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『マザーエルザの物語・終章 23』
 赤木祥子は長いすに座っていた。展覧物はあらかた回ったので、一休みしようと思ったのだ。すぐにでも帰ろうとも思ったが、思いの外、あおいが夢中になっているので、少しばかり待っていようと思ったのである。
 もっとも、啓子のほうはかなり迷惑そうだったが、それは意識からあえて除外することにした。

  当然のように煙草は吸えないので、たいへん、手持ち無沙汰だった。それに口が淋しい。レストランでも車の中でも、子供たちがいたので、ニコチンを摂取するわけにはいかなかった。その代わりと言ってなんだが2500円もする画集を開いている。
 そこには、啓子が今の今まで座っていたが、あおいにせかされて、あたかも獄舎に連行される囚人のように展示のある方向へと歩いていった。

――――そんなに不快なのかしら? この絵が?
 生まれて始めて自費で買った画集をパラパラやりながら、祥子は思った。彼女の祖父は相当な絵好きであり、彼の家に行くと画集や展覧会のパンフレットが所せましと部屋を占領していたものだ。

――――おじいちゃんの所にこの画家のってあったけ。
 幾ら自分の記憶を辿っても井上順の画業と挨拶をすることはできなかった。彼の絵は見れば見るほどに独特なことがわかる。たった一人の女性というモティーフだけで、独自の世界を建築できたとすれば、かなり希有な画家ということになるだろう。これは、画集の編集者の言であるが、素人にすぎない祥子にすればその成否を云々することはできない。ただ、絵と見つめあうことだけしかできないのである。

「さて、そろそろ帰るか」
 祥子は、ふたりの子供を回収するために絵の方向へと歩み寄った。
 はたして、ふたりはある絵の前に立ち止まっていた。
 それは、例の女性が民族衣装に身を包んでいる姿を描いた絵だった。説明書きには、結婚式の衣装とあったが、何故か、祥子は視なくてもわかっていた。それは一種の既視感にも似たような感覚だった。
 その衣装は、一般的に言う結婚式用のそれとは、完全に一線を画しているにもかかわらず、祥子は視た瞬間に、すべてを悟っていた。
 凛として前を見据えた蒼い瞳は、確として少女の性格を暗示している。そして透けるような白い肌は、清らかな彼女の属性を語っていよう。整った鼻梁はいささか天を向けて尖っている。それは王侯貴族のように誇り高いこと高らかに宣言しているのだろう。

 しかし、少女の煌びやかさに比して、衣装の色調の暗さはどうだろう。黒を基調とした衣装はたしかに貴族の誇りを感じさせるが、どう見ても葬式用の衣装としか思えない。それがこの国の文化というヤツだろうか。所変われば文化も変わる。
 しかし、洋の東西を問わずに典礼用の衣装などというものは共通した性格を持つものだ。
結婚式は派手やかで、葬式はその逆。
 そのイメージに対して真っ正面から挑戦するような衣装がそこにあった。美しい真珠のような少女を包んでいた。
 啓子とあおいは恋人のように手を繋ぎ合って、その少女に魅入っている。まるで時間の神さまから忘れ去られてしまったかのように、ふたりはたじろぎもせずに絵を見つめている。しかし、ふたりの視線は微妙に違うように見受けられる。しかし、具体的なことは何も分からなかった。

「早く、帰ろうか。夕飯の用意もしないといけないし ――――」
 その言葉は意外と、現実回帰のために役に立った。
 祥子の言葉はしたたかに影響を与えていた。ふたりは、将来の空腹に思いを馳せていたのである。
 今まで夢を見ていたかのように、起こったことを押し入れの奥に片づけていた。
 さきほどまで見せていた表情は、いったい何処にいってしまったのだろう。あの時、たしかにふたりの顔が違って見えた。
 年齢を超越したようなその顔は、あきらかに日本人が見せる表情ではなかった。とても乾いた大気。それは祥子が生まれ育った環境とはあきらかに違う、完全に異界だった。地平線が見える。視力が蘇ったのかはるか遠くの樹木がはっきりとみえる。葉脈のひとつひとつから、それにまとわりつくトンボの触角までが手に取るようにわかるようだ。

