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『由加里 88』

 涙にくれる由加里を抱き続けた。ゆららは、その冷え切った背中を華奢な身体で温めたのである。
 自分が泣いているときにしてくれなかったことをどうして自分がしなくてはいけないのか、非常にシャクだったが、照美やはるかのことを考えると、そうせざるを得なかった。
さて、車イスを病室に運ぼうとしたゆららは、意外な人間と相対することになった。
 
 由加里の姉である西宮冴子。
 
 どうやら妹の見舞いに来たらしい。シックな色のスーツからは自分たちの世界とは別の人間だという空気を感じ取れる。そして、妹に似たほっそりとした肉付きながら、由加里とは違う芯の強さを見いだす。
 これが大人ということだろうか。ゆららは思わず、その迫力に煽られた。
 
 地域の『合唱の会』を通じて知り合いになっていた。その会は、少女が学校で冷遇されている間、数少ない他人とのコミュニケーションを取れる数少ない場所のひとつだった。そのために、彼女の性格から相容れぬことと裏腹に、異常なまでに積極的に参加していた。
 冴子と出会ったのは、練習中のことである。元卒業生ということで、慰問にきたのである。指導者としても、会が始まって以来の優等生だった冴子の訪問をいたく喜んでいた。
 ただ、西宮という姓を聞くまで、二人が姉妹だと気づかなかった。
 確かに、二人は似ている。
 
 しかし、高貴な肉食獣を彷彿とさせる、あの鋭い目つき。怜悧という言葉がこれほど適当な人間に、ゆららは出会ったことがない。
 遺伝的に姉妹だということは、外見からわかる。だが、皮膚の下に流れる血でもない何かあきらかに違う。それが醸し出すオーラのようなものが血に勝っていた。
 それが、二人の類似を打ち消していたのである。
 無条件に、ゆららは冴子に好感を持った。それは由加里に対する悪感情の裏返しだったのかもしれない。
指導者に促されて、渋々ながら疲労した歌唱はゆららの心を摑んだ。しかし、「先生、私は本質的にヴォーカリストじゃないですよ」と煙たい表情で謙遜する姿は、小学生じみた少女にいたく感銘を与えた。
 その冴子が目の前にいる。病室の前に立っている。
「冴子お姉さん!!」
 由加里が、羽目を外すのは当然のことだった。しかし、あくまで許せなかった。
「・・・・・」
「あれ、ゆららちゃん」
 医学部の女子大生は意外そうな目を後輩に向ける。彼女の話から妹の話題が出ない、あるいはこちらから話を向けても軽くあしらわれる、それらのことから、二人はそれほど親しい友人でないと践んでいたのである。
「ゆららちゃんがノートを持ってきてくれているんだよ」
 姉に話しかける由加里は、年齢よりもかなり幼く見える。自分の中に芽生えた嫉妬心を押さえるのに苦労した。
「由加里ちゃん、学校、来れないですし・・・・」
「・・ウウ・・ウ・ウ」
 小柄な少女は驚くべきものを見た。
 知的な美少女がとつぜん泣き始めたのである。もちろん、自分の台詞が彼女に影響を与えたとは、最初、信じられなかった。
 由加里ちゃんという呼称が、それほどの影響力を持っていることは、しかし、かつて、同じような境遇に、いや、彼女の何倍もの永きに渡って虐げられてきた少女にとって、てに取るように分かるのだ。
 自明の理という言葉は、まさにそのためにあるように思えた。

 一方、由加里は長い間感じたことのない喜びを感じていた。
 自分を友だちと呼んでくれている。それを家族の前で保証してくれた。それが何よりも嬉しい。大事な家族に対する後ろめたい気持が解消されていく。自分にも友だちがいる。そのようにみんなに胸を張れるような気がした。 もう、クラスの鼻つまみ者ではない。きっと、クラスメートも受け入れてくれる。ゆららもそう言っている。
 冴子の存在が、由加里を何故か楽観的な方向に向かわせていた。
 一方、ゆららは怖ろしい気持に陥っていた。妹がいじめられていることに、冴子は気づいているのだろうか。それなら、自分は大事な妹をいじめているクラスメートのひとりではないか。
 ゆららは逃げ出したい衝動に襲われた。
 しかし、冴子は自分を受け入れてくれる。少なくとも、そのような視線を自分に送ってくれていると思う。
 だが、この場に居続けるには、あまりに神経が細くできていた。

「あの、西宮さん、私、もう帰ります」
「え?ゆららちゃん、帰っちゃうの?もっと居ればいいのに」
 屈託のない笑顔を送ってくる由加里。
 再び、蘇ってくる憎悪の念。
 少女は複雑な気持ちをパンドラの箱に押しこめるような気持だった。

 パンドラの箱は、しかし、その存在感を急激に失うことになる。冴子の発言がその主因だった。
「海崎さんに連絡を取ってくれるかな?ゆららちゃん」
「え?」
 自分が何を聞かれたのか、一瞬、理解に苦しんだ。一方、由加里は完全に凍りついた。こんなところで、姉の口からどうしてその名前が出てくるとは。彼女は由加里がこの世でもっとも怖れる人間なのである。
 それよりも、どうして冴子が照美を知っているのだろう。それに対する疑問が先立つのは当然のことだ。
「「合唱の会」関係よ、由加里。そうよね、ゆららちゃん」
「ぁ、はい・・・・」
 意外そうな顔をする知的な美少女。
「ゆららちゃん、あそこに入っていたの?」
「うん、小学生の頃から」
 由加里は、小学生時代のゆららを思い浮かべてみた。しかし、今の彼女以外の何ものも想像しえなかった。
 だが、よく考えて見ると、注意すべきはそんなことではないことに気づいた。照美のことである。
「あ、冴子姉さん、か、海崎さんの・・・・・」
 冴子は、妹の話を皆まで聞かずに、冷蔵庫を開けるとリンゴを取り出す。赤い珠を後輩に見せながら、微笑する。
「ゆららちゃんも食べる?」
「ぁ、はい・・・」
 気まずい気持をかみ殺しながら、自分が長居をする羽目になったことを思い知らされた。それを剥かれようとしているリンゴが、我が身を犠牲にして主張している。
 リンゴを剥き終わった冴子は病室の片隅にあるテーブルを運んでこようとした。
「あ、手伝います」
「いいのよ、気を遣わなくて」
 妹には決して見せないような笑顔で応ずると、冴子は手伝おうとする少女を制した。本心からだけではなく、じっさい、背の高さに差がありすぎるのだ。ただでさえそんなに背が高くない由加里と比べても、ゆららは頭一つ以上低いのである。
 ランドセルを担がせたら、小学生にしか見えないだろう。冴子は正直、ゆららが苦手だった。別に悪意は感じないのだが、どうやって接したらいいのか難しい。相手は小学生ではないのだが、気が付くとそのように扱ってしまう。

 一方、由加里は完全に機を逃していた。照美の美貌がちらついて頭から離れない。

 目の前で姉とゆららが会話のキャッチボールをしている。
 二人の内面を知らない少女は、二人が何の支障もなくボールの投げ合いをしているのだと、変な嫉妬を感じていた。それだけでなく、姉の顔を見てから、やけに股間の異物が蠢く。ゆららと二人だけで居たときはそれほど感じなかったのに、少女の性器に隠されたものが蠢動しはじめたのである。
 ベッドに戻った知的な美少女は、腰をエビのように曲げて苦しそうに顔を歪め始めた。
「どうしたの?由加里ちゃん、具合が悪いの?」
 ゆららは自分がここから逃げる口実を得たと思った。だが、冴子はそれを許そうとしない。
「ゆららちゃん、ちょっと見ていてね、看護婦さん呼ぶから」
「あ、姉さん、大丈夫・・・・」
 由加里の言葉なぞ、公園に舞う枯れ葉のように無視して、姉は病室を後にした。

