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『マザーエルザの物語・終章 3』
 
 地平線が咆吼する。
 乾いた音が、大地に響き渡る。
  男が怒りを爆発させ、女がそれを受けた。10000年以上にわたる男女の歴史において、常にあったことである。
「これで気が済んだの?」
 しばらく続いた沈黙の後、口を開いたのは、女だった。平手打ちを受けた頬がほんのりと赤くなっている。

 東ヨーロッパ特有の人種的特徴が、花を開いている。すなわち、小さな顔、品よく尖った鼻と、上目がちな瞳、ちなみに、瞳の色は、薄いマゼンダ。
「しゅ、修道女に飽きたらずに、汚らわしい土民の世話人になるつもりか!」
「いやな言い方!」
「いや、お前は僕との関係を清算したいだけなんだ!既に神の教えに背いているくせに、今更ながら、救われたたいのか?お前はもう、最後の審判で救われないんだよ!」

 ビシッ!
 
 今度は、男の顔を平手打ちが炸裂した。無精髭が新芽を出した顎が、男の匂いを発するそれはまるで、叩きつけられた綿毛のタンポポが、種を飛ばすようだ。
「それ以上、言ったら、顎を砕いてやる!」
 上品な顔と声に、似合わない言い方が、さらに男を興奮させる。
「よくも、他人に祝福を与える修道女が、そんな口がきけるな」
「・・・・・・・・?!」
「ちがうか?もはや、修道女じゃないもんな、男と姦淫しやがって、アギリに行くっていうなら、バラし てやる!事実をな、お前は追放されるんだ!」

 男女のバトルは、地平線の見える農場で、続行している。枯れ木と崩壊直前のブランコは、何を暗示しているのだろう。
 しかし直線だと思われた地平線は、一瞬で歪んで歪んだ。
「家族や恋人を犠牲にして、何が、土民の救済だ!?」
 今、地平線の歪みは、極度に達した。それはすなわち、その世界の消滅を意味する。

「啓子ちゃん?!」
「はあ!はあ!はあ!」
 赤木啓子は、肌の表面で息をしていた。走ってもいないのに、全身、珠のような汗が滲んでいる。興奮する事由もないのに、アドレナリンが全身に分泌される。そのために、燃え上がった怒りで、頭が割れそうだ。

「怖い夢でも見たの?!」
 親友であり、幼なじみでもある榊あおいは、心配そうな視線で、啓子を、包もうとする。
 ここは、啓子の部屋、普段寝ているベッドは。一人では、広すぎるくらいだ。あおいが側にいるだけで、安心感が生まれる ――――はずだったのに、あんな悪夢を見てしまった。あんなと言っても、その内容を具体的に示すことはできない。

 薄暗い闇には月光すら入ってこない。仄かなランプだけが、唯一の灯りだ。

 「そんな目で見るな!そんな資格がお前にあると思うのか!?」
「啓子ちゃん?」
 「ア・・・・?!私、何を言っているのかしら?」
「啓子ちゃん?どんな夢を見たの?」
「ううううっん?」
 首を捻る啓子。
「ぜんぜん、憶えていないわ、でも夢を見ていたのはたしかよ」

 憶えていない夢というのは、非常に、不快なものだ。何処か、他の場所にいたという感覚はある。それは強烈で、時ににおいや風の声までわかることがある。しかし、細かなことは全く憶えていないし、ストーリーを再編成することもできないのだ。これほど不快なことがあろうか。裁判所に足を踏み入れた記憶もないのに、気が付いたら刑務所に収容されている。あえて表現するならば、そのようなイメージである。

「どんな夢だったのかしら」
あおいは、気楽に言う。何故か、無性に腹が立ってくる。裏切られたような怒りが込み上げてきた。
「ねえ、お風呂に入らない?」
「また?」
あおいは眠そうな仕草で目を擦りながら言う。
「だって、あおいは眠いもん」
甘えた声を出す。
「なら、いいよ、今度起きたら、親友は溺れ死んでたってことがあるかもね」
「わかったわよ」
仕方なくあおいは諒とする。
「でも着替えが一日分しかないよ」
「私の貸してあげるって」
啓子は、早く全身の汗を拭いたいのだ。ちなみに、赤木家の風呂は24時間営業中である。
どんな時でも40度を保っている。

 「だけど、本当に、あおいちゃんは子どもね」
「何よ!」
 全裸になったあおいは、顔を真っ赤にさせて怒った。啓子のように、ふたり並べてみると、同じ小学6年生なのかと、疑念を抱かせる。前者は、その胸も幼いなりに、こんもりともりあがり、乳房らしきものを形成している。しかし、あおいのそれは、男の子そのものだ。
「本当は、おちんちんついているんじゃないの?何処に隠しているのよ!」
「いやあ!啓子ちゃんたら!もう!」

