを与えてくれた。

―――手が温かい。
 啓子はなおも強く握った
 抱き合うふたり。それは、お互いの鼓動を通して、言葉に因らないコミュニケーションを行っているように思えた。
 ふたりは時間と空間をはるかに超えた逢瀬を行っていた。
 
 しかし、それを楽しむ知識をまったく持ち合わせず、ただ、胎内から産まれた衝動に駆られているだけだった。
 まだそれを理解するほどには、ふたりの身体は小さく、精神はひ弱だったのである。だから、理性はまったく機能せず、感情においても原始的なレベルに留まっていた。
 それは新しく生まれ落ちた赤ん坊が、無意識のうちに母親を求めて泣くのに似ているだろう。赤ん坊の目はまだ未発達なので、母親の顔を正しく認識できない。しかし、それでもなお母親を認識している。

 かつて母親と出会ったことがあるからだ。

 衝動は限りなくそれに酷似していた。
 啓子とあおいは、ただ、わけのわからない衝動に駆られて、過去の命令に従い続けていた。

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『マザーエルザの物語・終章 21』
 あおいの脊椎に電撃のような衝撃が走る。
「あおいちゃん! あおいちゃん! 大丈夫なの? 具合悪いの!?」
 なおもエキセントリックな声がトイレ中に響き渡る。床に散りばめられたタイルというタイルに反響して音の芸術を作り出した。
 しかし、それはあおいにとって鑑賞すべき対象ではない。いや、現在少女の内面を形作っている感情が、それを許さないのだ。
 
 全身を凍りつかせるような羞恥心。

 それが今のあおいを支配している感情だ。目の前に存在する現実にどうやって対処していいのかわからずに戦慄している。
「だ、大丈夫だよ・・・・・・け、啓子ちゃん・・・・」
 あおいは、指を性器の中に食い込ませたままやっと人語を発することができた。
「あおいちゃん_?」
「う?!」
 啓子に神経をとられるあまり指を局所に深く食い込ませてしまった。得体の知れない軟体動物の臓物を摑みとってしまった。
 しかも、いやらしい粘液が糸を引く内臓の間を泳ぎ回る。その度に、少女の未成熟な官能は、乱雑に刺激されて、経験したことのない感覚に身を躍らせる。
 しかし、大人の女性のように何処かいちばん感じるのを熟知しているわけではない。
 めちゃくちゃに動かした指がたまたま触れる。その部分によって、官能を感じ取る度合いがちがう。 いわゆる、試行錯誤の段階なのである。幼児が手足を動かして触れながら世界の基礎を知るように、発達心理学が言う、初段階を踏んでいるわけである。
 
 啓子が聞いたくぐもった声。
 
 それはいわば宇宙語だった。このとき、自分が大人の入り口に立っていることに気づくことがなかった。
 ただ、あおいの具合にたいする懸念だけが少女の初々しい脳を支配していた。その年令にしては大人びた性格を有しているとはいえ、しょせんは小学生の女の子にすぎなかった。

「しまった ―――」
 あおいは冷たいドアに頬を押しつけて、火照りを取り除くことにした。
「あおいちゃん!」
「ちょっと、待ってよ!」
 思わず大声を出すあおい。その態度が常ならぬ様子であることは声の様子から明かだった。しかし、壁の向こうに起こっていることを露知らない啓子は、あおいのことを察しようにも察しえなかった。
 自分の親友が隠れて自慰に耽っているなどと、啓子は、想像もできなかったのである。ついでに触れておくと、この時、すでに啓子は自慰という言葉を知っており、自覚してそれを行っていた。自分よりもはるかに幼いと踏んでいるあおいがそれを知っているはずがない、少なくとも、啓子の主観から説明すれば――――の話しだが。
「あおいちゃん、もしかして、アレなの?」
「アレって?」
 あおいはうそぶくことなく返した。本当にわからなかったのである、啓子が仄めかしたことが。言うまでもないことだが、啓子は生理のことを言っているのである。
 もちろん、年頃から羞恥心のあまり言葉を濁したのだ。しかし、もとよりあおいは生理を迎えておらず、その言葉の意味することもわからなかった。
「何よ!?それ?」
 不機嫌そうな声が響いてきた。まるで地獄の底から這い上がってくるように思えた。あまりにガラガラ声だったために、親友のそれだとは思えなかった。
 あるいは時間の彼方から吹いてくる嵐のようにも思えた。それがあまりに距離が遠いために音はそれほど大きくないが、当地では大地が割れて何万人もの人がそこに落ち込んでいく。かつてそこに巨大な城がそびえていたとは信じられないほどに、昔の偉容は消え去ってしまった。
 城が、街そのものが灰燼に帰したのである。二人が共有する遠い異世界が、彼女らに何かを語りかけたのかもしれない。

