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主人公はu15の少女たち。 主な内容はいじめ文学。このサイトはアダルトコンテンツを含みます。18歳以下はただちに退去してください。
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『由加里 98』
「そうだね、西宮さんとテニスが出来る日が楽しみだね、退院したら、どう」
「ええ・・・・」
 まさに猛禽類の目をして、照美は、こともなげに言った。
「改めて、西宮さん仲よくなりたいな。仲が良いのに、姓で呼び合うなんておかしいでしょう?私は、由加里ちゃんって呼ぶわ、由加里ちゃんも、私のことを照美ちゃんって呼んで・・・・いいでしょう?」
 心筋梗塞を起こすのではないかと思われるほどに、胸が痛くなった。この人は、いつ、いかなる状況にあっても自分と同席している限り、どのような方法を使ってでもいじめようとする。常に攻撃の手を休めようとしない。怖ろしい、本当にいかようにも表現しようもなく、目の前の美少女が怖くてしょうがなかった。
 
 鋳崎はるかによって、小説まがいのものを書かされて、それなりに表現力に自信がついてきたとは思うが、この人の美しさと恐怖を正面から描けるほどに、文章が上達したとはおせじにもいえないだろう、たとえ、自画自賛とすらも言えないということだ。
もしも、それが可能になった時には、少女もこの国の文壇の一角を占めるようにはなっているのではないか、そう思わせるほどに、海崎照美という同級生が怖ろしくてしょうがいないのだ。
「そ、そうで・・そうね、かい、海崎・・照美・・・・ちゃん!とテニスが、できたら、私もう、うれしい・・・です・・・・」
「どうしたの?由加里お姉ちゃん、日本語がおかしいよ」
 普段、姉に窘められていることを、郁子はそのまま返すことで溜飲を下げようとした。
「ううん・・・なんでもないのよ・・・・うう」
「折角、入った部活を止めちゃ、もったいないじゃない?どうして、視線を外すの?友だち同士なんだから、じっと見つめ合わないとだめでしょ?由加里ちゃん」
自分で言っていて、照美はおかしかった。友だちと恋人を混同している、わかっていて、やっているのだが、我ながらおかしい。だが、それ以上に自分の命令に素直に従う事の方が面白い、というよりも滑稽で哀れだろう。
思えば、同じ教室に入ったときに観た、あの大人しげながら明るい女の子をここまで追いつめたのかと思うと、自分のしでかしたことのように思えない。誰かをここまで傷付けることはおろか、自分が受ける傷以上に、他人の痛みに敏感だったはずだ。
 攻撃対象が、たとえ、由加里限定だったとしても、あまりにも度を超していないか、海崎照美は、人並み以上に優れた知性を与えられて生まれただけ、高田や金江のように愚かになりきれない不幸というものを存分に味わっていた。

「うん、て、照美・・ちゃん」
 一方、自分を廃人寸前にまで追いつめてきた相手に、ちゃんづけするとは、あまりにもふしぎなことだと言うべきだろう。それでも、かつて、目の前の悪魔と親友になりたいと思った自分を思い出して、未だに、照美の魅力に取り込まれている自分を再発見して、子愚かしい気分にもなる。こうなったら、相手が仕掛けてきた芝居にのってやろうとした。自分は海崎さんと友だちになりたかったのだ、目の前の悪魔が本当は好きでしょうがないのだ。
「ど、どうして、こうなるまで、親しくなれなかったんだろうね、かい、照美ちゃ・・・・ちゃん」
「・・・・・」
 照美は意外だった。由加里の方から反撃してきたのだ。これは挑戦でなくて、何をそう呼べばいいのだろう。
「きっと、由加里ちゃんが、物堅かったからじゃない」
「わ、私が・・・!?あぁ・・・いえ」
 思わず、激昴してしまった自分を、由加里は押さえるのに苦労した。意味がわからないと言った顔を郁子はした。
「じゃ、これからは仲良くできるわよね、由加里ちゃん」
「はい、うん・・・・・」
 押し黙ってしまった由加里に、照美はなかなか言うべき言葉を見つけられずにいる。
「じゃあ、今度、みんなで遊びに行こうよ」
 無邪気な声がした。
「由加里お姉ちゃんもすぐに退院できるもんね」
「うん・・・」
「どうしたの、退院するのがいやなの?」
 いやなわけがない。ただ、あの看護婦が自分をそう簡単に手放すとは思えない。この病院の実権を握っていると思われる、あの似鳥可南子の魔手からそう簡単に離れられるとは思えない。
「西宮さん、これからは親友なんだから、一緒に学校に行こうよ」
「ぁ、ひ、か、海崎さん・・・・」
 まるで吸血鬼がそうするように、由加里の細首に噛みつかんばかりの勢いで飛びつく。とたんに性器に押し込まれた異物が蠢く。
 郁子は、両者が互いに姓で呼び合っていることを、決して見逃していない。この二人には何かがある。それは、友人関係と呼称される性質のものではないが、第三者が入れないような、何か深い関係であることだけは確かだった。そのくらいのことは洞察できた。だが、そのように見抜いている自分に気づいていないだけである。
自己に対する内察、それをこなすにはまだ郁子は幼すぎたのかもしれない。ただ、そのような彼女の性質こそが、照美を惹き付けた要因にはちがいなかった。

「西宮さん、おっと、由加里ちゃんもそろそろ疲れてきたみたいだから、おいとまするか、あ、こんな時間か、試合が始まってしまうわ、郁子ちゃん、急がないと・・・」
「郁子?」
 由加里は、妹が行ってしまうことに納得できない顔を見せた。それを目敏く見抜いた照美は、由加里の耳元に近づくと郁子に知られないように、囁いた。
「もしも、これから郁子ちゃんがあなたに頼むことがあったら、それを拒まないように、私は期待しているわ・・・ふふ」
「・・・」
 郁子が、すでに病室から出てしまったことを確認すると、そのかたちのいい首筋にぺっと唾を吐きかけた。今までやってきた友だちごっこに嫌気が指したので、それを拭い去ろうとしたのかも知れない。
二人がいなくなっても、由加里は陰々滅々の状況にあった。吐きかけられた唾を拭おうとも思わない。そんな気力すらとっくに消え失せている。
 それにしても、郁子が自分に頼むとはどういうことだろうか?まるで、自分に対するいじめの陣営に彼女までもが絡め取られてしまったかのように思える。
いままで、自分の思うように動いてくれた、さながら、都合のいい人形のような可愛らしい妹がその自我を芽生えさせ始めた。その事実を由加里は見抜けなかった。そのこと事態が、由加里にとってみれば自分に対する反抗にしか思えなかった。
 それは同時に、自分に対する一種の裏切り、好悪の二元論に還元すれば、「嫌い」の一言に、自分に対する思いが書き換えられたように思えるのだった。
 それが自分に対するいじめと連動して起こっただけに、それが照美の作為であり、郁子の本心から起こった感情でないことを密かに期待した。しかし、いくら、自分にそう言い聞かせても、なかなか納得できない。妹にさえ見限られる。血が繋がっていないだけに、もう二度と修復できないように思われた。