「ねえ、ママどうしたの? 早く帰ろうよ」
「ァ?うん」
 娘に肘を引っ張られて、祥子は、現実に回帰した。
 啓子とあおいが不思議そうな顔で自分を見つめている。ここは何ていう星なのだろう。意味不明なことが意識に昇る。
 ちょっとした酩酊状態に陥っていたようだ。まったく恥ずかしい限りである。何とかしないと。また啓子に何を言われるのかわからない。かつての久子にされた時のように、この娘にいいように言われるのだ。自分がずぼらなことは棚の上に押し込んでおいて、文句を言い続ける。

「そうだね、絵はどうだった?」
 すっかり普段のふたりにもどっている。祥子は、安心して語りかけた。

「少し、疲れたかな」
「でも、おもしろい絵だったね」

 当たり障りのない返事をするふたり。しかしながら、次ぎの啓子の言葉は祥子の中の何かを動かす力を持っていた。
「ねえ、ママ、私、絵を描こうかな?」
 あれほど絵に悪印象を抱いていた啓子が、態度を豹変させていた。再び、大人びた色が少女の凛とした顔に芽吹いていた。
 不思議な感覚が祥子の胸に浮かんできた。子供が大人になる瞬間というのはこういうものだろうか。
 昨日、子供にすぎなかった子供が、次の朝には急に大人びている。親は、そういうとき、心強さとともにそこはかとない淋しさを感じるという。今、まさに祥子はそれを感じているのだろうか。
 語るべき言葉を祥子は持たなかった。しかし、友人とじゃれ合う啓子を見ていると何故か安心できた。
 傾き欠けた太陽が何事か語りかけてきている。オレンジ色に伸びた陽光に、祥子は返すべき言葉も見いだせない。SFアニメの中に登場するスペースコロニーのような美術館を見上げる。

「どうしたの? はやくしようよ、お腹空いたよ」
「そうだね、お腹すいたね」
 欠食児童たちを率いる鬱陶しさを煙に巻きながら、祥子は、改めて美術館を見直してみた。
 確かにコロニーは回転を開始していた。確かにあの場所は特殊な重力場を構成していたのだ。相対性理論によれば重力は時間と空間を支配するらしい。あの空間はたしかにかぎりない懐かしさと哀しみを祥子にもたらしてくれた。

「わかったわよ、はやくスーパーに行こうよ」
「え? デパートがいいな」
 娘の小ずるい注文に財布を振ってみる祥子だった。


 その夜、あくどい方法で祥子に高級食材を買わせた少女たちは、たらふくごちそうを平らげた上に、赤木家の子女たちの感謝までもらったのである。
 もっとも、それはあおいに集中したわけである。赤木家の末っ子である啓子には、十字勲章モノの武勲を立てたにもかかわらず、一片の祝福も与えられなかった。
 しかし、内心姉たちは、妹の変心ぶりが嬉しかった。ただし、ここまでうち解けてくれたのは、あおいのおかげだと、結果的にこの少女に感謝が与えられたわけではあるが。
 あおいと親密になるたびに変わっていく啓子に成長を、姉たちは見ていた。あまり外部の人間と人間関係を造ろうとしない妹に、姉たちは気を揉んでいたのである。それがここにきて、もうほとんど普通の娘と変わらない。そこいらではしゃぎ回っているランドセルたちとそう変わりはない。
ただし、あおい以外が対象のばあい、はたして同じように係わっているのかという命題に関しては、あまり深入りしないことにしていた。