「大丈夫、おばさん呼ぼうか?」
「ヤメテ! それだけは?!」
「あおいちゃん!?」
 親友の剣幕に、胃を抜かれたような気がした。今まで、自分は榊あおいについて何を知っていたというのだろう。今更ながらに猛省させられる思いだった。それとも何かあったのだろうか。そうでなくては説明がつかない。啓子は無理にでも個室に入り込もうとした。すなわち、あおいが入っている個室の隣に入り、便器を伝って侵入を試みたのである。
 少女は親友の予期せぬ行動に度肝を抜かれた。意表をつかれるとはまさにこのことである。
「ナ!? け、啓子ちゃん!?」
「あお、あおいちゃん・・・・・・?」
 啓子はすばやい身のこなしで颯爽と立ち落ちると、親友を見下ろした。何だか意地悪な気持が胃の中にあふれてくる。それは食道を通って口腔にまで込み上げてくる。
「な、何よ! け、啓子ちゃん・・・・・う?!」
 あおいは蛇に睨まれたカエルのように身をよじった。しかし、狭い個室の中。逃げられる場所はない。自分を顧みると、パンツの中に手を突っ込んで立ち尽くしている。あまりに無様な格好だ。

「あら、何をしていたの?」
 いままであおいに対して感じたことのない感情がふつふつとわき起こってくる。
 ――――これは憎しみ? でも、どうして?
 自分自身にたいしても説明できない感情。
 それは、居心地の悪い椅子に座らされているようなものである。啓子は非常に気持ちの悪い思いに身を悶えさせていた。

――――裏切られた。捨てられた!
「どうして、私が知らないことがあるのよ!?」
 それはどう考えても自己中心的な考えだった。そんなことがわからない啓子ではない。しかし、理性でわかっていても感情が動いてくれない。まるで他人に強制されたように、預かり知らぬ思惟が産まれてくる。

――――お前は裏切って、去っていった。それなら。
「もう知らない!」
「ぁ、啓子ちゃん!? 待って!!」
 あおいは自分に尻を向けて去っていこうとする親友を魚の目で見た。そして、近づいていった。
「じゃあ、何をしていたのか話して! パンツに手を突っ込んで何をやっていたの?」
 右回れ右の要領でふり返った啓子は、あおいが思いも及ばないことを突きつけた。
「・・・・・・・ウウウ」
「どうしたの? 答えられないなら行くわよ。それに私を裏切るなら家に来なくてもいいわよ」
「ウウ・ウ・ウ・・ウ・ウ!?」
 あおいは声を上げて泣き始めた。頬を伝っていく涙は、無言の抗議が含まれていた。そのことに少女じしん、はたして気づいていたのか疑問である。
 しかし、幼い少女の洞察力では真実を摑むのは難しい。少女は立ち往生して事態を見つめることしかできなかった。
 事実、答えようがなかったのも事実である。今、自分が行っていたことの意味も名称も知らないのである。

「わ、わからない・・・ただ?!」
「ただ?」
 啓子は畳み掛ける。詰問の度合いを緩めようとしない。
「さ、さわると変な感じがするの・・・・ウウ・・ウ・ウ」
 言い終わるなり幼児のように泣きじゃくりはじめるあおい。啓子はかぶりを振ると個室の扉を開けた。
「その話しは家でしょう」
「け、啓子ちゃん ――――私」
 啓子は表情を和らげると、まるで恋人にそうするように口吻をあおいの耳に近づけた。そして、しかる後に、こう言ったのである。
「そんなこと、私だってやってるんだよ」
 甘い吐息とともに、何か不思議な感覚が自分の胎内に、産まれるのを感じた。それは既視感の一種だったかもしれない。
 しかしながら、それは懐かしいという一言で表現出来ない何かにまぶされていた。今、目の前にそれが存在し抱きしめることができるように思えたからだ。今、側にいる啓子は、啓子でない何者かのような気がする。しかし、両者は他人ではない・・・・・・・・・。