 あおいの大腿を無理矢理に開かせようとする。それに抵抗するが、体格の差が、あえなく恥部を視られてしまう。そこには無毛のスリットがあった。男を受け入れる気配すらない。器官そのものが使命を憶えているのかが、はなはだ、疑問だ。
 啓子は自身の恥部と比べて、可愛いと思った。
「まだ、生えてないんだ」
「見ないでよ!」
 親友の声が、泣き声になったのでやめる。
「こんなことで泣かないでよ、まるでいじめているみたいじゃない」
「違うわよ!いじめっていうのは、こんなことを言うんじゃないの!?」
「あおい?」
ただならぬ様子に驚く。
「はやく、入ろう」
 それを打ち消すように、中に誘う。

「でも、24時間完備っていいな」
 あおいは、湯の温かさを全身で感じながら言った。
「そうでしょう?あおいちゃんの家でもやればいいのに」
「うん――――」
 あおいは気づいた、家のことを話すとき、その可愛らしい顔に、影が射す。何かあったのだろうか? あんなに仲のいい家族は、探しても簡単に見つけられないだろう。家族の誰かが病気なのだろうか。 それなら、啓子に話してくれてもいいはずだ。多少なりとも、水くさく感じた啓子は聞いてみた。
「みんな元気?」
「うーん、元気だよ」
 歯切れの悪い返事。
「そう?何か心配そうだったから」

 大人びてはいても、しょせんは、小学生である。無意味に畳み掛けてしまった。
「何でもないって言ってるでしょう!」
 あおいは、湯面を両手で叩いた。水しぶきが、少し離れた啓子のところへも飛んでくる。

―――――どうしたの?あおいちゃん。
 その表情からは、何も読み取れない。まるで、さきほどの悪夢のように、焦点にフィルターがかけられているようだ。核心部分を見ようと集中すればするほど、ぼやけてしまう。彼女の幼いからだの何処に、そんな苦悩が隠れているのだろう。同い年にもかかわらず、啓子は、そう思った。

「あおいちゃん」
 まるで壊れものに触れるように、あおいの肩胛骨に手をかけた。その幾何学状の隆起は、かすかに震えていて、少女の悲しみを表していた。今は、その具体的な中身はわからない。しかし、今は、それごと抱きしめてあげようと思った。

「啓子ちゃん・・・・・・」
 あおいは、思いあまって、泣き始めてしまった。
「・・・・・・・啓子はいつでも、あおいちゃんの味方だよ」
 柔らかい肌の感触が気持ちよかった。それだけに、彼女が悲しんでいるのが、辛い。気持ちよさを共有できたらどんなに嬉しいか。今までは、それを無条件に愉しむことができたのだ。それが、今や、 彼女の中の一部が、何処か隔てた場所に行ってしまったかのように思える。

 あおいは、母親である久子が運転する車で、帰っていった。その最後の表情が、啓子には印象的だった。後ろ髪を引かれるような、目つきだった。久美子の様子も何処かおかしかった。たしかに表面的には、いつもと変わらなかったが、何かしら演技しているような顔つきや手つきが、啓子に不審を与えた。母と娘という役柄を演じているようにしか見えなかったのである。昨日のことで、母親と話していたので、後で聞いてみようと思った。

「じゃあね、啓子ちゃん、あおいお礼を言いなさい」
「ありがとうね、啓子ちゃん」
「うん」
 ドアの閉まる音、エンジンの始動音。みんな何処か、ウソっぽく、三流俳優の演技のように空々しかった。
「ママ、何処かおかしくない?さっき、何を話してたの」
「子どもには関係ない話しですよ」
 こういう時、久子は必ず、自分の子どもにまで丁寧語を使う。

―――――これ以上、聞いたらいけないのか。
 無言のメッセージが伝わったと解って、満足そうに笑った。
「何処に行くの」
「庭に水やりに行くのよ、付いてくる?」
このことは聞いて良いようだ。啓子は如雨露を取りに行った。
「フォースもお願いね」
「わかった」
 物置から青いフォースを引っ張り出す。掌に絡みついてくるゴムの感触は、忘れたくても忘れられない過去のように思えた。それはいたずらに巨大で、胡散臭かった。
「あ」
 そのとたんに、中に残っていた水が飛び出た。その一滴が顔にかかった。過去には、まだ生きている内蔵が備わっていた。いや、中身を失った血なのか。夕日に映えて、いくらか赤く見えた。
「啓子、何をしているの」
フォースを引きずって、広大な庭まで連れて行く。
「そろそろ夏も本場ね」
「地平線見えるかな?」

