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『おしっこ少女 3』


 「・・・・・・・・・・!?」
 気がつくとスクリーンセイバーが陳腐な3D迷路を造っていた。その時、聞き慣れた陰険な声がした。言わずと知れたカメレオンの声だろう。晴海は颯爽とした顔を作らねばならない。
「きみは見所があるんだ。ただ机上の勉強が得意な連中とはひと味もふた味も違うと思っている ――――」
 この両生類と爬虫類の合いの子のような上司が、自分を持ち上げるようなことを言うときには、いつもろくなことが起きない。きっと、その外見に違わない陰険なことを企てているにちがいない。そして、そのおはちが回るのはいつも自分なのだ。
 彼が言うところの『日本の敵』に関する講釈を聴きながら、どうして、あの少女のことが気になってたまらないのだろう。
 あの少女。
 言うまでもなく、佐竹まひるのことである。

 PCに詳しい庁内の友人に頼んで、情報を集めてもらっている。
 当然のことながら、日本は警察国家ではないので、唯一の例外を除いて、晴海たち公安に健全な市民のプライバシーを侵害する権利はない。
 だから、庁内のPC犯罪に詳しい人間に協力を頼んであるのだ。蛇の道は蛇というが、犯罪者を追いかける人間にはその手の技術が必須ということである。
 むろん、まひるの名前は伏せてある。たったひとりの少女の動向をさぐるために、そんなことを同僚に頼めるはずがない。
 口実はいくらでも捏造できる。
 先ほど言った唯一の例外が関係しているのである。

 それは、冷戦が終わって日本唯一の革新政党となった日本革命党のことである。
 ソ連などという代物が世界から消滅して20年。どうせ少数野党であり、日本の政治にほとんど影響力は皆無といっていいのだから、特別天然記念物にでも認定すればいいと晴海などは思う。しかし、公安の老人たちはそうは思っていないようである。
 戦後、一貫して彼らを敵視し監視してきた。当時は必要だったのかもしれないが、冷戦が終わった今、そんなことにどうして国民が供出した貴重な税金を浪費しなければならないのか。CIAやMI6と言った真性のスパイ組織のマネゴトもたいがいにしてほしいと思う、このごろである。
 もっとも、そういう背景があるからこそ晴海の動向を探ることも可能なのでは、あるが・・・・。
 ともかく、今、将来の警察官僚が気にしているのは、佐竹まひるという小娘のことである。同僚からの情報提供とともに、自らも汗を流さなくてはならない。
 彼女の生徒手帳には盗聴器を仕掛けてあるから、逐次、その情報は伝わってくる。
 自宅があるマンションには受信機と録音機が常設され、常時、彼女が学校でどんな目にあっているのか音声として記録している。

 それを仕事場にまで持ち込まないのは、彼女なりの配慮だが、無意識のうちに、泥沼に入り込むことへの危惧が隠されているのかもしれない。

 昼になって食堂でカレー南蛮に箸を突っ込んでいたとき、その男が話しかけてきた。
「麻木さん」
「ああ、加納くん」
 彼は、大学の同窓である。
「短い時間だけど、かなり情報が得られたよ、結論から言うと革命党と対象者の関係は薄いと見るべきだね。だけど、娘さんの学校のことまで事細かく調べるなんて、常軌を逸してやいないかね」
「私もそう思うわ」
 USBを受け取りながら、晴海は自嘲する。
「革命党に対する敵視ってほとんど警察の人間のDNAだからね」
 加納は豚の生姜焼き定食が乗ったトレイを置きながら言った。
「しかし、お兄さんの逆嫁ぎ先はまさに円満な家庭と言うべきじゃないか」
「逆嫁ぎ先? おかしな言い方ね」
「まあね、こんな仕事をしていると独創性を発揮するようなことはなくなるしね、こんなことで欲望を満足されないとやってられないよ」
 実は、ふたりは文学関係の同人をやっていたのである。晴海も、まさかロマンティストとして有名だった彼が、警察に入庁するとか考えなかったものである。
 