「何しているのよ、ママたち待ってるわよ」
「うう、うん ――――」
 急いで両手を洗うと啓子を追った。
 
 席に戻ると、そこは相変わらずレストランだった。給仕は客に畏まった表情で注文に対応しているし、趣味の悪いごちゃ混ぜ趣味といえば、相変わらずルイ14世とビアズレイがチークダンスを踊っていた。
 それぞれの娘のことなど露知らぬと言った顔で、久子と祥子は、話し込んでいる。
「あら、ごちそうを待たして何をしていたの?」
 久子はさらりと言ってのけたのである。あたかも今まで起きたことがあおいの妄想にすぎないかのように・・・・・。
 あおいは真っ青になっていた。彼女よりも後に来たのに料理を完全に平らげていることにも、気づかなかったくらいだ。
「あおい、ママはこれで帰ることにするわ、赤木さん、娘をよろしくお願いします」
「ええ」
 祥子はガラリと変わった久子の態度に、すぐには対応できなかった。そして、耳を傾けようとしたとき、既に彼女はいなくなっていた。
 
 遠くで車のエンジンが発動する音。
 
 そして、凍りついた娘だけが残された。

「どうしたの具合がわるいの? あおいちゃん?」
 祥子はごく個性のない呼びかけしかできなかった。
「あ、雨が降ってきたんだね ―――――」
 あおいを呼び覚ましたのは人間の声でなくて、自然の配剤だった。
「みぞれかもね ――――」
 啓子は返した。
 子供たちの夢見がちな態度にあきれたのか、とにかくこの場を離れるように、祥子は切り出した。
「そうだね、でもいいの? あおいちゃん、まだ半分も残ってるじゃない」
「ううん、いい」
 あおいは、現実に戻された不快感を噛みしめながら言った。
「そうだ、あおいちゃん、絵は好きだったよね」
 祥子のとつぜんの申し出に、あおいは戸惑いを隠さない。しかし、しばらくするとある画家の絵が好きなことを思いだした。

「そうだ、この前テレビでやっていた画家の絵が好きです。名前は憶えていないですけど」
「それってNHKでしょう?」
「井上順って言う画家なんだけど、外国人なのよ」
「ああ、そんなこと言ってましたっけ」
「ちょっと、待ってよ。どうして、井上順で外国人なのよ」
 啓子は、すぐに話しに入っていけない苛立ちをストレートに表した。
「本名は、たしかミアエル=ィンギ、ニフィルテラピアの人よ。たしか、自分の過去のことは完全に忘れたいって日本に来たはずよ。それで以下にも日本人っていう名前が欲しいって頼んだらしいわ」
「それがどうして井上順なの?」
「ミアエル=ィンギ? ミアエル?」
 祥子が啓子の質問に答える前に、あおいの動揺ははじまっていた。
 
 あおいにとってみれば聞き慣れない外国語。しかし、少女の何処かでその名前は甘美な思いとともに受け止められていた。それが二日酔いのように、蘇ってきたわけだ。胃から込み上げ来るものに、少女は吐き気を憶えた。
 テレビで視たときには、それほどに印象的でなかったのである。それが、今、少女の胸に響き、その体躯を叩き割ろうとしている。これはどうしたことだろう。
「行こうよ、行きましょうよ!」
「え!? う、うん」
 自分から提案しておきながら、面食らった色に顔を塗り直してしまった。
「啓子、いいでしょう?」
「うん・・・・・」
 何処か投げやりに答えた。実は、親友とは違う意味で、啓子も身の内の動揺を隠せずにいた。叩いてはならない扉を叩いてしまったかのように思われた。
 しかも、それをしたのは啓子自身ではないのである。入ってはいけない部屋に踏み入れてしまいそう。そこにはきっと等身大の鏡があるにちがいないのだ。根拠もないのに啓子はそう感じていた。しかし、明快な反対理由もないので、あえて反論できなかった。








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『マザーエルザの物語・終章 20』
「ほら、何をしているの? はやく食べなさいな」
 いち早く到着したハンバーグを目の前にして凝固している娘に、久子は言った。『召し上がれ』ではなく『食べなさい』と言われたことが、余計に涙を誘う。ぷるぷると震えながら涙を拭くあおいを、まるで猫が瀕死の獲物を弄ぶように、取り扱う。

