「照美お姉ちゃん、予め、西宮先輩にも聞いてるんだけど、 ―――」
ここまで言って、ミチルは声のトーンを落とした。さりげなく由加里を見る目には、彼女を思いやる気持がこもっている。それを目敏く見破った照美は、本人でさえ理解できない感情に心を侵食されるあまり、少女を踏みつけにしてやりたくなった。
しかし、このときばかりは、辛うじて理性が打ち勝った。
「西宮さんがどんな目にあってきたか ――――ね」
――――私の口からいわせる気?
このとき、照美は妹を見る姉の顔になっていた。由加里はそれを見つけると、嫉妬心でいっぱいになった。絶世の美少女と違うのは、後者が自分で自分の気持ちを理解していることだった。あきらかに芽吹いている作家としての才能は、あきらかに彼女に自分を取り巻く世界を、いや、それだけでなくて、自分自身さえ ―――将棋の駒として見るくせを強要していた。
――――あ、そうだ。
由加里は、ノートパソコンのモニターを思い浮かべた。まるで、目の前にそれが存在して、単調なオンとオフで表示されるグラフィックを見せられているかのようだ。
「か、海崎さん! ・・・・」
由加里はめまぐるしく表情を変容させる。提示されているものの簡素さと対照的に少女の精神はアラベスクのような複雑さを呈していた。
はるかをちらりと見てみる。照美は背後で陣取っているために、彼女を見ることはできないが、ダウナーなオーラーはひしひしと伝わってくる。
彼女らが要求していることはわかっている。
それは、モニターに映っていた文字が連なってつくる文学の世界。しかし、それを音声化するには相当の勇気が必要だと思われた。
―――――こ、これは、私が考えることじゃない。い、言わされるのよ。だから ―――。
そう考えたとしてもなかなか、口が動いてくれない。その内容があまりに屈辱的なので口の端にのぼせることすら憚られる ―――ということである。
由加里は自分の口が自分のものではないような錯覚に陥った。
言い換えれば、口吻部に回された細胞が反乱かゼネストを起こしてしまったのではないか ―――と考えた。
しかし、ようやく舌を動かすことできた。
「海崎さん、い、鋳崎さん、わ、私のこと、ゆ、由加里ちゃんって、お呼びくだ、いえ、呼んで・・・・くれない?」
敬語とざっくばらんな言い方がミックスして、異様な味を醸し出している。しかし、照美は、その声にいっさい不快な色を沁みさせずに、返事を返した。
「そうね、お友達ならそう呼んでもいいわね、由加里ちゃん」
この時、はるかは誰にも知られないように、照美に目で合図をした。美少女は、それを受け取ると、彼女じしん、とても信じられない言葉を吐いた。
「ウ・ウ・・ウ・ウ・ウ、じゃあ、にし、西宮さん、いえ、由加里ちゃん、わ、私たちを許してくれるの?」
改めて、由加里の前に居直ると、とつぜん、しゃがんで彼女を見上げた。そして、堰を切ったように、嗚咽を上げながら許しを乞いはじめたのである。
はるかは、まったく表情を変えていないが、実は、複雑な感情に鍛えきった身体を浸らせていた。
あまりに見え透いた照美の演技を見ていると笑いを抑えるのにくろうする。親友と違って常に感情を直に表現してきた少女だけに、自分でプロデュースした状況にも係わらず、目的を全うするのに首を捻らざるを得ないのだった。
彼女の演技が二人を騙せるのかと思うと気が気でない。ここは、自分も口を出すべきだと判断した。
「私も本当に悪かったと思っている ―――」
はるかは、50年ぶりに戦友と邂逅した元兵士のような仕草で犠牲者の肩に触れた。
「ウウ・ウ・・・ウウ!!」
まるで、発作のような嗚咽が由加里を襲う。
――これは嘘よ! 嘘に決まっている ―――――だけど。
そもそも最初からそうだと宣言されている嘘ほど白けるものはない。知的な少女は、回りくどい言い方でそれを嘘だとみなしたのだ。
裏を返せば、二人の言葉を信頼したい自分が何処かに存在する。
―――ああ、なんて、温かい手だろう。それにこんなに大きい。
はるかの手はピアニストのそれのように、芸術的な繊細さをも併せ持っている。 ―――少なくとも、このときの由加里はそう受け取っていた。
だが、それを即座に否定されるような出来事が起こった。
「アウ・・・・あぐう!?」
照美によってあてがわれた股間の異物が疼いたのである。