 病室に二人だけにされると、ゆららは所在なさげに窓の外を見る。しかしながら、今度は、由加里の方から噛みついてきた。
「海崎さんのことだけど、ゆららちゃん、知っていたの?どうして、冴子姉さんが海崎さんと?」
「・・・・・・・・」
 由加里の刺すような目つきから逃げるように、外へと逃げようとした。
「ゆららちゃん!?あぅぅぅ・・・!?」
「由加里ちゃん!?」
 ゆららが悲鳴に振り向くと、由加里は、先ほどよりもいっそう苦しそうに額に脂汗を滲ませているのが見えた。
「由加里?」
 ちょうど、その時、冴子と看護婦が入ってきた。
 看護婦は、あの似鳥加奈子である。
「西宮さん、どうされましたか?」
 抜け目のないことに、この女悪魔は第三者がいるときにはこのような口調なのだ。由加里の耳元に近づくと囁きかけた。
「由加里ちゃんたら、お友だちとお姉さんの目の前で欲情していたわけね」
「・・・・ウウ」
 加奈子は、しかし、この場ではそれ以上のことはしようとしなかった。冴子の目が光っていたからである。彼女からただならぬ空気を感じ取っていた。直感的に一筋縄ではいかない相手だと認知したのである。
 それに、悪魔の囁きだけで由加里は十分にダメージを受けていたのである。それをわかっていたからこそ、黒い看護婦も手を引く気になった。

「先生、呼びましょうか、西宮さん」
「あ、ハイ」
 ほとんど、操り人形のように加奈子の意のままになる由加里。冴子は、それを不審に思ったが、いじめられていることから来る精神的な現象だと、しごく客観的に受け取ってもいた。
「由加里、お姉さんはもう帰るから」
「ぁ、冴子姉さん・・・」
 医師が入室するころには、由加里は打たれた注射によって意識が混濁しはじめていた。
 意識の周辺で見ていたのは、冴子とゆららが連れだって部屋を後にする光景だった。何だか、姉をゆららに取られたような嫉妬を覚える。だが、すぐに夢の世界へと意識を溶かしていった。

 ほどんと見あげるような冴子の長身を仰ぎながら、ゆららは廊下を歩いている。好感を持つに至ったが、知らぬ相手への畏怖を否定することは難しい。こちらから話しかけるのはほどんと不可能だった。だが、何とかなけなしの勇気を絞り出すことにした。
「て、照美さんがどうかされたんですか?」
 由加里の前で、果たしてそう呼んだだろうか。目敏い冴子はそう考えた。彼女の洞察力は中学生同士の人間関係なぞ、人目で見切ってしまうのである。細かなところまではさすがに見抜くことはできなかったが、確かに、この二人は複雑な人間関係で結ばれているようだ。だが、由加里いじめに積極的に参加していないことは事実だろう。
「言ったろう、彼女の歌声を聞いたって」
「え?合唱の会に誘うんですか?」
 月並みな答えである。冴子はもっと面白みのある解答を期待した。
「いや、違う」
 だが、よく考えてみれば、彼女は自分がロックバンドを主催していることを知らないはずだ。
「彼女の歌声にいたく惚れてしまってね、今度、会ってみたいんだが、ゆららちゃんの方から連絡してもらえないかしら?」
「え?でも、携帯の電話番号を知っているのでは?」
「礼儀さ」
 ゆららは理解できなかった、何故、ここまで回りくどいやり方をするのか。冴子は、少女が思っている以上に大人だった。照美の歌唱力に関心を寄せる一方、由加里が晒されているいじめに探りを入れようとしているのだ。
 少女が、もちろん、知らないことだが、二人は言わば流浪の姉妹である。それほど冴子は表には出さないが二人の絆は外部の人間が考える以上に太い。
 だが、冴子が腹に一物を抱く理由は、その張本人がそれに無頓着なことである。
 何しろ、春子を実母と信じて疑わない。そのことに、冴子は大人げない怒りを覚えるのだった。

 一方、ゆららは由加里が毎日のように受けているいじめのことが、頭を過ぎる。それは罪悪感と一言で表現するには、あまりに複雑で、かつ、奇っ怪だった。何とかして、この思いを吹っ切りたい。それには、こちらから畳み掛けるしかない。
「あの、西宮さん」
「何かしら?」
 冴子は優しげな微笑を返す。こんな優しい顔も浮かべるのだと、少し安心して話を切りだす。
 さりげなく話題を逸らそうとする。
 だが、逸らそうとしたゆららが逆にそちらに引き込まれた。冴子がいきなり男性と思わせるほど低い声で朗々と 歌い始めたのである。
「今、みんなで『流浪の民』を歌うことにしたんですけど」
「そうか、あれだな、えーと、 なれし故郷を 放たれて       
夢に楽土求めたり          
なれし故郷を 放たれて       
夢に楽土 求めたり・・・・・本来はソプラノのパートだがな、結構、好きなんだ。どうした?」          
 ゆららは完全に言葉を失っていた。『合唱の会』総勢、40人で歌ってもこれほど迫力がない。ここは病院なので、冴子はそうとう音量を抑えて歌っていたのだ。それなのに、この歌唱力は何だろう。
 これほどの人が「自分は本質的にヴォーカリストではない」とはどういう意味だろう。そして、照美に声をかけるとはどういうことだろう。
 少女は是非とも知りたいと思った。
 

テーマ:官能小説 - ジャンル:アダルト

『由加里 87』

 溢れようとする涙を必死に堰き止めようとしている姿は、さすがに、ゆららの感情の何処かを刺激する何かしらのものがあった。
 しかしながら、一方で、沸き起こってくる感情を、彼女も懸命に堰き止めていたことも事実である。ここで、一時の感情に流されてはいけない。心を鬼にしなければと、ゆららは奥歯を密かに噛みしめていた。

「そうね、わかっているわよ、由加里ちゃん・・・・」
「ウウ・・ウウ・ウ・・ウウ!?」
 ゆららのその一言を聞いたとたんに、高いダムは大自然の驚異の力によって、いとも簡単に崩れた。そして、白魚のような手が少女の元に忍び寄ってきたのだ。その瞬間、彼女の背中に無数のウジ虫が登ってきた。
押さえきれないおぞましさを堪えながらも、ゆららは、しかし、現在、彼女に科せられている任務が女優であることを忘れなかった。

「由加里ちゃん・・・・・」
「ウ・・ウ・・ウ、ゆららちゃん、お願い・・・・・・」
 瀕死の病人のように、由加里の握力は完全に計量以前の段階までに後退していた。
 ゆららは簡単に理解していた。
 被虐の美少女が一体、何を言わんとしているかが手に取るようにわかるのだ。いや、長い経験から、それがいやでもわかってしまうのだ。

「わかっているわよ、由加里ちゃん」
「・・・・・!?」
 吐息が顔にかかるくらいに近づいた。すると、彼女が怯えていることがわかる。捨てられた猫のように、まだ、ゆららを警戒しているのだ。それを、非常に上から目線だが、とても可愛らしく感じたのである。
 だから、彼女自身、気づいていなかったが、愛玩動物に対する憐憫の情を由加里に指し示した。知的な美少女はそれを無条件に受け止めた。無意識の何処かにおいては、それを見抜いていたのかもしれないが、何日も水も食糧もなしで炎天下の砂漠を歩き続けた旅人が、水が入っている水筒を発見した場合、まず、何も考えずに水を飲み干すにちがいない。
 それに毒が混入しているなどと、疑いもしないだろう。
 今の由加里は今こそ、そう言った心持ちになったのである。
 
