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『マザーエルザの物語・終章 24』
 絵画と人間のやりとりとは真剣な行為である。両者の間に火花が散る。すこしでも気を抜けばとたんに心を奪われてしまう。
 それは、単なる絵の具の塊などではない。もしも真性の絵画ならば心を持っている。それゆえに、人間との関わり合いには自然と心のふれあいをもたらす。それは肉体を持つ人間との、いや、それ以上に真剣な心の鞘当てを必要とされる。
 だから、単に絵画が目の前にあるだけでは体面を意味しない。

 あおいと啓子が、再び井上順の絵画と本質的ないみにおいて体面するのは、かなり先のことである。
 仄かに蘇った記憶も単なる気のせいとして処理された。まだデジャブーという言葉すら知らなかった
ために、記憶にラベルが貼られることすらなかった。未処理というマークを付けられて段ボールの箱に混紡されて、記憶の奥底に放り込まれてしまった。
 やがて、冬休みが終わって三学期が始まると、日常の出来事に悩殺されてさらなる忘却の彼方へと押しやられてしまった。
 啓子の場合はともかく、謂われのない虐待を受けているあおいなぞは、何時か見た名前も知らぬ画家のことを憶えている余裕はなかった。

 しかし、啓子は、いつしか絵画への興味を憶えていた。その画家のことはタンスの上にでも押しやっていたのであるが、教科書の端に落書きをするていどのことははじめていた。いままで完全に美術に興味を持たなかった彼女のことだから、それは革命的な変化であった。
 しかしながら、その変化は美術以外の授業においては歓迎されなかった。
 だから、机上にて、弧を描いてダンスを踊る鉛筆の軌道。
 それが教師から認められないのは当然のことである。

―――――残念ながら、その女教師はそうとうにめざとい視力を持っていたのでした。
 教師は、啓子の机を見とおしながら思った。自分の行為を客観視したのである。一般に言って、作家と言われる人種から趣味で小説を書く人間まで、それは、幅広く見受けれることである。
 阿刀久美子は、聖ヘレナ学院5年B組の担任である。
 久美子は上品な容貌を意地悪そうに歪めて、笑った。とある理由があって、美貌を隠している。何ていうことはない。女性ならば化粧の技術しだいで、そのようなことは、造作もないのだ。
 しかし、子供たちは大人の予想を超えてめざといものである。ちょっとした瞬間の気のゆるみから、見せた横顔の美しさと陽光のフォーメーション。
 それは、100メートル先に飛ぶ蚊を矢で射るような確率で子供たちの目の前に現出した。それは、黄金食の絵画だった。
 
 久美子がそれを見つけたのは、教室の背後から教卓に向かって歩いているときだった。そのとき、算数の小テストの最中だった。久美子は、ある児童の席に視線を走らせた。その子は、テストはすでに終わってしまったらしく。手持ち無沙汰な様子で鼻歌を歌うマネをしていた。
 しかし、それもすぐに飽きたのか、鉛筆に弧を描かせていた。
興味深げに久美子が観察を継続していると、やがて、ある人物のポートレイトができあがっていくのがわかった。

 啓子はテストの隅に絵を描いていたのである。

 久美子は、ある瞬間を捕らえて、少女の肩にエナメルの爪を食い込ませた。もちろん、白いブラウスにかすかな食い込みを造るだけだったが、彼女にとってみれば肩ごと筋肉を食い破られるくらいの衝撃を受けたのかもしれない。
「赤木さん、何を書いているの? おもしろい解答ね」
 もしも、久美子以外の人物がその台詞を吐いたならば、単なる嫌みにしか聞こえないだろう。ただし、彼女が言ったならば凛とした核をその言葉に感じさせるのである。
「・・・・・・・・・・・・・?」
 しかし、この時はそのような色は完全にこの少女から褪せてしまっていた。ただ、驚愕と言いようのない不安だけが彼女を覆っている。
「残念だけど、どちらが解答なのかわからないわよ、だから0点ね、画家さん」
「ぁ」
 少女と好対照の態度が醸し出す空気は、冷静そのものだった。この劇場の客たちは、自分たちが完遂すべきテストのことなど忘れ去ってしまって、一種の寸劇に見入っている。
 
