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『新釈氷点2009 6』
 ルリ子の墓参りはしとしとと、いささか鬱陶しい雨が降りしきる日に行われた。
 初夏だというのにやけに雨に濡れた肩が冷たい。助手席に座る夏枝は、バックミラーで愛しい娘の顔に視線を送っている。
 銀色に鈍く輝くフィルムからにょきっと花束が生えている。それは、まるで雨後の茸のように見えた。やけに元気に見えるのは、持ち主から栄養を奪っているからにちがいない。
 俗にそれは寄生と呼ぶのだろうが、夏枝はそれを嫌な記憶ともに呼び起こしていた。それは、彼女が少女時代、家族でパリに旅行したときに美術館で見た絵画のことだ。『寄生』と題されたある有名画家の作品だが、無数の茸が美しい少女からにょきにょきと生えていた。
 夏枝はそれを見たとたんにトイレに駈け込んだものだ。寄生されている少女はそれは美しい少女だった。ちょうど横にかけられているラファエルロの作品に棲まう少女のように、この世のものとは思えないほど清らかで美しい少女だった。

――――ちょうど今の陽子のように。
 きがかりでたまらない。ふとした仕草で彼女が真実を気づいてしまわないだろうか。
夏枝の期待以上に知的に育っていることが、この時ばかりは恨めしい。絶対に、あのことだけは気づかれてはならない。
 自分と彼女との間に偽りがたい断線があるなどと。

―――もしも、陽子と薫子の間に囲まれているのが、春実ではなかったら、どんなに幸せだったろう。
こんな憎々しい雨空などではなく、麗しい初夏の陽光に祝福されて辻口家3人姉妹と両親は、仲良くピクニックとあいなる ―――はずだった。

――――いや、ちがう。
 しかしながら、鋭敏な夏枝はあることに気づいた。もしも、そんなことになったら、陽子が辻口家に養女として迎えられるなどということはなかったにちがいない。彼女の存在すら知らなかっただろう。

―――そんなことは絶対にちがう!! 可愛い陽子を知らないなんていう人生なんてとても考えられないわ!
 夏枝は、ひそかに慟哭した。
 しかし、もうひとつ気がかりなことがあった。花束のことである。もしも、薫子の仕業でなければ、いったい、誰の手によるものなのだろう。陽子の両親だろうか。陽子を養女に迎えたとき、可愛い赤ん坊の背景をいっさい知ろうとしなかった。あふれるような太陽光の神々しさのために、そのようなことに意識が向かわなかったのである。すべての感心は、我が子になる幼きイエスだけに向かっていた。自分は慈愛深いマリアになると人知れず誓ったのである。
 建造から神父の手紙を渡された。
 一生、夏枝は忘れないと思う、陽子と出会ったあの瞬間を。

「誓ってください。幼いイエスを抱くマリアになると ―――」
 
 車のエンジン音を聞きつけると、深窓の令嬢が裸足で外に飛び出してきた。驚く建造は幼い陽子を差し出した。
 手紙は産着に添付されていた。しかし、そんなものを見るまでもなく、現在完了形ですでに誓っていたのである。
 ちなみに、薫子は祖母の家に預けられていた。だから、その光景を知らない。しかしながら、帰宅したとき母に抱かれていた陽子に出会ったとき、何よりも耐え難い宝を手に入れたことを知覚ではなく、もっと別の深いところで悟った。
 当時まだ幼女にすぎなかったとはいえ、太陽が自分の家に落ちたことだけは憶えている。いつの間にか、辻口家のお姫様という身分は奪われることに、そのとき気づいていなかった。
 だが、今となっては下のきょうだいができることによる赤ちゃん返りを起こしたことなど憶えていない。一歳と半年という驚異的なスピードでおむつはずしに成功したというのに、三歳でおもらしをしてしまったのである。
 そうはいうものの、それをくぐり抜けた薫子は夏枝に負けず劣らずに、陽子を愛しはじめた。ある年齢まで自分の本当の妹であることを疑いすらしなかった。しかしながら、母親に似て、人一倍鋭敏な彼女が早い段階でことの矛盾に気づかないということはほとんど考えられなかった。