 啓子は、ファースから飛び出る水を見つめた。それは、放物線を描いて、その中に虹を作る。虹の向こうに、地平線を想像したのだ。いや、思い出したのかも知れない。
「何をバカなこと言っているの、アメリカやアフリカじゃあるまいし」
「ニフェルティラピアは?」
「何?何処にある国?」
「バルカン半島」
 自分で答えていて、肉体は今ここにあるのに、魂は他の場所に旅行でもしているような気がする。そんな不思議な感覚に囚われていた。
「どうかしら?地平線見えるのかしら」
母親の言葉は、もう啓子の耳に届いていなかった。




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『マザーエルザの物語・終章 2』
 赤木啓子の家は、都心から車で10分といったところにある。緑に覆われた高台の真ん中に、その閑静な住宅街はある。
 彼女の母親が運転する車は、今、桜の花が降りしきる大通りを走っている。すぐ、そこの道を併走する少年がいたが、一瞬で追い抜いてしまった。

 「わあ、桜、キレイねえ」
「啓子ちゃんは、いつも見てるのに。」
 啓子の発言に難癖を付けるあおい。
「あおいちゃんは、桜好きじゃないの?」
 そう言っている母親は、祥子というのだが、実のところ、桜が好きじゃない。何故ならば、彼女の許可なしに車に積もった花びらの掃除が面倒だからだ。相当な資産家とはいえ、家族は、家のなかに他人を入れるのを好まない。使用人がいないのだから、自然と主婦である彼女の仕事になる。

 「別に、好きでも嫌いでもないよ。だけど甘くて食べられたら好きかな――――」
あおいは、無邪気に言いのける。
 今、車が左折したために、少女のランドセルの左部分が圧縮された。乾いた皮のニオイがわずかだが、発した。きっと、それには少女の汗の臭気が含まれているにちがいない。
 
 桜で有名な公園を抜けると、啓子の家はすぐそこだ。

 巨大な鉄門を潜ると、車は大きな車庫に入る。小さな養鶏場くらいの面積はあるだろう。しかし、あおいは、別に驚きはしない。何度も訪問しているからではなくて、実家がそのくらいの経済力がなければ、この学校に入ることはできないからだ。
  そこから5分くらい歩くと、ゴシック様式を真似たと思われる洋館が出現する。マネゴトとは言っても、本物が、巨大な大聖堂であることを考えれば、その洋館がたいした屋敷であることは想像できるはずだ。
 
 ふつうの家庭環境で育った者から見れば、それは、必要以上に広いと映るのであろう。
二人が上がった玄関は、ピカピカに磨き立てられている。たしか、京都か奈良に、そんな寺があったはずだ。真っ黒な床を見ると、まるで満月の湖面のように、自分の顔が見えた。陰毛が恥ずかしかった、そんな時代のことだ。
 話を元に戻そう。もちろん、この二人のスリットには、陰毛のいの字も見ることは出来ない。

 「あおいちゃん、早速調べよう」
 革靴を脱いだ啓子は、すぐに誘った。
「えー?もう?」
 あおいは不満顔だ。
「一体、何を調べるの」
「マザーエルザ」
 母親に即答する啓子。

「小学生らしくていいじゃない」
 あおいが脱ぎ散らかした革靴をそろえる母親。黒光りする靴からは、清潔な消毒薬のにおいと、女の子特有の脂のにおいが、たぶんに、蓄えられていた。しかし、彼女は別にそういう趣味がないために、全く反応しなかった。
「あ、ごめんなさい」
「これからはちゃんとしようね」
 彼女は、あおいの頭をそっと撫でた。

―――――かわいい、かわいい。
 あおいは本当に愛されていた。どんな所に行っても、誰にでも愛される。そして、それを当然のように思っている。啓子は、妬ましかったが、それよりも妬ましいと思う自分自身が嫌になっていた。
「はやく、パソコンの部屋においでよ」
「うん」
 啓子が言うパソコンの部屋とは、居間のことである。当然のことながら、こんなに金持ちなのに、娘にパソコンを買い与えていない。それは、あおいの親も、そうだが、それぞれ、娘たちを愛しているからである。常に監視が効く、居間に共有のパソコンを設置してある。