 鈴木ゆららという人間の中に、どんな毒が混入しているのか。例えば、照美やはるかなど、あるいは、貴子や高田などという得体の知れない、体をあきらかにこわすものが隠されているのかわからない。
 その可愛らしい笑顔に裏など会って欲しくないと希がった。
 人間というものは、得てして、自分の主観を外に照射するものである。そうなるはずがないのに、自分の都合のいいように世界を見てしまう。得てして、追いつめられている人間ほどその傾向が強い。
 だが、さすがに由加里は聡明だった。
「ご、ごめんね・・・・・ゆ、ゆららちゃん・・・・・・私ったら・・・・」
 はにかむように両手を引っ込めた。
 だが、ゆららは意を決したように、傷だらけの草食獣を追いかけた。
「いいのよ・・・・由加里ちゃん」
 その傷を庇うように由加里の背中に覆い被さった。まるで、テレビゲームのように、こう操作すればこうなると簡単にわかる。由加里はまるでこの世の終わりが急に訪れたように泣きじゃくり始めた。
 かつて、彼女にやって欲しかったことをやっていた。そうすることで実は復讐を行っているのではないか。ゆららは意識の底辺に過ぎった思いを必死に打ち消した。だが、そうしようとすればそうするほど、無尽蔵の泉よろしく、地中から幾らでも浮かんでくるのだった。

「あれ、車イスがあるんだ・・・・・・」
 ふと、自分のいやな考えから意識を逸らそうとした少女は、部屋の隅に鎮座しているものを見つけた。
「あ、家族とか、看護婦さんが散歩に連れて行ってくれるの」
「じゃ、行こうよ。晴れているし・・・」
「いいの? ゆららちゃん、連れて行ってくれるの?」
 由加里は、鈴木ゆららという少女を通して、いじめっ子たちの魔術に取り込まれようとしていた。
 暗闇ばかりの人生に突き落とされて、永いこと地獄の日々を過ごしてきた。だが、ようやく薄日がさしてきた ――――。
 かつて、トワイライトゾーンという魔術世界を描いた映画があった。薄日を英語でトワイライトと言うのだが、人はそのような時間にまやかしの世界へと誘われてしまうのだろうか。
 完全に由加里はその世界へと足を踏み入れている。 
 
 鈴木ゆららによって、車イスに乗せられて一見甘美な雲の絨毯へと誘われていく。しかしながら、人間が雲に乗ることができないことは自明の理である。さいきんでは、小学一年生でもそんなことは理解の射程内である。
それを人一倍知的な由加里が心得ていなかった。
 初夏の太陽はトワイライトと表現するには、あまりに笑止である。まばゆい光と緑が知的な美少女の視力を奪う。
「あつい・・・・・・・もう、夏だね」
「うん・・・・・」
 いつの間にか元気を取り戻していた由加里に、ゆららは真水の憎しみを憶えていた。

――――やはり、自分は彼女を恨んでいるんだ。だから、どんなひどいことをしてもいいんだわ。

 一見、小学生と見間違われがちな、とても小柄な少女はここでもう一度初志を思い出していた。
 ここにはいない誰かに向かって胸を張って宣言するのだった、雲の上であぐらを掻いていた由加里を奈落の底に叩きのめしてやるのだと。
 もはや、照美やはるかと言う具体的な像は、少女の網膜に像を構成しない。自分のうちに芽生えた何かしらの目的のためにそれを行っているのだ。
 由加里を籠絡して、学校に来させること。
 彼女にとって、戦場、いや、地獄とでもいうべき教室に放り出すためにならば、どんなことでもできる。ここで、友人と偽って彼女の心を絆させるためならば、どんなひどいことでもできるだろう。
 ゆららは車イスの上にちょこんと座っている由加里を見下ろした。始めて見掛けた時は、どれほど大きく思えたことか。あの時は、完全に胸を張っていた。華奢な身体ながら、沢山の友人と信望者に囲まれて輝いていた。
 永年、戦場を駆けめぐって、由加里は心身ともに疲れ果てた傷病兵でしかなかった。そんな彼女をもう一度、傷も癒されていないのに、戦場へと帰還させよというのだ。それも味方がひとりもいない劣悪な環境へと叩き込むのである。
 車イスは見掛けよりも動きが軽い。
 それは知的な美少女が軽いのか、それとも、車イスというハードがゆららの想定よりも技術革新が進んでいるのか、即座には判断できなかった。
 ゆららは自分の薄暗い企てのために、由加里に話しかける。
「由加里ちゃん、どう、辛くない?」
「大丈夫だよ、それにしてもいい天気ね」
 しかし、会話は長く続かない。ここで思い切って、話を切り出すことにした。
「もう、中間テストが近いよ・・・・・」
「うん・・・・・」
 由加里は黙り込んでしまった。視線が虚ろになった。話の持っていき方が悪かったであろうか。彼女にとって学校に付随するあらゆることは、タブーなのだろうか。
 いや、そうではあるまい。何しろ、彼女が入院していらい、ずっと受業のノートを提供してきたのである。その間、ゆららは由加里に勉強の仕方を教えてもらうことすらあった。それは、照美やはるかが企む目的への一貫だと、自分に言い聞かせて、彼女の友人を演じてきた。
 ゆららはさらに畳み掛けることにした。
「由加里ちゃん、学校に来ようよ。みんな待っているよ」
「うん・・・手紙、読んでいるだけどね・・・」
「・・・・・・」
 由加里の両目から涙が零れていた。それは彼女の目がガラス玉ではない証拠だった。
「・・・・信じられないの」
 そう言うと、小さな顔を両手で埋めて泣き声を発しはじめた。
 何て言うことだろう。たが、数ヶ月ほどいじめられただけで、このザマはどうしたことだろうか。
 ゆららは学校という概念を体感していらい、ずっと、いじめられてきたのだ。そうでなくても、軽視されてきたことは事実である。改めて、怒りが沸き起こってくるのを感じた。
 血液が沸騰して皮膚の下から噴き出てくるような気がする。
 だが、それをストレートに感情に反映させるわけにはいかない。彼女にわからないように、悪意を言葉に含ませるべきだ。それには慎重の上に慎重が要求される。
「由加里ちゃん、あれほどヒドイ目にあったんだから、仕方ないと思うけど・・・・」
「ゆららちゃんの言うこと、わかるのよ、わかるんだけど・・・・・・」
 ここで、ゆららは心にもないことを言うことにした。
「絶対に、私が護るから、何があってもね、ううん、護れなくても、一緒にいじめられるから・・・・・」
 いじめられてあげると表現しなかったことに、ゆららが冷遇されてきたことの証左になるだろうが、それは由加里の洞察力の及ぶところではない。もしも、この時、それを見ぬいた上に、態度に表すことができたならば、完全に、ゆららの友情を得ることができたであろうか。