普段、挿入させられている卵よりも少し目方が大きい。しかし、簡単にすっぽりと胎内に収まってしまった。可南子からさんざん受けた性的な虐待は、少女の性器をして、ほぼ生理的に処女喪失の状態に貶めていた。
照美が由加里の恥部を調べたとき、彼女に意外な顔をさせたからくりはここにあるのだ。
由加里は腰をくの字にして屈む。いじめっ子たちの都合がいいことに、犠牲者は自ら自分に括り付けられた足枷手枷を見せまいとしてくれる。
言うまでもなく、股間に挿入された異物のことだ。あたかも寄生虫のように宿主に住みつきすべてを奪おうとしている、その心さえも。
「どうしたんですか? 西宮先輩!?」
思わず駆け寄るミチルと貴子。
これではいかんと、アスリートの卵は分け入るようにして二人と由加里の間に分け入った。
「ミチル、貴子、私から話そう ――――彼女が、西宮、いや、由加里ちゃんがどんな目にあってきたのか、話してもいいか?」
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウウウ!?」
由加里は涙に濡れた顔をはるかに向けた。
―――?!
はるかは、目を見ひらいた。
西沢あゆみのボールを始めて受けたときのことを思い出す。当時、小学生、それも低学年にすぎなかったはるかだが、彼女に叶うクラブ生は上級生や中学生を含めても誰もいなかった。それこそ、神童と呼ばれていた ―――それは今も変わらないが、そんな彼女が始めて自分の分際というものを知った。
愕然としてはるかだったが、同時に、テニスの喜びをも知った。クラブの首脳部から解く別扱いされていた彼女は、知らず知らずのうちに孤独を穿つようになっていた。それは自分でも気づかないうちに始まっていたのである。 それは生来のプライドの高さが原因だったのかもしれない。
ともかく、それらを綺麗さっぱり払拭してくれたのが、あゆみのサーヴィスだったのである。
あの日、人並み外れた才能を持つ少女は、人目をはばからずに泣いた。それを見たクラブ生は彼女が普通の少女であることを知った。そして、クラブ内でもうち解けられるようになったのである。
いま、はるかは由加里のあられもない顔を見せられて、それを思いだしている。
まったく無防備な顔。まるで幼児のように、普通の人間ならば常備している警戒心すら解いていた。頭の中は粥のようにぐじゃぐじゃになって何も考えられなくなっていたのである、この知的な少女をが、である。彼女をここまで追い込んだ張本人のうちのひとりにそれを向けている。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに虐待者の顔を思いだしていた。
「由加里ちゃんは、かわいそうに裁判に掛けられていたんだ、それも、冤罪でね。クラスメートが裁判長とか、検察官とか役割を果たしてね」
ここまで聞いていて、照美は、はっとさせられた。何故ならば、その時、弁護士の役割を買って出てさんざん由加里を慰み者にしたのは記憶に新しいことだからだ。しかし、二人の様子を伺うに、詳しいことは知らないように見受けられる。
それに ――。
照美はすぐに胸をなで下ろした。由加里にあてがわれている台詞を思いだしたからだ。美少女は、二人に見付からないように、密やかな手つきで外で犠牲者の性器をいたぶるだけだ。
――――早く言いなさいよ! あんたの台詞でしょう?
無言でそう言っているだけだ。
「ウウ・ウ・ウ・、て、照美さんは・・・あううう・・・」
ここで、照美が由加里の下半身をどさくさに紛れて体重を押しつけた。おそらく、少女の下半身はとんでもないことになっているだろう。卵はそれに助けられて、密かに内奥を目指している。
「照ちゃんって呼んで ―――」
―――アホか、照ちゃんだって? 笑わせるな! 照美。
今度ばかりは、さすがのはるかも、笑いを完全に封印することができなかった。二人に背中を向けることで、ようやく自分を欺くことに成功した。
しかし、由加里の方では、とても理性を保っていられる状況ではなかったのである。何故ならば、下半身は彼女じしんが分泌している粘液でおもらし状態であるし、照美の意地悪な指は、絶え間なく刺激を繰り出してくる。まるでマグダラのマリアのように、贖罪に満ちあふれた表情とは裏腹に、底意地の悪い感情の排泄物を送り込んでくる。
―――ここまで、私の心を弄んで、踏みにじって、そんなに楽しいの? そんなに私が憎いの?
