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『由加里 70』
 病院の夕食は早い。大抵、午後6時には患者のベッドの上にトレイが乗っているものだ。入院患者のために特別に設えられたテーブルだが、その上に物を置くと、頼りなく揺れる。ノートパソコンですら、キーボードを打つたつたびに、年老いたウグイスのように情けない音を出す。それはほぼ悲鳴に近い。
 まるで今の由加里を写し取ったポートレートのようだ。ルノワールのような印象派ではなくて、ルネサンス時代のキリスト教絵画のように、精密、緻密な筆致により人間そのものを紙上に再現した絵画のことだ。
 巨匠の手でリアルに再現されたアイテムたち。
 今、少女の目の前に用意された小道具類はどれを視ても彼女の神経を逆撫でる。トレイ、お椀、スプーン。すべてがかつての記憶を彷彿とさせる。
 由加里は、運ばれてきたトレイに舌鼓を打つわけにはいかなかった。しかし、その記憶は少女の食欲を刺激したことは事実である。毒は時に美味しいという。腐る寸前が美味しい果実もあるらしい。河豚に毒があることを知っていながら、その卵巣を食す珍しい趣味も存在する。
 少女が手を出そうとしている記憶はそのような類だった。震える手をなんとか制御してお椀を摑ませる。
 映写機が回転する音が響く。
 
 ここは病室のはずなのに・・・・・。
 
 赤いランドセルを転がしていたあの日。少女が歩くと幸せな鈴の音がした。
「今日は、私だよ、由加里ちゃんの隣に座るの!」
「いや、私の番だもん!」
 二人の少女が由加里の目の前で争っていた。互いに相手の髪と手を摑みかねない状態である。事態は切迫している。
 しかし、由加里は二人の間でコロコロと笑っている。しかし、二人とも彼女に怒りの矛先を突き出すようすはない。あくまで互いに対して怒りを噴出させているのだ。
「なによ!この前は、あんただったでしょう?今度は私の番よ!!」
「何よ! この前の遠足の時はあんただったわよ!辻堂のね」
 二つの赤いイソギンキャクは互いを罵倒し、まさに一触即発の色は濃くなりつつある。
 これは小学生時代のある昼食前の一こまである。由加里が属する班の子たちは、こぞって少女の隣に座りたがったものだ。彼女はクラスの人気者だったのである。それも、剽軽さで人気を買うような手合いではなく、黙っていても尊敬と敬愛を集めるようなそんな子だった。
 だから、このような事態も由加里はただ黙って見ていればいい。しかし、このとき刺すような視線を贈るある人物に気が付かなかった。それは少女の怠慢だろうか。
 ある少女だけはそう思っていた。
 工藤香奈見。その人である。

―――――香奈見ちゃんはいつも一緒にいるからいいよね。
 由加里は常に、そう思っていた。香奈見は、靴が二足でひとつのように、常に横にいるべき存在だった。少なくとも、由加里はそう思いこんでいた。自宅はまさに目と鼻の先だった。とうぜんのことながら、親たちからは禁止されていたが、ベランダ同士で渡り合うことができたくらいだ。
 由加里は、自分が考えていることを香奈見もまたそうしていると思っていたのである。
 しかし、香奈見は必ずしも共有していたわけではなかった。
 さて、運ばれてきたアルミのトレイは、小学校時代のそれよりも洗練されていてかなりキレイだった。しかし、そのことはまったく由加里の心を鼓舞しなかった。思い出されたイメージのあまりの明るさに目を閉じただけである。
 ちなみに本日の夕食は、コロッケとレバニラ炒め、それにコンソメスープに野菜の煮物だった。栄養的には完璧なのだろう。なんと言っても天下の病院が出す食事なのである。さすがにチーズバーガーにコーラというわけにはいかない。由加里にとってみれば、そのほうが、味のわかりやすさと言った点から視てもよかったかもしれない。
 別に彼女の母親が育児をさぼっているというわけではない。度重なる精神的なストレスによって、味が分かりにくくなっているだけだ。こういうときはたっぷりのケチャップとマスタード、それにピクルスが食欲を刺激し、どんなときでもスムーズに食事を完遂させてくれる。
 しかし、目の前に出現した料理は、病院特有の塩味が決定的に欠けた失敗作である。料理というものはどれほど栄養的に完璧であっても、味が伴わなければ人間の食事という条件にはあわない。動物の栄養補給と人間のそれの決定的な違いはそこにあるのだ。一言で表すと精神性のあるなしとでもなるだろうか。
 由加里はケチャップとマスタードの代わりを記憶の中から呼び出すことにした。
 