 加納は言葉を続ける。
「対象者たる、父親は銀行でそれなりの地位を気づいてるし、仕事関係を当たってみたが、ほとんど文句なした。それに、母親は主婦として近所の評判も上々だ。子供たちも同様だ。まことに理想的な80年代の聖家族と言うべきだろう。そのUSBにすべて入っている」
「ごくろうさん」

―――いつもの通り、情報の処理は頼むよ。
 
 それはUSBごと破壊してくれという意味だが、この部屋で聞かれる人の囁き声や足音、それだけではなく、建物の外から聞こえる車の音、それらと加納の声を同じようにもはや見なしていた。蛇足だが、窓の外に見える山や木を我が物と見るのに借景という言葉があるが借音という言い方はあるのだろうか。
 いずれにしろ、晴海にはBGM程度の価値すらなかった。今はノートパソコン上に浮かぶまひるの顔にしか興味がない。
「へえ、生徒会長やってるんだ、それで、いじめって ――――」 
 加納が提供した情報には、まひるの『友人』たちの情報も克明に書かれている。
 安藤ばなな、各務腹静恵、門崎はなえ、岡島静子、飯倉かのえ。この五人は例の少女たちだろうか。報告では、いじめのことには言及していない。当たり前のことである。潜入捜査くらいしなければ、最低でも尾行ていどのことに手をつけねば、そんな生の情報は入ってこないだろう。

 
 学校、あるいは学園という言葉からどんなイメージを受けるだろうか。外部からの目や耳を避けるように設えられた厚い壁は、生徒たちを守るというよりは、むしろ隔離し、特別な空間を造るためにあると言って良い。
そこには一種の治外法権が存在する。日本国でありながら、日本国の法律が必ずしも適用されない。
 生徒は社会的に言って、特権階級でありながら、一方ではそれゆえに傷ついても何も言えない状況に陥ることがある。加害者も被害者も特権を持っている以上、両者を裁くことは社会が持つ権利の埒外にあるのだ。
特にいじめなどという現象はまさに、その骨頂と言うべきだろう。
 私立望声学園は小中高一貫した教育を行っている。厚い壁と鉄条網に守られた空間は、見ようによっては、アウシュビッツ強制収容所を彷彿とさせないこともない。
 表面的には華やかで健やかなお嬢様学校という顔の影でいったい何が行われているのか。
 巨大で厚い壁は外部の者がそれを伺うことを一見不可能にみえる。

 現在、学園は昼休みの最中だ。生徒たちはめいめいの時間を過ごし、勉強で疲れた脳を休めるべくレクリエーションに勤しんでいる。
 ある少女は読書という手段を選んでいた。
 晴海が見えない食指を伸ばしているとも知らず、佐竹まひるは教室の片隅で文庫本を開いていた。
 そこに、複数の女生徒が近づこうとしている。3人は、しかし、かつて、晴海が目撃したような、列車内でまひるを取り囲んでいた少女たちとは違う。

「ねえ、生徒会長 ・・・・・」
 一人の少女が前に出た。しかしながら、まひるは何処吹く風と活字に没頭している。少なくとも、そのフリをしている。
「生徒会長、佐竹さん!頼むから!」
 我慢できずに、感情を爆発させたのはもうひとりの少女である。
「ふん、何か分からないけど、それが人に物を、いや、生徒会長に接する態度かしら?」
 明かに人を見下した色を美貌に乗せるまひる。こんなとき切れ長の瞳と相まって、純日本的な美少女は圧倒的な冷酷さを発揮する。しかしながら、その態度は、常に背後に注意を払ってのことであると、3人の少女たちは気づいていない。
 まひるは、それを打ち消そうとさらに冷酷な声を綺麗な唇から吐き出す。
「ねえ、外崎さん、あなたはこのクラスの一員よね、だけど、そこの二人は別のクラスでしょう。それなのに、どうして、ここに入ってきているの?! それだけでも、生徒会長に謁見する態度とは言い難いわね」