「ほら、醒めちゃうでしょう?」

 久子の優しさはいわばテレビCMの中の母親のそれだ。素人女優の底の浅い演技のように、見え透いている。
 しかし・・・・。
 かえって娘役の少女の方が天才子役ともてはやされるだけ、上手に見えるし、真にも迫ってくる。
 ここで、救いようがないのは久子がすべてを理解した上で芝居をやっているということだ。見え透いた芝居であることは了承しながら、あえてあおいを傷付けるために猿芝居の猿であることを楽しんでいるのだ。なんとも悪魔的なはなしではある。

「ウウ・・・ウ・ウウ」
 食べ慣れたはずのハンバーグを口に運びながら、あおいは呻いた。そのおいしさはあまりにも非現実的だった。口の中でジュワと広がる肉汁の味の深さ。この店特有のタレの濃厚さは1000年経っても朽ちない縄文杉のようだ。
「フフ、にんげん、芝居も必要よ ―――」
「・・・・・・・・・・?!」
 母親の口から飛び出した言葉は、あおいにとってはさらに残酷だった。少女のまろやかな身体に痣が走るのが見える。そのあまりの衝撃のために血管は震え、少女は、その絹のよな身体に、ところどころ鳥肌が立たせている。それでもナイフとフォークを落とさないのは、少女の卑しさのためだと、久子は思った。
「本当に卑しいのね、ここまで言われて食べていられるなんて ―――」
 その声は微風そのものだったが、少女の外耳を突き破り鼓膜を破損させるほどの衝撃を秘めていた。
―――ヒドイ!
 しかし、少女はその言葉を音声化することはできなかった。
 今の今までとうてい言葉にできないようなひどい扱いを受けていたのである。それは一般的に言って、虐待という以外に表現しうる言葉がなかった。
 それはぐっちゃぐっちゃに濡れた粘土に足を突っ込んだようなものである。いったん、入ってしまえば抜けだそうとしても、そうすればそうするほどに抜けられなくなる。水分を相当量吸った靴のせいで、足は重くなり、少女は前につんのめりそうになる。それは少女の筋肉と体力の限界まで負荷を、彼女に追わせる。疲労は意識の減退をもたらし、心まで濡れた泥のような状況に追いつめてしまう ―――。

 粘土のような泥に沈もうとしていた少女の心胆を寒からしめたのは、この状況を彩るには、あまりにも明るい声だった。
「よ、あおい、こんにちは、おばさん」
―――――エ!? 啓子ちゃん!?
 目の前に啓子と彼女の母親が立っている。
 想像もしない展開にどういう表情で答えていいのかわからずに、少女は顔を顰める。
「ちょっと、親友がせっかく来ているのに何よ、その顔は!?」
「ううっん」
 おべんとうつけて何処に行くの?という童謡があったが、それよろしくハンバーグを口の端に付着させながら、言葉を詰まらせる。
 レストラン等でよく見られることだが、親の躾の悪い子供が顔を汚して暴れまわっているのをよく見受ける。しかし、あおいは、そのような悪評から完全に自由である。一般的に騒いでいる子供たちよりも年嵩にもかかわらず、この少女は体躯の芯に凛としたものを確として持っている。
 だからこそ涙を流す姿は、見る人の同情を誘うのだが、何故か榊家の人たちにはそれが通じないらしい。

 あおいは急いで仮面を被らねばならなかった。それも親友の目の前で行わねばならないのである。細工は粒々、仕上げは上々といかなければ、簡単に見抜かれてしまう。
 この時、10歳の少女は、肉体的な苦痛をはるかに凌ぐ乾きを体験することになるのである。悲しみと恥辱を隠して、いつわりの笑顔色に顔を塗りたくることをこの時はじめて知ったのである。
 そして、もう一方の少女は見事な洞察力を持っていながら、それを隠すことを知ったのである。双方ともに、10歳という年令に似つかわしくない白粉を顔にまぶすことで、真意を隠すことを知ったのである。そのふかい意味まで知ることはなかったが、女性にとって一番大切なものが女陰の奥に鎮座ましましているように、何かを隠すことで何かを得ることを憶えたのである。

 母親たちの表面的な挨拶はふたりにとってBGMていどの意味すらなかった。店内に流れているピアノ演奏のほうがよほど耳に入ってくる。
 あおいは、すべてを打ち明けて親友の胸に飛び込んでいきたかった。そして、啓子はそれを受け止めてしまいたかった。親友の顔を自分の胸に埋めて溶かしてしまいたかった。血液と血液、そして骨と骨が互いに交流してひとつになる、それを夢見ていた。お互いの心がお互いの知らないところでひとつになったそのとき、祥子が口を開いた。久子と負けず劣らずの金満家の令夫人なのだが、第三者が受けるイメージはまったく違う。
 前者をあえて表現するならば、良家の世間知らずのお嬢さんということになろうか。現在においては、ほぼ絶滅してしまったと見ていい、いわゆる深窓の令嬢という画である。一方、後者においては、画題『金満家の令夫人』以外の表現はないといってよい。
 しかし、その言葉の持つ冷たいイメージとは裏腹に、隠れた優しさが砂漠の下に眠る泉水のようにあふれている。その事実を啓子は見抜いていた。