「あの子、変わったわよね」
「そう ――――?」
 長女の物言いに、祥子は気のない返事を返した。彼女は、特に気にしていなかったのである。

 
 そのころ、ふたりは啓子の部屋にいた。
 あおいが、あれほど固執していた井上順という画家。もはや、彼に対する興味は急速に失せてしまったようだ。その証拠に、せっかく買ってもらった画集はあさっての方向をむいて頓挫ましましている。 
 部屋の隅で悲しく蜷局を巻いている。

 画家は、おのれの魂を絵の具によってキャンバスに埋め込むという。それならば、複製にすぎない画集の絵にも万分の一くらいは残存しているのだろうか。その思惟の片鱗くらいは見いだすことができるだろうか。
 もしも、そうだとするならば、どういう気持でここにいるのだろう?娘たちにうち捨てられた今となっては、完全に聖なる力を失い、虚空に思いを馳せるだけだ。
「ねえ、啓子」
「何よ」
 啓子は、組み立てテーブルを机の下から取り出すところだった。
「そんなもの何するの?」
「あんた、本当にわからないの?」
 おもむろに燃え上がってきた怒りを辛うじて、啓子は口を動かす。少しでも気を緩めたら口から火を噴いてしまいそうだ。
「オセロでもするの?」
「ほら、手伝いなさいよ! あんたのためにやってるんでしょう!? 宿題よ! しゅくだい!!」

 ついに啓子は火炎を吹いてしまった。その先にあおいはいなかったが、背後にあるベッドに座ってマンガでも読んでいるだろうと思われる ―――その友人に本の一冊でもぶつけてやろうと摑みとった。
 その本の表紙を認めると、啓子は時間を止めた。

『井上順 画集』

 素っ気ない表題。挿絵などいっさい挿入されていない。ただでかでかと銀色の文字が、黒字に書かれているだけだ。見方によっては、なんと豪家な装填なのだろう ――――ということになるだろう。
黒い色は硬いイメージを見る人に与える。
 それに啓子は何か心を打たれたような気がした。何かを語りかけているように思えたのだ。しばらくその文字を見つめていたが、やがて意を決したように舌を動かしはじめた。
「はやくしよう、もうこんな時間だよ」
「うん ―――」
 何故か、素直に啓子の言うことを聞くあおい。あたかも、それが当たり前のように、啓子は用意をするために背中を向けた ――――その時である。
 啓子にとってみれば、不意の出来事が起こった。
「・・・・・・・・!」
 聞いたこともない言葉が、あおいの口から漏れたかと思うと、背中と肩に熱と重量を感じた。
「あ、あおい!?」
 親友の手が身体に絡みついてくる。その手はあまりにか細く冷たかった。まるで何キロも冬山を歩き続けてきたかのように、凍えていたのである。
 いっしゅんだけ、ひるんだ啓子だったが、やがて、それが当たり前のように右手を使うと、あおいの 頭を抱いた。手を通して伝わってくる髪の脂はつげの櫛の櫛を美しくするように、ふんわりとした温かみと輝きを与えてくれた。

―――手が温かい。
 啓子はなおも強く握った
 抱き合うふたり。それは、お互いの鼓動を通して、言葉に因らないコミュニケーションを行っているように思えた。
 ふたりは時間と空間をはるかに超えた逢瀬を行っていた。
 
 しかし、それを楽しむ知識をまったく持ち合わせず、ただ、胎内から産まれた衝動に駆られているだけだった。
 まだそれを理解するほどには、ふたりの身体は小さく、精神はひ弱だったのである。だから、理性はまったく機能せず、感情においても原始的なレベルに留まっていた。
 それは新しく生まれ落ちた赤ん坊が、無意識のうちに母親を求めて泣くのに似ているだろう。赤ん坊の目はまだ未発達なので、母親の顔を正しく認識できない。しかし、それでもなお母親を認識している。

 かつて母親と出会ったことがあるからだ。

 衝動は限りなくそれに酷似していた。
 啓子とあおいは、ただ、わけのわからない衝動に駆られて、過去の命令に従い続けていた。

テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

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