 「マザーエレザ、マザーエレザ」
 啓子は、Google検索に、その文字を打ち込んだ。母親の微笑が、宙に舞う砂金のように、二人の少女に降り注いでいる。それに気づかない二人は、モニターの情報に釘付けになった。
 
 ~1910年12月27日、ニェルティラピアに生まれる。アグネ=ゴンジと名付けられる。二人にとってみれば気が遠くなるくらいに、過去である。ちなみに、この屋敷の門には、1910年、建築と大理石の門構えに彫りこんである。
「え?マザーエレザって本名じゃないんだ。ていうことは芸名ね」
「啓子ったらそんなんじゃないって!」

 ――――?
 啓子は、不思議に思った。他人が軽く言ったことを、真に受けることはよくあるが、今回はちょっとちがう。何をむきになっているのだろう。
「すごいな、金持ちに生まれたのに、アギリに行って、困った人を救うなんて、えらい人だな」
「でもさ、家族は心配しなかったのかな。もしも、ママや姉ちゃんたちが、貧しい国に行くっていたら、ヤダな」
「そんなことない!!なんで、彼女じゃないのに!そんなことがわかるの!?」
「あおいちゃん・・・!?」

 さすがに、啓子も祥子も、あおいの剣呑な態度には驚いた。こんな彼女を見たことがなかった。あおい自身、自分の胎内に宿した子のことを、よく理解していなかった。この時、思いがけず、為した子は、彼女じしんばかりが、周囲を巻き込んで、古傷を蘇らせることになるのである。そのことを、二人は知るよしもなかった。
「ごめんね、啓子ちゃん、だけど、わかるんだ。アギリの人を助けたかったんだよ!きっと」

 「・・・・・・・・・」
モニターを見つめるあおいの視線は真剣そのものだ。まるで、彼女の視線が、モニターに乗り移ってしまうのではないかと、危惧させるくらいに普通ではなかった。
「でも、当時のアギリって今みたいに、ITが発達していたわけじゃないんでしょう?みんな貧しかったのよね」
 「今もそうは変わらなかったと思うわ。ITが発達していると言っても、ごく一部のことで、ほとんどの人は貧しい生活を強いられているのよ」
 祥子が口を挟んだ。
「ふうん」
 今、周囲にあるのは、当然の結果ではない。手足が完備されているのは、当たり前のことではない。鉛筆で文字が書けること、ふつうに歩けること。それらは、決して、当たり前のことではないのだ。
そのことを知るのも教育の成果である。しかし、この時は、まだ少女たちは、自分たちが置かれている状況がどれくらい恵まれているのか、自覚が足りなかった。

 二人が見つめるホームページには、マザーエレザが慣れない異国で、どのように奮闘したかが、如実に書かれている。

――――何処かで見たことがある。
やせ細った真黒な人間が、老女に撫でられて、感涙している。そんな映像を見ているうちに、あおいの中で、わけのわからないデジャヴュが生まれてくるのがわかった。見たこともないはずの世界が、彼女の中で、化学変化を起こしているのだ。
 
  いささか、緊張はしているせいか、油の乗った手で、マウスを動かす。
 まるで、アルバムを見返すような、気分で映像を通り抜けていく。30分に渡って、二人はモニターに釘付けになっていた。しかし、小学生の集中力はそれほど続くわけはない。やがて、あおいの手は、邪な方向に移動していく。Google検索、そして、少女の不格好な指は、何やらキーボード上を探索していた。

 「・・・・・・・・・?」
 啓子の目は、その動きをくまなく追っていく。そして、―――――――。
「ちょっと!あおいちゃん!」
 その文字列が示すのは、とあるオンラインRPGのサイトだった。
「やっとメイフィール金貨が見付かったんだよ」
「そんなことやってる場合じゃないでしょう?」
「ふふ、あおいちゃんたら、疲れちゃったんでしょう?啓子、おやつにしようかナバロフのチーズケーキを買ってあるわよ」
「はーい」
「わたしの注意はあまり聞こえないくせに、ママのは聞こえるらしいわね」
 いささか、軽蔑の色が含まれた視線を送る啓子。あおいは、それを無視して、祥子の元に走る。

 「はい、はい、ケーキは逃げませんよ」
「全く!ふふ」
 文句を言いながらも、啓子も続く。
「マザーエルザって、何故か、家でも評判よくないんだよね」
「おばさんたち?」
「特に、徳子姉がね」
 啓子は、榊家の長女を思い起こした。ちょっと尖った目つきのが特長である。
「じゃあ、私とも話が合いそうじゃない」
「みんな、なんでそんなに悪く言うのかな、聖女なのに、ノーベル平和賞もらったんだよ」
「私はもらう資格がないなんて、偽善的じゃない」
どちらかと言えば、釣り目がちな眼差しが、かすかに光を帯びる。
「ぎぜんてき?徳子姉が、そう言えば、言ってたわ」
「啓子は心がねじ曲がっているから、そう見えるのね」