 知的な美少女にとって耐え難い事実であろう。

 家族だけは、絶対に自分を裏切らないと思っていたのだ。
はじめて、照美に敵意を感じた。犯しては絶対にいけない、大切な領域にまで手を出し始めたのだ。妹を籠絡して、一体、何をしようというのだろう。その答えはあまりにも単純で明解のために、あえて、口に出そうとも思わない。
「郁子にまで手を出すなんて・・・・」
「どうしたの?由加里ちゃん、暗いじゃない」
 年老いた看護婦にブランドを開けられるまで、誰かが部屋に入ったことにさえ気づかない由加里だった。


 さて、病院を後にした二人は、しばらくの間、互いに言葉を交わさなかった。機先を制したのは、郁子だった。
「由加里お姉ちゃん、なんか、暗そうだった」
「そりゃ、あんな病室に閉じ込められていれば、大抵の人間はああなるわよ。ま、夏休み前に退院できるらしいなら、いいじゃない」
「本当にできればいいんだろうけど・・なんか、最近、冷たいんだ」
 八つ当たりなのかと、当たりを点けたが、そのまま言葉にするわけにはいかない。
「こんな可愛い妹につれなくするなんて、考えられないな」
「本当にそう思う?」
 照美の前に身体を投げ出すように立ちふさがると大きな口を開いた。
「ああ、当たり前だ」
「なんで、照美お姉さんの妹に生まれなかったんだろう、不幸よ」
「・・・・・・・」
 言いたいことを全部言わせる、胃袋が空になるまで吐かそうと、照美は考えた。
「でも、お姉さんが照美お姉さんでも、郁子を嫌いになってたかも・・・・誰だって、嫌うんだ」
おや、と思った。これは口を挟まないわけにはいかない。
「どういうこと?だれが郁子ちゃんを嫌うって?」
「みんな・・・・・おうちも、学校も、みんな」
 郁子の真意を摑む、いや、その片鱗に触れることすらできないままに、はるかの試合会場に到着してしまった。
アスリートに限らず、何かに本格的に取り組んでいる人間、あるいは、そういう人間を収容している場所というものは、そうでない人間にとって一種独特のプレッシャーを抱かせるものである。この前、西宮冴子に連れられてライブ会場に出向いたときも、似たような感覚を抱いた。
「ここで私たちもやるんだからね」
そう冴子に肩を叩かれても、なんの実感も備わってこなかった。
県立競技場からは、楽器の調節音の代わりにラケットとボールが当たる音、それに、女性のものと思われるかけ声が聞こえる。それらは二重奏を奏でているようだ。
「ねえ、はるかお姉さんの試合は何処なの?」
「確か、二番コートだと聞いていたが・・・ああ、あそこだ。もう始まっている」
 照美が指さす先には、はるかがいた。普段の彼女よりも何倍ましに精悍な、ほとんど大人としか思えない女性が咆吼していた。郁子の目には、ここはアフリカのサバンナに見えた。まったく新しい世界が広がっている。自分は、由加里たちが所属する旧世界から旅立って新たな世界へと足を踏み入れたのだ、そう思えた。
隣には、照美もいる。そして、百合恵、自分の家族だと思っていた人たちよりもずっと自分を大事にしてくれる、 新しい存在、自分はいるべきところに足を踏み入れていると感じることができた。ようやく居場所を取り戻したのだ。


テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『由加里 97』
 
 西宮郁子が友人とともに校舎から出てきた。彼女は、その瞬間に太陽から感じる以外の眩しさに反射的に虹彩を閉じた。
 彼女が照美であることは一目瞭然だった。校門の先に咲いた美しい花は、周囲に存在するあらゆるものを凌駕して輝いていたからである。
「・・・・・」
 既に一緒に帰宅しようとしていた友人のことなぞ、郁子の目と耳から完全に除外されている。それでも、そこいらへんに転がっている蛙の死体程度の注意を払うぐらいの、反応はしてやる。

「え?郁子ちゃんのお姉さって、入院しているんじゃなかったけ?」
「アレは、別のお姉さん、あの人は照美お姉さんって言うの」
「ふうん」
 予め、ハードディスクに記録しておいた音声ファイルを再生するかのように、機械的な声をだした。
 「私、用があるから先に帰って」
「うん」
 友人を追いやるように返すと、郁子は照美に顔を向けた。
「あの子、友だちなの?いいのかしら?」
 最近は、小学校でも人間関係が複雑だと聞く。いま、照美が籍を置く中学生も、当然のことだが、みんなかつては小学校に身を置いていたわけで、あの複雑な人間関係の萌芽は小学校にこそあると極限しても差し支えがないような気がするのである。
「いいの、照美お姉さんと話しがしたかったから」
 はたして、当時の自分はこんな屈託のない笑顔を浮かべていただろうか?ふと、照美は考えてみたが、あいにくと、幽体離脱の術を心得ていなかったので、かつて、自分がどんな顔をしていたのか、思い出せない。
 鏡で見た顔は、あくまでも、身構えた自分じしんであって本来の自分ではなかろう。幽体離脱でもできないかぎりは、人間は偽りの自分の顔をしか観たことがないと極言できるのである。
「照美お姉さん、どうしたの?」
 少しばかり、自分の世界に填り込んでいたようである。
「ううん、なんでもない」
 この子には、さすがの照美も調子を崩されっぱなしだ。完全無欠だと思っている由加里が、今の自分を観たらどう思うのかと自答自問してみると、意外と面白い映像が浮かんでくる。
 それらのいちいちに従っていたら、自我が持たないので、郁子に集中することにする。
「ねえ、郁子ちゃん」
「なあに」
「由加里さんに抱きついたりしないの?」
「どうして?郁子はそんな子供じゃないよ」
「私は、一人っ子だから、姉妹って関係に幻想を抱いているのかもね」
「げんそう?」
 