地獄の責め苦に喘ぐ少女は、すこしでも気を抜いたら、あの恥ずかしいオルガルムスを感じると思うと、かすかに 残った理性を総動員して自分を保とうと必死なのだった。
しかし、それよりも怖ろしいのは照美が送ってくる悪意に他ならない。そんなに自分が憎らしいならば、いっそのこと、ひと思いに殺してくれたらどんなに楽だと何度思ったかわからない。
――――きっと、何度、自分を殺しても憎しみは磨り減らないにちがいない。だけど、そんなにひどい憎しみってどうしたら生まれるものなの? 私は何もしていない。彼女に、私がどんなひどいことをしたっていうの?
由加里は、今年になって何度その言葉を頭の中で反芻しただろうか。しかし、消化液か消火用の石が足りないのか、何度繰り返そうとも答えらしい答えは出そうにない。
ご存知の通り、牛などの反芻動物の胃には植物の繊維を消化するための石が蓄えられている。もしかしたら、人間の心には、同じように辛い記憶を消化し栄養にすることを助ける石のようなものがあるのではないか。
それにも係わらず由加里は相も変わらず同じことをぐるぐると悩み続けている。いや、それは外からやってくるのだが、さいきんの彼女は被害者としての意識さえ喪失してしまっている。自分が悪いのではなくて、自分が悪いという、いわば、被害妄想ならぬ自悪妄想とてもいうべき意識に苛まれている。
照美やはるかは、こんなにすばらしい人間なのだから、自分に対して行っていることはけっして、いじめや虐待ではない。きっと、罰なのだ。西宮由加里という人間は、それに相応しいいかがわしい唾棄すべき存在なのである。
何処をどう間違えたら、そのような思考に陥るのだろう。
ちなみに、その論理に、金江や高田といった人物群は組み入れられていない。きっと、彼女の無意識が自分よりもはるかに劣る人間を思考から排除したのだろう。照美やはるかはともかく、金江や高田にそのような高級な思考を理解する余地がその心にあるわけがない。
しかし、由加里はそのように考えていない。知らず知らずのうちに思考の対象から外しているだけである。
他人を貶めるということを何よりも嫌うこの少女にはよくあることだが、そんなことをしていたら、いじめっ子たちの毒牙の餌食になる理由とも知らずに、彼女らの蜘蛛の巣に飛び込んでしまう。哀れな虜となって生きながら、その肉体ばかりか、心まで喰われてしまうことも知らずに、身を投じるのである
我が身の保全よりもこの世に大切なものがある。
そのような命題が存在することにすら気づかない、高田や金江のような連中にとってみれば、全く理解できない行動にちがいない。
もっとも、照美やはるかたちでさえ、意識の周辺が辛うじて摑んでいる感覚である。それを由加里はごく制限された能力とはいえ ―――、意識的にそうしている。わずか14歳の少女としては驚くべき精神年齢だと言うしかない。
だが、そのことは、必ずしも少女の苦痛を和らげることにはならない。いや、むしろ、何度も、奈落の底へと墜落する帰結になってしまうのである。
哀れな少女を言わば地獄のそこに叩き落としている人物群の中で、最たる存在ある照美が口を開いた。
「由加里ちゃん、小学生時代にしてもいないことで責め立てられたりしたんだよね ――」
絶世の微笑の流れるような手の動きは、由加里を籠絡するのに十分だった。
少女は、優しく髪を撫でられることによって、嘘を嘘とみなすことを止めてしまった。言い換えれば、俳優が演技中に舞台の上にいることを忘れてしまったのである。これは、女優としてはあきらかに致命的な失点と言わねばならない。
由加里の小さな口はあきらかに台本にないことを発してしまう。
「嘘だって、わかっているなら!?・・・・あぁ」
はるか的に言えば、死刑もあたいする罪なのである。しかしながら、零れたミルクは元には戻らない。
由加里はただ慌てるしかない。だが、ここで不幸中の幸いとでもいうべき状況が存在した。それは、彼女の股間を摑んでいる照美が台本のすべてを暗唱していたわけではないこと、そして、はるかがかなり離れたところにいたことである。
そして、ミチルと貴子の目が光っているために、面だって行動することが、はるかには不可能だったことである。 しかし、若きアスリートの一睨みは、知的な少女を狼狽させるのに十分すぎるほどだった。