 祥子が助け船を出した。
「そうだよね、啓子が好きなのって、織田信長とか、この前言っていたのって、誰だっけ、ソウソ?」
「曹操!中国の英雄よ」
「英雄って、人殺しでしょう?」
「そうねえ、曹操は才能を重んじたのよ、30分も勉強が続かない、あおいちゃんなんて、殺しちゃうかもね」
 「今、ソウソなんていないもん」
「曹操!それに、もしも1500年前にいたらの話し」
「今は、1500年前じゃないもん」
あおいは、最後のひとかけらを呑みこんだ。
「うん、美味しい!1500年前に、少なくとも、こんな美味しいケーキはなかったわね」

 「ふたりは、本当に仲がいいのねえ」
 祥子は、目の前に現出した絵画に舌鼓を打った。思わず微笑んでしまう。しかし、遠くない将来に、この美しい絵に罅が入ることなぞ、想像できたであろうか?あおいが零すあふれんばかりの笑顔が消えるなどと・・・・。
 
 平和な絵画に亀裂が走ったのは、夕食の後だった。
 
 祥子が作る料理は、ケーキに輪をかけて贅沢なものだったが、その時に、事件は起こった。啓子の家族一同が揃っていた。
 夕食が終わり、デザートという段になったときだ。啓子が姉に言った次ぎの台詞が引き金になった。
「可愛い妹がいるときには、いつもいないくせに、今日は、どうしたのよ」
「可愛い妹?何処にいるの?」
 当然、これは冗談である。姉の怜夏は既に大学生だから、家族と夕食を共にすることはすくないのだ。それを皮肉った啓子に、いつもの返事をしただけった。
一同は朗らかに笑いを添えた―――――はずだった。しかし、 ―――――――。

 「・・・・・・・!!」
「あおいちゃん?どうしたの?」
あおいはデザートを突っつくはずのフォークを落としてしまった。しかるのちに、立ち上がると、怜夏を睨んだ。血相を変えたその顔は、今までのあおいではなかった。
「あおいちゃん?」
怜夏もあおいのただならぬ様子に、とまどいを隠せないようだ。

 すべてが凍り付いて溶けないのだと思わせた後、あおいは小さな口を開いた。
「だめ!家族にそんなこと言っちゃ・・・・・だめ!!ぁあ、ごめん・・・・!ごめんなさい」
「そんな、別に、あおいちゃんが悪いわけじゃないわよ」
「ぁ」
小さく呻き声を上げると、両手で小さな顔を覆うと、脱兎のごとくドアに向かって駈け出した。

 「あおい!」
 啓子は、当然のことながら、あおいを追いかける。あおいが走り去った後には、涙の粒が、何粒も転がっていた。
「あおいちゃん?」
 小さいころから、彼女を知っている怜夏である。さすがに不思議に思った。
「ただごとじゃないわよねえ、あの様子。変に他人行儀になったかと思うと・・・・」
 妹のように思ってきたあおいの変容に、驚きを隠せなかった。
祥子は、食卓を片づけながら言った。
「成長の儀式にしては、おかしいわねえ、久美子に電話しておくか」
「だめよ、それはよした方が良いわ、ママ」
 怜夏は、あまり嘴を出すのはよくないと諭す。
 二人が心配しているうちに、ふたりは、はたして戻ってきた。しかし、あおいはもう泣いていなかった。

 「あおいったらおかしいよねえ、小公女セーラを読んでいたんだって、あの話しって、たしか家族にいじめられる女の子の話よね」
「・・・・・・ごめんなさい」
 あおいの作った笑顔は、巨匠の名画というよりは、弟子のデッサンのようだった。しかし、一同は、それを知っていて、知らぬフリをした。
二人は、啓子の部屋に戻っていった。
「ねえ、ママ、セーラーってそういう話しだっけ」
「いや、ちがうと思うけど?」
 あおいが残したのは、疑念のたっぷり仕込まれたケーキだった。

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『マザーエルザの物語・終章 1』
『マザーエルザの物語・終章~1』
1998年4月3日、(愛名46年)