 いや、それは難しいだろう。照美と由加里の間に挟まれて、引き裂かれてしまうにちがいないのだ。
 由加里は、ゆららが思ってもいないことを言った。
「それはないと思うな、高田さんや金江さんたちはともかく、照美さんやはるかさんは私以外をいじめたりしないわ・・・・・」
 まるで、自分に言い聞かせるような口調だった。
 彼女が照美の本質を理解していることに驚いた。やっぱり、この人は頭がいいんだと、実感させられる。
「私ねえ・・・・・・」
 由加里は思い詰めるあまり、言葉を詰まらせた。
 だが、思い切って舌を動作させる。そうできなくても、そうしようと努力しているのが見て取れる。
「由加里ちゃん・・・」
 おもむろに、彼女の冷え切った手がゆららの手に重ねられた。
「ねえ、触れていていい?」
 ゆららを見上げる黒目がちな瞳は過剰なまでに涙が溜まっていた。
「いいわよ・・・・・・」
 もしも目の前に崖があったら、無条件に飛び込んでしまうのではないかと思われた。何か声をかけなければならない、そう思ったが何を言って良いのかわからない。そんなところが、非情な女優になりきれないゆららの本質を表しているのであろう。
 由加里に言葉を求めるのは、からからした不毛の砂漠に水をもとめるようなものだった。だが、少女は何とか口を開いた。
「ゆららちゃん、どうして・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
 ゆららはこの時、女優であることを忘れていたかもしれない。由加里の言葉をただひたすら待った。
「どうして、みんな、照美さんたちに同調したのかな?・・・・・・私、それがわからなくって、そんなに、私はイヤな人間なのかな?」 
 知的な美少女はゆららの手を握ったまま、泣きじゃくり始めた。






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『由加里 86』

 ゆららは、思いだしたようにある名前を出した。
「そうだ、工藤さんとは?」
「ああ、工藤さんは、なかなか、私たちと関わり合いたくないようでね」
「いや、あの子は由加里と関わり合いたくないらしい」

――――お前と違う意味で、あいつを憎んでいるのかもね。

 それをあえて言葉にしなかったはるかは、思案下にガラス張りの壁ごしに空を見た。その時、太陽を横切った鶴のような鳥。その長い足は彼女に何を問いかけているのだろう。  
 あるいは、それをどう受け取ったのか、今のところ、その疑問に答える用意はないようだ。

「小学校のころは、一番の親友だったらしいじゃない」
「去年も相当仲良く見えた」
 ゆららが口を挟んだ。
「じゃあ、同じクラスだったの?」
 「うん ―――」
 小さく肯いたゆららを見ていて、照美とはるかは、やはり、工藤香奈見の登板が必要だと再確認した。

 かつて開催された由加里裁判は、クラスにおける彼女の立ち位置を決定したが、その裁判において裁判長を務めたのを最後に、由加里いじめに積極的に参加しなくなった。そうは言っても、裏でかつての親友をサポートしているという情報もない。

「口ではもう係わるつもりはないとか言っておきながら、プライベートでは密かにサポートしているのかも」
「照美、それはないな」
「何でわかるのよ」
「いや、なんとなく。そうだ、ゆららちゃん、工藤さんに探りを入れてみてよ」
 ふたたび、哲学者の顔に戻った親友に、照美は、不埒なものを感じた。
「ちょっと、何を考えているのよ。それで彼女とあいつが裏で係わっていたら、どうするつもり?!」
「照美・・・・・・・・・・・」
 はるかは言葉を失った。あまりにも親友の顔が美しかったからだ。いや、それは顔かたちのことを言っているわけではない。それは地球が丸いことよりも自明の事実だからである。
まっすぐな目ははるかを射るように見据えている。

――――人の弱みを握って、その人を脅迫するなんて人間として最低だと思う!

 無言のうちに、親友はそう言っている。
 以心伝心。
 ふたりの間には見えない絆が、一本の線ではなく、それこそ網の目のように結ばれているのだ。
「何よ!?」
 かつて、照美も、自分もこんな目をしていたのではなかったか。西宮由加里という人物に出会う前は人一倍優れてはいたが、その実相は何処でもいるごく普通の中学生だった。
 照美とはるか。
 たまにはぶつかることもあったが、互いを磨きあって、育ってきたふたりである。その姉妹以上の絆は、今となっては、彼女に対する攻撃へと、ただひたすらに向かっている。
 第三者の目から見れば、ベクトルを間違えばどんな美しい絆もとんでもないマイナスの方向へと舵を取るものだ、と映るにちがいない。
 だが、当事者たちにとってみれば、まっすぐ進んでいるつもりなのである。それは決死の樹海行に似ているかもしれない。
 彼の地も、まっすぐ歩いているつもりなのに、じっさいは、同じ所をぐるぐると回っていることがよくあるそうだ。
 ふたりにとって学校生活とは樹海にも勝る迷路なのかもしれない。
 こんな中学生活を送るはずじゃなかった、はるかはそう思うと、自分たちからすべてを由加里に奪われたように思えて、照美とは違った意味において陰険で残酷な憎しみを抱くのである。

「まあ、いい。私からコンタクトをもう一度とってみる。じゃあ、よろしく頼む、じゃ」
 憮然とした顔で、はるかはそう言うとエントランスへと歩き出した。
「ちょっと、はるか! じゃ、ゆららちゃん、よろしく」
 小柄な少女の目の前で、美しい珠がはじけた。あまりの美しさに魂を奪われたゆららは、思わずふたりを追いかける機会を失ってしまった。
 本当は、自分を認めてくれる存在であるふたりに付いていきたかったのである。例え、相手が由加里であろうとも、人を騙すようなまねが彼女のような少女にとって幸せな時間に充当するはずがなかった。だが、彼女が認められる条件が二人の要求に答えることだと、当のゆららが思いこんでしまった。
 その罪を二人だけに背負わせるのは酷というものだろう。今の今まで人間として扱ってこなかった同級生たちや、 それに、教師たち全員が平等に追わねばならない罪のはずだ。

 それに気づいていたのは照美とはるか、それに、もうひとり。
 傷心の少女がこれから傷付けようとしている、西宮由加里、そのひとだったのである。

 ゆららが由加里の病室をノックしたとき、既に似鳥可南子による性器の検査が済んだところだった。
 すこしばかり、時間を元に戻してみよう。
 
 陰核から小陰脚まで一通り、局所の濡れ具合を調べ終わると、卵を入れたまま新しいオムツで下半身をくるんでしまった。しかも、それは普通の成人用ではなくて、SMで使われる特製の品である。エナメルのように妖しく黒光りする生地はゴムとも柔プラスティックとも言えぬ感触を着る者に与える。
 薄手の生地は身体のラインを外に完全に露出させる。しかも、性器の形がはっきりとわかるほど、それは顕わなのだった。
 可南子はすっかり穿かせ終わると、まるで一仕事終わったように満足そうな顔を見せた。

「どう? 新しいオムツの具合は? アメリカのマニア店から直輸入したのよ、相当、根が張ったんだから」
「ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ・ウウ・・・う、お、お願いですから、もう少し、緩めてください・・・・うう、く、食い込んで・・・ウウウ」
 少女の懇願に、可南子は嘲笑で答えた。
「ふふ、あなたのイヤラシイおまんこがはっきりと見えるわよ、こんなに食い込ませちゃて、いやらしい」
 自分で締めておきながら、この物言いである。
 ちなみに、舶来物の特製オムツは、ベルトと革ひもによって締め具合の調節が自由である。由加里の性器は陰核まではっきりとわかるが、これでも、まだ強く締めることが可能なのである。もちろん、それは被虐の少女には言ってない。
 しかも、可南子は最後のこう言ってのけた。それは永久に煉獄に閉じ込められることと、同意である
 鍵を由加里の面前にちらちらとさせながら、可南子はにめにめと笑う。
「鍵をかけておいたわよ、これで夕食後まで楽しめるわよ、心おきなく、フフ」
「ウウ・・ウ・ウ・ウウ・ウウ、ヒドイ・・・・。」
 思わず泣きじゃくる由加里。

 そんな少女に仕事前に見せた仕打ちはこれで終わりではなかった。これ見よがしに、少女の愛液で汚れた手を鼻に近づけると、いかにも臭いニオイを嗅ぐような仕草をして、洗剤でごしごしと洗い始めたのである。
可南子が傷口に塩を塗り込めるような真似をしているとき、ゆららによるノックが由加里の胸を打った。
「はーい」
 看護婦はしおらしい声を返した。由加里は心底ぞっとさせられた。

―――この人は、どうしてあんなひどいことをしていながら、どうして、あんな声が出せるのかしら?