「あぁあうう・・・・」
由加里は、肺の障害があるように身体をうならせる。それは少女の身体を振動させ、より照美の指を膣の内奥深くしのばせることになった。
心ならずも自らの動きによって、より官能を求めることになった。
「西宮先輩、そんなひどいことを ―――」
「貴子ちゃん、知らなかったの?」
しらっと、打ち出の小槌から吐き出すように照美は言葉を並べる。
「ある男子の心を弄ぶようなことを ―――」
「だめでしょう!? はるか!! 由加里ちゃんが可哀想でしょう!?」
「・・・・・・・・・・」
はるかは驚いた。実は、これは照美のアドリブである。なぜだか、演技の妙を身につけ始めてきたようだ。素人監督兼プロデューサーはひそかにほくそ笑んだ。
――――おもしろいことになりそうだ。
ここまで言って、ミチルは声のトーンを落とした。さりげなく由加里を見る目には、彼女を思いやる気持がこもっている。それを目敏く見破った照美は、本人でさえ理解できない感情に心を侵食されるあまり、少女を踏みつけにしてやりたくなった。
しかし、このときばかりは、辛うじて理性が打ち勝った。
「西宮さんがどんな目にあってきたか ――――ね」
――――私の口からいわせる気?
このとき、照美は妹を見る姉の顔になっていた。由加里はそれを見つけると、嫉妬心でいっぱいになった。絶世の美少女と違うのは、後者が自分で自分の気持ちを理解していることだった。あきらかに芽吹いている作家としての才能は、あきらかに彼女に自分を取り巻く世界を、いや、それだけでなくて、自分自身さえ ―――将棋の駒として見るくせを強要していた。
――――あ、そうだ。
由加里は、ノートパソコンのモニターを思い浮かべた。まるで、目の前にそれが存在して、単調なオンとオフで表示されるグラフィックを見せられているかのようだ。
「か、海崎さん! ・・・・」
由加里はめまぐるしく表情を変容させる。提示されているものの簡素さと対照的に少女の精神はアラベスクのような複雑さを呈していた。
はるかをちらりと見てみる。照美は背後で陣取っているために、彼女を見ることはできないが、ダウナーなオーラーはひしひしと伝わってくる。
彼女らが要求していることはわかっている。
それは、モニターに映っていた文字が連なってつくる文学の世界。しかし、それを音声化するには相当の勇気が必要だと思われた。
―――――こ、これは、私が考えることじゃない。い、言わされるのよ。だから ―――。
そう考えたとしてもなかなか、口が動いてくれない。その内容があまりに屈辱的なので口の端にのぼせることすら憚られる ―――ということである。
由加里は自分の口が自分のものではないような錯覚に陥った。
言い換えれば、口吻部に回された細胞が反乱かゼネストを起こしてしまったのではないか ―――と考えた。
しかし、ようやく舌を動かすことできた。
「海崎さん、い、鋳崎さん、わ、私のこと、ゆ、由加里ちゃんって、お呼びくだ、いえ、呼んで・・・・くれない?」
敬語とざっくばらんな言い方がミックスして、異様な味を醸し出している。しかし、照美は、その声にいっさい不快な色を沁みさせずに、返事を返した。
「そうね、お友達ならそう呼んでもいいわね、由加里ちゃん」
この時、はるかは誰にも知られないように、照美に目で合図をした。美少女は、それを受け取ると、彼女じしん、とても信じられない言葉を吐いた。
「ウ・ウ・・ウ・ウ・ウ、じゃあ、にし、西宮さん、いえ、由加里ちゃん、わ、私たちを許してくれるの?」
改めて、由加里の前に居直ると、とつぜん、しゃがんで彼女を見上げた。そして、堰を切ったように、嗚咽を上げながら許しを乞いはじめたのである。
はるかは、まったく表情を変えていないが、実は、複雑な感情に鍛えきった身体を浸らせていた。
あまりに見え透いた照美の演技を見ていると笑いを抑えるのにくろうする。親友と違って常に感情を直に表現してきた少女だけに、自分でプロデュースした状況にも係わらず、目的を全うするのに首を捻らざるを得ないのだった。
彼女の演技が二人を騙せるのかと思うと気が気でない。ここは、自分も口を出すべきだと判断した。