 公園へと下りる石段に向かいながら、照美はしまったと思った。これでは小学生にじぶ自分の意思を通じさせるのは至難というものだろう。
「妹か姉が欲しかったな」
「はるかお姉さんは、そういうもんじゃないの」
 年齢よりもはるかに幼いと思っていながら、こんな大人めいた言い方もできる。照美は、じっさいに、痛いところをつかれたと実感した。しかし、彼女を相手に虚勢を張る意味をこの美少女は発見できなかった。
「そうよ、あいつは私の妹だな」
「お姉さんじゃなくて」
「こいつ!」
 気が付くと郁子の首を背後から捕まえていた。とても華奢で可愛らしい肩だった。ピンク色の鎖骨がぴくぴくと言っている。辛うじて青い筋が血管だとわかる。抱き心地は、柔らかくてとても気持ちよかった。
 この時、願望でなく、本当にこの小学生の女の子が自分の妹のように思えた。
「いいから、見舞いに行ったらすぐ、西宮さんに抱きついてごらん、きっと喜ぶよ」
・・・・できるだけ下半身に力を込めて、とはさすがに注文しなかった。実の妹に辱められる由加里を思うと、自然に 冷たい、そして、非常に乾いた笑いを抑えきることができなかった。
「照美お姉さんって、由加里お姉ちゃんとそんなに仲が良いの?」
「どうして?」
 悪びれずに郁子は答える。
「由加里お姉ちゃんのことを言う時、とても楽しそうだもん」
「私が楽しそう?」
 意外な妖精の反応に、照美はどんな表情をすべきか脳内会議にかける必要性を感じた。しかし、すぐには回答がでないことを理解すると、軽い笑顔でごまかすことにした。
「はるかお姉さんの試合って、何処でやるの?」
 既に郁子には伝えてある。
 「県立競技場で、あくまでも練習試合だからな」
「ふうん」
 小学校とは目と鼻の先で、徒歩10分ほどで到着する。
 郁子を連れていこうと思ったことについては、照美に他意はない。ただ、由加里のことで情報を得たいために、たまたま、はるかの試合に行く予定があったために、誘ったというわけである。
 
 県立球技場までの道筋には、由加里が入院している病院が建っている。
 
 見舞いというほどでもないが、立ち寄ることを郁子に提案した。

「西宮さん、もう退院できるんでしょ?」
「うん、ママによるともうすぐみたい」
「今日は、見舞いに行かないの、いや、行こうよ」
「いいよ、照美お姉さん、それって反語法っていうんでしょう?」
 またもや、想定外の回答に照美は、郁子はそれを視ていなかったが、苦笑いでごまかすしかなかった。妖精の脚はすでに病院に向かっていた。どうやら、照美と姉の見舞いにいけることが楽しくて堪らないらしい。
 それがどのような心理に基づくのか、類い希な美少女は理解できなかったが、予想する必要性も感じなかった。無駄話を交わしながら歩いたので、病院までの道筋はそれほど時間を感じずに済んだ。

 エントランスで、ゆららと出くわした。
「照美さん・・・・」
「どうしたのゆららちゃん、フィアンセの浮気現場に出くわしたような顔をして」
 精一杯の冗談を言ったつもりだが、ゆららの暗い表情が回復することはなかった。次に見つけたのは妖精よりも小さく感じた、彼女の後ろ姿だったからだ。
「あの人も、由加里お姉ちゃんのお友達なの?意外に多いんだね」
「意外に?」
 照美は、眩しさに思わず眉をしかめた。病院というところはどうして必要以上に明るいのだろうと思う。リノリウムの床は常に往来者が映り込むくらいに磨き立てられているし、白い壁や天井は、それに拍車をかけている。
 一体、一年で何人が命を落とすのかわからないが、そのような場所でこの明るさはないだろう。もしも、自分の 大事な人が命を落とすことがあって、リノリウムの輝きはどのように映るのだろうか?
 そんなことを考えているうちに、由加里の病室が見えた。すかさず、妖精のかわいい耳に囁く。
「西宮さんに飛びつくのよ、もう、怪我はいいんでしょう、きっと、喜ぶと思うよ」
「わかった」
 そう言い終わる前に、妖精はドアを開けると、姉を呼びながら走って消えた。
「い、郁子!?や・・・ぁ、何するの?、かい、海崎さん・・・・・・!?」
目まぐるしく知的な美少女の顔は転戦した。
妹への驚きと、上から目線と、そして、奴隷の主人に対する絶対服従の視線である。病室に入った照美は、自分が想像した以上の笑劇(ファルス)を観劇することに成功した。あえて題するならば、麗しい姉妹愛、ということになろうか。

 郁子が由加里の腹に乗りかかっている。ジュースを飲んでいたらしく、妖精の頭にカップが逆さまに乗っていた。水の滴る美女ならぬ、美幼女がそこに存在していた。
「由加里おねえちゃんたら、冷たいなあ」
「うっ!?お、お願いだから、すぐに、下りて!」
「冷たいな」
「そうだね、冷たいね、実の妹、それにこんなに可愛らしい妹さんなのに・・・ふふ」
「か、海崎さん・・・・!?」
 由加里の目の前に、氷の微笑が存在した。怖ろしいまでに整った顔が、迫ってくる。あたかも、恋人どうしのように、吐息がかかるほどに近づいている。無臭なのがかえっておそろしい。この人は人間ではなくて、死に神がなんかじゃないのか?あるいは、後者が前者に取り憑いて、罰を与えるために、由加里にひどいことをしているのかもしれない。
(・・・・・罰を?)
 ここまで考えて、由加里は自分が罪人ではないかという意識に囚われていることに気づいた。
 郁子は、なおも罪の意識のない天使の残酷さで、由加里の華奢な身体から下りようとしない。彼女の重量はそのまま、いや、動けばそれは物理の法則に従って加重され、由加里の下半身を直撃する。
「お、お願いだから、い、郁子、下りて!ウウ・・」
「どうしたの?由加里お姉ちゃん、具合がわるいの?」
 姉の急変に驚いて、郁子はようやくリノリウムの床に降り立った。

 照美はほくそ笑んだ。
 由加里は、心底、恐怖を感じている。この人は自分から何もかも奪おうとしている。ならば、いっそのこと殺してくれたらいいのにと、言ってしまいたくなった。しかし、郁子がいる手前、そんなことは言えない。
 何があっても、妹に、自分が学校でいじめられていることを知られるわけにはいかないのだ。非常に逆説的な言い方になるが、照美は絶対にそのことを郁子に告げることはあるまい、少なくともそれに関しては安心できる。
「こんにちは、西宮さん」
「こ、こんにちは、海崎さん・・・」
 馬鹿げた芝居だと、照美は自嘲せざるをえない。だが、すすんでこのアドリブ猿芝居を楽しもうと思った。たまには木登りが得意でウキウキと鳴くメスザルになるのも悪くない。
 サルとは思えないほどに整った美貌を武器に、由加里を精神的に痛め付ける。
「そろそろ、退院できるのよね」
「はい、いえ・・うん」
 カクンと由加里は頭を下げた。その様子があまりに不自然なので、郁子は二人の間に何かがあると思ったが、その中身まで洞察できるわけではない。
「これから、あなたの大親友のはるかの試合を見に行くんだけど、言付けはないかしら」
 携帯がある時代に、言付けはないよなと、自分で台詞を考えておきながら、あまりの不自然さに吹き出してしまいそうになる。
「由加里お姉ちゃんも、また、テニスをやればいいのよ」
「うるさいな、郁子に関係ないでしょ!?」
 思わず、素を出した由加里を興味深く見つめた。そして、彼女がテニスをやっていたことにも関心を持った。
「前に、はるかの試合を見に行ったときにも、もう一度、やってみようかなあって言ってたじゃない」
「・・・!?」
 照美は驚いた。自分に対して、あの由加里がこれほどまでに反抗的な表情を示せるとは、夢にも思っていなかったからである。そう思う一方、まだ攻める余地があるのだと、意外な形で安心した。
 まだ、いじめ甲斐がある、ということである。こうでないと面白くない、とも、ゲーマの悦びに近い感覚も抱いた。
 