――――何かちがうな。どうしたんだろう。
 啓子は違和感を憶えていた。注文した料理にフォークとナイフを構えながら思った。それには根拠がある。あおいがトイレに行こうとしたときにこう言ったのである。
「はしたない子ね、マナー違反よ」
 よく切れるが小さなナイフのような苛烈さを隠して、そう言ったのである。祥子は軽く受け流したが啓子は座り心地の悪さを否定できなかった。記憶の中に棲んでいる彼女と何かが違うことを意識の何処かで読み取っていたのである。

 あおいは、堪えきれない吐き気に悶えながらトイレに足を踏み入れていた。
 高級ホテルのロビーを思わせるような風情。その一角だけを運んできたような豪華な設えは、入ったひとに場違いなとまどいを感じさせる。はたして、自分はトイレに来たのだろうかという疑問を抱くのだ。床には高級なタイルが敷き詰められ、窓枠にはステンドグラスが美女の微笑を浮かべている。足を一歩でも踏み入れたならば、タイルが電子ピアノの音を奏でる。ピンク色のタイルは、少女の顔が映るほどに磨き上げられている。まぶしいほどだ。
 足が滑らぬように、力を入れたのは杞憂だった。滑り止めの処理がしてあるのだ。それを知らぬあおいは両足に力を入れたが、滑りやすいナイロンのタイツを穿いているために、さすがに力を入れにくい。裁判所に引き出された冤罪の被疑者のように、まごつきながらも、個室へと急いだ。張りのある脹ら脛は、タイツのために強調されている。それは少女を性的に強調している。

「うう・・ウウ」
 止め留め無く流れる涙は何を意味するのか。葛藤に次ぐ葛藤に疲れ果てた少女は、自分の身の内に起こったことを洞察できなかった。それが身体保全の本能に基づいていることなど知るよしもない。たとえそのメカニズムを知っていたとしても、それぐらいならば、かえって『榊あおい』というシステムそのものが崩壊することを望んだことだろう。
 同じくらいの少年少女が年に何人かみずから死を選んでいる。その理由は千差万別だろうが、それが同級生によるいじめが原因ならば、あおいが抱えている問題と軌道を一にしていると言えるだろう。
 
 個室に入るなり施錠をすると、脊椎でドアを感じた。これで完全にこの世に存在するのは、榊あおいだけになった。
「ママ・・・・ぁ」
 あおいは最愛の人間を呼ぶと、くぐもった吐息を吐いた。両手が、指が、主人の制御を離れて自然に動く。ただ一点を求めて、自分の身体を這っていく。右肩上がりの成長の、それもたった一歩を踏み出しただけの少女の肌は、珠のようなみずみずしさに満ちている。その精神状態がいくら崩壊の一途を辿っていようとも、更年期のおばさんのように、それがストレートに精神に現れることはない。いま、それは完全にべつのほうほうを取って、初潮前の蕾になる以前の生物体に、出現する、いや、しようとしている。
「ぁぁ・・ウウ!」
 この時、少女は自分が何をやっているのか理解していない。無意識のレベルにおいて了解していることが、意識にはまだ昇っていない。あるいは、それを理性によって解釈する能力を持っていない、それが成熟していないのである。
 それにも係わらず、少女の手と指は完全に理解していた。何を?性を。性の目覚めを。官能の意味はおろか、その存在さえ知らないはずなのに、確実に摑みきっている。少女の手と指は、陰核をたしかに手にしていた。自分のカラダにあるはずなのに、まるで別の生き物の臓物を摑んでいるような気がする。