 もちろん、その主語は夏枝と建造だが、彼らはルリ子の記憶を家から退去させることで、事態の収拾を図った。自宅に仏壇などは設置せず、アルバムや、当時は珍しかった8mmフィルムなど、彼女に関するいっさいの記憶をとある場所に封印することで、薫子が口を挟む余裕を奪い去ったのである。このことによって、ルリ子の名前を辻口家において出すことは、いつの間にか決められた不文律に抵触することになった。
 薫子は、妹を春実ごしに見つめた。
 明かに普段の陽子とはちがう。直視できないほどまぶしさを感じるくらいに輝いていた彼女はいったい何処に行ってしまったのだろうか。
 そんな物憂げな視線を止めたのは春実だった。
「そう言えば、今日は土曜日よね、学校はいいの? ふたりとも」
「今日は、創立記念日だから、休み――」
 気を取り直した姉はそう答えた。二人が通う学園は幼稚舎から高等部までエスカレータ式の一貫教育を行っている。当然のことながら、学園の創立記念日ならば、休みは同日である。
「・・・・・・・・・・・」

 妹の耳には全く届いていないようだ。ぴくりとも反応しない。いや、できないと表現したほうが適当だろうか。まるで腹を空かせた蛇を目の前にしたカエルのように微動だにできないようである。
再び、愛おしい妹に神経は向かってしまう。

 一方、車を運転する建造は、この時、どういう心づもりだったのだろう。
 この家長は、ウインカーが水滴をはじき飛ばすのを無心に見ていた。安全な運転というただ機械的な作業に神経を徹することで余計なことを考えないようにしていたのである。
 その点、夏枝とは好対照だったが、陽子にたいする愛情について負けているわけではなかた。だが、自分でも不思議なことがあった。

―――どうして、自分は陽子を愛していると言えるのだろう。
 カーブするときに陽子とはちがう中学校の制服を視野に収めたとき、青年医師の心に黒い膜が張った。
 自分を裏切った夏枝に当てつけるために、陽子を養女に迎えたのは自分自身なのだ。その事実を知らない妻はともかく、自分が陽子に憎しみを憶えないのはどういうわけだろう。
 建造はその事実を前にして愕然となった。何故か、院長の言葉が蘇る。
 車に乗ろうとした青年医師に白眉院長はこう語りかけた。
「このことは奥様も後存知なのですね。本当にすばらしいことだとおもいますよ」
 窓を閉めようとした建造に付け加えるように言った。
「あ、そうだ。ルリ子ちゃんでしたね。畏れながらお墓がある場所をお教えできませんか?」
 老翁という外見に比較して若々しい声に、意外そうな顔を隠せなかった。
 建造は、詳しい理由も聞かずにあとで連絡する旨を伝えた。

―――まだ生きているのだろうか。
 
 あの時の年齢を考えるならば、もう70は優に超えているはずだから、院長の椅子に座っているはずはない。ならば神父としてはどうだろう。
 ほんらいならば、付属の施設である乳児院の人事は、建造が握っているはずであるが、意識的にそれを除外することで、記憶から逃げ出していた。おそらく、父親が人事権を握っていた時代に処理されたのだろう。仕事をしている上で、その乳児院の院長というポストに関するはなしが出たことはなかった。

――ならば、もしかして、あの花束は彼ではないのか?
 
 この時、夫婦は同じことを考えていたのである。しかしながら、妻はその詳しい内容を知るすべはなかった。ルリ子の元係累のだれかではないかと考えていただけである。あれだけ大きな事件になれば、報道されたことによって彼女の死を確認したことは想像に難くない。
 だからこそ、まだ大人としても理性が備わっていないうちに、陽子がルリ子のことを知ることを怖れたのである。街の人には口封じをしているとはいえ、しょせんは、人の口に戸は立てられない。何時の日か真実に気づく日はくるはずだ。しかし、それはできるだけ先延ばししたい。それは同時に自分が養女であるという事実にも直結してしまうから ――――。
 しかし、夫と妻では、それに関する怖れは自ずから性格を異にする。
 その真実が表に出ることはありえないとは思っていても、ルリ子を殺したのが陽子の実父であるという事実は、若き長崎城主の頭の中で、まるで常に疼いている。それは春実も同じである。いや、犯行をそそのかしたのは春実なのだから、その思いは建造よりも倍増しだと言っても良い。
 自責の念は陽子が美しく、そして、可愛らしく育っていくのを見るにつけて、強くなっていった。
 若き日の軽はずみな衝動から犯した罪に打ち震えた。
 罪を犯した夏枝のことはともかく、この少女には何の罪もない。自分の持てる力をすべて使ってでも彼女を護ろうと決めていたのである。