 しかし、そんな挑戦的な表情も一瞬にすぎなかった。すぐに、はにかんだような顔になり、それは照美への恐怖に変わった。しかし、郁子の手前、それを素直に出すことはできない。学校でいじめられているときには、あくまでも、照美やはるかが相手の場合に限るが、悲しいときは、悲しい、苦しいときは、苦しい、と素直に感情に出せるだけにかえって楽だったと、逆説的な言い方もできるのである。


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『由加里 96』

 鈴木ゆららが、由加里の元から脱兎のごとく逃げ出した、まさにその瞬間、海崎照美と西宮郁子は携帯電話で通話中だった。
 午後9時30分。
 因みに、かなり夜も更けているというのに、小学校5年生の少女は戸外を遠くのネオンサインに照らされながら滑り台の上にちょこんと腰掛けていた。塾からの帰り道だが、照美と話すために公園に屯しているのだ。
 携帯を彼女が持っていることは、海崎百合恵からの厳命によって、両親には知られないように自宅で使用することはないように躾られている。よって、余計に危険な状況に追い込んでいるわけだが、そこまで考える余裕は百合恵にはなかった。
 だが、照美は心配のようだった。
「郁子ちゃん、何処にいるの?まさか、外にいるんじゃないでしょうね」
「うーん、そうだけど・・・・」
「早く帰りなさい・・・明日、一緒に話そう。小学校まで迎えにいくから」
「わかった・・・・、照美お姉さん」
 お姉さんと呼ばれる、そのことが照美にとってみればやけに心地良い。妹がいないから、というのは月並みな言い方だが、そういうことを超えて郁子という少女が可愛らしいと思う。護ってやりたい、彼女のためなら何でもやりたくなる、というのは母性本能の萌芽といったら言い過ぎかもしれない。
 由加里を心身両面に渡って痛め付けるために、照美は何でもするつもりだったが、さすがに、こういうやり方をすることに対して何も感じないわけにはいかない。だが、由加里に対する憎しみはそれを凌駕するのに充分な熱量を有していた。
 一人の少女を破壊するために、彼女の妹すら利用する。そこまで西宮由加里という少女を憎んでいる、ふと気づいたとき、そんな自分に恐怖心すら憶える。だが、もう後戻りはできない。
 はるかに電話をかけようとしたとき、彼女からメールが届いた。
「明日、試合だから、別に遊びに来なくても良いよ、ただし、応援しにこなかったら、そんなことはありえないか、地球が滅んでもありえないから、そんなことを想定することすら無意味だよね、じゃ、詳しい情報はこちら・・・」
「あのばか、学校があるんだよ・・・ま、いいか、郁子をつれていくか、学校が終わってから・・」
ひとりごちた内容をメールで送り返すと、ふいに眠気を催したのか、いつものように電灯を点けたままでベッドに転がり沈んだ。

 今朝、鈴木ゆららに挨拶しようとしたら、照美は微妙な顔をされたことが気になっていた。授業中もそのことが気になる。たまたま目があっても、逃げるように視線を反らす。いったい、何があったのだ。
 その時、ゆららは罪悪感と畏れで悶々としていた。
 その対象は、言うまでもなく、照美と由加里である。
 いくら憎らしいからと言って、自分はあの由加里という同級生になんということを言ってしまったのか、そして、そのことは同時に大恩人である照美とはるかを裏切ることにもつながる。

 いじめられる辛さが、クラスでたったひとりのけ者にされる哀しさが、誰よりもわかっているはずだ。そんな自分が個人的な感情だけでそのような行為に荷担するなどと・・・いや、海崎さんの敵ならばどのような目にあっても良いのだ。あの人を傷付けた人間ならば、どうしようもない人間にちがいない。誰からも後ろ指を指されるにちがいない、このクラスの状況を読めばそんなことはすぐにわかる、しかし、少し、前の自分も同じような立場だった、ならば、あのいじめは正当だったのか・・・・・・。

 そこまで考えたとき、高笑いしている、高田と金江のふたりが視野に入ってきた。
 あの二人こそ、自分の憎悪を向けるに相応しい人間ではないのか?だが、彼女らが同じ部屋にいる時点で、いや、この地球上で生きていると自覚しただけで、身体が凍りつく。震えが止まらなくなって、吐き気を憶える。
 そうならないためには、考えることを止めるという高等技術を会得する必要があった。だが、いざ話しかけられるとそんな決意も揺らいでしまう。

「ゆららちゃん、あいかわらず可愛いわね、小学生みたい」
「金江さんは高校生みたいに大人らしく見えるわよ」
 思ってもいない皮肉を軽く投げつけると、とたんに金江の鼻息が荒くなった。目を顰めるわけだ、彼女のすぐ隣に海崎照美が立っていたからだ。
「あら、海崎さん、鋳崎さんは?」
「あいにくとテニスの試合でね。学校をさぼるいい口実を得ているわけだ、もっとも、口実を得なくても学校に来て欲しくない人も、何人か、いるが・・・・・・」
「そうね、その点に関して言えば、あたしも同意だわ」
 金江は、おそらく、照美との間に共通了解でできていると思っているにちがいない。一人目は言うまでもなく、 由加里のことだろうが、そのことは周囲の女子たちも異論はない。ただし、美少女は言ったのだ、「何人か」と。
 そのことに気づかない極楽とんぼは、金江だけだった。おそらく、後に高田に指摘されて臍を噬むことになるのだろう。
 照美以上の毒舌家であるはるかが、いないことに、金江は感謝すべきだったかもしれない。特に機嫌が悪いときなど、言葉を使って人を攻撃することを趣味としているのではないかと誤解させるほどに、マシンガンのように毒がたんまりと塗られた弾丸を所構わずに撃ちまくるからだ。
 一方、まさに無限回廊に迷いこんでいたゆららは、照美に救われることによって感情レベルにおいてもあくまでも一時的にではあるが、危機的な状況から脱出することができるのである。
 そうなると、やはり、照美に対する、大袈裟に言えば、信仰にも似たまなざしに拍車をかけることになる。照美に関して言えばそのように観られる事になれているので、また、鈴木ゆららという少女に一方ならぬ気持を抱いているために、別に不快な感情を抱くこともない。