 しかじ、もっと驚かせたのはノックの正体を知ったときのことである。
「失礼します。あ、西宮さん」
「ゆららちゃん!?」
 由加里は全裸にさせられたような気がした。思わず、股間と胸を隠そうとしたぐらいである。だが、少女の局所はおぞましい締め具で隠匿させた上に、寝間着とシーツで隠されていた。
「由加里ちゃんの妹さんかしら」
「イエ・・・・友だちです」
 ゆららは短く答えた。可南子の無礼な言い方に憮然とした上に、彼女の内面に反問するものがあったからである。
 由加里は目敏くそれを察した。
「ゆららちゃん・・・・」
 少女は目を見張った。13年も生きてきたが、こんなに哀愁に満ちた目を見たことがなかったからである。それだけではない。
 その瞳は例えようもなく美しかった。

―――キレイ・・・・。

 心の中を憎しみに浸していたはずなのに、おもわず、その一言が浮かんできた。目の前の人物は、他人を裏切りに裏切ったとんでもない人間なのだ。彼女のような人間に、ひとりとして友人がいていいはずがない。なぜならば、その人物は早かれ遅かれ裏切られる運命だからである。
「西宮さん・・・・・」
 由加里はそっと手を、サクランボウのように可愛らしい手を指しだしていた。ゆららは、彼女がその生涯でひどい扱いを受けてきた上に、そして、心の奥底から友だちというものを求めてきた上に、目の前の病院が何を求めているのかはっきりとわかった。
 もはや、反射運動のような勢いで傷つきやすい果実を、その手で包んでいた。彼女らしい優しさはその手つきに現れている。まるで壊れ物を扱うように慎重だが、確実に由加里の手を支えていた。
それが伝わるからこそ、茶碗に注がれた湯はあえなく零れだした。
「ぁぁあぅ・・・」
 低く喘ぐと、被虐のヒロインはしくしくと再び泣き始めた。黒曜石の瞳は閉じられ、さきほどとは違う種類の涙が少女のかたちのいい頬を濡らす。

 悪魔の看護婦は、そんな様子を密かにせら笑うと、病室を後にした。
 二人がそれに気づかないくらいに、その運動は猫じみていたのである。

「西宮さん・・・」
「ウウ・・」
 ゆららは、しかし、自分の手元に由加里の泣き声を感じ取り、その吐息をかけられていると、別のことを考えるようになっていた。
 由加里に対する悪意が、その鎌首を擡げてきたのである。
 だが、それをあからさまにするわけにいかない。だから、由加里がこんなことを言っても表情に出すわけにはいかない。
「ゆ、ゆららちゃ・・・わ、私、友だち? ウウ・・ウ・・ウ」
「と、友だちだよ・・・」
 再び、芽吹き始めた罪悪感にぴくんとなりながらも、ようやく回答することができた。
「なら、由加里って呼んでくれないの?!」
「・・・・・・・・・」
 かつての颯爽とした姿はもはや微塵も感じられない。そこには、誰からも見捨てられた哀れないじめられっ子しかいない。
「・・・・・・・」
 ふいに、視線を反らした。それは同族嫌悪というものだろう。何よりも、自分がいじめられっ子であることを恥じてきた歴史がある。自分のそんな姿を見せつけられたくなかったのである。
 だが、照美とはるかの顔がふいに浮かぶと、こう答えた。
「由加里ちゃん・・・・」
 「ウウ・ウ・・ウ」
 それは可南子の言い方を単に真似ただけである。しかし、被虐のヒロインにとってみれば、友情の告白のように思えた。

 ふいに、起きあがろうとした。
 その時である ――――。
「ヒィ?!!ぁあぁっぁ!」
 由加里は、金切り声を上げるとベッドに沈んでしまった。柔らかな身体がエビのように折曲がった。
「に、西宮さん!? どうしたの?苦しいの!? 先生、呼ぼうか?」
 ゆららは、病人がその傷病のために苦しみ出したのだと思った。しかしながら、それは完全に事実と異なる観測だった。実は、身体を動かしたことによる衝撃によって、オムツの生地が局所に食い込んだ結果、胎内の中に埋め込まれた異物が、さらに奥へと潜っていったのである。
 官能と苦痛は表情が酷似しているという。
 だから、ゆららは由加里が苦しんでいるとカンチガイしたのである。
「ウウ・ウ・・ウウ・ウ・・うう」
 今更ながら、由加里は自分が手枷足枷を嵌められた上に、鋼鉄の鎖で繋がれていることに気づいた。自分は、単なる可南子と病院の奴隷にすぎないのだ。だが、ゆららを見た瞬間に自分の中で、自由人の魂が芽吹いた。
「ダ、大丈夫だよ、ゆららちゃん」
 虫の息の下で、由加里はあることに気づいていた。

――――さっき、私のことを「西宮さん」って呼んだ。やっぱり、わだかまりがあるのね。
「ゆららちゃん!!」
 被虐の奴隷は、残った力を最大限に振り絞った。
 ゆららの手首を摑むと言ったのである。
「わ、私、ゆららちゃんが思うような女の子じゃないよ!」




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『由加里 85』


 まるで雪だるまのように膨れあがっていく妄想でさえ、由加里に恐怖からの逃亡を許さなかった。それはまさに目の前に差し迫っていたからである。
 ミチルと貴子が座を辞したものの、まだ、照美とはるか、それにあの悪魔の看護婦、似鳥可南子が被虐のヒロインを魔性の光で照らし出しているのである。
 由加里は怯えた。あまりに眩しすぎて完全に目がくらむ。いったい、自分はどんな目に遭わされるのだろう。その具体的な内容はわかっているはずなのだが、その背後に横たわる意味と恐怖に注意が行ってしまう。

「や・・・あ、止めてクダサイ、おしっこなんかしたくありません」
 由加里は、自分が人語を喋ることができたことに驚いていた。自分が人間であるという事実すら忘れていた彼女である。その彼女が意味のあることを言ったとき、眠っていた自尊心と羞恥心が蘇ってきた。
 しかし、それは同時に自分でも想像できなかった苦しみと苦痛を、呼びさますことにも通じる。
 少女の幼い性器がくわえ込んだゆで卵は、すでに頭が出ていた。少なくとも可南子の目にはそれが見えていたのである、小陰脚が微かに歪んでいるところを見逃していなかった。  

 可南子はほくそ笑んだ。一方、照美とはるかは理解不能な感情に支配されていた。いたずらっ子が自分の不道徳な行為が目の前で露見されてしまうような、すなわち、恥ずかしいようなこそばゆいような感覚である。
 どうして、この似鳥可南子という看護婦に対して、このような感覚を抱かねばならないのか、二人は理解できなかった。彼女たちの担任が目の前にいて、その行為が露見したとしても、そのような感覚の炎に身体を焼かれることはあるまい。
 だが、当の被虐のヒロインは、自分の身体を骨まで焼き尽くす猛烈な炎に苛まれているのである。

