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『おしっこ少女 1』

 麻木晴海は、物事に対する見方が概して運命論に傾く。
 いわく、人間は生まれたときにすべての人生の経緯が決定されている。だから、努力などというものはすべて無意味である。あるいは、努力することそのものが運命だから、人間のはからいなど、すべて、絵に描いた餅にすぎない。
 兄である祐輔の許婚者とその家族と会合を持ったとき、佐竹まひると邂逅したことをそれほど驚いてはいなかった。さすがに、最初は、運命の神とやらがくみ上げる物語の陳腐さに文句のひとつも述べたくなったが、あいにくと何処の宗派のなんという神に文句を言っていいのわからないので、断念することにした。
 だが、当の佐竹まひるは完全に凍りついていた。初夏の足音が聞こえてくる季節にもかかわらず、瞼には霜が張り付き、その綺麗な瞳は完全に、安物のマネキンのそれに墜ちていた。
もっとも、彼女が落とした生徒手帳から遠くない未来に再会できるものと踏んでいた。しかし、佐竹という姓は珍しいわけではなく、ここまで早く、そして、このような皮肉な形で可愛らしい子羊と乳繰り合えると思っていなかったのである。

―――おっと、それは先走りすぎたか。

 将来の女性警察官僚は不敵な笑みを浮かべた。この場の女主人公であるはずの、ある人物。すなわち、祐輔の許婚者であり、晴海の義姉になるであろう女性は、晴海の圧倒的な美しさと存在感のために、完全に脇役になっていた。 それは、彼女の悪意というものだろう。
 なぜならば、彼女は自分の気配を完全に消す超能力を持ち合わせているからである。それを使わないにあたってはそれなりの理由がある。このような表情を見せているが、実は、ひじょうに機嫌が悪い。それを記述するには今朝、彼女が起床したときにまで遡らねばならない。

「・・・・・・・・・・・くう!?」
 晴海は寝癖だらけの長髪を掻き上げた。ついぞ10年以上、彼女のこんな表情を見たことのある人間はいない。それでも辛うじて美貌を保っているのは生来の形質のせいだろう。男でも、女でも、本当に美しい者はすっぴんだろうが、なんだろうが美しいものなのである。
 出窓に侵入したアポロンの使者は、「貴女は美しい」と言って消えた。
 しかし、本人は、神話の世界の住人のたわごとに耳を傾けるほど余裕があるわけではなかった。
 この歳になっては、おそらく誰にも見せない顔つきで、ひとりごちた。

――――まさか、あんな夢を見るとは・・・・・?!
 
 新たに視界を妨げようとした髪の毛を掻き上げると、晴海は嘆息した。

 夢の中で、晴海は女子高生に戻っていた。あどけないリンゴの顔をかつては持っていた。
 教室はオレンジ色の黄昏に沈む。
 晴海を中心としてドーナツ型の輪ができている。好奇心と嘲笑に満ちた視線をどのクラスメートたちも送ってくる。そして、その中心にいるのは ――――。
 中心にいるのは、少女たちではなくて、なんと彼女の担任である ・・・・・。
 やがて、ドーナツの輪は小さくなり、晴海を押し潰そうとする。
 その瞬間に目が覚めたのである。

―――今更、あんな夢を見るなんて・・・・・・・。

 年齢の割に臈長けた美人は、一瞬だけ女子高生の顔に戻っていた。

――――今日は、あの人の家族と出会うのか。名前は何だっけ?
 
 彼女は、つい一ヶ月前に出会った義姉予定の女性の顔を思い浮かべた。本当に優しそうな人だった。しかしながら、それ以外にめぼしい印象がない。
 祐輔の結婚など、そもそも、たいして興味がない。今、自分が抱えている仕事の方がよほどトリアージとしては優先である。どちらにも共通なのはやっつけ仕事ということだ。
 だが、いちおう、ここまで自分を妹として遇してくれた恩がないというわけではない。だから、有休を取ってまでその会合に出ようというのだ。
 機嫌の悪さは化粧ごときでは隠しきれないらしい。だから、キッチンに入ったとき、祐輔に皮肉を言われた。もちろん、両親がいるのを見通してのことである。
「優秀な妹どのは、こんなくだらないことに時間を割くことはなかったのに、お忙しいんだろう、お仕事が」
「止めないか、祐輔!」
 両親は怪訝な顔を見せたが、今更ながらという色も同時に、顔いっぱいに乗せた。しかし、もうすぐこれも終わりという安心感も何処かにしのばせていた。
「父さんは、優秀な妹どのに譲りたいんだろう? 本当のところは?」

