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『由加里 94』

 看護婦、野上怜夏に陵辱された由加里は、その夜、鈴木ゆららと電話のやり取りをやっていた。午後十時をすぎて、すでに消灯時間となっていたので、密かに非常階段に隠れて行っている。
「ゆららちゃん、お願い、会いに来て・・・ウウ」
 既に、相手の都合を気遣う余裕はなくなっていた。知的な美少女の精神はそこまでぼろぼろになっている。
「・・・」
 ゆららは、時計を視て、一瞬だけ沈黙した後に諒と回答した。
 既に門は閉まっているので、裏門から入らねばならない。そこから非常階段が見えるとのことだ。
 因みに、母親は工場で夜勤のために家はからっぽになる。だが、突然、電話がかかってこないとも言い切れない。
「仕方ないか・・・・」
 少女は、手を洗うと夜の街に飛び込んだ。実は、さいきん憶えはじめたオナニーに耽っていたのである。少女にとってみれば、それは怖ろしい秘密だった。偶然、入浴中に性器の周囲を洗っているうちに不思議な感覚に気付いたのである。

 性器の特定の部分を刺激すると気持ちいいことを憶えた。いや、最初は、それが快感であることにすら知らなかった。ただ、少し触れるだけで全身が震えるような気がする。それは今まで少女が感じたことがない感覚だった。 苦痛でもなければ、単純に気持ちいいわけではない。
 さらに不思議なことは、自室で触れているとしだいに局所が湿り気を帯びることだった。怖い物見たさで鏡に自分の股間を写してみた。母親に気付かれないように、まっくらな部屋で少女は懐中電灯の明かりを頼りに、局所を調べた。
 すると、尿が排泄される穴とは別の穴があり、あるいは、豆粒のようなものが存在して、そこが苦痛でもない、 あるいは、単純な快感でもない、そんな奇妙な感覚の源泉であることを知ったのである。その時は、母親が呼ぶ声に邪魔されてその時点で終わってしまったが、それから定期的にこの行為に耽るようになった。
 そして、それが快感に変わるのは時間の問題だった。だが、本当におそろしいことはオナニーの最中に起こった。それは、自分が悶えているとき、特定の映像が浮かんでくることだった。

 教室で、高田や金江たちにいじめられている映像が決まって、少女を襲うのだった。惨めな慰みものになっている、そんな自分が、得も言われぬ快感と同居するのだ。
 夜の街を自転車で走っていると、さきほどまでいじめていた性器の辺りが刺激されて、なお自慰を続行しているような気分に陥る。
「ウウ・ウ・ウ、あ、あ!!」
「危ない!何処を見ていやがる!!」
 怒鳴り散らしてきたのは、トラックの運転手ではない、高そうなスポーツカーである。こんな時間のためにゆららを怒鳴った男の顔を確認したわけではないが、いわゆるイケメンと呼ばれる優男のような気がする。
「痛ッ・・・・!?」
 
 危うく転ぶことは免れたが、大腿をハンドルにしたたかに打ち付けて、苦痛に眉を顰める結果となった。
 性的な官能など何処かに飛んでいってしまった。
 とにかく、病院まで急がないといけない。さらに自転車を漕ぐと、病院の裏口が見えた。同時に非常階段が見える。相当大きい病院だが、裏口はそんなに大きくない。
「気持ち悪いな・・・・」
 ゆららの感想通り、まるで廃病院を思わせる外観は、肝試しにでも使われそうな不気味さを醸し出している。しかし、今までそんな趣向に誘ってくれる友人がいなかったことも、また確かなことだ。それを思うと別の意味で寂寥感に胸が痛む。
「海崎さん、鋳崎さん・・・・・」
 つかさず、新しい友人の名前を呪文のように繰り返してみる。ファーストネームで呼んでいいと言われているのに、そんな風に読んでいることじたい、心の奥底では信用していないのだが、表層意識は自分の中に取り込もうと何とか努力しているようだ。
 桃の誓いだったか、自分の知らないことを幾らでも知っているあの人たちの庇護を受けられるならばなんでもできるような気がする。もう、以前のような身分にはけっして戻りたくない、何としても!

 非常階段に近づくとゆららは、すすり泣く声を聞いた。幽霊かと怖れたが、すぐに西宮由加里だとわかった。
知らない人間が見たら、10人のうち、9人がこの世のいきものだと見なさなかったにちがいない。それほどまでに惨めったらしく見えた。
「ゆ、ゆららちゃん!!」
「ゆ、由加里ちゃん、危ない!」
 ゆららを認めた瞬間に、立とうとした知的な美少女は危うく階段から転げ落ちそうになった。だが、すんでのところで、ゆららに受け止められた。小さな身体で由加里を抱き締めた。その身体は驚くほどに冷たい。夏を予感させる生暖かい夜なのに、少女の身体は雪道を何時間も歩き続けたかのようだ。
「とにかく、座って」
「ウウ・ウ・・ウ、うん」
 ゆららの腕に冷たいものが落ちた。雨が降り出したのかと思ったが、由加里の涙だった。携帯の照明で彼女の顔をみようとする。
「ぁぁ、み、見ないで、こんな顔、いや」
 さらに激しく泣き続ける由加里の横に座ろうとする。身体が密着すると、彼女の哀しいきもちが伝わってくるように思えた。
「友だちなのに?」
 ゆららの何気ない一言が、さらなる号泣を呼ぶとは想像できなかった。
「と・ともだち?ぁ・・・ウウウウ!!」
 惚けたようにそう言うと激しく泣き出した。膝に顔を埋めて身体を尋常ではない動きで振動させている。これが煌びやかだった西宮由加里だとでも言うのだろうか。たくさんの友だちに囲まれて、きら星のように輝いていた知的な美少女だとでも言うのだろうか?