 即座に、教室に残っている生徒たちの視線がまひるに集まる。そのどれもが一言では表現しにくい憎しみと羨望、そして、軽蔑のいじり混じった複雑な感情に満ちていた。ただ、正しいのは、どれをとっても好意的な性格からはほど遠いということだ。誰もが、このまひるという生徒にマイナスの感情を抱いている。しかし、だからと言って手を出すことはできない。彼女は、それを裏付けるバックボーンがあるようだった。
 女生徒会長は、そんなことまったく意に介さずに、さらに畳み掛ける。
「そんな基本的なことを守らない人と話しはできないわね」
「ま、待って、佐竹さん、お、お願いですから!」
「わた、私たちは外に出ていますから! お願いです、私たちの部活を潰さないでください」
 その一言で、美少女の顔の一部だが反応したことに、誰も気づかない。しかし、安藤ばななは知っていた。まひるの背後で、蛇が蜷局を巻くように足を組んでいる。各務腹以下、四人の少女も一緒にいる。
「部活を潰す。何処の部活だっけ?」  
「そんな、何度も頼んでいる、いますのに・・・・」

 一人、残った少女は打って変わって、態度を一変させて、話し方まで丁寧語を交ぜている。
「外崎さん、あいにくと、あまりにも重要じゃない案件みたいね。記憶に残っていないわ」
「・・・・・・・・・・・」
 その瞬間、クラス中の敵意がまひるに集まった。だが、再び活字の世界に没頭するクラスメートに、どんな影響力も及ぼすことができない。今までの経験からかそのことを悟った少女たちは、ひそひそと同好の士と囁くことで自分たちのストレスを解消しようとした。
 しかし、外崎と呼ばれた少女が示す態度は、このクラスがまひるに示す敵意を燃え上がらせることになるだろう。
「お、お願い、まひるちゃん! 一体、どうしたの? 何で、変わっちゃったの?」 
「・・・・・・・・」
 顔を真っ赤にして泣きじゃくり始めた少女を見ることなく、本という殻に籠もることを続ける。
 そんな態度に、クラスメートのひとりが立ち上がった。
「ちょっと、佐竹!」
「止めなよ!」
 しかし、別のクラスメートが彼女を止めた。その時、まひるの形の良い切れ長の瞳が光った。
 そこには安藤ばななの落ち着き払った顔があった。

「・・・・・文芸部・・・」
 たしかに、彼女はそう言ったのだ。何を言おうとしているのか、明々白々だった。
 まひるが、やおら、立ち上がると自分を呼び捨てにした少女を睨みつける。一連の動作は全く無駄がなく、颯爽としていたから、あたかも彼女の上に正義があるかのように錯覚させた。

――――あの女にみなぎる自信って何?と誰もが殺意に似た悪意を心の何処かに含ませたが、誰もそれを行動に出せ
る人間はすぐには出なかった。しかしながら、数秒が経ったと思われる後に、ある生徒が立ち上がって言った。
「ちょっと、生徒会長に対して失礼じゃない?!」
「そうよ、あんたたち、何様のつもり?!」
 まひるは、無言の内に彼女たちを制すると言葉の刃をクラスメートに向かって指し示した。

「組島さん、あなた文芸部だったわね、弱小の ――。たしか、まだ今月の会報見てないけど?」
「ま、まさか、だって、いいって言ったじゃない!?」
「そう? 記憶にないわね ――――」
 何をしても刑罰を受けないという前提があって、しかも手短に凶器があったとして、その顔を見せられても、凶行に出ないと強弁できる人間がどのくらいいるだろうか。氷のような美貌をいくらか傾けると、黒なのに淡い藍色に輝く二つの目がキツネのように光っていた。そして、形の良い唇は、自分こそが優位で正しいと無言で主張している。