 他の人間にされることは我慢できなくても、ゆららになら許してもいいような気になる。自分でも、ここまで他人に対して寛容で居られる人間だったのかと、ふしぎに思うくらいなのだ。
 金江は尻尾を巻いて逃げたが、このようなことは由加里という獲物を巡っての取引に大変、マイナスになる出来事なのである。分かり易い表現で言うと、借りを与えた、ということになる。しかし、照美にとっては仮にそうであったとしても、ゆららを庇いたくなる。
 こんな気持は非常に珍しいことではあった。

 だが、ゆららは内心が少しも落ち着かないことに、そわそわしていた。
「私のことをゆららお姉ちゃんって呼ぶのよ」
 あんな台詞がいとも簡単に自分の口からついで出たことが、未だに信じられない。あたかも、照美が自分に乗りうつったかのような滑らかさで口と心が動いた。由加里に対して感じた万能感、これが人をいじめるということの快感なのだろうか?
 金江や高田が、自分に対して求めたのはこのような麻薬にも似た官能だったのであろうか。
 なんという矛盾に充ちた気持だろう。かつて、自分があれほど嫌がったいじめを自分がやっている。しかも、相手はかつて自分に対して危害を加えた人間ではないのだ。単なる、嫉妬心が理由であることを、当時のゆららは理解していなかった。
 彼女がどれほど努力しても得られなかった、他人に簡単に好かれるという能力、それは一種の才能だと断じてもいいだろう。あの西宮由加里という人物は、普通に振る舞っているだけでそれを簡単に手に入れた、すくなくとも、ゆららの目にはそう映ったのだ。
 羨ましくて堪らない。
 いや、そんなことは考えてはいけなかった。もしも、そうしたら完全に自我の危機に陥る。自分が何者で、いったい、何処に立っているのか、そんな人間として、いや、存在してごく基本的な能力ですら、今のゆららには持ち合わせていないような気がするのだ。

 一方、照美は思考のフォーカスをゆららから郁子に変更させていた。
 授業中ながら、机に入っている携帯に手を出す。郁子は学校に持って行っているはずだ。メールでも送ってみるかと、密かに操作する。その日は、2時半に授業が終わるとは聞いていた。
 小学生の女の子の、邪気に充ちた顔が思い浮かぶ。つい、この前まで同じような舞台で遊んでいたとは、とうてい思えないほどに幼い顔つきだった。照美と比較するだけに、余計にそう見えるのかもしれない。
 あの子は明らかに照美に対して不満を抱いている。ただし、すぐさまその感情を吐露させるわけにはいかない。 そのことによって、さらに由加里を痛め付けられることはまちがいないが、喫緊の課題は、彼女を学校にまで来させることであって、それにはかなりのエネルギーが必要だと思われる。
 由加里はそうとう傷ついている。高田と金江、それに自分たち、彼女が事故に合う直前には、普通のクラスメートたちでさえ知的な美少女に敵意の針を刺し始めていたのである。ちくちくと、鋭い針は、少女の肌に突きささり真皮にまで届き始めていた。
 そういう経緯があるので、郁子に自分の敵意に命じられるままに行動されては・・照美としては困るのだ。
 生かさず殺さずということを、彼女に理解させるのは難しいにしても、けっして、一線を踏み越えさせてはいけない。由加里が崩壊してしまう。それには、アメとムチのうち、前者を考えなければならないが・・・・。

 由加里を殺さない方法として、工藤香奈見というアメを彼女に仕向ける、要するに切り札があるが、当の香奈見がうんと言わない。小学校時代から二人を知るクラスメートたちは、姉妹のように仲が良かったという
だが、中学に上がったころから疎遠になっていったらしい。
 その香奈見が重い尻を動かせば、由加里も退院と同時に登校するにちがいない。錨居ないでたまたま出くわした由加里の母親によると、身体的にはほとんど問題はないが、精神的なファクターが深く根を下ろしているとのことだ。
 それは姉である冴子の話を裏付けている。
 だが、思わず笑いが込み上げてきた。なんとなれば、その理由のもっとも最悪な部分は自分が占めていることは言うまでもない、からだ。はるかがいれば、共に笑い合ったことだろう。往年の時代劇で観られる、勘定奉行と大商人が互いに笑い合うお馴染みの、あのシーンが浮かんできて、また笑いが込み上げてくる。

 その時、由加里は新人看護婦に身体を清拭されていた。実は、つい先ほど彼女と入れ替わりに病室を後にした先輩から、この中学生に性的な淫行癖があることを、囁かれていた。しかも、その先輩は、これみよがしに由加里に分かるように目配せしたのである。まるで中学生のいじめのレベルだが、知的な美少女に与えるダメージは少なくない。しかも、まだ20を超えていないと思われる、これは14才にすぎない由加里の視線にしてはおかしいが、あどけない新人看護婦に辱められようとしている。
「入院中もガマンできないんだって?こんなにかわいらしい顔して・・・ふふ」
「ひ・・・・」
 抵抗しても無駄なことはわかっていた。だが、ぼろぼろになった自我とプライドを護るために、せめてもの抵抗をしようと心にきめた。看護婦の刺激にいっさい反応しないように食いしばることである。
 しかし、訳ありげな看護婦の手が大腿のうちがわに達したとき・・・・・由加里はおもわす声を上げてしまった。
「ぁ」
 それは、ウィルスよりも小さかったが、密着していると言って良いほど接近している新人の耳に充分に届く音量を備えている。
「先輩の言う通りに恥ずかしい子みたいね・・ふふ」
「ウウ・」
 悔しいことに涙と涎を止めることは出来ない。
「西宮、由加里ちゃんだったわね、そんなにオナニーが好きなの?朝になると、まるでお漏らししたみたいだって、先輩が言っていたわよ、世通り、男が恋しくて耽っている、臭くてたまらないって、ふふ、あなたのお汁はどんな臭いがするのかしら?」
 由加里の股間をついに、新人が捉えた。そして、ねちねちとこねくりまわすと、自分の鼻にもっていく。
「ぁぁあ?!すごい臭いだわ。これじゃ、家の人は大変ねえ、病院でこんなぐらいなんだら、家では年から年中、発情しているんでしょうねえ?ふふ・・これから、あなたの担当よ。たっぷり、可愛がってあげるわ、子猫ちゃん!!」
 由加里じしんの分泌液で汚れた布で、全身を拭うと、高笑いをしながら病室から姿を消した。




 
 