「いいかげんにしないか!!」
 父親である勇はついに怒りを爆発させた。彼はとある軍需産業の重鎮であり、末席とはいえ経団連にその名を連ねている。そのような人間だから、常に冷静さを保つ訓練はできているはずである、しかしながら、それは必ずしも家族を相手にするとその限りではないらしい。
晴海は完全に他人のふりをすると、朝食のパンをトースターに突っ込んだ。
「で、先方の家族は何人かしら」
「ご両親と妹さんたちで、6人」
 母親である妙子の質問に即答する祐輔。妹に対するそれとは雲泥の差である。尊属と卑属の差異というよりも、もっと、別のところにその理由はある。
「へえ、ご両親と妹さんたちね、ずいぶん、妹さんが大勢いらっしゃるのね」
「いちばん、下はまだ小学生だから、かわいいものだよ、誰かさんと違ってね」

 しかし、家族は祐輔の不満顔に係わるのを止めた。その日は、一家にとってとても大事な日だったからである。
長男の許婚者の家族と出会う。家族同士ということで、両家が一同に体面するのである。実は父親である太一郎にとってみても、重要な日だった。
 本当のことを言えば、彼が用意した良縁があった。もしも、それが成れば、太一郎の財界に対する発言権は倍増しするはずだった。しかしながら、息子はそれを蹴って、思い人を連れてきた。一般的に見れば、有力者としての父親にとって悲しむべきことかもしれない。
 世間は、彼を目的のためには手段を選ばない非情の経営者と見ているから、少なからず驚いた。それは、妻と長女も同じだった。
 ところが、一番、感情を害するはずであろう太一郎は、一も二もなく喜びの声を上げた。何よりも、頼りない息子が自分の意思で行動したのである。それは、彼にとってみれば、清水の舞台から飛び降りることに酷似していたであろう。
 元来、気が弱い跡取り息子は、勉強から外見まで、至る所で妹に叶わず、かなりのコンプレクスを抱いて育ってきた。しかし、彼が本当に怖れていたのは父親である太一郎だったのである。
 そんな彼が認めたことは、祐輔にとっては意外でもあり、心底、喜ぶべきこともあった。しかしながら、そうだからと言って、晴海に対する敵愾心をかなぐり捨てたわけではなかった。
 祐輔が多大の犠牲を払ってまで勉強に実を費やして、それなりの私大に入学したと思ったら、妹は、いとも簡単に東大法学部に現役で入学し、その後、四年間を市井の大学生と同じような遊び歩いたというのに、こともあろうか警視庁キャリア試験に見事合格してしまった。
 その事実を会社の幹部が知らないはずはなく、いやでも意味ありげな視線を跡取り息子は一身に受けることになった。こうなって、妹を愛せと言う方が無理というものだった。

 計らずも兄によって目の上のたんこぶにされた妹は、鏡の前にいた。背後から母親の視線を感じながら、もっかのところ化粧中である。
 その行為は女性にとっては戦時における弾薬の準備に等しいと言えるだろう。男性にはとうてい理解できないことだが、彼女らが自室のいちばん目立つ部屋にどうして化粧箱を置いているのか、外出前にどうしてあれほど化粧に時間をかけるのか、化粧とは女性を女性あらしめる重大な要素のひとつなのである。
 余談だが、女子刑務所というところに収容されている生き物を女性と呼んでいいのか議論が分かれるところである。
 閑話休題。


 背後から言葉がパウダーのように降ってくる。
「本当に綺麗な肌ね、晴海、やりすぎるとどちらが主人公がわからなくなるわね」
「ママまで嫌みを言うんですか?」
 どちらかという義母というニュアンスで、台詞を暗々とした井戸からくみ上げる。
「ふふ、ごめんね、祐輔のくせが映っちゃって」
「きっと、兄さんはそれを怖れているんでしょうね」
 母親である妙子はしばらくその魂を宙に浮遊させた。それは目つきで晴海にわかる。だから、すんでの所で言葉を出し渋る。
「・・・・・・・・」
「さ、はやくなさい、祐輔のかんしゃくがはじまらないうちに」
 妙子の手は非情に冷たく重かった。あんなに小さいのに、どうして、自分にはそう思えたのだろう。