 呉越同舟という四字熟語ほど車内の状況を説明するのに適当な言葉はなかった。五人ともそれぞれが違う思いを心に内包し、発散できないストレスを溜めていた。だが、それは互いに平行線を構成し、何万光年進もうとも交わることはないと思われる。
 この鬱屈とした空間がいかに高級車の胎内であろうとも、成員にとって苦痛であることには変わらない。その属性がいかに贅を尽くしたとしても、彼らの慰めにはならないのだ。
 車は、ほどなくして目的地に到着した。
 坂道を相当登ったとみえて、かなりの山奥だった。陽子は、そこが何処なのか詮索しようとしなかった。彼女にとって地名などたいした意味はない。それが本州にあろうとも五国にあろうが、はたまた、南海道にあろうともたいした意味はない。

 昼間だと言うのに、高い樹木は陽光を透さないのか、神気に満ちた静寂を為している。それでも木漏れ日のいくつかは地面に達している。そのようすは、まさに現実離れしていたが、陽子にその目的を忘れさせるほどの妖力はないようだった。
「ルリ子お姉さまはここにいらっしゃるのね ―――」
 出会ったもともない姉だが、薫子と区別するためにそう言った。それがまったく演技じみていないことは四人を驚かせた。
 忘収寺と銘打たれたその寺の門を潜るには山道に似た階段を数分ほど上らねばならなかった。木材と石で組み合わされた旧い建物が醸し出す空気はあきらかに時間から何百年も取り残されているように思える。
 
 まるで時代劇のようなセットは陽子を黙らせることはできなかったが、他の四人を憮然とさせることには成功していた。それをもっとも感じていたのは建造と夏枝であろう。夫妻は、しんじつ、歴史時代のセットに迷いこんだような気がしたのである。もう何回も上がっているはずの階段だが、どうしてこんなことを感じるのか二人は不思議でたまらなかった。
 衣服と身体の間にビニールでも入れられたような違和感を打ち消すことができない。
だが、陽子を先頭にした行列は寺の門を潜らねばならない。五人の中で彼女だけが心が目に向いているである。それは贖罪という一見否定的な概念に基づく感情であったが、それでも、意味不明な違和感に苛まれている四人に比較すれば前向きだと定義できた。

――ああ、やっとルリ子お姉さまにお会いできるのね。

 陽子は、翼がついたヘルメスの靴よろしく、跳躍してこの階段を上がっていけるような気がした。思えば、今、履いている靴もピンクのワンピースも両親がプレゼントしてくれたものだ。
 黒曜石のように光るエナメルの靴は、父親が、そして、ワンピースは母親が誕生日にプレゼントしてくれたのだ。もしも、ルリ子が生きていれば彼女もその栄誉に預かれたかもしれない。そう思うと、涙が水滴になって零れていくのだった。
 「陽子、危ないから急がないの!」

―――お母さまから、今、頂いているありがたい言葉も、ルリ子お姉さまは・・・・・・。

 罪悪感にかられるあまり陽子は足がもつれるのを認知することができなかった。
――――!
バランスを崩した少女は ――――。
 ――――。
「ほら、危ないわよ!」
「お母様!!」
 夏枝に抱かれた陽子は、危ういところで転落を免れることになった。しかし、陽子にしてみれば、その温かい腕の感触、いつもつけている香水の匂い、それらは余計に罪悪感を倍増させるだけだったのだが。
 一方、夏枝にしてみれば、いかにしっかり抱いたとしても、やっと摑んだ水晶の珠が手の上で砕かれてしまう比喩と同じで、無に帰ってしまうような気がした。
 だが、それが比喩ではすまなくなるような出来事が彼女に襲い掛かろうとしていたのである。大河ドラマの監督が喜びそうな古びた門こそが、彼女から人を愛する喜びのすべてを奪い取ってしまう大蛇の口だったのである。未だ、その可能性すら読み取れていない。
 