 巻き貝をモティーフにした内装は、一見して、修道院の峻厳さを思い起こさせる。それが私立だとはいえ、とても小学校の一教室とはいえない雰囲気を醸し出している。そんな大道具たちは、ふたりの寸劇にある色合いを提供していた。
「ぁ、じゃないわよ、どちらが解答なの? 0点になりたくなかったら、解答じゃないほうを消して起きなさいね」
「はい・・・・・」
 微かに漂う香水の匂い。少女の知識ではその種類を類推するのでさえ困難だった。
 啓子が、次ぎに見えたのは久美子の後ろ姿だった。少女が自分を見失っている間に、教師の眼中から消え失せていたのである。少なくとも、少女はそう受け取っていた。
 しかし、久美子の脳裏には少女が描いた絵が刻み込まれていた。その絵が少女たちのよく描くアニメ絵でないことは、印象に残った原因のひとつかもしれない。美術は素人の久美子の目からみても、技術的には物足りないものがあったが、たしかに人の顔を人の顔として受け止めていた。

 その絵には、そういう姿勢がよく見て取れた。

―――あの絵は、榊さんじゃなったわよね?!
 たしかに第一印象はあおいそのものだった。しかし、よく見ていると全く違うことがわかった。天に向かって尖った鼻、鋭い目つきはあきらかにどちらとも、あおいのそれではない。だが、久美子に錯覚させる何かをその絵は持っていたのである。
 しかし、そんな素振りも見せずに、ただ一介の教師としてここにいる。それを自分に厳守させることにした。無意識が自分に何をさせようとしているのか、ただ、それを楽しもうとしているだけだ。ちょうどテレビや映画のドラマを楽しむように。
 どのような配慮によって、啓子が存在し、あおいが存在し、そして自分がこの場に立っているのか。それはこの段階の彼女にとって永遠の謎だった。いや、謎ですらなかった。そもそも問題提起すら為されていないのである。
 今はただそれらのことを受け流すことしかできない。

 一方、あおいは、どのようにこの教室に根を生やし芽吹いていたのだろう。
 少女は未だかってない気分を味わっていた。手がすらすらと動くのである。鉛筆が正しい答えを紙の上に記していく。こんなことはあまりなかった。学業などは啓子に頼り切っていたので、ほとんど準備をせずに試験に向かうことしきりだったからだ。しかしながら、今回は違う。
 我ながら不思議だった。これまでの100分の1も自由時間を与えられていないのに、なぜか、あおいの心は学業に向かっていたのだ。そして、元々頭が悪いわけではないぶん、スムーズにその能力が開花しはじめたというわけだ。しかし、そのからくりを当時の少女が知悉していたわけではない。
 ただ、目の前ですらすら動く筆記用具に、驚きを隠せないだけだ。

―――今までとちがう。
 自動的に動く鉛筆を眺めながら、あおいは思った。この教室で無邪気に翼をはためかせていた自分は何処に行ってしまったのだろう。
 いや、翼のありかに気づいたときは、すでに鳥は翼を失っている。当時、少女は自分が翼を持っているなどとは露ほどにも思わなかった。みんなが持たぬ黄金の翼を煌めかせているなどとは、考えもしなかった。しかし、それを失ってみてはじめて、自分が大変に貴重なものを備えていたことを知ったのだ。
 もう飛べない。そう思っただけで不安になる。自分がこのクラスにいるべきではないと思える。まるではじめてこのクラスに入ったかのようだ。寄る辺がいっさいないとはこれほどまでに不安なものか。
 いや、ちがう。ひとりだけあおいが寄る辺だと認識できる人間がいた。