 年の功という言葉は十分に信頼をおくべきだった。はたして、母親の予想は正鵠を射ていたのである。
 彼女が階下に消えて、その代わりに祐輔の怒鳴り声が聞こえてきたので、若い女性警官は、自分も車上の人間になることを決意せざるを得なかった。
 車は国産の一般車である。特に高級車というわけではない。彼ほどの身分ならば、運転手のひとりやふたりを引き連れて外車を乗り回している。そのように世間的には受け止められているかもしれない。
 ところが、事実はかなり異なる。彼が乗っている車は、一般的なサラリーマンがすこし背伸びすれば買えない品ではないし、運転手など雇ったことすらない。
 車は単なる交通手段にすぎず、それに拘るのは利便性だけである。石原裕次郎とともに育った彼らのような世代にしては異端児と言うべきかも知れない。
 思えば、晴海はこの父と似ていないこともない ――と自称してみる。しかしながら、そんなことは自分の顔を映す 窓が目に入ってくると、そんな儚い夢想は瞬く間に雲散霧消してしまう。
 自分は、この家族の中でどのような立ち位置にいるのかと常々考えてきた。だが、音もなく背後に転がっていくビルや乗用車、そして、道行く人などを眺めるだけで、答えが出るとも思えない。今、車によって水をはねられて制服を汚した女子高生がお椀のような顔を見せた。

「さあ、ついたよ」
 そこは、高級中華料理店だった。
 車から吐き出される前に、祐輔は、無言で鼻を妹の方向へと向けた。彼はこう言っているように思えた。

―――仲の良いきょうだいを演じてくれるならそれでいい。

 兄の目は哀しいほどに乾燥していた。これから結婚し、自分の家庭を営む人間の姿とはとうてい思えない。
 だが、それはあくまで晴海に対しての態度であり、他の人間はそう受け取っているとも限らない。
 もっとも ――と嘆息する。
 それほどまでに晴海が注意を払う価値があるとは思えない。
 兄の結婚。
 それ以上でも以下でもない。
 その店に入るまで、彼女はそんなことを考えていた。

 入り口に偽陶器の輝きを見せるプレイトがあって、麻木家様、佐竹家様と書かれていた。

 ―――――そうか、相手は佐竹さんと言うのか。

 何処かで聞いた名前だとは思いながらも、何とはなしに流す。そのついでといった感じで、個室に足を踏み入れる。
 その時、佐竹まひると再会した。
 
 佐竹家の家族は総勢6人、両親と祐輔の相手である長女、そして、まひるは次女なのだろう、そして、二人の小学生とおもわれる赤と黒のランドセルを発見した。
「おまたせして、もうしわけありません」
「いえ、いえ、私どももつい先頃来たところです」
 両家の両親がそれぞれ、人畜無害の挨拶を交わしている。その時、晴海とまひるは、完全にちがう次元に身を置いていた。互いに、視線を交わし合ったとき、晴海は一瞬だけ戸惑いを見せたが、すぐに鷹の目をらんらんと輝かせていた。
 一方、まひるは、切れ長の瞳を無理矢理に釣り上げて、どうやら自尊心を保つのにやっきになっている。

―――私はすべてあなたのことを見通しているのよ。

 無言でそう言い放っていることに、晴海じしん、最初は気づかなかった。だが、獲物が目を伏せたとき、外見上の体裁をようやく整わせているか弱い少女を痛め付けていることをようやく知った。
「さあ、みなさん、席に着きましょうよ」
 祐輔とまひるの姉 ――――この時、晴海は姉になるべく運命づけられた人間の名前を失念していた。小さい頃から、教科書など見たものはすべてすぐに暗記するだけでなく、理解までしてしまうのに、彼女の名前を覚えていなかったことに、その印象の薄さを暗示してるだろう。
 しかし ―――。
「お義姉さん、お元気そうですね」
「気がお早いことですね、晴海さん、貴女のような妹ができて、本当に嬉しいです」
 佐竹皐(さつき)は優しげな笑みを浮かべて、外交辞令を述べた。しかしながら、そのことばの冷たさと相反して、彼女の微笑が嘘でないことは、警察官である晴海でなくても、簡単に知ることができた。