 「みなさん、今日はマザーエルザのことについてお話しをします」
 白を基調にした清廉な教室。そこに、よく通る声が響く。彼女は、子どもたちが大好きなシスターだ。その声を聞くと、みんなまじめに勉強をしたくなる。二人の姉たちのように、あまり勉強が好きではない、この少女でさえ、手を挙げたがる。
 
 「はーい知っています!」
「榊さん、まだ先生は質問していませんよ」
「あははは」
 笑い声が教室に木霊する。しかし、みんな彼女を嘲笑ってのことではない。榊あおいを心から好いていた。
「ふふっ・・・・」
 シスターは思わず、苦笑した。しかし、その目つきは、心からこの少女を愛していると言っている。

 「あなたには、誰も叶いませんね・・・じゃアギリは何処にありますか」
「ここから、ずっと南にあります。中国よりも南です。そして、とても暑いところです」
 あおいは、嬉々として立ち上がると、声に喜びを乗せた。その声は、心底、人生を楽しんでいるように見えた。柔らかな肌のキラメキは、誰よりも健康さを誇っていた。髪の毛と目の色は、ぬばだまの美しさを唄っている。まさに、黒曜石よりも美しい。しかし、彼女は自分の唄の美しさをまだ、知らない、誇ってもいない。余計なプライドはまだ、新芽さえ育っていない。
 
 「座ってもいいですよ、榊さん。みなさん、私の故郷、アギリはとても暑いところです。そして、とても遠いところです。だけど、皆さんを縁遠いわけではないですよ、安西さん、アギリで一番有名な人は誰ですか?」
 「お釈迦さま!」
「そうですね、アブダブラー=シッタルダはアギリ人で一番有名ですね。でも今は、我が国では、そんなに有名でもないのですよ、他にはどうですか?じゃ赤木さん」
「マザーエルザ!」
その時、榊あおいが、受けた衝撃はとても言葉では表現できない。

―――――何?何か用?!
 今、あおいは、何を思ったのか、一秒前のことを、よく憶えていなかった。ただ、自分の名前を呼ばれたと思ったことだけは事実である。
「ねえ、啓子、私の名前呼んだ!?」
「榊さん、授業中ですよ」
 「ハイ・・・・・」
 シスターは、まだ気づいていない。かつて見たる少女と、完全に容貌が変わってしまったのだ。

―――――どうしたの?あおいちゃん?
 啓子は、しかし、何かに気づいていた。異変。知り合って11年になるが、こんな親友の顔は、はじめて見る。

――――具合悪いのかな。
 それは、とても小学生らしい感想だった。しかし、正鵠を射ていたことに、後に気づくのである。今は、あまりにも幼すぎた。いや、あおいは、彼女よりも数倍幼すぎるくらいだ。少女が、これから味わう受難は、麻酔なしで重い虫歯を治療するようなものだった。しかし、彼女が、かつて犯した罪を償うには温すぎるかもしれない。

 「この次ぎの授業までに、マザーエレザについて調べてきてください。これは宿題です。良いですね、榊さん!」
「はい」
「赤木さん、ちゃんと言ってあげなさいよ、忘れないようにネ」
 シスターはウインクを作った。
「はい!」
「啓子ちゃん、忘れないって!」
 あおいは、親友に不満な顔を見せた。
「何度聞いたか、わからないけど?」
啓子は、皮肉な笑顔を見せる。決して、大人の前では見せない顔だ。
黒光りするランドセルに、教科書を詰め込みながら続ける。
 
 「耳にたこができているよ、見てゴラン」
「そんな汚い耳なんか見たくないよ!」
 「何だって!?」
 リコーダーを振り回して、親友を追いかけ回すあおい。男子のいないこの教室では、彼女が一人で男子役を引き受けているようだ。
「何を!!」
  啓子は、負けじと、ゴミ箱を楯の代わりに使った。
バシッ!
 勢いよく、リコーダーはゴミ箱に命中する。しかし、とたんに、中身は床に転がった。級友たちの戸惑う声、声、声。こういう時、あざ笑う声にならないのは、ここが相当のお嬢様学校だからだろう。
 
 相当幼く見えるかもしれないが、少女たちは、既に最上級学年である。6年も使って、この色艶は、不思議とさえ言えた。一方、あおいのランドセルは、皺と傷が目立っている。帰宅してから、勢いよく投げつけるのか、目に見えている。双方とも性格を暗示しているのだろう。

 「そうか?今日は、啓子ちゃんの家に泊まるんだったわねえ、それなら、心配ないか」
シスターと入れ替わりに、入室した教師が言う。
「先生までが、そんなこというんですかぁ!?」
不平不満という文字を顔一杯に書いてある。わかりやすいこの子が、担任は可愛くてたまらなかった。