 それはまさに一人芝居。自作自演。過去の再現映画である。
 
――――ほら、百合絵ちゃん、ケンカしないでよ、明日はいっしょに食べよう。
――――うん、ありがとう。由加里ちゃんは優しいね。
 涙を拭く友人。由加里はさらに畳み掛ける。
――――これ、食べてもいいよ。
――――いいよ、ありがとう。こんなに美味しいのにごめんね。
 肉きれの乗ったトレイを友人の胸元に示す。
―――――由加里ちゃんは優しいよね、誰かとはまったくちがうわね。
――――そんな、そんなこと言わないで。
 由加里は頼まれてもいないのに、その子を庇う。さきほど百合絵と席を争った経緯がある。
「憶えてないな、あの時、誰だったけ?」
 由加里は自分が庇った子の名前を覚えていない。顔もおぼろげだ。よく憶えていないことからすると それほど個性的な子ではなかったらしい。
 しかし、その表情ははっきりと憶えている。由加里は好意で行ったはずなのに、彼女はあきらかに不満そうな顔をしていた。普段ならば由加里に声を掛けられて喜ばない子がこのクラスにいるはずはないのに。その表情だけがやけに心に残った。由加里の記憶に注意深く焼き付けられたのである。
 今、再度味わってみるとその記憶は、焼きすぎたアジの塩焼きのように口に苦く、脂の部分が腐ったチーズのような味が口の中に侵入してきた。
 今、口に入れたコロッケは同様の味にくるまれていた。味が薄いだけに、嫌な記憶に裏付けされた思いは食べ物に転移しやすい。

―――私を嫌う子なんているはずがないのに!!
 当時の幼い記憶と感情が共に蘇ってくる。
 しかし、それは現在少女が持ち合わせている理性と感情によって検閲され、別のものに生まれ変わる。
 人間は良かれ悪しかれ、年をとるものだ。いつまでも砂糖まみれの菓子を好むわけでない。

―――今は、私を好きになる子なんているはずないか・・・・・・。
 由加里は思わず箸を落としてしまった。朱色の箸は、偽物の漆器はやはり偽物の音しか出すことができない。由加里が共有していた友情は偽物だったのだろうか。濡れ手に泡とはよく言ったもので、簡単に得ることができたと思った友情は泡のようにあえなく消えていってしまった。おもわす両手で整った顔を隠す由加里。
 食物を胃まで送り込むために必要な熱量、そして、それを消化するための熱量。それらすべてが惜しい。今、この身の内で起こっている熱情、あるいは悲嘆。涙、それらすべてを消化するのに使ってほしい。
 熱い!熱い!熱いよ!
 
 由加里は自分の身の内で起こった炎を消すのに戸惑っていた。あるいは、どうしたらいいのかわからずに立ち尽くしていた。もはや劫火は家屋の八割方まで達し、もはやなすべきことはない。まるで両親の救いを求める、いや、求めることすら忘れた幼児のように、頭の中は真っ白になって、立ち尽くしている。
 
 それが今の由加里のすべてである。

「ぁぁぅ・・・・」
 由加里は思わず身をかがめてしまった。彼女の悪い癖が出てしまったのである。感情が行き詰まって、行き所がなくなるとすぐに股間に逃げ込むのである。
 同時に少女の中で、恥ずかしい回想が再会された。

 糸を引く分泌液で自分の指を汚しながら・・・・・。

 今、蠅の唸り声のようないやらしい音を立てながら、映写機が発動する。由加里にとっては死んでもみたくないフィルムがはじまる。


 さて、ここでゆららたちに視線を変更してみよう。
 
 まるでホテルのような受付を抜けると白亜の空間が現れた。それは吹き抜けの天井が相当に高いところまで突き抜ける。おそらくはビルにして5階分の高さはあるのではないか、照美は冷静にそう推測した。
 あゆみは足を踏み入れるなり口を開いた。
「私は一度、部屋に戻るから」
「わかりました ――――」
 はるかは畏まって答えた。その様子が異様におかしかったのか、太陽に槍を突き刺した勇者のような笑い声を上げて、あゆみはエレベータに消えていった。
「さ、イコ。ゆららちゃん ―――」
「あ、ごめんなさい」
 見入っていたのである。まるでヴェルサイユ宮殿のような内装に魂をぬかれる思いだった。と言っても、少女は当所を訪問したことがないので、便宜上に豪家という単語に見合う一般的な用語を取り出しただけである。
「テニスに必要な用具は借りられるからね、靴のサイズを申請しないと ――――。おい、お前も、この口裂け女!」
 照美の容姿に対して何か言える人間はほとんどいない。はるかは乏しい人材のひとりである。
「口裂け女とはね。年齢詐称してんじゃないの? この運動バカ!」
「そういう事を知ってるってだけで十分詐称じゃねえか?」
 ゆららに微笑みが蘇った。この二人を視ているだけで、下手な漫才職人のそれよりも楽しめそうだ。
 はるかは、文句を垂れ流しながらも、二人から聞いたサイズを元に靴を取りに行った。
 