――――アア・・・・ああ、もう、限界だわ。出ちゃう! いや、こんなところで出しちゃうなんて!! 
 人間のもっとも恥ずかしいばしょに異物が蠢いている。その感覚は体験した人間ではないと理解できないであろう。
 由加里は識閾下で慟哭した。無意識の庭に飼っている狼が吠えていた。
 しかしながら、表面上は大人しい子猫が瀕死の呻きをあげるだけである。
「もう、ダイジョウブですから・・・・・・・ウウ」
「そう ――――」
 看護婦は、あっさりと患者の要請を許諾した。由加里は再び耳を側立てた。簡単に引き下がるとはとても思えなかったのである。粘液質で陰険なこの大人の女性が、他人に言われて、それも自分のおもちゃとしか見なしていない由加里に言われて、自分の意思を引っ込めるなど、完全に想定外だった。

―――あ、海崎さんと鋳崎さんがいるから・・・・・・。

 被虐のヒロインは水あぶくのような目を、二人に向けた。絶世の美少女と将来を嘱望されたアスリート少女は、複雑な視線を返した。このまま3人だけならば、この哀れなおもちゃ兼奴隷を思うままにいたぶるだけだが、ここには似鳥可南子がいる。どうしたものだろう。
 目の前にごちそうがあるというのに、簡単には手を出せない苦痛。それは、二人の若いというよりは、より幼いサディストたちの忍耐力を要求する。
 しかし ――――。
 はるかは思う。この似鳥という看護婦からは、何か自分と同じものを流れている。
 彼女が行っているのはもはや看護ではない。看護などという範疇を完全に超えている。それは正常人である彼女ならば簡単にわかることだ。異常と正常の峻別はその行為から導き出せるものではない。彼や彼女がどんなに異常な欲望を持っていようとも、あるいはその欲望を異常と認識できるならば、彼や彼女は正常なのである。もしもそうでなければ、この世の殺人者はみな異常である。よって、彼らはみな無罪になってしまうではないか。
 この点、はるかと照美は完全に正常だが、可南子のばあいそれがかなり危うい。
 だから、二人は先に引き下がろうとした。

「看護婦さん、私たち、用があるから帰りますね、じゃあな、由加里ちゃん」
「ァ、だめ!」
 由加里は小さく叫んだ。だが、その叫びは二人に聞こえないほど小さかった。目を瞑った少女が次に開眼したときには、悪徳の看護婦だけが不穏な笑みを浮かべているだけだった。
「お友だちは帰っちゃったわね、由加里ちゃん」
「ヒ・・・・・・」
 猛獣の檻に放り込まれた子ヤギのように、由加里は光を見ない目で白衣の悪魔を見上げた。
 目前に迫ってくる悪魔の前歯は、何故か異様に白い。プラスティックでコーティングでもしているのではないかと思わせるほどに軽々しいテカリにみちていた。

「由加里ちゃんの秘密がばれなくってよかったわね、ふふふ」
「な?!」
 聡明な美少女は絶句した。この人は一体何を言っているのだろう。ふいに、自分すら騙した。それは別の言い方で欺瞞というが、身体まで騙すことはできなかったようだ。
可南子は妖気を立ちのぼらせながら、そのジャガイモめいた顔を少女の眼前に近づけた。
 ろくろ首―――。
 子供の頃に記憶の肥やしにしたはずの名詞が、今更ながら醜い鎌首を擡げてくる。本当に、この白い悪魔には蛇の頭と胴体があるのではないかと、思わせる妖気を醸し出していた。
「ここに ――――」
 由加里は、悪魔の悪の奥深さとしつこさを思い知ることになる。
「ヒ?!」
 言葉と言葉を句切るのは、何故だろう。由加里は考えた。
 あふれんばかりの恐怖によって沸騰寸前の感情と切り離されたところに、理性の一部が生存していた。それは確かに事態を正確に観ていた。自我が宿命的に持っている生存本能から、完全に自由だったから、事を正確に観察することができたのである。
 だが、それ故に自分から分裂した理性に恐怖を感じたのである。

 人間が外部に恐怖を感じることはない。そのような言明がある。しょせんは、人間は自分の影以外を見ることはできないということである。少女は自分の影に怯えていたのかもしれない。
 可南子は、しかし、確かに彼女の目の前に実在する。
「何を入れているのかしら? 私にわからないとでも思ったの? インランの由加里チャンたら?」
「ァァウウ・・・・あぁ・・・・・ウウウいやぁぁぁ・・・・・あ」
 ミミズのような指が少女の性器に忍び込んでいく。
「ふふん、後でたっぷり可愛がってあげるわ、イケナイ由加里ちゃんには、看護婦さんは忙しいのよ・・ふふ」


 可南子がその炎のようにめらめら燃える舌を、食肉である由加里の身体にむかってちらつかせたとき、照美とはるかは病院のエントランスにいた。自動ドアが開くのを見ながら、二人はどうでもいい会話の花を咲かせていた。
そこで出会ったのはとても小さな少女だった。
「あら、ゆららちゃん」
「あ、照美さん」
 会話が始まるところで、横合いから邪魔が入った。
「おい、ゆららちゃん、いい呼び名があるぞ」
「え? 何?はるかさん」
「良いこと教えてやるんだから見返りがないと ――」
 ゆららは、この二人に対してまだ警戒心を取り除いていなかった。その上、このアスリートに対して恐怖に近い感覚を残していた。照美は、それがわかっていたから、親友を諫めた。
「はるか!」
「ゆららちゃん、向こうで話そうよ」
 優雅な手つきで売店前にある喫茶店を指さした。
 
 大きな鞄を顔が隠れんばかりに抱えている、その姿は、まさに小学生のようである。照美は彼女を目の前にすると、素直になることができる。西宮由加里と出会う以前の、本来の自分に、彼女が自分自身をそう見なしている、戻れるような気がした。
 自動ドアの前で立ち止まったゆらら。そんな彼女に思いやりの気持が働く。じゃあ、向こうの椅子で話そうか。あえて、おごると言わなかったのは彼女の自尊心を慮ってのことである。
「ええ」
 それでも、短く答えたゆららはいくらか気まずそうな顔をした。
 ここで、場を盛り上げようとした人間がいる。
「じゃあ、話を始めようか、てるちゃん」
「な、ちょっと待て!! このウドの大木!」
 絶世の美貌が奇妙に揺らぐ姿を、ゆららは目撃した。
「くす」
 あどけない笑声を振りまく同級生に、はるかと照美は思わず手を打つことしかできなくなった。クラスを代表する二人もゆららを目の前にすると、全く形無しである。二人ともそれを嫌がっているようすはない。むしろ喜んでいる風すらある。

 由加里が地獄のような羞恥を味わった後、精神の危機に苛まれているあいだ、彼女の3人の同級生たちは、つかの間の頬笑ましい時間を過ごしていた。
それを壊したのは照美の一言だった。
「かばんの中、例のアレなんだ」
「え? うん・・・・・」
 とたんに、少女の顔が曇る。
 それを無視して、はるかは話を繋ぐ。
「どう? 様子は?」
「あの人は・・・・・」
 小学生のような同級生が主語を選択するにあたり、どうして、それを使ったのか。照美にも理解できたような気がした。しかし、速やかに事を進めなければならない。はるかの計画通りに、由加里を破壊しなければ、本来の彼女に戻れないような気がしたからである。