「私も本当に悪かったと思っている ―――」
はるかは、50年ぶりに戦友と邂逅した元兵士のような仕草で犠牲者の肩に触れた。
「ウウ・ウ・・・ウウ!!」
まるで、発作のような嗚咽が由加里を襲う。
――これは嘘よ! 嘘に決まっている ―――――だけど。
そもそも最初からそうだと宣言されている嘘ほど白けるものはない。知的な少女は、回りくどい言い方でそれを嘘だとみなしたのだ。
裏を返せば、二人の言葉を信頼したい自分が何処かに存在する。
―――ああ、なんて、温かい手だろう。それにこんなに大きい。
はるかの手はピアニストのそれのように、芸術的な繊細さをも併せ持っている。 ―――少なくとも、このときの由加里はそう受け取っていた。
だが、それを即座に否定されるような出来事が起こった。
「アウ・・・・あぐう!?」
照美によってあてがわれた股間の異物が疼いたのである。
普段、挿入させられている卵よりも少し目方が大きい。しかし、簡単にすっぽりと胎内に収まってしまった。可南子からさんざん受けた性的な虐待は、少女の性器をして、ほぼ生理的に処女喪失の状態に貶めていた。
照美が由加里の恥部を調べたとき、彼女に意外な顔をさせたからくりはここにあるのだ。
由加里は腰をくの字にして屈む。いじめっ子たちの都合がいいことに、犠牲者は自ら自分に括り付けられた足枷手枷を見せまいとしてくれる。
言うまでもなく、股間に挿入された異物のことだ。あたかも寄生虫のように宿主に住みつきすべてを奪おうとしている、その心さえも。
「どうしたんですか? 西宮先輩!?」
思わず駆け寄るミチルと貴子。
これではいかんと、アスリートの卵は分け入るようにして二人と由加里の間に分け入った。
「ミチル、貴子、私から話そう ――――彼女が、西宮、いや、由加里ちゃんがどんな目にあってきたのか、話してもいいか?」
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウウウ!?」
由加里は涙に濡れた顔をはるかに向けた。
―――?!
はるかは、目を見ひらいた。
西沢あゆみのボールを始めて受けたときのことを思い出す。当時、小学生、それも低学年にすぎなかったはるかだが、彼女に叶うクラブ生は上級生や中学生を含めても誰もいなかった。それこそ、神童と呼ばれていた ―――それは今も変わらないが、そんな彼女が始めて自分の分際というものを知った。
愕然としてはるかだったが、同時に、テニスの喜びをも知った。クラブの首脳部から解く別扱いされていた彼女は、知らず知らずのうちに孤独を穿つようになっていた。それは自分でも気づかないうちに始まっていたのである。 それは生来のプライドの高さが原因だったのかもしれない。
ともかく、それらを綺麗さっぱり払拭してくれたのが、あゆみのサーヴィスだったのである。
あの日、人並み外れた才能を持つ少女は、人目をはばからずに泣いた。それを見たクラブ生は彼女が普通の少女であることを知った。そして、クラブ内でもうち解けられるようになったのである。
いま、はるかは由加里のあられもない顔を見せられて、それを思いだしている。
まったく無防備な顔。まるで幼児のように、普通の人間ならば常備している警戒心すら解いていた。頭の中は粥のようにぐじゃぐじゃになって何も考えられなくなっていたのである、この知的な少女をが、である。彼女をここまで追い込んだ張本人のうちのひとりにそれを向けている。
しかし、それも一瞬のことで、すぐに虐待者の顔を思いだしていた。
「由加里ちゃんは、かわいそうに裁判に掛けられていたんだ、それも、冤罪でね。クラスメートが裁判長とか、検察官とか役割を果たしてね」
ここまで聞いていて、照美は、はっとさせられた。何故ならば、その時、弁護士の役割を買って出てさんざん由加里を慰み者にしたのは記憶に新しいことだからだ。しかし、二人の様子を伺うに、詳しいことは知らないように見受けられる。
それに ――。
照美はすぐに胸をなで下ろした。由加里にあてがわれている台詞を思いだしたからだ。美少女は、二人に見付からないように、密やかな手つきで外で犠牲者の性器をいたぶるだけだ。
――――早く言いなさいよ! あんたの台詞でしょう?