 照美とゆららが残された。アーチ型に区切られたホールは戦前に建設された学校を思わせる。客はまばらで、たまに人が通りすぎるだけである。彼ら一様にふたりに奇異さと好奇心のまじった視線を贈ってくる。
 照美は目の置き所に苦しんでいた。ゆららに対しては非常に複雑な感情を持っていたのである。だが、それはあくまで内面的な気持の問題であって、ゆらら自身に対して不満があるわけではない。
 ただ、自分と明かに境遇が違うあいてに対してどのように振る舞ったらいいのかわからないのだ。
 それは、たとえば、高田のような手合いが相手であれば事は簡単だ。何も斟酌せずに立ち向かえばいい。もしも、照美が、その竜の黄金に輝く鱗のひとつでも開いてしまえば、高田などはあさっての方向に飛ばされてしまうだろう。
 
 照美は思案深げに顎をしゃくった。
 これまで彼女が相手にしてきた人間とは、まったく違うものを、この少女は持っている。それは彼女が生きてきた歴史である。もちろん、具体的なことはわからないが、何かがそこはかとなく伝わってくる。
 ともかく、それを感じるだけの能力を照美は持っていた。そのことが彼女にとって幸福だけをもたらしてきたわけではないが、いま、このとき、彼女に対してその能力を使うべきだと、何者かが語っている。

「ゆららちゃん ―――」
「照美さん」
 照美は、しかし、少女の小さな肩に手をのせるぐらいのことしかできなかった。あふれる感情を表現する技術がない。しかし、未熟な筆であってもどうにか熟練の技術に似せて絵を描くものである。どうにかして、自分の感情を表現しようとしていた。
 だが、ゆららにしてみれば、ただ、照美やはるかがそこにそうしているだけでいいのである。それだけで、今まで歩んできた苦難の思いが安んじていくように思われた。
 照美が常備薬としての役割を果たしているあいだに、はるかと彼女に合流したあゆみがやってきた。
「諸君、お待たせしてもうしわけない ――」
 あまりに場違いな台詞に、一堂は思わず笑いそうになったが、すんでのところで留まった。
 あゆみは周囲にそうさせる見えない力を持っている。
「待っていないではじめていればよかったのに、そうか、はるかがいないとはじまらないか ――――」
 あゆみはラケットを指でさすりながら言った。絵になっている。この場所にいる誰もがそう思った。3人だけでなく用具を運ぶスタッフや犬を連れた客までがあゆみを発見すると一様に同じ顔になった。一瞬で凍りつくとすぐに驚嘆の色に顔が染まる。
 しかし、当のあゆみはまったく無頓着に ――――あくまで3人がそう受けとっただけだが、コートへと歩みを早めるのだった。
「私はウォーミングアップしているからあなたたちやってなさい」
「じゃ、やろうか? 照美?」
「ナ・・?!」
 一瞬だけ、ひるんだ照美。そして、次ぎの瞬間に少女の頭脳は次ぎのような解答を出した。
「ゆ、ゆららちゃん、先でいいよ」
「え ―――?私が?」
 ゆららは仰天の声を上げたが、彼女に拒否という選択肢はなかった。
「・・・・・・・うん」
 照美のアンテナはそれを受け取らないわけがなかった。しかし、それを表に出すわけにはいかない。顎に青い宇宙をたっぷり入れ込むと、照美は表情を元にもどした。
「わかった ―――」
 健気にそう答えるゆらら。
 はるかは、そんな彼女を本当に可愛いと思った。だから、照美のそばを通るときに、囁いたのである、そっと。
――――叩きのめすのが後になるだけさ。
―――何よ、大人げない!?
 これはあゆみと照美の共通了解だった。もっとも、互いに互いの意志を照会し合ったわけではないが・・・・。
 ホールから足を踏み出す。
 回廊のようなホテルの通路を抜けるとテニスコートが6面もある。コートは一面、23メートルもある、それが6っつもあるのだから、相当の広さであることが理解されるだろう。

「さ、そんなに緊張しないで、ゆららちゃん」
 はるかは口を開いた。彼女の声は大きい。23メートルの距離などおかまいなしといった感じだ。ゆららはそんなはるかを羨ましいと思った。少女の前にコートは、まるで10センチもあるコンクリートの壁のように、そこに佇立していた。


テーマ:萌え - ジャンル:アダルト

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