「ゆららちゃんを好きになってきた?」
 もちろん、信用という言葉を使わなかったのは、照美の意識によらない作為である。
「あんな人に好かれても・・・・あ」
 少女の物言いには二つの要素が合成している。照美たちに対する配慮とそれによって産まれた由加里に対する悪意である。それが真実なのか偽りなのか、即座には判断しかねる。
「照美さん、聞いてもいいですか?」
「ゆららちゃん」
「あ、照美さん、聞いてもいい?」
 はるかが話の腰を折る挙に出た。

「ち、ち、ちがうな」
 長い指をちらちらさせて、茶目っ気一杯の笑顔を見せる、鋳崎はるか。けっして、クラスで見られない代物だが、それが自分に向けられるに当たって、どれほど、自分の身分というものを理解できていたのか、この時はまだわかっていなかった。
「てるちゃんさ」
「おい、はるか!」
「じゃあ、てるちゃん・・・」
 照美の気色をうかがうようにゆららは桃色の声を出した。そんな顔をされたら無碍に拒否できるものではない。
「まあ、いい、今度だけだかね・・・・で、何を?」
「・・・」
 数秒、時間の停止があって、ようやく、ゆららは言葉をわき水のようにちょろちょろと流し始めた。
「どうして、あの人をそこまで憎むんですか」

――ちがう、私、私が、あの人を憎んでいるの! あの時、あの時の、あの人の顔! それが。

 心と身体は別のことを考えていた。照美の考えなどが問題なわけではない。それは自分を納得させるための方便にすぎない。自分が何処に立っていて、何をすべきなのか。そういうことを把握するには、あえて、照美のことを出す以外に方法がなかった。
 一方、自分の心に入ってくる者に対して、簡単に戸を開くような美少女ではない。だが、ゆららに対しては一定の思いがある。
 相手を自分たちの目的のために利用している、そのことに対する良心の呵責がその思いに含まれていることは、確かなことである。だが、それだけではない。
 高田たちがゆららに対して行っていたいじめを見過ごしていたという、否定できない事実は、何よりもこの美少女の良心に罅を入れていた。由加里に対して行っていることを思えば笑止というほかはないが、彼女に対していじめを行っているという意識は、少なくとも、今のところ彼女にはない。
 だから、由加里のことはこの際関係ない。ただ、彼女に対する圧倒的な憎悪が類い希な美少女の心を支配している。
「それは ―――」
 一語一語区切りながら、いちいちそれらを確認しながら言の葉を縫い合わせる。
「何故だかわからないけど、殺したいほど憎んでいるの、このままじゃ、本当にそうしそうで怖い」
「きっと、照美さんをそこまで追いつめるようなことをしたのね」
 あっさりとゆららが受け答えをするなかで、はるかは驚いていた。自分以外に、ここまで心を許すことに、そして、そんなゆららに少しばかり嫉妬を覚える自分に対して、むかつくような嫌気を感じていた。
 


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『由加里 84』

「え!?」
 由加里は耳を疑った。正確には、耳に入ってきた空気の振動に驚いたのである。目の前には、似鳥可南子の凶悪な顔がある。
 ジャガイモを彷彿とさせる、いちもつは、しかし、看護婦という表向きの身分に金メッキされて、偽物特有の浅い輝きを発している。
 せめてもの抵抗の意思を示すために何か言わねばならない。だが、口が自分のおもうとおりに動いてくれない。口の中が渇いてたまらなない。唾液は乾燥の上に乾燥にを重ねて、はては、粉になって歯間に侵入してくる。食べ物のカスとそこに棲まう得体の知れない病原菌のミイラが、歯茎にその汚らしい手足を突っ込んでくる。
 我慢しがたい吐き気に密かに苦しむ少女。

 江戸時代には、正座させた容疑者の膝の上に一枚づつ石の板を乗せていくという拷問が、あったらしい。
 現在、被虐のヒロインが置かれている状況は、まさに、それだと言って良いだろう。少女の柔らかく傷つきやすい大腿の上には、また一枚、拷問具が乗せられる。
 彼女の網膜に像を結んだのは、サディズムの脂に濡れた女の顔だった。
 悪魔が舌づりしている。
 可南子の脂ぎった舌と唇が淫猥な言葉を紡ぎ出す。少なくとも、被虐のヒロインの耳にはそう響いた。

「あなた方、看護の仕事って興味ない? 例え、興味なくてもいずれ、ご両親がいつそうならないとも限らないのよ、日本の高齢化は急激に進んでいることであるし」
悪魔の看護婦とて、自分が言っていることの滑稽さには、十分、気づいているのだ。しかしながら、この大人には、いま、自分が置かれている状況を最大限に愉しんでやろうという、ある種の余裕がある。
 そして、この少女にもその片鱗が見られた。

「でも、局所を、看護婦さんでもお医者さんでもない、第三者に見られるというのはたいへん辛いことだと思いますが・・・・・・」
 この台詞の主は、はるかでも、はたまた、貴子やミチルでもない、なんと、海崎照美、その人である。
 知性によっても、憎い相手を痛め付けられるということに、気付きはじめたということだろうか。局所などという言い方は、由加里のサクランボの羞恥心に穴を開けたことは想像に難くない。
 今、中から甘い、そして、筆舌に尽くしがたい哀しみに満ちた果実が零れようとしている。それらは、ぴちぴちと、若さというよりは、成長途上の初々しさを備えている。
「西宮さん、あなた、介護の仕事に就きたいって言っていたわよね」
―――――え?!
 ここまで来るとデタラメというのも、案外、芸術の域に達していると言える。可南子のぎらぎらした眼は、自分が天使であることを確信している ―――ように、由加里には見えた。一体、何が怖ろしいか。自分のことを客観視るできない狂信者ほど、他人を怖れさせかつ、気持ち悪くさせる存在も珍しい。
 可南子の爬虫類じみた双眸は、脂ぎった臭いさえ周囲に発し、自分の正当性をいやおうなしに主張している。

―――みんなはわからないの、この人のおぞましさが・・・・・・・。

 由加里は心の中で呻いたが、八つの瞳たちを見ていると、どうも小指の先ほどの同情も得られないことは容易に分かる。
 みんな、未知なるものへの好奇心に魂を奪われている。それもミチルや貴子までものが、その種の麻薬に理性を麻痺させられているではないか。
 しかし、照美やはるかはどうだろう。
 彼女たちは、自らの手で自分の恥部をさんざん弄んだではないか。それとも、病院、看護婦、そして、介護者、被介護者という関係がもたらす特殊な状況が、ふたりにも、麻薬を注入したとでも言うのだろうか。
 もはや、この白衣の天使はこの場の主導権を手にしている。四人を完全に、もしくは、そこまでいかなくても抵抗を表出させないくらいに、頭を押さえることに成功しているということは可能だ。

「どう? 西宮さん、将来そういう仕事に就くならば、介護される立場の気持を体感することも重要よ」
 理路整然とした言葉が、何枚もの舌が繰り出してくる。もっともらしいことを言うようだが、それはあくまで状況しだいということだろう。
 介護研修において、被介護の立場に立つことはあるが、由加里は研修生ではなく、この病院の入院患者なのである。そのことから、可南子が言っていることが破綻しているのは一目瞭然なのだが、四人の耳目はそちらには向かわない。
 ここに、一人の少女に筆舌に尽くしがたい羞恥を味合わせる、一種のプログラムが組まれたのである。
「ハイ・・・・・・・・・」
 小さく俯いた由加里の口から、その言葉を聞き取った人間は、この場に誰もいなかった。
「じゃ、はじめましょうか」
 可南子は残酷に言い放った。