「ゥヒィ・・・・・ウウ」
 身体に起こっている反応があまりに衝撃的なために、自分のそれだとどうしても認められない。冷房が効いているはずなのに、夜の真珠のような汗がタイルに零れる。そのとたんに、レモンの響きが個室に共鳴しあった。それは涙だった。少女の悲しみは量を絶しているだめに涙腺だけでは、その量を制御できないのだ。
「るぅァァ!?」
 何と、少女の性器は潤んでいる。激しく指を動かすたびに、ぬちゃぬちゃと粘着質の音がする。100匹のナメクジでおむすびを握っている。その一匹、一匹はただ生きるのに夢中でぶるりぶるりと蠢く。
「ぅあぃ・・・」
 少女は自分の中に起こってしまった火を止めようとした。しかし、そうすればするほどにぬらぬらとした炎はその鎌首を擡げる。そして、少女に襲ってくる。みずみずしい少女の大腿は、あきらかに汗でない液体で濡れている。
 その行為は生活に疲れ、自分の精神を蝕む感情の対処を誤って、外に出してしまった青年の行為に似ている。
 昨今、流行している無差別大量殺人、通り魔などという事件はそれに似ている。ただ、自分の身体にそのエネルギーを逆流させるが、本来の流れに従うかの違いである。
 別に通り魔を肯定する気はないが、長い人間の歴史において起こった戦争の根底にあるのは理性ではない。表向きには国益だの正義のためだのキレイ事を述べているが、じっさいにはただ破壊の衝動の現れでしかない。すなわち、戦争がしたくてしたにすぎない。
 ただ、理性が制御を失っていなければ、戦争をする前に勝算があるのか無いのかという計算が予め効く。通り魔などというのは、そういう計算もなしに行ったドンキホーテ的行為である。すなわち、もっとも純粋なかたちの戦争なのである。
 ただ国家という名前を出すだけに無謀な行為が許されるのか。
 勝算がないのに、国民を巻き込んで行う戦争よりも罪深い行動はない。
それは、戦争だけに限らない。事故の正義だけ猪突させ、自分を愛する人間を不幸にする輩は枚挙を厭わない。
 第二次大戦を肯定しようとする人にはそう言う観点が完全に抜け落ちている。

 あおいはしかし、それを自分に対して逆流させた。もしかしたら、あまりに未成熟な理性は、そうすることでしか、自分の身の内で起こった火事を消火する方法を知らなかったのかもしれない。
あおいはただ指を動かし続ける。100匹のナメクジと化した性器を弄り続ける。
「はぁ・・・はぁ・・・ぁ」
 少女はかつて外に出してしまった攻撃のエネルギーを自分にむけてぶっ放していた。
 逃げようとするいきものを逃がすまいと指が動く。
 もはや指とナメクジの区別がつかなくなってきた。あふれてくる粘液のために、少女の指はぬちゃぬちゃになってしまっているからだ。
 しかし、それが少女に余計に官能を与える。ぬらぬらと燃え上がる炎の代わりに、超高速の電撃が身体を縦横無尽に走りまくる。もはや、少女は自分の身体が四散して宇宙の藻くずになると思った。しかし、その中途で防いだのは親友の声と足音だった。
「あおいちゃん、いるの!? あおいちゃん?」



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『マザーエルザの物語・終章 19』
 何処かの梢の上で泣いている雀。遠くの空に棚引いている雲。
 車窓から見える風景は変わらないのに、そして、車自身が立てる呼吸音も変わらないのに、少女を取り巻く境遇は180度変わってしまった。
 その証拠に彼女の特定席だった助手席ではなくて、バックに座っている。肩を怒らせてちょこんと座る姿は、何処かはかなげで所在なげに見える。

 ――――どうしてなの? ママ?どうしてそんな顔をするの?

 あおいは運転席に座る人物に問うてみたくなった。彼女は少女の遺伝上の母親である。さいきん、精神上のそれを降りると宣言した。その理由は彼女の妹、すなわち、あおいの伯母の突然の入院が原因らしいと姉の有希江が言っているが、定かなことはわからない。母親である久子は黙して語らないからだ。
 あおいは、元母親の顔を盗み見る。サングラスで顔を隠しているとはいえ、相変わらず美しい。金貨の輝きを黒い布では隠しきれないというのと似ている。少女の位置から見ると、サングラスの隙間から、美貌が垣間見えるのである。
「何見ているの? 盗み見なんて、本当にハシタナイ子ねえ」
「・・・・・・・」
 あおいは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
 低いうなりを上げるエンジン音は、少女の悲しみと涙を覆い隠してくれない。ごまかしてくれないのだ。少女は高級車に乗っていることを恨んだ。自分のそのような境遇にはじめて疑問を感じた。だから、小さな手で両耳を覆うことで、現実から逃亡しようとする。しかし、意地悪な久子はそれを許すほど寛大ではなかった。