 「ほら、手伝いなさいよ!」
啓子は、一人で箒を取り出したところだった。
「あ!危ないって」
 電光石火の勢いで、親友に、同じものを投げつける。
「痛い!!何するの!!?」
箒の柄は、弧を描いて少女の額に当たった。おでこが広いので、おでこちゃんと小さいころ、呼ばれていた。

 「コラコラ、はやくしなさい!ホームルームをはじめますよ。あなたたちが終わらないと、始まりませんからね。良いですか?みなさん、それだけ帰るのが遅くなるということです!」
 「ちょっと!あおいちゃん!!」
「ま、いつものことか」
 「仕方ないわねえ!!」
「すぐにやるって言っているでしょう!?どうして、私たけに言うのよ!ひどいじゃない!?え?どうしたの?啓子ちゃん?」

 「いやなんでもない」
啓子は、親友に背を向けて、掃除を続ける。
――――もしも、私だったら、みんなどんな反応するのかな?
改めて、あおいを見る。ぬばだまの黒が、煌めいている。幼い日には、それが嫉視だと気づかなかった。それは、当然だろう「大好き!」「憎たらしい!」という異なる感情が同居しているのだ。同じ舟に敵同士が乗っているのと同じで、不安定なこと、他と比較ができない。

 ようやく掃除が終わったのは15分も後のことだった。二人は、クラスメートたちの友情に満ちたブーブーに囲まれながら、帰宅するのだった。

 聖ヘレナ学院は、小等部から大学まで一貫した教育を行っている。その幼稚舎は、慶應や青学に並ぶ人気を誇っている。あおいは大多数と同じく、幼稚舎から上がってきたのだが、啓子は違う。帰国子女なのだ。それゆえに、毛色が他と違う彼女がなじむのには相当苦労した。誰が?本人が、親が、学校が・・・・である。

 しかし、五年生になってあおいと出会ってから、180度変わってしまった。すなわち、よく教室になじむようになったのである。個性的な性格は、温存したままで、溶け込むことを憶えたようだ。そして、彼女に出会うことで、あおいの中にも変化があるはずだ ―――――――大人たちのほとんどはそう思いたかったにちがいない。

 担任である阿刀久美子は、礼拝堂の屋根裏部屋から、ふたりを見ていた。幼稚舎か大学まで、同じ敷地に揃った学園は広大で、校門ははるか、彼方にある。
 米粒のようなふたりが、校門を駈けていく。

「あーあ、転んじゃうわよ・・あああのドジ」
 久美子は頭を抱えた。あおいが転ぶのが見えたのである。
「どうしました?阿刀先生」
「あ、シスターいえ・・・」
「あの子ですよね、榊さん」
 シスターは浅黒い顔を、向けた。白いシスター服と、好対照を為しているが、人種差別だと思うと言うことができないのだった。チビ黒サンボの件でも、そうだが、日本人は、そういうものに弱い。おそらくは、知らない物には、怖れを抱くのだろう。触らぬ神にはたたりなしというわけだ。

 「本当に、神さまに愛された娘ですね」
「冗談じゃないですよ、心配で」
「誰にも愛されるという美徳を持っています、あの子は。それは天性の物でしょう」
「天性ねえ」
 どうも、宗教者という連中とは馬が合わない。たしかに、悪い人ではないと思うのだ。しかし、この学園の半数を占める宗教者は、不思議な雰囲気を放っている。それを否定することはできない。これまでいた職場とは、何処か違うのだ。
 
 それは、礼拝や聖書の朗読と言った、宗教行為のみにあるものではない。そこはかとなく学園全体を覆っているのだ。
 しかし、教会堂や十字架と言ったオブジェクト。すなわち、ヨーロッパを象徴するものに、本来、敵意を持っていない。敵意どころか、好意、いやそれを職業にするくらい心酔したこともある。
 ちなみに、彼女は史学科出身で、大学院、修士を通じて、ルネサンス時代のイタリアを専門に勉強した。そして、いざ、研究員というところにきて、興味を失った。
 
 イタリア自体にではない。チェーザレ=ボルジアへの愛を忘れたわけではない。加えて、ラテン語に嫌気がさしたわけでもない。
 
 学問というものに、そもそも違和感を感じるのだ。
――――自分は学問には向いていない。どちらかと言うと芸術だ。
今、彼女の視線の先には、美しい少女たちが、アポロンのキラメキに遊んでいる。それは傾きかけた黄金の光だ。太陽は、ギリシア神話では、アポロンである。
いや、アポロン以上に輝いているかもしれない。
――――誘拐されないようにネ、美しい少女たち。
ダフネーとアポロンの神話を思い出しながら、この将来の作家は、微笑むのだった。

