自らの排泄物によって下半身を濡らしてしまった奈留は、羞恥心と汚物に対する汚辱感で頭の中が真っ白になっている。さらに、温度を失った尿は、氷の冷たさを親に対して感じさせ、それがいっそう少女に羞恥心を強く感じさせる。
口惜しいことだが、その耐えがたい状況から自分を解放させてくれるのは、このプラチナブロンドの外人しかいないようだった。
奈留は、彼女に訴えようとするが、あいにくとその呼び名を知らないのだ。
「あー」
「何かしら?奈留ちゃん?」
「・・・・・・」
「そうだったわ、私の呼び名を教えていなかったわね」
しばらくの間、意識を何処かに飛ばしているのか、俯いて美貌を陰に隠れさせた後に、再び口を開いた。
「そうねえ、ドミニクというのはどうかしら?」
「・・?ド、ドミニク?」
「さまをつけるのよ、お嬢ちゃん、あなた奴隷でしょう?忘れたの?」
「ぐぃぃぃ!?」
まったく、躊躇くことなく少女の背中を踏みつけた。ハイヒールのかかとが白い肌に食い込む。白人のそれと性質の違う真珠の白に、ドミニクは微笑を浮かべる。
「ほら、正しくお呼びなさい」
「ド、ドミニクさま・・・・」
おびただしく流れる涙で視界が崩れ去る。だが、どうしたことだろう。このように扱われることが自分にとって不自然ではないような気がするのだ。しかし、よく考えてみればそれはおかしいことだ。少女にこのような仕打ちをする人間は世界の何処にも生息していないはずなのだ。
両親に手を挙げられたことはほとんどない。なかんずくあったとしても、他人を侮辱するか、あるいは、自分というものを粗末に扱ったときだ。中でも後者の場合、その怒り方は尋常ではない。あの優しげな両親が変貌を遂げる瞬間である。だが、それは愛情の裏返しだとわかるかたちで怒るから、間違ってもDVをされたなどという記憶の残り方はしない。
それに学校でも奈留は友人というものに苦労したことがない。とびきりの人気者というほどではないものの、常に自分の味方といえる人間に事欠くがなかった。たしかに、彼女を好く人、嫌う人の差は激しかったが、後者から受けるダメージよりも、前者から受ける恩恵の方がよほど多かったのである。
そんな少女がどうして、今のような状況を耐えられるだろうか。
改めて、ドミニク、と躊躇いがちに名乗った女性の顔を仰ぎ見る。そのあまりにも非現実的な美しさが、奈留に、もしかしたら、今、彼女が置かれている状況がすべて夢ではないだろうかと、思わせることを加速させている。
「だけどね、奈留ちゃん、もしかしたら、あなたのそんな記憶こそが夢かもしれないでしょう?あくまでもこちらが現実でね」
「え?!・・・・そ、そんなっ?!」
「そんな目で人を見るものではなくてよ?」
この人は本当に人間なのか?第三階梯の人間という、SFの世界を乗り越えて、少女はドミニクを人ならぬ存在へと格上げしてしまっている。そう考えた方が、自己に起こった状況を自分に納得させることが可能だからかもしれない。
あなたは誰?という問いは、必然的に、自分は誰という?命題を引き出す。
記憶の中で自分に笑いかけている友人たちは、夢にすぎないということか?
「そんなに友達、友達っていうなら、名前を挙げてごらんなさい。できないでしょう?」
「・・・・!?」
ドミニクが顔を近づけると、プラチナブロンドの髪が固有の意思を持った生き物のように、奈留にまとわりつく。彼女の吐息がかかるほどに接近している。どういうことだろう?心臓がドキドキするが、それは恐怖故ではない。この高まりは、あきらかに・・・・そんなばかな!と少女は負けん気の強さでドミニクを睨み付けた。
だが、すぐに目力が緩んでいくのがわかる。どうしたことだろう?奈留は、自分の中に理解しがたい感情が芽吹くのを感じた。彼女に抱きしめてほしい。誰にも愛されない自分を慰めてほしい。
だ、誰にも愛されない?そんなことない!自分を大切に思ってくれる家族も友人も、自分を心配しているに決まっている。いまごろ、警察が動いているだろうから、救われるのは時間の問題にちがいない。
「警察が動いていることは事実よ」
「なら、逃げなくていいの?」
すでに、奈留の心がドミニクに読まれていることに、何の不自然さを感じなくなった。口のまわりが異様にだるい、喋るために口を動かすことすらめんどうくさい。だから、言葉を発さなくても意図を読んでくれることは、少女にとってありがたいのだ。
「心配してくれるんだ?」
「・・・・・!?」
そんなはずがないでしょう?と言いたかった。心が読めるのにそんなこともわからないのか、という気持ちが強い。しかし、一方で自分がひと肌を異常に求めていることがわかる。あまりにも寂しい。
きっと、それはこの異常な状況が、赤ちゃん返りのようなことをさせているにちがいない。
きっと、家族や友人たちが・・・。
「だったら、友達の名前をあげてごらんなさいって」
「ひ?!」
ふいに身体を抱き寄せられて、奈留は悲鳴を上げた。
「や、やめて、やめてくだ・・ううう・・・」
突如として唇を奪われた。なんということだろう、ファーストキスを、こんなに美しい人とはいえ、同性に奪われるなどと、自分にそんな趣味があるわけがない。もしも、あったらとしたら天にも昇る心持だろうか?