 赤木啓子。

 たしかに、かつてのように無邪気に頼り切れるわけではないが、彼女とは深い絆で結ばれていることがわかる。直截的にその事実を認識できる。しかし、なんだろう、この罪悪感は。
 それまであおいは罪の意識について考えたことはなかった。ただ、親や教師という彼女を圧倒し支配する存在に保護される代償として、彼らの言いつけを護る。もしも、それを破ったときに感じる。それが子供にとっての罪悪感の源である。彼女から積極的にそれを求めることはなかったのである。大人は常に少女の法律の裏付けだった。
 しかし、いま、積極的にそれを感じるのだ。それも啓子に対してだけ。自分がどれほど悪いことを彼女にしたのだろう。
 少女は、大腿をよじった。その制服のよじれは下半身から上半身へとすなおに伝わる。ちなみにこの学校の制服は上から下まで統一されたブレザーである。初等部おいては、デザイン的に早すぎるという意見もあるが伝統の一言で一刀両断されてしまう。まさに伝家の宝刀だ。

 視線は啓子に向かっていた。彼女はいつものようにテストを早めに切り上げてしまったらしく、絵を描いていた。それはあおいの席からも見て取れた。新学期を迎えて、席順が変わったものの、ふたりの間には見えない引力のようなものが働いているのか、そう離れ離れになることはなかった。
啓子などは、冗談めかして言ったものである。
「まさに腐れ縁だね ――――」
 その言葉遣いは、小学5年生にしては大人じみていたので、あおいの耳にはストレートに浸みてこなかった。しかし、啓子の口調や表情から、それが良い意味ではないことぐらいはわかったので、複雑そうな顔をして親友を睨んだのである。

 啓子は、久美子に叱られてケシゴムに手を伸ばしたところだった。あおいが注視していると自ら描いた絵を消そうとしていた。その顔からはいかにも憮然とした表情が見て取れる。
 その時、ケシゴムが転がった。
啓子とあおいの視線がぶつかり合った。前者はばつが悪そうに、そして、後者は驚いて解答用紙を床に落としてしまった。
 突然、辺りが暗くなった。急に夜が来たのかと思った。
 よく見てみると目の前に黒い人々の行列が出来ている。逆光かと思ったがそうではない。夜と昼が逆転したかと思ったがそうではない。頭の上には凶暴な太陽が吠えている。
――――私、こんなところに来ちゃった・・・・・本当によかったのかしら?
 思考が自由にならない。あたかも頭の中にテープがあって、自動再生をしているかのように、考えが流れてくる。
―――――啓子?
 脳裏に映ったのは確かに彼女だった。しかし、口が開かれて発せられた声は、野太い大人の男性のそれだった。
 彼?は激しく罵っていたがあおいはそれを聞き取ることはできなかった。

 少女を現実に戻したのは懐かしい声だった。
「何をしているのかしら? 榊さん?」
―――テストは済んだのかしら? 相当に良い成績を期待していいんでしょうね?
 言葉にならなかった部分は、久美子なりの配慮である。常ならぬ少女の態度が彼女にそうさせたのかもしれない。教室の空気が確かに感染していた。

――私、どうしたのかしら?
 ものすごく短い時間の間に、自分が10年も年をとったような気がした。大人になったような気がした。身体も心も強くたくましくなったような気がしたのである。しかし、久美子の声がした瞬間に10歳の少女に戻ってしまった。
 久美子に促されて、啓子は何事か話していたが、それは確かに少女の声だった。たしかにその年齢に比較すれば大人びた声であったが、いつもの彼女のそれだったことは疑いようもない。



 やっと、元の時系列に帰還することができました。
 小説の怖ろしさを思いしらされたような気がします。
 物語というやつはほっておくととんでもなく肥大化し作者に反旗を翻してくるものです。適切なコントロールが必要ですね。
 
 非常に、無責任な話しですが・・・・・・・。

 これからもよろしくお願い致します。

テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

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