―――本当に、表裏のない人なのね。

 はじめて、好印象を得た。もっとも、はじめで出会ったときも、そのように思ったのかもしれない。しかしながら、当時は仕事のことで頭がいっぱいになっていて、メモリーをそちらに向かわせる余裕はなかったのである。
 予約していた料理が来るまで、互いが互いを知るための談笑がはじまった。表向きにこやかに始まったが、実は剣客同士の戦いが剣と剣の軽い挨拶から始まるように、互いに探りを入れ始めていたのである。
 こういうことは、晴海は得意である。
 最初に記述したように、このとき、完全に自分のオーラを全面に出していた。祐輔はそれを無意識のうちに分かっていて、場所柄あからさまにできない敵意に苦しみだしていた。
 自ずと、一同の視線は晴海に向かうことになる。

「そうなんですか、晴海さんは警視庁にお勤めなんですか」
「ええ、公安に籍を置いています」
「おお、そうですか、小説では悪役ですね」
 相手側の父親が相好を崩した。
 母親が間髪入れずに諫めようとする。
「ちょっと、お父さん、失礼ですよ」
「いえ、正鵠を射てますよ。私どもなどは普通のお巡りさんに憧れます」
 両家に笑いが起こった。まずはうまく儀式は進んでいる。
 そこに黄色い嘴がつきささった。ランドセルが赤い方だ。
「お姉さんは階級は?」
「自分? 巡査部長だよ」
 美貌を赤らめるふりをして晴海は言った。

―――とんだ、女優だな?!
 それを目敏く見抜いていたのは祐輔だけだったろうか。

「えーおじさんよりもエライの?若いのに」
 今度は、黒いランドセルの方が嘴を向けた。
 「私の弟は警官なんですよ、晴海さん」
 「きっと、ずるしたんだよね」
「これ、可南子!」
「いえ、いえ、ずるしたも同然ですよ。私たちキャリアはたまたま勉強が得意だっただけでして」

――――――!!
 この時。祐輔の顔色が変わったことに、晴海でなくても気づいていた。だから、皐は未来の夫の具合が悪いでのはないはないかと、無意味な気を回した。
 ランドセルたちには、キャリアなどという概念は理解できないようで、早くも運ばれてきた料理群の香ばしい匂いに舌鼓を打った。もはや、おじが晴海よりも階級が低いことなど注意する価値などないものに引き下げられてしまったようだ。
 ここで、晴海はおもしろいことを知った。未だ凍りついているまひるのことである。どう見ても、佐竹家の中で孤立している。
 ほくそ笑んだ鷹は、矛先を獲物に向けることにした。
「お嬢さんは、御名前をなんていいますか」
しれっと聞く。
「佐竹まひると言います」
「まひるお姉さんも頭いいんだよ、キャリアになれるかな?」
 まひるがこれから話だそうと言うときに赤いランドセルが嘴をつきだした。しかし、母親は嗜めようとしない。明かに、子供たちに対する態度が違う。
「お姉さんは、私が子供の時よりもずっと、頭が良さそうだ ―――」
 舐め回すような視線を送る。生徒手帳から年齢はわかっている。14歳、中学二年生。外見は、どうみても高校二年生ぐらいに見える。しかし、その仮面の下に、あどけない少女、いや、幼女のすがたをはっきりと見つけた。

「まひるさん、いい名前ね。」
「あ、ありがとうございます」
 緊張に緊張を重ねて、自尊心の仮面に罅が入ろうとしていた。
 これ以上、責めてはいけないと、オーラを留めることにした。

「ちょっと、失礼」
 やおら立ち上がると長身をやや折り曲げて出口へと向かう。そのとき、まひるに目で合図を送った。それが伝わらなくても別にいい。そうなれば、まだ機会があるというものだ。なんと言っても、彼女は人質を握っているのだ。

「・・・・私も、し、失礼いたします」
 まひるも立ち上がって出口を目指した。

――失礼な子ね。と佐竹の方の母親は愚痴りたくなったが、最初に晴海が同じような行動に出たために、それはできなかった。なんと言っても、彼女は晴海を気に入っていたのである。
「でも、向こうのお姉さん、綺麗な人だよね。それに頭もいいし」
「まひるお姉さんよりも、ずっと頭いいよ」
 何と子供とは移り気が頻繁なことか、事、ここに至って、晴海は佐竹家の心を完全に奪っていた。