「ウウ・ウ・・ウウウ、生徒会長、し、失礼をわびます ―――」
「よろしい、さきほどの失礼は忘れてあげましょう、あなたの殊勝な態度は十二分に考慮に値します」
 おおよそ、言葉とは力を持つという『意味論』の議論を完全に否定するような台詞が、教室に舞った。しかし、悪意と嘲笑に満ちた言い方に比して、その声は美しくまるでオペラ歌手のように朗々としている。
 クラスのほぼ全員がこの美しい顔を引き裂き、その声を制するために舌を引っこ抜いてやりたいという衝動に駆られていた。
 だが、その中で安藤だけは、一瞬だけだが、意味ありげな微笑を浮かべた。しかし、友人の視線に気づくと、すぐに頬を堅くする。
 言うまでもなく演技である。それは、まひると似ていたが、この世に似ていて非なるものなどいくらでもある。
 前者と後者では、あきらかに演技という面において、中学一年生と大学受験生の英語力ぐらいの差が見受けられた。
 その証拠に、演技の不備を他人に見透かされるようなミスは犯していない。
 あくまで表面的にはクラス中から漂ってくる悪意をものともせずに、飄々としたようすを醸し出している。そんな彼女に箔をつける存在が、いや、そんな価値などない。せいぜいで、虎の威をかる狐の類だが、さきほど、女生徒会長を擁護した生徒が集まってきた。

 まるで水戸黄門の周囲に集まるカクサンやスケサンや風車の類のように、少女たちは主人の威厳を擁護する言葉を周囲にまき散らしながら、クラスメートの悪意と敵意をより刺激するような真似をしている。
その中心でまひるは苦笑しながら、密かに彼女たちを軽蔑する視線と言葉を飲み込むと、おもむろに立ち上がった。
「おい、逃げるのかよ!」
「ちょっと、会長に向かってその態度は何よ!」
 部活に直接関係ない人間は、無遠慮に反抗してくる。彼女の取り巻きが口を出したせいで緊張の糸が緩んだのか、クラスメートたちのストレスは出口を見つけたようだ。
 しかし ――――。
「私が特別に与えられた権限は知っているわよね」
「・・・・・・・・・・・・・!?」
 鶴の一声が教室中に木霊した。
「私はあなたたちみたいに暇じゃないのよ」
 肩まで綺麗に伸びた髪を仙女めいた手つきで払いながら、教室を後にした。

「あれ、何様よ!」
「本当に変わっちゃったよね」
「いや、違うわよ! 元々、あいつはああいうヤツだったのよ! 気がつかなかった私たちはバカだったのね」
 そう言った生徒はいちばん最後に教室を後にした取り巻きの一人を睨みつけながら言った。まるでゴルフボールを思いっきり投げつけるよう仕草だった。まさに「虎の威をかる狐」めというわけである。
だが、クラスメートたちはあることに気づいていなかった。
 安藤ばなな以下四人が同時に教室から居なくなっていたのである。

 一方、佐竹まひるは生徒会室に直行しなかった。二階の渡り廊下に差し掛かったところで、いきなり背後を振り向いた。
「先に行って、私は用があるから」
「・・・・・・・・・・」
 まひるは配下の答えはおろか、反応すら見ずに階下へと降りていく。
「どうなさったのかしら」
「最近、つれないわねえ」
 一段下りるたびに、その表情が変化していったことに、彼女たちは、決して知ることはないだろう。そして、その肩が、まるで封建時代の貴族のお嬢様かトップモデルのそれのように颯爽として全く揺れなかった肩が、ぷるぷると揺れだしたことに気づくことはない。中学生なのに10歳は大人びた顔が、幼稚園児に赤ちゃん返りしたことなど予想だにしないだろう。
「・・・・・・・・・」
 僅かに唇を噛んだ。だが、全く痛みを覚えるはずがない。何しろ、全身至る所に無数の切り傷を負っているのだ。
 そして、半地下一階に辿り着いたとき、つい、20秒前に存在した女生徒会長は、この世の何処にもいなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
 この沈黙は彼女にとって地獄である。

――――もしかしたら、何かあったのかしら?