「そんなにママの声が聞きたくないのね、やっぱりあなたは私の子じゃないのね?」
 これほどあおいを動揺させる言葉はないだろう。一体、何を考えているのだろうか。
 あおいは、小さな顔を上げると久子を覗き込んだ。今、たしかに彼女は言った、ママと。
 その残酷なまでに懐かしい響きに、あおいは頭を掃除機に吸い取れるような心持ちになった。
 あたかも飴のように頭を伸ばされて吸い込まれる。ふいに青以外の色彩が消える。視力も声も失い掛けたそのとき、あおいはやっと声を発した。

「ママ?」
 まるで100万人の群衆から母親を見つけた思いがした。
 かつて戦争体験のある有名人が語っていたことだが、彼は10年ぶりに父と出会ったらしい。戦後まもなくのこと、まさに大陸に残された人々が引き上げに躍起になっていたときの話だ。食糧を奪おうとある男を襲った瞬間、声をあげた、肉親を出会ったときに上げるアノ声だ。なんと父親だったのである。テレビでその話しを聞いたとき、あおいは「まさかそんなドラマみたいなことが ―――」と笑ったものである。
 しかし、自分がそのような境遇に陥ると ――――言わんや、二人は性別はおろか、ほんのお泊まり会を別にすれば、一日として夜を過ごす家を別にしたことがないのである。
 それなのに、一方的に肉親としての別れを宣言させた。何の断りもなしに、理由らしい理由も直接告げられずに、生別を突きつけられたのである。それも同居の上に ―――である。
 夫婦ならば同居離婚というのがあるが、この場合はどのように表現すればいいのだろう。とても、啓子に話すことなどできない。説明する言葉を発見できないのだ。

 ――――啓子ちゃん?

 困りに困ったときには、必ずと言っていいぐらいに彼女の顔が浮かぶ。しかし、次の瞬間には、説明できない感情が鎌首を擡げてくる。それはあおいを自在に操ろうとする。自分の記憶でもないものに言いようにされるとはそういうことだ。自分が犯してもいない罪に対して、罪の意識を感じるようなことである。それは、久子に対する感情にも似ているところがあった。

 罪悪感。

 それが少女を絡め、自在に操っていた。それに意思や感情があるならば、あおいはその奴隷に堕ちていたのである。
 本来、それは少女にとっていわれのない罪、いわば、冤罪のはずだった。
 しかし、何処かに説得力がある。
 あおいは、経験したことのない感情に溺れそうになった。次から次からと、大波が迫ってくる。水死しないように凌ぐだけで精一杯だったのである。今も巨大な波が迫ってくる。
「ママ?」
「・・・・・・」

 あおいは幼い顔を向けることでしか、自分の意思を表現できない。しかし、久子はイエスかノーかで答えさせることを望んでいた。
 あおいの幼気な表情からはそれを窺い知ることは不可能だった。だから語気を強めた。
「ママ?!」
「お、オクサマ・・・・・・」
 可哀想な少女はそう答えるしかない。
 それは言葉というよりは単なる記号にすぎなかった。オ、ク、サ、マ、という単なる音にすぎない。右脳を伴わない電算機の声は、せめてものあおいの抵抗だったかもしれない。
 しかし、それは意識して行われたわけではない。むしろ、飛んできたボールに対して手を出すといったごく本能的なあるいは反射的な行動に過ぎなかった。

「ふん、それでいいわ。だけど、今日は特別に許してあげるわ、言ってゴラン。前にみたいにね」
 なんと人を食った言い方だろう。心を弄ぶにもほどがある。そのようにあおいが意識の辺境で思ったことは事実だろう。しかし、ランドセルを背負った小学生に、意識してそれを求めるのは無理なはなしだった。
「ウウ・ウ・・ウ・ウ・・ママ?」
 あおいにとって、それがどれほど残酷なことか。
 久子は意識してそれを行ったのである。血のつながった相手にたいして、自らの腹を十月十日も貸した相手にたいして、唾を吐いてその顔を汚物を踏んだ足で踏みにじったこととほぼ同じだろう。
「ほら、泣かないの。あそこのレストランで昼食にしようか。あおいの好きなハンバーグ食べたいでしょう?!」
「ウウ・ウ・・ウ・・ウ・ウウ!?」
 久子はさらに鞭打つ。もはや立つことも叶わない駄馬に米俵を担げと命じているようなものである。
 あおいは、その小さなカラダで四方八方から迫ってくる鞭に対応している。
 その清らかな白い肌は若いだけに防御反応も強い。だから、オトナよりもはるかに発赤が強い。まるで若葉に傷を付けたときのように芳しい匂いが充満している。初々しい傷口は新鮮な若々しさに満ちていて、その香りは、さらに塩を塗りたくなる欲求を刺激する。