 その時、まひるは高級ホテルを思わせるトイレに、ひとり佇んでいた。

―――何て、醜い顔かしら? 誰にも愛されないのもうなずける。

 少女は鏡から金色に鈍く輝く蛇口に視線を移動させると、おもむろに、水を出した。それは、これから自分が出すひきがえるのように醜い声をごまかすためである。
「何を泣いているのかしら? お嬢さん」
「・・・・・・・!?」
 はたして、入り口には麻木春実が颯爽とした仕草で立っていた。オーラを無制限に放出する。

――――自尊心の高さを見せてもらおうか。
 
 晴海は、人間を評価するに当たってもっとも重視する2文字を少女の白い額に書き記した。最高級の陶器のように美しいその肌が、はたして、外見だけのものか見てやろう。
いささか意地悪な気持で、少女を評価しようとした。
「・・・・・・・!」
 はるみはぐっと唇を噛んで見せた。そのために、龍の赤ん坊が口の端から零れた。

――――かわいらしい。

 もう、十分だった。どうやら、少女は春実の意に叶ったらしい。
 自分よりも頭一つ背の高い大人を女子中学生は、まだ、睨みつけていた。視線に高貴の色を組み入れながら、少女は切れ長の瞳を精一杯広げていた。その端にはうっすらと涙が浮かんでいるというのに・・・・・・・。
「ぐう・・・・・・!?」
 少女は床に視線を降ろした。エメラルドの輝きなど少女の網膜に実を結ぶはすがない。
「何が、私に言いたいの?」
「あ、あ、あああ ―――」
 まひるが何が言いたいのか、痛いほどわかるが、あえて、それを口に出そうとしなかった。
 やがて、形の良い頭を回転させると、息せき切って、捲し立てた。
「お、お願いです! お母さまに言わないでください!」
「何を?」
「・・・・・・・・をです! ウウ・ウ・ウ・ウ・ウ!?」
 誇らしげな仮面などかなぐり捨てて、幼女のように泣き出した。
 春実は、すべてをわかっていながら、残酷なことにあえて自ら言わせようとしている。
「それじゃ、何にも、わからないわ。妹さんたちの話だと、頭がいいんでしょう? まひるさんは。だったら、主語と述語が完備してないんだったら、文として成立しないでしょう そんなことくらいおわかりよね」

 さきほどの歓談とは打って変わって冷たい声だ。寒風吹き荒む大地に裸で投げ捨てられたまひるは、血管まで凍りつくしかなかった。
 なおも、春実はいやらしい責めを続ける。
「誰が、何処で、何をされているのを。誰に止めて欲しいの?」
「ウウ・・ウ・。わ、私が・・・・」
「名前で言ってちょうだい」
「さ、佐竹、佐竹まひるが、学校で、い、いじ・・・・・」

――言いたくないだろうね、自尊心が邪魔するんだろうよ、でも、家族に知れるよりはましでしょう?

「もう、一回。だったら、これから私が見聞きしたこと、全部、ご家族に披露してもいいのよ」
「や、や、やあ、それだけは、許して!!」
「だったら?」
「さ、佐竹、まひるが、学校でいじめられていることを、ウウ・・ウ・ウ・ウ・・ウ、お母さまに言わないで下さいッ!!ウウ・ウウ・・ウ・ウ・ウ・?ああ」
 その時、外から聞き慣れた声が聞こえた。
「まひるお姉さん、具合が悪いのかな」
「どうだろうね、でも、それにしてもあのお姉さん綺麗だよね」
 言うまでもなく、まひるの姉弟である。
「ああ」

まひるが今にも処刑されるような顔になった。しかし、それは杞憂だった。
何故ならば ―――――――。
「おいで」
打って変わって優しい声に包まれたかと思うと、少女は、トイレの個室に連れ入れられた。
「ウウ・・ウ・ウ・ウ・!?」
 想像だにしないことが少女に起こった。口の辺りに甘い圧力を感じたかと思うと、とつぜんに、力強い意思が彼女の顔を席巻したのである。
 

 



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