 一瞬の休息。
 例え一瞬であろうとも、それは、少女に安心を保証することはない。その苦痛は否応なしに彼女を捕らえるだろう。
 それが早いか遅いかのちがいにすぎない。小さな子供が嫌いなものから先に口にするように、苦痛は先回しにしたほうがいいのである。
「あ、安藤さん、来ていらっしゃるのですか?」
 さきほど彼女に対して使っていた敬語を、今度は闇に対して使う羽目になっている。
「ふふ、ようこそ、生徒会長サマ」
「あ、安藤さん・・・・・」
 彼女たちは別に隠れていたわけではない。まひるの目が闇に慣れてきたのである。
 この狭い、建築家の気まぐれで設計されたような空間は、獲物を招き寄せるのに十分な条件を備えている。
 一年で一度、そう、文化祭で使うような自家製のトーテムポールや体育祭で使う旗やらが雑に積み重ねられている。わざわざ隠れようとしなくても、外から観るといくつもの死角が造られてしまう。だから、突然、ここに入ってきた人間からすると、あたかも待ちかまえているように思えるのである。

 獲物からすれば恐るべき視覚効果を受けることになる。恐怖の上乗りというわけである。
 古代の蔓植物のようにうなだれた美少女を安藤以下、四人の少女たちが取り囲む。できるだけ五人の視線から逃れようとするが、女生徒会長の身長は166センチもある。中学二年生女子の平均身長が157センチだから、その背の高さが想像できるだろう。ちなみに、五人の中でもっとも背が高いのは安藤で、164センチである。
 その他はどんぐりの背比べで150センチ前後を超えたり足らなかったりする。一番、低い飯倉かのえは136センチで小学四年生並である。
 だから、見ようによっては取り囲むというよりは、まとわりついていると言った方が適当かもしれない。
だが、両者の目つきや表情をよく見れば、どちらが主で従なのか、一目瞭然である。

「あ、安藤さん、お、お願いですから」
「あら、天下の生徒会長サマが私ごときにお願いですか? ふふっ」
 安藤に従って四人それぞれの笑声が、美少女の柔らかな耳たぶをからかう。
「で、お願いって何かしら?」
「綾ちゃ、外崎さんたちの部活を潰すようなことをしないでください」
「あれ? 潰すのはあなたじゃなかった?」
 場末のコメディアンのような笑いを浮かべて言う。わざと声を高くするのが、相手を傷付ける壺である。
「綾ちゃん、本当に、書道が好きだから、いえ、ですから、小学校のころから本気でしたし ・・・・・・・・」
「綾ちゃん、まるで友だちみたいな言い方ね、向こうはあなたのこと、そんな風に見てないようだけど?」
「・・・・・・・?!」
「あんたさ ――――」
 まひるの肩ほどの背もないかのえが、安藤の前に出て言う。美少女の弁慶の泣き所に蹴りつけながら、罵声を浴びせかける。
「外崎さん、あんたのこと大嫌いなんだよ! わかってるの?あんたなんかに友だちよばわりされたら、可哀想よ」
足の痛みから逃げるために背後に逃げようとすると、そこに門崎はなえが待ちかまえていた。
「ねえ、わかってるの!?どれほどあんたがみんなに嫌われているか?」

―――嫌われている。

 聞けば聞くほどいやな言葉だ。しかも、それが真実だとすると、なおのこと心に突き刺さる。
 はなえは太い腕をまひるの華奢な肩と首に巻き付ける。まるでアナコンダがインパラのような草食動物に絡んでいるようだ。かたちのいいうなじにかかる生臭い息は、少女の気品すら無条件に帳消しにしてしまいそうだ。
「はなえ、ほどほどにしておきなよ。柔道部の腕で絞めたら簡単に、こんな細い首なんてへし折っちゃうよ」
 全く心配のそぶりのない同情は、悪意の自乗に等しい。まひるは、肩と首を重量級の圧力を受けるだけでなく、精神まで押し潰されようとしていた。
「お、お願いですから、私は、どうなってもいい・・・・・ゴホゴホ」
 女生徒会長は最後まで言葉を続けることができなかった。柔道部の乱暴娘の腕が、力余って危ない線を越えてしまったからである。