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『由加里 95』
 
 「ぁあ・・・や」
 自分よりもはるかに劣る、あるいは、そのように見なしてきた相手に性的な慰めを受けるという恥辱に我慢できずに、ゆららの手を解こうと思ったが、もしも、そんなことをしたら友人として彼女を失ってしまうのではないか、由加里はそれが怖くて何も出来ずに、恥ずかしい局所を晒すだけだった。
 しかも、照美に縛られた縄じりまでが、顕わになってしまいそうだ。曰く、自分の性器になお、ゆで卵を挿入しているのは、彼女に対する恭順の証、いわば、奴隷の刻印のようなものだ。そんなものをこの小学生のような女の子に探り当てられるほどの屈辱がこの世の中に存在するだろうか。
 由加里は悶えるしかない。
「ぃや、いや、もう、やまて、ゆらら、ちゃんぁ・・・あ」
 しかし、口で拒否しているだけで、まったく説得力が感じられない。
 ゆららは、生まれてはじめて人を支配する悦びを感じていた。もっとも、いったい自分が何に対して快楽を感じているのか、それに対する追求はまだなされていない。
 それだけではない。ゆららにとってみれば保護者に比較されうる、照美とはるかのことである。

 二人の許可もなしに、このような行動に出ていることに、ゆららは自分でやっていることながら驚いていた。由加里は、赤ちゃんが愛情を求めるように、少女の愛撫を求めていた。
「由加里ちゃん、気持ちいい?」
「ぅ、ハアハア・・・・・はア・・・。」
 なおも性器の秘密を追求しようとしない。ゆららは、その秘密を知ってはいけないような気がした。知的な美少女の口から、ごく自然なかたちで、それを知りたいと思った。
「もう、もう、や、やめて・・・・・」
 しかし、口を裏腹に由加里の局所はお漏らし状態になっている。滑り気のある粘液が、ゆららの折れそうな手首まで濡らしている。非常階段の錆びた鉄板が、外灯に反射している。
 夜も深まっているとはいえ、このような場所で秘所を弄ばれている。それもゆららに秘肉を弄られているのだ。 そのような異常事態が余計に、少女を官能的な領域へと引き込んでいるのかもしれない。
「由加里ちゃん、好きよ、可愛い」
「な・・・」
 あたかも、妹に呼び捨てにされるような恥辱感に脳が浸される。しかしながら、圧倒的な孤独が知的な少女をして、ゆららの足下に跪かしせしめたのである。
「ウウ・ウ・・ウ・ウ、本当ぅ?わ、私が、すき・・・って?ゆららちゃん!?」
「本当よ、可愛い・・ふふ」
 いつの間にか、ゆららも興奮しはじめた。自らの股間が湿り気を帯びていることにすら気付かないくらいに、ランドセルの少女は行為にのめり込みはじめていた。
 だが、大腿に水滴が零れるにあたって、自らの官能を知った。
(嘘・・・・-?!)
 自らの股間をまさぐってみて、少女は驚いた。由加里以上に濡れそぼっていたからだ。
 このことを知られてはいけないと、直感的にそう思った。由加里のショーツの中に手を入れる。
「いや、ゆららちゃん、それだけは許して!」
「だめよ!」

 おそらく、生まれてはじめて他人の要求をはねのけた。由加里は大腿をきつく閉じようとしたが、その間隙をぬって少女の指は由加里の膣をじかにとらまえた。
魚の内臓に触れているような感触が掌ぜんたいに伝わる。
「一体、何を入れているの?由加里ちゃん」
「ぁぁアア・・!?」
「え?卵?ゆで卵!?」
 すこしばかり反動力のある柔らかい物質、紛れもない、その感触はゆで卵だ。
 激しく抵抗する隙を狙って、それを取り出してみる。まるで産卵直後のそれのように卵は濡れている。外灯に反射して妖しく光る白い球体は、ゆららの目に腐った真珠のように映った。急に由加里が汚らわしいものに思われたのだ。
 一方、由加里にしてみれば、乱暴に物体を取り出されたのだ、小陰脚やクリトリスに多大な刺激を受け、苦痛に近い官能を蒙ることになった。
「ぁぁぁあああぅ!?」
「・・・・・・!?」
 激しく震える少女。あきらかに絶頂を迎えているのだが。性に対する知識が乏しい少女には、巨大な海鼠が胎児を産んでいるようにしか見えない。
「きもちわるい・・・・」
「はあ、はあ、ゆ、ゆららちゃん・・・ひどい・・・!?うう・う・」
 両手で顔を覆って激しく泣きじゃくる。そんな由加里を見ているうちに、かつての自分を思い出した。
 
 卵を持ったまま由加里を抱き締めた。そうすることで、無意識のうちに由加里を優越したいという気持を内包しているが、本人はもちろん、それに気付いていない。
 由加里は泣きながら、しかし、どうやって卵を取り返そうかと模索していた。照美の怖ろしくもキレイな顔が光る。
 だが、手に届きそうなところにあったゆららという友人をも、取り返そうとしていた。もう、あのような孤独はもうご免だ。ひとりでもいいから、確かな友人がほしい。少しばかり、相手を傷付けても「ごめんね」の一言で回復できる友情がほしくてたまらない。
「お願いだから、そ、そんなこといわないで!ぇぇぇぇェェ」
「ゆ、由加里ちゃん・・・・・」
 思わず、立ち上がったゆららの下半身に抱きつく由加里。ゆららは自分の股間が濡れていることに気付かれるのではないかと、気が気でない。
 だが、自分の足下で泣きじゃくる小さな妹か愛玩動物のような由加里に、ゆららはまんざらでもない気持を抱いていた。そんな小学生のような少女の胸にとんでもないことが去来した。
「じゃあ、私のことお姉さんって呼べる」
「え!?」
 
 青天の霹靂のような言葉に、一瞬、知的な美少女は言葉を失った。もはや瓦礫となった都市が核攻撃を受けるようなものだ。
「ゆららちゃん」
「そうじゃないよ、ゆららお姉ちゃんよ。二人で会うときは必ずそう呼ぶのよ」
 ぐずぐずと泣き続ける由加里は、自分の顔をみることができないが、自分がとんでもないことになっていることを予想できる。
 既に選択の余地はない。
「ゆ、ゆららお姉ちゃん・・・・ウウ」
「可愛いよ、由加里ちゃん」
 暗がりの中でも、由加里は抜け目がなかった。それよりも、照美にたいする恐怖感がそうさせたのだろうか。思わず、落としてしまったゆで卵を摑むとポッケに入れる。そうしながら、なお、ゆららの下半身に身を委ねている。
 ゆららは、由加里の二重性について疑いもしなかった。ただ、可愛らしい女の子にしか見えなかったのである。そうすることで、かつて自分が受けた心のキズを癒していることにはさらに気付きようがなかった。
 そんな幼い少女に身を委ねることでしか、狂おしい孤独を癒す方法を由加里は見つけられない。まるで赤ちゃんが母親にもとめるように愛情を求めた。いつしか、小学生のような小さな膝を枕にして、猫のように丸くなっていた。
 言うまでもなく、とろけそうなほどに性器を濡らして喘ぎ回る姿は、単なる幼児となんら変わらない。
「かわいい・・・」
「ウ・ウ・ウ・・ウウウウウ・・ウ・ウうう?!」
 深海の底に身を沈めてしまいたくなる恥辱の中で、由加里はなおも官能の疼きを求めずにはいられない。秘肉を弄ばれながら、ハマグリを肥え太らせながら、知的な美少女はなおも啼き続ける。
 惨めだった。あまりにも惨めとしか表現できない。何と、この少女はいかに感情の渦に自我が巻き込まれようとも、心の何処かに理性の星が輝きをなくすことがないのである。換言すれば、脳内仮想RAMを維持しているようなものである。