無言でそう言っているだけだ。
「ウウ・ウ・ウ・、て、照美さんは・・・あううう・・・」
ここで、照美が由加里の下半身をどさくさに紛れて体重を押しつけた。おそらく、少女の下半身はとんでもないことになっているだろう。卵はそれに助けられて、密かに内奥を目指している。
「照ちゃんって呼んで ―――」
―――アホか、照ちゃんだって? 笑わせるな! 照美。
今度ばかりは、さすがのはるかも、笑いを完全に封印することができなかった。二人に背中を向けることで、ようやく自分を欺くことに成功した。
しかし、由加里の方では、とても理性を保っていられる状況ではなかったのである。何故ならば、下半身は彼女じしんが分泌している粘液でおもらし状態であるし、照美の意地悪な指は、絶え間なく刺激を繰り出してくる。まるでマグダラのマリアのように、贖罪に満ちあふれた表情とは裏腹に、底意地の悪い感情の排泄物を送り込んでくる。
―――ここまで、私の心を弄んで、踏みにじって、そんなに楽しいの? そんなに私が憎いの?
地獄の責め苦に喘ぐ少女は、すこしでも気を抜いたら、あの恥ずかしいオルガルムスを感じると思うと、かすかに 残った理性を総動員して自分を保とうと必死なのだった。
しかし、それよりも怖ろしいのは照美が送ってくる悪意に他ならない。そんなに自分が憎らしいならば、いっそのこと、ひと思いに殺してくれたらどんなに楽だと何度思ったかわからない。
――――きっと、何度、自分を殺しても憎しみは磨り減らないにちがいない。だけど、そんなにひどい憎しみってどうしたら生まれるものなの? 私は何もしていない。彼女に、私がどんなひどいことをしたっていうの?
由加里は、今年になって何度その言葉を頭の中で反芻しただろうか。しかし、消化液か消火用の石が足りないのか、何度繰り返そうとも答えらしい答えは出そうにない。
ご存知の通り、牛などの反芻動物の胃には植物の繊維を消化するための石が蓄えられている。もしかしたら、人間の心には、同じように辛い記憶を消化し栄養にすることを助ける石のようなものがあるのではないか。
それにも係わらず由加里は相も変わらず同じことをぐるぐると悩み続けている。いや、それは外からやってくるのだが、さいきんの彼女は被害者としての意識さえ喪失してしまっている。自分が悪いのではなくて、自分が悪いという、いわば、被害妄想ならぬ自悪妄想とてもいうべき意識に苛まれている。
照美やはるかは、こんなにすばらしい人間なのだから、自分に対して行っていることはけっして、いじめや虐待ではない。きっと、罰なのだ。西宮由加里という人間は、それに相応しいいかがわしい唾棄すべき存在なのである。
何処をどう間違えたら、そのような思考に陥るのだろう。
ちなみに、その論理に、金江や高田といった人物群は組み入れられていない。きっと、彼女の無意識が自分よりもはるかに劣る人間を思考から排除したのだろう。照美やはるかはともかく、金江や高田にそのような高級な思考を理解する余地がその心にあるわけがない。
しかし、由加里はそのように考えていない。知らず知らずのうちに思考の対象から外しているだけである。
他人を貶めるということを何よりも嫌うこの少女にはよくあることだが、そんなことをしていたら、いじめっ子たちの毒牙の餌食になる理由とも知らずに、彼女らの蜘蛛の巣に飛び込んでしまう。哀れな虜となって生きながら、その肉体ばかりか、心まで喰われてしまうことも知らずに、身を投じるのである
我が身の保全よりもこの世に大切なものがある。
そのような命題が存在することにすら気づかない、高田や金江のような連中にとってみれば、全く理解できない行動にちがいない。
もっとも、照美やはるかたちでさえ、意識の周辺が辛うじて摑んでいる感覚である。それを由加里はごく制限された能力とはいえ ―――、意識的にそうしている。わずか14歳の少女としては驚くべき精神年齢だと言うしかない。
だが、そのことは、必ずしも少女の苦痛を和らげることにはならない。いや、むしろ、何度も、奈落の底へと墜落する帰結になってしまうのである。