 一方、この小学校の桜と梅は、大人たちの足下を駈けていた。彼等の迷惑も、考えずに、である。
  黄色い、まだ、湿った吐息にくるまった声が、飛び交う。
 「ちょっと、今日は京王線じゃないでしょう?!」
「あそうだ」
「あそうだじゃないでしょう?お金の勘定は大丈夫でしゅうね」
 新宿駅で、啓子はやはり頭を掻いていた。
「こっち、はやくしないと」
「い、痛いよぉ」
 啓子は、あおいの手首を掴むと、キップ販売機まで連れて行く。しかる後に、改札まで急ぐ。
「ちょっと!急がなくても!啓子ちゃん、もう、啓子姉!・・・あ」
あおいは、思わず声を詰まらせたが、もう遅かった。
「!!」

  啓子は、ぶんとあおいの手を投げると、言った。
「もう、いいよ、来たくないなら、帰りな」
「あー、ごめんね、啓子ちゃん、ごめんねー!!」
言ってはならないことを言ってしまった。あおいの頭の中で、そのことが反芻される。
 「オネガイだから!」
 あおいは、ホームに到着したところで、啓子のランドセルに抱きついて泣いた。まるで、黒曜石のように、自分の顔が映るランドセル。それは啓子を象徴しているようだった。
――――嫌われたくない、啓子に嫌われたら生きていけない!
あおいは、わんわんと泣く。

 「いいよ、もう―――――」
啓子は、あおいの頭を抱きながら言った。勢いで、黄色い帽子が、脱げてしまった。私立の学校らしく、6年生でもそのようなものを被っているのだ。ふつうは恥ずかしく思うが、幼稚舎から、純粋培養された少女たちは、それを誇りにすら感じていた。特権階級に産まれたことを優位に感じる気持だ。啓子などは、それに反感を感じていた。

 「いいって、泣かないで―――」
「ウウ・・・ウウウ・・」
思わず、慰める啓子が涙ぐんでしまった。
―――――この子相手じゃなかったら、こんな気持にならないのに、どうして?
啓子は不思議でたまらなかった。
その時、まるで空気をくの字に曲げたような音が聞こえる。電車がホームに滑り込んだのだ。

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『マザーエルザの物語・終章~序章』


 マザーエルザという名を知らない者はいないだろう。今、1997年9月5日、彼女の名前に、ふさわしくないくらいに、慎ましい病院で、息を引き取ろうとしていた。
 1910年8月26日に生を受けていらい86年。アギリは、いや、世界はこの女性と時間を共有できたことを神に感謝すべきである。
 世界の誰からも愛され、尊敬された聖女は、今、約束された最後の呼吸をしようとしている。
「ああ、もう息ができないわ」
 そのか細い声は、世界のすべてを貫くほどの衝撃を持っていた。

 「マザー!!」
「あああー!!マザー」
 医師の確認を待つまでもなく、修道女たちは、マザーの御たまが、天に召されたことを知った。目の前に横たわる、人間としてはあまりに、華奢な肉体の中に、マザーはもういない。このことを自己に銘記しなくてはならない、それを自覚するには、よほどの時間が必要だろう。
 今更ながらに、マザーの修行に叶わない自分たちなのだ。そう自覚しても、あまりの悲しみのあまり、理性を失わざるを得なかった。
 
 「ああ、マザー叱ってください!どんなに蔑まれてもかまいません、もういちど、お目を開けてください!」
 その若い修道女は、天に祈った。
マザーの顔は、それは晴れやかな顔だった。神々しいまでに、清らかだった。
 それは、その部屋にいる人間の総意のはずだった。
しかしながら、ある少年、黒人の少年だけは、そうは見ていなかった。
「おばあちゃん、本当に幸せだったの?」

 その言葉は、修道女にとってみれば、涜神ともいうべき恐ろしい言葉だったにちがいない。ただし、その場の誰も、自失のあまり、ちっぽけな子どもの声に耳を傾けなかった。
「おばあちゃん、本当に幸せなの?」
その声は、小さかったが、分子の一つ一つに食い込んでいくだけの力と執拗さを持っていた。
 
 今、陽光はきらめく。この世界の人は、みんなそのきらめきを恨んだ。1997年9月5日という、この日付を誰もが恨んだ。
 しかし、その少年だけは、永遠に、この日付を複雑な気持ちで、思い返すに違いない。

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