 ゆららはふいに優しい心に自我を委ねようとした。しかし、次の瞬間には、ふたりの恩人を思い浮かべていた。
(ここで怪我をさせるわけにはいかないのよ!新学期までに登校させないと!)
「ゆららちゃん、お願い、助けて・・・・ウウ・ウ」
「由加里ちゃん、私だけじゃないよ、クラスのみんなが味方だよ。もう大丈夫、いじめられないって」
 誰かに対して「いじめられている」という言葉を使うのは優越感を伴っていたが、まだ、彼女はそれを意識していない。哀れなことに、この小学生じみた少女は、優越感という概念そのものが理解できないのだ。
だが、それを罷り成りにも経験しはじめている。もっとも、それを意識したとき、彼女の優しすぎる感性は途方もない自己嫌悪に陥るだろうが、それはまだ先のことである。

「これ以上、ウウ・・うう、この病院にいたら、ウウ・・殺されちゃうよ!助けて、友だちでしょ?」
 由加里は、阿鼻叫喚の地獄に叩き落とされた亡者のように、泣き叫ぶ。経験者であるゆららはぴんときた。
「由加里ちゃん、まさか、病院でもいじめられているの?」
「ウウ・ウ・・ウ・うう?!」
 一体、どういう関係性で病院という場所において、いじめという現象が起こりえるのか、ゆららは訝ったが、院内学級というものがあると聞くので、あり得ないこともないと勝手に納得した。
 由加里は、一方、自分がいじめられていることを認める、そんな劣等感を抱いたことが亡かった。誰からも愛され、尊敬されている、少なくとも、彼女じしんはそう思って疑ったことがない、そのような彼女からすれば想像以上に屈辱なのだ。
「・・・・」
 黙って首を振った。夥しい涙が宙を舞う。その一粒、一粒に、ちゃんと温度があって、由加里の哀しい気持が溜め込まれていると思うと、ゆららはたまらない気持になった。しかし、同時に、先ほど書いた優越感、それは嗜虐心にちかいものだったかもしれない、そのようなきぶんを高揚させたのである。
「・・・ウウ・ウ・・ウ・!!」
「・・・??」
 さらに由加里が身体を密着させてくる。滑り気を残した性器がよじれる。ぐみゅという音が彼女の耳にまで達するかと思うと、顔が紅潮する。
「ど、どうしてこんなことに・・・・ウウ」
「どんなことをされたの?誰に?」
 まさか、事実を打ち明けるわけにはいかない。だが、都合のいい作り話も浮かんでこない。自分から呼び出しておきながら、急に横に座っている小学生のような同級生が憎らしくなった。
「お、お願いだから、それ以上、聞かないで!」
「ねえ、由加里ちゃん・・・」
 ゆららは、自分からその小さな身体をすり寄せてみた。
「うう・・」
 まるで熟れた柿のように柔らかかった。これ以上、すこしでも力を入れたならば、簡単につぶれてしまうかのように思われた。だが、ここで力を抜くわけにはいかない。
だが、どうしてそんなことをしようと思い立ったのか、今でもわからない。鈴木ゆららという少女が生きてきた歴史のなかで、とうてい考えられないほどに大胆な行動だったのだ。
「由加里ちゃん、ここに触れるとヘンな感じになるって知ってる?」
「きゃ・・・」
 おもむろに股間を触れられた知的な美少女は、幼女のように呻いた。
「いや・・な、何を?!」
 咄嗟に何が起こったのか、自分の身体が何に触れられてどんな反応したのか、全く理解できなかった、いや、理解したくなかった。自分よりもはるかに劣ると無意識のうちに見なしていた相手に慰められている、いや、それ以上の行為をされようとしている、その事実に、少女じしん、気付かなかった自尊心が悲鳴を上げたのだ。
「さ、触らないで・・・・・」
「え?濡れてる・・・・それに、何か・・・何?これ」
 ゆららは、下着の上からでもわかるくらいに、由加里の性器は濡れそぼっている。そして、その中に何かが入っていることにも気付いた。
 この小さな女の子に、下半身の恥ずかしい秘密を知られてしまう。照美によって、見えない鎖に縛られた汚らわしい器官が丸見えになってしまう。
「お、お願いだから、もう、やめ、やめ・・・ウウウ!?」
 由加里の抵抗は明かに形だけに、小さな女の子には思えた。しかし、それは自尊心の最後の砦であることには気付きようがない。幼女のように泣き壊れる同級生の内心などに思いを馳せる余裕は、当のゆららにもなかったのである。
 憶えたばかりのサディズムの悦び、それを悦びだとみなすだけの精神が発達していなかった。
 「ぁぁあぅ・・・ぁぁ、ゆ、ゆららちゃん」
 夜、小鳥が囀る。
 誰もそれを聞かない。


テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

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