いや、ちがうだろう?こんなふうに動物のように縛られて、自由意思もなく好き放題にされた挙句に強制的に接吻させられるなどと・・・・、奈留は、こんなことを考えながら、何か、高級な酒に酔うような気持ちになっていた。
そんな時に流れる涙は、まったく理解不能な味がする。
「ぁあ・・ぁあ・・あああ・・・」
いつしか、ドミニクの舌は唇から移動して少女の喉元に吸い付いていた。真珠の肌が、彼女の唾液によってさらに妖しい輝きを増していく。さらに、鎖骨、胸骨、エナメルに輝くベルトによっていびつなかたちに歪められた胸に近づく。
「ぁあっぐう・・・!?」
乳首に、ドミニクの唇が吸い付くと、少女はすっとんきょうな声をあげた。自分の身体に起きたことが信じられないのである。何か、真っ赤な両生類のような小さい動物が、身体の中で暴れているような気がする。
「やーあぁぁあ」
ドミニクの舌は、さらに下降していく。臍、下腹部、そして、つにいに、少女のもっとも恥ずかしい場所へと向かっていった。
「ぃああいや、そこは、いやあああぁあぁあ!?」
小陰脚、クリトリス・・・・ありとあらゆる、性器の構造物を支配していく。
「ふふ、そんなに気持ちいの?」
「そ、そんなことない!や、やめて!いやいや!」
「オナニーとか、もう経験しているんでしょ?毎晩、これしないと眠れないくらいに淫乱なのは、わかっているのよ、見てみればわかるわ。こんなに男のモノを要求してるんだもの」
「そ、そんなことない!!」
ドミニクの言っていることが理解できる年齢になっているだけに、少女は顔を赤らめた。
「人に見られるのも、うれしいでしょう?奈留ちゃんは、私は知っているのよ?」
「・・・!?」
顔をしかめると、ドミニクの双眸がきつくなった。
「普段のあなたを知っているから、そういうのよ、私は」
いったい、普段の自分の何を見てそんなことをいうのだろう?奈留は不思議でたまらなかったが、性器をさらにまさぐられておもちゃにされる中で、何か、それも嘘ではないような気がして、さらに羞恥心が刺激されるのだった。
すべてが終わった後に、奈留はよだれを垂らして、頂点に達していた。
「ぁはあ・・はっぁ・・・ぁああ・・・」
「ほら、赤ちゃんじゃないんだから、よだれを拭いてあげる。こんなにいやらしいのに・・・ふふ」
「ぃいやあ・・ぃやああ・・・」
不快な既視感が襲ってきて、少女を打ちのめす。自分はこんなことをされたことなんて、一度もない。性器を人に見られたことなんて、おそらく、経験にないことだ。おそらくと、カッコウつきなのは、自分が赤ん坊の時におむつを替えたことあるような人間は、きっと、視たことがあるにちがいない。しかし、題名も思い出したくない、奈留が間違って読んだ小説のように、その中では大学生が女の赤ちゃんを誘拐してきて、彼女の性器を舐めるシーンがあったのだ、よほどのヘンタイでなければ、単なる裂け目を性器だと認識することもないし、視られている方はまったく記憶にないのだ。
「奈留ちゃんは、露出狂の変態みたいだけど、そんな姿をいちばん見せたい人を連れてきたわ」
「・・・え?!」
咄嗟に言われると、ふいに指が鳴らされる音がした。
「な、奈々!!?」
なんと、奈留の視界に入ってきたのは、この世でもっとも可愛らしい妹だった。まだ、小学生の彼女は、奈留のように全裸にされた挙句に、全身をエナメルに光るベルトで拘束されている。その上に、小さな口は限界まで開けられている。見るところ、姉よりもずっと大きなさるぐつわを嵌められているようだ。
「あなたと違って、ほんとうにおとなしい子なのね、外見も、性質上も、だけど、あなたに対する感情だけは違うようよ」
「私に・・・・!?」
全幅の信頼を自分に預けているはずだ・・・いや、そんなことよりも・・奈々!
「お、お願いだから、奈々を助けて!なんでもします!奴隷でもなんでもいいです!私は返さなくてもいいから、妹だけは!!」
自由にならない身体を芋虫のように歪めて、少女はドミニクにすがる。しかし、まったく意に介さないと言う風に、彼女は立ち上がると、少女の小さな顎を無理やりに奈々の方向に向ける。
姉と違って、本当におとなしげな表情をしている。だが、姉に気づくと大きな瞳を疑念に歪めた。
奈々、どうして、そんな顔をするの?きっと、ひどい目にあわされたのね?かわいそうに!
「ちがうわよ、奈々ちゃんは、あなたが虫唾が走るくらいに大嫌いなのよ」
「そ、そんなことない!!」
「ふふ、そうかしら?あなたを見る、妹さんの目を見てごらんなさい」
美女が顎をかすかに動かすと、奈々を連れてきた男、なんと、奈留を捕縛したあのサングラスの大男だ、彼は軽々と妹を持ち上げた。
しかし、その可愛らしい顔は恐怖に歪むどころか、姉をひたすらに疑念と憎しみを含んだ視線を送ってくる。
かつて、妹にそんな目で見られたことはいちどもなかった。それなのに、どうして・・・奈留ができることは絶句することだけだ。
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