哀れな少女を言わば地獄のそこに叩き落としている人物群の中で、最たる存在ある照美が口を開いた。
「由加里ちゃん、小学生時代にしてもいないことで責め立てられたりしたんだよね ――」
絶世の微笑の流れるような手の動きは、由加里を籠絡するのに十分だった。
少女は、優しく髪を撫でられることによって、嘘を嘘とみなすことを止めてしまった。言い換えれば、俳優が演技中に舞台の上にいることを忘れてしまったのである。これは、女優としてはあきらかに致命的な失点と言わねばならない。
由加里の小さな口はあきらかに台本にないことを発してしまう。
「嘘だって、わかっているなら!?・・・・あぁ」
はるか的に言えば、死刑もあたいする罪なのである。しかしながら、零れたミルクは元には戻らない。
由加里はただ慌てるしかない。だが、ここで不幸中の幸いとでもいうべき状況が存在した。それは、彼女の股間を摑んでいる照美が台本のすべてを暗唱していたわけではないこと、そして、はるかがかなり離れたところにいたことである。
そして、ミチルと貴子の目が光っているために、面だって行動することが、はるかには不可能だったことである。 しかし、若きアスリートの一睨みは、知的な少女を狼狽させるのに十分すぎるほどだった。
「あぁあうう・・・・」
由加里は、肺の障害があるように身体をうならせる。それは少女の身体を振動させ、より照美の指を膣の内奥深くしのばせることになった。
心ならずも自らの動きによって、より官能を求めることになった。
「西宮先輩、そんなひどいことを ―――」
「貴子ちゃん、知らなかったの?」
しらっと、打ち出の小槌から吐き出すように照美は言葉を並べる。
「ある男子の心を弄ぶようなことを ―――」
「だめでしょう!? はるか!! 由加里ちゃんが可哀想でしょう!?」
「・・・・・・・・・・」
はるかは驚いた。実は、これは照美のアドリブである。なぜだか、演技の妙を身につけ始めてきたようだ。素人監督兼プロデューサーはひそかにほくそ笑んだ。
――――おもしろいことになりそうだ。
あけましておめでとうございます。
西宮由加里です。今年もよろしくお願いします。
2010年、最初の更新になります。
さて、由加里は今年も悪魔のような照美さんやはるかさんにいじめられ続けます。
この小さな躰、全部でそれを受け止めるだけでございます。
悪魔のような作者によって心身ともおもちゃにされて慰み者になるだけです。
生前も悪魔と罵られていた彼ですが、亡くなってさらに悪の権化に成りはてたようです。
読者の皆様、由加里を哀れと思し召しならば、励ましのお言葉を賜りたく思います。
作者もそれをお望みらしいです。生前は戦争の天才とか呼ばれておりましたが、文章のほうではそうもいかないみたいですね。
お笑いです。
あ、悪魔が戻ってきました。
お仕事に戻らないと、どんな目に遭わされるかわかりません。
ということで、2010年も『由加里』をよろしくお願いします!
西宮由加里です。今年もよろしくお願いします。
2010年、最初の更新になります。
さて、由加里は今年も悪魔のような照美さんやはるかさんにいじめられ続けます。
この小さな躰、全部でそれを受け止めるだけでございます。
悪魔のような作者によって心身ともおもちゃにされて慰み者になるだけです。
生前も悪魔と罵られていた彼ですが、亡くなってさらに悪の権化に成りはてたようです。
読者の皆様、由加里を哀れと思し召しならば、励ましのお言葉を賜りたく思います。
作者もそれをお望みらしいです。生前は戦争の天才とか呼ばれておりましたが、文章のほうではそうもいかないみたいですね。
お笑いです。
あ、悪魔が戻ってきました。
お仕事に戻らないと、どんな目に遭わされるかわかりません。
ということで、2010年も『由加里』をよろしくお願いします!
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