 由加里は思う。簡単に狂ってしまえる人間は幸せだと、何処かの本で読んだのだが、それは鋳崎はるかが貸与した猥褻な図書の中に挟まっていたのかもしれない、その中に、発狂とはそもそも精神のブレーカーが下りたことを意味する、よって、完全なる自己保全なのである、とあった。
・・・・どうして、狂うことができないの!?
 消え入りたいほどの恥辱と惨めさに、由加里は思わず呻いた。しかし、口から出ることばは、それとは裏腹に、同級生に救いを求める言葉だった。
「はあ・・・ぁぁ、あ、ゆらら・・ゆららお姉さん・・ウウ・ウ・ウウ、うう、お、お願い、ゆ、由加里を嫌わないでぇぇぇえ・・・!」
 かつて、幼いころ、少女は一人称の代わりに「由加里」を使用することを母親にきつく戒められたことがある。 少女の自我の大部分はその時代に退行していたのである。
 だが、ゆららを実の姉である冴子と混同しなかったあたり、彼女が理性を維持している証左だろう。だが、この時、本質的な意味において、由加里は、ゆららを擬似的な母親と見なしていたのである。赤ちゃんがそうするように、被虐のヒロインは彼女に母性の片鱗を求めていた。

 危うく、「ママ・・」と発生しそうになった。
 それが、知的な少女の理性を完全に目覚めさせた。
「い、いや、ゆららちゃん!」
「・・・由加里!」
 由加里は、いや、ゆらら本人ですら予想できない事態が起こった。ゆららの平手打ちが少女を襲ったのだ。怖ろしく研がれた鎌が振り下ろされたように、知的な美少女は感じた。顔が半分に切り裂かれたような痛みを憶えた。
 その痛みと恐怖感は、彼女が置かれている筆舌に尽くしがたい恥辱を如実に表しているのだろう。
 一方、ゆららは、今の今まで由加里の性器を弄んでいた手を使ったのだが、自分がカメレオンのように変わってしまったことに、今更ながらに気付いた。
「ゆ、由加里ちゃん・・・・・私ったら」
「・・・・・・・・」
 声もなく泣き崩れる由加里に、小さな中学生は何もすることができない。ただ、呆然と見下ろすだけだった。その時、非常出口の向こうから、死に神の鎌のような女性の声が響いた。
「そこに誰かいるのですか?警察を呼びますよ」
「・・・・!?」
 その声を聴いた途端に、ゆららは脱兎のごとく逃げ出した。友人を見返える余裕もなく、ひと滴(しずく)を残しながら、非常階段を駆け下りると病院の外まで逃げ出した。その滴は、由加里への、いや、他人に対する嗜虐の悦びを生まれて始めて知った、いわゆる記念碑とでもいうべき液体だった。その液体の別名は愛液、医学的には、膣分泌液とも呼ばれるらしい。









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『由加里 94』

 看護婦、野上怜夏に陵辱された由加里は、その夜、鈴木ゆららと電話のやり取りをやっていた。午後十時をすぎて、すでに消灯時間となっていたので、密かに非常階段に隠れて行っている。
「ゆららちゃん、お願い、会いに来て・・・ウウ」
 既に、相手の都合を気遣う余裕はなくなっていた。知的な美少女の精神はそこまでぼろぼろになっている。
「・・・」
 ゆららは、時計を視て、一瞬だけ沈黙した後に諒と回答した。
 既に門は閉まっているので、裏門から入らねばならない。そこから非常階段が見えるとのことだ。
 因みに、母親は工場で夜勤のために家はからっぽになる。だが、突然、電話がかかってこないとも言い切れない。
「仕方ないか・・・・」
 少女は、手を洗うと夜の街に飛び込んだ。実は、さいきん憶えはじめたオナニーに耽っていたのである。少女にとってみれば、それは怖ろしい秘密だった。偶然、入浴中に性器の周囲を洗っているうちに不思議な感覚に気付いたのである。

 性器の特定の部分を刺激すると気持ちいいことを憶えた。いや、最初は、それが快感であることにすら知らなかった。ただ、少し触れるだけで全身が震えるような気がする。それは今まで少女が感じたことがない感覚だった。 苦痛でもなければ、単純に気持ちいいわけではない。
 さらに不思議なことは、自室で触れているとしだいに局所が湿り気を帯びることだった。怖い物見たさで鏡に自分の股間を写してみた。母親に気付かれないように、まっくらな部屋で少女は懐中電灯の明かりを頼りに、局所を調べた。
 すると、尿が排泄される穴とは別の穴があり、あるいは、豆粒のようなものが存在して、そこが苦痛でもない、 あるいは、単純な快感でもない、そんな奇妙な感覚の源泉であることを知ったのである。その時は、母親が呼ぶ声に邪魔されてその時点で終わってしまったが、それから定期的にこの行為に耽るようになった。
 そして、それが快感に変わるのは時間の問題だった。だが、本当におそろしいことはオナニーの最中に起こった。それは、自分が悶えているとき、特定の映像が浮かんでくることだった。

 教室で、高田や金江たちにいじめられている映像が決まって、少女を襲うのだった。惨めな慰みものになっている、そんな自分が、得も言われぬ快感と同居するのだ。
 夜の街を自転車で走っていると、さきほどまでいじめていた性器の辺りが刺激されて、なお自慰を続行しているような気分に陥る。
「ウウ・ウ・ウ、あ、あ!!」
「危ない!何処を見ていやがる!!」
 怒鳴り散らしてきたのは、トラックの運転手ではない、高そうなスポーツカーである。こんな時間のためにゆららを怒鳴った男の顔を確認したわけではないが、いわゆるイケメンと呼ばれる優男のような気がする。
「痛ッ・・・・!?」
 
 危うく転ぶことは免れたが、大腿をハンドルにしたたかに打ち付けて、苦痛に眉を顰める結果となった。
 性的な官能など何処かに飛んでいってしまった。
 とにかく、病院まで急がないといけない。さらに自転車を漕ぐと、病院の裏口が見えた。同時に非常階段が見える。相当大きい病院だが、裏口はそんなに大きくない。
「気持ち悪いな・・・・」
 ゆららの感想通り、まるで廃病院を思わせる外観は、肝試しにでも使われそうな不気味さを醸し出している。しかし、今までそんな趣向に誘ってくれる友人がいなかったことも、また確かなことだ。それを思うと別の意味で寂寥感に胸が痛む。
「海崎さん、鋳崎さん・・・・・」
 つかさず、新しい友人の名前を呪文のように繰り返してみる。ファーストネームで呼んでいいと言われているのに、そんな風に読んでいることじたい、心の奥底では信用していないのだが、表層意識は自分の中に取り込もうと何とか努力しているようだ。
 桃の誓いだったか、自分の知らないことを幾らでも知っているあの人たちの庇護を受けられるならばなんでもできるような気がする。もう、以前のような身分にはけっして戻りたくない、何としても!