 奔流のように蘇ってくる過去の記憶との格闘で神経がどうかなってしまうかのように思えた。
「ほら、楽しいでしょう? だったら笑いなさい」
 残酷にもさらに言い放つ。
「ウウ・ウ・ウウウ」
「ほら、あおい!ウグ?!」
 急激に締まるシートベルト。それは飛び蛇のように唸りを上げながら、ボンデージスーツのように、少女の柔らかな身体に食い込んだ。
 そう、ブレーキを掛けたのだ。別に事故を起こしたわけではない。目的地に到着したからこそブレーキをかけただけだ。
 この体験は少女の近未来を暗示していた。しかし、この時の彼女にそれを知る余地はない。
 あおいは、苦痛に形の良い眉を歪めながらも大きな瞳に光を湛えた、

 『ステーキハウス、オデット姫』
 少女の視界に可愛らしい文字が飛び込んでくる。
―――ええ?また、あおいの好物?
―――この前も来たジャン! ママったら?!
 とたんに蘇ってきたのは、二人の姉の奇声だった。徳子はまだ中学生で、有希江も小学校高学年にすぎなかった。そんな昔の記憶がいまにも目の前に存在するように聞こえる。ふたりの声帯があたかも目の前に存在するようだ。
 そんな甘い記憶は今となっては、恐竜時代の伝説にすぎない。もはや家の中に自分を温かく迎えてくれる家族はひとりもいないのだ。
「早く降りなさいよ、ハンバーグは待ってくれないわよ!」
かつての久子のそれのように快活な声が、少女の耳に生えている産毛を直撃する。あおいは辛うじて泣くのを堪えた
――――こんなことではいけない。これから啓子ちゃんに出会うんだから! 
 少女は短すぎる足。車をバックにするには、あまりにも足りない足を地面に落としながら思った。
 煌びやかな店のネオンサインが目を打つ。
 いかに苦しくても笑顔を保つことにあおいは馴れなくてはいけなかった。けっして、啓子に影のありかを発見されるわけにはいかない。
 この考え方に根拠があるわけではない。ただ、親友に負担を掛けたくないと言ったあるいみ大人びた理由ではないし、もしくは、単純明快な思考でもない。
 少女の感情が許さなかったのは、もっと不可解な理由だった。まるで多量に水を浸みこませた体育用のマットのように、彼女自身の心は、反応らしい反応を返してくれなかった。
「いらっしゃいませ ―――ぁ 榊さんに、お嬢さん」
 機械仕掛けのフランス人形が人語で迎える。

 榊家の面々はこの高級な店にとって馴染みの客だった。ロココやらバロックやらアールデコやらが、縦横無尽に配された装飾は、見る人に不快な感覚しか与えない。もっとも、見る人にまともな審美能力があればのはなしである。
 パヴァリアの狂王、ルードヴィッヒ2世などが来客したならば感嘆の声を上げたかも知れない。店内に湛えられた湖を泳ぐ白鳥の模型のごときは、彼の幼い審美感を満足させたにちがいない。
 しかし、ここは彼の吐く息が汚したドイツでもなく19世紀でもない。
 すでに21世紀を20年ほども過ぎている。
 しかし、いま榊家で行われている家庭騒動の類は、けっして新しい話しではない。19世紀はおろか、古代ギリシアの悲劇などでも題材とされたモティーフである。
「さて、注文しましょうか。あおいはいつものでいいの?」
 席に案内されると、久子はいつものように応対しようとする。マニキュアの塗り方から
 ネックレスが胸骨に嵌る位置まで、かつての母親のそれとそっくりなのだ。いま、彼女が目の当たりにしているのは、あおいが大好きだった母親そのものだ。あきらかに高い知性を纏った瞳の開き方や、上品なつくりの唇がコケティッシュに歪む様子など、どれもあおいが好きでたまらない、あるいは、慕ってたまらない母親そのものだった、

「うん・・・・・そうする」
 力無く答えたあおい。それは彼女の意思によってではなく、まるで自動機械のように反応した・・・・・・だけのことである。


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