 床に両手をついて、激しく咳き込むまひる。そんな美少女の背中にはなえが飛び乗ったのである。まるで父親にまとわりつく幼女のように見えた。思わず、安藤は苦笑しそうになったが、友人へと配慮もあって、すんでの所で留まった。
「ねえ、まひるちゃん、それはあなた次第よ」
「・・・・・・・・・」
 涙で濡れた美貌を思わず安藤に向ける。自分にたいする呼び方が変わったことに注目しているようだ。
「もう、わかっているわよね、私たちが何を求めているか」
「・・・・・・・・・?」
 涙が造る水晶の軌跡を見ると、少女の容貌がいかに整っているかがわかる。安藤はそれに苛立ったのか、言葉を荒げた。
「いいかげんにしな! 外崎の部活を守りたいなら、その代価を体で払ってもらおうって言ってるんだよ!!」
 安藤の両手がまひるに摑みかかったと思った瞬間、綺麗な卵型の顔が激しく揺れる。いい加減にじれったくなったようだ。だが、感情が造り出す波が激しく横揺れしようとも、代価なとという言葉が、ぽっと出てくるぶん、彼女の知性のレベルがわかるというものだ。まひるはボロボロにされて、おもちゃにされながらもそんなことを考えていた。
 やがて、大震災が終わると、いじめっ子の足が目の前にあった。余震とそれから来る嘔吐に悩まされる美少女に残酷な言い渡しが為された。

 一寸前とは打って変わって柔らかな表情と母性愛に満ちた言葉が宙を舞う。
「今度の日曜日、開けておいてね。今回は東横線よ。それまで健康でいてもらわないとね、かわいいまひるちゃん」
 リーダーの両手に挟まれても、まひるの美しい卵は少しもその美を崩そうとしない。しかしながら、その薄い殻の中では、やわらかく傷つきやすい黄身と白身が涙の海に漂っていた。
 まひるが自失呆然の状態に陥ったのに満足したのだろうか。
 リーダーは、はなえを嗜めながら、その場を後にしようとした。このきかん坊は、さよならの蹴りを美少女のみぞおちにくれてやろうとしていたのである。
「早くしないと塾に遅れるわよ」
 まるで母親みたいなことを言いながら、心はもはやここにはなく、東横線の電車内にあった。だから、目を離した隙に末娘が腕をすり抜けてしまったことに気づかなかった。
 すぐに、「きゃん」と草食動物めいた鳴き声を耳にすることになる。
「仕方ないな、すぐに楽しめるんだから、ほら、はなちゃん!!」
「ふふ、学校にもママがいていいねえ、はなは」
「ふふふ」
 そのやり取りを見ているかぎり頬笑ましい中学生にしか見えないだろう。すばらしい友人関係を享受し、青春時代を謳歌している以外のどのような情景に見えるというのだろう。
「・・・・・・・・・・」
 女生徒会長は真っ白になった頭で、今、自分が置かれた状況と彼女たちの様子を同時に考察してみようとした。
 
 しかし ――――。
 答えはまったくでなかった。
 代わりに出てきた文字列は、 ――。
 アサギハルミサン。
 どうして、こんな時のあの人のことが思い浮かぶのだろう。自分が流す涙の海に溺死しながら美少女は当て所もない思考の旅に出かけていた。それは、何百年も思考に思考をかさねながらついに解決できなかった哲学的な問いに似ている。
 その時、当の麻木晴海は取り調べられている容疑者を、マジックミラーごしに睨んでいた。その目つきは、まひるが想像しようもない怖ろしい、『鷹の目』と言われる犯罪者が怖れる警官の目だった。
だが、そんな慧眼でも、今、このとき、まひるがどんなことを呻いたのか、透視できようはずがなかった。
「ハルミオ姉サマ」
 確かに、美少女の小さな口はそう言ったのだが。

テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

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