 非常階段に近づくとゆららは、すすり泣く声を聞いた。幽霊かと怖れたが、すぐに西宮由加里だとわかった。
知らない人間が見たら、10人のうち、9人がこの世のいきものだと見なさなかったにちがいない。それほどまでに惨めったらしく見えた。
「ゆ、ゆららちゃん!!」
「ゆ、由加里ちゃん、危ない!」
 ゆららを認めた瞬間に、立とうとした知的な美少女は危うく階段から転げ落ちそうになった。だが、すんでのところで、ゆららに受け止められた。小さな身体で由加里を抱き締めた。その身体は驚くほどに冷たい。夏を予感させる生暖かい夜なのに、少女の身体は雪道を何時間も歩き続けたかのようだ。
「とにかく、座って」
「ウウ・ウ・・ウ、うん」
 ゆららの腕に冷たいものが落ちた。雨が降り出したのかと思ったが、由加里の涙だった。携帯の照明で彼女の顔をみようとする。
「ぁぁ、み、見ないで、こんな顔、いや」
 さらに激しく泣き続ける由加里の横に座ろうとする。身体が密着すると、彼女の哀しいきもちが伝わってくるように思えた。
「友だちなのに?」
 ゆららの何気ない一言が、さらなる号泣を呼ぶとは想像できなかった。
「と・ともだち?ぁ・・・ウウウウ!!」
 惚けたようにそう言うと激しく泣き出した。膝に顔を埋めて身体を尋常ではない動きで振動させている。これが煌びやかだった西宮由加里だとでも言うのだろうか。たくさんの友だちに囲まれて、きら星のように輝いていた知的な美少女だとでも言うのだろうか?

 ゆららはふいに優しい心に自我を委ねようとした。しかし、次の瞬間には、ふたりの恩人を思い浮かべていた。
(ここで怪我をさせるわけにはいかないのよ!新学期までに登校させないと!)
「ゆららちゃん、お願い、助けて・・・・ウウ・ウ」
「由加里ちゃん、私だけじゃないよ、クラスのみんなが味方だよ。もう大丈夫、いじめられないって」
 誰かに対して「いじめられている」という言葉を使うのは優越感を伴っていたが、まだ、彼女はそれを意識していない。哀れなことに、この小学生じみた少女は、優越感という概念そのものが理解できないのだ。
だが、それを罷り成りにも経験しはじめている。もっとも、それを意識したとき、彼女の優しすぎる感性は途方もない自己嫌悪に陥るだろうが、それはまだ先のことである。

「これ以上、ウウ・・うう、この病院にいたら、ウウ・・殺されちゃうよ!助けて、友だちでしょ?」
 由加里は、阿鼻叫喚の地獄に叩き落とされた亡者のように、泣き叫ぶ。経験者であるゆららはぴんときた。
「由加里ちゃん、まさか、病院でもいじめられているの?」
「ウウ・ウ・・ウ・うう?!」
 一体、どういう関係性で病院という場所において、いじめという現象が起こりえるのか、ゆららは訝ったが、院内学級というものがあると聞くので、あり得ないこともないと勝手に納得した。
 由加里は、一方、自分がいじめられていることを認める、そんな劣等感を抱いたことが亡かった。誰からも愛され、尊敬されている、少なくとも、彼女じしんはそう思って疑ったことがない、そのような彼女からすれば想像以上に屈辱なのだ。
「・・・・」
 黙って首を振った。夥しい涙が宙を舞う。その一粒、一粒に、ちゃんと温度があって、由加里の哀しい気持が溜め込まれていると思うと、ゆららはたまらない気持になった。しかし、同時に、先ほど書いた優越感、それは嗜虐心にちかいものだったかもしれない、そのようなきぶんを高揚させたのである。
「・・・ウウ・ウ・・ウ・!!」
「・・・??」
 さらに由加里が身体を密着させてくる。滑り気を残した性器がよじれる。ぐみゅという音が彼女の耳にまで達するかと思うと、顔が紅潮する。
「ど、どうしてこんなことに・・・・ウウ」
「どんなことをされたの?誰に?」
 まさか、事実を打ち明けるわけにはいかない。だが、都合のいい作り話も浮かんでこない。自分から呼び出しておきながら、急に横に座っている小学生のような同級生が憎らしくなった。
「お、お願いだから、それ以上、聞かないで!」
「ねえ、由加里ちゃん・・・」
 ゆららは、自分からその小さな身体をすり寄せてみた。
「うう・・」
 まるで熟れた柿のように柔らかかった。これ以上、すこしでも力を入れたならば、簡単につぶれてしまうかのように思われた。だが、ここで力を抜くわけにはいかない。
だが、どうしてそんなことをしようと思い立ったのか、今でもわからない。鈴木ゆららという少女が生きてきた歴史のなかで、とうてい考えられないほどに大胆な行動だったのだ。
「由加里ちゃん、ここに触れるとヘンな感じになるって知ってる?」
「きゃ・・・」
 おもむろに股間を触れられた知的な美少女は、幼女のように呻いた。
「いや・・な、何を?!」
 咄嗟に何が起こったのか、自分の身体が何に触れられてどんな反応したのか、全く理解できなかった、いや、理解したくなかった。自分よりもはるかに劣ると無意識のうちに見なしていた相手に慰められている、いや、それ以上の行為をされようとしている、その事実に、少女じしん、気付かなかった自尊心が悲鳴を上げたのだ。
「さ、触らないで・・・・・」
「え?濡れてる・・・・それに、何か・・・何?これ」
 ゆららは、下着の上からでもわかるくらいに、由加里の性器は濡れそぼっている。そして、その中に何かが入っていることにも気付いた。
 この小さな女の子に、下半身の恥ずかしい秘密を知られてしまう。照美によって、見えない鎖に縛られた汚らわしい器官が丸見えになってしまう。
「お、お願いだから、もう、やめ、やめ・・・ウウウ!?」
 由加里の抵抗は明かに形だけに、小さな女の子には思えた。しかし、それは自尊心の最後の砦であることには気付きようがない。幼女のように泣き壊れる同級生の内心などに思いを馳せる余裕は、当のゆららにもなかったのである。
 憶えたばかりのサディズムの悦び、それを悦びだとみなすだけの精神が発達していなかった。
 「ぁぁあぅ・・・ぁぁ、ゆ、ゆららちゃん」
 夜、小鳥が囀る。
 誰もそれを聞かない。


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