 寺の門を潜った一行はいつものように住職に挨拶をすると手桶を受け取った。今までと人数がちがうことにやや怪訝な顔を見せたが、追求することはなかった。

「ルリ子はこの奥に眠っているんだ ―――」
 建造は手桶を抱えながら、愛娘に語りかけた。
「かすかだけど、海が見えるとても綺麗な場所だよ。ルリ子は海が好きだったからね」
「あ、あなた ――――」
 夏枝は、嗚咽を止めることができなかった。
――――なんていうことだろう。私は、まったく成長できていない。あの子が身罷って10年以上が経つというのに・・・・・・。
 喪服と見まごうばかりにシックなつくりのツーピースに身を包んだ淑女は、自分の反応を恥じた。
 ルリ子の墓を目の前にした陽子はすでに泣いていなかった。しかし、手桶から流れる水によって墓石が清められるのを見ながら、必死に歯を食いしばっていた。
だが、やがて、はっきりとした口調で語りかけ始めた。

「ルリ子お姉さま、こんなに長い間、来れなくてごめんなさい」
その一言だけで一同は巨大な雷に打たれた。全身がピシっとなる。まるで最高司令官を目の前した士官候補生のように、背筋をまっすぐになる。
陽子は、辻口という墓の刻印を見ながら思った。

――――どうして、こんなことになったの? 
 木魚が叩かれる音が赤ん坊の泣き声に聞こえる。思えば、ルリ子はまだ言葉もおぼつかない年齢でこんな冷たく暗い場所に眠ることになったのだった。
「・・・・・・・・・・!?」
 
 四人の前にふり返った中学生の女の子はある言葉を言おうとして、絶句した。春実の顔が見えたのである。母親とはちがう意味で整った容姿は黙っていても、いや、黙っているだけでそこはかとない凛とした雰囲気を醸し出しているのであるが ―――そもそも、内心の思いに関係なく、ただ黙ってさえいればそれを周囲にまき散らすのである。
ちなみに、この時。彼女はあることを言っていた。

――――大人になるまで知ったらだめ。

「どうしたの? 陽子ちゃん・・・・・」
 夏枝は、娘の肩を砕かんばかりに両手を食い込ませた。
彼女が尊敬してやまない母親は、この世でももっとも美しい顔をくしゃくしゃにして震えているではないか。

――――言えない、絶対に、言えない。
 陽子は可愛らしい顔を梅干しにして立ち尽くすことはできない。ただ、涙を流すことはもうなかった。
涙を流す母親を目の前にして、自分こそががんばるべきだと思い立ったのである。
「ありがとうございます、お母さま、やっと、ルリ子お姉さまにお会いできて嬉しいです」
「陽子!」
 夏枝は、娘を抱いておいおいと泣きじゃくった。その姿は一同のものにある種の感慨を与えた。しかし、そこに複雑な心境が迷いこんでいたのは以前に書いたとおりである。
 陽子は、しかし、―――――。
 幼児みたいな状況に耽溺しつづけるほど子供ではなかった。
だから、目敏く何かに気づいた。そこには花束がおいてあった。




 遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 さて、『新釈』も第六回を迎えて、ようやく土台が組上がってきました。そろそろ本職に移行できる運びになりつつあります。

 本家の原作についてですが、三浦綾子の本作は言うまでもなく、日本文学上の名作であり、これをオマージュすることは小説をものす上で大変勉強になることは予想できました。
 小説で何よりも大切なのはしっかりとした構造に尽きるとは、本作を読めばわかります。
 陽子、夏枝、そして建造が織りなす人間関係の妙は、この作品の構造を完全に支えているということができましょう。

 しかしながら、導入部に不自然な部分があることは否定できません。
 ルリ子の仏壇すら自宅にないという事実。あきらかに、陽子に対してそれを封印したいという家族の意図が見て取れます。しかし、愛娘を失った夏枝が、陽子を養女に迎えたとはいえ、その哀しみを忘れようはずがありません。
 きっと、陽子に隠れて墓参りに行っていたにちがいないのです。当然、それには建造も複雑な思いを胸に、従っていたにちがいありません。
 もうひとつ、原作では、姉でなくて兄ですが、彼は五歳になっており、事が進んだ経緯の不自然さを理解していたにちがいないのです。
 それらをすべて考慮に入れると大変、いびつな家族関係が浮かび上がります。原作ではほとんど描かれていなかったと思います。
 思うと言うのは、数年前に読んで以来、まったく本を開いていないからです。
 オマージュを作製するに当たって、私は憶えていない部分を、想像力を駆使して埋めることにしました。そうすれば、創作の練習にもなると考えました。

 さて、私の拙文を読んで頂いてありがとうございます。
 これからも叱咤してくださったら大変、嬉しいです。
 性的な描写もようやくはじまります。

 『由加里』や『マザーエルザの物語・終章』もよろしくお願いします。

テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

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