 彼女の言葉に引き寄せられるように、四人が少女のベッドに集まる。
「・・・・・・・・・」
 由加里もまた麻薬に絡め取られていたと言ってもいい。少女の顔が恍惚に歪んでいることがそれを証左しているだろう。白衣の天使の非常識な言い方が心を揺さぶらなかったのである。あれほど知的な光を放っていた瞳にはにごりが発生し、今にも溶けてしまいそうだ。それに引きずられたのか、耳までが溶け落ちそうに黒ずんでいる。
 だが、それを醒めさせたのは、ふたりの少女だった。由加里がいちばん辛いとき ――――今でも、十二分に辛いのだが、彼女を慰めてくれたは誰と誰だったか。同級生たちはおろか、後輩たちにまで犬以下の扱いを受けるなか、 先輩に対する敬意を保っていてくれたのは誰と誰だったか。
 被虐のヒロインの視界がその二人を捉えたとき、彼女の目の光りが戻った。
「い、いや、ミチルちゃん、貴子ちゃん、お願いだから、見ないで!!」

――――あそこには!? いや、そんなのを見られるのは絶対にいや!!

 そして、思いだしたのは、性器に挿入された異物のことである。由加里の性器には照美によって、ゆで卵が詰め込まれているのだ。その姿を由加里やはるかには、ともかく、貴子やミチルに見られるわけにはいかない。そんなことになったら、もう、おしまいだ。学校で、自分を人間として扱ってくれる唯一の存在を失うことになる。
 

「赤ちゃんみたいに暴れないの!! ほら、手伝って!!」
「ヒイイ!! ぃぃやあぁぁぁ・・・・・・・アア!!」
 はるかと照美に両肩を固められては、もはや、身動きができるはずがない。

――あれ、こいつ、もう治ってやんの。
―――ほう、治ってるのね。

 二人は目敏く獲物の健康状態を見破っていた。両者の違うところは、それを素直に表に出すか否かのちがいであろう。
 照美は美貌を光らす。
「由加里ちゃん、もう、退院できるわね。親友として喜ばしいかぎりだわ」
 悪魔はここにもいた。
「ウウ・ウ・ウ・ウ?!」
 今更ながらに、自分をこの状態にまで貶めた存在を、思いおこさせた。
 白衣の天使が何故か悪魔に加勢する。
「あなたたち、心配しないでね。入院患者にはよくあることなのよ、拘禁反応、いわゆる、赤ちゃん返りよ、ほら、 暴れないの、足を広げなさい! 溲瓶が入れられないでしょう!?」
いつの間にか、透明なガラス容器を振り回しているではないか。
「いや ―――――――!!」
 知的な美少女の精一杯の非力な抵抗は、簡単にはねのけられてしまった。半身を覆っていた布が取り払われたのである。
 しかしながら、由加里は必死の抵抗を諦めなかった。城で言えば、一の丸を護るべく鉄壁の防御を発揮させたのである。
「グウ・・・・!」

 少女は綱引きの時のように、歯を食いしばった。涙が幾つも小川を造ったことにすら、紅潮した頬は気づかなかった。それは顎に向かってちょっとした滝まで流していたのに・・・・。
―――あら、あら、西宮ったら、がんばるわね。
 はるかは、この時まで獲物の下半身に起こったことを忘れていた。
 照美は、この時まで獲物の下半身に施したことを忘れていた。
 しかし ―――。
 広げられた大腿の中央に鎮座まします女性器は、微かに広がってはいたが、そのいちもつは、顔を出していなかった。
だが、愛液こと膣分泌液まで我慢することはできなかったようだ。まるで幼児が垂らす涎のように可愛らしい小川が、股間から流れていた。

「や、やめで、ください、先輩が可哀想です!」
 今更ながらに、由加里を庇いだしたのは貴子である。しかし、その声はかすれがちで説得力のないこと、この下ない。
「言い忘れたけど、西宮さんの尿道にま問題があるの、このまま尿意を我慢させたら、腎臓の病気になるわよ、そうしたら、一生人工透析の憂き目を見ることなるのよ!」
 被虐のヒロインを救ったのは、高島ミチルだった。
「その液が病気の証拠なんですか?!」
「いややややっやあああぁぁあっぁぁ!! ミチルちゃん!見ないで!見ないで!」
 自分が救われたとも知らずに、激しく号泣する由加里。だが、下半身の筋肉をいっときも緩めるわけにはいかない。
 なんといっても、彼女の膣内には照美の悪意が挿入されているのだ。同時に、それは彼女が淫乱な変態娘である証拠でもある。あくまで、この状況下においてはミチルや貴子に限定されるが、じゅうぶん、由加里にとってみれば有効な演出である。
「ぉ、お願いです、お願いですから、今は、許してください! ィィィ」
 由加里は力の限り叫んだ。
「わかったわ、後にしましょう。ほら泣かないで・・・」
「ウウ・ウ・ウ・・ウ・ウ・ウウ!!」
 まるで赤ちゃんをあやすように、少女の頭を撫でて股間を布で覆ってやる。だが、彼女の耳元にこう囁くことを忘れなかった。
 
――――ここの処理もしてくれるなんて、いいお友だちが学校にいるのね。

「・・・・・・・・!?」
 その言葉が持つ多義性に、少女は戦慄した。何重にも狡知で陰険な鉄の鎖に絡まれて、その意味は曖昧模糊の海に漂っていた。その鎖は錆びて赤銅色に腐りかけている。

――――それって性欲のこと? もしかして、私が学校でいじめられていること、知ってるの? まさか、似鳥さんから訊いているってことないわよね・・・・・・・・・・・・・。
 こんな時に『性欲』などと言う言葉が中学生の女の子の思惟に流れたのは、言うまでもなく、はるかによる調教の精華だろう。
 彼女によってもたされた性的な情報は、あきらかに、由加里という少女をある方向性へと成長を遂げさせていた。
 そのことが幼気な少女をどのような運命に導こうとしているのか、はるかや、照美はおろか、当の本人にすら理解できていない。
 ただ、この場の唯一の味方に救いを求めるだけである、息も絶え絶えな哀れな声で。
「ウ・・・ウ・ウ、ミチルちゃん、貴子ちゃん・・・・・・ウウ・ウ・・ウ・ウ」
 だが、この二人が消えるまでは、下半身の筋肉を緩めるわけにはいかない。居て欲しいという気持と、去ってほしいという不遜な思いが、瀕死の少女の脳裏に蠢いていた。
「ミチル、帰ろう・・・」
「うん ――――」

 貴子は敬愛しているはずの先輩に一瞥も与えずに、室外に消えようとした。一方、ミチルは無言で敬愛に満ちた視線を送ってきた。
 言うまでもなく、前者は性器が濡れている理由を知っている。そして、後者は知らない。その事実がもたらす効果について、知的すぎる少女が予想できないはずはなかった。
きっと、このような会話が成り立つにちがいない。
「ねえ、ミチル、西宮先輩って、変態なんじゃない。病院であんな恥ずかしいことできるんなんてさ ―――」
「あんなことって?」
「ミチル、先輩のアソコ、あんなになっていたじゃない!!」
 しかし、ミチルは金魚のような眼をむけるだけだ。
ここまでも、言うまでもなく、はるかによる調教の精華である。無意識のうちに小説を書いてしまっているのである。しかも、最悪のシナリオを、である。
それによると、ミチルは親友に、西宮由加里という先輩がいかに淫乱で変質的な女の子であるか、耳にタコができるくらい講釈されるのである。




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